時間は遡る。
オールマイト達は
「いない?だが、ここに拉致された生徒の発信機の反応があったはずだぞ」
「塚内!もう一度確認だ!」
「待ってくれ」
的外れな行動でも冷静に対処する塚内。バーの中を調査、物色して何かしらの手掛かりはないかと動く面々であるが結果的に何も得られなかった。
「グラントリノ、これは一体・・・・・」
「
「・・・・・義息子の〝個性〟に目を付けた、あるいは・・・・・」
オールマイトの推測の言葉はそこで途絶えた。外から聞こえる騒然に反応してブチ破った壁から明後日の方向へ見ると、夜天へ伸びる嵐のように奔流と化している真紅の魔力が目に映った。
「あそこかっ!」
「俊典っ!」
バッと跳躍するオールマイトにグラントリノの声は届かなかった。一拍遅れて一誠の居場所はここから5キロ余りの―――横浜市神野区で発信機は反応している事に塚内から聞かされる。それ以外でも・・・・・。
「一誠さんは神野区にいらっしゃいますわっ」
「最初にいた場所とは違うな」
「きっと連れ去られたんだ。ここからじゃ遠い。空飛んで行こう」
同級生の救助に奮闘せんと少年少女達も改めて移動する。そしてオールマイトは目的の場所の施設の前に辿り着きその剛腕から放たれる拳の威力によってシャッターごと壁が粉砕し、中へ侵入した途端―――押し潰されそうなプレッシャーに襲われた。
「一誠―――!?」
オールマイトは今まで見たことのない怒りの形相をする一誠と顔を取り戻した連合のプレーンを視認した。
「やぁ、オールマイト」
「オール・フォー・ワン!」
朗らかに声を掛ける男をオール・フォー・ワンと呼ぶオールマイトは握り拳を作る。
「私の義息子を利用したか!」
「おかげで君に傷つけられた体は完治したよ。オールマイト、君もそうなんだろう?随分と若返っているじゃないか」
「黙れっ。義息子を悪用する貴様は絶対に許しはしない!」
オール・フォー・ワンに掴みかかるオールマイト。真正面から迎え撃つオール・フォー・ワンはその手でオールマイトの両手を掴み受け止めたその拍子に二人を中心に衝撃波で床が抉れ、お互い手を弾くと周囲の全てを吹き飛ばす。物も人も全て。その騒音はたちまち近くにいた民間人が察知してすぐさまヒーロー事務所や警察に連絡が殺到する。
「君との因縁の決着を着けたいのも山々だが君を相手にしている暇じゃない」
音も無く一誠がオール・フォー・ワンの背後から鋭利な刃と化した翼を躊躇も無く振り下ろそうとしていた。
「殺すっ!」
「一誠っ!?」
殺意に満ちた目でオール・フォー・ワンのみ眼中にない一誠の行動に目を張る義父のオールマイト。凶刃と化となっている翼は確実に相手の首を狙っていた直前に黒く渦巻く霧が発生したのでピタリと止めざるを得なかった。黒霧の〝個性〟の能力を考慮して同士打ち、または自滅させられかねないのを判断してまだ理性が残っている故に止めた一誠の行動の隙を突いてオール・フォー・ワンは攻撃した。急激に膨張した腕を一誠に向け、手の平から衝撃波に似た一撃を繰り出した。
「っ!(ラードゥンッ!)」
攻撃を受け、建物に激突しようとした刹那。一誠もろとも衝撃波が瞬時で張られた決壊によって人と建物への被害をギリギリ防いで見せた。
『大丈夫ですか兵藤一誠?』
「・・・・・俺より他の無関係な人間への被害はどうだ」
『幸いに何とか死者はいないかと。しかし、何の因果なのでしょうねぇ』
内に宿るドラゴンの言葉に呼応して他のドラゴン達も声をあげる。
《よもやあの者が生まれ変わった形でこの異世界に存在していたとは》
『何の冗談だ?本当にあの悪魔なのか?』
『魔力は感じられません。この世界の人類として生まれ変わったのは間違いないでしょう』
『だが、我が主の事を知らなければあんな言葉は出ない。どういうことだ』
『記憶を保ったまま生まれ変わったとしか思えない。ならば尚更、放っておいていいわけではない』
その通りだと一誠は周囲に何重ものの防壁の結界を張りながらオール・フォー・ワンとオールマイトがいる場所へ瞬時で戻り戦いに参戦する。
「オールマイト邪魔だ!こいつは俺が殺さなきゃダメなんだ!」
「殺してはダメだ!この男は私が捕まえなければならない!」
