ワンサマー・イン・スリープ・シグマ   作:シグマファン

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蟻を狩る蜥蜴(前編)

「うっぷ……気持ち悪い」

 

 一夏は倉庫内を警戒しているにも関わらず、吐き気を堪える意味で口元を押さえていた。一夏の表情は良くない物だった、一夏の気持ちは、悪臭が充満している倉庫から早く出ていきたい我が儘と、この倉庫に隠れているアリアマゾンを狩らなければならない使命の間で悩んでいる。

 強いていうなら、一夏は前者や後者の両方を取るだろう。それに一夏は懐からある物を取り出すーー小型の懐中電灯だった。一夏は懐中電灯のスイッチを押すーー灯りが点いた。それは薄暗い倉庫に一筋の光を射し込み、一夏に僅かながらの安心感を与えてくれる。

 

「足場も悪い……辺りも暗い、滑降の心霊スポットだな」

 

 逆効果だった。一筋の光は一夏に不安を与えていた。懐中電灯から発せられる光は倉庫内の極僅かしか照らしてくれない。しかし、無いよりはましだろう。

 

「辺りには金属や鉄パイプ、鉄の板も散乱している……余計に不気味だな」

 

 一夏は感想を述べる。悪い意味での感想であり、一人で行くのは嫌だ、と言う別の意味での感想でもあった。マモルと一緒に行けば良かったが志藤の思いを無駄にする訳にもいかず、犠牲者を増やす訳にもいかない。

 一夏は自分にそう言い聞かせると、歩き出した。足場は悪く、歩く度に微かに埃が舞う。空気も悪く、不気味である。

 この倉庫自体が外からの侵入者を拒んでいるのか、それとも勇気を試しているのだろうか。それは誰にも判らない。

 

「此処にアリアマゾンがいる事は義父さんが前原さんに聞いて判明したーーなのに、うん?」

 

 一夏は三年前の事を思い出す前に、遠くに気配を感じ、懐中電灯の光を奥へと向ける。光が射し込まれた方向には一人の男性の屍が仰向けに転がっていた。

 

「あっ……っ、うっぷ」

 

 一夏は吐き気を押さえながら歩み寄る。その男性は腹を抉られ臓器が剥き出しになっていた。臓器は足りなく、食い散らかされている。

 一夏はその男性から目を逸らすと、懐中電灯を持っていない方の手で懐からある小型の無線機を取り出し、ボタンを押すと、口元に近付ける。

 

「此方一夏、義父さん、男性の死体を見付けた」

『此方志藤、そうか……それよりも一夏、虫の気配を感じないか?』

 

 志藤が訊き返すと、一夏は懐中電灯の光を頼りに辺りを見渡す。

 

「辺りはとても暗い、虫が何処にいるか判らないーーだけど、近くには何かの気配を感じた」

『……判った、だが辺りが暗いのは仕方ないが、辺りには何処に潜んでいるのかは判らない、それよりも一夏、男の身元が判るような物はあるか?』

 

「身元が判るような物……ちょっと待ってて」

 

 一夏は男の屍の近くに屈むと、懐中電灯を床に置き、ズボンのポケット等を探る。そして、ある物を取り出し、それを無線機の向こう側にいる志藤に言った。

 

「財布だよ義父さん、財布には……」

 

 刹那。ガタン! と言う音が辺りに木霊し、一夏は音がした方を見る。

 

『どうした? それに何だ今の音は!?』

 

 その音は志藤にも聴こえていた。が、一夏は音がした方を見ながら、志藤に答える。

 

「判らない、でも恐らく、アマゾンかもしれない」

『そうかもな……だが気を付けろ、相手はDとは言え人間を喰らう虫だ、人間であるお前は獲物だーーそこだけは覚えとけ』

「了解、義父さん」

 

 一夏はそう言うと無線機を懐に戻し、懐中電灯を手に取り、光を音がした方へと照らしながら近付く。

 忍び足だったが一夏が警戒している事の表れであるのと、一夏自身が近くにアマゾンがいる事での恐怖の表れでもあった。

 辺りには鉄パイプや金属や鉄の板が散乱しているが一夏には関係ない事だった。

 

「…………あれ?」

 

 刹那、一夏はある事に気付き、立ち止まり辺りを見渡す。辺りは暗かったが何かの気配を感じたと共にある不信感を積もらせる。

 ーー敵は何故、自分を襲わないのか? ーー。それは一夏にとって、敵への疑問を抱かせている。そう考えたのも無理はない。一夏は初めて此処に来たのである。

 敵がどう動くのかも、敵がどうやって人を襲っているのかも判らない。ならば、さっきの屍は何だったのだろうか? あの屍の男はどうやってこの倉庫へと来たのだろうか? 

 一夏は疑問を募らせていく。此処は心霊スポットであり、ネットで囁かれているが、それ自体には信憑性が伺う。

 ならば、この倉庫がネットで心霊スポットとして囁かれる意味で噂され、それ自体が、この人を寄せているとしたらーー刹那、一夏は歯を食い縛りながら「くそっ!!」とやるせない気持ちを堪えきれなかった。

 一夏は気づいたのだ。あの男が此処へ来たのも、それには理由があった。刹那、今度は別の方角から音が聴こえ、一夏は音がした方を見ながら懐中電灯の光を照らす。

 そして、音がした方には一匹の蟻ーーその蟻は人間のように二本脚で立ち、何故か元気が無いかのように俯いている。

 逆にそれが不気味さを立てており、増さしている。が、あれは誰から見ても蟻の化け物である。そして、蟻の化け物、アリアマゾンはゆっくりと顔を上げ、小走りで一夏に迫る

 

「あ、アマゾン!?」

 

 一夏はその化け物を見るや否や、懐中電灯を持っていない方のバックルの中央にある顔の近くにある左グリップを捻る。

 ーーシグマ! ーー。刹那、バックルから声が流れ、同時に一夏から爆風に近い煙が発生し、それはアリアマゾンを吹っ飛ばし、辺りに散乱している鉄パイプや金属品が吹っ飛び、埃も舞う。

 それは直ぐだったが一夏の体が紫色の炎に包まれ、炎は直ぐに消えた。しかし、そこにいたのは一夏ではなかった。

 そこにいたのは、オオトカゲに良く似た顔付きに紫色の両瞳に、先端が紫色である一本の触角。

 身体は白銀に輝いていたがそれは鉄よりも硬く、骨格も剥き出しになっているかのように禍々しい。

 そこにいたのは一夏では無いが一夏である。一夏は姿を変えたのだーー腰に着けているバックルの力で……シグマの力で。

 

「ウガアァーーーーッ!!」

 

 一夏は空を仰ぎながら叫ぶーー嫌、オオトカゲの化け物は天井を仰ぎながら叫んだ。叫び声は倉庫内に木霊するが咆哮と言い換えれば言いかもしれない。

 が、オオトカゲの化け物は、叫ばずには居られなかった。まるで、一夏自身の怒りと葛藤を意味するかのように……。そして、懐中電灯は一夏が姿を変えた後に砕け散った……。

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