俺のヒーローアカデミア   作:ダーク・シリウス

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職場体験

「―――――っ」

 

歩く足を止め、向かう先とは真逆の方向へ身体と意識を向ける。

 

「兵藤・・・・・?」

 

ふいに足を止めた俺に轟が声を掛ける。

 

(この気配・・・・・ヒーロー殺し以外にも黒霧に・・・・・もう一人、あの時の主犯もこの街に現れたか)

 

「ヒーロー殺しを見つけたのか?」

 

エンデヴァーが俺に問いかけてくる。嘘吐いてもしょうがないから肯定と首を振ろうとした次の瞬間。

爆発する轟音と人々の引き裂くような悲鳴が飛び交い始めた。

 

「事件!?」

 

「エンデヴァーさん!」

 

「分かってる!」

 

個より全に意識を変えるエンデヴァーが現場へ駈け出す。

 

「兵藤、焦凍!事件だついてこい。ヒーローというものを見せてやる!」

 

己の雄姿を見せ付け、己の背を見て追わせようと魂胆のエンデヴァーの考えは、俺と轟の携帯に受信したメールで覆させられる。お互い顔を見合わせた。

 

「行って来い。俺は後から向かう」

 

「・・・・・分かった」

 

轟は踵返して走り去っていく。

 

「どこ行くんだ焦凍!!!!」

 

プロヒーローから事件の真っ只中に独断で行動する息子に叫ぶエンデヴァー。

 

「江向通り4-2-10の細道。そっちが済むか手の空いたプロがいたら応援頼む。お前ならすぐ解決できんだろ。―――友達がピンチかもしれねえ」

 

それだけ言って俺達から離れる轟をエンデヴァーはただ見つめるだけだった。

 

(ヴィラン)はヒーロー殺し以外この近くに三人もいるぞエンデヴァーさん」

 

「・・・・・分かってる。お前だけでもついてこい」

 

相棒(サイドキック)にも指示を下し、二手に分かれて街中で暴れている(ヴィラン)の元へと駆ける。

それから騒然と化している場所へ辿り着くや否や、エンデンヴァーがいきなり炎を放った。

 

「・・・・・あの老人、ヒーローか」

 

全身火傷を負っただろう(ヴィラン)はどこか見覚えのある。脳が剥き出し―――いや、もうあいつ等の仕業なのだろう。

 

「ほう、虚仮威しの低温とはいえ意識を保ったままでいられるのは初めてだな」

 

感心したように喋るエンデンヴァー。あんた、もしかして今まで(ヴィラン)に出会いがしら炎をぶっ放しているのかよ。

 

「あんた気を付けろ。こいつは・・・・・!」

 

コスチュームを着た老人が警告すると(ヴィラン)の全身から発する煙が吸い込まれていき、その後は一気にエンデンヴァーが放った炎を放出した。

 

「なるほど、"吸収・放出"か。だがダメージ有りとは・・・・ザコ"個性"じゃないか!」

 

放出された炎を振り払いながら嘲笑するエンデンヴァー。しかし、老人は察していた。

 

「・・・・・!違うぞ轟。こいつ"個性"を複数持ってる!」

 

細身から一気に膨張したように顔以外膨らんだ(ヴィラン)は、また細身に戻ったと同時にこっちへ跳躍してきた最中。口から触手のような物を吐きだしそれが膨らんだ。

 

「エンデンヴァーさん、今度は俺もいい?」

 

「好きにしろ」

 

―――右目の眼帯を取り外し、濡羽色の瞳に黒い魔方陣を展開した俺は呟く。

 

「出ろ、ニーズヘッグ」

 

両開きに開く魔方陣から黒い巨大な化物が出て来ては、

 

《グヘヘヘッ!い、いっただきまーす!》

 

その凶悪で大きな顎を開いて(ヴィラン)を丸呑みにし、咀嚼する。

 

「なんじゃ、その"個性"は・・・・・!?」

 

「喰い殺した・・・・・意思があるようだな」

 

驚く二人を他所にニーズヘッグは俺に問うてくる。

 

《こ、こいつらも食べていいかぁ?》

 

「駄目に決まってるだろう」

 

老人が話しかけてくる。その目は明らかに警戒している。

 

「お前、兵藤一誠だな」

 

「そういうあなたは?」

 

「俺はグラントリノだ。お前を指名したんだがな。轟、エンデンヴァーのところに行ってたか」

 

―――グラントリノ。この老人がオールマイトの師・・・・・!