思いが対立してしまう。二人にとってオール・フォー・ワンは因縁があり、許せない存在なのだ。それをお互い知らずにいるので結果。
「一誠、これは私とオール・フォー・ワンの戦いだ!君はその彼女を安全な場所へ連れて避難しなさい!」
「っざけんな!この世界でもこいつが存在しているなら俺が仕留めなきゃいけないんだよ!」
邪魔な存在、黒霧を一瞬で葬り(気絶のさせた)オール・フォー・ワンへの攻撃を仕掛ける。
「オール・フォー・ワン、私の息子に一体何をした!?」
「〝私は〟何もしてないよ。ただ―――」
「
「彼の事は君より知っている方だよ」
地面から突き出る様々な武器をあっさりかわし超人的な反射神経で複数以上の翼の斬撃を見切る。数多に展開する魔方陣から放たれる属性の魔法に対して急激に膨張した腕から放たれる空気砲で相殺される。
「何だとっ・・・・・!」
「言っただろ。君の相手をしている暇はないって」
暗にオールマイトより一誠の方へ戦いに集中したいと言っているオール・フォー・ワン。
「オールマイト対策に奪ってきた〝個性〟がこんな形で使役するなんて自分でも驚きと不思議でいっぱいだよ」
「黙れ、のうのうとこの世界で好き放題生きていたんだろ!」
「ああ、楽しかったよ。僕が悪の支配者、闇の皇帝と周囲から称され続けられた」
ニヤァと愉悦に口は三日月の形となり、オール・フォー・ワンは笑った。
「この世界での魔王となって本当に楽しい思いをしたよ。ふふ、思い出すと笑ってしまいそうになるな。君の世界にいた時の笑い方をしてあげようか?ウヒャヒャヒャヒャヒャッ!ってね」
「殺すっ!」
二度と聞く筈もなかった声音色が違う笑い方をするオール・フォー・ワンに殺意が膨れ上がる。この世界の為、己の為にも物理的に消さなければならない相手に対してオールマイトは捕まえるとの一点張り。甘い、甘過ぎると一誠は叱咤する。
「一誠!殺してはいけない!」
「本当に危険な存在だったら殺すだろう!オールマイト、あんただってそうだったはずだ!違うか!?」
「っ」
過去一度だけ、その拳でオール・フォー・ワンの顔を潰して倒したことがある。死んだと思っていた相手が生きていた―――つまりオールマイトも殺す気で戦っていた事実があった。それを知らずとも一誠に指摘され沈黙で肯定してしまう。
「そうだよ。私は彼に殺された」
逆にオール・フォー・ワンははっきりと肯定した。
「そして兵藤一誠君。君にもね」
「なに・・・?」
一誠はこの世界に来たのは一年前。オールマイトとワン・フォー・オールの二人はそれ以上前からこの世界の人類として生きている。だというのに一誠とワン・フォー・オールはお互い面識があったような言動をするのでオールマイトは怪訝な気持ちになる。
「これは一体何の因果だろうか。僕は君たち義理の親子達と敵対し殺されるなどと偶然で片づけるレベルじゃない。もはや僕達三人は運命的な何かでめぐり合わせられているのかもしれない」
演説めいた発言力をする中、オール・フォー・ワンの頬を掠める氷槍。
「運命でお前とめぐり合わせられるならその度に俺はどんな姿であろうとお前を殺す。お前はそれだけの事を俺達にしたんだ。今度はその魂ごと消滅してやるぞ」
氷槍を放った一誠の目は本気だった。その本気は頭上に氷結する巨大な氷の槍を具現化してオール・フォー・ワンに固定する。
「アレで僕を殺すと?」
「ああ、身動きを封じてからな」
左眼が妖しく煌めく光が発すると敵対している男の首から下が停止した。
「
「今のお前は超越者だった時の力はないみたいだし効くだろう?」
でなければ
「先生っ!」
オール・フォー・ワン、自分の師を助けんと委縮していた身体が自然を治り、駆け出す死柄木弔。一誠を殺しても氷塊は一人の師を圧殺するだろう。目標をその氷結へ向け触れた対象を崩壊させる類の〝個性〟を振るわんと落下する氷結に手を伸ばすものの、振るった一誠の翼が横薙ぎで胴体に当たり、仲間の方へ弾かれた。
「先生っ!?」
オール・フォー・ワンを覆う氷塊。身体を停止されて成す術もなく押し潰される未来は直ぐ目の前まで来ていた。
―――しかし、正義の味方がそれを許さなかった。
CRASH!!
