俺のヒーローアカデミア   作:ダーク・シリウス

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強化合宿 二日目 三日目

男子女子が風呂に入っている間。一人だけ入っていない生徒がいた。相変わらず体は動かせないものの、能力だけは使用可能な状態。最後になってからではないと入浴ができない生徒=一誠は。

 

「ん、猪鹿蝶に赤短、三光に花見酒で俺の勝ち」

 

「くそっ、また負けたっ」

 

「花札強過ぎるだろうお前」

 

己の集めた札と役割、点数を計算しても一誠の総合点数には及ばない相澤とブラドキング。教師二人と花札を興じていた。当然ながら賭けは無しだ。三人の付いた決着が終わり、傍で見ていたマンダレイとピクシーボブ、もう一人のプッシーキャッツ、ラグドールという女性が腰を上げた。

 

「でしょー?この子、花札やるとめっぽう引きが強いのよイレイザー」

 

「麻雀もそれなりに強いわね」

 

「おい」

 

「賭けてないからいいじゃん」

 

子供が大人の遊びをするなと言外する相澤の意図を悟る一誠。

 

「しっかし翼でやるなんて器用ね」

 

「能力だけが使える事に安心できる」

 

魔力で全ての札を浮かせて片づける一誠の傍らには、大量の遊具が積み重ねられていた。その中には菓子もある。それを大人のつまみとして時折食べつつのんびりと遊んでいるプロヒーローに交る生徒一人。

 

「なら、明日の強化訓練にも参加できるな」

 

「俺、参加する意味あんの?」

 

〝個性〟を持ってない一誠からすれば、特訓や訓練しても意味はないに等しい。その上、体を動かせないのでは邪魔になるだけだと考えていたのだが相澤はそうでもなかったらしい。

 

「お前は指導する側だ。明日は個性を伸ばす『限界突破』をするつもりだ」

 

「俺は『可能性』の向上、先生達は『限界突破』を目指すのか?」

 

「そのつもりだ。当然、お前の助言も借りるぞ。お前はもう鍛えようがないからな」

 

異世界で培った経験と体験はとっくに相澤にとって教える事が既になかった。ある意味、大人の倍以上修羅場を潜った一誠の経験を元に生徒達にも教え伝えれないかと臨んでいるのであった。

 

「うーん、指導するだけならいいんだけど。やっぱりコスチュームの方も考慮した方がいいと思う」

 

「だろうな。それで立ち回り方や戦い方も変わる」

 

「でしょ?そのことでコスチュームの改良も考えてあるんだけど」

 

片翼を伸ばし鞄のチャックを開けてその中にあった筒状の入れ物を取りだすと相澤に渡す。蓋を開けて丸められた束の用紙を出して広げるとA組の生徒のコスチューム案の詳細が記されていた。

 

「俺個人の見解だ。あいつらに押しつける気はないから内密に」

 

「〝個性〟を熟知した上でこれか」

 

「よく見ているのだな」

 

ブラドキングも横から見て感心する。デメリットを最小限に抑え、更に〝個性〟の向上を求めたコスチュームの改良と補助具等々、教師でもないのに一誠は考えていたのだった。

 

ガラッ。

 

「生徒達は全員上がったぞ」

 

ホカホカと全身から湯気を立たせる大男が教員orプッシーキャッツの待機室に顔を出した。その知らせにプロヒーロー達も一誠を置いて自分達の番だと腰を上げ出す。

 

「最近の雄英の生徒は空を飛べるようになったものなのだな」

 

「それは兵藤が鍛えた成果だ」

 

「ほう、うぬがか。我等も空を飛べるようになれるのかな?」

 

「特訓をすれば不可能じゃないかな。でも、何で空飛ぶ事を?」

 

「小人の生徒が女湯を覗き込もうとしたのだ」

 

その一言で全てを悟った一誠の顔から表情が消えた。そして形容しがたい気配も感じ、プロヒーロー達の間で緊張感が走った。

 

「あいつだけ十倍の特訓を課してやる。覗きの為に教えた覚えはないからなぁ・・・・・っ!」

 

「・・・・・殺すなよ」

 

「ふふふ・・・・・大丈夫、仮死状態にする直前までするから」

 

自業自得と一誠の指導を見て見ぬ振りすることを合理的だと悟る相澤。怒らした奴が悪いのだと、マンダレイに着替えが入ったドラム型の鞄と共に担がれて―――。

 

「え、何で俺担がれてんの?」

 

「勿論、体を洗いに行くためよ?」

 

「この合宿の間お前はマンダレイに看護してもらうことになった」

 

俺はそんなこと聞いてないぞ!?と言わんばかり目を見開く一誠。例え、子供と大人といえど外出先で異性同士が混浴していいのは混浴がある旅館のみなのだ。ここはヒーロー科の生徒の〝個性〟を強化するための合宿場。プッシーキャッツの合宿先でもある為、混浴は禁止されているはずだ。当然の常識の筈なのに相澤は一誠のみの世話を全てマンダレイ達に一任したのだ。

 

「男子生徒が女と混浴する時点でダメじゃないのか?そこ、先生が止めるべきだろ」

 

「・・・・・生憎、俺は生徒だろうと男の体を洗う精神は持っていない」

 

「まあ、優しく洗ってくれるだろう。本来止めるべきだが、彼女達が道徳に反した行いをプロヒーローがしないから安心して身を任せろ」

 

「この瞬間だけ生徒を放任しやがったよこの教師達は!絶対何か問題が起きても先生のせいだからなっ!?」

 

「「教師の目に届かない場所で問題が起きようと自分で対処するこそがヒーローだ」」

 

最後に尤もな事を言われる始末。恨めしい目で睨まれる教師二人は受け流し着替えを持って男湯へと向かう。

少し遅れて男湯の隣にある女湯に向かうマンダレイの表情はプロヒーローとしての顔つきではなく、(おんな)の顔になっていた。ほんのりと紅潮した顔と喜色が籠った瞳、そして興奮で五月蠅く鳴る心臓の動悸にまだ湯に入っていないにも拘らず熱くなっている体。

 

「ふふ、一年前と同じね一誠君?」

 

「もう勘弁してくれ」

 

「ダーメ。これから一週間、君の世話をすると決めたんだからね。朝昼晩ずっと、ね?」

 

「・・・・・またまな板の鯛の状態かよ」

 

女湯に消えるその後、三人の女性達の手によって隅々まで体を洗わせられたのであった。

 

 

―――俺が来た!(by鉄哲)―――

 

