中止になった演習試験は後日、今度は
「兵藤。お前、林間合宿当日まで謹慎処分だ。帰っていいぞ」
「は・・・・・?」
「「「ええええええええええええええっ!?」」」
A組担当の相澤が入ってくるなり謹慎処分を食らってしまう。訳も言ってもらえず、問答無用の処分に仕方なしと帰宅する最中。
「アメリカの連中にこれ以上刺激は与えられないからな」
擦れ違い様に相澤先生からそう言われた。なるほど、そういうことか。処分の理由に納得してさっさと教室を後にしたその途中。校長の根津と鉢合わせして、何故か校長室に来てほしいと言われた。
教室では一誠の処分について納得できないとお茶子が講義していた。
「先生、どうして一誠君が謹慎処分にっ!?一誠君は何も悪いことなんてっ」
「これは正式なことで本人も自覚しているから問題ない。ハイ、この話はお終いだ。HR始めんぞ。時間は有限ださっさと席に座れ」
一誠と教師達にとっての不都合、多分あの演習試験でなったドラゴン化のことだろうか。それが本当だったら秘密だったのに明かしてしまった。アメリカも知ってしまったし、それについて雄英が質問攻めを恐れている?納得ができないまま授業は始まる。
―――校長室。
「私の考えは以上だけど、どうかな。できるかな?」
「思いきった考えをするんだな校長先生。まあ、不可能か可能と言えば可能なほうだ」
手の中の資料をテーブルに置きながら肯定する。
「けど、どうしてこんな案を?」
「最近、君達が・・・・・いや、オールマイトが教師として活動をして以降の
テーブルを挟んで目の前に座っている校長の考えの意図を悟り、いま思っていることを吐露する。
「一先ずは対策としての考えだろうけど、これで安心したらダメだぞ。こう言いたくないけど・・・・・スパイ、内通者がいることも視野に入れた方がいいよ。俺の世界もそんな敵がいたから色々と苦労したことがあった」
「・・・・・」
校長が沈黙する。どこか考えたくもなかったとそんな雰囲気が伝わってくる。押し黙る恩人の一人に心から言う。
「出来るだけ協力するよ校長先生。手の届く範囲内のものを全力で守って破壊する。俺の力はそういうもんだからさ」
「うん、よろしく頼む兵藤君」
LUNCHRUSHのメシ処
「夏休み当日まで謹慎処分って・・・・・一誠がいない理由はそれなんだ」
「相澤先生は何を考えているのでしょうか」
昼休憩時。お茶子達は集い、一誠がいない事情を説明しては疑問を抱く一佳と塩崎。食堂はあの一件以来、生徒等はクリアンス達専用の席を暗黙で空けておいて食事をするようになった。会話の内容が内容な為、二階の隅のテーブルに座って会話を弾ませるのだった。
「予想だと。アメリカの人達に知られたくなかったからかもしれへん」
「"個性の革命"と呼ばれていますからね一誠さんは」
「それが違って、勘違いしているって言う意味を知っているウチ等も驚いたけど」
まだ何も知らない塩崎も簡略的に教えたところで五人は一誠の秘密を共有する者達となった。
「・・・・・それ以上に一誠君が異世界から来たって、まだ信じられないよ」
「でも、納得できるところあるだろ?」
一佳の問いにお茶子達は納得する材料が一誠にあることを認知する。だが、さらに疑問が浮上する。
「どうして一誠さんは異世界から来たのですか?来た目的もわかりますか?」
八百万の素朴な疑問に首を横に振って否と応じる一佳は言う。
「私も最初に聞いた時は半信半疑だったし、それにそこまで追求するのはダメだと思って聞いてない」
「うーん、確かに気が引けますわね」
「人の秘密を勝手に探ることだってあまりいいことじゃないしね」
一誠から教えてもらうのを待つしかない、五人はそう感じて話を打ち切った。主に一佳が別の話をする為にだ。
「で、三人は一誠のこと好きなの?」
「「ブーッ!?」」
上に向いて思わず飲んでいた途中の水を噴いてしまった。八百万ははしたない真似はしなかったものの咳き込んだ。それからお茶子と耳朗が一佳に真っ赤な顔で食ってかかる。
「な、なななな何をいきなり言うん拳藤さんっ!?」
「そうだよっ。何もここでそれを聞くことないんじゃんっ」
「秘密を知っている者として、同じ人に助けられた女として聞きたいんだよ」
真剣な眼差しを送ってくる一佳の目を見て動揺が収まる。
「あの人のことが好きなのに遠慮されちゃ私は嫌なんだよ。好きじゃないなら遠慮なんてしなくてもいいし、好きなことを知っていながら独占もしたくない。だから知りたいんだよ今の皆の気持ちをさ」
グッ、と拳を握りそれを前へ突き出す。その意味は何なのか一佳自身が明かす。
「好きなら拳を突き出して、そうじゃないなら拳を膝の上に置いて。それで気持ちがわかるから簡単でしょ?」
「どうしてその決め方なのです?」
塩崎の素朴な疑問は楽しげに笑みを浮かべだす一佳。思い出すのは初めて出会い、特訓をしていた時のこと。
「受け売りだけどさ。一誠が言ってたんだ。戦う時は口じゃなくて拳とか剣で語るんだって。それを見習ってこの決め方なんだ」
「なるほど、一誠さんに影響されておりますね一佳さん」
性格と"個性"上、一誠の影響を受けるも当然かもしれないクラスメートの拳に突き出す。
この瞬間、改めて恋敵となった塩崎から一瞥してお茶子達の方へ見つめる。
「あんた達の気持ちは?」
恥ずかしくもあり覚悟を決めなければならない麗若き乙女たちの恋バナがある意味修羅場化としている一方、奴らが三度動き出そうとしていた。退ける度に力を増して―――・・・・・・。
バー的な雰囲気のビルの中に今現在注目の的である三人の
調達された武器の手入れを無心でしている赤黒血染、
グラスを磨く作業を延々とする霧の男『黒霧』。
席に座って兵藤一誠の写真を一心に見つめる顔に人の手の飾りを付けている男『死柄木弔。』
息を殺して次の襲撃の機会を窺い待っていた三人がいるバーに初めてて客が入ってきた。
扉にノック音がして死柄木弔は振り向いた。
「死柄木さん。こっちじゃ連日あんたらの話で持ちきりだぜ何かでけえ事が始まるんじゃねえかって」
入ってきたのはメガネを掛けた中年男性だ。ビジネススーツを身に包めば似合っていそうだが、人を食ったような顔で印象を台無しにしている。
「で、そいつらは?」
写真を握り締め、個性で塵と化する死柄木弔の問いに中年男性は口の端を釣り上げ、
「一人足んねぇが本当に脱獄してたんだなァ・・・・・生で見ると気色悪ィし」
「うわぁステ様だ、生のステ様がいる!凄い!私も入れてよ!
