艦これの世界にラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将が着任したようです。   作:アレグレット

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第三十一話 組織というものには共通項があるらしいな。

 

 

横須賀海軍軍令部会議室――。

 

 ビロードというのだろうか、赤いカーテンをそっけない窓ガラスにあてがった、木製の床が張られているさほど広くはない会議室がラインハルトらにあてがわれた会談場所だった。

「ローエングラム提督、よろしいのですか?」

赤城が念を押すように言う。ここまでの道中の間にラインハルトたちは会談の内容について繰り返し議論検討してきた。軍上層部の気質をよく知っている赤城たち、そして最近中将待遇として迎えられたファーレンハイトは、軍のお歴々については用心するように警告したが、ラインハルトは、彼の結論を披露しただけで、後はただうなずいたのみだったのだ。

赤城たちにはラインハルトの求めようとする結果は分っていても、それにどうやって持っていくのかが、わからないでいる。

 

 ラインハルトが答えようとした時、ガラッと何の前触れもなくガラス製の戸が開けられると、重々しい足音と共に十数人の人間が入ってきた。ラインハルト一行をコの字がたに囲むように設けられた長テーブルに座ると、各々が一斉に同じ視線を向けてきた。

(堅苦しい宮廷用の本心を韜晦した無表情、か。あるいはそれが本音なのか。)

ラインハルトは内心そう思っていた。

 

しんと部屋が静寂に満たされた。誰も何も話そうとしない。

 

たまりかねた赤城がそっとラインハルトに視線を向けるが、ラインハルトは、正面の人間の方向を向いたまま口を開かなかった。相手から話を切り出すのをいくらでも待とうという姿勢である。

「ラインハルト・フォン・ローエングラムと言ったかな。」

皮肉とも慨嘆とも取れない奇妙な調子で口火を切ったのは、正面に陣取っている老提督だった。老提督、と言ってもそれは古ぼけた老人をさすものではない。顔に刻まれている無数のしわは年月の風化を示すものではなく、戦場の多年にわたる経験を。白いものが混じった黒髪は未だ衰えることのない精悍さを。そして、ラインハルトを真っ直ぐに見つめる眼光はその歴戦の提督の全身から発せられる重厚さを最も示していると言ってよいほどのものだった。

「いかにも。」

ラインハルトは表情を崩さずに言う。

「アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト提督に続き、貴君までもこちらに現れた、という事については我々も未だに理解しかねるところがある。」

老提督はかすかに身を動かした。ギッという音とともに床がきしむ音がする。何かを話したいというようなそぶりに思えたが、彼はそう言ったきり言葉を発さなかった。代わりにその右隣に座っていた男が口を開いた。

「今までの経緯はそちらが作成した報告書で逐一読ませていただいた。指揮権を持たず、我が海軍の人間でない貴君が我が部隊を指揮したことに関して問題がないわけではないが、前線部隊を統合し、ここまで引率してくれたことに関しては感謝をしている。さて、その上でこちらに参られた目的は何かな?」

ラインハルトが言葉を発しようとすると、

「我々も忙しいのでね、手短に願おうか。」

という言葉が降ってきた。その瞬間から、列席者たちの雰囲気があきらかに一変したのがわかった。ここまで引率したこと、しかもフィリピンレイテ湾の港湾棲姫を撃破したことに関しては、たったの一言の礼で済む程度の話だと彼らは思っているらしい。

傍らの赤城は内心不安に思いながらラインハルトを見た。後方ではビッテンフェルトが今にも憤怒しそうな色を浮かべ、かろうじて自制しているのがわかる。その隣のファーレンハイトは無表情だったが、傍らの飛龍もまた自分と同じ不安そうな表情を浮かべているのがわかった。

「私の意見は既に報告書にまとめたものとしてフロイライン・アカギの名前で提出しているはずですが。」

ラインハルトが静かに言う。彼の言う通り、今後の作戦方針を細部にわたって説明し、案として取りまとめたものも併せて軍令部に出しているはずだった。これは赤城の名前で出したものであり、正式なルートを通じての正式な上申書だった。

