ワンサマー・イン・スリープ・シグマ 作:シグマファン
「「…………」」
一夏と童顔の青年は今、目の前にある廃れた倉庫の前で無言のまま待機していた。二人は単に倉庫を眺めている訳ではないーー二人は倉庫の中にいる蟻の化け物を駆逐する為に、自分達が所属かつ家族と言える存在のチームの面々を待っていた。
彼等と一緒なら、どんな困難にも立ち向かい、彼等との絆に亀裂を入れる訳にもいかないのと、チームの輪を乱す訳にもいかないからである。しかし、童顔の青年が待機し続けている事に疲れたのか思わず、一夏に訊ねる。
「皆遅いね一夏……何か遭ったのかな?」
童顔の青年は心配の表情で言葉を述べると、一夏は童顔の青年を見て首を傾げる。
「それは俺にも判らないよマモル兄ちゃん、だけど義父さんや竜介さん達の事だから、少し遅れているんじゃない?」
「そうかな? でも、心配だな……」
童顔の青年はーーマモルは今も心配の表情を浮かべながら言葉を続け、一夏は再び倉庫を睨む。片方は心配、もう片方は冷静だった。マモルは仲間達が来ない事に不安を隠せない一方で、一夏は冷静を保ちながらも倉庫内にいる蟻の化け物が何をしているのかを警戒していた。
化け物は何をしているのか、化け物は人を喰ってる最中か、それとも逃げたのか、一夏は色んな事を考えていた。一夏はマモルとは違い、警戒を緩めていない。
何が彼を駆り立てているか判らないが彼が化け物に強い憎しみを抱いている事は確かである。その証拠に、彼の右目は廃れた倉庫を捉えている。
刹那、一夏の穿いてるズボンから音が漏れるように聴こえ、一夏は自身の、近くにいたマモルは一夏のズボンを見やる。音だけではないーー振動もする。一夏はズボンに手を入れると、すぐに取り出すーーある物も掴んでいた。
一夏はある物を見るーー小型の無線機だった。一夏は無言で無線機のボタンを押す。
『此方は志藤ーー、一夏、マモル』
「義父さん!!」
「志藤さん!」
無線機から男の渋い声が聴こえ、一夏は無言で見据え、マモルは表情を晴らす。二人の表情は正反対だった。
一夏は驚きはしなかったものの、マモルはさっきまでの不安が嘘のように、子供のように明るくなっていた。勿論、そんなのは志藤には関係なく、志藤は無線機から二人の居場所を訊く。
因みに彼等は今、車で移動しており、無線機の向こうからは僅かだが車の走る音やクーラーの音が微かに聴こえる。それに二人が倉庫の外で待機していたのも彼等を待ってるのと、自分達は先にバイクで、この倉庫の外まで来たのである。
『お前達、今何処にいる?』
「倉庫の前ですーーそれに……」
「三崎くんや前原くんも一緒にいるの!?」
一夏が言い終わる前に、マモルが子供の様に横槍を入れてくる。
「ま、マモル兄ちゃん?」
マモルの行動に一夏は戸惑うも、マモルは無線機の向こう側にいる志藤に訊ねていた。
『おいおいマモル? 今は一夏に訊いてんだ? 何故邪魔をする?』
「それは別に良いでしょ!? 三崎くんやフクさんは一緒にいないの!?」
『いるよマモちゃ〜〜ん』
無線機の向こう側から、中年男性の声がし、それを聴いたマモルは目を見開き直ぐに喜ぶ。
「三崎くん、三崎くんなの!?」
『そうだよマモちゃ〜〜ん、三崎くんだよ〜〜マモちゃん、寂しかったのかな?』
「寂しいよ!! それよりもどうして来ないの!? 倉庫にいるかも知れないアマゾンが逃げちゃうじゃん!」
『悪い悪い、実は此方は其方に着くのに少し掛かるみたいーー仕方ないけど、マモちゃんと一夏の二人で駆逐し』
「嫌だ!! 僕はチームの皆と戦う方が良い!!」
三崎の言葉を否定するかのようにマモルは叫び、間近にいた一夏はたじろぐがマモルはその訳を話す。
「僕はチームの皆と戦う方が良い! チームの皆となら困難を乗り越える事も出来るから!」
マモルは自分の気持ちを三崎や志藤に言う。マモルは皆と戦う方が好きだった。マモルは一夏よりも年上だが精神年齢は一夏よりも下であり、小学生のように無邪気な性格である。
