あっという間に期末テストの日となり、テストの結果赤点のクラスメートはいなかった。上鳴と芦戸は成績の結果に喜びそれぞれ一つ目の試練を乗り越え―――そして演習試験当日。
「それじゃ演習試験を始めていく。この試験でももちろん赤点はある。林間合宿、行きたきゃみっともねえヘマはするなよ。で、今回の試験についてだが。諸君なら事前に情報仕入れて何するか薄々薄々わかってるとは思うが・・・・・」
相澤先生の首に巻かれている拘束具の布がモゾモゾと動く最中でいの一番、張り切る上鳴と芦戸。
「入試みてぇなロボ無双だろう!フー!」
「花火!カレー!肝試ー!」
と、余裕な態度でいる二人に対して、相澤先生の布から
「残念!諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!」
ひょこっと出てくるのがネズミなのか犬なのか熊なのか。その実態は―――雄英の校長の根津だった。
「ああ・・・・・やっぱり」
「予想的中しましたわね」
「「うん・・・・・」」
相澤先生が変えたわけじゃないが、変更されたのは的中だった。
「変更ってどういうことですか?」
「それはね・・・。これからは対人戦闘・活動を見据えた、より実践に近い教えを重視するのさ!というわけで・・・諸君らにはアルティメット・ハイスクールの生徒達と戦闘を行ってもらう」
「あの人達と・・・・・!?」とざわめきが生じる。
「どうして急にそんなことを?編入してまだ間もないですよ]
「君達は今後、他校との競争や切磋琢磨をする時期がある。そのための予行練習と考えてもいい。だけど、相手は手を抜かず君達を阻んでくるから君達も全力で演習試験をクリアしてほしい」
相澤がピッとバスへ指さす。
「そういうこった。ほら、さっさと学内バスに乗れ。試験の概要についてはバスの中で説明されるし時間がもったいない。速やかに乗れ」
二クラスのヒーロー科の生徒を乗せたバスが発進する。
「制限時間は30分。お前達の目的は『このハンドカフスを
「逃げてもいーんすか?」
「実力差が大きすぎる場合、逃げて応援を呼んだ方が賢明。そういう意味も込められてんのさ」
なるほどー、とそんな雰囲気が醸し出すバス内。
「ゴールはステージの中にある。そこを通った組の連中は試験合格となるが質問あるか」
「はい先生。B組と合同なんすか?」
「いや、別々で同時に期末テストを受ける。兵藤」
ひょいひょいと一誠に手招く相澤。不思議に思いながらも近づいてみると声を殺して語りかけてくる。
「今回だけ天使の"個性"は使うな。変革の鍵を握ってると勘違いしてる連中の考えを増長させるのも面倒だ」
「・・・・・ん、わかった。俺も面倒事は避けたい。でも、他の"個性"を使うから」
相澤だけでなくオールマイトも一誠の底が知れていない。異世界から来た存在はどこまで力を隠し持っているのだろうか。A組とB組を乗せたバスは途中で別れ、それ以降は演習試験を行うステージまで移動し続ける。
「準備はいいな。目的も忘れてないな」
「ええ、しっかりと」
「雑魚の相手なんてしてられるかって話だ」
「これでハニーの心は鷲掴みも当然だ!」
「掴まられないわよ。てか、この際言うけどね。私はあんたみたいなゴツイの嫌いなのよ!」
「えっ、なんでって?好みだって!?いよっしゃああああああああああ!」
「・・・・・なんでそんな都合のいい風に聞こえるんだろうこの男は」
「恋は盲目、じゃないでしょうかねぇ」
「単純に馬鹿なだけだろ」
相澤とその生徒たち一行が乗せたバスは市街地のステージにたどり着き、二人一組とチーム分けをさせられバラバラのスタート地点に立たされた。
緑谷&爆豪。
麗日&青山。
峰田&瀬呂。
切島&砂藤。
上鳴&芦戸。
蛙吹&常闇。
耳朗&口田。
障子&葉隠。
轟&八百万
飯田&尾白。
兵藤一誠(ポツーン)
全員が配置につけば学内の敷地に『リカバリーガール出張保健所』という簡易的なテントの中にいる雄英の保険医のリカバリーガールが数多のモニターの前に座りながら吐露する。
「さて・・・・・今日は激務になりそうだ」
「―――あ、そうだ」
ふと、一誠が何かを思い出したように漏らした。
『期末テストIN演習試験を励む生徒の姿を見守る姿勢で終わった後のことを見据える。マイクに向かって一誠達に告げる。皆位置についたね。それじゃ今から雄英高1年。期末テストを始めるよ!』
「突然話しかけて驚かせて悪いがお前ら。全力でも試験に合格できなかった組は・・・・・マジで恐怖の罰ゲームをするからな。覚悟しとけ」
独り言のように言葉を発する一誠。一人しかいないのに誰かと話しかけているような言い方で―――バラバラなところにいるお茶子達の顔を青ざめさせた。
『レディイイ―――――・・・・・ゴォ!!!!!』
((((絶対に合格しなくちゃ後が怖いっ!?))))