 

翌日 合宿二日目 AM5:30

 

 

 

早朝に起こされたA組とB組。まだ眠た気で寝癖がついたままであり、欠伸をしたりと生徒の半ばは寝むたそうだった。

 

「おはよう諸君。本日から本格的に強化合宿を始める。具体的になりつつ敵意に立ち向かう為の準備だ。心して臨むように」

 

主に(ヴィラン)連合との戦闘は避けられないかもしれない。二度も接触した。三度目は必ずあると踏んでもいい。先生はそう言いたいのかもしれないが、真意は読めない。

 

「君達が雄英の生徒となって約三か月間。様々な経験を経て確かに君等は成長している。だがそれはあくまでも精神面や技術面。あとは多少の体力的な成長がメインで〝個性〟そのものは自分達がよーく知っている筈だ」

 

合宿場から遅れてやってくる十二枚の翼を蜘蛛の足の様にして体を支える一誠。

 

「今日から君らの〝個性〟を伸ばす。死ぬ程キツイがくれぐれも・・・・・死なないように―――」

 

「そういうわけで、お前ら全員」

 

真後ろにいる一誠に振り返る全員は天使化になっていた相手に目を丸くする。

 

「相澤先生とブラド先生に頼まれたんで俺も指導する側として参加する。特訓や訓練だけじゃなく、戦闘もするぞ。強くなりたければその頭を振り絞って死なないように気張れ」

 

「戦闘・・・・・!」

 

「え、大丈夫なのかよ兵藤。体、まだ動かせない―――」

 

切島の安否の声を遮るのは、片翼の翼の切っ先が切島の頬を槍のごとく掠める速力。

 

「体は動かせなくとも〝個性〟は発動できる。何か問題があるか?」

 

誰一人、沈黙を貫いて返事をしなかった。未だに兵藤一誠は健在なのだと知らしめられた故に。相澤が今の空気を払うように手を叩く。

 

「てなわけだお前ら。兵藤にしごかれてるなら成長の兆しも見えているだろう。ほら、さっさと始めるぞ」

 

こうして始まるAB合同の〝個性〟の『限界突破』訓練。

 

 

 

「おい爆豪」

 

「あ?」

 

「お前の〝個性〟は格闘術にも応用はできないのか?こう、握ったまま〝個性〟を発動してパンチを食らわす的な」

 

それぞれ始まった訓練。他者に影響や邪魔にならない距離で行われており、アドバイスやフォローをして回る一誠は爆豪に話しかけた。

 

「んなもんできるわけねぇだろう。てめーが知らねぇ筈がないだろう」

 

「爆破の〝個性〟は確かに強力だ。が、もっと範囲を狭めて一点集中に爆発的な威力を発揮すればどうなると思う?」

 

「・・・・・」

 

「手の平じゃなくて、拳にも爆破ができれば派手な攻撃のバリエーションが増えると思う。それを意識してやってみろ」

 

自分の手を見つめ、一誠からのアドバイスを脳裏に想像する。一点集中の爆発の威力が籠った一撃。比類無き攻撃力で地面にひれ伏す(ヴィラン)の前に威風堂々と立っている己の姿を。

 

「兵藤君。俺の〝個性〟について何か参考になれるアドバイスが欲しいんだが」

 

次に行こうかと思った一誠がたまたま近くにいた飯田に話しかけられた。

 

「ああ、飯田って脚だもんな。体育祭で戦ったし」

 

「ウム、やはりレシプロのデメリットを軽減したいのだが」

 

「や、それだと根本的に何も解決してないぞ?飯田はどんなスタイルで戦いたいヒーローになりたい?」

 

「無論、機動力のあるヒーローだ!」

 

と機関車のように腕を振るう飯田であるが、一誠は首を傾げた。

 

「脚が命な飯田は、機動力を注力しつつ足技以外にも戦える術が必要だと思うぞ」

 

「他にも戦える術を身につけろとそう言いたいのか兵藤君」

 

「―――その脹脛のエンジンを解剖して直接カスタマイズできるなら話は早いけど?」

 

ゾッと顔を青ざめる飯田を残して〝個性〟を伸ばす特訓をしている面々に近づく。

 

「おっ、おーい兵藤!見てくれ、炎の拳!」

 

得意げに硬化した拳に纏わる炎を見せつける切島。打撃+炎のダメージの相乗効果でさらに攻撃力は高まったっと言いたげな熱血な少年に一言。

 

「軽く模擬線でもすっか?」

 

「頼む!」

 

「よし、お前の全てを俺にぶつけてこい」

 

大勢を変えて垂直に浮かぶ。地面に立っているかのような姿勢で対峙すると、切島が気で変えた炎を、硬化した全身に纏い真っ直ぐ向かってきたところ、刃と化した翼で鋭く伸ばした。

 

「ぐあっ!?」

 

あっさり翼の刃は切島の肩に突き刺さり、地面に倒された。それを見下ろす一誠が淡々と述べる。

 

「硬化なのにどうして硬くないんだ。それに硬いならどんな攻撃だって耐えて倒れないようにしなくちゃ駄目だろ。ヒーローが倒れたら守るべき者達は不安がるぞ。男なら倒れるな」

 

癒しの能力で切島の傷を回復させて別のクラスメートへと赴く。

 

「あ、一誠」

 

「ん?相談か?」

 

「うん。前、ウチの〝個性〟のことで言ってたよね」

 

USJに向かうバスの中で耳朗に言った言葉を思い出す。ブーツに備わっている指向性のスピーカーのことについてだ。

 

「ああ、言ったな。自分なりに何か考えた?」

 

「ちょっとね。やっぱり他の部分にも指向性や補助具も必要かなって思ったりするんだけどどう思う?」

 

「耳朗の〝個性〟は探知にも使えるからな。〝個性〟の特徴と特性は何なのか考えてそれを元に答えを出すといいぞ」

 

「そっか、うん、そうするよ。あんがと」

 

具体的にアドバイスし、答えを自分で見つけ出させる。それはどの教師も同じ教え方であることを一誠も倣ってやっているのであった。

 

「ヘイ、そこの迷える男子君―――」

 

 

その日の夜。

 

 

「だー!兵藤にダメだしを結構言われたー!」

 

「オイラなんてボロ雑巾みたいになるまでボコられたんだぞ!?」

 

「空飛んで覗こうとしたからだろう。兵藤が怒るに決まってる」

 

「緑谷、緑谷はどうだった?」

 

