「お代り」
「「・・・・・」」
拳藤一家の朝食で始まる一日。一佳の食欲が何時にも増して二倍や三倍まで食べるようになり、両親は我が目を疑う感じで娘を見つめる。
「あんた、ここ最近食べる量が増えたんじゃない?」
「雄英を目指しているから体力もつけないと駄目なんだ。勉強もちゃんとしているから大丈夫」
「ならいいが・・・・・あまり食べ過ぎると―――」
「お父さん?」
「いや、何でもない。うん、何でもないぞ」
拳を巨大化させて固く握り始める娘に危機感を覚え、広げた新聞紙で顔を隠す。その際、とある記事が視界に入り、神妙な面持ちとなった。
「・・・・・それにしてもこの子、オールマイトの養子の子は最近千葉県の各地で見掛けるようになってるな」
「そうみたいね。まだ娘と同い年なのにプロヒーロー顔負けなほどに活躍しているじゃない」
「だけど、学校はどうしているんだろうな?オールマイトも養子とはいえ子供に学校を通わせなきゃ社会に出た時苦労するのはこの子だろうに」
「そうね。プロの資格を取っている訳でもないのに・・・・・その辺はどうなってるのかしら。ねぇ一佳」
「ん、そうだね」
ガツガツとお代りした料理を良く咀嚼し胃の中に送り込む作業を繰り返し、食欲が満たされた幸福感を噛み締めつつ席を立った。
「ごちそうさま。今日は友達と遊ぶ約束があるから」
「あら、そうなの?
「分かってるよ。もう、遭遇したら逃げるようにする」
「ああ、そうしなさい。もう娘が事件に巻き込まれたって聞いて大変だったよ。しかも娘を助けたのはこの子だって言うしね」
バサ、と新聞の記事に載っている一誠の写真を指差す一佳の父親。
「もしもどこかで出会ったら家に招きなさい。私達も直接お礼の言葉を掛けたいから」
「うん、確率は低い方だけど見掛けたらそう言うね。それじゃ、行ってくる」
「―――って、私の両親がそう言っているんだけどどう?」
「別に当然のことをしたまでだから感謝の念を抱いてくれればそれでいいのに」
「それほど感謝しているってことだよ」
公園の森林の陰にひっそりと潜むようにいる俺の隣に一佳がいる。彼女を鍛えるようになって今日で五日目。
俺のスパルタの稽古に悲鳴を上げながらも何とかギリギリこなして確実に実力を身に付けている。まあ、こんな公園でしかも人が来る公共の場で稽古なんてまず無理だからとっておきのやつでやっているからだけど。
「それじゃ今日も稽古をつけてあげよう一佳」
「お願いするよ一誠さん」
因みに、俺の本当の年齢を教えておいた。教えたら教えたで驚かれたけどな。
で、俺はスノードームを用意して一佳と共に―――修行場の中へ今日も入った。
「はっ!はっ!はっ!」
何度も正拳突きが何もない虚空に突き出される動きは数えるのが億劫しいほど繰り返す一佳。
そんな彼女が稽古の日課をしている他所に俺もオールマイトからコピーした個性の把握と―――調整しなくちゃいけない。
『いいか一誠。「
(スマッシュ!)
『海』に向かって殴るように拳を振るった際、腕から拳に至るまで凄まじい力のエネルギーの熱が一気に溢れだす感覚を覚えて一拍した後―――海が大爆発、膨大な量の海水が迸り水柱ができた。
(これが・・・・・ワン・フォー・オールの力・・・・・)
俺自身の拳でも出来ることをこれでもできる・・・・・。身体能力が過剰に上乗せしたなこれはきっと。今の感覚を腕だけじゃなく足や全身にも張り巡らせれば・・・・・。
「す、凄・・・・・海が渦巻いている」
「ノルマは終わったか?」
「あ、うん。終わったよ。丁度海に向かって拳を突き出したところで」
一佳の視線の先は渦巻く海。水面に強い衝撃を与えれば広がってまた中心に収束する現象が起きたんだろう。
「個性無しでその力?」
「いや、使った。増強系統の個性だ。まあ、個性無しでも可能だけど」
「・・・・・もう人間離れしてるね。まるでオールマイトだよ」
「その養子だけどな。そんじゃ、次は砂場でランニングをするぞ五キロぐらい」
「うん、わかった」
拳での素振りが終われば次は走り込み。丁度俺達がいる場所は一周すればそのぐらいの距離があるほど広い場所だ。ランニングコースとなっている砂場にジャングルを思わせる自然豊かな森と白亜の巨大な白が崖の上にそびえ立っている。ザッザッザッと砂を踏みしめ、沈む足を上げて前に出す動作を繰り返し、何時もよりそれなりに足腰に力を入れるランニング中に。
「ここって不思議だよ。スノードームの中に一体どうやって入れているんだ?」
「ふっふっふ。それは秘密さ。ここで一日過ごしても外の世界は一秒しか経っていないという好都合で便利な理由も加えてな」
「・・・・・だから私、この中で一週間も稽古を付けられているんだけどね」
「そのおかげで確実に身体能力も上がっているわけだがな」
時間を掛けて走り切った一佳を一先ず休ませた後に―――彼女が最も楽しみにしている修行の一つ、組手を始める。