 

「へぇ・・・・・」

 

「なんだ?」

 

「いや、想像していたのと大分かけ離れてると思って・・・・・」

 

予想図としてスケッチブックに描いていたオールマイトの師の人物像を見せたところ、

 

「俺はこんなムキムキマッチョではない!」

 

顔面を蹴られそうになったので片手で受け止める。

 

「ところで緑谷は?あなたのところにいるはずじゃあ」

 

「ああ、新幹線にいるはずだ」

 

「・・・・・んん?・・・・・クラスメート等とヒーロー殺しと相対しているようだけど・・・・・」

 

気を探知すると、二人以外にも轟と飯田までもがいる。見知らぬ気も感じるけど生きているから問題なさそうだ。

 

「なんだとっ!?場所はどこだ!」

 

「江向通り4-2-10の細道」

 

教えるとグラントリノはバッと緑谷達がいる場所へと走って行くのだった。

 

「エンデヴァーさん。俺らもヒーロー殺しのところに行く?」

 

「・・・・・まだ(ヴィラン)はいるんだ。そちらの方へ対処しに行く」

 

「そっか。んじゃ、こっから別行動させてもらうよ」

 

ニーズヘッグの頭部へ跳躍して乗っかる。エンデヴァーの声を無視してある場所へ向かう―――。

 

「何時までも高みの見物、傍観者気取りでいられると思うなよ」

 

 

 

ステインを保須市に戻した黒霧に死柄木弔は騒然と化して阿鼻叫喚の街を眺めているところ、黒い巨大な生物が真っ直ぐ大きく口を開けながら襲いかかって来る。かわすと同時に凄まじい衝撃が全身へ伝わり、別の建物の中へと吹っ飛ぶ。後に一誠も建物の中に入り、死柄木弔の前に佇む。

 

「―――ここがお前の野望の終幕としよう」

 

「兵藤一誠・・・・・っ」

 

「こいつも捕まえたしな」

 

ドサリッと鎖でがんじがらめに拘束されてる黒霧を床に置いた一誠の肉体から禍々しいオーラが放出する。

 

「出入り口も確保したしヒーロー殺しのような神出鬼没みたいなこともできんだろう。詰みだ死柄木弔。お前を捕まえれば少しは平和になるだろう」

 

露出している肌に刺青のような黒い紋様が浮かび、真紅の髪が黒髪へとなり、手が異形の手と変化している。腰辺りに黒い尻尾を生やし背中から三対六枚の紋様状の翼がある目の前の存在を死柄木弔は視認した。

 

「なんなんだよォお前はァ・・・・・っ!」

 

黒霧を奪還してこの場から逃げようと考えの死柄木弔は一誠に飛び掛かる。しかし、伸ばす両腕が相手に触れることは敵わず、顔面を鷲掴みにされコンクリートの床に後頭部から叩きつけられると同時。まるで風船のように空気が抜けていく例えをすれば、全身の力=体力が一気に無くなっていく感覚と同じように。

 

「俺に見つかった時点でこうなる運命(さだめ)だった。だから捕まる(こうなる)

 

死柄木弔は指先すら動かせないほど体力を奪われてしまった。―――だが、その直前。死柄木弔は刹那の中で体力を奪われる前、一誠の腕を掴み二本目の腕を奪ってみせたのだった。肩にまで形を崩す腕が手を放した死柄木弔によってそれ以上の崩壊の進行は食い止まる。

 

「・・・・・」

 

歪め穴を広げた空間から無数の鎖が飛び出し黒霧のように拘束されると魔力で二人を浮かす一誠は外で待機しているニーズヘッグの頭部に乗る。

 

「行くぞ」

 

《それ、食べていい?》

 

「駄目だからな」

 