「う、うん、フルカウルを発動した状態でスクワットをすっごくさせられたから、あ、足腰が・・・・・」

 

特訓の時間が終わり夕食の下準備に取り掛かる。今夜は疲れ切った体に鞭を打って自分達が夕食を作らねばならない。食材を切る者と火を熾す者と班を分けて作業するが―――。

 

「俺も仲間に入れてほしいっ!この瞬間を俺は待ち遠しいくしていたんだからよぉっ!」

 

「ダメよ。動かせない体で料理を作らせないわ」

 

一誠だけはマンダレイに捕まって参加できないでいた。バサバサと翼を羽ばたかせる一誠の背中から抱きしめる彼女によって、野外でのカレー作りを遠慮させられている様子を苦笑いと呆れと緑谷達に見守られつつ、羨望の眼差しをひしひしと感じながらわいわいと準備に取り掛かる。その後、自分達で作ったカレーを宿前の木製テーブルで貪るように食したあと、マンダレイが言った。

 

「明日の夜は肉じゃがね」

 

「うおー!」

 

肉とジャガイモなどの野菜を醤油と砂糖などで煮込んだ、おふくろの味ともいうべき和食の定番。カレーで満たされた腹でも、明日の肉じゃがを思い男子達は盛り上がった。だが、その後に続いたマンダレイの言葉。

 

「お肉は豚肉と牛肉だから、A組B組でどっちがいいか選んどいてね」

 

その言葉に多少のざわつきが上がった。

 

「肉じゃがって豚肉だよな?」

 

「え、牛でしょ?」

 

肉じゃがは東日本では豚肉、西日本では牛肉が主流らしい。また地域とは関係なく、それぞれの家庭でも違う。豚だ、牛だと意見が分かれる皆を見て、マンダレイは一誠に訊ねた。

 

「一誠君はどっち派?」

 

その質問の問いで騒然と化していた場は静まり返った。何気なくこの二日の間で二クラスの中心が一誠になっており、答え次第では、主にどっちでもいい派の生徒はそっちにしようと姿勢で聞き耳を立てる。

 

「両方入れて分けて食べる派」

 

「「「新しい派の誕生の瞬間っ!?」」」

 

ミックス派があるのだが、両方入れて混ぜず食べる派の出現に驚く。

 

「それって邪道じゃない?」

 

「邪道だからこそ美味しい料理もあるんだ。二回も違った肉の感触を楽しめて食べる肉じゃがは美味しいと思うが」

 

首を傾げる一誠から「違うのか?」と疑問を持ちかけられ、そんな風にして食べた事がない一同は「うーん」と悩みの声を唸らした。

 

「んー、麻婆豆腐をご飯に掛けて食べるか食べないかって感じか」

 

「あ、分かるかも。どっちも食べて美味しいし」

 

「ん」

 

一佳が漏らした言葉に感情が乏しいB組の女子、柳と小大が理解し納得すると同じクラスの男子、スティールの〝個性〟の鉄哲が男らしく言った。

 

「肉食えりゃ、俺はどっちでもいいぜ!両方食べれるなら尚更だ!」

 

そんな鉄哲に他の男子達も同意する。切島も頷く。

 

「俺、両方食べてみたいな!」

 

「だよな!」

 

切島と鉄哲はニッとサムズアップし合った。両者の〝個性〟はどちらも体が硬くなると似ているのと性格も似ているからか、この瞬間。二人の間でしか分からないものが芽生えた。

 

「・・・・・熱い男と男の友情か」

 

そんな意見に同化された様に、他の生徒にもどちらでもいいというような空気が広がったその時、水差す声が上がった。

 

「ハァ?邪道な肉じゃがとどっちでもいいわけないだろう?肉じゃがは豚肉にきまってるんだよ」

 

B組の生徒、物間寧人が空気をぶち壊した。

 

「・・・・・あぁでもA組もどっちでもいいっていうなら、こっちで選ばせてもらおうよ。牛肉の肉じゃがや邪道の肉じゃがなんて僕には想像もできないけど、A組は構わないんだろ?ねえ、爆豪君?」

 

「あぁ?」

 

あ、これは面倒事になる。そんな気配を感じ取った一誠は浮遊して宿の中へと戻るその背後から怒声と騒々しい声が聞こえるようになった。

 

「―――ああ、そうそうお前ら」

 

言い忘れてたと風に玄関前で後ろへ振り返り、喧騒の渦中にいる面々に一言。

 

「もしも何らかの理由で肉じゃがが〝じゃが〟だけになってしまった―――なんて事になったら、明日の特訓。鬼レベルの超絶キツイのにするんでよろしく」

 

『・・・・・っ!?』

 

一誠の修行の過酷さを知る者達が青褪めたり、怯えたり、頬を引き攣ったりと畏怖の念を抱かざるを得なかったようで、深く肝に銘じた(主に男子)。

 

「因みに連帯責任として女子もだから。恨むなら男子を怨め以上」

 

「「「ええええええええええええええええええええええっ!?」」」

 

が、対象は悲鳴を上げる女子にも向けられてしまった。同じ同期のクラスメートの筈なのに、何故か修行や特訓の時だけ教師並みの権力をもって逆らえなくなるのだ。

 

「お、鬼レベルって・・・・・」

 

「やべーよ、やべーってっ。想像絶することさせられそうだって」

 

「男子!絶対に止めてよね!?まだ死にたくないよ!」

 

「うるっせっ!喧嘩を吹っ掛けてきたクソB組のせいにしとけや!」

 

「そっちからしてきたんだろっ!?」

 

「元はと言えば、物間が原因だけどなー(by一誠)」

 

「「「物間ーっ!!!!!」」」と非難の一斉集中砲火が一人の男子生徒に向けられそうになった、煽った少年は何時の間にか脱兎のごとく逃げて行った。

 

 

夜風が木々の葉を撫でながら吹く。ただ一人森の中に迷い小心者であれば心を委縮してしまう暗闇に支配された不気味な森。そんな闇に包まれた森林を一望できる崖の上に相澤達からすれば招かざる客がやってきていた。

 

「疼く・・・疼くぞ・・・・・・。早く行こうぜ・・・・・!」

 

「そうだぜ、俺も早く強ぇ奴と戦って最強を目指すんだ!」

 

「まだ尚早。それに派手なことはしなくていいって言ってなかった?」

 

「派手でも控えでもどうでもいいのよボウヤ。皆ノルマをこなしながらしたいようにすればいいだけよ」

 

「そうだ、今回はあくまで狼煙だ」

 

