この大事件は雄英の完全敗北と結果を残し―――一夜明けた翌日 雄英(夏休み中)
学門の前に集まって取材を臨もうとしているマスコミ達を他所に会議室でプロヒーローは集っていた。
「己の不甲斐なさに心底腹が立つ・・・・・絶対に大丈夫だと過信していた、彼もまた人の子であることを分かっていながら助けられなかった私自身に・・・・・っ!!」
トゥルーホーム姿のオールマイトの心情を黙って察する根津達も深刻そうに話を飛ばし交わし合う。
「〝
「認識で来ていたとしても防げていたかどうか・・・・・これほど執拗で矢継ぎ早な展開・・・・・・〝オールマイト〟以降組織だった犯罪はほぼ淘汰されてましたからね」
「要は知らず知らずの内に平和ボケしてたんだ俺ら。〝備える時間がある〟っつー認識だった時点で」
慢心の一言に尽きる。教師としてプロヒーローとして
「襲撃直後に体育祭を行う等・・・・・今までの『屈さぬ姿勢』はもう取れません。生徒の拉致、雄英最大の失態だ。奴らは兵藤と同時に我々ヒーローへの信頼も奪ったんだ」
「現にメディアは雄英の非難でもちきりさ。兵藤君を狙ったのもおそらく体育祭で彼のヒーローの在り方に否定する発言で少なからず周知されていたからだね。あり得ないけれど、もし彼が
新聞紙やタブレットに記載されている雄英に対するニュースがびっしりと載っていた。
「ですが、彼なら今頃逃げ出しているのでは・・・・・?」
「彼は一度・・・・・クラスメートを盾に『タルタロス』から死柄木達を脱獄させてしまった。おそらく今回も同じ手を使われて逃げ出せないでいるのかもしれない」
と、推測する根津の話が区切るとプレゼント・マイクが事件が起きた原因を指摘する。
「信頼云々ってことでこの際言わせてもらうがよ・・・今回で決定的になったぜ。―――いるだろ内通者」
会議室の空気が一瞬、静まり返った。
「合宿先は教師陣とプッシーキャッツしか知らなかった!怪しいのはこれだけじゃねえ、ケータイの位置情報なり使えば生徒にだって―――・・・・・」
教師だけじゃなく若い生徒にまで内通者として雄英に潜入しているその事実は誰も信じたくも疑いたくも無い話だ。信用と信頼し合っている同僚と生徒の中に実は
「やめてたまるか。洗おうぜこの際。てってー的に!」
そんなマイクに西部のガンマン風な出で立ちの教師兼プロヒーロー、スナイプが「そうするなら」という仮定を持ちだす。
「お前は自分が100%シロという証拠を出せるか?ここの者をシロだと断言できるか?」
「Umm・・・・・」と唸るマイク。自分で言っておきながらその材料はないと押し黙ってしまう隣人にスナイプの口は開き続く。
「お互い疑心暗鬼となり内側から崩壊していく。内通者探しは焦って行うべきじゃない」
二人の会話のあとで根津は彼らの気持ちを汲んだ上で話した。
「少なくとも私は君達を信頼してる。その私がシロだとも証明しきれないワケだが、とりあえず 学校として行わなければならないのは生徒の安全保障さ。内通者の件もふまえ・・・かねてより考えていたことがあるんだ。これは兵藤君にも既に頼んであるんだ」
それは・・・・・と言いかけた根津の話を遮るのは、会議室中に響く携帯の着信音だった。その携帯の持ち主はオールマイトで申し訳なさそうにSOSOKUSAと会議室を後にした。彼の携帯に連絡しているのは、警察であった。
更に翌日が経ち―――一方の緑谷達は襲撃の後、合宿先の直ぐ近くの病院に負傷者が搬送された。無傷な生徒達は直ぐに帰宅することになったのだが、B組の一佳と茨と一緒に兵藤家のリビングキッチンで集まって兵藤一誠を失って静まり返っているA組であった。辛気臭い雰囲気を醸し出し、誰一人明るくない。特にお茶子達は生きた屍の様に部屋の隅で膝を抱えていたり、落ち込んでいた。
