誘拐事件から早数日・・・・・。俺とお茶子の近辺にて状況は変化しようとしている。
今は土曜日で時刻はPM5:00過ぎだ。でも、だからこそできる物事があるのだ。それをお茶子と一緒に来るのを待ち構えている。
「そろそろだねー」
「それプラス、あいつらも来るんだからな何も知らずに」
ソファでのんびりと寛ぎその時を待っていた俺達の周囲は何も変わらない状況で保っている。静寂で支配されている空間は時が来れば騒々しくなる。その時は―――インターホンが鳴りだしたことで迎えた。来たねとお茶子が立ち上がって、俺も腰を上げて二人で玄関ホールへと赴く。来訪者の出迎えをする為に扉を開けると業者の制服を身に包んだ男性がいた。
「兵藤一誠さんですね?お荷物をお届に上がりました。ここにサインを」
「はいどうも。荷物はここに置いてください」
「かしこまりました」
名前をサインした紙を受け取った業者の人が踵返して玄関から離れて一拍後。数多くの段ボールを業者の人達が日々仕事で鍛えられた肉体で運んで来て玄関先に起き始める。それが十数分で終わり引っ越しの業者達はこの家を後にしたところで入れ違うように別の来訪者がやってきた。
「よう」
「おはよう!」
「おはよ二人とも・・・・・」
切島達よりも早くやってきたのは耳朗響香。段ボールの中身は彼女の私物ばかりだ。―――つまり、耳朗もこの家に住むという環境になったんだ。ただ、彼女だけではないがな。
「・・・・・ホント、ありがとう」
「ううん。これから一緒に住むんだから嬉しいよ。ね、一誠君」
肯定と首肯する。寧ろ、お前の両親がよく了承したなって想いが強い。まあ、あの事件の後だ。警戒するのも当然だろう。でも、まさか耳朗や彼女と一緒に同棲生活をすることになるとはなぁ・・・・・。
「一誠君?考え事?」
「ああ、事件の後。よく一人娘をクラスメートの家に同棲させるなんてなって思って」
「ウチがそうしたいって説得したんだよ」
靴を脱いで家の中に入って来る耳朗の目の下は若干隈ができてる。中々眠れないで夜を過ごしていたんだろう。
あの事件でトラウマになってもおかしくない。
「親も認めてくれたから後は一誠達が許してくれるかどうかだったんだけどね」
「来るものは拒まず去るものにはなんとやら・・・・・。拒否する理由はお茶子共々ないからな」
コクコクと首を縦に振るお茶子。
「だから歓迎の一点しかないんだよ」
「うん!」
「・・・・・ありがとう」
感謝の言葉を述べる耳朗の背後。一台のトラックがやってきた。再び引っ越し業者の人達がやって来たようだ。先に送り込まれた荷物は階段の方へ魔法で退かして、二度目の対応をしようとすると。今度は業者だけでなく依頼人までやってきていた。
「あ、八百万さん!」
「お邪魔しますわ」
「ん、荷物は一先ずこの辺りに置いてな」
「はい、お願いしますわ」
耳朗ともう一人、八百万百も俺の家に同棲することになった少女。今日からこの四人で一緒に住むことになったわけだがこの事、切島達は知らないままだ。
「さて、荷物が全部運んだ後だが。部屋は一階と二階どっちが良い?」
「一階」
「同じくですわ」
「あ、私と一誠君と同じ階だね」
だろうな。二人は敢えて俺達の傍の部屋がある階を選んだんだ。百の荷物は・・・・・。
「・・・・・百」
「はい?」
「・・・・・業者の人が物凄く困った様子で扉と荷物が引っ掛かってんぞ」
お嬢様故か。大きな荷物もあるらしく、入り切れない物までも持って来たらしい。
玄関先にいる引越しの業者さん達を見て申し訳なさそうに手助けを始める百であるが、大きさを超えた物ではどう足掻こうと入れないものは入れないのだ。仕方なく俺も手伝うことでようやく中に入れられることができた。
「申し訳ございませんでした」
「お嬢様やねー」
「これ、ベッド?」
しかも一度バラしているが天蓋付きのベッドだ。前の彼女の部屋はどんな風なのか想像はそう難しくない。