その客の中に荼毘とトガヒミコがいた。―――緑谷達は気付かない。(ヴィラン)連合が現れるはずもない相手が直ぐそこまで潜伏していることに。

 

「虚ろに塗れた英雄達が地に堕ちる。その輝かしい未来の為のな」

 

不敵に漏らす荼毘の目線は、真っ直ぐプッシーキャッツの合宿先に向けられている。

 

「ふふっ、楽しみだわ。ようやく復讐を果たせる。あの忌々しいヒーローの血を受け継ぐ子供を殺せばこの痛みも快楽に変わるでしょう・・・・・」

 

顔の半分だけ被っている仮面に包帯だらけの手で触れる、フード付きの黒いローブを深く身に包んでいる長身の女性。

 

「ていうか、これ嫌。可愛くないです」

 

「裏のデザイナー・開発者が設計したんでしょ。見た目はともかく理には適ってるハズだよ」

 

「そんなこと聞いてないです。可愛くないって話です」

 

トガヒミコが不満を漏らす理由。戦闘服(コスチューム)のデザインが主であった。

六人の中で最年少と思わせる学生服を着こなし、ガスマスクを被っている少年は心の中でトガヒミコに対してやれやれと呆れる。

 

「どうでもいいから早くやらせろ。ワクワクが止まらねえよ」

 

指の関節を鳴らし待ちきれないと仮面とローブを被る大男。

 

「黙ってろイカレ野郎共。まだだ・・・・・決行は・・・・・」

 

荼毘が後ろから聞こえる足音に尻目で確認をすると―――四人の男達が近づいてきた。

一人はタラコ唇にサングラスを掛けた男と口元以外肌を露出、腕や上半身が拘束具で縛られている全身黒ずくめの男に赤と白の布を首や目に巻いて全身に刃物を携帯しているその姿はまるでヒーロー殺しの姿を真似している外見だけで判断すればトカゲみたいな男、

 

それから最後の一人は―――ヒーロー殺し「ステイン」だった。

 

「11人全員揃ってからだ」

 

「おまた―――」

 

「仕事・・・・・仕事・・・・・」

 

9人の(ヴィラン)が合流した。一誠を除いて緑谷達はこの脅威に立ち向かわなければいけなくなった。

 

「異性だけのチンピラをいくら集めたところでリスクが増えるだけだ。やるなら経験豊富な少数精鋭」

 

荼毘は後ろに佇むステインに振り返る。自分がダークヒーローとなる目的となった人物に殺されかけられようと意志は変わらない。

 

 

三日目 昼 続・〝個性〟を伸ばす訓練!

 

 

二日目の一夜を明けた今日―――・・・・・。

 

 

「ほらほらどうしたどうしたぁっ!?情けないぞてめぇらっ!それでもヒーローを目指す輩どもかぁっ!?」

 

満身創痍に全身で息をする多くの少年少女達に吠える一人の少年。体操着の機能も辛うじて保っているが土で汚れていたり破けていたり、体中に浮かぶ打撲の痣、切り傷が酷かった。疲労困憊の体に凄まじい運動をした結果の発汗が止まらず、気持ち悪いほどベタつく状態がそれを物語らせる。

 

「・・・・・イレイザー、流石にヒクぞ」

 

「・・・・・」

 

「〝個性〟を伸ばす特訓どころじゃないわ・・・・・」

 

プロヒーロー達でも類をみない程スパルタ過ぎる特訓にはドン引きしてしまう。

 

「ひょ、兵藤・・・・・きゅ、休憩・・・・・」

 

「もうさっきから休憩させてんのにまだ欲しいのかゴラ。この程度で疲れたら長期の活動すらできないぞ!ほら次の特訓をするぞ立ち上がれ!」

 

皆を催促させる言葉を飛ぶ。どうしてここまで彼等彼女等がこの状態になったのか少々その前の時を遡る。

 

 

AM 5:30

 

 

今日も〝個性〟を伸ばす特訓を始まる一日を迎えた。今日もヒーロー科の生徒達は張り切って臨む意欲を滾らせ、己の「最高のヒーロー」になる為に励むはずだったのであるが。

 

「えー、今日の夕飯はただの〝じゃが〟になってしまった結果に深く残念でございます」

 

重厚な威圧をとき放つは、顔を俯いて語る真紅の少年。気がすり減り、精神的に押し潰されそうなほどのプレッシャーが真紅の少年から伝わって、誰一人口を開けずにいた。これから行われるだろう鬼レベルの超絶な特訓を強いられる故に。

 

「言ったよね?言ったよな?言ったぞ。肉じゃがが〝じゃが〟だけになるようなことになったらどうするかって。それを承知の上でその結果を自分から臨んだんだよな?―――よって、今日一日ずっと鬼レベルの超絶な特訓をするからよろしくな・・・・・・フフフフフ」

 

不気味に笑う。もはや、第二の親のような存在の教師とは違う逆らえない顔を強張らせるA組はともかく、B組から異論が飛んできた。

 

「何でお前が仕切るんだ?」

 

と、その疑問にA組の間で緊張が走った。しかし、至極当然でもあった。普通はプロヒーローの教師が生徒を指導・導くのに生徒が生徒を指導する言動はおかしいと思ってもおかしくない。そこへブラドキングが説明口調で口を開いた。

 

「兵藤一誠の出生があまりにも特殊過ぎてな。雄英の中でごく一部の教師、俺達プロヒーローや校長がイレイザーの生徒を知る者としてお前らには良い経験を与えてくれるだろうと俺達と同じ権限を有しているんだ。その理由は教えられることはできんがな」

 

B組は当然としてA組からもざわめきが生じる。一部の女子はその根本的な理由を知っているものの、教師と同等の権限を持っている事には知らなかった様子で驚いていた。相澤も話に加わる。

 

「こいつの秘密は明かす事はできない。だが、その秘密はお前らにとってより著しく成長させてくれるだろう。兵藤に鍛えられて損はなかった筈だ。違うか?」

 

相澤の視線は自分の生徒に向けられる。肯定か否かと問われた緑谷達は、引き攣った表情から一変して小さく不敵の笑みを浮かべた。

 

「〝個性〟の可能性を見出してくれたり私達に足りない物を的確にアドバイスしてくれました」

 

「彼が培った経験は私達にとってとても貴重ですわ」

 

「コスチュームや指向生の補助具、空を飛べるに関連する〝個性〟無しでも空を飛べるようにできたから・・・・・」

 