昨夜―――
「春の比じゃねぇーな。兵藤が攫われてこうなるだなんて・・・・・くそ、許せねぇっ」
備えられているテレビに映る報道を見て自分達も他人事ではいられないと現況を受け止める。雄英の杜撰な管理体制にアナウンサーやゲストらがKOKOZOTOBAKARINI非難と対応力の追及をしていた。「オールマイトの養子 攫われる」と大きく報道もされている。
切島の気持ちはほぼ皆も同じだった。一誠を攫うことで悪い方向へ転がり落ちる結果を見据えていたなら―――
「・・・・・」
膝を抱え落ち込んでいたお茶子は顔を上げ、すぐ傍に置いてある一誠の荷物に視線を向ける。持ち主がいない荷物は喋ることすらなく、ただただ持ち主の帰りを待つだけの置物となっている。それをそっと触れる。強く頼りになる存在がお茶子からいなくなってしまった事実を否が応でも突きつけられる。
(一誠君・・・・・)
大丈夫だよね?と安否を思い浮かべた時―――。
「・・・・・皆さん、少しお話があります」
八百万が皆に話を持ちかけた。意識を向け耳も傾ける緑谷達は数多の視線を一身に浴びる一人のクラスメートの少女の話を聞く姿勢で反応する。
「一誠さんが捕まっている場所を把握できていたら、皆さんは助けに行きたいですか?」
仮定の話だとしても少なからず驚き、轟は「どういうことだ」と問い返した。八百万は自分の鞄からある物を取り出す為に漁る。
「―――
襲撃されたその後。上半分だけ吹っ飛ばされたプッシーキャッツの合宿から一誠の荷物を回収した際、人数分の発信機が一つだけ足りない事を知った八百万。もしかしたらと受信デバイスを創造したところ・・・・・。
「一誠さんは私達に捕まっている場所、
カバンから取り出した画面に表示する発信機がある場所を点滅するデバイスを皆見せつけた。それは発信機を持つ一誠がいる場所を示しているのと道理であった。つまりそこに行けば一誠を助けれる可能性が上がるのであった。八百万の話の意図を察した一同は目を見開く。
「兵藤君を助けに行くってことなのか八百万君・・・・・?」
「ええ、そうです。しかしこれは
「そこまでわかっているなら何故、君はそうしようとしているんだ八百万君!」
生真面目で正義と規律を重んじる飯田は普段の八百万からすればあり得ない話に黙っていられず、話に加わっていない他の皆も飯田の声に無視できず反応した。
「直ぐにそれを先生か警察に渡したほうがいい!」
「渡しましたわ。これは渡した後に創った物です・・・・・ですから」
デバイスを握る力が籠る。
「私は悔しいのですっ。一誠さんに何度も救われ何度もお世話になっているのに私は・・・一誠さんに対して何もしてられていない、していないのですっ」
八百万の表情から悔いの色が濃く浮かんでいた。
「感情的になっているぞ八百万君!これはプロに任せるべき案件で俺達生徒の出ていい舞台ではない!兵藤君もきっと今頃は―――!」
「飯田さんは何も知っていませんわ!」
冷静な八百万が感情的に叫ぶ。声を失う緑谷達を他所に飯田に食ってかかる八百万は脳裏にあの時を浮かべてしまう。
「一誠さんは私と耳朗さんを助ける為に―――捕まえた
「なっ・・・・・!?」
「私達の為に、法を犯してまで助けられた私の気持ちを飯田さんは知りません!」
重度の罪や法を犯した
「耳朗、ほ、本当なのかよ?」
「お茶子ちゃんも知っていたの?」
上鳴と蛙吹の問いに対しお茶子と耳朗は肯定だと沈黙する。
「もしかしたら今でも私達を助ける時と同じように無関係な人を盾にして利用し、一誠さんに何か法を犯す強要でもさせられているなら。少なくとも一誠さんはヒーローの夢を諦めざるを得ないかもしれません」
「っ・・・・・」
「それを知っていながらのうのうとプロヒーローになったとしても、私は胸を張れるヒーローにはなれません!」
