ぬるりと生温かい緑色の霧に全身が包まれた緑谷一行は霧が晴れた頃にUSJの表、外にいたことに信じられないと目と認識を疑った。
「何時の間に外に・・・・・」
「というか、どうやって俺達は外に?」
「・・・・・この霧が俺達を外にワープしたんだろう」
半分白、半分赤色の髪の男子生徒、轟焦凍が足元の霧を見て推測する。
「ワープ・・・・・兵藤の"個性"で俺達は外に出されたんだと思う」
「あいつ、どんだけ"個性"を持ってんだよ!?というかその張本人がここにいないってことはまだ中にいるんじゃねーのか!?」
「そんな!いくら相澤先生と兵藤君でも・・・・・助けに行かなくちゃ!」
助けに行こうとする緑谷達。だが、13号が鋭く制止の言葉を発した。
「待ちなさい!皆は僕と一緒に避難とこのことを学校にいる先輩方、プロヒーロー達に伝えないといけない役目があります」
「ですが、見たでしょう13号先生!あの数では・・・・・!」
「兵藤君はともかくイレイザーヘッドさんは、皆さんよりも
今自分達が何をすべきなのか・・・・・。13号の言葉はある意味裏目に出た。
「わかりました・・・・・今自分が何をすべきなのか―――」
腕から棒状の物を『創造』して得物を用意した八百万が強い決意の光を目に宿して、行く道とは逆方向。USJへと走りだした。
「助けてもらって、また助けられて、これ以上恩を増やしては八百万家の恥です!彼を見捨てることはできませんわっ」
八百万が誰よりも早く動いた。情報が少ない状況でも監禁・軟禁されていた
「俺も、男として避難はできねぇ!」
「サポートぐらいならッ」
「ウチも」
―――百に感化された1-A組のほぼ生徒達が逆戻りしてUSJに向かってしまう光景に13号は慌てふためく。
「ま、待ちなさい皆!くっ、君達は学校まで駆けてこの事を伝えてください!」
危険な場所へ自ら赴く生徒達を追う為、冷静沈着な飯田の他にもう二人に指示を下して13号も速くない速度で駈け出す。
このまま避難できたはずの緑谷達がUSJの重たげな扉を開け放ち、中に再び戻って広場を見たその光景は―――。
「すっげぇ・・・・・」
相澤と一誠が
「駄目だ。流石にあの数を相手に二人だけじゃ・・・・・!」
「行きます!」
「「―――っ!」」
相澤先生と俺はこっちに近づいてくるクラスメートに驚きを隠せなかった。
「馬鹿め!のこのこと戻ってきやがったな!」
「やれー!」
「「(何で戻って来た・・・・・っ!)」」
避難して増援を呼ぶなりできたはずだ。それをなんで・・・・・!
「―――バカ野郎!何で戻って来たっ!?」
「お前だけ戦わせるなんて男じゃねぇっ!俺達だって戦えるんだ!」
「そうですわっ!」
己のプライドを最優先に動いたってのかお前達は!?阿呆過ぎて怒りを通り越して驚かされた俺は相澤先生と背中合わせをした。
「兵藤、もう一度あの馬鹿共を外へ避難させることできるか」
「・・・・・できなくないけど、後で絶対にしこり残る。不完全燃焼するより完全燃焼させてから先生の説教を受けさせた方が合理的だと思う」
「・・・・・」
「流石にヤバいと感じたら俺も全力でカバーする。特にあの三人が動いたら―――」
「『対平和の象徴怪人「脳無」』―――皆殺しちゃえ」
バッ!
「(速いッ!)ここ任せるっ!」
三人の内の一人が人の手を模した物を顔に装着している青年の指示に、この場で誰が何人があの脳が剥き出しになっている
―――否、俺一人だけだった!
