「ここぉっ!」
「爆おっ・・・・・!」
「尾白君戦闘不能!二回戦進出耳朗さん!」
格闘が得意とする尾白と"個性"の隙を突いてギリギリ、イヤホンジャックと格闘技のコンボで倒し退けた。七回戦では近接格闘で戦いを持ちこむ砂藤に
「青山君行動不能!二回戦進出峰田君!」
「よっしゃオラアアアアアアアアアアアッ!?」
一誠の修行をしてきた峰田の作戦勝ちで青山を降した。そして九回戦、障子と切島の戦いは最初こそ格闘で戦っていたものの手数の有利さに・・・・・。
「ちょっ、待て障子っ!こんな男らしく―――――くそぁああああああああああああっ!」
複製した触手と自前の手に四肢を掴まれ、場外へと追いやられてしまった切島の負けとなった。
その後の九回戦、初めて女子同士の戦いが始まるものの・・・・・。
「よし、脱いでいれば見れな―――!」
「淑女が例え姿が見えずとも多くの人の前で脱衣はしてなりません」
あっさり伸縮自在な棘付きのツルで捕縛されて葉隠敗北。一部の観客が物凄く残念そうな反応をしていたのは気のせいのはずだ。
《ヒーロー科A組蛙吹梅雨
八度目の同じクラスの生徒同士の戦いが火蓋を切って落とされた。が、アクシデントが発生した。
「ヤバい!梅雨ちゃん"個性"蛙だから寒いのは苦手なんよっ!?」
「冬眠―――いや、まだ寒い時期じゃねーのに凍死なんてシャレにならねぇからー!?」
「兵藤、炎!炎でも何でもいいから梅雨ちゃんを温めて助けてやれ!」
「リカバリーガールでも傷じゃなければ流石に助けれませんわっ!」
スタジアムを超えるほどの巨大な氷壁を作り、蛙吹の全身をほぼ凍らせて個性が個性な故にA組の生徒達は、慌てて客席からフィールドへ飛び降りて蛙吹の元へ駆け寄るほど物凄く焦っていた。
《この組み合わせ・・・・・過去最悪だったんじゃねイレイザー?》
《相性が最悪なほど悪かったか。取り敢えず謝っとけ轟。やり過ぎだ》
「・・・・・悪い、蛙吹。イラついてた」
「「「イラついてこの威力・・・・・怖ぁっ!?」」」
ここまで氷の出力をあげる必要があったのかと思うほど轟らしくなかった。
「ケロォ・・・・・」
後に氷の牢獄から救助された蛙吹は対面する形で一誠の膝の上に座らされあまりの寒さに温かさを求め、両手両足を一誠の腰や背中に回していながら金色の翼に包まれている。顔色が青じゃなく紫になっていた蛙吹を救出しに駆け寄った一誠達が本気でヤバいと思っていた頃から比べると、順調に体温が常温まで戻っている様子だった。
「梅雨ちゃん、大丈夫なん?」
「ええ、蛙が一杯いるお花畑と川を見えたわ・・・・・とても楽しそうに合唱をしてて、つい行きそうになったの」
「・・・・・臨死状態」
とんでもない体験をして生還した蛙吹の頬を淡い光を纏う手で触れる一誠は小さく頷く。
もう大丈夫だと判断した一誠は徐に翼を動かし、蛙吹から解き放ち消した。
「あの組み合わせを見た時から不安だったが、的中しちゃったな」
「轟じゃなかったら良い試合をしてただろうに」
「無念だな蛙吹」
十二回戦が始まっている他所で蛙吹を労う声が飛ぶ。
「これが終われば次、緑谷と拳藤だけど兵藤。どっちが勝つと思う?」
「微妙だな。修行の期間を考慮すれば拳藤一佳が勝つと思うけど、緑谷も成長してるから正直分からん」
二人の戦いはほどなくして終わりを迎えた。溶解液を使役する芦戸の前ではサポート科が開発したアイテムは梳かされる運命を辿るしかなかった。
「梅雨ちゃん、一誠君から離れないのはどうして?まだ寒いの?」
「こうしているとなんだか温かくて落ち着くの。なんでかしら?」
「・・・・・俺に言われても」
クルリと大きな目を向け不思議だとばかり言ってくる蛙吹に一誠は困惑する。