「よし、個性の使用有りで組手をしよっか」
「待ってました!今度こそ一撃を入れてみせる!」
「やってみな、手加減するとしてもそう簡単に一撃を食らう俺じゃない」
活き活きと拳を巨大化させて構える一佳に俺も赤い鱗に覆われた巨大な拳、ドラゴンのソレにして攻撃態勢になる。
「来い」
「いくよ!」
一時間の組手が終われば白亜の城に戻る為、素手で崖を命綱無しで登らせる。しかも俺が一佳の背にぶら下がる形で重りと化しているのだった。
「一佳頑張れ、あともうちょいだ」
「く、くぅっ・・・・・!」
崖の半分ぐらい登り切る一佳を他人事のように応援する。全身の力を酷使+俺の体重が加算されて思っている以上の肉体と辛さから来る精神的な疲労が一佳に重く圧し掛かっているはずだ。挫けない心を作るにはまず精神面から鍛える。俺もそう学んで実感したから良く分かる。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
疲労困憊でようやく崖を登り切った一佳が仰向けで倒れていて全身で息をしている。佇む俺は見下ろしながら「大丈夫か?」と問うた。
「ハハハ・・・・・崖を登る体験はここでしかできないって・・・・・」
「だが、今回は登り切ったじゃないか。成長している証だ」
「一誠さんも崖登りをしたから私にもさせているのか?」
「当然だ。俺が体験した修行方法は大体幼児の頃からやっている。なんなら、猛獣がいるジャングルでのサバイバルもしてみるか?」
「・・・・・一体、どんな人生を送っていたんだ一誠さんは」
HAHAHA!秘密だ!
「さて、午前の稽古と修行は終わったことだし、城の中で休憩だな」
ひょいっと自然に一佳を横抱きに抱え(所謂お姫様だっこ)白亜の城へと向かう。
「・・・・・」
ほんのりと耳まで朱に染まる一佳の反応と表情を時折窺いながら楽しんでな。
「あー・・・・・全身に沁み渡る・・・・・疲れが抜けていく・・・・・」
一人、貴族が入っていそうなゴージャスさと広大な風呂場に一佳が蕩けた顔で湯に浸かっている。
この場に誰もいない、のんびりと何時までも疲れを癒す目的で入れる風呂場は温泉。一佳が入っている湯の他にも様々な色や効能の湯があり、どれに入ろうか最初は迷った記憶が新しい。不意に自分の手を見下ろし、開いたり握り締めたりと開閉の仕草をする。それから自分の胸を見つめた。
「なんか・・・・・大きくなった?」
歳不相応に豊かになりつつある胸を触り、変化を直で確かめる。まさか、実力と共に胸まで成長している・・・・・?とおかしなことを考える一佳は頭を振って胸に対する意識を明後日の方へと追いやった。
今考えるのは残り二日、残された時間の中で一誠に鍛えてもらい強くなることだ。
個性の応用性の幅が増えて一誠から伝授される格闘術や中国の拳法、為になる戦い方を教えてもらえて感謝してもし足りない。
「んー、何かお礼をしたいなぁー」
何が良いだろうと綺麗な眉の根を寄せて思い耽る一佳がいる風呂場に当の本人の声が飛んできた。
「おーい、昼飯の準備ができたぞー」
「わかったー」
入浴中の一佳にそう伝えられせっかく作ってもらった料理を冷めさせるわけにはいかないと思考で湯船から上がり、傍に置いたタオルを手にして体に纏って脱衣所へと赴く。
「お礼がしたいって?」
「うん、そう。・・・・・美味いね」
リビングキッチンで昼食として作った料理を共に食べる最中、一佳からそう言われる。
「別にいいよ。稽古や修行をつけているのは好きでやっているだけだから」
「でもお願いした方だから何かお礼をしたいんだ。・・・・・これも美味しい」
「そう言われてもなぁ、報酬目的でしてるわけじゃないし、仮にお礼を欲しいって思っても何がいいのか思い付かん」
だから別にいい、と拒否する俺だが、それでも一佳は恩を返したいと頑なに求めてくる。困った、と頬を掻く思いでどうしたものかと考えると不意に彼女があることを指摘した。
「そう言えば、一誠さんも雄英に通うことになってるの?」
「うん?ああ、俺がその気になったら推薦やら一般の入試を受けさせてくれるみたいだが」
「推薦って・・・・・オールマイトの養子だから?」
「いや、俺の個性が希少だからだ。で、俺が通うことになったらなんだ?」
「うん、一誠さんの年齢は14歳って世間じゃそうなってるけど実際は16~17歳だよね?高校も通ってないみたいだし、勉強の方は大丈夫なのかなーって」
・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・・・。
「・・・・・一誠さん?」
「・・・・・一佳、お前にしか頼めないことがある」
お礼を目的とした訳じゃないのに・・・・・ここで俺は重大な事実を忘れていた。真剣な表情で、間抜けな乞いをするのは今日で最後だ・・・・・っ!