黒髪に顔中ツギハギだらけの青年と猫目で両サイドに髪を結んだ女子高生を中へ招き入れた。
「・・・・・」
青年と女子高生の発言で嫌そうな顔を隠そうとしない死柄木弔の指が真っ直ぐ二人に指す。
「黒霧こいつらトバせ。俺の大嫌いなもんがセットできやがった。―――餓鬼と礼儀知らず」
「まァまァ・・・せっかくご足労いただいたのですから話だけでも伺いましょう死柄木弔。それに」
中年男性の方へ視線を向ける黒霧。
「あの大物ブローカーの紹介。戦力的に間違いはないハズです」
「何でもいいが手数料は頼むよ黒霧さん。まぁ、死柄木さん。黒霧さんの言うとおり紹介だけでも聞いときなよ」
そう言ってブローカーの男性は女子高生の方へ親指を指す。
「まずこちらの可愛い女子高生。名も顔もしっかりメディアが守ってくれちゃってるが、連続失血死事件の容疑者として追われてる」
紹介された女子高生は死柄木弔とステインに視線を向けながら嬉々として口を開いた。
「トガです!トガヒミコ。生きにくいです!生きやすい世の中になってほしいものです!あとステ様になりたいです!ステ様を殺したい!だから入れてよ弔君!」
「・・・・・」
自分を殺したいというトガの発言で無言と無視を貫いていたステインの手入れをしている手が止まった。
ステインの粛清対象に入ってしまった事を黒霧は察し、何時でも個性で制する姿勢に整える。
「意味がわからん。破綻者かよ」
「会話は一応成り立つ。きっと役に立つよ。次、こちらの彼。目立った罪は犯してないが、ヒーロー殺しの思想と兵藤一誠の言葉に感銘を受けてえらく固執してる」
青年はトガに顔を向ける。
「・・・・・まさかこのイカレ女入れるんじゃねえよな?入れたら大義なんてなくなるぞ。不安だな・・・・・」
「おいおい、その破綻JKすら出来ることがお前はできてない。まず名乗れ、大人だろう」
そう言われて青年は死柄木弔に振り返る。
「今は『荼毘』で通してる」
目細める死柄木弔。通してるということは偽名である。本来の名を語らない理由を死柄木弔は興味無いがイラつく。
「通すな。本名で通せ」
「出すべき時になったら出すさ。とにかくヒーロー殺しの意思を俺がダークヒーローとなって継ぐ」
刹那。トガと荼毘の首筋に銀色の軌跡が走った。しかし、空間に渦巻く黒い霧が刃を二人から守って防いだ。
「いけませんステイン。彼を殺してはなりません」
「・・・・・ハァ」
躊躇のない鋭い斬撃を放ったステインにステインを求めてやってきた二人は目を丸くした。
「さっきから聞けばお前ら、ハァ・・・・・俺を殺したいだのと意志を継ぎたいだのと・・・・・お前らから信念、想いが一切感じられない。お前らも他の贋物と変わらない、粛清対象だ」
二人に殺意の籠った視線が向けられる。
「奴だけだ。今のヒーローの在り方に疑問を抱き、俺の思想に賛同した兵藤一誠から強い思想を感じた。お前らは俺の影響に受け、あてられただけの中身がからっぽな子供でしかない」
ステインは横目で黒霧を見る。
「兵藤一誠の居場所を知っているか」
「何を・・・・・?」
「奴をここに案内しろ。話がしたい」
その日、家に戻った一誠はまだ帰ってきていないお茶子達を他所に自分の趣味を久しぶりに没頭でもしようかと考えてた矢先。すぐ後ろで気配を感じたことに条件反射で振り返ると空間に渦巻く黒い霧が発生していた。
その原因は何なのかすぐに察知し、深い溜息を吐いた。
「自分から捕まりに来たのかよ」
「捕らえるとどうなるかお忘れになられてないでしょう兵藤一誠」
「んじゃ、何の用だよお互い敵同士。人の家に個性で不法侵入されちゃ堪ったもんじゃない」
渦巻く黒い霧に目の様な眼光が走る。相手が誰なのか一誠は理解している上で問うている。
「私も出来ればあなたの前に単身で現れたくないのですが、ステインがあなたとお話がしたいと求められましてね・・・・・」
「・・・・・ヒーロー殺しがか?」
「来てくださいますか?でないと、私も困ってしまいます」
何気に苦労しているのか?黒霧に対する印象がちょっぴり改まる一誠は、話だけならと同意する。
「胃腸薬あげようか?」
「なんのことですか?」
そして、一誠は二度目の
「あいつは?」
「どこかに出かけられました」
「あっそ。まあ、どっちでもいいんだけどな」
自分を黒霧で呼び寄せたステインの前にテーブルを挟んで座る。カチャカチャと食器を手にする黒霧を意識から放して目の前の人物へ意識を向ける。
「話ってのはなんだ?」
話を切り出す一誠。ステインは静かに口を開き語り始めた。
「お前は俺の理解者であり同じ思想を持つ」
「うん?うん」
本当の意味のヒーローとは何たるか―――。そのことなのだろうと、とりあえず肯定した。
ステインは言い続ける。
「お前と俺の言動にあてられた奴らが現れた。が、信念や思想など感じられない子供だった。忌々しい、俺は偽善と虚栄で覆われた歪な社会を正す為、本当のヒーローの忘れ知らずにいる贋物どもを、徒に"力"を振りまく犯罪者の粛清をして気付かせていただけだ。結果的に俺を求めに来た奴らも粛清対象になっただけだった」