「麗日、耳朗ッッッ!」
「「え―――?」」
オールマイト並みのパワー。すなわちそれは人体を拳で粉々にしてしまうほどの威力を誇っているということだ。
そんなパワーが自由に振るえることになればどれだけの脅威となるか想像は難しくない。
二人に向かって伸ばされる人の胴体と同じぐらいの太い腕と捕まえようとする意思表示している人の頭を覆い掴むほどの大きな手は確実に彼女達の顔に影を差した。
ドンッ!
翼で麗日と耳朗を弾き、両手で脳無と呼ばれた
「・・・・・っ」
その代償か。脳無の手を掴み、握られた手の骨から痛みが生じる。人型ドラゴンの俺の骨をこうも痛めつけるか・・・・・っ。
「ひょ、兵藤お前ぇ・・・・・」
「躊躇も無く手足を斬るって・・・・・っ」
戦慄する霧島と上鳴に振り返って指摘した。
「俺達を殺す相手に、何躊躇していられるんだ。心に迷いが出来たその時点で死ぬことが確定なんだ。覚えて―――」
ガシッ!!!
俺の翼を枝のように掴むその手が・・・・・。
「―――――」
ブチブチブチッ!!!!!と嫌な音を立てて俺の背中から翼をもぎり取った。片翼全てを―――。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああっ!?」
そうしたのは・・・・・両断した手足の肉面から肉の塊が隆起し、元の手足へと再生を果たしている脳無だった。激痛で悲鳴を上げれば、
「油断したねオールマイトの養子。俺の脳無は対平和の象徴オールマイト用に改造された人間さ。それは"超再生"だな」
主犯格の一人の青年が自慢げに語る脳無の"個性"。そいつが俺の翼を捨て、再生した両手で頭と腕を痛みで耐えかねる俺を掴んで・・・・・無情にも俺の腕を肩から引き千切りやがった。これ以上はヤバい。片腕となった手から衝撃波を放って脳無を遠ざけた。
同時に―――スイッチを切り替えた。
「そうか・・・・・だったら問題ないな」
右目の眼帯に触れ外す。濡羽色の瞳が久し振りに解放されて歓喜の光が帯びる。青年は気圧されたのか、俺を見る目が畏怖に変わった。そうさ、この目は俺自身の目じゃない。とある龍神様の大切な目なのさ。
「俺に傷を負わせた礼だ。お前が脳無とやらを自慢したように俺も自慢する家族を見せてやろう」
「はぁ?」
右目の瞳に魔方陣を展開した。展開した魔方陣の色は緑よりも深い深緑―――。
「お前に丁度良い遊び道具があるぞ。見ていたなら分かるだろうから好きにしろ。ただし、他の人間には絶対に傷つけるなよ。これが最大の条件だからな」
「兵藤・・・・・お前、何言って・・・・・それよりも血がッ・・・・・!」
「危ないから下がってろ・・・・・っ。こいつを出すんだからな」
濡羽色の瞳に展開した魔方陣が両開きに開き・・・・・勢い良くズルリと浅黒い鱗に覆われた腕が飛び出してきた。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
USJに俺の目から解き放たれた巨人型の化け物。巨人化の"個性"でもなければ化け物化の"個性"の人間じゃない。正真正銘の化け物・・・・・ドラゴンだッ!