《ようやく一回戦が一通り終わった!小休憩挟んだら早速行くぞー!》
「ん、そういうことなら」
欠伸を掻いて、左目を閉じ始めた。
「次の試合が始まるまで寝る」
「ね、寝る・・・・・ってもう寝てるし」
「ケロ・・・・・」
寝息を静かに立ち、背筋を垂直のまま座った状態で寝顔を見せる一誠に若干驚く。
「き、器用・・・・・」
と、まではいかなかった。蛙吹が気を利かそうとしたのか膝の上から退くと支えていた重心が崩れたかのように横へ倒れた。ポスン、と―――耳朗へ傾き彼女の膝の上に頭が乗っかった。
「ちょっ!?」
「シー!」
「い、いや・・・・・だけど・・・・・」
「直ぐに寝ちゃうほど疲れてると思うんよ。修行の時、私達の為に考えて夜遅くまで起きてた時あったから」
「ここは寝かせてあげましょう。私達も一誠さんの翼で寝てしまいましたし・・・・・」
そう言われると上体を起こそうとする気持ちが無くなり逆に申し訳なくなる。中身が無い裾を耳朗が視界に入れてしまうと罪悪感を覚える。その裾をから流れるように動く添えている手は一誠の横顔の頬に触れる。
《さぁ、そろそろ小休憩が終わるぜ!待たせたな2回戦の始まりだッ!》
緑谷VS拳藤―――二人の戦いがステージの上で始まろうとしている。
「一誠君、一誠君。試合始まるよ起きて」
「・・・・・んぁ、・・・・・耳朗が目の前にいる・・・・・?」
「・・・・・膝枕してたんだよ」
「・・・・・道理で温かい訳だ。起き上がるのがちょっと惜しいけど」
仕方ない、と漏らしつつ体を起こす一誠は戦いを始めている二人をその目の視界に入れ・・・・・細めた。
「くっ、動きが流石に速いなっ」
緑谷の向上した身体能力の前に手も足も出せない一佳。修行の期間は一佳の方が長いというのにそれを覆される実力を身に付けた緑谷に対し決定的な攻撃が当たらずにいた。しかし、逆に緑谷も―――。
「ガードが硬いっ」
そして対応力が凄まじく隙がない。中々攻撃と言うよりも場外狙いを窺っている緑谷は異性相手にワン・フォー・オールの力を使えないでいるのだった。
(どうするっ、拳藤さんはA班だった人だ。僕よりも長く兵藤君の修行をしているから接近戦は長けているはずだ。というか、女の子と相手するなんて初めてだから凄くやり辛いっ)
(迂闊に動けば翻弄されて場外まで・・・・・一誠はこういう時の状況に対して確か・・・・・)
脳裏で次の動きを決める思考錯誤する二人。その果てに何が二人にとって良い結果になるかは考え次第。
(・・・・・よし)
先に考えついた―――一佳が動きだす。
「ふぅ・・・・・」
深呼吸をし、一度精神を落ち着かせると案山子のようにその場で佇み、手を構えた状態で目を瞑る。精神統一をしているようにも見え緑谷は警戒する。
(あの構えは・・・・・兵藤君と同じだ)
同時に相手を誘いこむ構えだと直ぐに悟った。そう教えられたし、何度も引っ掛かった経験が緑谷を警戒させている。しかし、相手を誘いこむだけでなく直ぐに反応できて対応をする構えであることも教えられている。余計に攻撃することを躊躇してしまう。
(直接殴らなければいい。風圧で場外まで吹き飛ばせば、怪我は掠り傷程度になるはずだ)
腕を前に突き出し、指を構える。これも一誠との修行の末に得た調整―――。
「―――――ありがとう、緑谷」
「っ?」
「これ、まだ慣れなくて時間掛かるんだ。集中するのに無防備になるんだどうしても」
一佳の身体に淡い光が帯び始める。
「少しでも一誠みたいになりたいから、無理難題な修行も皆には内緒でして貰っていたんだよ。結果、私は一つだけ真似をすることができたんだ」