オールマイトが振るう拳で氷塊を殴り粉砕した。緊迫で包まれる場に氷の破片が煌めき場違いな幻想的な光景を作る。半ば放心する死柄木達に理解に苦しむと顔を顰める一誠。案山子のように直立不動を保つオール・フォー・ワンの前で、降り注ぐ氷の破片の中で義父は言う。
「正義のヒーローはどんなことであろうと
「関係ない」
キッパリとオールマイトの言い分を切り捨て、淡々と述べる。
「オールマイトと因縁があって俺にも因縁がある。でも、俺はあんたらの因縁を知らないしオールマイトは俺達の因縁を知らない。お互い許せない存在が目の前にいたら自分がしたい様にするだけだ」
「一誠・・・・・っ」
「俺は殺す、オールマイトは捕まえる。どっちも最終的に表舞台からいなくなる事実は変わりない。それを喜ばない民間人はいるのか?」
屁理屈―――子供の言い分を聞くオールマイトも譲れない思いと立場にいる。
「私の言う事を聞きなさいっ!君は恩を仇で返したくない優しい子なのだろう!?」
「それとこれは全くの別だ。仮にオールマイトが俺を邪魔するなら―――恩を仇で返す事をしなくちゃいけない。それだけは俺もしたくない」
ラグドールを包む一対の翼を残して鋭利な刃物と化する翼を構える。
「俺達の対立を面白く愉快気に観戦しているそいつの首を落とす。今がその最大のチャンスなんだ。どいてくれ」
「駄目だ。君に殺害をさせることも殺させることも私は許さない」
対立す―――。どちらも譲れない強い意志で皮肉なことに二人は相対してしまっている。このままでは平行線になるばかりだと敵も味方も関係なく悟る。
「・・・・・・話を変えるけど、今、この周囲は他の建物や一般人に被害が出ないように結界を張っている。俺達の攻撃と無機物だけ防いで人の出入りをできるようにな」
「?」
「そして、幻覚と俺達の存在の認識を阻害するのと防音の結界もだ」
そこまで説明されたオールマイトは、はっ!と気付いた。誰にも邪魔されず誰にも気づかれず―――オール・フォー・ワンを殺すことができる好都合な状況の空間にいるのだと。翼で眼帯を外した一誠の右目の濡羽色の眼が晒される。
「邪魔するならオールマイトでも・・・・・倒してからすんぞ」
「一誠っ・・・・・!」
オールマイトは知らなかった。目的の為なら躊躇なく、そして頑固になって果たす少年の性格を。彼の少年を止められる者は彼の少年を愛する家族のみであると・・・・・。
5キロ余り離れた発信機が示している場所へ、人知れず夜空の暗さに紛れて空を飛ぶ少年少女達は目的地まで直ぐ眼と鼻の先までいた。
「八百万、まだかっ!?」
「もう少しですわ!」
誰一人、幼い子供が空飛んで移動しているとは露にも思わないでいる中、風を切り、髪を激しくたなびかせ教わった武空術で一誠の奪還を臨む若い一行が飛翔していた時、ついに辿り着いた。
「あそこ、なのですが・・・・・」
「あそこって」
建物の屋上に降り立ち、下へ目線を落とす八百万達が目にしたのは―――どこかのヒーロー事務所であった。
「何の冗談・・・・・?」
「まさか、
「馬鹿を言うな!?そんな事実あってはならない!」
―――飯田が強く反論する。八百万達を説得しても話は平行線になる一方だと悟り、自分も同行すると着いてきた生真面目な少年の言い分は深く理解できる。理解できるのだが、発信機は間違いなくここに反応しているのだ。しかし、尚更この後自分達はどうすれば―――?と次の行動に戸惑い立ち往生する。
「―――――っ」
どうするっ、オールマイトは一誠と対峙しながら必死に思考をグルグルと回転させながら錯誤する。自分と同じ因縁があるオール・フォー・ワンに殺意満々な少年を説得を試みても言葉では止まらない。ならば実力行使?義息子を物理的に大人しくさせることなどできるはずもなく、それ以前にできるのかと怪しい。
「一誠!もしも君にもオール・フォー・ワンに大切な人を奪われているのであればその気持ちは痛いほど私も理解できる!私もこの男にお師匠様を殺されて許せないからだ!」
「・・・・・」
「だが、復讐をするために人を殺しちゃいけない!それを君の大切な者が望んでいると思っていないはずだ。だから―――」