憤怒に似た感情を胸中で抱いるらしいステインが吐露する。横から飲み物を持ってきた紳士的な黒霧から受け取りながらも話を聞く耳を持たせる。
「お前もそうだろう。勝手に勘違いをして不快感を覚えるはずだ」
「・・・・・」
わからなくもない、素直な気持ちでそう浮かんだ一誠。だが・・・・・。
「今のお前はオールマイトみたいになっているからじゃね?」
「・・・・・」
自分自身がオールマイトみたいに?ステインらしくもない呆けた表情を浮かべた。それが珍しいと携帯のカメラで一枚撮った。
「お話を伺っても兵藤一誠?」
「別に大したこと言っているわけじゃない。ステインの思い、思想とは程遠い連中なんだろうけど、『ヒーロー殺しステイン』という男が心から恰好いいと感じたからあてられたんだろ?俺は言ったよなお前をダークヒーローって」
荼毘がダークヒーローになりたいと言っていたことを黒霧は思い出す。
「お前にとって有象無象の粛清対象だろうが、お前を求める連中はお前のことオールマイトみたいな男で恰好いいと感じ感化されたんだ。故にステインの思想と信念とは程遠く違いはあれど、お前の言動に感銘受けた奴の中で芽生えた『現在の社会を壊す』だけは共通してるんじゃないか?」
「―――――」
(兵藤一誠・・・・・一度
内心感心する黒霧の心情を露も知らず、ステインと一誠が今のヒーローと社会に対する議論を始めた。
会話が思いのほか弾んでお茶子達が帰宅する一時間前まで続いた。家に送り帰させられる際には、
「兵藤一誠、我々の仲間になりませんか?」
「いや、無理だから」
朗らかに誘われた。
―――俺が来た!(by飯田)―――
「一誠君、異世界に帰りたい?」
その日の夜の夕食中。いきなりそう問われた。耳を疑い、目は驚きで丸くなり食卓を囲む一人の少女の言葉に唖然となった。
「異世界・・・・・?」
「拳藤さんから聞いたよ。一誠君のこと」
情報源はどこからなのか知った途端、思わずため息が出た。
「そっか、聞いたか」
「うん」
彼女達は視線を真っ直ぐ純粋に向けてくる。元の世界の帰還を望むか否・・・・・か。
「可能だったら一度帰りたいな。でもまたこの世界に戻りたい」
「戻りたいって、どうしてなん?帰れるならそのまま・・・・・」
「俺を拾ってくれたオールマイトの恩返しに、約束を果たしたいからだ。ヒーローになる約束を果たすまではまだ帰れないんだよ」
「じゃあ、ヒーローの活動認可の資格を得たその瞬間。元の世界に帰るんだ」
耳朗が確認するかのような発言には首を傾げる。
「どうだろうな。今でも元の世界に帰る方法とか手段とか、全然わからないのと検討もつかない状況なんだ。資格を得たとしても今の状況が卒業してから数年、数十年、最悪百年後ずっとこの世界に生き続けるかもしれないんだ」
「百年って、そこまで生きられるの?」
「信じてくれようとは思わないけど、軽く1000年以上は生きれる自信はある」
絶句するお茶子達の顔をパシャリと携帯で写真を撮る。
「ほ、本当に1000年も生き続けられるのですか?」
「ドラゴンは寿命が長いんだ。それも半永久的に。まだそこまで生きてないけど俺もそのぐらい生きるから、自発的に死なない限り永遠に待ち続けられる」
俺もただ待つだけじゃない。自力でなんとか戻って見せるつもりだ。今はわからなくてもこれからわかればいいだけの話。時間は有限と相澤先生は言うが俺にとっては無限に等しい時間がある。
「寂しく、ないの?」
「麗日?」
そう問うたお茶子。横から不思議そうに耳朗が呼ぶけれど彼女は俺に視線を向けたままだ。
「1000年以上も生き続けて、一誠君は寂しくないの?あと数十年で死ぬん私達と違って一誠君はそれ以上生きるんだよ。絶対に寂しいよきっと」
「・・・・・」
寂しくないと言えば嘘になる。だけど・・・・・。
「寂しいと言ったら、何なんだお茶子?」
「・・・・・」
「寂しくないはずがないだろう。俺を残して皆、人間は子孫を残して死んでもその子孫がまた子孫を残して死んで逝く。何時しか、俺が知っている人間は過去となって懐かしむほど寂しくなる。できれば、俺と一緒に何時までも生きてほしいぐらいにさ」
って、言っても無理な話か。人間を辞めてまで生き続けたいなんて思う人間はどれだけいようが殆どは思わないだろう。黙っているお茶子は何も言わず、じっと話を聞く姿勢のまま見つめてくる隣にいる百は伺うタイミングは今だと思ってか話しかけてきた。
「・・・・・一誠さんは最初からドラゴンで人間ではなかったのですか?」
「いや、俺は元人間だ。人間からドラゴンに転生したんだ」
「転生・・・・・?」
そう、と首肯して説明口調で語る。
「俺の世界では、個体の種族を姿も変えず別の種族に転生するシステムがあるんだ。悪魔になれたり堕天使になれたり天使になれたり」
「「「へぇ・・・・・」」」
感嘆の声を漏らす三人。流石は異世界、と感じているだろうか。
「それが本当だったら、一誠はどうやってどんな感じでドラゴンになれたんだ?」