彼女の中の矜持と信念が一流のヒーローになる夢を抱く少女を突き動かそうとしている。
「飯田さん、他の皆さんも私の考えと言動は間違っていると思いなのは正解です。ですが、例え私の夢も潰えることになろうと一誠さんを助けに行きますわ。誰になんと言われようと今夜―――」
―――今度は
そして―――・・・・・その日の夜を迎えた。
夜食を食べずお茶子や耳朗にも一言掛けず一誠の救出のため家から出る八百万。声を掛けたらきっと着いてくるかもしれない。クラスメートの夢を潰したくない彼女の計りで静かに玄関の扉を開け放った時、目の前にいた少年の視線とぶつかった。
「何故ここに・・・・・」
「決まってるだろ。お前と兵藤を救助しに行くためだ」
有り得ない、と気持ち沸き上がる胸中。これから行動することは除籍処分をされてもおかしくない愚行。それを承知の上で眼前のクラスメートはタイミングを計らった様にここへきた。止めに来たならともかく同行しようなどあってはならない。夢を自ら潰しかねない切島に宥めようとした開く口は遮られた。
「お前と俺達とでだ」
横にずれる切島が立っていた背後、玄関に繋がる階段の下を見下ろす先には―――八百万を絶句させた。
「八百万さん、一緒に行こう」
緑谷出久、轟焦凍、拳藤一佳、塩崎茨。そして切島鋭児朗も含めて五人が兵藤一誠の救助を臨んでこの場に立っていることに驚きを隠せなかった。彼等彼女等も意を決していることを察するに難しくない。しかし、下手すれば五人もヒーローの夢を諦めなければならない。なのに、この緑谷達はそれでも助けに行きたいという思いを胸に秘めて八百万の前に立っている。
―――否。
「ヤオモモ」
「っ!?」
後ろからも緑谷達と同じ存在が現れた。背後へ振り返れば、お茶子と耳朗が準備を整えた状態で八百万の後ろに立っている。
「・・・・・貴方達まで・・・・・これから私達はどうなってしまうのか分かっていますの?」
「それは八百万さんだって同じでしょ?」
「ヤオモモが除籍処分覚悟で助けに行こうとしているのにウチらだけ・・・・・何もしないでいるわけにはいかないじゃん」
自分達も覚悟はできている。そう言外する二人に切島は嬉しそうに口角を釣り上げた。
「うしっ!兵藤救出隊が出来上がったところで早速行こうぜ!」
「なっ、貴方達も本気で同行なさるおつもりですかっ?」
「八百万、お前だけ
「よくありませんっ!失敗しても成功しても轟さん達まで退学処分をされては元も子がありませんわよっ!?」
「そうなったらそうなったで、別のヒーロー学校に行くか一般人として生きる選択があるよ」
切島と轟、一佳の発言に八百万の口から言葉が出なくなった。してやられた悔しい思いを晴らす為、
「それじゃ八百万。兵藤がいる場所を教えてくれるか」
「・・・・・もうっ、成功した後のことは知りませんわよ。いいですね!自己責任です!」
自分が何を言おうと気持ちは変わらないクラスメートに諦め、一誠が持っている発信器を示すデバイスを取り出す。
「彼がいる場所は神奈川県の某市です」
一行は最寄り駅へと赴くその足を揃えた。目的は兵藤一誠の救助の為に。しかしその途中・・・・・。
「待て」
呼び止める者の登場に足が止まる。振り返り制止した本人に目を向ける面々の視界に映る相手が―――飯田天哉が皆を阻む。飯田が集まった自分達を止めに来たのかと誰もが認識した。生真面目な彼なら当然の行動だと疑いもしなかった。
「・・・・・何でよりにもよって君たちもなんだ・・・・・!」
苦難の色を浮かべる飯田。
「俺の私的暴走をとがめてくれた・・・共に特赦を受けたハズの君たち二人もが・・・・・っ!!!何で俺と同じ過ちを犯そうとしている!?」
―――あんまりじゃないか・・・!