『グハッハッハッハッ!久々に外に出られたぜっ!しかも、簡単に壊れねぇーサンドバック人間と殺し合いができるんなら喜んで相手してやるよ兵藤一誠!』
俺の目から完全に這い出たソレは巨人型の化物。浅黒い肌に覆われ、瞳はギラギラと殺意と戦意が孕んだ光を宿している。顔は人ではなくトカゲのような感じで背中に左右へ大きく広げる一対の翼。
「体を小さくしろグレンデル。その巨体じゃあ、一瞬で終わってお前が更に欲求不満になるのが目に見えるぞ。小さい方が何かと楽しいことが何倍も感じられるんだからな」
『チッ、わーったよ。』
そう言って自身の体から光を迸らせたグレンデルが見る見るうちに縮み、脳無と同じ身長となって嬉々と狂喜からくる笑みを浮かべて飛び出していった。
『グハハハハッ!死合いだ!殺し合いをしようぜ!脳みそ野郎ッ!』
・・・・・さて、あれはあいつが抑えてくれるだろう。こっちはこっちで、動こう。止血の処理は後だ。
「お前・・・・・なんなんだっ」
「人に名前を尋ねるなら、まず自分の名を名乗れって親に言われなかったか?後、言っておくけど―――」
「脳無!」
腕と背中から流れ出る血が、道標のように残す俺の背後に脳無が移動してきた気配を感じ取っても俺は何もしない。
「俺の家族―――グレンデルは凶暴で凶悪で粗暴で乱暴でな。首だけになっても嬉々として戦い続ける最凶の戦闘狂いなんだ」
『テメェの相手は俺だろうがあ゛あ゛っ!?』
ほら、こうしてグレンデルが自分から脳無の相手をするから。こいつの気が済むまでやらせないと後でうるさいし。
「お前、何なんだよぉ・・・・・ッ!」
「もう知っているだろう?なら、俺は俺さ」
周囲の
「さあ、俺と勝負しようか死柄木とやら。―――俺はまだまだ健在だぞっ!」
「うぅうぉおおおおおおお・・・・・!!」
完全に気圧されている青年。霧の
「大人しく捕まった方が身のためだぞ。こいつらに喰い殺されたくなかったらな」
八つの蛇のことを指して投降を勧める。だが・・・・・そこで俺の体が横に傾いた。
・・・・・ちょっと血ィ、流し過ぎたか。
「今です、死柄木弔!」
霧の
「今度会ったら必ずお前を殺してやる・・・・・平和の象徴オールマイトの養子」
俺にそう捨て台詞を残して消え去る霧と共に消失したのを最後に俺は地面に倒れた。
「・・・・・グレンデルと戦ってる奴はどうしてる」
蛇に問うと、丁度グレンデルが脳無を天井を打ち抜くほどのパンチをして吹っ飛ばしたそうだ。
そうか。ンなら、あいつを連れ戻してくれ。放っておいたら面倒極まりないことを仕出かすだろうから。
『ぬぉっ!?おいゴラ!まだ殺してねぇのに俺を戻す気かっ!』
いや、もう吹っ飛ばしたならいいって。外から来るだろう先生達が何とか対処してくれるだろうし。グレンデルや八つの蛇達が俺の中に戻ったのを確認すれば、相澤先生がやってきた。
「兵藤、意識を保てるか」
「血を流し過ぎた。寝ていい?」
「死ななきゃ寝てもいい」
「わかった。それとあいつ等のことだけど―――」
言いたいことだけ言った後。俺の目の前が真っ暗になった。
―――俺が来たァッ!(by爆豪)―――
「取り敢えず応急処置は施したが、一刻も早く輸血と本格的な治療をしなくちゃ命の危険性に関わる」
上半身が相澤の捕縛武器で固く縛られたことで血流は何とか止められた。
「さて・・・・・お前ら」
『・・・・・』
「少なからず、お前らの行動で兵藤は重傷を負った。プロヒーローでも重傷を負うが、まだ未熟も未熟のお前達を避難させることを優先にしていた兵藤の行動をお前達自身が無化にした。ハッキリ言えば、お前らはただのお荷物だったわけだ」
一纏めされている
「あの路地裏に潜んでいるような"個性"を持て余しているチンピラ程度にお前達が負けるとは思ってないが、本物の
多分な、と心の中で零す相澤。
「・・・・・でも、先生。俺達は・・・・・」
「切島、家族と友人の命、どっちか守れてどっちかが失うかという状況下に置かれたらお前・・・・・どっちを選ぶ」
「―――――っ」
「いいか。プロヒーローになるってことは時に残酷な選択も選ばなきゃならない時が来る可能性はあるんだ。救助活動も一人助けている間に二人死んでいるってことも有り得る。お前達はまだその辺の状況判断と冷静さが全然なっちゃいない。兵藤がもう一度、お前らを避難させることはできた。だが、そうするとお前達はどうする?それを考慮して兵藤は敢えて、二度目の避難をしなかった。・・・・・これは、俺の間違った判断で重傷を負わせた結果だがな」
もっと強くあの時言っていれば、片腕を失うことはなかったはずだ。油断していた事実はあるだろうが、クラスメートを守った一誠の行動は確かにヒーローだった。
バアンッ!