お茶子、百、耳朗が心底信頼している少年に対して異は無かった。

 

「そうだよな。俺は〝個性〟硬化だけどよ、炎も扱えることができるようになったんだぜ!」

 

「俺なんて〝個性〟関係なく電気を扱えるようになったしな」

 

「確かに疑問はある。しかしそれ以上に感謝の念を抱いている」

 

「うん、兵藤君は僕達の事を思って一切無駄なことはせず強くしてくれるんだ」

 

A組から厚い信頼が籠った言葉に一佳と茨を除いて、まだ一誠に鍛えられて日が浅いB組は不思議そうな眼差しを一誠とA組に交互で見る。

 

「〝個性〟関係なくコスチューム無しで空を飛べる?そんな妄想話に僕らが信じるとでも?できるもんなら今すぐ見せておくれよ」

 

と、物間がA組に挑発したことで。

 

「まだ空を飛べない奴もいるけど・・・・・・んじゃ、証明してくれ」

 

一誠が緑谷達に促したその直後。気のコントロールがまだできない爆豪達(爆豪と轟、尾白、飯田、口田、青山)を除くA組とB組から一佳と茨が音も無く宙に浮かび、空高く飛んで自由気ままに青い空の下と相澤達の頭上で飛び交うクラスメート達を見てただただ愕然と目を張る。プッシーキャッツは当然としてブラドキングと相澤は少なからず驚き、一誠に話しかける。

 

「あのトレーニングルームでした結果か兵藤」

 

「あいつらの成長速度が俺の予想と想像を上回るぐらいにな」

 

恨めしいと目で空を見上げた矢先、

 

「「「先生の教えがいいから空飛べるようになった!」」」

 

と褒めの言葉が飛んできて一誠は照れくさそうに話を強引に変えた。

 

「お前らも空飛んでいる連中みたくなりたかったら、俺の修行や特訓を臨むべきだな」

 

まあ、今回はそんな修行はしないがなーと付け加えた一誠の修行は過酷に極まった。地に降りてきた緑谷達の背中に小型の魔方陣を展開したところ。

 

「うんんんっ!?」

 

自身の体が急に重く圧し掛かった。地面に膝を突くほどでもないが確実に全身は見えない圧力を覚えた。それは男子だけじゃなく女子も同様、己の体が何倍も重苦しくなって動揺と戸惑いの色を顔に浮かべていた。

 

「今お前らに重力をかけさせてもらった。普段より動きにくい中で修行するためにな」

 

「そ、それは何の意味が・・・・・!?」

 

「自分で考えろ。何でもかんでも俺が答えると思ったら大間違いだ。因みにこれから合宿が終わるまで寝る時以外ずっとその状態のままだからな。食べる時もトイレに行くときもずっとだ」

 

それから始まる超絶な特訓や修行―――緑谷達はそれらを体験する中で一日が始まった。

 

 

「尾白はその強靭な尻尾での移動手段もあるからそれを考慮した接近戦をするべきだ」

 

「鱗の〝個性〟はウロコだから・・・・・もっと丈夫で頑丈に硬化できるんじゃないか?意識してみろ」

 

「柳はもっと遠距離からと大量に動かせるよう〝個性〟を発動できるように気張れ」

 

「宍太はもっと獣らしくなってみたらどうだ?獣特有の力がもっと得れそうだ」

 

今日も一誠による指導や特訓が始まり、戦闘に至っては過酷で容赦はなかった。

 

「はい次、誰だB組?」

 

「「「ひいいいいっ!?」」」

 

相手の〝個性〟をコピーする物間寧人を蹂躙した後に訊ねられたB組から悲鳴。A組からご愁傷様という雰囲気が醸し出すが他人事でもなかった。

 

「兵藤の奴はバリバリ扱いているな」

 

「生徒とは思えない程の指導でな」

 

今でもA組B組の生徒達が一誠相手に模擬戦をしていて絶えない悲鳴が聞こえる。自分なりに編み出した必殺技や〝個性〟の可能性を見出した生徒達は一誠を仮想(ヴィラン)として試しに実践している様子も窺えるが。あっさりやられる生徒が続出するのだった。

 

「特にお前んとこの峰田と俺んとこの物間が集中的だな」

 

「どっちも物理的な戦いが乏しいからだろう。なら、どうするべきか考えさせているのかもな」

 

「おかげでお前の生徒より俺の生徒の方がさらに成長するかもな」

 

「・・・・・どうだろうな」

 

相澤の返答に少し意外そうな顔をしたブラドキングは、次にニヤリと笑む。自分の生徒を期待していないわけではないのだと言外として聞き、「そーいえば」と近づいてくる一誠に訊ねられた。

 

「もう三日経つけど前回のUSJみたいに他の先生はもういないのか?」

 

(ヴィラン)に動向を悟られぬよう人員は必要最低限。そして特にオールマイトは奴等の目的の一つと推測されている以上、来てもらうわけにはいかん。良くも悪くも目立つからこうなるんだあの人は・・・」

 

("悪くも"の割合がでかそう・・・なんか、申し訳なく感じてきた)

 

「お前も良くも悪くも目立つ方だ。養子なのに似ている部分はある」

 

「あ、意外。オールマイトと似ているところがあるって言われたの初めてだ」

 

「そうか、そいつは良かったな。だからと言って面倒なことはするなよ」

 

へーい、と踵を返して全身で息をしている面々の体に鞭を入れさせて過酷な特訓を始めさせた。

 

「ほらほらどうしたどうしたぁっ!?情けないぞてめぇらっ!それでもヒーローを目指す輩どもかぁっ!?」

 

そして一誠は地面に座り込む面々へ叫んだのであった。

 

 

その日の夜―――。

 

「イエーイ!肝を試す時間だー!」

 

林間合宿のイベントの一つ、肝試しが行われる。その定番行事に誰もが胸を躍らせ、怖がり楽しみにするものであるが・・・・・。

 

「し、死ぬぅ・・・・・」

 

「か、体がまだ重いよぉ・・・・・」

 

「た、食べる気力が・・・・・」

 

午後まで特訓と修行を経てゾンビのように覚束ない足取りで動き、今夜の夜食の準備の作業をしている様子から相澤達が肝試しを延期に持ち越した。疲れの色の濃さは顔中に浮かんでおり、重い雰囲気に包まれながらの生徒達は重力を解いてもらうとさっさと風呂に入って強いた布団の上に倒れ込み泥沼に浸かる様な睡眠を貪る。一人残らず睡魔に負けて夢の中へ旅立っている時、プロヒーロー達は明日の予定の会談を開いていた。