「うん、小さい時。クソ兄貴に包丁を刺されて死んだときにたまたま通りかかってきたドラゴンに助けられた際にドラゴンとして復活をしたんだ」
「「「・・・・・え?」」」
ん?何か気になることを言ったか。普通にありのまま説明したはずなんだが。ガタッ、と三人揃って立ちあがって俺に迫った。
「一誠君、兄弟いたん!?」
「一誠さんが弟とは、驚きましたわ」
「てか、死んだってウソでしょ?」
そこの最後、嘘を吐く理由がないぞ。
「いや、死んだよ。周りは仮死状態だったって言うけれど俺の中じゃクソ兄貴に殺されたんだ」
「どうしてお兄さんが、一誠さんを殺すのですか・・・・・?」
「実家は実力主義の一族だったから。同世代と同年代の連中と比較的に一番弱かった俺はイジメの対象として立たされていたんだ。そんな俺に同じ兄弟として嫌悪感を抱いてな、助けるんじゃなく罵声や暴力・・・・・まあ、兄弟とは思えない言動をさんざん受けたよ」
過去のことを思い出しながら肩を竦める俺の視界に信じられないと雰囲気を醸し出す三人が映る。
「・・・・・一誠君は、お兄さんのことどう思ってるの?」
「赤の他人のこと考えてもしょうがないだろ。兄弟の縁を向こうから切ってくれやがったし、俺もクソ兄貴のことなんざ興味もない」
「じゃあ・・・・・いま兄貴はどうしている?」
気になるのは仕方のないことだ。だけど、俺がクソ兄貴に対する気持ちを出来れば察してほしい。
「とっくの昔に死んでるよ。やんごとなき事情で俺がこの手で殺した」
「っ―――!?」
「当然の報いだと思っている。同情も憐れみもない。俺の世界じゃ世界を巻き込んだ大事件が起きてな。敵を殺さないと平和が訪れない状況でもあった。そんなときにクソ兄貴は敵となって俺と戦った末に、俺に負けて死んだ」
絶句する三人から感じるのは戦慄。
「殺す、必要があったのですか・・・・・?」
「言っただろう。同情も憐れみもないって。まっ、クソ兄貴だけじゃなく俺の実家の同年代と同世代の連中は他の人間に対して暴力や恐喝、強姦と犯した犯罪を挙げればキリがないほど酷いことをしていた。クソ兄貴も例外じゃないから生かす価値もない」
心からそう思っている。俺はそう思っている。だというのにどうして哀れむような顔をする?
「一誠君・・・・・ちょっと恐い・・・・・」
「恐い?」
「だって、一緒にヒーローを目指しているんに人を殺しても何とでもなさそうにいるから」
うららかな彼女から思いもしなかった言葉が発せられる。でも、それが普通の認識と受け止め言い返す。
「そうでもしないと解決できない事件が多いんだ俺の世界は。目の前で敵味方が死のうとも、屍を乗り越えなきゃいけない現実を元の世界でさんざんしてきた。だから敵に対して手加減と容赦は一切しないつもりでいる。殺すことも躊躇しない。すればこっちが殺されるんだからな。死んだら元も子もない」
むしろ、俺にとってはこの世界は甘いと感じてるよ。ヒーローがなんとかしてくれる、ヒーローに全部任せる、ヒーローが解決してくれる―――そう思い込んでる人間とこの平和ボケた国に対してな。だからこそ、ヒーロー殺しの思想に共感する部分があるんだ。
「・・・・・一誠さんがお強いのは元の世界で起きた事件を、数えきれない修羅場を潜り抜けたからですか?」
「そうだな。でも、一番の要因はこのドラゴンの体と何時も傍にいてくれた家族だ。どんなに辛くても心が安らげる場所と人が存在しているから頑張れるんだ。それは、この世界で例えるならお茶子、耳朗、百・・・・・他にも一佳や塩崎も含めて心底安らげる大切な存在だ」
「だけど」と改まって俺は三人に問う。
「俺は絶対に敵に対して殺すことも躊躇しない。その考えは変えるつもりはない。そんな俺に恐怖を感じているなら、学校を退学して皆の前から姿を消すよ」
「「「なっ!?」」」
「何時かこの世界からいなくなるんだ。それが遅かれ早かれそうなる。だからもしもそうなったら、俺を気にせず自分の夢の為に切磋琢磨してくれ。俺は俺で帰る方法を模索する」
それが最良の選択―――。それだけ言い残して食器を片づけ、自室に戻った。
「・・・・・気にしないでって」
「今さらできるわけない・・・・・」
「それでも・・・・・私達は・・・・・」
顔を見合わせる三人の瞳に宿る決意を去る一誠は気付かず。
夏休み―――林間合宿当日を迎えた。
キャリーケースやら大きな鞄を用意して玄関に集まる。これから雄英に皆と集合し強化合宿先に向かおうとしていた。
「よっしゃ、ぜってぇ楽しんでやるぞ!」
「うおっ、一誠君が何時にも増してテンションが高いっ」
「林間学校みたいだからな。俺、そういう学校の行事やイベントには一度も体験したことがないんだ」
ウキウキと心弾ませる俺に物珍しそうにお茶子達が見つめてくる。実際、俺は学校の行事とは殆ど縁がないに等しい。―――殆ど修行や戦い、闘争の日々を過ごしていたんだ。異世界に来たからには何が何でも体験できなかったことを体験して心から楽しむんだ!