「あれは貴君が書いたのか。」

誰かが口を出したが、すぐにそれを恐れるようにして語尾は空しく消えていった。

「艦娘が書いた上申書などを読む時間など我々にはない。貴君が書いたものであったとしても同様だが。」

老提督の左隣に座っている頬のやせた目つきの鋭い男が無造作に言った。

「そちらの法制度をいささか検討させてもらいましたが、上申それ自体は何ら問題のない行為だと思いますが。」

「確かに制度上はそうだが、それは建前というものだ。上層部に対して実地部隊風情がものを申すこと自体おこがましいというものだろう。」

ラインハルトの眉がピクリと動いたのを赤城は見逃さなかった。

「では、この場をお借りしてもう一度申し上げます。」

ラインハルトは平静に、手短に自身の考えている作戦案を提示しようとしたが、目つきの鋭い男が制止した。

「この場で上申しようなどとはわきまえのない奴だ。銀河帝国だかなんだか知らないが、軍人ともあろうものが組織を理解しないというものは信じられないな。そもそも・・・・。」

殊更に間を置いたのは、次の言葉の発する効果を強調したいためだと、赤城たちは思わざるを得なかった。

「貴君は日本海軍の軍人ではない。よって、我々が貴君の話を聞く必要性はどこにもない。そうではないか?」

語尾は明らかな嘲笑を含んでいた。

 

 

2時間後――。

 

ラインハルト一行は横須賀洋上にある指定された宿舎に戻ってきていた。ブリュンヒルトに戻ろうとしたのだが、ランチの使用時間が過ぎていると言われ、やむなくここにこうしてとどまることになったのである。

「なんだ、あの態度は!!」

ビッテンフェルトが部屋に入るなり怒鳴りあげるようにして叫んだが、それは誰しもが抱いている感想だった。

横須賀入港の申請を出し、受け入れられたところまではよかったのだ。まず、ラインハルトは――赤城の名前を借りたとはいえ――正規の手続きにのっとり、作戦を微に入り細を穿った上申書をまず提出したが、これ自体がまず不適切だとして却下された。艦娘が意見を出すこと自体は禁じられていないし、制度上も認められている手段にもかかわらず、である。

さらには、会議において直接話をしたいと申し出たところ、再三にわたってそれすらも無視された。ファーレンハイトや飛龍などが裏から手を回して、やっと実現したのが今日の会談だったが、此方の意見を聞く姿勢は一切見せなかったのである。再三にわたってラインハルトが話し合いを試みたものの、一切聞く姿勢を見せず、むしろこちらを激昂させてあげ足を取ろうという魂胆が見え隠れしていた。

「落ち着け、ビッテンフェルト。」

ラインハルトが怒気を見せなかったことに関して、艦娘たちは驚きを禁じ得なかった。ラインハルトは、往時のOVAなどでは無能無策な軍上層部に対しては怒りを隠そうともせず、事第三次ティアマト会戦、ヴァンフリート星域地上戦などではその気性の激しさの一端を見せていたほどだったから、今回の会談でもそれを危惧しないものはいなかったのである。

 それが今回は最後の最後まで落ち着きを失わなかったのだから、いぶかるのも不思議はない。

「お怒りになっていらっしゃらないのですか?」

赤城が尋ねた。その瞬間、ラインハルトの目つきは一変した。怒気がアイスブルーの瞳に走り、拳は今にも壁を突き破りそうなほどぎゅっと固く握られたのである。彼の発するオーラによって部屋の空気が一瞬にしてビリビリと張り詰めたのがわかった。

「怒っているとも。」

ラインハルトは吐き出すように言った。

「あのような無知、無策、そして頑迷な人間は帝国軍にいる貴族共、そして無能な上層部だけで充分だと思っていたが、どうやら組織というものには往々にして共通項があるらしいな・・・!!」