何かが凄勢いで弾かれたような音がした。全員がその発信源の方へ意識と目線を向けると、USJの出入り口から現れた一人の筋骨隆々威風堂々とした中年男性。
「もう大丈夫だ。私が―――」
来た。という言葉は出すことできなかった。既に事件は幕を降ろした状態で誰も救いを求めている顔じゃなかったし、ピンチな状況でもなかったから。
「・・・・・遅い登場ですよオールマイトさん」
何とも言えない気分と成る相澤は溜息を零した。オールマイトは瞬間移動してそんな相澤と片腕が無く巻かれた包帯が赤く染まっている一誠の傍に寄った。
「これは・・・・・っ」
「名誉のある傷、それだけしか言えません。ですがオールマイト。あなたが遅刻しなかったら結果が違っていたでしょうに」
非難せず、諭すように吐露する相澤の言葉はオールマイトの心を静かに嘆きで震えさせた。
跪き震える腕を養子へ伸ばし、首と背中に差して抱え・・・・・
「・・・・・すまない。すまない一誠・・・・・」
何度も何度も一誠に謝罪の言葉を発するその姿は誰もが憧れるヒーローの背ではなかった。この時だけは―――一人の父親だった。後の遅れて現れる雄英の
逃走に成功を果たした死柄木と黒霧は薄暗い雰囲気のバーらしき店内にワープして戻った。
「くそ、くそなんなんだアイツ・・・・・!」
苛立ちを隠そうとせず、奇襲は成功したものの襲撃は失敗に終わったことと、一誠の異常な"個性"を目の当たりにし、瞼の裏にも焼きつき動揺と畏怖の念が今でも振り払えないで癇癪を起こそうとしている。
「何なんだあの"個性"と化物は・・・・・本当にあいつは人間なのか。あんなの知らないぞ。あいつさえいなければ、あいつさえいなけれ平和の象徴に脳無をぶつけれたってのに・・・・・知ってたのか先生・・・・・」
『残念だけど僕も知らなかったよ』
死柄木の問いに電源が入れっぱなしのテレビから返してきた。そこに映像は映っておらず声音だけが聞こえるように設定されていた。
『オールマイトの養子に成れるだけの要素があるとは思っていたけれど中々どうして』
『ところでワシと先生の共作脳無は?回収してないのかい?』
もう一人、初老の男性と思しき声も聞こえ脳無のことを問うた。それは黒霧が答えた。
「兵藤一誠の"個性"と思しき化け物に吹き飛ばされました。正確な位置座標を把握できなければいくらワープとはいえ探せないのです。―――いえ、そのような時間を惜しむぐらい兵藤一誠は危険でした。寧ろよく、ヒーローになろうとしているのが不思議なぐらいあの"個性"は我々
『・・・・・』
『へえ』
正義を象徴する光の"個性"とは裏腹に悪を象徴する闇の"個性"を有する人間。テレビの向こうにいるだろう二人は興味を持った。
「腕の一本は貰ったけど、やっぱりあのガキがいなく邪魔がなければオールマイトを殺せたかもしれない・・・・・ガキがっ・・・・・ガキ・・・・・!」
悔恨の思いの死柄木にテレビの向こうにいる二人はしばらく沈黙。後に子を見守る親のような感じを言葉にして表した。
『悔やんでも仕方ない!今回だって決して無駄ではなかったハズ。だから今度は精鋭を集めよう!じっくり時間を掛けて!』
死柄木に向ける諭す言葉は悪の芽を咲かせようとする為の育成、もしくは指導か道標―――。