ダッと焦燥の色を顔に浮かべ、ほぼ全員一誠直伝武空術で空からゴールを探しつつ目指す。
そんな様子を見ていたクリアンス達は目を丸くする。
「いまどきの雄英は空を飛ぶ術も教えてるのか」
「あれ、"個性"なの?」
「おいおい、空に飛んで俺達は無視かよ!」
常闇と蛙吹の背後に二つの影が地上から飛び出す。
「だけどな」
「お前らだけじゃないんだよ。空飛べんのは」
「「!」」
常闇の様な顔がアルティメット・ハイスクールの学生にもいた。一人は大鷲のような顔と背中に大きな一対の翼を広げている。もう一人は黒一色の
「空での戦いはしてるか雄英!」
「空中戦において俺達は負けなしだ」
物凄い速度で肉薄する。四人が交差する際、常闇達は間一髪避けたと思ったらコスチュームに裂傷が生じた。
「速いっ」
「鳥の個性は空中戦に強いみたいね」
空中に浮きながら相手と対峙し冷静に見つめる。
「止まって見えるぜ」
「だが、俺達の力はこんなもんじゃない」
NAMEイーグル・ストーム。"個性"『大鷲』。
NAMEバッド・グローム。"個性"『蝙蝠』。
二人の個性を認識した常闇。
「鳥の方はともかく、蝙蝠は発する超音波で様々なものから反射してくる音波により、位置や獲物を見つけ察知する能力があったはずだ」
「ケロ、厄介な能力の個性なのね」
「はっ、蛙風情が。捕食対象にされる側の奴に負けるわけないって話だよ」
「で、そっちは光に弱いんだろ?こちとら、相手の弱点を看破できる個性の奴がいるんでね。だから万に一つもお前らに勝ち目なんてないぜ」
自信に満ちた表情と態度を示すイーグルとバッド。弱点を知られている不利さに常闇は、不意に小さく口元を緩ました。―――不敵の意味で。
「ああ、確かに俺の個性は光が弱い。―――だが、俺達は弱点と向かい合いながら今まで修行をしていた。克服したわけではない。それでも足手纏いにならない強さと強い心を得た」
「そうね」
二人の全身に淡い光が纏い始めるその変化にイーグル達は怪訝な目で見守る。何か仕掛けると感じて臨戦態勢の構えをした。
「あっ、皆!」
「おー、やっぱ空飛んでんと目立つな!」
あっという間に他のクラスメートと合流を果たし、障子が発見したゴールへと目指す。
「おい耳朗。口田をよく持って浮かんでいられるな」
「あんだけ修行してたらできないはずがないって」
「あ、じゃあ私がもっと軽くすんね」
お茶子の個性で飛べない男子達の体重を無重力にして片手でも持てるほどの軽さにした。
「尾白と飯田が見当たらねぇんだけどよ。どこにいるかわかるか?」
「緑谷と爆豪の奴もそうだな」
「兵藤は、心配しなくてもいいか」
最後の人物に関して全員の気持ちが一致した。
「常闇と蛙吹は?」
「あっちで戦闘をしていたが、手を貸すのは不要のようだった」
「本気を出していたからねー」
障子の背に乗っている葉隠のほのぼのとした言葉に、お茶子達は真剣な表情となる。
「まあ、確かにここで合格できなきゃ」
「兵藤にキツーイお仕置きされんのは当たり前ってやつか」
「そうですわ。さあ、さっさとゴールをしましょう。障子さん、ゴールの位置は―――」
決して罰ゲームを受けたくないからではない。今日まで修行をつけてくれた、一誠に呆れられたくないだけなのだ。空飛ぶ一行は、意気込んで目的の場所を探ろうと意識した矢先、全身に重い負荷が感じた上に凄まじい重力に逆らえず地上に叩きつけられるような感じで落ちた一行。
「か、体が・・・・・重いっ・・・・・!?」
「なにこれ・・・・・・っ!」
磔にされた気分で思うように体を動かすことができないお茶子達の前に、嘲笑の笑みを浮かべながら黒いオーラを手に纏う男子が現れる。
―――・・・・・(by口田)―――
「ぜんっぜん効かーん!」
全身がダイヤモンドで覆われている巨漢の男子に緑谷と爆豪が対峙し合っていた。
「こんの宝石野郎っ・・・・・!」
「か、硬い・・・・・!」
そして、苦戦に強いられてもいた。爆豪の爆破と緑谷のパワーでもダイヤモンドの鎧を突破することは叶わずにいる。
NAMEダイヤ・ジャック。"個性"『ダイヤモンド』。全身の肉体をダイヤモンドと同じ硬さにする個性で手も足も出せないでいた。
「お前ら非力な"個性"で情けないな!そんなんでは一流のヒーローにはなれないぞ!最強の攻撃力と防御力を誇るこの俺のようにな!」
ムンッ!ムンッ!とマッスルポーズをしながらダイヤモンドを太陽に照らすことで輝かす。
「クソがッ!口ん中を爆破してやろうかてめぇっ!」
「だ、駄目だよかっちゃん!ここは戦いを避けるべきだよ!」
「俺に指図すんなっ!逃げたきゃてめぇ一人で逃げろ!」
逃走を図ろうとし、焦燥で爆豪の肩を掴むが振り払われ拒絶を受ける緑谷達の前で高笑いするダイヤの声が。
「ハッハッハッ!掛ってこようが逃げようが構わないぞ!弱い相手のすることは気にする必要もないからな!」
「あ”あ”あ”!?」
「俺達の目的は"個性"の革命の鍵となる兵藤一誠との対戦だ!探してたまたま見つけた程度のお前らを倒しても無意味!」
無意味―――。戦う相手を無意味と断言するダイヤの自信は確固たる証拠と証明がある。
「そして面白い事を教えてやろう。俺達アルティメット・ハイスクール学園の入試試験及び入学条件は、"個性"が複数であることなのだ!つまり、今発動しているこの個性以外にも個性がある!」
「なっ―――!?」
「っ―――」
複数の個性持ちの人間―――。それが本当に入学の条件であれば、緑谷達は個性が複数ある集団と戦っていることになる。
「もう理解しただろうモンキーとボンバーマン。どう足掻こうとお前達では勝てないのだ。俺のダイヤモンドに一つつけられない奴に負けることは決してないのさ!」
飛びかかるダイヤ。迎え撃とうとする姿勢の緑谷と爆豪。
(どうするどうするどうするっ!?100パーセントのデトロイト・スマッシュだったら吹っ飛ばすことができると思うけど、それで倒せるなんて思えない!でもやらないとゴールに行けれない!)
「クソったれがっ!」
「っ!かっちゃん!?」
BOOOOOOM!
特大火力の爆破を放った。ダイヤの体は爆発で生じる煙で姿も見えなくなった。それ以降静寂が訪れ、爆豪と緑谷は緊張と警戒の色を顔に浮かべ立ち尽くす。
「や、やったの・・・・・?」
「んなこったどうでもいい。宝石野郎に手こずっている場合じゃねぇ」
さっさとゴールへ行こうと歩きだすコンビ相手に置いていかれないよう早歩きで動く緑谷。
『報告だよ。条件達成最初の合格者は兵藤一誠!』
リカバリーガールからの放送が流れた。流石というか予想通りのことで、うかうかしてられない―――考えてたところ。たちこもる黒煙の中でユラリと蠢くものを同時に察知した二人に―――ダイヤモンドの拳が二人を確実に捕らえ、そのまま建物の壁へと突っ込んで、突っ込んで、突っ込んで。
「ダイヤモンド・クラーッシュ!」
ドガガガガガガガッッ!!!!!