バチン!!という音がした。ラインハルトが拳を自分の手のひらに打ち付けたのだ。

「申し訳ありません。」

飛龍、赤城らが頭を下げた。思わずそうせざるを得なかったほど、ラインハルトの怒りはすさまじかった。それをほぼ包み隠してあの会談を終えた胆力には驚嘆すべきものがあるとも思っていた。

「いや、卿らが謝る必要は何一つない。」

ラインハルトは穏やかな瞳をして赤城、飛龍の謝罪を制した。

「しかし閣下、このままでは奴らこちらの話を一切聞こうとしないではありませんか。いっそあの無礼千万な奴共をひっとらえ、閣下がこの軍を仕切りになってはいかがでしょうか?」

「落ち着け、ビッテンフェルト。」

ファーレンハイトが鋭く制した。ここはブリュンヒルトの艦上ではないのだぞ、と言外に危険をにおわせたのだが、ビッテンフェルトの勢いは一向に衰えない。

「落ち着けだと!?落ち着いていられるか!」

ビッテンフェルトはまるでファーレンハイトが悪いと言わんばかりに食って掛かった。

「卿は落ち着けなどというがな、あの無礼千万な態度を取られて落ち着いていられる方がどうかしているのではないか!俺はあの瞬間何度、いや、何十度あのなまっちろい面に拳をぶち込もうかと思い、それを断念したかわからんのだぞ!」

「よせ、ビッテンフェルト。」

ラインハルトは今度は苦笑交じりにビッテンフェルトを制した。

「提督。」

今まで黙っていた加賀が不意に口を開いたので、皆が彼女を見た。

「このままで済むとお考えですか?」

その言葉には皆をはっとさせるものが含まれていた。一人ラインハルトだけは分っていると言わんばかりに加賀にうなずいて見せた。

「思わない。」

ラインハルトの笑みは苦笑の色から、今度は不敵な色を帯びてきた。

「一つはっきりしたことがある。奴らにとっては間違いなく私は邪魔者になった、という事だ。」

確かに、と加賀は思っていた。ラインハルトの人望、それに対しての艦娘たちの信頼、そしてファーレンハイト艦隊の応援を得たとはいえ、ほぼ独力でフィリピンレイテ湾の港湾棲姫を撃破したこと、そういった諸々のことから、日本海軍上層部の人間は容易に一つの結論に到達しえたはずである。

 

 

ラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将なる人間は、間違いなく異端の存在であり、組織を脅かす脅威となりうるという事を。

 

 

 ファーレンハイトは曲がりなりにも日本海軍の「客将」としてその任務を全うする姿勢をこれまで見せてきていたから、無事だったが、ラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将は一組織の幕下にあまんじるような人間ではない。今回彼が横須賀に来るということは前もって知らされていたから、日本海軍の人間たちもそれなりに書籍などで彼の人柄を調べたことだろう。

 

 

危険を事前に察知することができ、かつ今日の会談でその「危険性」を確認できたとなれば、次の一手は――。

 

 

 不意にドンドン!という音とともに部屋の扉がたたかれる音がした。

「ラインハルト・フォン・ローエングラム氏におかれては、速やかに海軍憲兵隊司令部まで同道願いたい!!」

という趣旨の言葉が繰り返し部屋の外から聞こえてきたのである。

「来たか。」

ラインハルトはむしろ不敵な笑みをもって、それを聞いていた。

「提督、これはあなたを逮捕しに来たに違いありません!お逃げになってください!」

赤城が言った。

「今のうちに、窓の外から逃げてください!後はわたしたちが何とかしますから!」

と、飛龍もせっついたが、ラインハルトは首を横に振った。

「フロイライン・アカギ、フロイライン・ヒリュウ、卿等の好意には感謝するが、もはやそのような手段を選んでいる場合ではないだろう。」

危険が迫っているというのに、ラインハルトは全く動じるそぶりを見せない。それどころか、

「そちらがその気だというのならば、こちらもそれ相応の手段を取るまでの事だ。」

と言い放ったのであった。

 

 

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