艦これの世界にラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将が着任したようです。   作:アレグレット

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第十九話 卿には司令官としての資質が欠けているのではないか!?

洋上で訓練を続けていた加賀は、ふと水平線の向こうに見慣れぬ影を認めて、視線をそちらに固定した。目を細めた彼女は次の瞬間臨戦態勢を取って白波蹴立てて走り出していた。同時に司令部に緊急通信を入れる。

「司令部基準南南東より未確認艦接近中。距離推定120000。これより接近して敵味方の識別を行います。」

司令部からは折り返し増援を派遣するので早まったことをするな、という旨の連絡があったが、加賀の足は止まらなかった。もしもあれが深海棲艦であればこの胸にわだかまった思いをぶつけるいい機会だ。

 

だが、加賀の眼に飛び込んできたその艦影は深海棲艦よりもはるかに巨大なものであった。イージス艦よりもさらに大きく、見慣れぬ白い艦影はまるで鯨のようだった。

「敵・・・・それとも味方・・・・・?」

彼女の表情に初めて戸惑いのような物がうかんだ。深海棲艦ではなさそうだったが、かといって断言はできない。深海棲艦側にも様々な種類が出てきているからだ。

「未確認艦、停止しなさい。貴艦はマリアナ諸島泊地の哨戒海域にいます。速やかに停止し臨検を受けられたし。繰り返します。停止し――。」

その時だった。何の前触れもなく艦が停止した。加賀は油断なくある程度距離を取って万が一に備えたが、艦があまりにも大きすぎたので後部ハッチの一部が空いてそこから飛び出してくる艦娘に気が付かなかった。

「加賀さん!!」

はっと顔を向けた時、赤城の姿が視界一杯に飛び込んできた。文字通り体ごとぶつかるようにして赤城が加賀を抱きしめたのである。

「赤城さん・・・・?」

加賀が呆然と呟く。今自分の手元にあるものが信じられないという顔だった。

「ええ・・・ええ・・・私よ。よかった・・・・よかった・・・・・無事に会えてよかった・・・・・よかった・・・・・。」

赤城は加賀の方に顔を埋めて何度も何度も頬を髪を加賀にこすり続けていた。

 

 

 

* * * * *

「ラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将閣下ですか。」

梨羽 葵は赤城から事情を聞き、ラインハルト自身から話を聞き、一瞬動きを止めたが、次の瞬間声を上げて笑っていた。

「なるほどブリュンヒルトを見た時にはとても信じられませんでしたが、やはり艦の主はあなただったのですね。」

「・・・・・・・・。」

「まず、赤城たちをまとめてここまで来てくださったことに感謝します。ありがとう。」

そう言われてもラインハルトの表情は全く動かなかった。一言もしゃべらずに黙っている。

「なんといってもあなたの才幹がこちらに加われば、怖いものなしだわ。ブリュンヒルトの機能が従前に戻れば深海棲艦ごとき一撃で倒せることにもなるし。」

「・・・・・・・・。」

「これは面白いことになってきたわね。」

「私自身は面白くも何ともない。今まで語った状況を考え、思うだけでな。」

葵の顔から笑顔が消えた。暖かい部屋からいきなりブリザードの中に放り込まれたような気分になったのだ。

「貴官はここの司令官と言ったな。私はここに来る途上つぶさに状況を見てきた。戦力はラバウル、マダンとは比べものにならないほどに充実をしている。羨ましい事だな。」

今度は葵が黙り込む番だった。

「卿はこの状況にあってなぜ出撃をしなかったのだ!!??」

ラインハルトの叱責が葵を貫いた。裂帛の気合いに等しかった。

「専守防衛だと?戦力の温存だと?ふざけるな!!ならば当初からその方針を徹底すれば良かったのではないか!なまじ拠点を放棄するのが惜しいばかりに、貴重な軍用艦艇、物資、そして何よりも人命を損ねたということを卿は改めて認識すべきだろう!その事実から目を背け、後方の安全地帯でぬくぬくと過ごしているとは、卿は堕落した帝国貴族以外の何者でもない!!」

葵の顔は蒼白になっていた。

「捜索隊も出さず、こちらからの通信を受ける努力もせず、要するに卿は何もしなかったという事だ。そのような卿と笑顔で握手をできるほど私は度量がある人間ではない。」

「・・・・・・・。」

「それは少し言い過ぎではありませんか?」

傍らに立つ鳳翔がラインハルトに言った。

「確かにおっしゃるとおり私たちはここにこうして待機していました。ですがそれは上級司令部からの指令です。私たちは一介の泊地艦隊にすぎませんから――。」

「ほう?」

ラインハルトは鳳翔を見た。

「フロイライン・ホウショウと言ったな。すると卿は上級司令部の指令には躊躇なく従うのだな?」

「それが軍の規律を維持することですから。」

「ならば卿の僚友を見捨てろ、あるいは殺せ、そう言った指令でも卿はためらいなく実行するか?敵中深くに攻め入ったが作戦を中断し撤退した場合があったとしよう。その場合に味方艦隊を捨てて撤退せよという指令が下った場合卿はためらいなくそれを実行するか?あるいは負傷者が出て足手まといになったとしよう。負傷者を見捨てて撤退せよという指令が下った場合卿はためらいなくそれを実行するか?」