しかし、彼にとって三崎や志藤、近くにいる一夏はチームであり家族でもあるからだ。それに彼は何故、一夏と一緒にいるのかは、マモル自身、好奇心に駆られたのか、一夏が乗ってるバイクに乗りたいと言い出したからである。
二人の近くにあるバイクは一夏の物であり、一夏は免許も取得している為、問題はなかった。マモルから見れば一夏がバイクに跨がって、バイクを走らせる姿はかっこよかったのかもしれない。
だが今は、マモルは我が儘を言ってる事に変わりはない。すると、無線機から声が変わる。
『マモル、お前の気持ちは解る、だがな俺は今、お前ではなく一夏に話があるんだ』
「一夏君に?」
『ああ、一夏に代わってくれないか?』
「あっ、うん……一夏君」
マモルは一夏を見ると、一夏は無言で頷き、一夏は無線機の向こうにいる志藤に訊ねる。
「何かな義父さん?」
『一夏ーーお前には悪いが、倉庫にいるアマゾンはお前一人で倒せ』
「ええっ!?」
志藤の言葉にマモルは驚き、再び横槍を入れる。
「何でなの志藤さん!? 一夏君一人で行かせるなんて危険過ぎるよ!? それに皆で行った方がずっと良いよ!」
マモルは困惑するも、一夏はマモルを宥める。
「落ち着いてマモル兄ちゃん、義父さんが何故俺を一人に行かせるのかを聞こうよ?」
「何言ってるの一夏君!? 一夏君一人だと危ないよ! 相手は危険なアマゾンかも知れないんだよ!?」
マモルは一夏を心配し志藤を責める。一方で一夏はマモルを宥めるも、無線機から溜め息が聴こえた。志藤の物だったが志藤は冷静に一夏とマモルに言う。
『一夏、マモル、二人に言いたい事がある』
「あっ、ま、マモル兄ちゃん、義父さんが何かを言うみたいだから落ち着いて」
「でも一夏君一人じゃ危ないよ! それに」
「マモル兄ちゃん!!」
一夏はマモルに怒り、マモルは一瞬だけビクッとするがマモルは一夏を見る。一夏は哀しい目をしているがマモルを心配していた。
一夏はマモルの気持ちは理解していた。逆に言えば、マモルが多々ごねていたら何も始まらず、何も変わらないからである。
一夏はそれを知りつつも、マモルに言った。
「マモル兄ちゃん、今は義父さんの話を聞こうよーー義父さんなりの考えもあるかもしれないけど、義父さんが困るような事だけはやめて」
「でも一!」
「俺は大丈夫だから」
一夏はマモルが言い終わる前に言う。効果があったのか、マモルは何も言えなくなる。一夏はマモルを見た後、軽く頷いた後、志藤に訊いた。
「義父さん、本題に入ってよ」
『ああ、大滝によれば、敵はアリアマゾン、ランクはD、お前達二人だけでも勝てる相手だーーだが今回は一夏、お前一人で行け』
「俺一人で行くの? 何でなの?」
『本来ならマモルも一緒の方が良いかも知れないが、お前はマモルとは違い、一人でも闘えるーーお前はもう半人前じゃない、お前はもう、アマゾンを狩る人間だ』
「アマゾンを狩る、人間?」
『ああ、お前はもう立派に成長した、お前は三年前とは違うーー俺達の駆除班に無くてはならない存在だーーだからこそ、お前に全てを委ねる』
「義父、さん……」
志藤の言葉に一夏は呟く。志藤の言葉は一夏にとって嬉しい物だった。三年前のあの日……嫌、今はそれは置いといた方が良いだろう。
一夏は今、志藤の言葉に少し泣きそうになる。彼にとって、青年にとって駆除班は家族である。父のように慕う志藤や、志藤と一緒にいるであろう三崎や、近くにいるマモルは兄のように慕っている。
一夏から見れば、義理だが家族の温もりを感じさせるには充分だった。すると、無線機から志藤の声が聴こえるが、一夏は答えた。
「義父さん……俺は行くよ、志藤一夏として、シグマとして、アマゾンを狩るよ!」
一夏は答えた。それは一夏自身の決意の表れだったが、マモルは目を見開いている。しかし、二人は知らないかも知れないが、無線機の向こうにいる志藤は少しほくそ笑んでおり、三崎や他の面々も一夏の言葉に少し笑っていたのは言うまでもない。
この話では一夏は、駆除班のリーダーである志藤の義理の息子です。その理由は後々の話で明かされます。