「ハッハッハッハッハッー!」
暴走列車のように駆け続けるダイヤモンドに建物へぶつけられる緑谷達。永遠に続くかと思うその行動と攻撃は、
「―――――ん?」
試験を合格した一誠と鉢合わせしたダイヤモンドは深い笑みを浮かべて、緑谷達をゴミのように放り投げて終えた。
「目標発見!俺と戦え!」
ダイヤモンドの巨拳が一誠の顔面に迫る。その勢いは止まらず確実に重い一撃が直撃するはずが、紙のようにヒラリと避ける一誠に当たらない。
「おい、俺はもう戦う理由はないぞ。試験に合格したんだから」
「お前になくても俺達にはあるんだエンジェル!お前と戦えば更なるヒーローの高みへ目指せると言われてるからな!個性の進化、革命の可能性を見出したお前と戦うためにやってきたのだぁっ!」
大瀑布のごとく正拳突き。ダイヤの拳を真正面から見つめ、紙一重で確実にかわしながら吐露する。
「俺と戦うためって、さっきの女と同じこと言うな」
「―――女?」
「金髪にオッドアイの女だ。一発殴って終わらせたけどな」
なんとでもなさそうに言われたダイヤ。特徴を聞いてすぐに理解した。
「殴った?俺のハニーをか?」
「うん?」
大噴火のようにダイヤの怒りは最高潮を達して憤怒の形相と怒りと殺意を以って一誠を睨みつけた。
「こんのクソがぁあああああああああっ!よくもハニーを傷つけやがったなぁっ!?絶対に泣いても許しを乞うても許さないぞ!おおおおおおおおお!」
ダイヤモンドで覆われた全身がどんどん大きくなり、やがて市街地を模したステージにある建造物よりも全長三十メートルもデカくなった。
「俺のもう一つの個性は『巨人化』だっ!こうなったら最後、お前を踏み潰すまで止める気はないぞ雑魚がぁっ!」
「あーあー、あいつ。本気になったようだよ」
「単純に考えれば、あそこに兵藤一誠がいる可能性があるな」
「良い目印になってくれやがって」
「ちょっ!なんなんアレ!?」
「巨人!?しかもなんか硬そうだぞ!」
「―――まさか、一誠君っ!」
ダイヤモンドの巨人と化したダイヤの足が上がり、一誠がいる方へと降ろした。
あっさりとかわされるが道路を広大に粉砕し、建物をその衝撃と振動で崩壊させたその威力は災害レベルと同等だった。
「ダイヤモンドの巨人って初めて見るな」
パシャリと携帯のカメラで記念に一枚。と撮影する一誠がいた建物にダイヤモンドの塊が降ってくる。軽く避けられ、失った対象がいた建物は周囲も巻き込んで粉砕や崩壊。
「ちょこまかとっ。さっさとエンジェルになれ!砕いてやるからよぉっ!」
(お前の要望に応える義理はない。・・・・・あっ)
気絶している緑谷達が視界に入る。しかもダイヤの足元の近くだ。このまま逃げ回っていれば逃げることができない二人に危険がさらされると悟って回収に動く。
―――同時刻。
「尾白君!早く行かねば!」
エンジンをフル稼働させダイヤモンドの巨人へと目指していた飯田と尾白。誰かが戦っているのだと察し、援護と駆けだして近づいていく。
「その後どうするんだっ。あんなカタくてデカい奴と戦うのか」
「一気に離脱する!」
近づくにつれますますダイヤの巨大さを目で実感して戦慄する。巨人化の個性のアルティメット・ハイスクールの生徒の凄さも知り、敵う相手ではないと悟られる。それでも・・・・・。
「よし!後もう少し―――」
大通りに出たところで二人はある光景を目にした。一人の少年の何らかな個性で動きを封じられているのを。
相手はまだ気づいていない様子で、勢いよく助走をつけてから跳躍。
「おっと!」
「ぐっ!?」
もう片方、黒いオーラが纏う手を飯田へ突き出して見えない何かに路面に押しつけられる。
「これで大体全員ってとこかな。あっさり捕まって情けないな雄英の連中は」
「この感じは・・・・・重力かっ」
飯田が身に起きてる異常を指摘すると男子は肯定と不敵の笑みを浮かべる。
「そう、正解だよ。僕が今発動している個性は『
意外とペラペラ喋るんだな、と突っ込んだお茶子達。
「で、アルティメット・ハイスクールに入試と入学できる条件が"個性"が複数あることなんだ。うちの学校はとにかく実力主義でさー。個性の多さや個性の能力、個人の身体能力と知識と知能、希少性や応用とかもう色んなことに意識や注目されるんだよね。だから一流のヒーローにならなけば卒業なんてできないし、卒業する前に退学されることなんて珍しくもないんだって。で、学校の中で一番優れた人間は特にいろんな権限と権利が与えられ、優遇されるんだけど―――」
(((まだ喋る・・・・・)))
質問したわけでもないのにも拘わらず勝手に情報が流される。
「あ、因みに僕達の中で多いのがクリアンスなんだ。個性が4つもある本当に珍しいんだよねこれが。あれだよな。個性婚ってやつ。第二~第三世代間で問題になったやつ」
轟の目が丸くなる。
「クリアンスの家って"超常"が起きて、ヒーローが職業になってからしばらく経った頃。初代の人が家と名声、地位、財産の守護と発展を目的に象徴として自身の"個性"をより強化して継がせる掟を作った。その結果、思惑通りになってクリアンスの家は現在進行中、アメリカの中じゃ三大名家の一つとして称されるようになってるんだ」
緑谷と爆豪を回収してこの場から離れようとした一誠から離れた建物の屋根の上にクリアンスが見下ろしていた。
ダイヤの攻撃を避けながら一誠はクリアンスの存在に気づく。
「でも、いまちょっと落ち込み気味だからこれを機に真新しいものを探していたところに―――個性が変化する現象を見たんだ。それが兵藤一誠なのさ。まあ、それ以前に天使になれる"個性"は見たことも聞いたこともないから本当に珍しいよね」
話で夢中になっているのか、尾白の存在をすっかり忘れている様子で真後ろから飛びかかれていることにも気づかないでいる。
「ところで話を変えるけど僕のもう一つの個性は、未来を三秒先まで見ることができる『未来視』」
尾による打撃を与えようとした尾白の動きを頭の後ろに目があるのかと思うほど、あっさりと短く体を動かしただけでかわした。
「直径100メートル以内にいる対象の未来を見ることができるとても便利な"個性"だよ―――っ!?」
自慢げに個性を語った重勢の顔に焦りの色が突然浮かび、何故かお茶子達の前から背を向けて逃走した。重力の効果が消えた上に、いきなり逃げた重勢に唖然とするお茶子等。