一佳自身に変化はない。変わった様子も見当たらず何をしたのか見当がつかない緑谷は、視線を上方に向けることになるとは思いもしなかっただろう。
「空を、浮いているっ・・・・・!?」
三メートルぐらい浮かび上がる一佳に絶句する緑谷だけでなくスタジアムにいる一同、一誠を除いて驚愕の色を顔に浮かべている。
「一誠さん、拳藤さんが浮いているけどあれって・・・・・」
「A班の中で少なからずセンスがあった。でも、絶対に体育祭まであんなことができるとは思わないつつも指導したんだが・・・・・中々どうしてまだまだ不安定だけど物にしたんだよ」
「あれは"個性"なのですか?」
「違う、生命エネルギー・・・・・気という人の活力みたいなもんをコントロールして浮いているんだ」
「気?」
「そ」と掌に光る球体を具現化して見せる。
「これが誰しも宿っている気のエネルギーだ。平たく言えば元気という概念を具現化したエネルギー。これをこうすることができれば、コントロールはできるも当然だ。一佳はこれをできるようになったわけでああして宙に浮くことも可能にした。因みにこの技法は"個性"じゃあない。人が抱えているもう一つの可能性だ」
「それ、どうしてウチらに教えてくれなかったわけ?」
「これを教える以前に皆、体力あんまなかったし。気を操るにも最初は当然苦労するし、気を使えば体力が消耗するんだ。だから修行時、他のことも教えるほど割く時間は無かったから教えなかった」
「拳藤ちゃんに教える時間があったの?」
「個性が個性だったし、教えても後は自主練習もしてもらえば問題ないと考えてたからな。それに加え、こいつは武術が得意とする人間の方が向いているんだ。それでも覚えたいならまた今度教えてもいいぞ」
宙に浮く一佳が気合が入った叫びをし、緑谷へ強襲。あっという間に近接格闘戦と発展し、緑谷を圧倒する。
「・・・・・ああ、緑谷。駄目だ」
どこか呆れる一誠は緑谷に対して呟く。本気で勝ちたいなら女であろうと躊躇してはならない。そう修行の時教えたはずなのに―――。
バッ!
場外ラインぎりぎりのところまで後退し、掌を巨大化させ両手首を合わせて手を開いて、体の前方に構え出す一佳が体内に宿る気を両手へ収束する。
「―――おい、まさか」
思わず立ち上がってしまう一誠。一誠しか知らない技を、一誠しかできない技を―――コツを教えた訳でもないのに
一佳の掌から放たれる気のエネルギー砲をモロに食らって場外へと緑谷が吹っ飛ぶ。
「緑谷君場外・・・・・拳藤さん三回戦進出!」
《兵藤に続いて拳藤も手からビームを撃ちやがったぁっ!A組青山みたいな"個性"かぁー!》
《B組も負けてないっていうことだろう。今年の一年は粒揃いのようだ》
全身で息をし、一誠がいる方へ顔を向ける少女はやりきったと満足げに笑みを浮かべて拳を突き出してくる。
一誠も拳を突き出して応じる。
《(まあ・・・・・兵藤が深く関わっているのはまず間違いないだろうがな)》
二人のやり取りを見つめ察する余所にプレゼント・マイクが常闇と麗日の試合を進める。爆豪を倒し金星を得た麗日の快進撃は惜しくも速攻で倒されて止まってしまった。
《うおおおおおおおおおっ!麗日ぁー!物凄く残念だぁー!》
《私情すげぇなおい・・・・・・》
続いては耳朗と一誠の試合。試合が始まるや否やステージにイヤホンジャックを突き刺して爆音を流す。それによって生じる煙が一誠を包みこむ。
「目くらましか。耳朗の個性を考慮すれば合理的な戦法だな・・・・・」
6メートルも伸びる福耳を近づけ不意打ちで爆音を流せば一溜まりもない。実際、それが一誠の足元に近づいている。しかし、一誠は耳朗がどこにいるか目を瞑ってでも気付いている。
「―――耳朗さん場外!三回戦進出兵藤君!」 試合内容無し?
