重い罪を犯した
それでもその監獄は設立以降何度か囚人の脱出を許してしまうことがある。理由は単純に不意や虚を突かれるか、油断している看守が襲われるという二つだ。
脱出を許してもそんな監獄に真正面から侵入しようと
―――――けたたましく鳴る監獄内。看守おろか囚人達が初めての異変に動揺する。
「これは一体何事だっ!?」
「は、はっ!侵入です!」
「侵入?この監獄に真正面から入って来たというのかっ!?一体何人だっ!」
「―――一人ですっ!鎧を着込んだ
「なんだとっ!?」
分厚く閉じられた扉に破壊された形跡も無い。そして監獄内に侵入をすれば看守達と鉢合わせするが、
「看守と警備は一体何をしているのだっ!」
「そ、それが・・・・・」
件の鎧の
「馬鹿な・・・・・こんなことが・・・・・有り得るのかっ・・・・・?」
監視カメラからの映像に看守長は動揺と愕然で目を疑う。警備システムの一つ、マシンガンの射撃が作動していないあたり、そこも占拠されたのだと認識せざるを得ない。前代未聞の監獄内に起きた騒動・事件となるのは間違いない。
(手引きしたというのか。元々あの鎧の
否、同僚と部下達がそんな者達ではないことを首を振って否定する。何らかの"個性"に操られているのだと認識し、監視室から通達する。
「警備隊や看守全員!武装し、鎧の
(丸聞こえだな)
鎧の
「・・・・・ここか」
一つの部屋に辿り着き、中を覗き込むと。顔に包帯が巻かれ、首以外拘束されている―――ヒーロー殺しステインがいた。無造作に扉を破壊して中に入る。
「・・・・・誰だ」
「・・・・・」
一誠は返答しない。拘束具を解き、肩に担ぐと別の部屋に移動して扉を破壊しては看守達に拘束具を解かせる。
中にいたのは黒霧だった。
「これは一体・・・・・あなたは・・・・・」
無言で部屋を後にすると最後の部屋とばかり看守と警備の者達が待っていた。その部屋も破壊して中に入ると入って来た一誠に睨みつける―――死柄木弔。
「なんだお前・・・・・」
拘束具を解かれ、解放された囚人達三名は自分達を解放した鎧の
「あなたは私達の味方なのですか?」
「・・・・・」
無言を貫く一誠は廊下の向こうから来る武装した面々へ視線を向ける。
「まずいっ!最近監獄入りした犯罪者達が解放されてるぞ!」
「脱獄される前に催眠弾を撃てっ!」
黒霧が動こうとするが、一誠が横薙ぎに振られる腕から生じる視覚化できる黒い風で周囲を抉るように削った。
看守達の手前でそれが止まるが、その威力にゾッと顔を青褪める。
そして動きを硬直させた面々相手に・・・・・。
「ここで話しをするより我々のアジトでしましょう。是非ともお礼をしたいので」
空間を別の空間へつなげる黒霧は自分諸共、三人を包みこみ監獄内から脱走したのだった。
(・・・・・一誠君)
リビングキッチンで静寂に包まれながら待ち人を想っている少女。あれから時が過ぎているが無事にクラスメートとその両親を救えただろうか。何も分からないまま時間だけが経過して・・・・・電話機が鳴り出した。一誠だろうか?と淡い期待の希望を抱き、電話機に近づいて受話器を手にした。
「はい・・・・・」
『麗日か。相澤だ』
「―――――」
相澤消太。担任の先生だった。
「どうしたん先生?」
『もう知っているだろうが、八百万と耳朗がご両親と
「・・・・・はい」
『そこに兵藤はいるか?』
相澤からの質問の返答に躊躇する。受話器越しで口を閉ざすお茶子に相澤は不審に思い再度問うた。
『どうした。兵藤はいないのか?』
この瞬間思った。―――言ってしまった方がいいのではないか?相手が脅して一誠を動かしていることを。だが、一誠はそれを良しとはしなかった。でも、これは間違っている行いだったとしても一誠は誰かの為に助けているのだ。
『・・・・・麗日?』
(ごめん、一誠君・・・・・)
―――
「・・・・・相澤先生、実は・・・・・」
お茶子は今までの経緯を相澤に話してしまった頃・・・・・。
一誠は黒霧のワープによってアジトに連れて来られていた。
「どなたか存じませんが我々をあの場から解放してくれてありがとうございます」
紳士的に感謝の言葉を告げる黒霧の目の前で鎧を解き、無表情の顔を窺わせる一誠が素顔を晒した。