『我々は自由に動けない!だから君のような"シンボル"が必要なんだ。―――死柄木弔!!次こそ君という恐怖を世に知らしめろ!』
真に賢しい
何時しか本格的に闇の脅威が迫ってくる時まで緑谷達は気付かないまま平穏な日常を過ごす。
USJに警察官達が現れて
「片腕を失い重症の彼を除いて・・・・・ほぼ全員無事か。取り敢えず生徒らは教室へ戻ってもらおう。直ぐ事情聴取ってわけにもいかんだろ」
帽子にコートの出立ちの警察官の男性はそう提案と促しの言葉を掛けた。
「刑事さん。兵藤ちゃんは・・・・・」
蛙っぽい女子生徒、蛙吹梅雨は心配そうに救急車で病院へ搬送された一誠のことを訊ねた。
男性は説明するよりも直接、件の本人の身体の状態を確認しているだろう医療班に連絡をしてつなげた。
『背中の裂傷に右腕の消失によって大量出血。今もなお血液を輸血中でして、後もう少し遅かったら彼は死んでいました』
「だそうだ・・・・・」
「ケロ・・・・・」
死―――。一誠はもう少しで死にそうになっていた。自分達が良しとした行動の結果の認識を改めてすれば、重く圧し掛かる重大さは後の糧となるだろう。
「・・・・・」
両目がゆっくりと開き、清潔の代表の色の白が視界いっぱいに入り、ぼんやりとした意識は徐々にはっきりとし・・・・・。
(・・・・・ここ、どこだ)
首だけ動かして状況の把握を試みようとした視界に入る光景は―――。
「あら、もう起きちゃったのん?」
ナース服を着た『男性』が、唇を突き出した状態でズームアップ。剃った後の口髭にたらこ唇と強面な顔とオールマイトに負けない筋骨隆々の体がサイズ合ってないナース服を今でもはち切れそうになっていた。いや待て、俺はどうしてこうも冷静でいられる!?
「まあいいわん。私のあちゅ~いベーゼで癒して、あ・げ・る❤」
「~~~~~っ!?」
声にならない悲鳴をあげて、思わず相手が誰であれ展開した魔方陣で火炎球を放ってしまった。
ドッガアアアアアアアアアアアアアンッ!
10分後。
「もう!院長、何度も眠っている患者さんに襲うなと何度も言っているじゃないですかっ!」
「いやん、襲うなんて言いがかりよんエンジェルちゃん。私はたぁだ、この子の顔を見ているうちに顔を近づけちゃっただけよ~?」
「傍から見れば荒い息を吐いて獲物を狙う猛獣のような顔をする院長にそんな言い訳通用するとでも!?」
「失礼ね!誰が見ただけで人に恐怖を陥れる深海の魚ですって!?私の好みは15歳以下の綺麗な子供よ!」
「軽く犯罪に触れるような発言は止めてください!」
黒コゲと化した『病室』でナースとナースもどきが口論する様をただ黙って見ていることしかできない俺は、意識を失っている間に病院へ運ばれたのだと理解した。
「君、大丈夫だったかい?」
「え・・・」
「ごめんね?ここの院長は物凄くキャラが濃い上にショタとロリが好みの変態なんだ。腕は一流なのにどうしてあんな性格なのだろうか・・・・・」
つまり、ザンネンな人か・・・・・。
「院長の"個性"は口付けした相手を服従させるって危険極まりないから・・・・・良かった」
なんて恐ろしい院長だ!?俺、あとちょっとで服従されそうになっていたのかよ!?というか、どうしてそんな人が院長なんだ!
