圧縮訓練二日目。
「ぐっ!」
勢いよく砂を撒き散らして倒される爆豪。相対する一誠へ睨みつける双眸には揺らがない戦意の炎が燃え盛っていた。心中共に口からも舌打ちを零して手の平を前方に突き出す。
「クソがっ!」
爆破で攻撃し、衝撃と熱が一誠に直撃する前に腕を横薙ぎに払った拍子に起こる風で、軌道を変えられて直撃が反らされてしまう。中距離からの攻撃は効果ないと直ぐに判断、両手を後ろへ突き出して爆発による移動法で砂浜を駆けるように動き回り出す。
「それは意味無いぞ」
移動する先に一瞬で爆豪の前に現れた時は、拳を握っていた。自分から近づいてきた相手に臆することもなく手の平を突き出して爆撃を食らわせる直前に鳩尾を狙った拳が深く抉り込む―――次の瞬間。殴った拳が〝爆発〟して爆豪を吹き飛ばした。愕然とする。爆破を駆使する自分が爆破を食らわされた。〝個性〟をコピーされた?という考えは直ぐに否定した。攻撃した瞬間に爆発がしたのだ。手の平を攻撃する対象に向けて放つではなく、攻撃と同時に零距離から爆発したと背中から砂浜に落ちて滑りながら推測する爆豪。
「両手を突き出さなきゃ爆破ができず少なからず周囲を巻き込んで損傷を及ぼすお前の〝個性〟より優しい方だろ?」
煙立つ拳を見せつけ、不敵に笑む一誠の顔を倒れながら見上げるその悔しさは、爆豪のプライドを激しく震えさせた。
「悔しいか?悔しいなら次の特訓をすんぞ。気のコントロールもできれば、更に〝個性〟の威力と可能性を開花できる」
「水行しに行くぞ」と先に歩く一誠に睨みつけながら立ち上がってついていく。
気をコントロールする為に滝がある場所へ集う生徒達は殆どだった。それ以外はマンツーマンで必殺技を編み出そうと奮闘している他所に、トレーニングルームに英雄がやってきた。
「やぁ、皆!」
「!」
振り返るとそこにマッスルフォームのオールマイトが腰に手を当てて佇んでいた。
「私が呼ばれてないけど今日はとくに用事もなかったので来た」
「要は暇なんだなお義父さん」
相澤とブラドキングに緑谷達の奮闘の立体的な映像を見せている俺に近づいてくる。
「一誠、雄英復帰おめでとう。私は凄く嬉しかったよ」
「複雑極まりないがな」
「何を言っているんだ。君の活躍と行動は日本中の皆が認めているんだぞ。いまや君は世界の英雄さ!」
大きな手が俺の髪を頭ごと撫で、自分の様に誇らしく言ってくる。
「今度一緒にパーティをしよう。最近、君と義親子としての交流がしてないから私はちょっぴり寂しくてね」
「分かった。また今度な」
俺の返答に満足したのか、きらめく白い歯を覗かせる笑みを浮かべた。次には「緑谷少年~!」と俺達から遠ざかって崖の下へと降りて行ってしまった後に、オールマイトが様子見しにきた事を知らずコスチューム改良を臨む生徒が三人の下へ現れるのは少し経過した時だった。
(コスチュームの改良について専門外の事は考えても分からん。もし何かいじりたくなったら―――校舎一階にある開発工房へ行き専門の方に聞くように)
相澤の言葉を頼りに青山、飯田、耳朗が一誠と共にそこへやってきた。他のクラスの科の教室と異なり扉は鉄製で防音対策も施しているのだろうが、扉の前に立つと甲高い音と駆動音が聞こえてくる。
「意外だな。青山君も改良をお願いするとは」
「彼の僕のキラメキコスチュームの提案を実現したくてね☆」
「・・・・・一誠はどうして?」
「コスチュームの開発・改良できる工房を見たくてな。実際、改良する作業を見学したい」
心躍るぜ、と顔を明るくして興味深々な一誠は鉄の扉に手を掛け―――。
「失礼しま・・・・・」
BOMB!!!
