艦これの世界にラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将が着任したようです。 作:アレグレット
大海原に飛び出した途端、猛烈な風圧が体を襲った。榛名は手をかざして目を庇いつつ、素早く戦場を見まわす。
既に戦闘は始まっていた。赤城、加賀、祥鳳の航空隊が奇襲を敢行し、龍驤率いる航空隊が第二波として攻撃を仕掛けつつあり、さらには山城の支援砲撃の掩護の下に那智ら先遣隊が港湾に攻撃を仕掛けつつあるのが真正面に見えた。
「行くヨ!榛名!!」
金剛の声に我に返った榛名は速力を上げた。負傷して本調子ではないとはいえ高速戦艦である。並の戦艦よりもなお高い高速性を保って前進した。高速でひた走る榛名の髪が、服が風を受けて後方にはためく。ちらっと後方を見た榛名には全速で同航している天龍らの姿があった。榛名と視線が合うと力強くうなずいてくる。
それに応え、再び正面をみた榛名の視界に、正面の敵が、島が、港湾が、徐々に姿を大きく、はっきりと見せつつあった。それだけこちらが接近しているという事なのだが、榛名の脳裏にはあの時の不安が、痛みが、よみがえりつつあった。
もし、東雲のように仲間を失わせてしまったら――。
そう思った瞬間、言いようのない不安に榛名の胸は苛まれた。
『フロイライン・ハルナ。フロイライン・コンゴウ。』
平板な、それでいて盤石な落ち着きを持った声が榛名の通信機器に飛び込んできた。その声を聴き、今自分たちの後ろにいる司令官を思うだけで榛名の心は不思議と落ち着きを取り戻し始めた。
『すでにフロイライン・ナチらは退避しつつある。正面の敵は片付けた。もはや遮るものなどない!』
改めて正面を見まわすと、味方艦載機隊に敵艦船が追い回され、応戦するところを那智らの砲撃によって沈められつつあるのが見えた。ラインハルトの言う通り金剛、榛名らの進路を遮るものは、ない。
いや、ただ一人――。
レイテ湾の主、港湾棲姫が血のように赤い目をこちらにひたと見据えてきていた。今までの深海棲艦とはけた違いなオーラが全身を包んでいる。負けるわけにはいかない。榛名は拳を握りしめ、湧き上がってくる恐怖を押さえつけ、闘志に変えた。
『あとは卿等次第だ。高速戦艦の戦いぶりを、見せてもらおうか。』
「ヘ~イ!提督ゥ!!私たちの力、見せてあげるネ!!」
金剛が叫び、榛名に顔を向けた。その顔には高い戦意と高揚感が満ち溢れている。私もそういう顔を作れればいいのだけれど。そう思いながら、榛名はうなずき返した。
港湾棲姫は全身に傷を負っていた。体の傷は致命傷ではない。程なく癒えるだろうが、とはいえ、最も深かったのは精神的なダメージであった。
(何故!?何故ヤツラノ侵入ヲ許シタ?!何故ヤツラガココニイル??)
港湾棲姫はここレイテ湾の護りとして、重要拠点の一つとして、補給基地として、航空基地として、いわば深海棲艦群の鎮守府たる位置づけにあった。いわば強襲を受けたとしても最後の砦として奮戦すべき立ち位置にあり、港湾棲姫が倒れたその瞬間に、フィリピン海域の深海棲艦群は拠点を失って撤退を余儀なくされるだろう。
ソレガナゼイキナリノ強襲ヲ受ケネバナラヌ!!??