「好きでやったわけじゃねぇよ」
「兵藤一誠っ・・・・・!?」
「はぁ・・・・・捕まえた奴をまたリリースするように逃がすなんて経験は初めてだよ」
バッ!と手を突き出す死柄木弔の手首に歪ませた空間から飛び出す鎖で能力を封じた。その後、死柄木弔の顔面を鷲掴みにして床に叩きつける。
「止めろ。死に急ぎたいならこの場で用件が終わった後でも殺す」
「用件・・・・・?我々を逃がす理由の他にもあるのですか」
「じゃなきゃ、お前らを逃がすようなことはしない」
一誠は周囲を見渡しながら虚空に向かって言う。
「おい、要望通りに三人を監獄から出した。今度はお前が約束を果たす番だ」
「てめぇ・・・・・何言って・・・・・」
『―――ごくろう!あの監獄から弔達を脱獄させるとは流石はオールマイトの養子だ』
死柄木弔の声を遮るように、テレビから音声が聞こえた。その声の人物に死柄木弔と黒霧が反応を示した。
「先生?貴方が彼を?」
『そうだ。君達を取り戻す為にちょっとした取引をね。ふふっ、やはり我々の側に来て弔の力となって欲しいものだ』
「・・・・・寝言は寝て言え。俺はクラスメートを助ける為に犯罪を犯しただけだ。さあ、どこに監禁しているか言え」
テレビの向こう側にいる相手に催促する。一誠の思いと行動を踏み躙るか、それとも焦らすか・・・・・相手次第だ。
『・・・・・そうだね。私の頼みは弔達の解放。それが完遂すればお友達とその両親の居場所を教える―――だったね。だが、教える前にもう一度問うよ。我々の仲間になる気はないかな?』
「断固拒否」
即答・・・・・。相手は苦笑いが籠った声を漏らした。
『仕方がない。黒霧・・・・・今から私が言う座標の地点に兵藤一誠をワープしてくれ』
「・・・・・危険では。兵藤一誠がまた我々を捕えかねません」
『私は君達を捕まえられることよりも今その場で殺されることを心配している。せっかく解放してもらってくれたのに殺されては元も子もない。だから彼の要望に応える必要がある。このまま人質を利用して味方になってもらっても弔達に何時か寝首を掻かれてしまう恐れもある』
先生と呼ばれているものは死柄木弔達の傍に置くことを危険視している気持ちを察する黒霧。
『だが、黒霧の考えも理解できる。―――私と誓約をしてくれないかな兵藤一誠。君自身がまた弔達を捕まえるようなことがあれば、私はまた今回のような同じ手を使わせてもらう。今度は命の危険性もある。しかも行動次第ではクラスメートだけでなく無関係な者達も巻き込んでしまうよ』
「・・・・・」
誓約どころか脅しではないか。心中、舌打ちをする一誠は無言で肯定した。
その頃―――人質にされてる耳朗達は大勢の
「君達!私達はどうなってもいいから娘だけでも解放してくれ!」
「頼む!」
脳が剥き出しな
「こちとらまだ後金貰ってねぇんダ。まダまダ解放するどころか逃がすこともしねぇダ」
「楽な仕事だぜ。ただラチればいいだけで大金を手に入るんだからよ」
「ああ、しかもこの脳無ってやつのおかげで警察やヒーローを蹴散らしてくれるんだ。今じゃあ俺達は最強の集団じゃねぇの!?」
鎮座する脳無を見つめ、ここに監禁される前までのことをもい返す耳朗達。
(強くしてもらっても、両親を盾にされては・・・・・っ)
(ウチらを誘拐して何を企んでいるんだ・・・・・)
金が目的なら一人だけでも効果的なのに一家丸ごと拉致・誘拐したこの
しかも脳無はUSJ襲撃事件の主犯、
「―――さーて。そろそろお楽しみタイムでも突入しようかぁ?」
数人の男が耳朗と八百万達に近づく。いやらしい笑みを浮かべ、欲情の色を孕んだ目から二人の体へ視線が注ぐ。
「なにをっ」
「決まってんだろ。お互い気持ちイイことをするんだよ」
「ヘヘッ、楽しもうぜぇ?当然抵抗したらどうなるかわかってんだろうな?」
魔の手が伸びるその手は確実に掴まれ無抵抗な二人の衣服を引き千切られた。
「―――っ!?」
刹那。八百万の脳裏にフラッシュバックする。全裸で拉致監禁された忌々しい記憶がここで甦ってしまったのだ。
「うひょー!やっぱ大きいな!」
「はぁー、こっちは貧乳だからつまらねぇな」
上半身裸にされた上に
気丈に振る舞おうとしてもまだ15の少女。心にトラウマを抱えてもおかしくない。