「よし、全部中に入れてもらったし始めるか。あいつ等が来たら先に行ってもらうとして」
「そうだねガンバロー!」
「よろしくお願いしますわ」
「よろしく」
って気合を入れ二人の部屋づくりをしようとした俺達だったが、インターホンの音が鳴りだすのだった。玄関の扉を開けてみれば案の定・・・・・一週間分の着替えやら道具やらを詰め込んだ鞄やリュックを持参した切島達がいた。
―――耳朗部屋―――
二人の引っ越しの理由と事情を追求させず、部屋づくりの手伝いをしてもらった。段ボールを漁りつつ出していくと部屋づくりを始めて数分もすれば耳朗響香という少女の趣味が明るみになって来る。
「うわー!色んな楽器が!」
「耳朗ちゃんロッキンガールなんだね!?これ全部弾けるの!?」
「まぁ一通りは」
箱から出てくる楽器関連の私物。友人に技能と持ち物を知られて気恥しく、照れる耳朗。八百万も感心していた。
「―――女っ気がない部屋になりそうだな」
「胸もチッパイだから色気もクソもねぇよ絶対」
上鳴と峰田がイヤホンジャックの餌食になって一時行動不能になってしまったがさておき、そこでお茶子がふと口にした。
「あれ?でも一誠君も色んな楽器を持ってるよね。しかもスタジアム付きの」
「「えっ?」」
「ああ、そうだな。殆ど修行で地上で過ごすことはあんまりないから他の部屋のことを教えてなかった」
耳朗の要望の定位置に楽器を置きながら肯定の言葉を口から漏らす。すると、意外そうに四つの眼から感じる視線・・・・・。
「一誠さんも楽器を弾けるのですか?」
「知らなかった・・・・・」
教えてないし聞かれても無いから当然の反応だろう。全部終わったら案内でもしてやろうかね。
―――八百万部屋―――
少なくない人数でやれば作業もスムーズに進められる。ベッドの組み立ては障子目蔵が活躍して見せた他所に。
「ハッハッハッハッ・・・・・プルスウルトラ」
「峰田さん!」
何かを嗅ぎつけたのか一つの段ボールを開けようとしていた峰田だが、興奮した表情と荒い息を吐いていて百の焦燥と怒りが籠った声が飛ぶ。後にテープによる蓑虫状態となって壁に貼り付けられる運命となった峰田実。
「天蓋のあるベッドって寝たら実際どんな感じなんだ?」
「このようにカーテンを閉めれば暗く安心して睡眠ができますの」
うん、同感だな。
「暗さと言えば・・・・・常闇がピッタリだな。もしかして部屋は薄暗い?」
上鳴の何気ない発言は動きをピタッと止めた常闇。
「あー、何か有り得そう!」
「今度、皆の部屋を探検気分で遊びつつ見回ってみるか」
「面白そう!」
「んじゃ、決定ということで最初は常闇ん家!」
「「「さんせーい!」」」
「来るな!」
ワイワイと楽しい雰囲気が醸し出す百の部屋で賑やかさを保ったまま部屋作りをして―――時間はあっという間に過ぎて二人の部屋は完成し、夕餉の時間となる前。隻腕の一誠に料理はさせまいとお茶子を筆頭に一佳や塩崎、蛙吹と八百万と耳朗に芦戸と葉隠達は食材や調理器具を取り出すなど夕食の準備をしていた。うら若き少女達の手料理を食べる一誠を筆頭に男子達はテレビゲームやボードゲームなどで時間を潰し待っていた。
「八百万ちゃんと耳朗ちゃんも兵藤ちゃんの家で生活を始めるなんて驚いたわ」
「うんうん、私も驚いたよ。二人の両親はよく認めてくれたね?」
手慣れた手つきで食材を加工する蛙吹は思ったことを口にしたことで、葉隠も同感と食材を切っている二人に問うた。
「まあ・・・・・苦労したけどね」
「また私達を狙っての犯行をされる考慮すれば・・・・・一誠さんと同棲をすることで対処もしやすいと判断したのです」
最もな話しを返答され芦戸は納得したように相槌を打った。
「そうだね。一誠の傍にいればどんな相手でも守ってくれそうだもんね」
「はい、一誠さんはお強いのですから」
助けられた経験を持つ一佳と塩崎も一誠は心強いと納得する。
「「・・・・・同棲、羨ましい」」