開ける部屋から突然の爆発。それに巻き込まれる四人は吹っ飛び、廊下に倒れる。
「った・・・・・何で、部屋から爆発」
起き上がる耳朗とは別の声が煙から聞こえる。
「フフフいててて・・・・・」
「ゲホッゲホッ・・・おまえなァア・・・」
ガションガション・・・とロボットが歩く駆動音みたいな音が扉に近づきながら心底呆れる声を聞こえる。
「思いついたもの何でもかんでも組むんじゃないよ・・・!」
「フフフフフ、失敗は発明の母ですよパワーローダー先生。かのトーマス・エジソンが仰ってます。〝作った物が計画通りに機能しないからといってそれが無駄とは限らな・・・」
扉から出てきたのは恐竜の様な頭部のアーマーを被った上半身裸で小柄の男だったが、その男の話に対して偉人の座右の銘を語り出す少女の声。
「今そういう話じゃないんだよォオ・・・!一度でいいから話を聞きなさい・・・」
張れる煙の中から少女の全容がハッキリと視界に映る。見えた途端、四人はハッと見覚えがある女子生徒だと気づき絶句する。
「発目!」
爆発に巻き込まれた四人同様に彼女も爆発で吹っ飛び、一誠の顔までタンクトップの下に隠れている双丘の谷間が見えるほど豊かなソレを押し付け、覆い被さる形で落ち着いた―――かつて一誠に求婚した発目明の登場。
「おや?これは失礼しました」
誰だか知らず自身の胸で顔が見れない相手に謝罪して身を退いた発目のスコープのような目の視界いっぱいに映る少年の顔を見てしまった。
「あれ!?あなたは!」
「ぶはっ!?やっと息が―――って・・・・・え”」
お互いの視線が絡み合い、片や満面の笑みを浮かべ、片や何とも言えない表情を浮かべる。
「は、発目―――」
「フフフフFFFFF・・・・・既成事実をしましょう!」
言うが早いか、周囲の目を気にせず、自分のファーストを一誠の唇に押し付けて捧げた発目に「なぁっ!?」と顔を赤らめて絶叫する耳朗と左目をひんむく一誠。甘いムードなんて関係ないとばかりのキスを一方的にする彼女に度肝を抜かされた。
―――俺が来たよ(byパワーローダー)―――
「アァ・・・・・兵藤君、発目の傍若無人な振る舞いに失礼したね」
「・・・・・いえ、ああ」
半ば呆然と掘削ヒーロー『パワーローダー』に反応するしかない一誠。「後でキツく言っておくから」と申し訳ないと籠った発目に対する説教を断言する彼に対して発目は、「フフフフフ・・・・・これでデカイ企業も私に注目!」と目を輝かせていた。
「さて君達。イレイザーヘッドから聞いている。必殺技に伴うコス変の件だろ」
工房に入っている四人の周囲は開発・設計・改良をする為の様々な機材や道具、作業部屋などまるで秘密基地みたいな空間であったが、工房に興味あった一誠がそれに目を輝かせないほど発目からの積極的過ぎるキスの印象が強かった。
「じゃあコスチュームの説明書見せて。ケースに同封されてたのがあるでしょ。俺
「と言うと?」
飯田が疑問をぶつけた。
「小さい改良・修繕なら『こう変更しました』ってデザイン事務所に報告すれば手続きしといてくれるが、大きい改良となるとこちらで申請書作成してデザイン事務所に依頼する形になる。で、改良したコスチュームを国に審査してもらって許可が出てこちらに戻ってくる。まァ―――――ウチと提携している事務所は超一流だからだいたい3日後くらいには戻ってくるよ」
サポート科しか学べない知識に生真面目な飯田は感心した。ヒーロー科では知り得ない知識はそれぞれの特権としてやはりその科の生徒にしか学ぶことを話を交わしながら知ることができる貴重な体験に真摯に聞いていたら。
「じゃあ、僕のキラメキコスチュームの改良をお願いしちゃおうかな☆」
「説明書を見ながら要望を聞くよ」
その瞬間、一誠が調子を取り戻してガラクタの山と化している様々な機械にふらりと足を運んだ。
「おー、なんか大量にあるんだけどこれは?」
「それは私が作ったベイビー達です!」
発明が俊敏な動きで近づく。
「発明が開発したサポートアイテムか?」
「そうです!これは入学した初日に作った第0子なのですが―――!」