「え、なんだ?」
「・・・・・自分にとって不都合な未来を見たんだろ」
―――未来が見えるのは三秒後。その三秒後になった瞬間、轟く音と共に重勢がいた場所にダイヤの巨体が倒れ込みながら建物を巻き込み吹っ飛ぶ。その衝撃と余波がお茶子達にも襲い、逃げた理由を理解する。
「・・・・・なるほど、こんな未来を見たのかあのお喋り野郎」
「本当に便利なんだな。でも、誰がこの巨人を?」
倒したんだ?と切島の中で浮かぶ疑問。すると、二つの影が目の前に躍り出た。
「あいつもお前も、いい加減にしろよな!俺はもう戦う理由はないっつってんだろう!」
「お前がそうでも俺達にはある。見せてみろ、感じさせろ"個性の革命"を」
相反する気持ちがこもった声の主は誰なのかすぐに気付いた。一誠とクリアンスだった。一誠の背中に生えてる天使の翼に包まれてる緑谷と爆豪も視界に入れて心底驚く。
「兵藤!」
「二人を頼んだ!」
色々と聞きたいことと言いたいことがある。尋ねる前に緑谷達を放り投げられ、条件反射で障子と砂藤が受け止めた。
「気をつけろ兵藤!そいつ、個性が4つもあるそうだぞ!」
突然の相手の情報でも返答しない一誠に、「あの口軽い奴か」とクリアンスは呆れた感じで漏らしたところで、急に周囲が暗くなった。
「よくもやってくれたなぁっ!」
真上を見ればダイヤモンドの巨人ことダイヤが跳躍して降りてこようとしていたところだった。
舌打ちするクリアンスは離れる、お茶子達も遠くへ逃げようとする。一誠も回避しようと足を動かしたとき、
「見つけた、兵藤一誠だ!」
「なんでここだけ暗い?」
アルティメット・ハイスクールの女生徒が悪いタイミングに路地裏から出てきて一誠に飛びかかった。
クリアンスは疾呼する。
「離れろ!巻き込まれるぞ!」
「「え?」」
その警告で思わず上を見て大きく目が見開く。目の前の脅威と死が迫ってる意識をしてしまったことで体が硬直し、すぐに動けそうにない二人を"個性"で何とかしようとしていたクリアンスより速く一誠が動いた。
そして同時にダイヤの両足が一誠達三人を踏みつけ、激しく地面を揺らし建造物を滅茶苦茶に破壊した。突風も吹き荒れ離れているお茶子達の体を吹き飛ばさんとぶつかる風を受けながら絶叫の声が。
「ひょ、兵藤ー!?」
「一誠君ー!」
完全に踏み潰された。そう思っても過言じゃないほど、巨大な足は深く地面に突き刺さっている。モクモクと発生する土煙りはダイヤの足を包み隠し、状況が把握できない状態に。
「死んだか!?死んじまったのか!?」
「馬鹿なことを言わないでっ!」
「で、でも・・・・・今完全に・・・・・っ」
「死んでないっ!一誠君は、絶対に死んでなんてない!」
絶望と不安がお茶子達の間で支配して緊張も走る。数秒経過しても一行に何かが変わる気配が微塵も感じられない。
「・・・・・マジか」
未来視で危機を回避した重勢が脂汗を顔に引き攣った笑みと共に浮かべた。
「・・・・・やべぇ、俺達。とんでもねぇ奴を相手にしてたのかよっ」
三秒後、事態は急転する。
その三秒後―――ダイヤの足裏から真紅のオーラが奔流と化しながら迸った。土煙りを吹き飛ばし、地の底から這い上がったような声が障子の複製した耳に届く。
覚悟しろ―――。
ドゴンッッ!!!!!
ダイヤの片足が本人の意思とは関係なく上がって、不安定な態勢となり建物を壊しながら尻餅をつく。
そうなった本人とそんな光景を目の当たりにした一同は仰天する。一拍遅れて、凹んだ地面から真紅のドラゴンを模した全身鎧を着込んだ人物と二人の女子生徒が浮いて現れた。
「な、なんだありゃ・・・・・?兵藤、なのか・・・・・?」
見たこともない鎧を身に纏い現れた相手に目を大きく開いて唖然とする。隻腕な人間は知っている限り一誠しかいない。一誠が鎧を装着していると認識したのは、二人の女生徒をクリアンスへ浮かしながら渡した際に放った声だ。
「そこまで戦いたいなら待っていろ。すぐに片づけてやるからよ」
起き上がるダイヤを見つめた一誠の全身からさらに膨大で極光の真紅のオーラを放つ。
全身の肌がビリビリと突き刺す痛み、強烈なプレッシャー。今まで感じたことがない形容しがたい何かが場を支配する。
「龍化」
鎧が内側から鈍い音を立たせながら盛り上がり、一誠の体が膨張し続けることで鎧は弾け飛ぶ。肉体と骨が形を変え、膨れ上がり、姿形さえも人から本当の意味での怪物に変貌して。
『望み通り、戦ってやるよダイヤモンド野郎』
二対四枚の翼と長くて野太い尾、長く大きな一本の鋭利な角を生やす全長百メートルはあるドラゴンとなった宙に浮く一誠を誰もが見上げるしかできないでいた。
「だ、誰だよお前・・・・・っ!?なんなんだよ、その"個性"は・・・・・!?」
『応える義理は、ないな』
翼を羽ばたかせるだけで建物の窓ガラスが木端微塵に割れる。建物の被害など頭にない一誠はダイヤに向かって飛翔する。身構えるダイヤの体に躊躇なく肉薄して衝突。
拳を振ってダイヤモンドの顔を殴る。宝石の破片が散らばる最中、魔力で構成した拳でまた殴る。
「ぶっ!こ、この野郎っ!」
負けじと殴り返す。その拳の先は腹部。鳩尾に突き刺そうとした思惑は巨大な真紅の手にあっさりと阻まれ、逆に掴まれそのまま持ち上げられる。
『ちいせぇな』
体と体格の差が大きく違いを示されるダイヤは一誠の手によって文字通り振り回される。何度も市街や地面に叩きつけられ手も足も出せないダイヤ。
「つ、つえぇ・・・・・」
「俺達の出る幕ないな」
怪獣映画を見ているような気分と感覚を覚える。この場合、ヒーローが怪獣を倒すのが定番なのだが・・・・・今回ばかりは覆される。
「いい加減に、しろぉおおおおおおおおおおおおっ!」
掴んでいる手に掴んで今度は全身で腕にしがみついて振り回されないようにした、が。
それは攻撃の的になるだけで一誠の口から吐く火炎をもろに食らう。
「ぐああああああああああああああああああっ!?」
世界一硬い宝石といえども熱は伝わる。全身を焦がす燃える炎を堪えられないと手足を離して地面に落ちるも、一誠は容赦なくダイヤを鷲掴みにして―――あろうことか大きく蒼い空へ放り投げた。
空中では体の自由が利かない。ダイヤの状態を地上から見上げる一誠は大きく口を開け、魔力を集束する。
何を仕出かすか、クリアンスは阻止するどころか阻もうともしない。ただ見守る姿勢を保つ。