最後、羨望の声を漏らしたのを耳朗はしっかりと聞き拾っていた。想いを寄せている相手との同棲の環境は羨望に等しい。今更ながらこの二人は異性として好きなんだっけと察する耳朗だった。
(でも、ごめん・・・・・)
心中でそんな二人に対して謝罪する。その謝罪の意味は―――皆が寝静まった頃に分かる。
「兵藤、どこに行くんだよ」
「折角来たんだ。今日一日ぐらいのんびり過ごそうぜ」
「で、どこに案内してるんだ?」
夕食後。皆を連れて一階の奥深い場所に歩いている俺はあの場所にまで足を運ぶ。問われた質問にはこう返す。
「お茶子が言ったろ。楽器があるって」
音楽室―――とプレートが掛けられた扉の前にたどり着く俺達。いざ、扉を開け放ち電気の電源を押せば、パッと光が部屋全体を照らして・・・・・。
「うおおおおおおおおおおおっ!?」
「すっご・・・・・っ」
上鳴と耳朗は度肝を抜かれる。広い空間には様々な楽器が所狭しと置かれていて何でも揃っている。全てではないにしろ、これだけの数が揃って置かれている光景は専用店以外他にないだろう。
「これっ!ン百万もする楽器じゃねぇーか!?」
「アンティーク的な楽器もありますわ・・・・・」
「ウチが欲しかったのもあるし」
楽器や音楽に関心があって驚嘆と感嘆の声を漏らし、目を輝かすメンバーとそれほど興味がないメンバーは静かに佇んでハッキリと分かれている。
「なあ兵藤!これ、弾いていいか!?」
「ギター扱えんの?」
「じゃなきゃ頼まないって!」
「・・・・・ウチもしたい」
目を純粋な幼児のようにキラキラと輝かせる上鳴に控え気味に使いたいと了承を求める耳朗の二人。そんな二人から視線を反らし、お茶子達を見回し・・・・・。スタスタと棚に近づき、そこから一冊のファイルを取り出す。
「扱えるなら本格的な演奏をするぞ。曲はサザンだ」
「うおっ、マジかよ。めっちゃ緊張すんだけど」
「別に・・・・・ただ独自で弾きたいだけなんだけど」
薄らと緊張の面持ちをする二人に対して一誠は呆れながらジト目で話しかける。
「―――この楽器の中で上位に食い込む高い楽器を持ってスタンバイしているお二人さん。そーいいつつも」
「やる気まんまんやないかっ!」
ブフーッ!と吹く麗日の言う通り、一目で気に入った楽器を何時の間にか肩に掛けたりてにしていたりと持っていたのだった。
「百、キーボード弾ける?」
「ピアノでしたら」
「んじゃあピアノだな」
「これ、一千万もする物ではなかったでしたっけ」
「集めるのが趣味だからな。個性で金儲けして購入した」
「「「個性でなんてことをっ!でも、正直羨ましい!」」」
そんなこんなで楽器を持ちこんでスタジオへ移動する。
―――某空港―――
日本や外国、母国から飛び出して新たな新天地を足を踏み入れる最初の場所。
旅行、仕事、ビジネスの理由で世界中の人間が空港を利用して何らかを全うするために足を運ぶのだ。
「なぁおい、あれ」
「うん?」
空港の利用者が何かを見つけ隣人に声を掛けて認識させるその意図は。
威風堂々と40人ほどの学生と中年の数人が旅行用の鞄を持参しながら歩いている姿を目にしたからだ。
周囲の人々の視線など気にもしないとまっすぐ中年の人達の背中を追う少年少女達の会話は日本語ではなかった。
「先輩、エリートの俺達がわざわざこんな弱小国の日本に来ても意味ないんじゃないですかねぇ。ま、日本の平和の象徴たるオールマイトに会えるなら会いたいですが」
「エリートとして自覚しているなら私語を慎め。お前が口開くと品性のない言葉が最初に出て我が校の誇りと栄光に―――」
「そういうあんたも固すぎ。硬いのはこいつだけでいいってのに」
「何か言ったかマイハニー!俺と結婚前提に付き合ってくれ!」
「・・・・・これで619回目の告白でフラれた回数っと」
「どこに行っても相も変わらず、ですね」