自身の作品の説明に熱が入り、あれこれと色んなアイテムを教えていくにつれ、一誠の中で疑問が浮かぶ。
「可愛いベイビーの割には無造作に山積みしてんだな発明って」
「え?」
「普通、自分が開発した物は大事に保管するもんなんだがな。こんなガラクタの様に置かれて本当に誰かの為に必要とされて作られてきたのかって話だ」
虚空を歪ませた空間に手を突っ込み、数十枚も束になっているカードを手にした一誠。その一枚を引き発目の手の中のアイテムに触れると・・・・・。
「必要とされないベイビーを作られたらベイビー達は不幸なだけだろ?」
カードの中に収納されたアイテムが発目の目に入る。
「わ、私のベイビーがカードの中に・・・・・?」
「俺も物作りが好きなんでね。必要な物だけはとことん作る」
残りの束のカードをばらまき、空中で全てのガラクタ化したアイテムを収納すると勝手に一誠の手の中で束となって発目の手の中に収める。
「異世界の技術も負けてないからな?」
ニヤリと不敵な物言いを零し、発目の肩に手を置いてパワーローダー達の方へと歩み寄る一誠に・・・・・。
「・・・・・」
何故か、目が離せなくなった発目はジッと背中を見続けた。
―――その日の夜。
「い、一誠君がキスされたぁっ・・・・・!?」
圧縮訓練を終え、汗と汚れと疲労しきった体を大浴場でさっぱりして後は寝るだけ。のはずが恋バナが始まっていた。耳朗が今日の出来事を教えた途端、おっかなびっくりとお茶子が大声でオウム返しをしてしまった結果、
「恋バナっ?キュンキュンする話!?」
芦戸が期待に満ちた目で五人の下へ「アタシも交ぜて!」と近づけば、恋バナに興味深々の女子達全員が、集まり始める。
「だ、誰にっ!?誰が誰にキスされたの!教えてー!」
「サポート科の、発目って女子に・・・・・一誠が」
「「「・・・・・?」」」
耳朗から告げられた衝撃の告白の元凶となった少女の名が出た。しかし、誰もが最初、誰だっけ?と一瞬の疑問の沈黙が漂う中、一香だけが思い出した。
「あ・・・・・体育祭の時の」
「拳藤さん?」
「一誠さんに一度だけ教えてもらった。騎馬戦の時に」
その時、一緒に組んでほしいとも話しかけていたよと当時の記憶を浮かべ皆に教える。そうか、彼女があの人に・・・・・。
「耳朗さん、一誠の反応は?」
「え、急にされて呆然としていただけだった・・・」
「一誠さんもまさか・・・く、口付をされるなんて思いもしませんでしたでしょう」
自分で口にする事に若干の恥ずかしさを覚える八百万。口付、接吻、キスとはある意味、女子にとって始めが大切で神聖な行為に等しい。ので、クリスチャンの茨がキスに対する行いを、手を合わせながら没頭するほど語る。彼女の話を取り敢えず聞き流して話を進める。
「うわー、兵藤が突然キスされるなんてその発目って子、兵藤のこと好きなんだっ」
いや、どっちかつーと・・・・・一佳は、でも何で求婚もされたんだっけ?と不思議に思う一佳は出しかけた言葉を喉の奥に仕舞った。
「ねねっ、その発目って子と兵藤君は付き合うの?」
姿が見えない葉隠の一言は―――五人を刺激させた。しかし、キスされたからって直ぐに付き合う勘違いで軽い男じゃない。兵藤一誠という異性の性格と言動を近くで知ったお茶子達の中では―――ないと否定した。
「多分、今直ぐ付き合うってことはないんじゃないかな」
至極尤もな事を言う耳朗のナイスな発言は「そっか、だよねー」と納得する雰囲気を醸し出す芦戸達。
女子達が恋バナに盛り上がって就寝の時間が過ぎた頃、暗い部屋の中まだ起きている一誠は自分の仕事だとパソコンと向き合っていた。二日目の圧縮訓練の結果のデータを纏める作業中はカタカタと音が鳴るが程なくして完了した。
「そうし~んっと」
認識してもらう相澤とブラドキングのパソコンへデータを送信の作業も終える。少しすれば二人の教師も纏めた情報を確認して、自分の生徒達の良し悪しを把握するだろうと考えず自分も寝ようと席から立ったら、扉を叩くノック音。
「入って良いぞ」