 

「ブラド、明日は演習も入れたいんだが」

 

「俺も思ってたぜ言われるまでも無く!」

 

茶菓子を飲食しつつテーブルを囲んで和みの雰囲気の中での会談は、生真面目な飯田あたり見つかれば目を疑う光景だろう。ポリポリ、ガリガリ、ズズズと各々が手を伸ばした茶菓子を片手にしながらの会談はプロヒーローが行う風景とは思えないからだ。

 

「しっかし、あの子の出生を知っているとはいえ凄い事をするわね。今まで見てきたプロヒーローと根本的に違うわ」

 

「ま、兵藤の考える事は何時も常識を逸脱してることは確かです。それで生徒らがより成長できるなら恩の字ですがね」

 

「教師兼プロヒーローが認める年下の生徒ってある意味凄いわね・・・・・」

 

「普通、考えもしなかった事をあいつは考えるんで」と緑茶を飲みながらの相澤は部屋でくしゃみする一誠なぞ知る由も無かった。

 

「今のところ襲撃してくる気配は無し。このまま問題なく強化合宿を終えたらいいが」

 

「おい止めろブラド。フラグを立てるんじゃない」

 

「あはは、まーその時はその時で私達が全力で対応するまでよ。一誠君もいる事だし大丈夫でしょ」

 

「出る幕ないかもねー」

 

「生徒ばかり対応させては、プロヒーローの立場がないぞピクシーボブ。我等も活躍せねば」

 

「アハハ!そうだねー!」

 

プロヒーローは生徒といえど守るべき対象。それが守られる側になってしまうなど言語道断だ。会談は程なくして解散しそれぞれの部屋に戻るその途中、一誠の部屋に訪れしばらくしたあと廊下に出て通り過ぎた。廊下の曲がり角の向こうへといなくなったプロヒーローから一拍遅れて静かに曲がり角から顔を出すのは、

 

「よし、行ったね」

 

数人の女子だった。超絶な〝個性〟を伸ばす特訓をして疲労困憊の体で眠っていた筈の彼女達は一誠を求めて彷徨っていた。その理由は少し時間を遡る。

 

 

 

女子しか入れない神聖な部屋は、真っ暗な闇に支配されて物も人も姿を隠され包まれるほど暗かった。スヤスヤと規則正しい寝息が暗闇から聞こえる最中、

 

「・・・・・っ」

 

一人の女子の顔の眉間が険しく寄り、額に風呂で流した筈の汗が浮かび苦痛に歪むその表情は、悪夢を見ているかのようだった。―――実際、八百万百は悪夢を見ていた。ここに来て久しく見ていなかったあの悪夢に苛まれていた。

 

無数の手と男達が少女に伸ばす。

 

止めて・・・・・。

 

捕らえ、身に包む衣服を引きちぎり少女の裸体を晒し。

 

止めて・・・・・っ。

 

不気味な嘲笑の声を発する男達に囲まれる少女はその中で見覚えのある顔を見て顔を凍りつかせた。少女にとって忌まわしい過去の象徴が目の前にいて、男達が少女の四肢を掴み大きく開かせた。

 

いや!

 

生まれたままのその姿を好意を寄せてない男に無理やり己の全てを見せつけられ少女は抵抗するもゆっくりと覆い被される。恐怖と絶望に塗れた少女の顔にトラウマがいやらしい邪笑みを浮かべて近づいたところで

 

「八百万、八百万!」

 

「―――っ!?」

 

誰かに起こされ覚醒した。顔中はべっとりと浮かぶ脂汗に気にする暇も無く起こされ弾かれる様に上半身を起こした百は周囲を見渡す。自分を心配そうに覗き込むクラスメートと他クラスの女子達を視界に入れると髪を下ろした一佳の手が肩に置かれた。

 

「大丈夫か?凄く唸っていたぞ」

 

「・・・・・申し訳ございません」

 

悪夢を見たせいで疲れ切っていた皆を起こしてしまった事に謝罪するが、気にするなと一佳が優しく返した。

 

「実を言うとお前だけじゃなかったんだ」

 

「え?」

 

一佳が目を百から変えて、耳朗の方へと向けた。彼女も少女へ視線を向け悟った。嫌な汗を浮かべ、葉隠と芦戸、蛙吹やお茶子に囲まれながらこっちに目を向ける少女と目が合う耳朗の心情を。

 

「嫌な夢を見たのか、ほぼ同時に苦しそうに唸ってから皆心配して起こしたんだ」

 

「・・・・・ありがとう、ございます」

 

「眠れそうですか?」

 

茨からの問いにしばらく沈黙して・・・・・首を横に振った。一佳と茨は顔を見合わせ頷いた。

 

「何時も眠れないときはどうしてたんだ?」

 

「・・・・・その」

 

言い辛いの一言に尽きる。一流のヒーローを目指す少女が異性に甘えて縋り、ようやく安心して眠りれるのだという自分の弱さを露わにする事に恥と思えて言い辛そうに口を閉ざす百。

 

「一誠か?」

 

一佳が眠れないときの秘訣を深く抉るように当てた。一瞬硬直する百を見て羨ましがるより心配する一佳は「そっか」と察して立ち上がった。

 

「それじゃ、会いに行こう」

 

「会いにって・・・・・」

 

「眠れないまま明日を過ごしたらまた今日・・・・・いや、もう昨日か。昨日みたいなスパルタ特訓を体がついていけないよ」

 

壁にかけられてる時計の針が差す時刻を見ながら言う一佳は、一誠のところへ行こうと誘ったのだ。しかし、こんな深夜に訪れたら既に眠っているだろう一誠に迷惑がかかるのでは、と懸念する百の腕を一佳が掴んでは引っ張り立ち上がらせる。

 

「先生達にバレないように行かないと。他の皆も先に寝ててくれ」

 

「け、拳藤さんっ」

 

「耳朗さんも行こうよ」

 

「・・・・・なんか、張り切ってない?」

 

妙な一佳のテンションに疑念を抱く耳朗。でも、また寝るためにはどうしても一誠の傍ではいけない自分が恥ずかしがりながらも胸中は賛同する。

 

「わ、私も行くっ」

 

「私もですわ」

 

特に問題ないお茶子と茨も同伴することになったがここで一つ問題があった。茨が指摘した。

 