八百万VS峰田の試合が始まる。開始早々、峰田はくっつく髪を忙しなく掴んでは百やステージに向かって投げ始める。くっつく髪の厄介さを知っている故に創造した盾や棒で対処しつつ駆けて近づく。
「数で撃てば当たる筈も無く、ですわ峰田さんっ」
「へっ!オイラの考えを分からないんじゃ勝てないぜヤオヨロッパイ!」
髪の塊を円盤状にくっつけ繋げ、それを両手で持ったまま体を張ってタックルすると峰田はくっつかず体が弾かれて百の方へ。
「自分で自分を弾いて・・・・・っ!?」
てっきり、逃げ回りながら個性が個性故に"もぎもぎ"するかと思っていた百の予想を裏切る峰田。弾かれてくる峰田が突き出す円盤状の髪を盾で受け止めて直ぐに手放す百は、既に体内で創造した網を放つが、投げられる円盤状の髪にくっついて役目を果たせない。その攻防は一瞬で終わり、百から通り過ぎる峰田と通り過ぎる峰田に釣られて振り向く百の視界に飛び込む光景。峰田が行く先には髪の塊があった。そこへ自ら望んで行くような相手にハッと察する百の予想通り、
「オラァッ!」
靴の裏にくっつく髪をくっつけて両手を前へ突き出した状態で弾かれ戻ってくる峰田に目を見開く。
《まるでボールのように弾くな。遊んでんのか?》
《いや、気付けよ》
両手足にくっつく髪を備えて百へ弾かれる峰田と、峰田や投げられる髪からかわす百の戦いぶりは何度も繰り返されることで、観客席にいる一同は気付き始める。ステージが峰田の髪だらけとなって百の行動が制限されていることに。
「―――一見地味に見えるが、塵も積もれば山となる。そんな感じに行使すればアレの対処ができない以上、後に驚異的な厄介さが発揮する。峰田を負かすなら一撃必殺&短期決戦が望ましい」
「あれが峰田君の強み・・・・・」
一誠の峰田の戦いの説明を聞き、驚嘆を顔に出したり胸に抱いたりとするお茶子達。
「じゃあ、まさか峰田ちゃんが勝っちゃうの?」
動きを制されて今度は確実に身動きを封じられ、
「勝つか負けるか、それはあの二人次第だ梅雨ちゃん。誰がどんな風に勝敗が決まるかだなんて誰も予想できんよ」
「―――もう、鬱陶しいですわっ!」
若干、キレた百がここで攻勢に出た。弾かれてくる峰田の手にあるくっつく髪を自ら両手で掴み、勢いを殺す。
これで両手はくっつく髪で創造したものを手にすることは叶わなくあったが、峰田が宙にいるその瞬間を無駄にしない百。片足を勢い良く振り上げ、峰田の小人のような体にクリーンヒットする、
「はうっ!?」
そしてその場で体を回転して伸ばした腕の先、手の甲が裏拳として峰田の頬を直撃して殴り飛ばす。ステージにくっつく髪が峰田の場外ライン越えを防いだが、体を丸めプルプルと可哀想なほど震える峰田に勝敗は決した。
「峰田君戦闘不能!三回戦進出八百万さん!」
「・・・・・今の、金的に当ててなかったか」
「ど、どうだろうね・・・・・」
搬送ロボのハンソーに担架で運ばれる今でも体を丸めて局部を両腕で抑える峰田を視認する。
―――残る試合は二つとなったが短期決戦で終わりを迎える。塩崎VS障子の戦いは、葉隠のように伸縮自在な頭髪のツルで拘束されたことで行動不能に。そして轟VS芦戸の試合は、
「冷痛ぁっ!?」
足を凍らせないなら直で凍らせると手段に出た轟。近接格闘術を学んで芦戸は轟の意図に気付いて右手を警戒して戦いを臨んだが隙を突かれて凍らされた故に行動不能。
《さぁ!!いよいよ試合も大詰めとなったぜてめーらっ!残る試合は三つ!そんで勝ち残って来たチャレンジャーは六人の紹介でもしちゃおうか!B組の拳藤一佳、A組の常闇踏陰、同じくA組の兵藤一誠に八百万百、B組の塩崎茨にA組の轟焦凍だ!B組の生徒が二人もA組の喉を噛みつくようにして生き残っているド根性すげぇーところで最後はトーナメント式ではない試合をしちゃうぜ!》