「だから、色々と遊べる道具をたくさん用意したんだ」
「・・・・・それ、全部?」
パンパンになっている鞄が二つ、それに指さす耳朗に笑みを浮かべて頷く。
「皆で寝泊まりはしているが、学校の行事での寝泊まりは初めてだから楽しみなんだ」
「そうですわね。違う環境で過ごせば意識や気持ちも変わります。その気持ちよくわかりますわ」
そういう百は腕に巻いた時計を見て「そろそろ行きましょう」と俺達に促す。遅刻すれば相澤先生あたりに文句を言われかねない。扉を開ける耳朗に続きお茶子、百の順に駐車場へ足を運ぶ。最後は俺が靴を履いて扉を潜るつもりで足を動かした矢先。
足の力だけでなく、全身の力が一瞬で抜けて荷物に押し潰される形で床に倒れ込んだ。
「・・・・・っ?」
力が・・・・・出ない?いや、何だこの現象は・・・・・何で体に力が入らないっ!?
「一誠君?一誠君!?」
戸惑う俺に異変に気付いたお茶子の声が俺の耳に響く。
学内バス停に集合するA組B組のヒーロー科生徒。ほぼ全員集まっており出発五分前となってもA組の生徒が四人来ていない状況になっていた。
「・・・・・遅い」
合理的な行動を好む相澤から不穏な空気が醸し出している。緑谷達も何か遭ったんじゃないかと顔に浮かべる。
「―――は、まさかっ」
「どうした峰田?」
プルプルと震えだす峰田実に切島が小人の様な身長のクラスメートに見下ろして問うと。
「兵藤の奴、麗日達と夜遅くまでイチャラブ的なけしからんことをしていたから遅れていやがるんだ!?この前、八百万と耳朗がとんでもない目に遭って兵藤が傷ついた女の心の隙を突いて性的な目的で慰めていたに違いない!」
己の予想に疑いはないと峰田に女子達から抗議の声を投げられる。
「峰田ちゃん。兵藤ちゃんに殺されるわよ」
「てかっ、そんなことしそうなのは峰田だけだよ!」
「そーだそーだ!兵藤君がそんな最低な男子じゃない!」
大声で会話をしていた為にB組(女子)からも非難の眼差しを向けられていた事に峰田は気づいていなかった。
「イレイザー、どうする」
「・・・・・」
B組の担任ブラドキングはこの状況の対処を求めた。連絡がない以上、無断欠勤扱いになるがまだ来ていない生徒が生徒だ。何かに巻き込まれた、あるいはこの場に来られない事情が起きたのか予想すればキリがない。逡巡して相澤は息を吐いた。
「ブラド、悪いが俺の生徒と一緒に先へ行ってくれ」
と、そう言おうと口開いた時であった。空の向こうから件の四人が焦燥の色を浮かべながら飛んできた。
特にお茶子の表情を見て、彼女に肩を貸してもらっている一誠の頭が垂れて表情が窺えない事に相澤は目を細めた。
「せ、先生・・・・・!」
「遅刻ギリギリだ、と言いたいところだが。兵藤に何か遭ったか」
「分かりません。突然倒れて・・・・・意識はありますけど体から力が入らなくなったって」
お茶子の説明を聞き病人の様にぐったりしている一誠の顔を覗き込んで問いを投げかけた。眼帯を付けた右目と対極的に強い意志の光が宿った左眼は覗きこんでくる相澤を捉えた。
「兵藤、自分の身に何が起きているか説明できるか」
「指先すら動かせないほど力が入らない。俺でもこの体の状態になった原因が分からない」
「病気とか
「それはない。でも、呪いの類ならあり得るかもしれないけどそんな
既に自分達は狙われている?先に一誠を潰せば後はどうにでもなると踏んでの奇襲か。
「・・・・・」
考えても仕方がない、対処はこれから行く先まで考えればいいと判断する相澤は生徒達をバスに乗車する催促の声を投げた。
「いいのかイレイザー」
「リカバリーガールも忙しい。原因を調べるため病院に搬送してもらうにしても兵藤の命を狙う輩がいないとは限らない。だったら少なくとも数多く戦力となる俺達が何とかするしかない。合宿中もしかしたら元に戻る可能性もある」
「そうか、ならいい」
教師として、ヒーローとして判断した相澤を信じブラドキングは自分のクラスの生徒達とバスに乗り込み始める。
「・・・・・で、何で俺はこんな状態で・・・・・」
横に寝かされている一誠の下では柔らかく温かい無数の太股が敷かれていた。敷かれていたというよりまな板の上の鯛の状態の一誠が後部座席四列に座っている三人の女子達の太股の上に動かせれない体を横たわらせたのだ。一人分の男の重量は華奢な女子達にとって重みが確実に感じるはずが、そこはお茶子の
「補助席じゃ一誠君倒れそうだし」
「一番安全性ある座り方の方法を考えましたら」
「・・・・・こうなったわけだよ」
そして頭のは耳朗、胴体の部分はお茶子、腰辺りは百の脚の上に乗せられている一誠だった。
「瀬呂のテープで体を補助席に固定してもらえば?」
「そんなん体が窮屈すぎるだけやん駄目だよ一誠君」
「・・・・・峰田がすっげぇ血の涙を流しているのが目に浮かぶのは気のせいか」
「実際、血走った目で「睨んだだけで人を殺せたら!」って感じでこっち見ているんだけど」
「峰田さん・・・・・」
そんな四人を除いてA組が乗るバスの中は遠足に行く学生の様な騒ぎ、はしゃぐ賑やかな雰囲気でいっぱいだった。