「俺に、勉強を教えてくれぇ・・・・・!」
「は、はいっ・・・・・?」
―――俺が来た(by一誠)―――
「い、異世界から来たヒト・・・・・?」
「信じてくれるかどうかは一佳の判断に任せる。だが、俺は隠し事は多いが嘘はつかない主義だ。一佳にとっての常識は俺にとって非常識であり逆も然り。この世界の学校の授業と知識、勉強は一切受けていない今の俺は戦うことしか役立たない脳筋になってしまう・・・・・っ」
「・・・・・」
情けないことに本当にそうなってしまう。どの高校にも試験というものがある。筆記試験があってもおかしくない。何も知らないままその試験を受けたら確実に俺は0点を叩きだすに違いない。それだけは何としてでも避けたい一心だ。
「異世界から来た俺にとってこの世界の常識はまだ疎い。その為に全国を一年間の間、見聞を目的に旅をしているんだ」
俺の素性を一佳に明かし、勉強を教えて欲しいという理由も納得させる。教えてもらわなければそれでも構わない。世界の見聞を把握するって言っても、それだけじゃ駄目だったようだオールマイト。勉強もしないと駄目だった・・・・・。不覚・・・・・!
「一誠さんが異世界から来たってその、証明できることはありますか?」
「あるにはあるけど・・・・・怖いのと怖くないの、どっちがいい?」
「え?じゃあ・・・・・怖くない方で」
「・・・・・分かった」
こっちに来るように手招きしながら立ち上がる俺はテーブルの横に立つ。手招きに応じて近づく一佳と俺の足元を中心に幾何学的な円陣=魔方陣が展開する。
「俺の記憶を見せる」
「記憶・・・・・?」
「ああ」
額と額を合わせ、鼻先が擦れそうなほどの至近距離で顔を近づける。
「笑いあり涙あり驚きありの俺の記憶だ。これはオールマイト以外見せていない俺の記憶」
「っ!」
「心の準備はいいか?いくぞ」
魔方陣の光に包まれ、俺達の視界は真っ白に染まりついには何も見えなくなった―――。俺の記憶を見せる相手はこれで二人目となる。その後―――結果としては、俺のこと異世界から来た存在だと認識してくれた。特に反応が凄かったのは幼い頃、兄貴に包丁で刺された光景がショッキングだったようで口元を手で覆う様子だったかな。まあ、それはそれで今現在俺は一佳に勉強をマンツーマンで教えてもらっているが・・・・・。
「・・・・・俺が知っている勉強じゃないっ」
「が、頑張ろうっ!この中で一日過ごせば外の世界は一秒なんだからさ!」
覚えることがたくさんある。午前は一佳の稽古と修行、午後は俺の勉強会と区切りが付き、一佳に申し訳なくこの空間の中で一ヶ月間も厚意で過ごしてもらってしまった。そのおかげで俺は一佳が持ってきてくれた教科書のページの殆どを理解、把握、暗記とマスターができた。その間、一佳との距離がぐんと短くなり。何時しか一佳が初々しい反応をしながらも俺と一緒に添い寝をするようになったり、彼女の身体能力が修行と稽古をしていなかった頃と比べてかなり向上した。
「「・・・・・」」
砂浜で佇む俺達。号令を掛けるタイミングなど必要無くどちらからでも無く飛び出して拳と足を交差する
足場が不安定な場所での近接格闘もいまでは慣れて確実に一撃を与える気で躊躇のない打撃を放ってくる。
俺のパンチやキックも防いだり受け流す一佳も成長している。
「―――ちょっと、本気を出すぞ」
「来いっ!」
脚に力を込めて爆発的な脚力で一佳の横を通り過ぎ背後から回し蹴りをしたが、サイドポニーテールが当たって姿勢を低くした一佳に当たらなかった。
「はっ!」
直接当てず、虚空に向かって正拳突きをすると見えない衝撃波。避ける暇も防ぐ暇もなく吹っ飛ぶ一佳に追撃すると苦痛で顔を歪めつつも目が死んでいない一佳が態勢を変え、個性を発動して巨大化した拳を砂浜に引っ掻く感じで吹っ飛ぶ速度を削ぎ、あろうことかその砂で目くらましに使った。でも、俺には通じない。目が潰されても相手の位置を把握できるからだ。感じる気配を把握し、容赦のない威力が籠った拳を前に突き出す。