モニターの画面に六人の名前が表示される。
《決勝戦に出られるのはたったの二人だ!トーナメント式じゃあ二人に絞る為に誰かが二回も戦わなくちゃならない。そこで計二試合に3人ずつ戦うバトルロイヤルをして貰うぜ1年の頂点に目指すリスナー達!》
勝者はたったの一人。2試合もそれを行い、勝ち残った二人が決勝戦へ臨める仕組みは誰でも直ぐに理解する。
モニターに表示される六人の名前がルーレットのように下へ周り始まる。
《三試合に進出し、先にバトルロイヤルをして貰う者は・・・・・こいつらだ!》
プレゼント・マイクの実況に呼応してルーレットの動きが緩やかに、遅くなり始め三つの枠に収まる名前が一つ、また一つと停止して表示される、
―――俺が来た(by常闇)―――
常闇踏陰VS塩崎茨VS兵藤一誠
「さて、どう戦うか」
「避けられぬ運命・・・・・」
「これも運命ですのね」
三つ巴の戦いが始まるステージに集う三人。既に勝敗が決していると感じているが諦めの色や雰囲気など微塵も感じてない上に窺わせない。負けることが分かっても最後まで徹底的に抗って一矢報いようとする思いが強いのだった。
《STRAT!》
二人は一誠から離れて距離を置いた。何を仕出かすか、個性も複数ある相手に警戒はしてもおかしくない。
代わりに遠距離攻撃ができる方法で一誠に仕掛けた。ツルと
「くっ!?」
「厄介ですねっ・・・・・」
左右分かれて火炎弾を避けつつ一誠を囲む炎の壁を一周するも、ドーム状に覆っていることが判明し手も足も出せない状況下に陥る。
《炎のドームに身を隠す兵藤に二人は成す術もない!燃焼系ヒーローのエンデンヴァーのお株を奪う兵藤はどれだけ"個性"を持っているんだよイレイザー》
《さぁな。俺も全部把握している訳じゃない》
異世界からきた一誠の素性を知っている者としてまだ全て理解している筈もない。炎のドームが突然消失し、天使の一誠の姿を窺わせた。体育祭始まって以来初めて天使の姿になった一誠を見て常闇と茨城は冷や汗を流して警戒せざるを得ない。神々しい姿でありながらもプレッシャーを感じていると―――天使化になっている一誠の全身に青白い電気みたいなものが迸る。それは次第に強まり一誠の体から最高潮に達したかのように弾け包まれるさまは
「「―――――」」
目が奪われるのは視力だけではなかった一誠の変化した姿に目を反らすことを忘れ、見開き続ける。
翼と髪が青白くなっており、光の輪っかも青白く染まり変わっている。左眼は金色の目に戻っていて二人と対峙している一誠。
《・・・・・ありゃあ》
《・・・・・》
いつもの天使の姿とは違うことに相澤達
初めて見る緑谷達は目を大きく見開き愕然として言葉を失っている。"個性"が明らかに"変化"した結果に。スッと宙に浮く一誠は翼を大きく左右へ広げ出す。太陽光を翼で吸収、それに呼応して青白い光が増し包まれる最中、常闇と茨へ手を突き付ける。
「
次の瞬間、ステージを包む青白い雷が発生したその結果・・・・・戦いは終幕を迎える。
「決勝戦進出・・・・・兵藤君」
ステージに平伏す二人を翼で包み込む一誠に勝利の判定を下すミッドナイト。誰一人として歓声の声をあげず、目の前で起きた光景に言葉を失う。それから数分後―――轟、一佳、百の試合は轟の圧勝で準決勝は終了。決勝戦は一誠と轟の試合となりステージに顔を突き合わす。
《さァいよいよラスト!!雄英1年の頂点がここで決まる決勝戦!!!兵藤対轟!今―――START》
開始宣言と同時に巨大な氷の壁が一誠を呑みもうとしたが、発火する灼熱の炎に遮られて凍らすことは叶わなかった。
「容赦ないな。梅雨ちゃんを冬眠し掛けた氷は」