その上、鼻や吐息を荒くし、二人を肉としか見ていないその目で見られる耳朗と八百万は嫌悪を抱くに禁じ得ない。
「あの雄英のヒーロー科の女を滅茶苦茶にできるってんだ。興奮ものだぜ」
八百万の顎を掴んでは親指で唇を撫でるように触れる
「あんた等、絶対に酷い目に遭うよ」
「酷い目に?ここを未だに突き止められちゃいねぇ警察やヒーローにか?仮にここへ辿り付けられたとしても。この数とあの脳無にやられるだけだ」
絶対的な自信がこもった発言の他にも、そうなる未来になると顔にも確信した表情として浮かんでいた。
「それ、オールマイトでもそうだと言えんの?」
ヒーロー=オールマイトの存在をぶつける耳朗。
「っ」
耳朗の態度と発言に癪が触れたようだ。
「その生意気な女を黙らせてやれ!徹底的にだ!」
「耳朗さんっ!」
「お前は俺達の相手をして貰うぜ」
―――体を蹂躙される。その未来を悟った両親達は張り叫ばずにはいられない。
「そんじゃ、お楽しみタイム開始だ」
歓喜で上がる声。我先と二人の体に触れようと数多の手が伸びる。
成長してから肉親でも誰にも触れられてない身体を触れられつつ全裸にされた。
これから犯される自分を想像してしまい、目に涙を浮かべてしまう二人は真紅の髪を伸ばす少年の背を脳裏に浮かべる。二人の中で印象深く焼きついた恩人でもあり師匠でもある少年を・・・・・。
((助けて・・・・・!))
心中で叫んだ。同時に二人の純潔が汚らわしく散らされそうになった―――その直前。
倉庫の扉が吹き飛び、それが一同の意識を反らすのに十分だった。
「な、なんだっ!?」
叫ぶ
「耳朗、百。助けに来た」
一人の隻腕と隻眼の天使が立っている姿を映した。だが、ただの少年ではないことを瞬時で察した。
「オールマイトの養子・・・・・」
誰かが呟き、誰かがどよめき、誰かが狼狽する。歳と子供だけで判断すれば大した相手ではない。しかし、"個性"を考慮すれば―――危険極まりない。一人でやって来たとしてもここにいることを警察に通報したかもしれない。よって手段を選ばずにはいられない。
「そこで止まれ、動くな!てめぇの大事なクラスメートの命は無いぞ!」
耳朗を突き付け威す。少女を見て―――右目の眼帯を外した状態の一誠の両の瞳から感情の色が消え失せた。
「やってみろ」
「・・・・・は?」
「何を呆けてる?人質を殺してみろと言っているんだ」
躊躇も無く歩き始める一誠に
「人質を殺してその後・・・・・てめぇ等がどうなる運命になるのか分かっているなら―――殺してみろよ」
・・・・・なんだ、こいつは・・・・・。
「今度は俺がお前らを・・・・・」
―――――殺す―――――
逆に濃厚な殺気やら殺意やら放ってきてくるじゃないか。
「全員、地獄に行く覚悟があるんだろうな」
耳朗を人質にしている
「手を放せ」
たった1人の少年の睨みで怖じ気づき、思わず恐怖で耳朗から後退りする。少女に手を伸ばして胸に引き寄せる。
「よく頑張ったな。だけど、泣くのは後でな」
「一誠・・・・・」
一人の
「てめーら!相手はたったの一人のガキだぞ!こっちにゃ、人質や脳無もいて数でも勝ってんだ!なにビビってんだ!」
他の人質の存在こと二人の両親を捕まえている二人の脳無へ視線を向けた。不安と焦りで色塗られた顔の一般人達を見た一誠の足から轟のように地面が凍りながら走り出す。
対象は脳無。脳無がいるところまで氷は走り続け到達すると下半身を凍らせれば次は上半身と氷に閉じ込められる。耳朗と八百万の両親を掴む手だけは敢えて凍らせていない。
「次はお前らだ」
無から氷を作り出す。作り出された氷は海栗のような氷柱の塊。完全に氷結の"個性"を持っている轟を超えている一誠はミサイルの如く放って
―――殺す―――
有言実行の手前までしている一誠にようやく、とんでもない相手をしていると自覚する
「こんな状況下の中で助けたのはこれで二度目だな」
「・・・・・私の体を見られたのもそうですわ」
「責任を取れって?お前が後悔したり裏切ったりしなければ喜んで責任を受け取るぞ」
立たせてから耳朗と同じように翼で全身を包み、脳無に捕まっている両親の元へと足を運ぶ。
警察やヒーロー達が駆けつけたのはその32分後。雇われた