「誰か一誠さんの部屋をご存知ですか?」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

身動きできない一誠は〝個性〟でようやく動く状態。この女子部屋と同じようにA組B組混合の男子部屋にいるとは思え辛い。よって仮に別の個室に宛がわれていた場合、誰もその部屋の場所を知る由も無い。

 

「レーダーを作りますわ」

 

二の腕から百の〝個性〟「創造」で作られた探知機が出る。これでプッシーキャッツの合宿の中にいる全員の居場所を探ろうと考えに「おおー!」とお茶子達が称賛する。

 

「ですが、どの部屋に誰がいるのかまでは分かりませんの」

 

「・・・・・ウチが声を探ってみる」

 

「そっか、『イヤホンジャック』!」

 

感心したようにお茶子が声を出す。偵察・察知が秀でる耳朗の〝個性〟は壁越しでも相手の声を聞き取ることが可能だ。わざわざ扉を空けて隙間から覗くような真似はせずとも盗聴も可能な彼女なら安心して探せ出すだろう。仮にも廊下を歩いて見回りするかもしれないプロヒーロー達の足音を探知して難を逃れることも容易いはずだ。

 

「なんだか別の意味で緊張しますわ。先生にバレず、秘密裏で殿方の部屋に行くだなんて・・・・・」

 

「いいなーいいなー!アタシも行くー!」

 

「ダメよ美奈ちゃん。遊びで行くわけじゃないもの」

 

「行ってらっしゃーい。気をつけてねー?」

 

夜中を歩き、ドキドキしながら探検するその気分を味わいたいと主張しながら立ち上がる芦戸の胴体を「蛙」の〝個性〟の恩恵で長く伸ばした舌で巻き付け抑える蛙吹の隣で見えない手を振るう葉隠やB組女子達からも見送られ部屋を後にする。

 

暗い廊下の中、探知機が合宿の構造を画面に映す他に五つの点が密集して移動しているのはお茶子達が固まって行動しているからである。

 

「うっ、いざ廊下に出ると結構暗いんやね」

 

「一人じゃ絶対にムリ」

 

お茶子と耳朗が顔を強張らせて身を寄せ合い歩く。静まり返る暗い廊下の向こうから何かが出てきそうな雰囲気に心が落ち着かない。

 

「学校だったらもっとヤバいよね。広くて大きすぎるしおまけに変な噂があるっていうし」

 

「う、噂?」

 

「ん、そう」と首肯する一佳。

 

「ほら、よくテレビとか学校に『学校の七不思議』ってあるでしょ?それが意外にも雄英にも存在してるんだよ」

 

「『学校の七不思議』とは何ですの拳藤さん?」

 

お譲さま気質なところがある百はそういう知識や情報はあまりなく、興味本位で聞いたところ一佳は語った。

 

「真夜中の学校で起こる不思議な現象の事だよ。その現象は七つも起こるから『学校の七不思議』って呼ばれるんだ。俗に幽霊とかお化けに関して話題となってるんだけど、実際は誰かが故意的に、無自覚で七不思議のひとつになっちゃってる方が多いんだけどね」

 

「そうでしたの。それで、雄英の七不思議とは?」

 

一佳がそれは―――と言いかけた時、探知機を持っている百に茨が指摘した。

 

「こちらに誰かが近づいてきますわ」

 

ピタッと全員動きを止め、耳を研ぎ澄ませ、レーダーにも確認すると足音と人の気配を感じ取ることができた。

彼女達は顔を見合わせる。ここで焦って大きく足音を出せば誰がであろうと異変を感じてプロヒーローとして調べに来る筈だ。

 

「宙に浮いてここから離れましょう」

 

百の意見に誰も異論は言わず、宙に浮いて静かに移動する。暗い廊下を飛び、一度女子部屋の扉の前に戻る。

 

「誰だったんだろう。もしかして一誠君?」

 

「その可能性はあるかもしれないけど、相手の顔が見れないんじゃどうしようもないよ」

 

「では、暗視鏡も作りますわ」

 

「八百万さん、物凄く便利な〝個性〟だね」

 

「流石ですわ」

 

暗闇に対する完全装備を整えたお茶子達の姿はまるで特殊部隊の一員のソレだった。闇と同化、足音も出さないよう防音の黒ローブを身に包み、頭に暗視鏡、探知機も揃えば・・・・・。

 

「何で兵藤を会いに行くだけなのにこんな準備をしなくちゃダメなんだよ?」

 

「しょうがないじゃん、場所も分からず先生が徘徊している可能性も考えないと、バレたら今日の特訓は鬼レベルどころじゃなくなるかもしれないし」

 

「まだ上があるんっ!?」

 

「シーッ、麗日さん、静かに」

 

「行きましょう」

 

再度行動する五人の少女達。ゆっくりと足を動かし、暗闇の中でも向こう側を見れる暗視鏡越しで前方を警戒しつつ移動する。初めて奥まで移動するお茶子達は早速一つだけ反応する部屋を見つけた。

 

「ここかしら?耳朗さん」

 

「ん、分かった・・・・・」

 

「待って、先生がくんよっ」

 

「退避っ」

 

バッとローブを翻し踵を返す一行は曲がり角へと身を闇と一体化になる様に隠す。そして一拍遅れて一つの足音が部屋の扉の前に立ち無遠慮に開けて中に入る様子を壁にイヤホンジャックを突きつけ盗聴する耳朗以外見ていた。しばらくして部屋から後にした者がいなくなって完全にレーダーでここから遠ざかったことを確認してホッと安堵の息を漏らす。

 

「よし行ったね」

 

「耳朗さん、どうでした?」

 

「ん。バッチリ、あの部屋にいるよ」

 

「長く感じたこの隠密行動もあっさり終わっちゃったなぁー」

 

「ドキドキしました。ですが、どこか楽しい自分がいましたわ」

 

今回のこの思い出はきっと老いても忘れはしないだろう。ドキドキしながら立派なヒーローになる為に励んでいる生徒が規則を破り、先生の目を盗んで深夜歩き回って異性の部屋に訪れる体験は印象深き行いだ。曲がり角から全員出て目的の部屋の扉の前に立ち深呼吸する。律儀にノックして入室の了承を得る暇はない。申し訳ないと思いつつ百は扉を開け放った。

 

「失礼しますわ」

 

 

突然訪れてきた少女達に今電気消そうとしていた部屋の主、一誠が目をパチクリした。思いもしなかった訪問者等に何事?と胸中で思っていれば少女達は部屋の中に入ってきた。

 

「えーと、どうしたんだ?」

 