朗らかに包まれる炎の中で一誠は不敵に言い、
「だが、お前もお前でつまらないな」
「何だと・・・・・」
「氷の力は、その程度じゃあないってことだ」
パチンと指を弾く一誠の周囲に氷が槍のように虚空から具現化した。
「―――――っ」
「驚くことでもないだろ?空気中の水分を凍らせて凝固化にすることは、お前だって地面を凍らせている時点で分かっているはずだろう」
弾丸のように轟へ放たれる氷の矢は作り出される氷壁の前に直撃して防がれるが、瞬く間に三六〇度の空間に数多の氷の矢が具現化する。
「っ!?」
飛来する氷矢から身を守るべく自分自身を氷で覆い、防ぐ轟。氷壁越しで伝わる豪雨のような音はしばらくして止む。左の手の熱の"個性"で氷壁を溶かし表に出た直後、氷でできた氷塊が腹部に直撃する。
「が・・・・・っ」
大きさはバスケットボール並み。それをモロに身体のどこかにあたれもすれば鈍痛で顔を歪めてしまう。だが、それが氷でできたものとなれば痛みはそれ以上感じてしまう。思わず体をくの字にした矢先、轟の視界に伸びる氷の塊が飛び込み顔を横にずらして柱と化する氷からかわすものの、次々と轟を囲う柱が生まれていきトドメと言わんばかりに上空から巨大な氷塊が突如として降って来る。囲いの中で巨大な物質による圧縮―――と一誠のいやらしいやり方に舌打ちをし氷の囲いの一部を熱で溶かして、氷塊が囲いの中に収まり、落ちたと同時に轟は囲いから脱出した。
ゲシッ!
が、待ち構えていた一誠に真正面から飛び蹴りを食らって背中から氷壁とぶつかった。
「弱い弱い。個性の可能性を見出そうとしない相手とするのはおままごとをしている気分だわ」
手の中に氷の剣を具現化して見せて轟に突き付ける。
「いや、轟。何でもう片方の"個性"を使おうとしない?まるで封印しているような感じだぞ。お前ほどの奴なら、その気になればさっきの氷塊だって消せたはずだろ」
問いに答えず、決壊したダムの水のように氷を迫らせる轟に、具現化してみせた炎の剣で一閃―――。飛ぶ炎の斬撃に相まって生じる熱波が氷を一瞬にして溶かし、轟の真横の氷壁に斬撃が直撃する。
「こんな馬鹿の一つ覚えみたいに、片腕が無い俺を凍らせることできると思ってんのか?もっと本気を、全力を出して掛かって来い。半分の力で何でもできると思っているのか?もしもそう思っているならお前、心底馬鹿な奴だ。俺が全力で戦うまでもない」
あからさまに溜息を零し、炎の剣を消した一誠はその場で寝転がり始めた。
「断言しよう。俺はこの状態のままお前に手を触れることも無く勝つぞ。全力で来ないなら、俺自身もハンデを課せなくちゃ試合は盛り上がらないだろ。俺にとってはこの試合、体育祭はゲームみたいなものだからな」
「っ・・・・・何の・・・・・つもりだ」
「言っただろう。俺にとってはこれはゲームに過ぎない。お前もそう思っているんだろう?全力も出さないで優勝できるって思っている時点で大した障害でもないとも感じているはずだ」
邪な笑みを浮かべる一誠に轟から感じる雰囲気が変わり始めた。
「なら、本気も全力も出さないで勝てるお前は―――雄英に来てまで己が成りたい自分にすらなれない三流のヒーローになるだけだ。実力の意味で無く心、精神面的な意味でな」
「―――っ」
轟の中で何かが、胸の奥深くから形容し難いものが湧き上がる。
「轟、お前はどんなヒーローになりたくて雄英に来たんだ?」
「うるせえ・・・・・」
氷を迸らせても寝転がる一誠の前では届かず、口から吐く灼熱の炎で溶かされるだけでなく轟の方まで迫り横へかわしても、バスケットボール並みの大きさの複数の火炎球が追撃する。
「―――そういや、お前の父親ってナンバー2のヒーローだったっけ」
いきなり家族のことを指摘する一誠。