殺してはダメだ。と言い続けようとした口が開きかけたオールマイトを真正面にいる一誠が遮った。
「別に復讐したくて殺そうとしているんじゃない。そいつは俺の世界で世界を巻き込んだほど事件の発端となったから危険なんだ。この世界でも世界を巻き込んでの事件を起こす可能性は大きい。だから、そうならない内に殺す必要がある」
「オール・フォー・ワンを殺しても世界が救われるわけじゃないぞ」
「はは、日本のNo.1ヒーローが平和を否定するなんて皮肉なことを言うんだなオールマイト」
「っ」
「自分の手の届く範囲内しか人を救えないってことは俺だって分かるよ。だからこそ危険極まりない巨大な闇の存在は消す必要がある。たかが捕まえた程度だけじゃ闇は消えない。本当に平和を望むなら悪を滅ぼさなければいけないんだオールマイト」
異常な執着―――否、常識と概念の差異はここまでなのかと思うほどオールマイトと一誠が過ごした世界は少なからず異なっていた。
(一誠の世界はそこまで闇との戦いは過酷だったのか・・・・・っ)
「死柄木達も殺すのかい」
「殺す必要もない」
あくまで狙いは唯一無二のオール・フォー・ワンのみ。違う、一誠の世界のオール・フォー・ワンが目の前にいるから殺す気だと察するのにオールマイトはまだ気づかない。
「話は終わりだ」
翼を構える相手に奥歯を噛み締めるオールマイト。説得は無理なのだと否が応でも突き付けられ、闇を庇う光の皮肉にオール・フォー・ワンは静かに笑みを零す。
(一誠・・・・・!)
義理の親子になって一年と数カ月。親子の絆はまだ強くもなく脆いことに悲痛する。いや、本当の親子じゃないからこそ一誠も躊躇と罪悪感がある風な言葉を零しても己の恩人、義父と対立しているのだろう。
「・・・・・どうしても殺す気なんだね」
「お互い、そいつに酷い目に遭っていてもそいつに対する気持ちは違っただけだよ」
「そうか・・・・・残念だよ」
嘆息する彼は意を決して一人のヒーローとして一人の父親として、一誠と対峙する意思を強めた。
「戦う前に一つ質問していいかな?さっき結界を張っていて人の出入りは可能だと言ってたけど嘘じゃないね?」
「ん?周りに被害を出さない為にそうしているだけだ」
それがどうしたと言わんばかり怪訝な気持ちを顔に出す一誠は見た。眼の前でヒーローあるまじき行動に出たオールマイトに驚かされるのだった。
「そうか、それを聞いて安心したよ」
オール・フォー・ワンに振り返り、停止された体を荷物の様に担ぎ上げたかと思えば―――粉砕した倉庫の出入り口へ向かって駆け出したのだった。
「・・・・・・は?」
結界の外、緑谷達がいる建物の屋上からでもオールマイトが突然人を抱えてヒーロー事務所から出て行くのを視認した。あまりの速さとどこか必死な跳躍と疾走に愕然とするが一拍遅れて金色の翼を広げてオールマイトを逃がさんと追いかける一誠の姿を見て覚醒した。
「オールマイトと一誠さんっ!?」
「え、えっ?」
何がどうなっているんだ?と皆の心は一つになった。しかし、一行は目的の一誠を追いかける。
「ふふっ。面白い、皮肉なことだねオールマイト」
「黙れ。元はと言えばお前が原因なのだ」
「それはしょうがないさ。僕は君達に邪魔されるから立場にいたからね」
建物から建物、兎のように跳躍して移動するオールマイトは尻目で後ろを確認すると。光の無数の槍が肉薄してきたではないか。こんな町中で攻撃を仕掛ける義息子に驚き急いで回避するも追尾する槍にNOOO!?と叫ぶ。
「頑張りたまえオールマイト。兵藤一誠は躊躇のないドラゴンだからね」
一誠の根本すら前から知っていた風に言うオール・フォーワンに内心絶句するが背後から飛来する槍にそれどころではなかった。
「一つ兵藤一誠の事を教えよう」
オール・フォー・ワンの口から一誠の過去を語る。その剛腕で標的の体を貫かんとする槍を弾き、かわしながらも目的地まで過去が語り続けられてしばらくして―――神奈川県の湘南の砂浜に辿り着いた。
「驚いたかな?あの子の過去を知って」
「・・・・・」