港湾棲姫はきっと顔を上げた。赤い目が光を帯び、眦を裂き、向かってくる一隊をにらみ据えた。同時に彼女は麾下全軍に指令した。
『全艦隊我ガ下ニ集エ。小癪ナル艦娘共ヲ一人モ生カシテカエスナ!!』
と。
強襲で多くの深海棲艦が散ったとはいえ、周辺海域にはまだ強力な艦隊も配備されている。ここで倒れずに支えていればいずれ援軍はやってくるのである。だが、まずはこの手で小癪なる艦娘たちを沈めるのだ。
港湾棲姫の全砲門と艦載機発着艤装が向かってくる艦娘たちに向けられた。
港湾棲姫の砲門がこちらに指向されたのを榛名ははっきりとみることができた。その眼に宿る強力な悪意、そしてオーラも。だが、負けるわけにはいかない。ここまで導いてくれたラインハルトのため、仲間のため、自分のため、そして、東雲のためにも。
「榛名、行きますヨ!!」
「はい、お姉様!!」
榛名と金剛の35,6センチ連装砲には既に三式弾が装填されている。彼女たちの連装砲が敵に向けて旋回するその右脇を、龍驤の航空隊が駆け抜けていった。
『聞こえとるか?まずはうちらが注意を引き付ける。そのすきを狙ってありったけ叩き込んでや!!』
龍驤の声とともに艦載機隊が爆撃を港湾棲姫に敢行した。天龍たちも後れを取らない。その中にあって金剛と榛名は砲塔を旋回させ、ピタリと狙いを付けた。
「榛名!!」
波飛沫が飛ぶ中、榛名の手が華麗に宙を舞った。深海棲艦に向けて。
「主砲、砲撃、開始!!」
ズシッ!!という重い衝撃とともに黒煙があたりを包んだ。飛び出した三式弾は綺麗に弧を描き、港湾棲姫に向けて飛んでいく。
「サセルカ!!」
港湾棲姫の艤装が開き、無数の小口径の砲門が姿をあらわにした。
「速射砲!?」
照月が叫ぶのと同時に、無数の赤色の対空砲弾が三式弾に向けて放たれた。三式弾が次々と迎撃され、宙で爆発四散していく。
「そんな!!」
「榛名、もう一度ヨ!!」
すかさず金剛が装填及び照準を指令する。躊躇いは無用だった。どんなに砲身が焼けただれ、役に立たなくなろうとも撃って撃って撃ちまくらなくてはならないのだ。今ここで三式弾を搭載できるのは支援に回っている山城以外には金剛、そして榛名だけなのである。
「野郎!!」
天龍が果敢に砲撃を浴びせ、迎撃を阻止しようとした。港湾棲姫は一瞬身をよじらせて砲撃を中止したが、すぐに迎撃を開始した。対空砲弾の無数の弾幕の前に三式弾は次々と爆発四散していく。それでもかろうじて迎撃を免れた二発が命中した。大音響と共に港湾棲姫を火と黒煙が包み込む。
「やった!?」
白露が声を上げるが、高速戦艦の二人は首を振った。
「駄目ネ。」
再砲撃の準備を継続しながら金剛がつぶやく。ダメージは与えたとはいえ、港湾棲姫の体力はこの程度で倒れるものではない。
「オノレ!!」
炎の中から憎悪の声が飛び、ついで砲弾が金剛たちに向かってきた。あれが命中すれば駆逐艦などはひとたまりもない。
「回避してください!!」
榛名が叫び、全艦娘が一斉に回避運動に入る。すれすれを巨弾が走り抜け、その風圧は直撃をしていないとはいえ、白露たちを恐怖せしめるに十分だった。
「続けて斉射!!榛名、今度は as many as one ありったけを撃ち込むヨ!!」
「はい!!」
金剛型高速戦艦二人は同時に主砲を旋回させ、ありったけの砲撃を叩き込んだ。
撃て・・・撃て・・・撃て!・・・撃て!!・・・・撃てッ!!!
二人は叫び続け、砲術妖精の支援の下ありったけの三式弾を撃ち込んだのである。天龍、白露、照月、そして支援艦隊も遅れを取らない。ありったけの火と鉄をぶち込んだのである。
最初盛んに放たれていた深海棲艦の迎撃の赤い対空砲弾も炎と煙に包み込まれ、その主ごと姿を消した。
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・・。」
金剛と榛名は肩で息をしながら、額の汗をぬぐった。これが彼女たちにできる最大の砲撃。
「ど、どうだ。さすがにくたばっただろ!!は・・・はっはっは!!ざまあみろ!!」
天龍が息を切らしながら笑う。炎と煙はレイテ湾を焦がし、天高くその咆哮を立ち上らせる。
暫くは何も見えず、何も聞こえない。
「あ、あぁ・・・!!」
不意に照月が声を上げた。天龍の笑いが凍り付き、白露は怯えを見せ、はるか後方にあって支援艦隊の艦娘たちは愕然とした表情を見せる。あってほしくはない。誰もがそう願う事態が今目の前で起こっている。
港湾棲姫は生きていた。傷を負っているもののその眼の輝きはいささかなりとも衰えず、憎悪の眼で艦娘たちを直視していたのである。
ブリュンヒルト艦橋でもその様子はしっかりとディスプレイ上に映し出されていた。
「閣下!!」
ビッテンフェルト、そしてシュタインメッツが司令席のラインハルトを見る。あれだけの砲弾を叩き込まれても、なお倒れない深海棲艦に二人とも全く同じ思いを抱いていた。
これは・・・化け物だと。不死の身体を持ち、倒れることはないのではないか、と。もっともビッテンフェルトの場合は切歯扼腕して自分が前線に飛び出していきたい思いを抑えかねていたのだったが。
だが、ラインハルトの顔にはそれと全く異なる表情がうかんでいた。強敵にぶつかった時のあの高揚感に満ち溢れた顔である。強敵と対峙している時ほど彼の顔はもっとも輝き、全身に覇気を満ち溢れさせるのだ。
「やるではないか。」
ラインハルトは不敵な笑みを浮かべ立ち上がったのである。