一つの決着が一矢報いられようとも終わった頃、緑谷達の方も終わりを迎えようとしていた。

 

「正さねば―――――・・・・・・誰かが・・・・・血に染まらねば・・・・・!」

 

一誠と別行動をしていたエンデヴァーも緑谷達と合流を果たし、一同ヒーロー殺しから伝わる形容し難い何かに気圧された。

 

英雄(ヒーロー)を取り戻さねば!」

 

誰もがその顔に緊張と畏怖の念を顔に浮かべている。ヒーロー殺しが前に進む度に皆、足を後ろへ動かしてしまう。それほどまでヒーロー殺しから感じる何かに・・・・・恐れ戦いている。

 

「来い。来てみろ贋物ども」

 

ヒーロー殺しは最後まで我を貫いた。

 

「俺を殺していいのは本物の英雄(オールマイト)だけだ!」

 

後に気絶するヒーロー殺しからしばらく経っても目を離せないでいる。

 

「・・・・・まだ武器を隠し持っていたのか」

 

「危なかった・・・・・。それで完全に油断していたぼーーー俺達に襲い掛かってきたら」

 

「最悪、殺られていたかも・・・・・」

 

相棒(サイドキック)達がヒーロー殺しを再び拘束する様子を見ながら違った未来を想像しては、動悸がいつもよりうるさく聞こえる心臓に手を添える緑谷。

 

「む、おい轟。兵藤の坊主はどこだ。一緒だったろう」

 

「・・・・・別行動だ」

 

「まったく、今時の若者は団体行動ができない上に大人の俺達の指示にも従えんのか!」

 

プンプスカと怒るグラントリノの発言は、背を向けて萎縮する今時の若者の三人にも向けられている。事実、三人とも独断行動をしたからだ。

 

「エンデヴァーさん。拘束終わりました。警察も直ぐに―――」

 

相棒(サイドキック)からの言葉は不意に止まった。江向通りに影が差したからだ。一同が上を見上げると蛇のような巨大な胴体に翼を生やす化物が光を遮断する。

 

「な、なにアレ・・・・・っ!?」

 

「あれは・・・・・っ」

 

周囲の建造物を踏みつぶしながら降下する化物の頭部に視線を向けると、隻腕だったはずの少年がもう片方の腕も無い出立ちで、鎖で拘束した二人の(ヴィラン)を蹴り落としながら現れた。

 

「やっぱり、緑谷と飯田もこの街にいたか」

 

「「兵藤君っ!?」」

 

化物を従えて現れる一誠に驚く。そして拘束された(ヴィラン)を見て更に驚く。

 

「兵藤、その二人は確か・・・・・」

 

「ああ、高みの見物してたから捕まえた。代わりに腕を代償となってしまった。が、さほど問題じゃない」

 

胸から出てくる一つの装飾と意匠が凝った杯から眩く発光する。その光は腕のない肩に照らせば、見る見るうちに再生して元の隻腕と戻った。

 

「再生した?なんだ、その杯は」

 

「これが俺がオールマイトの養子となった原因の一つだ。『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』って、今見たとおり人体の再生ができる他、対象の強化や弱点を無くしたり人間から違う存在に変えたりとか―――死者も甦らすことができる生命の理を覆す"個性"なんだ」

 

『―――――っ!?』

 

「「・・・・・っ」」

 

ヒーローだけでなく死柄木弔や黒霧も注目するほどの希少の"個性"。胸の中に沈む聖杯から意識を脳が剥き出しな死んでいる者へと変える。

 

「切り傷・・・・・?ヒーロー殺しが殺したんかな。まあ、どうでもいいか。ニーズヘッグ、喰ってもいいぞ」

 

喰う?何を言って・・・・・と思っていた矢先、一誠が死体を蹴り飛ばし、ニーズヘッグと呼ばれた化物が嬉しそうに腐臭や悪臭とやら漂わせる唾液を大きく開けた口から零しながらバクンッとバキッ、ゴキッ、グチャッ―――緑谷達の前で生々しい音を立たせながら喰らい始めたのだった。

 

「お、お前・・・・・何しているんだっ!?」

 