オール・フォー・ワンを砂浜に放り捨てオールマイトの前に舞い降りる一誠を強い視線で見つめる。
(一誠・・・・・君は・・・・・)
「どこに行こうと結果は変わらないぞ」
「承知の上だよ」
(とても複雑で過酷な人生の中で逞しく生きた結果、殺す選択肢しか思い浮かべないでいるのだな)
「一誠!」
「・・・・・」
「万に一つの可能性として私と賭けをしてくれ!もしも私が君を止め切ったらオール・フォー・ワンを殺さない事を約束してほしい!仮に私が負けたら奴を煮るなり焼くなり好きにするがいい!」
賭けを申し出るオールマイトに対して、無言で臨戦態勢に入る一誠。
「その賭け、万どころか一並みじゃないか?時間制限ありのヒーローなんて戦わずして勝てるぞ」
「言うね。だったら時間まで全力で倒しちゃうよ」
戦意を露わにする両者の間に負けん気の火花が散る他、周囲は静寂を押し流すさざ波の音。そして荒い息を吐きながら遅れてやってきた緑谷達。
「な、なんで二人が戦う雰囲気に・・・・・」
「わ、わかんねぇよ・・・・・」
戸惑う少年少女達を他所に当の二人は砂浜を激しく散らしながら激突した。なっ、と驚く声は凄まじい打撃音で掻き消される。No.1ヒーローが放つ建物を一瞬で倒壊する拳を一枚の翼で受け止め、残りの10枚の翼を総出で攻撃として突き出す。その一突きに全力で上半身を仰け反りつつ避け、バックステップで距離を置く。展開する魔方陣から属性魔法が放射されるもかわされる。
「もう終わりかな?」
「まだまだだよ」
戦いは始まったばかりとオールマイトが肉薄仕掛るその前に一誠の影から異形の魔獣達が生み出された。優に100も超えた魔獣達は一斉にオールマイトへ襲いかかったのだが。
「DETROIT SUMASH!!!」
たった一発のパンチでほぼ全部、魔獣達を吹き飛ばしたことで緑谷達は目を大きく見開き、一誠は目を丸くする。
霧散する異形の魔獣等は程なくして砂浜から姿を消し、オールマイトは不敵に笑んだ。
「もうペットは出し終えちゃったかな?」
「・・・・・ただの人間が異世界の神の副産物、神を滅ぼす可能性を秘めた能力に通用できるなんてな」
「単純な攻撃は通用しないぞ一誠!」
そうかい、と呟き跳躍してくるオールマイトを静かに見つめる一誠の影から、今度は五十メートル級の人型の魔獣が創造された。
「これはどうだ?」
「HAHAHA!驚かないよ!何故って?私の義息子だからやること成す事は驚かされるばかりだと認識しているからだ!」
勇ましく巨大な相手でも果敢に挑む英雄の姿は緑谷達の目を焼きつかせる。
ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!
吠声を発する魔獣の姿は町の方からでも窺え、聞こえていた。無論、ヒーローや警察もだ。
「まさか・・・・・俊典っ」
十数分の時間を要いて巨大魔獣でさえもオールマイトの前に敗れた。流石に一誠も手を動かせれたら拍手を送りたい気分だった。だがしかし、倒すまでの労力は思いの外、全身で息するオールマイトを見れば大変であった事を窺わせる。それでも休む暇どころか休まず一誠を止める為に倒そうと動く。そんな彼の眼の前に大きな鏡が出現する。それはオールマイトも緑谷達も見たことのない現象であり、それが虚空に具現化した時、勢いを止めず重い一撃の拳が鏡を突き破った次の瞬間。
「―――――っ!?」
割れた鏡から波動が生まれ、オールマイトを襲い深くないダメージを負わせたのだった。困惑した表情を浮かべたまま、オールマイトは鮮血を砂浜の辺り一面に噴出させていた。
「今の鏡は相手の攻撃を倍にして返すカウンター系統の〝個性〟だと言っておこうか。どうだ?自分が放った一撃の味は」
冷笑を浮かべる一誠。
「がはっ!」
砂浜に膝をついて血反吐を吐くオールマイトの姿はとても目を当てることができない程痛々しかった。
「多分、他の連中は俺の〝個性〟は攻撃的なものしかないだろうと思ってると思うけど実際は多種多彩な〝個性〟を持っている。当然、まだ見せた事のない〝個性〟だがな」