入室の許可を発した後に扉を開けて入ってくるサイドテールを下ろした一佳。他に入ってくる女子がいない事に珍しいなと扉を閉めて近づいてくる少女と接する。
「どうした?」
「うん・・・・・二人きりで話をしたくて」
わかった、と首肯した一誠とテラスの方へ話をすることにした。本物の月の様に神秘的な淡い光が皆が寝ている木造の別荘を照らす。表に出て二人は喋らず静寂の雰囲気を保ったが懐かしむように口開く一誠が先に話しかけた。
「一佳と出会って一年と四ヵ月か意外と早く時が経つな」
「うん。最初は強くなりたいって弟子として志願した時から関係が始まったよね」
去年の事を思い出しながら笑い、時にはからかいからかわれと会話を弾ませる二人の顔からは楽と喜色の感情しか浮かばないでいた。
「それで―――」
「一誠さん」
遮る少女は一瞬、躊躇する仕草をしたが真っ直ぐハッキリと言った。
「一誠さん、砂浜で見た女性・・・知っている人なの?」
「―――――」
何時か訊かれるだろう事を今になって訊ねられた。これから言う事実にどう受け入れるか彼女次第となる。自分を信頼する者に対して嘘は吐かず、関係を告白した。
「ああ、俺の異世界にいる恋人だ」
「―――――」
名前はリーラ・シャルンホルスト。兵藤一誠にとって肉親より特別な女性。それをもっと知る時はまだもう少し先の事になる。
「俺が元の世界に戻りたい理由の一つは彼女の存在だ。でなければ、彼女の記録映像がなかったら俺はオールマイトの制止など無視して確実に殺していた」
「そう・・・・・なんだ」
「ショックか?」
「・・・・・それを聞く一誠さんって意地悪だよね」
棘が含まれた彼女の心情を知ってか知らずか苦笑いを浮かべて軽く謝罪をした。自分を好いている少女に訊くのは失礼極まりない話だろう。一佳の顔から明るさは無くなってしまい暗い影を落としていた。初恋は実らなかった。その事実だけが一人の少女の胸に突き付け、気を落としている。
「恋人の人は・・・・・どんな人なの?」
「一言で言うと・・・・・兵藤一誠至上主義者」
「・・・・・ナニソレ」
実際、本当に何だろうと思う。何の宗教にハマった人なんかと思うぐらい出てきた言葉だった。それを認知している一誠も一誠だ。自覚している上で言っているならもう少し穏便な説明を語ってほしかったと思う一佳は聞かされる。
「俺の幸せの為ならどんなことでもするメイドなんだ」
「メイド?」
「言っておくが俺の趣味じゃないからな。俺が生まれる以前から両親といたメイドで戦うこともできる普通じゃない人間なんだ」
一誠の異世界の人類も普通じゃない人類が多いのだろうか?そう思いつつも耳を傾ける。
「昔、軽く教えたよな俺には血の繋がりの無い家族がいるって。俺の恋人がその一人だ。でも、ただ単純に俺のことが好きじゃ駄目なんだ」
「・・・・・じゃあ、一誠さんが好きな女性って何?発目って女子にキスされたって聞いたし一誠さんもどんなあ娘が好きなんだ?」
「耳朗か。発目に関しては何とも言えない。自分本位な性格だから裏表がないから接しやすいっちゃしやすいけど・・・・・知りたいのか?」
どこか気恥しそうに後頭部に回す手は頭を掻く仕草をする一誠を見た事がない、と思いながらも好みを知りたいと頷く。聞きたがっている事を知り、やっぱり直接言うのは恥ずかしいのか「んん・・・」と唸り、観念した。
「至極単純だ。俺という俺を知り、俺を受け入れ、俺の事を好きでいてくれる女が好みだ」
「それって・・・・・」
一誠を知ると言うのは、昔の事や今の事を知る意味。一誠を受け入れると言うのは、一誠の性格と言動を認知する意味。一誠を好きでいてくれると言うのは、兵藤一誠という人ではなくドラゴンであろうと構わず純粋に心から愛する意味。それらを何となくでも一佳は、一誠を慕う女性達が眼前の少年の好みに合致しているのだと察知した。
「俺の家族の全員が全員ただの女じゃない。心が強く、敵と戦える実力者が殆どだからだ。俺を慕ってくれる皆は。故にある意味単純な俺の好みは、常人の人間の女にとって付き合い難い。だから、本気で俺を好きだというなら覚悟も必要なんだ」
―――お前は、お前達はその覚悟はあるのか?