飯田の言葉の意図を読めない少年少女達は「何の話を・・・・・?」と疑問に尽きる。
「俺達はまだ保護下にいる。ただでさえ雄英が大変な時だぞ。君らの行動の責任はだれが取るのか分かってるのか!?」
同級生、クラスメートの言い分も尤もな話だ。それでも、その上で八百万達は救出に臨もうとしている。
「その責任をどう取るかは全てが終わってから決まりますわ」
「八百万君・・・・・!」
「大勢の
その非現実的な方法。秀才の八百万が考え抜いた作戦の内容を傾けた耳は疑った。
「隠密行動による一誠さんの救助をします。戦闘無しで助けられるとは有り得ないことでもまだ仮免を取得していない私達ができる唯一の戦いです」
場所が変わりとある某所―――。
「そうそうたる顔触れが集まってくれた」
そこにはNo.1ヒーローのオールマイトを筆頭に警察の要請に集まっているヒーロー達がいた。そうそうたる顔触れと言われたヒーロー達や武装した警察と佇んで待機中。その中でコスチュームから燃え上がる火を纏う巨躯の男、エンデヴァーの姿もあった。
「何で俺が雄英の尻拭いを・・・・・こちらも忙しいのだが」
「まァそう言わずに・・・・・OBでしょう」
不満げに漏らすNo.2ヒーローに口元までジーンズで身に包んでいる細長の男性―――No.4のヒーロー「ベストジーニスト」が諭すと警察側からも言われる。この場の大勢を指揮する警察官、オールマイトの秘密を知る一人の塚内という男に。
「雄英からは今ヒーローを呼べない。大局を見てくれエンデヴァー」
ムッと顔を顰めるエンデヴァーだったが塚内の表情は真剣そのものだった。
「今回の事件はヒーロー社会崩壊の切っ掛けにもなりえる。総力をもって解決にあたらねば」
ヒーロー社会を、秩序を、ヒーローの存続を守る為に事件の解決に臨んでいる。言われずとも分かっているヒーロー達、エンデヴァーはそれでも拉致されている生徒の安否など微塵もしていない。
「フン、助ける前に既に倒して捕縛しているかもしれないぞ。―――奴の考えと〝個性〟は異常だからな」
横目でオールマイトに視線を送る。
「それを顧みれば
「エンデヴァー」
不謹慎極まりない、と塚内の強い視線に込められた意思に口を真一文字に閉ざすエンデヴァー。
(一誠・・・・・無事でいてくれよ。出来れば早まった真似だけはしないでほしい)
義父のオールマイトは内心、一誠の身の安否よりも言動の方が冷や汗を掻きながら心配性になっていた。
「俊典」
ヒーローと警察達の中で小柄さを誇っているヒーローが、グラントリノがオールマイトに話しかけた。
「俺なんぞまで駆り出すのはのはやはり・・・・・」
「〝なんぞ〟なんぞではありませんよグラントリノ!」
言葉の中に過小評価を含めたかつての師の謙遜を否定するオールマイトは推測を述べる。
「ここまで大きく展開する事態。奴も必ず動きます」
「オール・フォー・ワン・・・・・」
その名を呟いたグラントリノ。どこかオールマイトの〝ワン・フォー・オール〟に似た名前だった。そしてこの二人だけが何時にも増して真剣な面持ちで塚内の話を聞きうけていく。
「生徒の一人が持つ発信機と我々の調べで拉致被害者が〝今〟いる場所は分かっている。全勢力をそちらへ投入し被害者の奪還を最優先とする」
拉致された被害者―――兵藤一誠は今、黒霧によって隠れバーから別の場所へと移動させられ・・・・・。
「やぁ、こうして会うのは初めてだね兵藤一誠君」
「その声は・・・・・それにラグドールさんまで」
数本の管を備えたマスクを頭から被っている黒スーツを身に包む男とその傍らに一人の脳無に捕まっているプッシーキャッツのラグドールと対峙していた。さらには警戒しての行動か一本だけ残して両手で首や背中を触れる死柄木弔や数人の
「君に対して人質は有効だと知ったからね。個人的な二つの理由で君とは別に攫って貰ったのさ」
彼女の命は
「だが、君の複数の〝個性〟の中に死者を甦らせる希少中の希少の〝個性〟があるんだろう?仮に殺しても君は甦らすからあまり人質としての効果はないだろう」
「だったら今すぐ彼女を解放してくれないか?無駄と分かってながら死柄木弔達の『先生』のお前がどうして俺の前に立つ」
「君にお願いがあるからさ。さっきも言った様に個人的な理由で攫ったのさ」
男はマスクに手を伸ばし外しかかる。プシュッと空気が抜ける音がし、完全にマスクが外されると男の顔は―――一誠を驚かせた。
「のっぺらぼう!?」
「その反応されるとは少々意外だったね・・・・・」