『食らえ―――』
高まった魔力が、天を穿つように口から伸びるビームは空から落ちるダイヤに―――。
「ち、ちくしょうがぁあああああああああああっ!!!!!」
直撃して空は真紅色に染まる。そんな現象をお茶子達は目の当たりにする。遅れて落ちてくるダイヤは巨人化が解かれ、地上に真っ逆さまに落ちた。
『待たせたな。次はお前だクリアンス』
次の獲物を狙う一誠。その対象は不敵の笑みを浮かべ臨戦態勢に入る。そんな一触即発の場に流れる放送で消された。
『連絡するよ。期末テストは中止、皆速やかに校舎に集合しなさい』
リカバリーガールからの報告で双方の戦意は失せた。元の姿に戻った一誠は意味深にクリアンスを一瞥してから踵を返してお茶子達の方へと移動する。
「さて、今回の期末テスト演習試験・・・・・そちらの生徒が故意的に試験の内容を無視したことに説明をしてもらいたい」
会議室で根津達から厳しい視線を向けられている三人の男女のアメリカン教師。
「説明は我々とそちらが二回ほど説明をした。なのにどうして合格した生徒に執拗な戦闘行為が行われた?」
「言い訳はするつもりはありませんよ。私達の教育上、切磋琢磨や向上心を強くして育成していますから。ですので、こうなることはわかっていました。それよりも・・・・・」
瞳に歓喜の光を孕ます青年。
「なんて素晴らしい個性ではないですか!すべてをねじ伏せる圧倒的な力!そして気高く迫力ある雄大な姿!まさしくあれこそがヒーローの象徴に相応しい!」
一人騒がしく盛り上がり言い続ける教師の隣で女性教師は真意を問う。
「当校の教師であるあなた方はあの"個性"を知っていましたか?」
当然、知らない根津達。知らなかったと言えば何を指摘されるかわからない。誰も喋らないのは根津の判断に任せているからだ。注がれる意味深な視線に察しながら問いに答える根津。
「彼だけでなく全ての生徒のことを把握するのが教師としての務めでは?」
「愚問なことをお聞きしました」
淡々と述べる女性教師。同じ教師として真っ当な返答だった。
「知っての通り、彼の"個性"は複数ある。しかし、どの個性も世界からすれば希少と町一つ破壊し尽くすだけの力が有している。それらを考慮してできる限り使用を控えるように我々教員は指導しています。が、破った彼にはそれ相応の処罰を与えます」
「あまり厳しすぎると教師に対して不快と不愉快を抱かれるのでは?」
「彼の心は純粋かつ、ヒーローを志す生徒の一人。そして生徒を一人前のヒーローとして指導していく我々教師。互いを尊重し、理解しあえるからこそ当然の結果と配慮。そちらの指導教育と変わりませんよ」
相澤も意見を述べ、口出し無用と言外する。それに気づいているかどうか定かではない彼女らは自然に立ち上がった。
「そうですか。では、私達はこの辺で。保健室にいる生徒の様子を見に行きたいので」
「全身火傷程度であればリカバリーガールの治癒で十分回復しているかと」
「彼女の素晴らしさはアメリカにも伝わっております。是非とも我が校に共々来てもらいたいものですよ」
その一方。一-A組では。
「おめー、あんな凄い"個性"があるのにどうして今まで使わないんだよ?」
「あの巨人よりデカくなれる"個性"見たことねぇ」
一気に注目の的となった一誠はお茶子達に囲まれているのだった。
「いや、無理だろ。逆に怖がられるほうだって」
「確かに兵藤ちゃんの言うとおりね。ヒーローって感じじゃないもの。怪獣、
「体育祭の時も、あんな大きいんじゃすぐに失格なっちゃうもんねぇ」
苦笑を浮かべるお茶子。そうだと溜息零す隻眼隻腕の少年を見て安堵で胸を撫で下ろす。
「一誠君が死んじゃったなんて思いたくなかったよ」
「流石に目の前で死なれると目覚めが悪いもんな」
「―――違うよっ!」
大声で否定したお茶子に一誠達から視線が集まった。その視線に気づいて気恥しげに目を泳がせて語る。
「そ、その・・・一緒に住んでいるんだし、私だけじゃなくて他の皆も一誠君に死んでほしくなかったんやと思うんよ」
「・・・・・」
死んでほしくなかった。その言葉にどこか懐かしさと申し訳なさが胸中で湧き上がる。無茶する自分に周囲から心配を掛けたことは何度もあった。無茶をしてでも強くなるには無茶をしなくてはいけないその矛盾。
これからも心配を掛けるだろう。なら、どうすればいい?静かに自問自答し、胸から聖杯を出してそれを隻腕の方へ傾けると。聖杯が光り輝き、肩から肉が盛り上がり無くなる前の腕と手が再構成した。
「悪いな。本当に心配掛けた」
「い、一誠君・・・・・腕が戻ったん・・・・・?」
「再生だ。あまり公にはできないけど、俺が使えばこの杯の能力で生命の理を覆す力を発揮するんだ。今見たように人体の再生も可能になる。今まで再生をしなかったのは自分に対する戒めだったんだが、それがお茶子達にとって罪悪感を縛らせていたんだよな」
再生した手で八百万に差し伸べる。その手にゆっくりと八百万は手を伸ばして握る。
「これで本当の意味で心配は掛けさせないでいられる」
生命を感じさせる手から伝わる温もり。
「これからもよろしく」
「・・・・・うん」
ホロリ、と目から涙を零す八百万。罪悪感という鎖が解かれと思う少女の涙はなんだったのか彼女しかわからない。
「―――素晴らしい光景ですね」
いつの間にいたのかわからないアメリカン教師が感激したと拍手をする。
「そして何より素晴らしいのは、その生命の理を覆すという"個性"!ますます君という存在の価値が高まる一方だよ兵藤一誠君!」
「価値、だって?」
「おっと気分を害したのであれば申し訳ない。アメリカでは当然の認識の一つだから気にしないでほしい。だが、その希少な"個性"。この小国であり極東の地にだけ力を発揮するのはあまりにも惜しい。もっと広大で素晴らしい場所で発揮するべきだと私は思う」
青年の教師は芝居がかかったような言動をしながら近寄った。
「どうかな。雄英から我が校に鞍替えしないかな?当校もそれなりに整っているがやはり劣っている部分もある。その劣っている部分はアルティメット・ハイスクールにあり、一流のヒーローとして指導できる教師と環境があるのだ。もし、君が望むなら他の方にも何でも用意してあげれるよ。特に子孫繁栄―――優れた母体を用意できる」