「父親の個性も引き継いでいるはずだけど、父親の個性を使わないでいるお前を見れば何となく察するよ。仲、悪いんじゃないか?」
だったらなんだ、そう思いを抱きながら追尾ミサイルのように追ってくる火炎球の対処する轟の耳に届く言葉。
「お前の家庭の事情も心境も知らないけど、敢えて言わせてもらう。仲が悪いから個性を使わないなんて子供じみた意地を張るのは止めておけ。お前の力でお前自身だろうが」
「っ!」
「お前はお前だ轟。嫌悪する力を引き継いでいるからってその個性はお前自身のものだ。それがこの先も、今後ヒーローになっても自分の可能性を否定し拒み続ける気でいるお前はとんでもないミスを犯す。それがお前がなりたかったヒーローになれるのか?」
複数の火炎球が轟を囲うや否や、急激に膨張して大爆発を起こした。
「否、成れんよ轟。お前はもっと前に進むべきだ。例え嫌な力でも使わないで後悔するぐらいなら使って後悔してでも前へ進め。そうすれば、お前自身がなりたいヒーローになれる」
上着が殆どボロボロで上半身が裸になっている轟の姿を視界に入れる。まだ心が折れず死んでいない目の轟に叫ぶ。
「本当に成りたいヒーローを心から目指しているなら、全力で前に進んで来いっ!子供の頃、ヒーローに憧れた時の事を忘れてなきゃな!」
その言葉で轟は昔のことを思い出してしまった。ヒーローに憧れた瞬間の時を・・・・・。
一誠の言葉が轟に思い出させてしまった。いつの間にか、忘れてしまった己がヒーローになりたいあの時の気持ちを・・・・・。それは感情となり抑えきれないほど溢れ返り、決壊した。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!
目の前で突如として燃え盛る炎が一誠を照らす。ステージに残っている氷を全て溶かすほどの熱が周囲に迸るほど燃える炎を・・・・・轟は使った。
「・・・・・ちくしょう・・・・・てめえ、フザけるなよ・・・・・」
半身が炎に包まれる轟が涙目になって横になっている一誠を睨むように見つめる。その時、轟の名を呼び歓喜極まった声で話しかけてくる男性の声が聞こえるが轟は振り向きもせず真っ直ぐ一誠に視線を向けたままだった。
「そんな姿勢で俺に説教なんて・・・・・フザけるなって話しだ・・・・・」
「ははっ。それは悪かったな」
軽やかに立ち上がり、歓喜の笑みを浮かべる一誠は深く轟に対して謝罪の念が籠ったお辞儀をした。
「本当に悪かった。今までの言動を全て撤回と―――こっから本気で戦うことで謝罪の了承をしてほしい」
そう発した一誠から・・・・・形容し難いプレッシャーをピリピリと肌に突き刺さる感じを轟は覚える。スタジアムも不自然なほど静まり返り、二人の戦いを見守る姿勢でいた一同は突如発生した膨大な真紅色のオーラが、一誠を包む現象に目を張った。そのオーラは凶暴で獰猛そうなドラゴンの顔が蜃気楼、もしくは幻を見ているかのように具現化し咆哮をあげた。
「行くぞ」
姿勢を低くしたままとびかかる一誠の行動は相手の考える暇も与えられない。腕がない肩から具現化するドラゴンを突き付ける一誠から横に避ける。先ほどまでいた場所がドラゴンの顔で粉砕していることに、幻ではなく現実―――物理攻撃が可能なものだと認知して右足から氷を走らせた。氷結攻撃にその場で跳躍しながらドラゴンの口から灼熱の炎を吐き、轟の氷結を一瞬にして蒸発する。今度はこっちの番だと言わんばかり一誠はドラゴンの口内から氷結を吹かせる。
「くっ・・・・・!」
左の炎の個性で対応するが一誠が放つ氷結の威力が勝ってたちまち炎ごと轟の下半身を凍らせた。
「悪いな。レベルが違いすぎた」
ドラゴンの開いた顎を突き付けながら言う一誠と静かに敗北を認める轟。