鳳翔はそれ以上何も言えずに黙り込んだ。

「卿らが行ってきたことはそういう事だ。どの顔下げて僚友たちに会いまみえることができるか、私には不思議で仕方がない。」

皆が一様に黙り込んでしまった。梨羽 葵、鳳翔、加賀といったマリアナ泊地側の人間だけではなく、赤城たちラインハルト側の艦娘もそうだった。

「卿らの言いたいことはわかる。戦略方針は本土とやらの上層部が決めることであって前線において分散の愚を犯したのは卿等の責任ではない。確かにそれはそうだと言える。だが、その愚策を知悉しているのならばこそ、卿等は卿等にできうることを最大限行うべきだったのではないか?」

ラインハルトの声は叱責のヴォルテージから下がっていたが、葵、鳳翔の良心を打ち続けていた。

「いくらでもやりようはあったはずだ。上級司令部の指令は曖昧なものが多い。そこにつけ入る余地はあったはずだ。なければ探せばよかったのだ。指令を墨守することのみが司令官の職務ではない。」

「・・・・・・・・。」

「いささか言い過ぎたかもしれない。既に過ぎ去ったことを話していても仕方のない事だ。私はブリュンヒルトに戻る。何かあれば連絡してほしい。フロイライン・アカギ。」

「はい。」

「卿ら艦娘は残っていていい。久方ぶりに僚友と再会したのだ。少しくらいは話をする時間が必要だろう。」

それだけ言うと、ラインハルトはビッテンフェルトを促して司令官室を後にした。シュタインメッツは謎の女性とともに艦に残っていたのだ。

「閣下、よろしいのですか?」

廊下に出たとたんにビッテンフェルトが話しかけた。

「もっと叱責してやればよろしかったのです。開口一番あの女が言った言葉を聞いた瞬間小官は拳を抑えるのに苦労しました。」

「もっともだ。だが、あれ以上言ったところで何も変わらぬ。少なくともあの司令官とやらが態度を改めるまではな。」

「変わるでしょうか?」

「でなければ我々が苦労することになる。いや、あの泊地にいる麾下全体もな。」

ラインハルトとビッテンフェルトはそれ以上はこの問題について話をせず、足早に司令部建物を後にしていった。

 

 

* * * * *

「提督・・・・。」

鳳翔が声をかけたが、葵は力なく手を振った。

「少し一人にしておいてくれる?鳳翔、あなたは赤城たちを案内してあげて。今日は皆非番よ。」

それを聞いても喜ぶ艦娘は誰一人いなかった。廊下に出たところで赤城が鳳翔に謝った。

「申し訳ありません。鳳翔さん。」

「いえ、いいのです。あれほどはっきりとおっしゃっていただいた方がむしろいいのです。」

鳳翔は視線を床に落とした。

「ごめんなさい。ローエングラム上級大将閣下のおっしゃる通り、私たちはあなたたちを見捨てて――。」

「それ以上言うのはやめようぜ。」

天龍が鳳翔の言葉を制した。

「そうネ。そんなことを言っても何も変わらないデ~ス。むしろ、too bad!!余計気分が悪くなりマ~ス!」

「過ぎたことは仕方がありません。私にしてもついに助けに行けなかった。いえ、行かなかったことは事実です。そのことをずっと自分に責めていました。」

「加賀さん・・・。」

赤城は思わず加賀の手を握りしめた。

「ですが鳳翔さん、私たちがなすべきことは過去の反省ではなく、今後どうすべきか、だと思います。」

「今後?ですが、今後のことなど・・・・・。」

「鳳翔さん。」

赤城が鳳翔に話しかけた。

「私にはまだ提督、いえ、ローエングラム上級大将閣下のお気持ちを完全に理解することはできていませんが、私なりに感じたことがあります。加賀さんが今おっしゃったようにローエングラム上級大将閣下も『私たちが今後どうすべきかを考えること。』それを望んでいらっしゃるのではないでしょうか?過去にケリを付けさせ、けじめをつけさせようとなさって敢えてあのような言い方になさったのではないか、と思います。」

「あえて・・・・。」

「私もそう思います。ローエングラム上級大将閣下は見込みのない人間に叱責をするような人ではないと思います。『既に過ぎ去ったことを話していても仕方のない事だ。』と提督は最後におっしゃっていました。提督は今後私たちがどうすべきかに期待していらっしゃるのだと思います。絶対にそうです!」

夕張も確信をもって言ったのだった。暫く鳳翔は考え込んでいる様子だったが、長くは続かなかった。

「わかりました。」

鳳翔が顔を上げた。

「もう一度ローエングラム上級大将閣下と話をしてみます。いえ、させてください。ただし、私たちの提督のお気持ち次第です。提督のお気持ちが変わらなければ、私がいくら話をしてみたところで意味がない事なのですから。」

少し時間をいただければと思います、と鳳翔は言ったが、その顔からは迷いは消え去っていた。

 

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