皆々、思い思いの楽しみ方で目的地に着くまでの間は隣人のクラスメートや友人と雑談を交わし合ったり、静かに眠っていたり、菓子を食べたりとしていた。一時間後に一回止まると告げる相澤の耳にも傾けないほどに。
「・・・・・」
発進するバスが動き出してから仰向けのまま何もすることもなく、天井を見上げる形で耳朗の顔を視界に入れる一誠。ちょっとでも耳朗の目の視界が下に入ると一誠が見つめていることに嫌でも気付く。
「・・・・・」
その無遠慮がちな視線に少女は気恥ずかしい思いとなり、声をかけた。
「ねぇ、そんなじっと見詰められると・・・・・」
「そう言ってもこの体勢じゃどうしても視界に入るぞ。それに」
「?」
「耳朗の顔を見て素直に可愛いと思うから、見ていても飽きない」
下心無し百パーセントの純粋な気持ちの発言力は、一人の少女の心を激しく動揺させた。照れのゲージを突発して羞恥と素直な言葉に嬉しさでイヤホンジャックの先まで顔全体が火が点いたように真っ赤と染まり出しだ。
「・・・・・耳朗?」
「―――麗日、代わってっ」
「う、うん」
堪えきれないと一誠に直視できなくなった耳朗。お茶子に助けを乞い、座席を変えてもらったことで落ち着きを取り戻す。人が変わろうと太股の上から横たわらせる姿勢は変わらない一誠の視界は触れば、心地いい弾力がするかもしらない少女の丸顔が映り込む。
「ん、久しぶりだなこれは」
「そう言えばそうだったね」
一度、膝枕した時のことを思い出す。状況は異なってるが二人は懐かしいと笑みを浮かべあった。が、他にも思い出す事があった。眼を覗きこまれ、綺麗と恥ずかしい台詞を言われたのであった。その時の記憶を意識してしまったては。
「あの時とは変わらず麗かなお茶子の眼は綺麗だな」
「ギョ」
当時を再現したごとく眼を見ながら言われ耳朗と同じ反応したお茶子。朱に染まる顔で「ま、また変なこと言う!」と一誠の顔を見ていられなくなり。
「八百万さん、代わってっ」
「え、ええ・・・・・」
少し戸惑いながらも代わって己の膝の上に一誠の頭を乗せる八百万。
「・・・・・」
すると、一誠は押し黙り始めた。彼女にも何か言うんじゃないだろうかとお茶子と耳朗の推測は外れた。どうしたんだ?と2人が視線を向け、八百万も下へ視線を送ると無表情な一誠の顔が視界に移り込む。
「あの、どうかしました・・・・・?」
質問する彼女にこう答えた。
「発育の暴力・・・・・」
「え?」
「・・・・・あー」
何の事だか分からないお茶子、どこか納得した風な声を出す耳朗。左目に飛びこむ制服を盛り上げる豊かな双丘の下から見上げる一誠に八百万はもうしばらくしてから気付き、二人より恥ずかしい思いをした。
それから皆を乗せるバスは一時間も経った頃。とある自然豊かさが一望できる高台に停車し、バスから長らく座った体を伸ばしてほぐす生徒がちらほらと出てくる。
休憩場所がパーキングエリアではないことに緑谷達は疑問を抱くのも必然的。
「兄ちゃん!」
お茶子達と最後に降りてきた一誠に駆け寄る帽子を被った子供。その子供を見た瞬間、一誠は物珍しいそうに目を丸くした後、旧友と再会したように喋り出す。
「洸汰?洸汰か?」
「そうだよ兄ちゃん、久しぶり!」
「おお、本当に久しぶりだな。ってことはもしかしなくても・・・・・」
自分を奇異な視線を向けてくるクラスメート達を他所に首を忙しなく動かして周囲に視線を配る。
そんな時だった。
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
どこからともなく女性の声が聞こえる。そして、声がした方へ全員が意識と共に目を向けると
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」
猫耳を模した機械を装着し、猫の手のグローブ、デザインは一緒だが色は違うコスチュームを身に包んでいる女性が決めポーズをしながら決め台詞を告げた。そんな二人の女性の登場にいち早く緑谷が反応する。
ヒーローオタクの血が騒いだのだ。
「連名事務所を構える4名一チームのヒーロー集団!山岳救助など得意とするベテランチームだよ!キャリアは今年でもう12年になる・・・・・」
緑谷は気付かない。どんな数字でも女性は反応すると。
「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』のみなさんだ」
相澤が女性二人に対して紹介するのだが、当の二人は絡んでいた。
「おー!一年振りじゃん兵藤君よ。元気だったか?って、どーして女の子に肩を貸してもらってるわけ?」
「・・・・・もしかして、あの時と同じ?」
「あーお久しぶりです。ピクシーボブさんとマンダレイさん」
一誠に絡んでいた。知り合いのようで一誠が二人にお辞儀をした姿に相澤は質問する。
「兵藤、知り合いだったのか」
「ん、全国を旅している時に」
「そうなのよ。この子には本当に感謝する出来事があってね。って、話している場合じゃないわね」
マンダレイは一望できる森林の方へ向く。
「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設はあの山の麓ね」