「―――――っ」
一瞬だけ視界が晴れた先に一佳が真剣な眼差しを向けていた。そして避けることも防ぐこともしないで自分の頭で俺の拳にぶつけてきた。その考えと行動に俺は一瞬だけ驚きで目を張ったところを一佳の手が俺の腕をとらえた。
「―――ここっ!」
腕を掴んだままもう片方の拳で俺に殴りかかって来た。悪くない、悪くないがそれは想定済みだ。遅く見えるその拳をあっさり掴み掛かろうと手を開いて突き出した―――が、一佳の拳がいきなり元のサイズに戻り、俺の手と腕を絡みつく感じで迫ってくる。その光景にそっちの方へ意識を向けていた俺の視界に一佳が更に飛び込んできた。
「おりゃっ!」
間も置かず脚で俺の胴体を絡め、そのまま砂浜に押し付けた。抵抗しようが片腕は掴まれ、もう片腕は関節を捉えられて―――サイドポニーテールを大きく振りながら一佳の顔が勢い良く俺へ迫っては、
「おらあああああああああああっ!」
ゴンッ!!!!!
思いっきり頭突きをかましてきやがった。・・・・・地味に痛い。
その後、静寂が俺達を包み沈黙が続く。一佳は全身と荒い息をして俺を見下ろし、俺はジンジンと鈍い痛みを感じながら一佳を見上げる。
「・・・・・一撃を入れられたな。虚を突いた動きはアレだったが、悪くなかった。合格だ一佳」
「・・・・・ははっ・・・・・最初は全然掠りもしなかったのにようやく・・・・・」
気が抜けたようで俺の胸に倒れ込んできた。視界を占める茶髪の頭に手を伸ばし、ポンポンと優しく撫でる。
「お疲れ、良く頑張ったな。少なくとも実演で落ちることは無いと思う」
「ありがとう・・・・・それと重くないか?」
「軽い軽い。心地の好い重みだよ。柔らかくて温かいな。何時までも抱きしめたい」
「・・・・・照れる」
それから鈍い痛みも無くなっても一佳の体力が回復するまでしばらく重なり合ったまま動かない。
「一誠さん。一誠さんは異世界に帰るのか?」
「帰れたら帰りたいな。帰る方法は全然分からないけど」
「いろんな人達がいるもんね。一誠さんの世界はファンタジーだよ」
「いやいや、
「・・・・・私にとっては常識で一誠さんにとっては非常識、その逆も然り・・・・・」
「ん、そういうことだ」
理解が早くて助かると頭を撫でられている一佳が顔を上げて俺と視線を絡め合う。
「じゃあ、一誠さんにとってこの世界は暮らしやすいんじゃない?蜥蜴みたいな人もいるし」
「俺はドラゴンだっ」
「あ、ごめん・・・・・でも、異業系の個性が常時発動しているわけじゃないのに外見から判断すれば人そのものだよね?」
そう指摘する彼女。異業系という個性の他にももう二つ異業系も含めて三つの系統がある。
発動系 数多くある個性の中で一番スタンダードな系統。多種多様で自身の意思で能力を発動させる。つまり魔法みたいな感じだ。
変形系 生身の人間の体から、自身の意思で体を変化させる系統。 これは俺が龍化するような感じだな。
異形系 赤子が生まれた時から常時個性が表に出ている系統。つまり生まれた時から翼とか尻尾を生やしていたり、人の姿ではない赤子が生まれた意味のことだ。
「まあ、俺は三つの系統の内、発動系と変形系の個性を持っている人間だと思われるだろうけど、俺は人間じゃなくてドラゴンだから異業系も含まれるんだがな」
「・・・・・ドラゴンに鍛えられている私って実は凄い?」
「普通に考えて、全人類の中で人間じゃない種族に鍛えられた人間は一佳だけだ。宝くじで一等を当てるよりも凄いぞ」
上半身を起こして一佳と対面座位の形で向き合う。
「俺が人間じゃないって知ったこの世界の人間達の反応が想像できないな」
「受け入れてくれると思うんだけど・・・・・」