語る言葉は外国語。学生達の容姿とスタイルも外国特有。修学旅行を目的に来たのではないかと思うほど人数と盛り上がり。だが、外国人の学生達は普通の学生ではなかった。胸のバッジは誇りを持って身に付けている学校の象徴のものである。
「で、私達がここに来た理由ってなんだっけ?」
ふと、今思い出したように日本へ来た目的を思い返す少年に
「オールマイトの養子の人に会うためでしょうが」
「具体的には、どうやって"個性"をさらに向上=進化しているのか」
「それを知るために、学園の中で選り抜きされた私達が情報を集めに来たのよ。あわよくば、その場で私達自身の個性も進化してみせる」
目的を告げることで「ああ。そうだった」と思い出させた。
「楽しみですね。兵藤一誠という少年と出会うきっかけでさらにヒーローとしての高みを目指せる可能性があるのだから」
雄英高等学校の校長室にいる根津は受話器からを顔から外して深い溜息を零しながら置いた。
「困ったことが起きてしまった・・・」
彼の心情を計り知れない、根津の前に立っていた相澤が「それは?」と通信相手のことを探る言葉を放った。雄英の校長が「困った」等と発言することは滅多にない。
「今頃になって、タイミングを計ったように向こうから連絡がきたんだよ。『同じヒーローを育成する機関のトップとして互いの生徒との交流を交わし親睦を深めたい』ってね」
「・・・・・?」
日本にも雄英と同じ最難関の新人ヒーローの育成機関の施設や学校はある。他校との交流は無くないが、根津の表情から察してどうやら何があるらしい。
「相手は?」
「ヒーローの本場、アメリカの理事長さ。しかもアメリカのヒーローを育てる育成機関の中で優秀なヒーローを輩出し続けている唯一の名門校・・・・・」
そこまで言われては相澤も、一人のヒーローとして気付く。
「タイミングを計ったようにとはどういうことです」
「断ることができないように、もう既に生徒達を日本に入国させていたんだ。あっちの理事長は事前に決まっていたかのような言い方で頼まれた」
強引な方法で外国の他校から送られた生徒達。根津自身が了承したわけでもないのは相澤も認知している。
どうしてこのタイミングでそんなことしたのか・・・・・。
「目的は何なんですかね」
「予想だと、きっと接触だろうね。彼、兵藤君との」
根津の予想を正解だと仮定すれば、おそらく・・・・・。
「非合理的で困ったことになりましたね」
「ああ、本当に困ったことになった」
パソコンと面向かってカタカタとキーボードを忙しなく指で叩く。皆の"個性"を考慮した修行や特訓を自分なりの考えで記入している一誠は窓から照らされる月光を浴びていた。
「うーん・・・・・」
幻想的な光に包まれる一誠は眉根を寄せてどこか悩んでいた。
「やることなすことしても似たようなことばかり・・・・・やっぱり、指向性の補助も必要だよなぁ」
大切だがそれだけでは駄目であることを悟る。指向性の補助=
「頼んでみるか?でもそういうのって個人の自由だし、そもそもサポート会社に変更の申請できるもんなのか?俺もそれなりに作れるけど」
明日、相澤先生に聞いてみようと自己完結すれば睡魔に襲われながらPCの電源を切る。八百万のベッド同様の天蓋付きのベッドに向かおうと椅子から腰を上げ、足を運んだ。そして馴染みのある布団の中に入り瞑目して数十秒後、扉が静かに開いた。部屋は暗く来訪者の顔は分からない。影はゆっくりと扉を閉めた後に一誠が眠る天蓋付きのベッドへ近づいた。
「・・・・・」
何かを躊躇しているのか、しばしベッドの縁の傍で佇み一誠の寝顔を見つめる影はのそりと乗りだす。
寝ている少年を起こさないような動きで距離を縮める影は―――。
「夜這とは恐れ入るぞ」
「っ―――!?」
瞑目して寝ていると思っていた開いてからそう言われて体を硬直した。金の瞳が開き影へ視線を送る一誠は言う。
「どうした二人とも」