グローブの爪が指す山とはおよそ10Km以上離れていることを推測でき「遠っ!!」と叫び絶句する。その次にこんな場所でバスを停めたのか疑問が浮かんだ。
「え・・・・・?じゃあ何でこんな半端なとこに・・・・・」
「いやいや・・・・・」
「バス・・・・・戻ろうか・・・・・な?早く・・・・・」
「い、嫌な予感が・・・・・」
「き、奇遇だな?俺もだ・・・・・」
さんざん一誠の修行をしてきた者として危機感も敏感に察知するようになったようだ。
「今はAM9:30。早ければぁ・・・12時前後かしらん」
マンダレイの意味深な言葉を聞き、更にA組の一部は危機感を覚えた。
「ダメだ・・・・・おい・・・・・」
「戻ろう!」
切島と芦戸がマンダレイの言葉の裏に意味―――彼女等はとんでもない事をすると確信した。
「バスに戻れ!!早く!」
「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」
ダダダッ!とバスへ避難するA組達を視界に入れながらマンダレイは決定事項と言わんばかりに言う他所に。相澤が首に巻いている特注の捕縛武器であっという間に一誠を縛りお茶子から離れさせるように拘束して奪い、ピクシーボブがその場で跪き両手を地面に触れた。
「悪いね諸君」
ピクシーボブの個性で地面が一気に盛り上がり、バスと相澤達大人達、一誠と洸汰と呼ばれた子供以外、雪崩と化した土砂に巻き込まれ崖の下へと追いやられる。
「合宿はもう始まってる」
個性による土砂流れで流される緑谷達をマンダレイは見送りながら大声で言い放った。
「私有地につき"個性"の使用は自由だよ!今から三時間!自分の足で施設までおいでませ!」
深い森の眼前に土砂と落ちる緑谷達に向けられる森の名前。
「この"魔獣の森"を抜けて!」
「イレイザー、あの子に何が遭ったの?一年前、あんな状態になった時があってそれと似ているんだけど」
「それはどういう時に?」
マンダレイに一誠が引き取られ車に乗せられようとしている様子をピクシーボブと相澤は見ながら語り合う。
「殉職した元ヒーローを甦らせた。その反動で一週間も寝たっきりの生活を送ったんだよ。そのヒーローはあの子供の両親、マンダレイのいとこだったから付きっきりの介護をしてやったんだけど。また誰かを甦らせた?」
「・・・・・」
相澤は「それはない」と首を横に振って否定した。理由も教えたが具体的な原因は不明だと伝えた。
「ふぅ~ん。分からないんじゃどうしようもないわけね。じゃ、兵藤君は私等で面倒見るよ」
「いいんですか?」
「私が言わずともマンダレイが言いそうだから先に言ったまでだよ。それに兵藤君に意識を向けるほどあんたは暇じゃないでしょ?教師として生徒の面倒もみなきゃいけないしお互い適材適所ってやつでよろしく」
合理的で尤もなことに相澤も任せることに異論はなく了承した。
「しかし無茶苦茶なスケジュールだねイレイザー」
「まァ、通常2年前期から"習得予定のモノ"を前倒しで取らせるつもりで来たのでどうしても無茶は出ます」
土くれの魔獣の群れと戦いながら山の麓にある合宿所へ目指す緑谷達。
「緊急時における"個性"行使の限定許可書。ヒーロー活動認可資格その"仮免"」
背後から迫ってくる土くれ魔獣達の群れに察知した障子が緑谷達に告げ、口田が個性で魔獣達を従わせようとするが効果はなく、牙を剥かれる魔獣から青山の個性『ネビルレーザー』に助けられる。B組も数の暴力に圧倒されながらも何時しか互いを助け合い協力し、前進する。
「
それだけ言い残しバスに乗り込もうとする相澤と背を向け合い、マンダレイから呼んでくるよう言われたのか光汰がピクシーボブに近づいてきたが、彼女の視線は―――その車を中心に大きく広がった闇から異形が生まれ、崖の下にいる緑谷達へと襲いかかりに行った光景が映る直後。悲鳴と怒声、空からの奇襲に遭い魔獣の森は騒然と化した。
―――私が来たよ(byマンダレイ)―――
PM 17:20
空に浮かぶ夕陽に朱色で染まる空、帰巣本能で巣がある山へ向かって飛ぶカラスの鳴き声が聞こえる魔獣の森。相澤達は山の麓にあるプッシーキャッツの合宿所「マタタビ荘」の前に佇んで待っていた。この場所に三時間以内に辿り着けねばならないハズなのに五時間以上経っても姿は見えない。後十分で八時間になろうとしていた時だった。
「「「「「兵藤ー!!!!!」」」」」
何故かA組の殆どが一誠に対して怒りの炎を燃やしていた。制服は土まみれで汚れ、体中傷だらけ、"個性"を行使し続けたからか体に支障が起きている他、疲労困憊満の体で森から出てきたのだった。
「てめぇっ!?後ろから魔獣を襲わせるな!?」
「つーか、動けなかったんじゃないのか!?」
ギャーギャー!とまだまだ元気が有り余っている様子で突っ掛かる。が、
「俺が何時、自分の〝個性〟を発動できないと言った?あんな森を抜けるだけの楽な事を俺が何もしないと思うか?」
の、一言で「Oh・・・・・」と一気に静まり返る切島達。
「あのところで、ずっと気になってたんですが」