この瞬間、雄英高等学校の体育祭の全ての試合が終わったことで表彰式が始まり、優勝者は一誠、二位は轟、三位は四人とオールマイトからメダル授与がされたその日の放課後。
「兵藤お前は色々とやり過ぎだ。次は言動を控えるように自重しろよ」
「了解、気持ちは変えるつもりはないけどな」
「それと、あいつらの修行の結果は自分でどう思っている」
「発揮できなかった奴もいればそうでもない奴もいるが、しないよりはマシだったとそう思ってる」
「そうか。俺からすれば上々だと思っているぞ。特に緑谷は著しく個性の扱いも含めて成長した。異世界で得た経験と体験を糧にしたお前の指導力が良かったんだろう」
「同時にあいつ等の頑張りもなければ成長もしなかった話だけどね」
相澤と話しを切り上げて職員室を後にし、教室に戻った一誠にまだ教室に残っていたお茶子達が反応した。
「あ、一誠君」
「なんだ、まだ帰ってなかったのか?合鍵持たせているのに」
「何言ってんだよ。お前も一緒に帰らなきゃあの地下室に行けねーじゃねーか」
「地下室って切島・・・・・何言っているんだ。俺がお前達を体育祭まで修行をつける約束も果たした。俺からもう鍛えてやることなんて・・・・・」
「―――いえ、まだですわ」
百がズイと近づき、顔を覗き込むようにして追求する。
「拳藤さんのような空に浮く技法は、修行すれば習得できるものだと知りました。今度はその修行をしたいのです」
「したいって・・・・・明日明後日の休みを利用して修行しても直ぐに習得できるもんじゃないって。それ以前にお茶子以外のお前達は俺の家に泊まり込みで修行していたんだからそろそろ家に帰って親に顔を見せてやれよ」
やれやれ、と八百万達に呆れる。
「お前らも今日は自分の家に帰れ。また家に来たかったら明日にでもすればいい。今日は家族がいるお前らの帰りを待っているんだからな」
最もなことを指摘を受ける八百万達はその後、一誠の家に置いてある荷物を片手にそれぞれの家へと戻ったことでお茶子と二人きりの空間となった。
「静かになったねー」
「ムードメーカーっぽい切島の大騒ぎが主に賑やかさを湧かせてくれやがったからな。それに便乗して騒ぐ芦戸に常闇はいつも騒々しいだの五月蠅いだのと言ってアップルパイを食べるし、峰田は隙あらば風呂を覗きに行こうとして女子共と・・・・・もう、口で言うと多過ぎて大変だ」
「あはっ、そうやねー。でも、合宿みたいで色々と賑やかで好きだよ私」
ソファで隣に座りあってくつろぎ、体育祭まで修行した期間を振り返り、思い出しながら麗かに笑みを浮かべるお茶子。
「一人暮らしだとあんな楽しいの感じることは無い」
「うん、そうだね!」
(ま、俺もあんな馬鹿騒ぎにはしゃぐなんてキャラじゃないから暇を感じさせるだろうがな)
自嘲気味に苦笑を浮かべる一誠は静かに暮らすことを好ましく思っている。まるで映画を見ている感じに楽しい光景を見つめ見守るように楽しんでだ。
「そう言えば相澤先生が言ってたプロから指名ってなんやろうね一誠君」
「さあな。大方、体育祭に足を運んだプロヒーロー達がお茶子達の活躍を見て指名したいって思っているからじゃないか?本格的にじゃないだろうけど、まだヒーローの卵たるお茶子達を直で見て今後どう成長するのか自分の目で確認する意味も兼ねて」
「おおっ。じゃあ、一誠君も指名されるよね。なんたって轟君と一位タイだもん」
「・・・・・どうかな。あの場で堂々とヒーローの存在意義を語ったから指名されるかどうかわからん」
「大丈夫だよ!一誠君を指名するプロヒーローはいるよ!きっと!」
真っ直ぐ一誠に目を向け、どこからその根拠があるのかわからないのに自信に満ちた表情を顔に出すお茶子。
「頑張ろう一誠君!目指せプロヒーロー!」
「・・・・・おう」