一佳だけじゃない。お茶子達にも向けれる言葉だった。
自分達は本当に昔から付き合いの長い、異世界にいる一誠の家族達と対等に向き合える度胸と強さはあるのか?暗に試す一誠からの問いに一佳は真一文字に閉じた口を開くことできず返す言葉を出せなかった。
「ま、なんだかんだ偉く上から目線で言ってしまったけど別に気難しく考えなくてもいいがな」
「・・・・・え?」
「言っただろう。俺のことが好きで俺も好きな女は皆家族だって」
笑いかけられる一佳の思考は理解に追いつけず唖然と話を聞くだけでいたが、単純に話を聞けば・・・・・。
「俺も一佳の事が好きだ」
「―――――っ」
「一佳、俺の家族になってくれないか?」
そういうことである。突然の告白に目を大きく見張り傾けていた耳に疑ってしまったが。
「・・・・・恋人がいるのに、私も好きなの?」
「周りからすれば色欲の権化として認識されがちだがな一佳。俺は家族の絆が欲しいんだ。共に苦楽を分かち合い、怒喜哀楽を死ぬまで永遠に感じたい。だから俺を好きになってくれる女は全員、そうしたいが為に家族として受け入れたい」
これからも一誠は己を慕う女性が現れてもその全ての女性を受け入れる姿勢を変えない。それで周囲が知ればどんな反応をされても構わず、絆を求め続ける。過去―――そうしてもいいんじゃないかととある少女から言われてから現在の考えが固定したのだ。
「恋人の人は怒らないの?浮気だって思われちゃうよ」
「浮気?いや、俺の世界は割と一夫多妻なんだ。だから浮気と認識する方が変じゃないのか?」
異なる世界同士の概念と常識がまた違いを知った一佳。しかし、それはそっちの世界の話で一佳はこっちの世界の常識と概念で問うているのだ。一夫多妻制など法律でも許されていない。
「でも、この世界はそうじゃない。だから俺は異世界に戻る必要があるんだ」
「戻ってどうするんだ?」
訊ねてみれば一誠は不敵の笑みで衝撃的な事を言い出した。
「二つの世界を行き来できる道を作り、俺は異世界のパイプ役となる。そうすれば世界的にも有名な俺が異世界の人類とこの世界の人類と結婚をすることで、友好的な交流も成せれると示すことにもなりうる」
―――ヒーローより遥かな先を見据えている一誠の思考に度肝を抜かされた気分だ。今語った話は間違いなく政治的な内容だった。兵藤一誠という存在はとんでも無い事を考えている。その考えの中には間違いなく自分を巻き込もうとしている。前代未聞の―――偉業を果たそうとする者の傍らにいる一人にしたいと。
「これができれば神の奇跡以上の偉業になる。俺が望んでいる本当の意味での偉業だ」
「一誠さん・・・・・」
力強く拳を握りながら述べる一誠を何とも言えない気持ちを抱きながら見ていると、少しだけ話が反れたと一佳の表情を見て改めて聞く。
「まぁ、俺の考えはこうだ一佳。後はお前らの心次第だ。この世界の概念と常識で考慮して大勢の女性を囲っている俺と付き合うか付き合わないか考えてくれ」
「・・・それでもし、付き合わないって言ったら?」
『ふざけるなよ人間』
突如、第三者が二人の会話に割り込んできた。その者の地の底から響くような声がした方へ視線を向けると・・・一誠の手の甲に浮かぶ黒い宝玉が点滅していた。
『我が主に散々世話になっておきながら手の平を返す真似など俺は絶対に許さんぞ人間。ましてや軽い気持ちで好意を向けていたのであれば貴様は我が主の傍にいるに値しない塵芥に過ぎない』
明らかに怒りが孕んでいた声を向けられ一佳の体は委縮した。誰だか知らない、聞いたことのない声がもう一つの手の甲や額に浮かぶ点滅する宝玉から聞こえる声にもだ。