「この世界の常識に混乱する思いだよ俺は・・・・・。内心、俺が人間じゃないって知られたら、周りは怖がられるんじゃないかと冷や冷やしていている。俺はこの世界の人間じゃないから反応が怖い怖い」
「・・・・・大丈夫だって。一誠さんのこと受け入れてくれる人達はいるよ。きっと一誠さんのことが好きな人もいるかもしれない」
俺のことが好きになる人間か・・・・・。頭の中であの棘のついたツル状の髪を伸ばしている少女の顔が過ぎる。
身も心も捧げるとか言うあの少女も俺に好意を抱いているが・・・・・。
「人間じゃない俺に好意を持つ人間ねぇ・・・・・」
「信じられない?」
「いや、疑問だ」
「それは信じていないのと同じな気がするんだけど・・・・・」
ズイと顔を寄せてくる。なんだ・・・・・?顔が近過ぎる・・・・・。
「この空間の中で一緒に過ごしたおかげで一誠さんのことは少なからず分かっている方だよ私」
「それは俺も同じことだが?」
「だったら、お互い信用と信頼の繋がりが固く結ばれていると思ってもいいはずだよね」
「一佳?」
何が言いたい?と口にすることはできなかった。彼女の円らな瞳から伝わる真剣さと柔らかそうな唇が近づきながら―――。
「私、一誠さんのことが好きだからね。一人の異性としてだよ」
額と額を合わせる一佳からの告白に言葉を失った。
「異世界に帰るなら、私も連れてってね。凄く興味があるから」
「おい待て。ヒーローになるんじゃないのか」
「休業って言葉便利とは思わない?」
「・・・・・」
「そう言うこと。一誠さん、一緒にヒーローを目指そうよ。コンビでヒーロー活動しているヒーローもいるんだ」
コンビで活動・・・・・そんなヒーローもいるのか。初めて聞いたな」
「ヒーローになるかは別の話として、俺とコンビを組んだら出番はなくなる方だぞ。俺一人で何でもこなしちまうから」
「オ、オールマイティー・・・・・?」
「まあ、そんなところかな。でも、出来ないこともあるから完全でもないが一佳。俺を好きになると色々と面倒で大変なことが振りかかるぞ。それでもいいのかよ?」
と、お勧めしないぞとばかり若干呆れ気味で問う俺の首に回していた両手で俺の頬を包むよう添えて来た。
「一誠さんの世界で一誠さんのことが好きな人がたくさんいることはもう分かっているよ。皆、綺麗でスタイルも良い人達だけど、この空間の中で私の心に芽吹いた気持ちぐらい負ける気はない。きっとこの世界で一誠さんのことが好きな女の子も後からできるだろうけど、それでも私はあなたのことが好き」
「・・・・・物好きめ。恋敵が後から増えても知らんぞ。俺は性別問わず魅了する男らしいからな」
「はは、それで結構だよ一誠さん。―――大好きだ」
笑う一佳を見た後に、唇を重ねられた。温かくて柔らかい少女の唇は俺の心を満たしてくれる。久しく感じなかったこの感触と想いを・・・・・。
―――そして、別れの日が訪れた。
「それじゃあ一佳。また何時か会おう」
「うん、絶対に雄英の試験を合格してヒーロー科に入ってみせるよ。一誠さんが雄英に来てくれると信じてね」
「・・・・・期待しないで自分の道を進んでくれ。それがお前の為になるさ」
「信じてるから!」
踵返して天使化になって空を飛ぶ俺にそう叫ぶ一佳の言葉を耳にし、背中で信じるという言葉を受けながら飛翔する。
「・・・・・来年になればまたきっと、きっと会える・・・・・」
その瞳に、希望の光を宿し来る日まで少女は待ち続けた。
『一誠・・・・・もう少女のハートを鷲掴みにしちゃったのね!お父さん、孫を見る可能性が出てきたことを感動しちゃうよ!』
「なに早とちりしてんのお義父さん。そういうのじゃないから」
『おやぁ?キスをしたのにそういう関係じゃないって一誠のキ・チ・ク』
「・・・・・っ」
『あ、怒っちゃった?ゴメンゴメン。それで、次はどこに行くかもう決まってる?』
「・・・・・まあ、決まってるよ。―――埼玉に行こうと思う」