―――四つ這いで寝間着姿の八百万百と耳朗響香に訪ねた。上半身を起こす一誠の問いかけの返答を躊躇する仕草をし、隈がある目を反らして沈黙、答えようとしない少女。その代りもう一人の少女が口開く。
「眠れないのです。耳朗さんも私と同じみたいです」
「・・・・・」
「あの時の光景が、あの時の続きが、夢の中で・・・・・」
耳朗へ視線を注げば沈黙を保っている。それを肯定と受け取る一誠はその理由に心当たりがある。
二人を苛ませる悪夢を、二人の心を追い詰めた元凶を、
「毎夜見てしまうんです。そして、一誠さんが助けに来てくれなかったら・・・・・そう思うだけで体が震えるのです」
下学上達、一意専心と目標を掲げてるヒーローを目指す生徒であるもその前にただの少女。
微細に体を震わす八百万と何かに耐えて顔を強張らせてる耳朗を見て察するのは難しくない。
「一誠さん・・・・・この震えを、止めてください・・・・・」
「もう、あんたしか頼れない・・・・・」
潤っている四つの瞳、伸ばされるのは縋る手、顔に表れる懇願の気持ち・・・・・。
眼前にいる二人の少女に一誠は―――徐に背中から十二枚の金色の翼を生やした。
それから八百万と耳朗の背中から翼で包みこんだ。隻腕の肩から生える光の腕も含め、腕枕をさせている一誠に寄り添う感じで寝転がされた少女達。暗闇に包まれているはずの部屋はベッドの周囲にだけ神々しい光で明るい。翼の上で寝転がる八百万と耳朗はその神々しい光から翼の羽毛と共に確かな温もりを感じていた。心が落ち着く不思議な温もりを。それだけではない。何気なく福耳のプラグを一誠の心臓がある胸に寄せると規則正しく強く打ち続く鼓動が聞こえる。耳朗にとって安心できる心音も聞けて次第に瞼が降りる。
数秒後、寝息を立てて夢の中へと旅立った。彼女等の寝顔をしばらく見つめる一誠も改めて寝ようとした。
―――ところで、また扉が開いた。その後、三人目が一誠の傍で添い寝をして朝を迎えた。
―――俺が来た(by障子)―――
日曜の朝。緑谷も訪れ合流を果たした俺達は一週間も地下のトレーニングルームで過ごす。
「さて、緑谷は気のコントロールをするかどうかはさておき。コントロールができるようになったメンバーには空中戦を学んでもらおうかな」
「「「「「空中戦?」」」」」
首肯と首を振る。
「飛行、浮遊、風等の"個性"を持っている相手との戦いを想定してだ。特に風に関する"個性"は攻防一体だからかなり強い」
手の平から風を起こして一同に見せつける。
「全てを薙ぎ払い全てを吹き飛ばす自然の力だ。もしもそういう"個性"が同世代、もしくは同じヒーロー科の高校生にいたら厄介な話だ。仮に勝負内容が体育祭の決勝戦と同じだったら―――俺を除いて全員が負ける」
もしもそうだったら―――と想像した切島達は息を呑む。風の"個性"を持つ相手、最悪
ただ空を飛ぶだけでは駄目なのだと暗に告げられたことで新たな特訓を受けることに察した。
「でも兵藤。実際どんな感じで空中戦をするんだ?」
「今までとは変わらない。肉弾戦や"個性"で勝負するんだ」
こうして始まる空中戦闘。だが、地上で戦うのと勝手が違うことを切島達は肌で感じ取る。
地上から二十メートルの高さに留まり、複数対一の戦闘が始まった。
「そんじゃ、来い」
「おう!」
全身を硬化し、切島が一番槍となって一誠に飛び掛かる。その後に一佳と砂籐、障子や常闇も続くも。
一誠の掌から巻き起こる風は嵐と化して、それを振りかざすと嵐の猛威が切島達に牙を剥き襲う。
「どわぁあああああああああっ!?」
「これが風の"個性"の威力・・・・・!」
「体勢が・・・・・っ!」
風圧に真正面から圧し負ける面々。改めて風に対する脅威を実感したところで
「今度は×5だ」
「「「ちょっ!?」」」
五つの嵐をあっさりと巻き起こして空の上で切島達を翻弄する他所に地上では―――。
「す、凄い・・・・・」
「普通に手加減してるがな。ただあれは本当に吹き飛ばしているだけだし」