『我が主と付き合うかどうかはあなた次第です。我々が何を言おうと我等に発言力はありません。ですが、どうか今一度自分と向き合ってから我が主に答えてほしい』
『貴様の口から出る言葉一つで、その瞬間』
『良い結果になるかもしれないしならないかも知れん』
《悔いのない結果を出す事を祈る》
『俺達を失望させてくれるなよ?』
言いたいことだけ言い残して宝玉は消失した。後に残された二人は無言で顔と目線を合わせる。
「い、今のは・・・・・」
「俺の中にいる家族だ。お茶子達から聞いてないのか?」
「・・・・・ドラゴン」
聞いてはいる。だが、実際に話したことが無い彼女にとって衝撃的だった。一方的に諭され、試すような発言をされて当惑してしまったがドラゴン達はずっと見守っていることも思い出した。
「驚かせて悪かったがこいつらの言い分も最もでもある。が、仮に断れても俺は責めはしない。俺は相手の気持ちを尊重するから素直に答えてくれ」
「でも・・・ドラゴン達は私のこと許さないよね・・・・・?」
『『『当然だ』』』
「だからお前ら静かにしてろ」
瞬間的に肯定する宝玉を瞬時で叩くドラゴン達の主。
「さっきも言ったけど付き合うなら覚悟が必要だ。覚悟ってのはそういう意味も含まれてる。だから、よーく考えてから答えを言ってくれ。今直ぐじゃなくていい、自分なりのタイミングでさ」
不意に部屋の方へと顔を向けた一誠の左目は、明かりが無い暗闇の部屋にいる複数の気配を捉えていた。
「さっきからずっと隠れて盗み聞きしているお前らもな」
「えっ!?」
まさか、と有り得ないという思いを最初に抱きながら信じられないような目で部屋の方へと視線を注ぐ一佳。
するとどうだろうか。バツ悪そうにして暗闇の部屋から―――お茶子達が二人の前に現れた。
「茨達、何時の間に・・・・・?」
「砂浜の辺りから部屋に入って来たぞ」
敢えて一佳にもお茶子達にも気付かせなかったのは、一佳が切り出した話の内容が内容だったからだろう。語るなら何時か教えるのだ。ならば何も言わず話を進めようと一誠の考えに五人共気づきもしなかった。
「一誠さん・・・・・本当に意地悪だよ」
「コソコソと聞き耳を立てていた方が悪い。ヒーローを目指すなら遠慮なんかするなって話だ。度胸がないと言うか肝が据わって無いと言うか・・・」
いや、結構割り込み辛い会話だったから・・・・・と彼女達の心情を察してない一誠に心が一致した。
「聞いてただろうがお茶子達。俺は異世界に戻れば恋人がいる。それも両手では数え切れないぐらいにな。それでも俺はお前らが好きだ。お前らとの絆も繋がりたいしずっと傍にいてほしいのが本音だ」
一誠は言い続ける。彼女達に悔いのない選択肢を与える為に。
「そんな俺でも良いなら嬉しいが、そんな俺が嫌なら断わってくれ。自分の人生だ。恋より夢を求めるのも夢と恋を両立するのも全人類が共通する自由の権利がある。だからもう一度言う。俺は皆の気持ちを尊重する。ゆっくりと自分の中で答えを出してほしい」
彼女達の答えが示される時は―――。
ヒーロー仮免許取得試験当日で明らかになる。
―――私のベイビーが来ました!(by発目)―――
訓練の日々はあっという間に流れ・・・・・仮免を受ける一行はバスに乗って高速道路を経由してしばらく経ち―――目的地に到着する。
「降りろ、到着だ」
試験会場国多古場競技場の全貌が皆の視界に映り込む。
「まさか、俺も試験を受けれるとはな。除籍された当初から完全にその視野を外していたぞ」
「お前は何が何でも取って来い。オールマイトの義理の息子としても世間に注目されているんだからな」
期待の星、と風に述べる相澤はヒーローを目指すならその義務があると一誠の背中を言葉で押す。
「兵藤だけじゃないぞお前らもだ。この試験に合格して仮免許を取得できればお前ら