「何って、死んでるんだ。(ヴィラン)の死体の処理なんて高が知れてるからこっちで処理しているだけだ」

 

《な、なぁっ。コイツ等も食べていいか?食べていいか?》

 

まだ食べ足りないのかニーズヘッグはダラダラと唾液を垂れ流し、獲物を見る目でゆっくりと緑谷達へ近づく。

それを心底呆れる顔で首を横に振る。

 

「駄目に決まってるだろう。まったくこの食いしん暴龍が」

 

警戒の色を隠さずグラントリノは厳しい目付きで一誠に話しかける。

 

「・・・・・死者蘇生っつう"希少な個性"の上にとんでもねぇ"個性"をもっているから俊―――オールマイトがお前を養子にしたってことか」

 

「そう警戒しなくても敵味方の区別ぐらいできるぞ俺は」

 

(ヴィラン)とはいえ、人間を躊躇も無く喰わせたんだ。お前の思考が危ういとオールマイトも感じたんだろう」

 

「そこはオールマイトも知らないさ。それに喰わせる相手を分別する。特に、俺の友人とか大切な存在に牙を剥く(ヴィラン)とかな」

 

一誠の視線は死柄木弔と黒霧に向く。

 

「お前らもドラゴンに喰われたいか?後で甦らすからさ」

 

「兵藤一誠・・・・・貴方は(ヴィラン)に向いているのでは」

 

「はっはっはっ。そうだろうな。俺の"個性"はどっちかつーと、(ヴィラン)向きの方が多い。それに俺はその昔、ある復讐を成就するために(ヴィラン)になったこともある。だからお前らの気持ちはそれなりに理解できる方だ」

 

意外な事実と一誠の過去に言葉を失う。

 

「光があるところに闇がある。逆も然り―――。でも、闇がなければ光なんて存在しない。故に闇もまた正義のヒーローと同じぐらいなくてはならない存在。だから悪も主人公のような存在、ダ-クヒーローだ。じゃなきゃ、この世界は何時まで経っても平和だったし、ヒーローなんて概念すらなかったんだからな」

 

光を肯定し闇も肯定する。

 

「オールマイトという平和の象徴も誕生しなかった。ヒーロー殺しも存在しなかった。正義と悪、光と闇は表裏一体。対立し合いながらも魅かれ合う。互いが互いを必要とするからだ」

 

そして一誠はヒーロー殺しステインに目を向ける。

 

「不謹慎だけど。俺はヒーロー殺しの気持ちはよく理解できる。俺も今のヒーローの在り方に疑問を抱いているからな。やり方は間違ってるけど思想は嫌いじゃない。だから個人的にこう言わせてもらう」

 

 

ヒーロー殺しは最初のダークヒーローだ。

 

 

その一部始終が(ヴィラン)名ヒーロー殺しステイン。本名『赤黒血染』の動画と共にネットやテレビの世界で話題となる。

 

 

「―――闇も主人公、ダークヒーローか」

 

「―――オールマイトの養子、なかなかどうして。言ってくれるじゃねぇか」

 

「―――第二のダークヒーローになるのはこの俺だ」

 

 

「・・・・・面白い子じゃないかドクター」

 

「面白い以前にどうする。先生が育てた教え子が捕まってしまったじゃないか」

 

「そうだね。オールマイトの養子をこちら側に引き込みたいところだけどまずは弔の救出を専念しよう」

 

「今頃監獄の中じゃろうて。今の先生の体ではとてもではないが不可能に近いだろう」

 

「なに、やりようはある。全て利用して救いだすさ」

 

バラバラだった悪意が一つの熱にあてられ、一人の少年の言葉に感銘を受け集おうとし、魔の手がゆっくりとであるが伸び始める。

 

 

「Oh、死者蘇生の"個性"か・・・・・それが本当ならば・・・・・」

 

「生命の理を覆す―――不老不死も夢ではないのかもしれんな」

 

「まさに神が与えた奇跡の"個性"。かの"個性"はまさしく我々の為に・・・・・」

 

世界もまた様々な思惑で一誠に注目するようになるのは時間の問題だった。

 

 

それから一夜明け―――保須総合病院。

 