母体を用意すると敏感に反応するのは当然のように峰田であった。
「マ、マジかっ!?ハーレムが夢じゃない!?」
「下品な君に聞いてない。だが、間違ってないがね」
ゴミを見る目で涎を流す峰田を軽蔑し一瞥する。
「個性婚というやつさ。アメリカのヒーローは積極的に優れた"個性"だけ求め結婚する者は多いんだ。それ故、アメリカは一夫多妻制の制度が実施されて他の国にヒーローを派遣することも少なくない。自国だけでなくもっと世界中でも活躍できるためにね」
雄英と日本よりもやり甲斐があるよ?青年教師の勧誘の甘い言葉をガリガリと頭を掻く一誠。
「・・・・・ん、確かにそうかもしれない。他の学校のヒーロー科も興味はある方だ。でも、今の俺には返さなきゃいけない恩があるんだ。そっちの高校に鞍替えできないし、その子孫繁栄をするための母体は・・・・・」
意味深に笑みを浮かべ、不敵に言った。
「間に合っているんで大丈夫。というか、個人的に知らない女よりも知っている女の方が好きなんだ。付け加えれば、俺は恩を返す他にもやることがあるんだ。それらが全部終わるまでは日本から出る気ないんで拒絶させてもらいますよ。それでも強引に勧誘するなら」
席から立ち上がりながら真紅の全身鎧を纏って拳を突き出す。
「俺を倒してからしてもらおうか?そうすれば、そっちの教育と指導が優れていると実証できるもんだしな」
「―――――」
青年は言質は取ったと深い笑みを浮かべた。
「大好きですね。その考えは私好みだ。やはり力を持つ者は力で以ってして服従させるのが一番」
ペコリと深く頭を下げて踵返す。
「その言葉、お忘れない今日お願いしますよ兵藤一誠。いつか必ず我が生徒をあなたに差し向けますのでその時は否定しないでください」
それだけ言い残して青年の教師はA組の教室を後にした。場の空気も同時に和らぎ、
コンコン。ペタペタ。
「これ、どっからどうやって着てるんだ?」
「硬いな。本当に鎧なんだな」
好奇心と興味深々で鎧に触れてくる切島達によってしばらくの間、触られっぱなしでいることになった。
―――オイラが来た!(by峰田)―――
実技の試験が中止になったその日の夜。腕が再生したことで久しく一人きりの風呂を堪能することに。
底が深くまるでプールのように広い湯船でのんびりと浸かっている。
適度な温度の湯が体の芯まで温め、心も穏やかにしてくれる。隻腕ではなくなったためにお茶子達は風呂に入ってくることはもうないだろう。そう思いながら仰向けに浮かび、瞑目して流れる湯に身を任せて流され続ける。
「・・・・・気持ち良さそうに入ってるね?」
「おお・・・・・お?」
誰も入ってこないと高を括っていた俺に話しかける少女の声。目を開けると、バスタオルを体に巻いて体を屈んで見下ろしているお茶子の顔が視界に入った。なんでいるんだ?そんな疑問を浮かべている俺を他所に彼女も流れる湯船に入ってきて俺の傍にまで寄ってくる。
「何時もの感じ出来ちゃったよ。腕、再生したのにもう洗うの手伝う必要無いのにね」
「無い方が良かったか?」
「ううん、あったほうがいいよ」
習慣として馴染んでしまった体と無意識に来た様子だった。浮かんだ状態で苦笑いする彼女の顔を視界に入れ、姿勢を立て直す。
「そうか、そう言ってくれるなら俺も明日から正々堂々と料理を作れるもんだな」
「したがっていたもんね止めても」
「できるんだからしたいんよ」
それはそうと・・・・・と、お茶子にあることを尋ねた。
「なあ、俺の中に入ってきてどうだった」
「中に入って・・・・・?」
「ん」
徐に眼帯を外して濡羽色の眼を開放する。
「この眼を覗き込んで、俺の心の中に入ってきた。そのこと覚えてるかどうかわからないが、俺のこの眼を見た覚えぐらいはあるだろう」
「・・・・・」
コクリと頷きながら「うん」と彼女は言う。
「でも、本当に覚えてないけどどうして?」
「―――いくら個性と認識しても本当に個性なのかと思われるほど、俺はしてるからな。そんで、腕も個性じゃなくて物で再生した。それが個性とは最初疑わなかっただろうが、時間が経ってふと思う。―――あれは本当に個性なのか、って」
「でも、個性なんだよね?天使だってなれるし」
・・・・・ああ、そう認識されている。天使について肯定も否定もせずあからさまにはぐらかして本題に入った。
「・・・・・ちょっと話がずれたな。俺が言いたいのは、USJで俺の目から出てきた怪物が他にも俺の中に宿っているとしたらどう思う?言っとくが"個性"じゃなくて正真正銘の化け物と認識して」
「一誠君?」
心底不思議そうな目を向けてくる。そんな純粋な目で見られると、少し言い辛くなる。
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
「・・・・・」
―――麗日お茶子部屋―――
お茶子に呼ばれ、ベッドの縁に腰掛ける彼女を挟んで座りここにいない一佳と塩崎を八百万と耳朗の携帯で音量最大でスピーカー状態で揃って風呂場で一誠から聞かされた気になる内容をお茶子から聞かされている。
「一誠君は自分の"個性"は個性じゃないって言われた気がするんだ・・・・・どう思う?」
「それは・・・・・」
「・・・・・」
『『・・・・・』』
疑問を共有しようと打ち明けたお茶子から聞かされる会話の内容は八百万達も改めて疑問を抱かせた。
「私は一誠君は一誠君だと思ってるんよ。疑うなんてないしできない。でも、あんなこと言う一誠君は私に何を望んでいるのか分かんない」
『一誠さん自身と身の回りは色々と不思議だらけですが、受け入れるとさして気になることも疑うこともしなくなりますわね』
耳朗の携帯から塩崎の声が聞こえる。一誠に対して、「疑う」という気持ちと概念が薄れているのだとそう言う同じクラスメートの一佳が指摘する。
『でも、一誠は一誠だって思っているなら一先ずそれでいいんじゃない?確かに個性については気になるけれど・・・・・』
「だけど、眼を覗き込んだその後が覚えてないなんて。だからあの時、一緒に寝ていたんだね」
「そして、お茶子さんが疑問を抱く原因でもあります」
右目に何らかの秘密がある―――そう思った時間は大してかからなかった。
五人の中で唯一、一誠の秘密を知っている一佳。最悪な結果にならずとも、一誠に対して怖がらないでほしいと思い、お茶子達三人に言う。