一誠がここに来たことを一誠自身が知られたくないと口止めを望んだからである。
その後、家に戻った一誠は安堵の表情をしたお茶子に出迎えられた。
「お帰りなさい。一誠君」
「ただいま、お茶子」
「―――お帰り一誠っ!」
いいムードを筋骨隆々マッチョがブチ壊しにした、何故かいるオールマイトに不思議と目を張る一誠。
「な、なんで・・・・・?」
「麗日少女から教えてくれてね。心配して来ちゃった」
なっ、と信じられないものを見る目でお茶子を見つめるその目に、申し訳なさそうな表情をするお茶子が映る。
「・・・・・教えたのか?」
「・・・・・本当は駄目なのはわかってたんたけど。でも・・・・・」
「・・・・・」
俯く少女をフォローするオールマイト。
「誰にでも言えない状況は確かにあるよ一誠。だけど、彼女は君のことを思って行動したんだ。そこ、わかってくれているよね君ならさ」
一誠は何も言わず、ただ呆れた風に息を漏らす。それから無造作に手を上げて・・・・・お茶子の頭に触れた。
「心配掛けたな」
「・・・・・怒って、ないの?」
「俺を怒らせることをしたのか?」
恐る恐るとお茶子の問いに一誠は優しく問いを返した。
「・・・・・わかんない。でも、私・・・・・」
「・・・・・取り敢えず、全部取り返して全部終わった。だけど、解決した訳じゃないがな」
「一誠、戻ってきて悪いけど私と一緒に学校に来てくれないか。校長に事情を説明して欲しいんだ」
「結局それかよ。心配なんて建前だと思ったぞ」
「無論心配はしてたさ!私のいないところで君はとんでもないことをするのだからな!」
「・・・・・否定できない」
「そして麗日少女も事情を説明して欲しい。一誠と一緒に学校へ来てもらわなければならないが」
オールマイトの言葉に一誠共々お茶子は頷き、その日の夜の内に雄英高等学校へ赴き校長の根津に経緯を報告をした。
「で、俺の処遇は?退学で逮捕か?」
「保留にさせてもらう。それがこの状況で一番適しているからね。君はやむを得ない状況下だったから仕方がないとはいえ、罪は罪だ。君の行動理由を知る者として今回のことは我々の間だけのことにしよう。幸い誰が彼等の脱獄に手を貸したのか極一部・・・・・」
「ヒーロー殺しと同じ対処か。今回ばかりは学校側にも迷惑を掛ける」
「迷惑なんて思っちゃないよ兵藤一誠。君は天秤を計った上でクラスメートだけでなくご両親も助けたんだ。これからも私達に力を貸して、生徒達を守ってほしい」
根津の恩情に感謝をこめて頭を下げた。
―――その後。
マスコミやメディア、報道陣等々で世間が雄英高等学校の生徒の誘拐について注目した。何者かによる通報で無事に保護できたが、頑なにそれを告白しようとせずにいる―――と新聞に載っていた。
1ーA
「お前ら大変だったな。
「なんか
件の二人に話し掛け、労いの言葉を送られている二人は力なく相槌を打ち、椅子を持参して一誠の傍で座った。
「ここ最近、アタシ達A組って
「そうね。これからも立て続けにそうなると心配だわ」
「だなー。お前はどうよ爆豪」
「くだらねー。ブッ殺すまでだ」
「「ブレないな。さすがはボンバーマン」」
「あ”あ”!?」
クラスメート達が少々不安に成りながらも相も変わらず賑やかを生じる他所に、
「一誠さん・・・・・少々お願いがありますの」
「ん?」
「ウチも・・・・・」
職員会議室―――。
「今回の一件・・・・・軽視していい事件ではない。生徒どころか一般人までもが巻きこみ、一度は捕まえた
重く静かな空間とピリピリと張り詰めた雰囲気で支配されている会議室。
「このまま何も対処せずにはいられない。私は今回の事件を省みて雄英を―――全寮制にしようと考えている」
彼の発言に少なからずざわめきが生じた。
「全寮制ですか?しかし、生徒達を守っても生徒の家族達が・・・・・」
「承知の上さ!ただ、少なくとも生徒の安全の確保だけでなくヒーローを目指す夢を、明るい未来を我々が守らなければならないんだ。それに今回のようなことがまた起きないとは限られない。早急に手を打たねば教師として、ヒーローとしても失格になる」
そう言われ、相澤達は真剣な表情を浮かべた。最後の〆とばかり根津は言った。
「動かねばならない。私達を本気で警戒させた