空から稲妻が落ちて避ける暇も与えられなかったオールマイトに直撃する。砂浜に倒れ込む全身は重度のシビレを起こし、碌に動かせない状態となってしまった。
「さて、眠って貰うよオールマイト。目が覚めた頃は全部終わった後だ」
「駄目だ・・・っ、奴を殺したら君はヒーローになれなくなるぞ・・・・・・っ」
血塗れの顔で説得するオールマイトの言葉は、どこか儚く寂しそうに笑みを浮かべる一誠にこう言わせた。
「―――とっくの昔にヒーローになる夢はこの体を得た瞬間から終わったんだよお義父さん」
「一誠・・・・・!」
翼から躊躇の気配のない動きがオールマイトの意識を狩る。翼が英雄を包み込もうとした次の瞬間。真横から砂浜を凍らせる氷に阻まれてしまった。
「・・・・・」
翼が途中で氷に凍らせられたことを視界に入れた目は首を横に動かすことで原因を把握した。
「邪魔するなよ轟」
右足を突き出した先から地面を氷結させた轟と視線が合い、不満げな顔を浮かべる一誠に対して何とも言えない面持ちをする轟。
「何してんだお前・・・・・」
「さっきから見ていて分からないなら判断力がないぞ」
「理解できねぇから聞いてんだ。何でお前がオールマイトと戦うことになってんだ」
「お互い譲れないからさ。お互いの気持ちが違うんじゃお互い反発して親子喧嘩みたいになったんだ」
凍らせられた翼から炎が発火し、氷を溶かして抜き放つその内の一枚はオール・フォー・ワンへと突き付ける。
「あいつを捕まえるか殺すか、前者がオールマイトで後者は俺でその権利を得るための戦いをしていた」
『っ―――!?』
人を殺す、それが一誠が譲れない気持であった事を知り心底絶句する緑谷達。
「待ちたまえ兵藤君っ!?人を殺す?なにを馬鹿な事を言っているんだ君は!正気か!?」
「そ、そうだよっ!?殺しちゃあかん!」
「相手がどんな
友として一誠を説得する緑谷達の声すら―――。
「正気だし本気だし―――俺は殺すことに戸惑いはない」
一誠の心に届かず真っ直ぐ確固たる意志が籠った声で断言した。
「あいつは俺にとっても因縁がある
「そんなお前をオールマイトは止めようとしたわけか」
辻妻が合うと納得する轟は右足に力を込める。
「お前と
「
何かしらの名を吐露した一誠に呼応して彼等彼女等の足元、地面から突き出てきた刀剣類が首に刺さる直前で停まった。突然のその奇襲に全員、言葉を失い息を呑んだ。
「止める?体育祭で俺に負けた、戦わずして負けたお前らが俺をどうやってだ?―――今も俺に殺されかけた奴に止められるほど俺は弱くなってないぞオイ」
「っ・・・・・」
「これは俺とオールマイト、あいつだけの問題だ。家族の問題に首突っ込まないでほしいな」
踵返してオール・フォー・ワンへ近寄る一誠。その背に繭の様に包まれているラグドールのことを露知らず、緑谷と切島が飛びかかった。
「「止めろッ!」」
そんな二人に翼であっさり弾き返す。そのすぐ後、飯田が砂を巻き上げながら爆走して近づくが鋭い翼の一突きを食らってその場で崩れ落ちる。
「三人共、単純すぎる」
呆れの呟きを吐露しオール・フォー・ワンの目と鼻の先まで移動した途端。オール・フォー・ワンの下から茨が飛び出しては包み込み、砂の中へと地獄蟻のように引きずりこんだ直後に砂浜一帯が氷に覆われた。しかし、翼が氷の大地に突き刺した。何をしているのかと言えば、驚きで目を丸くした茨しか分からない。その理由は砂浜と覆われた氷の大地から茨に包まれたオール・フォー・ワンが翼に包まれていながら出てきたからだ。
「悪くなかったな。でも相手が悪い」
「一誠さん!」
遠距離からでの救出が駄目なら直で救出するしかない。そう考えた一佳が飛び出した。
「そんなことさせないっ、絶対に!」
一番弟子でもあり、一誠の体術、格闘術を誰よりも一番知っている。だから、不意を突かれるような事は―――!と思った矢先、
トン
っと、首筋に手刀した翼が一佳の意識を狩ったのであった。
「悪いな」
「いっせ・・・・・い・・・・・さ」
まだまだ一誠との距離は遥か先だった。目の前が真っ暗になる前、一誠の顔を見た。申し訳なさそうな表情で自分を見下ろすのを最後に一佳の目は力なく閉じてしまった。