「えっと、病室が・・・・・」
「ああ、気にしないでくれ。毎度のことだからこちらも対処するのはもう慣れたんだ」
「・・・・・よく潰れませんねここの病院」
「雄英のリカバリーガールの病院でもあるからね。潰される原因が絶え間なく出来ても日本全国の病院の中じゃあ一番治療の成功率が高いから政府も黙認せざるを得ないんだ」
・・・・・あの人のかよ・・・・・。意外な人物の名が挙がったところで男性の医者が真剣な面持ちとなった。
「それはそうと兵藤君。君、自分の血液のこと把握しているのかな?どの種類も当て嵌まらず、拒絶反応覚悟の上で輸血をしたら、君の血が輸血する血を取り込んで増殖したんだ。そのおかげで峠を超えられたけど・・・・・」
あー・・・・・やっぱり気付かれるか。しょうがないとは言えこれは面倒だな説明するの。
「これを逆に利用したら人工の血液が生産出来て数多くの人を救えるんだと思うんだ。だから兵藤君。君の血を―――」
キラリンと妖しく目を輝かせた医師が別の意味で俺に迫って来たところをナースが突っ込んできた。
駄目だこの病院・・・・・早く退院しないと。身の危険を感じてならないこの病院はアレな巣窟だ。
翌日―――。
『兵藤の病院先・・・・・見舞いしに行くなら合理的に俺とついて来い』
「すいません。兵藤一誠の担任ですが病室はどこですか」
「はい、少々お待ちを・・・・・666号室ですね。面会も許可が下りていますので他の患者さんにご迷惑おかけないようお願いします。・・・・・御気を付けて」
「どうも?」
意味深なことを言うナースに短く頭を下げ、待たせている緑谷達に手招きして歩き始める。
「おい上鳴見ろよ。天使だ。病院に天使がわんさかいるぜっ」
「ああ、俺もここで入院したらその天使なナースさん達に介護されると思うと胸が弾むぜ」
「くっ・・・・・兵藤の奴、なんてうらやけしからんな状況にいるんだ・・・・・!オイラと変わって欲しいくらいだぜっ」
「・・・・・あなた達。見舞いにしに来たのではないのなら帰ってください」
欲望丸出しの峰田と上鳴に女子からゴミを見る目で向けられる視線は一つだけではなかった。
幾つもの階段を上り、長い廊下を歩き続け、様々な病状の患者や見舞に来た知人友人家族など連れ違いながら666号室に兵藤一誠と書かれたネームプレートがある一室を視界に入れた相澤はその扉にノックしてから開けた。
「兵藤、起きてっか」
中に入ると、件の少年に巻いていた包帯を新しく清潔な包帯と美人で綺麗で豊かな体付き頭にうさ耳が生えているナースの手によって巻き直されていた。
「「ひょ、兵藤お前ってやつぁぁぁぁぁぁぁっ・・・・・!!!」」
「・・・・・開口一番、何で血の涙を流してるんだ?」
上鳴と峰田の言動に怪訝で目を細める一誠。二人の欲望を察せない一誠には理解に苦しむ思いだろう。
包帯の巻き直しが終えると二人のナースは速やかに退出。ナースと擦れ違うようにして病室の中に入る相澤達。
「兵藤!お前、なんて良い思いをしてるんだよ!?」
ガバッ!と飛び掛からんばかりに一誠へ近寄った峰田の目がキレていた。
「・・・・・良い思い?」
「バッキャロッ!さっきのナース達の魅力に気付かないって言うのかお前は!?あんなこぼれんばかりのおっぱいに白いストッキングに包まれたおみ足!それ等を身に包む男の欲情をそそるピンクの服を着た女に何とも思わないはずがないだろうがぎゃっ!?」
「峰田。ここは病院だ静かにしろ。それとその答えを返せば―――」
デコピンを食らわし、峰田の力説にこう答えた。
「俺は、俺を好きになってくれる女とか、俺が好きになった女にしか興味ない。他の女に欲情する事は絶対に有り得ないな」