用がなければここまでこなかっただろう彼女達に訊ねる。敷いた布団の上に一誠は座り、その目の前に座る皆の代表としてとお茶子が口を開く。

 

「八百万さんと耳朗さんが嫌な夢を見たって」

 

夢の内容は悪夢に等しいだろう。察する一誠は翼を広げ、百と耳朗の背中にまで伸ばした。

 

「久しぶりに一緒に寝るか」

 

「・・・・・自分が情けないです」

 

「ゴメン」

 

こうして異性の中で心の底から安心できる相手、窮地に立たされていた少女を助けた少年の温もりを感じなければ安眠は難しいほどトラウマを植え付けられた二人に攻めもせず、受け入れる。ローブと暗視鏡を外しながら近寄る二人を腕の代わりに翼で抱きしめる。

 

「ん、久しぶりの二人の温もりと柔らかさだ」

 

「軽く峰田みたいな発言してるよ」

 

「でも、一誠さんだととても嬉しいですわ」

 

百の手は一誠の腕を取り、もっと温もりと男の肌を感じたいと胸に抱え込むその行為に冷静で見ていた一佳達がギョッと、うわー、と三者三様の反応を示す。これが峰田にもさせられたら狂乱するに違いない。寝巻の薄着に下着のみの百は自分がしている行為に気付かず無自覚で寄り添う。対照的に耳朗は翼から伝わる心地のいい温もりを堪能してイヤホンジャックで一誠の心臓の鼓動を聞く事で落ち着く。

 

「一誠君、さっき誰かが部屋に入ってきたよね?」

 

「ん?ああ、相澤先生のことか。てか、今気付けば五人共なんて格好をしてるんだ?」

 

「先生達にバレないようにするためなんだよ。本当、一誠がどこの部屋にいるのか探すのちょっと苦労したんだよ?」

 

「ですが、神様は私達に試練を与え、私達はその試練を乗り越えた結果で貴方の部屋にまで辿り着けました」

 

そこまで警戒と徘徊していたのか先生達は?首を傾げる気持ちとなる一誠だったが、プロヒーローなら当然かと取り敢えず納得した。そしてまず言いたい事があった。

 

「百、お願いがあるんだけど」

 

「なんでしょう?」

 

「明日の肝試しに発信器を使いたいんだ。もしよかったら人数分作ってくれるか?」

 

理由も説明することで八百万は承諾した。それから一誠の望み通り人数分の発信器が作り出された。

 

「ありがとう。これでお前達を盛大に脅かせる」

 

「「盛大にだけはやめてっ」」

 

怖いものが苦手なお茶子と耳朗の揃った声に一佳は苦笑いする。茨は徐に立ち上がっては八百万と耳朗のように、一誠の背中にぴとりと寄り添う。

 

「あ、茨も大胆だ」

 

「この美しい翼を触れてみたくなりました」

 

八百万に負けない双丘の弾力と温もりを与え、押し付ける茨に対し、おいてけぼりなお茶子と一佳、片や恥ずかしそうに見ていたり片や普通に見ていたりと見守っていると一誠の口が開く。

 

「百、茨、胸が当たっている。そろそろ離れてくれるとありがたい」

 

「・・・・・?」

 

百はその指摘を受けてキョトンする。しかし現状を確認すると頬をほんのりと朱色に染め上げ恥ずかしげに離れるのが普通の反応であったが八百万百の場合は・・・・・。

 

「ご迷惑ですか・・・・・?」

 

不安そうに問う百。自分の体の発育に関しては皆より良い方であることは自覚している。それも相まって容姿も家柄も能力も優れている故に周りが無視できないでいた為、事件が起きてしまった。二度も認めも許していない男に体を蹂躙されそうになり、トラウマに似た恐怖の念が夢にまで出てくるほど酷い目に遭っても助けにきてくれた。

 

「や、しょうがないとはいえ、信頼している異性だとしても安易に接触させちゃ駄目だって話。両親もそう言うと思うし」

 

「・・・・・」

 

このやんわりと窘める一誠にだ。彼の少年の言葉は百を沈黙させたが、続きがあった。

 

「こうも異性からくっつかれると俺にも理性というものがあるんだよ。自惚れだろうけど、俺に好意を向けられる女にさ」

 

「っ!?」

 

条件反射で百は顔を上げて一誠の顔を覗き込む。強い意志が籠った金の瞳が自分を映していた。事件の渦中に巻き込まれ、助けに現れた時と変わらない瞳が少女の顔を浮かべていた。

 

「耳朗も同じだからな?可愛いんだからよ」

 

「かっ、可愛いっ・・・・・!?」

 

ボッと顔が火を噴いた様に真っ赤に染まる。異性から言われたのは初めてなのだろうか、熱くなった顔を見せたくまいと俯いたが副耳のイヤホンジャックまで真っ赤になっている。内心可愛いなぁと思いつつ話を百に戻す、

 

「そういうことだ。添い寝程度ならいいけどあんまりくっつかれると・・・・・」

 

「か・・・・・」

 

ポツリと吐露する百。次は濡羽色の瞳の眼差しを金眼に注ぎ込めば否が応でも一誠は彼女と目が合い、視界いっぱいに映り込んだ。

 

「・・・・・ん?」

 

「一誠さんは、私達の事、異性として好きではなかったのですか?」

 

今度は一誠が黙る番だった。真っ直ぐな目をしている百は真摯な面持ちで問い詰める。

 

「貴方は仰いました。『俺も好きだと』。あれは嘘だったのですか?」

 

「ああ・・・・・言ったな。でも、三人から返事を貰ってない時点でまだそこまでじゃないのと大切な時期だから敢えて問わなかった。返事はまだ言わずとも聞かずともいいと考えたからな」

 

「では、今でも気持ちは変わらないでいるのですか?」

 

「今さっき言ったように、今は大切な時期だ。他の事に夢中で専念するべき注力を疎かにしちゃいけないんだ。一段落するまでは今の距離を維持し続ける」

 

受験に合格するまでは何らかを禁止、厳守する学生の気持ちの様な考えを打ち明けた一誠に百達は察した。この人はどこまでも自分の事より相手の事を考えているんだと。恋に現抜かし場合ではないのだと距離を置いているのだということに。一段落。それが終えるまでは、一誠は告白をすることも受け付けもしない。今は大事な時期である。故に理解して私情を挟む事はしない、恋愛についても―――仮免を取得するまで気持ちを仕舞う事にした百は一誠の気持ちを尊重し、ある決意をする。

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