『ねえ、こんな時に言うのもなんだけど。ぶっちゃけ、麗日さん達は一誠のことどう思ってるの?』
「どう、とは?」
『異性として、好き?』
「「「―――」」」
そんな質問をしたから一人は火が出そうなほど顔を真っ赤に染めたり、もう一人は動揺、もう一人は恥ずかしげで顔が熱くなる自覚するほど頬に朱色が散らばった。
「な、何を言うん拳藤さんっ!?」
「そうだよっ。いきなり異性として好きとかって・・・・・っ」
『私は心から好きだと思ってるよ。でも、それは一誠さんの秘密も知って受け入れている上でだ』
お茶子と耳朗を遮る一佳の言葉に八百万が引っ掛かる。
「一誠さんの秘密を知っているのですか?それに今、一誠さんとお呼びしましたわね」
『うん、でもごめん。一誠さんの秘密はこれ以上言えないんだ。だから、知りたいなら直接知った方がいいと思う。もしも一誠さんのことが好きならなおさらだよ』
それをできるのは、同じ屋根の下にいる三人のみ。
『もしも、茨も含めて一誠さんのことが嫌いなら責めないよ。ただ、これだけはお願い。絶対に裏切らないであげて。一誠さんは誰かに裏切られるのは一番つらいって聞いたからさ』
「「「・・・・・」」」
何故だろうか。誰よりも一番近くに居て一番同じ時を過ごしているのに、拳藤一佳という少女の方が一番一誠のこと知っているような感じは。
「拳藤さんは覗いたことあるの?一誠君の右眼を」
『ないよ。だから覗けるなら覗きたい。その一誠さんの心の中ってやつをさ』
その声に羨望の気配が孕んでいた。自分が知らないことをこれから知られるかもしれないことに『後で教えて』とお願いを付け加える一佳。
『仮に皆が一誠さんのことが好きになったら、ヒーローとしても恋のライバルとしても負けないよ』
宣戦布告されるお茶子達。言い返す言葉を出す前に一佳が通信を切っていまい言えずに終えた。
『私もそろそろ寝ます。また学校でその話をしましょう』
塩崎も自ら通信を切って残された三人は顔を見合わせる。静寂が場を支配し、誰も喋らず時が経った時。
お茶子が立ち上がる。
「もう一度、見てくる」
場は変わり、夢の中に旅立っている一誠の部屋。暗闇で黒く塗り尽くされ物音一つもなく静寂な空間が作っている。安眠を妨げるものは何もなくそれを生じさせ、するものもない。天蓋付きのキングサイズのベッドの中心に規則正しい寝息と心臓の鼓動をする一誠はまるで誰かにキスされるまで目覚めることがない眠りの美女のようだった。そんな少年がいる部屋で誰も予想だにしない現象が起きる。翡翠色の光が仄かに発生して、次第に形を構成する。翡翠の光が構成するのは人だった。翡翠の二本の角が翡翠色の長髪から生えていて、綺麗な碧の相貌、整った顔と輪郭、絢爛な清くドラゴンを象った刺繍が施された着物を着込んだ女性へと成った。
女性は静かに物音を立たさず、ベッドの縁から上半身を屈み伸ばす手は一誠の頬に迫った。
誰にも邪魔されないこの状況下でシルクの様な綺麗な手が少年の頬を触れると女性の顔に微笑みが浮かぶ。
寝顔を数秒ぐらい見た後、着物の胸元から手を入れ首に掛けていた翡翠の宝石を取り出す。それを一誠の手の中に収めると同時に扉が開く音に反応して女性は視線を向ける。開けた扉の向こうからお茶子達が立っていて、見知らぬ女性がいることに仰天する。驚愕の反応を示す少女達に対して女性は静かに頭を垂らした。全身が淡く光り輝き、徐々に光の強さと一緒に存在感が弱まり薄くなって透明になる際―――。
「また近いうちに伺いします。そう兵藤一誠にお伝いください」
「えっ―――!?」
それだけ言い残し、女性は完全に消え失せた。一誠とはどんな関係なのか、消えた女性は何者なのか。今のお茶子達は知ることはできない。できるとすれば、一誠だけかもしれない。ベッドに近づき、ここに来た本来の目的を果たすべく、一誠が眠るベッドに乗り右眼の眼帯に手を伸ばす。
「・・・・・いくよ」
「「・・・・・」」
眼帯を外された右目の瞼を軽く押し上げて濡羽色の瞳を覗き込む三人の意識は、吸い込まれていくような感覚を覚え・・・・・目の前が真っ黒になった。
意識が戻ると、三人は何もない暗闇の空間にいることに気づく。ここが一誠の心の中なのか、と疑うほど真っ暗だった。背中を合わせ、警戒と何かに対して身構えているお茶子達の目の前にソレが現れた。
『一度ならず、今度は他の人間まで来るとはよほど物好きの人間のようであるな』
暗闇の向こうからヌゥと出てくる凶暴で凶悪そうな紫色の体に血のような赤い眼の巨大な怪物。
ドラゴンと化した一誠とは違うが、目の前の怪物は一誠と同じドラゴンであると悟る。
『ここに来た目的はなんだ』
「・・・・・っ」
顔を近づけてくる怪物に戦慄して畏怖の念を抱きながらもハッキリと言った。
「い、一誠君のことが知りたいです」
赤い目が細まる。怪訝な気配をその眼から窺わせる怪物。
『知ってどうするつもりだ』
「どうする・・・・・?」
『知ったところで兵藤一誠はどういう存在なのか、それだけ知って他は何も変わることなどない。人間では知らない方が幸せということもあるそうだがさしずめお前達人間もそうではないか?』
その問いに否定しないお茶子達。しかし、どうしても知りたいと訴えた。怪物は少女達をしばらく見つめ口を開こうとした。
『いいでしょう。その気持ちが偽りではないのであれば教えてあげます』
真っ暗な空間が一変して、緑の草原に森林、青い大海原、蒼天の空、白い雲と景色になった他。お茶子達を囲む怪物達がいつの間にかいて見下ろしていた。
『メリア、お前は甘すぎる。そう簡単に我が主のことを教えていいものではない』
首と口が三つ、眼が六つの紫色の発光現象がしている黒いドラゴンが呆れ口調で黄金の怪物に向かって言う。
『力を示せとゾラードが言いそうなのでしたから。いくら精身体だからと言えど、力が発揮もままらない状態で戦っても酷ですよ』
『んだよ、踏み潰しちゃいけないってか』
《食べちゃ駄目なの?》
『駄目ですよどちらも』
USJで見た怪物と、保須市で起きた事件の動画を見た怪物が樹木の怪物に窘められる。メリアと呼ばれた怪物は周囲の怪物を見まわし『私が相手をします』と告げると、怪物達が各々とどこかへ飛んで行ったりその場に佇んだりと行動をした。お茶子達がその光景を見て、メリアの全身がまばゆい光に包まれ、巨大な体が縮小、輝きが消えたら豊かな金髪に翠の瞳の人間の女性となった。同性から見れば、絶世の美女と思ってしまうほど美しい女性がほがらかに話しかけた。