「―――――っ!?おっぱいを押し付けられてもか・・・・・?」
「うん」
「女体を擦り寄せられてもか・・・・・?」
「うん」
峰田の中でガーンッ!とショックを受け放心する他所に相澤が話しを切り出した。
「腕の方は兎も角、元気そうで何よりだ」
「体の一部がなくなった程度で泣き喚く俺じゃないよ」
「・・・・・お前はそれでいいのか」
「守れたなら腕の一本ぐらい安いさ。後悔もしてないよ。俺の目指すヒーローはまさにこれなんだからさ」
身を呈してクラスメートを守る。そんな一誠は恥ずかしくないヒーローであることを相澤は目を瞑りながら思った。屈託のない笑みを浮かべる一誠を見て、緑谷達はプロヒーローになっても命懸けと悟り自分を更に戒める決意を抱いた。
「・・・・・自滅のヒーローを目指す。非合理的なことだぞ兵藤」
「全力で何かを守るのに無事でいられる方が少ないって相澤先生」
「・・・・・」
尤もらしいことを言う一誠から踵を返した相澤が病室を後にしようとする動きをし始めた。
「お前の状態を校長に伝えておく。お前ら、他の患者や医者に迷惑を掛けるなよ」
さっさとこの場からいなくなる相澤をただ見送ることしかできない一誠達。ドアの向こうへと消えた担任から一誠へ意識を向ける。
「兵藤君・・・・・」
「ウチらの為に・・・・・ゴメン」
麗日と耳朗が物凄く申し訳なさそうに謝罪の念を込めた言葉と頭を垂らしたことで、自分に非があると罪悪感を覚えている面々も頭を下げ出す。そんなクラスメート達に一誠は深い溜息を吐いた。
「謝れたら困るんだけど。お前らはお前らの意志で行動したんだろうが。この腕が無くなったのは俺の不注意だ。相手の力量を計れなかった結果だから謝れる筋合いはない」
「筋合いって・・・・・」
「自分の行動に後悔するぐらいなら、何もするなってことだ。ヒーローとして躊躇する暇もない時もあるんじゃないか?自分の行動に自信がないならヒーローなんて目指すな。助けられるのに助けられなくなる」
辛辣な言葉は緑谷達の心に届く。だが、一誠の辛辣な言葉の中に励ましの言葉も含まれていた。
後悔するな、自信を持て、助けるなら躊躇もするな―――。それを察した面々は何人いるだろうか。
「さっきも言ったように、俺は麗日と耳朗を庇ったこと後悔してない。感謝されても謝られるようなことは一つもした覚えはないからな」
「・・・・・兵藤君」
「俺はオールマイトの養子だぞ?あの人に恥じない行動をするこそが恩返しだ。だからもしもまた、あの
不敵の笑みを浮かべ、残った片方の拳を緑谷達に突き刺した。
「お前らもプロヒーローを目指すなら困難を乗り越えてみせろよ。―――更に向こうへ、
『・・・・・』
「じゃなきゃ、何時まで経っても・・・・・爆豪の言葉を借りれば雑魚ヒーローのままだぜ?」
挑発、発破を掛けることでプロヒーローを目指す意欲、向上心を奮え立たせた。特に切島がニッ!と力ある笑みを浮かべて一誠の拳に拳を突き付けて合わせる仕草をした。
「お前に言われなくても分かってるよ!ああ、男らしく俺はもう後悔のない行動をしてやる!それが男ってもんだ!」
切島の発言で他の面々は顔を見合わせては頷き合い、1人、また1人と一誠の拳に突き合わせる。
「頑張るぞ1-A組。
『おおッ!』
「・・・・・心配する必要もなかったようですね」
「・・・・・ああ、十代は素晴らしい」
「さて、俺も本当に校長へ報告しに行きますんで、後は父親らしく頑張ってくださいオールマイトさん」
「大丈夫だ。何故って?それは私が―――!」
『そろそろ入って来たらお父さん』
「・・・・・バレていましたね」
「Oh・・・・・」