「人の事は言えないがお前ら・・・・・よくとまあヒーロー殺し相手にその程度の傷で無事だったな」

 

緑のオーラを放ちながら緑谷の怪我を癒しながら話し合う。

 

「・・・・・兵藤君。腕を再生できるならその腕も再生できるんじゃ?」

 

「ああ、できるな。敢えてしないでいるだけだし」

 

「どうして?」問われ、俺は腕のない肩を触れる。

 

「単なる自分に対しての戒めさ。ヒーローになるまでは再生するつもりはない」

 

「・・・・・お前、昨日あんだけな事をしてどうして自分に対して厳しいんだ」

 

「お前らが俺の事を知らないだけだろう。俺は元々昔からこうなんだ。戦いに関してたまに冷酷で非情になる時もある」

 

そう、お前らは俺の事を知らないだけだ。知っていれば反応も違っているかもしれない。ただそれだけだ。

 

「言動が(ヴィラン)みてーなのは爆豪だけかと思っていたが、お前もお前でおっかない奴だな」

 

「敵に対して情けを掛ける必要あるか?殺しても誰も文句ないだろう」

 

「殺っ・・・・・兵藤君!君はなんて事をさらっと言うんだい!殺人は犯罪だ!」

 

「そ、そうだよっ。ヒーローが人を殺しちゃいけないよ・・・・・!」

 

俺はニヒルに言った。

 

「大丈夫、バレなきゃ問題ない」

 

「「大問題だぁっー!?」」「・・・・・爆豪の方が可愛いく思ってきたぞ」等々、三人から言われると病室の扉が開く。

 

「おおォ、起きてるな怪我人共!」

 

「グラントリノ!」

 

「マニュアルさん・・・・・!」

 

「その怪我人はたったいま癒したから今すぐ退院できる―――」

 

とそこまで言い掛けた俺は口を止めざるを得なかった。その理由は三人目の人物を見たからだ。

その間グラントリノは緑谷達に話しかけている。

 

「凄いグチグチ言いたい・・・・・が。その前に来客だぜ」

 

「「「?」」」

 

そいつは・・・・・犬だった。

 

「保須警察署署長の面構犬嗣さんだ」

 

「面構!!署・・・・・署長!?」

 

「掛けたままで結構だワン」

 

「い、犬・・・・・こいつも人間なのか・・・・・?」

 

「兵藤、なに心底驚いているんだ」

 

顔がリアルに犬そのもので、ガタイのいい体にスーツを着ている署長・・・・・。駄目だ、人間として見受けれない・・・・・っ。

 

「君達がヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね」

 

この瞬間、緑谷達に話しがあって来たのだと察し、隅で窺うことにした。

 

「ヒーロー殺しだが・・・・・火傷に骨折と中々の重傷で現在治療中だワン」

 

それはこの三人が戦って負傷した末なんだろう。緑谷達はそれを事実として受け入れている様子だった。

 

「超常黎明期・・・・・警察は統率と規格を重要視し"個性"を"武"に用いない事とした。そしてヒーローはその"穴"を埋める形で台頭してきた職だワン」

 

ワン・・・・・。ジャーキーをあげたら喜ぶかな・・・・・。

 

「個人の武力行使・・・・・容易に人を殺められる力。本来なら糾弾されて然るべきこれらが公に認められているのは、先人達がモラルやルールをしっかり遵守してきたからなんだワン」

 

「・・・・・」

 

「資格未取得者が保護管理者の指示なく"個性"で危害を加えたこと。たとえ相手がヒーロー殺しであろうともこれは立派な規則違反だワン」

 

「「「!?」」」

 

「そして兵藤一誠君。君は捕まえるべき(ヴィラン)を個性で殺害した。遺体も餌として喰わせた」

 

あ、こっちにも矛先が向けられた。

 

「君達四人及びプロヒーローエンデヴァー、マニュアル、グラントリ。この七名には厳正な処分が下されなければならない」

 

署長の言い分はもっともだ。でも、納得できず異論と食って掛かる轟はそうと感じていなかった。

二人が動いてなければ三人目の犠牲者が出ていて、ヒーロー殺しの出現は誰も気付いてなかった。

それなのに署長は人の命よりも規則が大事なのかと珍しく轟は熱くなっていた。

 