A組全員にも相澤なりの喝をして、生徒の意欲を向上させる。特に熱く男気と情熱的な切島が反応した。
「っしゃあなってやろうぜヒヨッ子によォ!!何時もの一発決めて行こーぜ!」
雄英の教訓を言おうと提案したクラスメートに異論はないと賛同する声が上がる。その声はこの会場に同じ目的でやって来た他校のヒーロー科の生徒にも聞こえ、一人の生徒が静かにソワソワとしながら切島の背後から・・・。
「せーのっ〝Plus〟」
「Ultra!!」
「うおおおおおおおおおおっ!?」
高々に切島が言う教訓を続けて言ったSの徽章がある黒い帽子を被った長身の男。その存在とその大声に切島は驚き、他の面々は「誰だ!?」と戸惑う最中。「あ」と一誠が吐露した。
「勝手に他所様の円陣へ加わるのは良くないよ。イナサ」
イナサと呼ぶ同じ制服と帽子を着飾る他校の男子が窘める。
「ああしまった!」
愚直的素直に彼、イナサは―――。
「どうも大変 失礼 致しましたァ!!!」
上半身を仰け反り、両腕を曲げ両手を腰辺りに添え、腰を曲げ思いっきり申し訳ないと念を込めた謝罪が勢いあり過ぎて、目の前で地面に頭が頭突きしたようにぶつかったイナサに一部を除いて緑谷達は完全にドン引きした。
「なんだこのテンションだけ乗り切る感じの人は!?」
「飯田と切島を足して二乗したような・・・!」
当惑する上鳴や瀬呂達の気持は良く分かると謎の生徒の言動は他校の生徒達の意識を集めるのに十分、騒がしかった。
「待ってあの制服・・・!」
「あ!マジでか」
「アレじゃん!西の!!有名な!!」
爆豪は言う。
「東の雄英、西の士傑」
『数あるヒーロー科の中でも雄英に匹敵する程の難関校―――――』
「士傑高校」
一誠も言い、イナサの背後にいる生徒近づく。
「一年振り、士傑高校の」
『は?』
「うむ、久しぶりだな兵藤君」
「今回は互いの校は競い合う形になってしまったが、あの巨大隕石を破壊し人類を救った君と再び再会できたことにまず喜びを感じているぞ」
『え?』
皮膚が見えない程の毛むくじゃらの生徒と糸目に近い生徒と握手を交わし合う一誠。
「ひょ、兵藤。知り合いだったのか?」
「全国を旅していた時に」
それだけで全部納得してしまう。一誠が途中まで日本中旅しながら事件を解決していた事実は世間も認識している。雄英に匹敵する士傑がある西の方にも行ってもおかしくない。
「そんじゃ、また話し合う機会があったら話そうな」
「兵藤、ケイミーもいるぞ。話さないのか?」
これ以上は引き留めないと話を打ち切る一誠に、毛むくじゃらの生徒が唇が潤っているのが特徴の女子生徒に指す。お茶子達は「やっぱり・・・」と悟った雰囲気を醸し出し、女子生徒と向き直る一誠の口から・・・・・。
「ケイミーと瓜二つの姿をした、中身が違う奴を俺は知らんぞ?」
彼女の肩に手を置き、虚空から鎖を放ちながら有り得ない言葉が出てきたのだった。
「っ!?」
ケイミーという女子生徒が一誠の突然の愚行に驚く―――どころか危機感を覚えたように肩を掴む手を、携帯していた折り畳み式のナイフで刺そうとしだした。が、黒く染まる手と腕は鉄の様に硬く、肉を貫く事は叶わず鎖はケイミーの胴体に巻き付いた瞬間・・・・・顔が溶けた。
『―――っ!』
雄英どころか士傑までもが目を見開く。緊張が走る場の中で一誠だけは不敵の笑みを浮かべた。
「俺がこの場にいなかったら、全員を騙せただろうに・・・・・運がなかったな」
ドロドロに溶けた顔はもはや影の形もなく、別の顔が晒される。ケイミーの皮を被った別の少女が愕然とした主もして一誠を見続ける。
「お前も久しぶりだな―――
「アハハ・・・・・初めてバレちゃいました」