オリジナルの俺とマンツーマンで特訓を課せられている緑谷が愕然と見上げていた。
自然災害もとい人(龍)然災害の一つをなんなくして見せてる分身の俺はやっぱり強いな。さすが俺だ。
「兵藤君も凄いけど、皆空飛べるようになっているんだね」
「とはいってもまだ雛鳥が一生懸命空を飛ぼうとしている程度だがな。まだまだ空を飛ぶ経験は少ないから」
「僕も皆のように空を飛べるのかな兵藤君」
「できなくはないが、今からだと時間掛かるのは必然。だから緑谷。お前らしい空中移動方法も教えてやるよ。それさえクリアできれば、他の足技もできるようになる。―――否」
緑谷に指差す。
「他の連中じゃあできない技法をお前なら、オールマイトの"個性"を受け継いだお前しかできない技法を伝授する」
「僕しかできない技・・・・・」
「ああ、習得できればお前は確実に強くなる。オールマイトもビックリなほどにな」
というか、とあることを指摘するために付け加える。
「新たな技を習得しても攻撃をする際、基本的にお前の両腕はすぐにボロが出る。そんな不安定なままこれからもそのもろ刃の剣の"個性"を行使すれば、遠くない未来、必ず両腕が使えない生活になるぞ。そうなればヒーローになるどころじゃない」
「じゃあ・・・・・」
「当然だが、もろ刃の剣じゃなくする別の手段を模索する必要がある。それも常識を超える―――こんな感じにな」
爆発的な脚力で横薙ぎに振るい、鎌風を起こすと飛ぶ斬撃と化して壁に深い切り傷が刻まれた。
体育祭で見せなかった技と人間ができる可能性を見せつけられ愕然とする緑谷。
「この足技の名前は―――嵐脚。爆発的な脚力によって生じる鎌風で相手を斬る技法だ」
「き、斬るって・・・・・」
「こういう足技もあるってことさ。緑谷もできなくはないはずだ。行使する度にその身を滅ぼす超絶なパワーを利用すればな」
ゴクリ、と息を呑む緑谷がこの技の習得を乞うかどうか定かではない。だけど、これだけは確実だ。
「お前は『平和の象徴』という光とオールマイトの意志を継ぐ男だ。俺はお義父さんの養子として、お前を鍛える義務がある。だからお前を徹底的に強くしていくぞ。他の連中よりもな」
真剣な眼差しの視線にも俺の気持ちを込めて言い放つ。
「・・・・・うん!」
力強く首を頷かせ、強い意志の光を目に宿す緑谷に不敵な笑みを浮かべつつ言ってやった。
「んじゃ早速。地獄の修行フルコースを始めようか」
「お、お願いしますっ・・・・・」
急に委縮する緑谷と空から高笑いと阿鼻叫喚が聞こえるこの空間で過ごす時間は無駄にできない。
相澤先生の言うとおり、時間は有限だからな。
雄英高等学校の前に外国から来た生徒達が立ち止まって品定めするような視線で見上げていた。
「ふぅ~ん。ここが日本有数の有名なヒーロー学校か。俺達の学校よりもダサくてしょぼい、小さな学校じゃね?」
「学園の大きさと設備が問題ではない。優秀なヒーローが輩出するためには、優秀な指導者と優秀な生徒という人材の二つが決まるのだ。それがこの学校にいるかどうかお手並み拝見させてもらおう」
生徒を窘める厳格そうな中年の男性の前に現れる小さな校長に目線を落とす。
―――根津を見た瞬間。雷が落ちたような衝撃が襲った。
あっという間にだらしないほど顔を緩ませ、目を輝かせる中年男性の他の大人や生徒達が呆れ顔をした。
「ようこそ、雄英高等学校へ。アメリカの生徒と先生方。君達を歓迎するよ」
「感謝の言葉の前にまず謝罪を。急な訪問と留学に当校の編入に申し訳ない。我々も政府から突然の指示を下された身ですので、お互い遺憾と思いながらもどうか交流と切磋琢磨をしていきたいと思う」
別の男性が話を切り出し、根津と握手を交わす。
「どうやらそのようだね。目的は少なからず把握しているつもりだよ」
「話が早くて助かります」
「だけど、今日は君達を学園内を把握してもらうために案内させてもらうよ」
「よろしくお願いします」