緑谷がマンダレイに話しかけ、洸汰に視線を向ける。
「その子はどなたかのお子さんですか?」
プッシーキャッツの誰かの子かと質問をマンダレイは否定する。
「ああ違う。この子は私の従甥だよ。洸汰!ホラ挨拶しな。一週間一緒に過ごすんだから・・・・・」
呼ばれる洸汰に自ら近づき跪く緑谷。
「あ、えと僕は雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」
手を伸ばし握手を求めるのだったが、洸汰はそっぽ向く。
「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねえよ」
「つるむ!?いくつだ君!?」
「あっち行けよ、兄ちゃんの邪魔だ」
突っ込みが入るも、洸汰は木造の椅子に座る一誠の傍に群がり抗議をしていた切島達に威嚇しつつ追い払った。
「茶番は終わったな。バスから荷物降ろせ。部屋に荷物運んだら夕食。その後入浴で就寝だ。本格的なスタートは明日からだ。さァ早くしろ」
合宿の中から数多の魔獣の猫と二人の中年の男女が料理を持って出てきた。
「――――あれ、あの人達は」
緑谷が何か気付いた反応を示す。見覚えあるのかジッと見つめるがバスに向かっている飯田から催促を受け、一瞥して踵を返し荷物を取りに行く。
そして夕餉の時間―――。
「いただきます!」
合掌をして一斉に料理へ箸を伸ばす。瞬く間に胃の中へ送られ続けることで用意された料理は空になっていく。
料理の補充と動くプッシーキャッツと中年の男女、料理の食材を運ぶ洸汰。一誠とは言うと―――。
「俺の
「一誠さん、あーんですわ」
「これも美味しいよ?」
「ん(ズイ)」
三人娘に食べさせられていた。一誠にとって羞恥極まりない状況になっており、
「あら、随分と男子から羨ましがられることされてるわね?」
「ねこねこねこ・・・・・仲良しなのねそこの娘達と。もしかして彼女達かなー?」
プッシーキャッツからもからかわれ、お茶子達は顔を紅潮するそんな時だった。
「お前ら聞け」
相澤の一言で夕餉は静まり返る。
「この後の風呂だが男子と女子と分かれて入るのに時間が惜しい。何よりお前達は森を抜けるだけで時間が掛ったからな」
それは兵藤のせいだ―――と胸中突っ込むほぼ全員は、それを言いたいのをぐっと堪えて喉の奥に詰まらせた。
「よって、今夜だけはずらさず男女全員それぞれ同時に入れ。いいな」
「・・・・・先生、俺、体が動かせれないんだが?」
「お前は最後だ」
そして入浴―――。
「まァまァ・・・・・飯は確かに美味かった。だけど、求められてんのってそこじゃないんスよ。その辺、わかってるんスよオイラぁ・・・・・」
一人、男女の風呂を隔離している木製の壁の前でつっ立っている峰田実(15)。
「求められてるのはこの壁の向こうなんスよ・・・・・」
「一人で何言ってんの峰田君・・・・・」
緑谷のツッコミにも大して意味なく、何故か準備体操を始め出す。
「ホラ・・・いるんスよ・・・。今日日、男女の入浴時間ズラさないなんて事故・・・そうもうこれは事故なんスよ・・・」
木製の壁に耳を押し付けて澄ませると壁一枚の向こう側から聞こえる女子達の声。聞き耳を立てている峰田しか聞こえないうら若き花達の声。何を言っているんだ君は、お前は・・・と常識派の男子生徒の気持ちが一致した。同時に峰田実という男を知る者は彼の心情を悟るのに難しくなかった。
「峰田君やめたまえ!君のしている事は己も女性陣も貶める恥ずべき行為だ!」
無論、超生真面目な飯田がそれを許す筈も無く説得するべく窘めたのだが。
「やかましいんスよ・・・・・」
悟りを開いた表情で言い返した次の瞬間。一誠直伝の武空術を行使した。
「壁とは超える為にある!!〝Plus Ultra〟!!!」
「速っ!!校訓を穢すんじゃないよ!!」
この瞬間、今まで飛んできた速度の記録を塗り替えるほど速かったと峰田自身が後に語った。欲望に満ちて崩れた相貌で壁の向こうにいる女子達の瑞々しい肌や四肢を存分に堪能すると本能のままに動いた彼の顔が壁を超えんとした矢先―――。峰田と同じ速度で壁の向こう側、否、二枚の壁と壁の間から伸びた大きな手がガシッ!と峰田の顔を鷲掴みにした。そのまま男子風呂の床に長く伸びる腕が峰田を叩きつけた。
「ムグググッ~!?」
な、なんだぁー!?と叫ぶ峰田に長い手の主が壁の間から姿を現した。
「一人、性欲の権化がいるから見張っててほしいと頼まれて待機してみれば確かにいたな」
ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのコスチュームを身に包んだ筋骨隆々の大男が猫の様に後ろの女風呂へ振り返らず降り立つ。
「さて、言い残す言葉があるなら聞いてやろう」
「ぶはっ!さ、最後に女体を触らせてくれっ!?」
「相撲ヒーローの体にでも触るのだな!!」
後に緑谷は語る。相撲ヒーロー 怒須鼓威は超肥満な巨体は防御力が高く、その体で相手を押し潰したり張り手で
「ぎゃあああああああ!!!!!!!!」
その後、制裁され夏の夜空に、峰田の断末魔が響き渡った。