卵の様な面を晒された。目と鼻がなければ頭髪も無い。皮膚しかない頭と顔に流石の一誠も驚かずにはいられなかった。
「これは昔オールマイトに傷つけられた傷なのさ」
「その傷を治せってことか」
「弔達から聞いた話、死者蘇生の〝個性〟で奪ったはずの腕を元通りに再生したそうだね。その力を今度は僕にも振る舞ってほしい。この傷を治してもらいたい」
ラグドールの人質、一人の生徒の拉致。あれだけのことをした本当の目的は―――傷を治す為だけにだ。
「断ったら?」
「残念だけど彼女を殺し、無関係な一般市民の命を奪い回るしかないね。私の合図でアジトにいなかった死柄木弔達の仲間にそうするように準備してもらっている。例え私が君に倒されても続けるよ」
「・・・・・」
「さぁ、お願いできるかな兵藤一誠君?」
断わった代償は自分の命より遥かに重い。結局のところ一誠が選ぶ選択肢は一つしかないのであった。
「分かったよ。ただ死柄木を遠ざけてくれ。せめての条件だ」
癒した直後に殺されては堪らないと呟く一誠の心情を悟ったかどうか定かではないが、男は要望に応じて死柄木を三歩だけ一誠から離れさせた後、椅子に座ったまま聖杯を具現化。するとその聖杯の器から銀色の液体が湧き上がり宙に漂うその途中、凝固して一つの小さな塊と化して男の足元に落ちた。
「それを飲めば傷は癒える」
「毒とは?」
「誰かに毒味してもらうなら構わないが?」
まぁ、無傷な者に対して意味ないがな。と思いつつ様子見する一誠の視界は、足元に転がる銀玉を拾う男が映る。しばらく手の中で弄んだ後に口内へ放り込みゴクリと胃の中に送る喉の動きを視認したその直後。男の首から上が音を立てて煙が発生した。
「お、おおおおおおおおおおおおおっ!?」
両手で煙立つ自分の顔を添える様に押える男から悲鳴染みた声が上がる最中、息を呑む死柄木達を他所に椅子から抜け出す。常人の目では捉えきれない動きと翼で脳無の腕を切り落としラグドールを奪い返して倉庫の鉄骨の上に避難する。
「兵藤一誠っ!?」
「彼女は返してもらう」
「お前、先生を・・・・・っ」
「勘違いするなよ。俺は約束を守った。今度はそっちが守る番だろ」
ジッと男に視線を向ければ蹲っている男から煙が消える。痛みも無くなったからか呼吸を整え、ゆっくりと立ち上がる。背後から見る男の顔の傷跡が全てなくなり人らしい肌を取り戻していた。髪は銀髪―――。
「・・・・・っ」
そこで一誠の目は信じられない物を見る目となった。死柄木達の、
「ああ・・・実に数年振りの世界の色だ」
「先生・・・・・」
男の顔は一誠の記憶の中で酷似していた者そのものだった。瓜二つと言ってもいい。だがしかし、別人だろうと一誠を激しく刺激させる男は死柄木を見て口の端を愉快気に上げた。
「弔、すっかり大きくなったね。黒霧、よく育ててくれた」
「いえ、先生も本当に傷が無くなりよかったです」
「それは彼の〝個性〟のおかげだよ。いや・・・・・」
死柄木と黒霧から意識を反らし一誠の方へ目を向ける男の口から―――。
「
とんでもない単語が出てきたことで一誠は声を震わせた。聖杯の根源を指摘した男はどこか懐かしげに一誠を見つめていた。
「あんた、なのか・・・・・っ。だとしたら何で、何でこの世界にいる・・・・・っ?」
「ふふ、誰と勘違いしているのか分からないけれど君の事はよく知っているよ。例えば・・・・・」
意味深にこう言った。
「坊ちゃん、坊ちゃんの目の前で弾けたメイドは元気にしているかな?」
「―――――」
次の瞬間。一誠の中で感情が消え失せた代わりに、男に対する敵意と殺意が膨大に膨れ上がった。同時に肉眼でも捉えるほどの天井をぶち破る真紅の魔力を迸らせ、壁に亀裂が走り、物は勝手に弾けたり壊れたりとし、精神的に押し潰れそうになっている死柄木達の嫌な汗が止まらなかった。
「・・・・・ふざけるな」
確信した。これ以上もないほど確定した。断言してもいいほど過言でもない。傷が癒えた男は間違いなく―――一誠の世界にいた者でありとある最悪な悪魔だった者だ。
「ふざけるなぁあああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
憤怒の形相で張り叫んだその直後。倉庫の扉と壁が吹き飛び、乱入してくる影の存在。
「一誠―――!?」
彼―――オールマイトは今まで見たことのない怒りの形相をする一誠と顔を取り戻した連合のプレーンを視認した。
「やぁ、オールマイト」
「オール・フォー・ワン!」