「―――――人をっ、助けるのがヒーローの仕事だろっ・・・・・!」

 

「・・・・・」

 

轟の意見を真っ直ぐ受け止め静かに見つめる署長は、呆れた風に言い返した。

 

「だから・・・・・君は"卵"だまったく・・・・・良い教育してるワンね。雄英も・・・・・エンデヴァーも」

 

「っ、この犬―――!」

 

「やめたまえ!もっともな話しだ!」

 

苛立ちを覚える轟を制する飯田の二人に小さく小柄な手で「まァ、話しは最後まで聞け」と制するグラントリノ。

 

「以上が―――警察としての意見」

 

「「「!?」」」

 

「で、処分云々はあくまで公表すればの話しだワン」

 

公表すれば・・・・・。署長の意図を察するに十分だった。

 

「・・・・・ああ、なるほど。署長なのに腹黒いことを・・・・・」

 

「え、どういうこと・・・・・?」

 

「さっき俺が言っただろうバレなきゃ問題ないって。この署長は今回の一件を闇に葬ろうとしているんだ。幸い、あの場にいたのは俺達ヒーローと学生だ。公表しない限り規則違反をした俺達は誰にも知られることも無い上に、プロヒーロー達が尽力な行動で昨日の騒動の主犯達を捕えたことにすれば世間はそう認識する。つまり、規則違反した件に関してはバレないってわけだ」

 

そうだろう?と署長へ意味深に視線を送ると静かに首を縦に振った。

 

「その通りだワン。だから君達の英断と功績も誰にも知られることはない」

 

署長は親指を立てる。

 

「どっちがいい!?一人の人間としては・・・・・前途ある若者の"偉大なる過ち"にケチをつけさせたくないんだワン!」

 

「まァどの道監督不行届きで俺らは責任取らないとだしな」

 

俺達に対する処罰は無いものの、保護者たるプロヒーロー達は責任を負わなければならない。

飯田はその責任を深く、重く感じて頭を下げた。

 

「申し訳ございません・・・・・」

 

「よし!他人に迷惑掛かる!分かったら二度とするなよ!」

 

緑谷と轟も謝罪と感謝の念を籠めて頭を下げた。そんな三人に署長も―――。

 

「大人のズルで君達が受けていたであろう称賛の声はなくなってしまうが・・・・・。せめて、共に平和を守る人間として・・・・・ありがとう!」

 

深く頭を下げたのだった。

 

「おい兵藤。お前こっち来い」

 

「?」

 

グラントリノに呼ばれ、病室から出る。小さな老人についていくと屋上まで来てしまった。

 

「お前、オールマイトの事どこまで知ってる」

 

「"個性"のことと、毛が生えた程度にあんたのこと。それぐらいかな」

 

「・・・・・そうか。じゃあ、緑谷出久を鍛えたのってのもお前なんだな」

 

「教育が素人なお義父さんから頼まれてね。アドバイスをしたんだ」

 

包み隠さず教えると、下から見上げるグラントリノの目は警戒の色を浮かべていた。

 

「お前は何者なんだ。オールマイトに近づいて何を考えている」

 

何を考えている・・・・・?・・・・・ふぅ。

 

「別に何も考えてないよ。右も左も分からない場所に放り込まれた俺に保護してくれたあの人に感謝しかない」

 

「んぁ?どういうことだ」

 

「・・・・・これは、オールマイトの師のあんただからこそ教えれる俺の秘密だ」

 

オールマイトと同じように俺の全てを打ち明ける。話しをする俺に対して心底驚いた表情を浮かべたグラントリノだった。

 

「・・・・・その話、でたらめだろ。異世界?んな違う世界から来たって証拠もあんのか」

 

「もう見せた筈なんだがな。それでも知りたいなら・・・・・」

 

徐に眼帯を外し、濡羽色の瞳をグラントリノに窺わせる。

 

「俺の中にいる家族と対話でもすればいいさ」

 

その後・・・・・グラントリノは俺の秘密を知る一人となった。

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