「この姿では初めてで、まだ本来の名前も名乗っていないですが塩崎茨と麗日お茶子と会うのはこれで二度目ですね。私は『
「え、あ、は、初めましてっ」
「わ、私は・・・・・」
「耳朗響香と八百万百ですね。知っております。主の中から窺っておりますので」
窺っていた?見ていた?どういうことだと疑問符を信じられない表情を浮かべる。
「では、我が主の兵藤一誠のことについて。何から知りたいですか?教えれる範囲内であれば何でも教えます」
そう言われ、まず何を知ろうかと考え・・・・・お茶子が最初に問うた。
「一誠君の個性は、個性ですよね?」
その問いは、否定だった。
「違います」
「ち、違う?」
「摩訶不思議な能力であることは同じですが。ただ呼称が違うだけの単純な違いです。主が今まで使ってきた能力は一部除いて―――
"個性"じゃなく
「一部除いてってどういうこと」
「例を挙げれば、ドラゴンと化したあの力ですね。あれは兵藤一誠自身が持つ変身能力です。まあ、主は存在そのものが異形と申しましょうか。普通ではないことは確かです」
一誠自身が異形で、普通じゃない。それがどういうことなのか、耳朗は聞きたかった問いを投げた。
「さっきから一誠のことを主って呼んでるんだけどなんで?」
「主として忠誠を誓っていますから。それ以外にでも家族として、仲間として、女として愛しています。これからも主の中で見守り、主が力を求め協力を求めるなら私は、我々はそれに応じます」
「・・・・・メリアって、人間?」
「ドラゴンですが何か?」
さも当然のように言われ、反応に困る耳朗。お茶子は自分の中に怪物を宿していると風呂場で言われたことは事実なのだと改めて実感し受け入れた。
「正真正銘の化け物、ドラゴンですよ。あなた方人間からすれば」
「ドラゴンって、じゃあ、一誠も・・・・・そうなの?」
「そうだと申せば、なんですか?」
メリアから雰囲気が変わった。
「今更怖気つきましたか?兵藤一誠が人ではない、正真正銘の本当の化け物だということを。二度も救われたのは人間の皮を被った怪物だということを」
「ち、ちがっ・・・・・」
「待ってメリアさんっ」
戸惑、狼狽する耳朗を庇うようにお茶子はメリアと対峙して質問した。
「拳藤さんは一誠君のこと知っているの?」
「はい。存じ上げております。主がドラゴンであることも、自分の出生のことも」
「・・・・・そうなんだ」
一誠の秘密は他にもある。ここまで聞いて自分達は兵藤一誠という人物のことを全然知らないことが多かったことを痛感した。知ろうともせず、当たり前のように隣にいた自分がこれからもそうしていたと思えば。何と愚かな、何て無知だったんだろう、と。思わずにはいられなかった。
だけど、今から違う。
「―――お願いします」
お茶子はその場で土下座をした。
「一誠君のこと知りたいです!教えてください!」
メリアは目を一瞬だけ丸くした。土下座をして乞う人間は初めて見た。彼女から伝わる気持ちとその意思は本物であることを、メリア以外にもこの場にいるドラゴン達も察した。
そしてお茶子に続き、八百万と一拍遅れて耳朗も習って土下座をした。
「・・・・・何も、土下座まですることでは?」
「確かにそうかもしれない。だけど、私達は一誠君のこと知らなすぎたんだ。だから、申し訳ないと思った上で本当に知りたいんです」
「・・・・・」
「だから、メリアさん。どうか教えてください。お願いします」
後に二人も懇願の声を発する。土下座をする三人の少女達は沈黙を貫くメリアが何か言うまでずっとその姿勢を保った。
『おやおや、これはメリアの負けですかねゾーラド?』
『負けも何もないだろうラードゥン』
見守っていた内のドラゴン達が言葉を漏らす。ゾラードは鎌首を後ろに向ける。
『あいつらに劣らず慕われているようだな主よ』
主という単語、条件反射でバッと顔を上げて、最初に近寄って歩いて来ている一誠の姿が視界に入った。件の本人が目の前にいて思わず目を丸くする。一誠はお茶子達の姿勢に心底不思議そうに首をかしげる。
「アジ・ダハーカから言われて来てみれば、なんで土下座してんの?」
「愛している主を思ってこその行動かと」
「「「っ―――!?」」」
揃ってメリアの発言で仰天の表情と顔を真っ赤に染める三人娘。大して一誠は三人を見つめ照れくさそうに「そっか」と漏らす。
「ありがとうな。好きでいてくれて、俺も好きだぞ異性として」
「「「―――っ」」」
心の準備ができる前に愛の告白を受けてしまう三人にメリアは忠告の言葉を。
「気を付けてください?主は好意を持ってくれる女性に対して全力で愛を注ぐ方ですが、独占欲が強い方でもありますから」
「ちょっ、まっ、メリアさん!?」
「ウチはそんなんじゃ―――」
何か言いたげなお茶子と耳朗の傍に寄っては声を殺し何か言っていると。二人の顔は火が噴き出そうなほど耳まで真っ赤に染まった。
「う、うううううっ!?」
「な、なんでっ・・・・・・!?」
どうやら二人にとってかなり恥ずかしい話の内容のようで、その反応は凄まじかった。
「言い逃れはできませんからね?」
この時のメリアは腹黒く、黒い笑みを浮かべていたのを一誠達は見なかったことにした。
「そういえば、一誠さん・・・・・少しお聞きしたいことが」
「ん?」
「私達、見知らぬ女性とお会いしたのですが一誠さんのお知り合いですか?」
「女性?どんな女性だ?」
八百万から女性の特徴を聞いた途端、一誠の顔に驚愕の色がハッキリと浮かび上がった。
「それ、間違いないのかっ!?」
「え、ええ・・・・・」
珍しく叫ぶ一誠に目を丸くする八百万はさらに忽然と姿を消した一誠に驚く。
「よもや・・・・・あの方がいらしていたとは」
「え、知ってるのですか?」
肯定と首を頷くメリア―――といきなり目の前の景色が歪み始めた。否、全てが歪になっていきお茶子達は動揺する。
「主が目覚めようとしています。あなた達もすぐに目覚めましょう」
その言葉を最後に三人の意識は目の前が再び真っ暗になったのと同じタイミングで失った。
いち早く目覚めた一誠は手の中にある翡翠の宝石を気付き、溜息を零す。
「来てたなら、一言声掛けてほしかったな」