俺のヒーローアカデミア   作:ダーク・シリウス

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仮免取得試験2

黒いスーツを身に包む男性が一次試験合格したヒーロー科生徒達の待機室に現れたのは、程なくしてだった。

扉から入り、学校ごと固まって次の試験まで用意された茶菓子を食しつつ休憩している様子を視界に入れながらとある学校の生徒の名を挙げた。

 

「雄英の兵藤一誠君!こちらに来てください!」

 

場が一気に静まり返り、呼ばれた張本人とそのクラスメートは『え?』と疑問符を浮かべた。だが、呼ばれたからには行かないわけにもいかず、スタッフらしき男性の下へ歩み寄ると一言二言告げられ・・・待機場所から二人ともいなくなってしまった。

 

「え、何故に?」

 

「思った以上フィールドを壊したことについてでしょうか?」

 

「それで失格、なんて・・・無いよね?」

 

不安を覚える一同を露にも知らず一誠は・・・・・二次試験が始まる直前にもなっても戻ってくる事は無かった。

 

『えー皆さん。これご覧ください』

 

突然のアナウンスと壁に設置された大型テレビに電源が入った。映像は、崩壊し尽くしたフィールドであった。

全員の視線を集めるテレビに映るフィールドは、突如爆発が発生して駄目押しに再び破壊されていく。

その理由が分からない全員の気持ちは―――。

 

―――――何故!!

 

『次の試験でラストになります!皆さんにはこれからこの被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます』

 

バイススタンダート。自然災害、事件や(ヴィラン)との大規模な戦闘に巻き込まれ必然的に伴われる一般市民への擁護。その場に居合わせたヒーロー、警察、自衛隊、救急隊、消防隊だけでなく一般市民も行動することもある。次の試験演習は救助だと説明された時、誰もが憧れたヒーローオールマイトの救助活動の姿を緑谷は脳裏に思い浮かべた。

 

『ここでは一般市民としてではなく仮免許を取得した者として―――どれだけ適切な救助を行えるか試させていただきます』

 

パッと映像は変わり、一誠と爆発によって瓦礫と化したフィールドに血塗れや傷だらけの老若男女の姿が。

 

『彼等はあらゆる訓練において今引っ張りダコの要救助者のプロ!『HELP・US・COMPANY』略して『HUC』の皆さんです』

 

「そんな仕事もあるんだな」と、「ヒーロー人気のこの現代に即した仕事だ」と会話が聞こえる。

 

『傷病者に扮した「HUC」がフィールド全域にスタンバイ中。皆さんにはこれから彼らの救出を行ってもらいます。尚、今回は皆さんの救助活動をポイントで採点していき演習終了時に基準値を超えていれば合格とします。10分後に始めますのでトイレなど済ましといて下さいね―――・・・・・』

 

9分後。

 

「うぉい!兵藤がこねぇーぞ!?」

 

どうなってんだ!と上鳴が叫んでも事態は変わらない。この試験を合格すれば仮免を取得できるのに途中で辞退するなんておかしすぎる。何らかの事情で来られなくなったのかと思わずにはいられない。

 

「どうする探しに行くか!?」

 

「今頃探しても遅い。もう始まるぞ」

 

そう障子が言った矢先、鼓膜を破かんとする甲高い警報の鐘が鳴り響いた。

 

(ヴィラン)による大規模破壊(テロ)が発生中!規模は某市全域建物倒壊により傷病者多数!』

 

「演習の想定内容(シナリオ)ね」

 

「え!?じゃあ・・・」

 

冷静に状況を察する蛙吹にまさかと耳朗が聞き返せば。

 

「始まりね」

 

「っ・・・兵藤君・・・・・!」

 

「セーフッ!」

 

結局戻って来ず二次試験が始まってしまった―――と思った矢先に天使化の姿で滑り込むように戻って来た一誠。

 

「おっせぇぞ兵藤っ!」

 

「オメー何してたんだよ」

 

「ちょいっと話し込んでしまってな。それとまた単独で動くからお前らも各自の判断で行動しろ」

 

『道路の損害が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ!到着する迄の救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮を行う』

 

話しているその間にも再び開くシステムで待機場は開放的となった瞬間、100人の受験者達が一斉に動き出す。

 

「行きますわよ」

 

「・・・・・うんっ」

 

『一人でも多くの命を救いだすこと!!』

 

 

START!

 

 

二次試験が始まったものの、どう採点するのかその基準は一切明かされてはいないまま試験を臨まなければならなかった。だが、結局のところ分からない以上はそれぞれの学校のヒーロー科がした救助訓練通りにするだけなのだ。

 

「とりあえず一番近くの都市部ゾーンへ行こう!」

 

「なるべくチームで動くぞ!」

 

全受験者の行動はほぼ一致している。知れた仲間と行動をして救助・救出活動がし易い故に固まって動く。早速どこかへ行ってしまった一誠を除く緑谷達雄英も然りだ。チームになって要救助者を探していると直ぐに瓦礫と化したビルの傍で発見した。

 

「早速子供が!」

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”んたすげでええ!!」

 

過呼吸なりがちな悲鳴と助けを乞う血塗れの子供。訓練通り行おうと一行は近付く。

 

「あっち・・・!おじいちゃんが!ひっ、潰されてぇ!!」

 

それは大変だ!と緑谷が率先して対応したが。

 

「なァんだよそれえ減点だよォォ!!!!」

 

「!?」

 

要救助者の「HUC」の口から減点という言葉が出てきた。つまり採点をする基準とは―――。

 

「まず私が歩行可能かどうか確認しろよ!呼吸の数もおかしいだろォ!?頭部の出血もかなりの量だぞォ!?仮免もちなら被害者の状態は瞬時に判断して動くぞ!」

 

(『HUC』が採点するのか!!)

 

緑谷の即座の判断力と対応力が誤ってしまい、それに気づかれて目を大きく見開く。

 

「こればかりは訓練の数がものを言う!!視野広くっ、周りを見ろォ!」

 

他の受験者達はその訓練の数で培った経験を発揮していた。救助や救出の訓練よりも一誠に鍛えられた時間と数が圧倒的に多かった緑谷達にとってある意味痛恨の極みだ。臨んだからと言っても大切な事はするべきであったと。相澤もそれに悟っていた。故に今度、トレーニングルームを利用してみっちりと救出・救助訓練をしようと考えていた。

 

「何よりあんた・・・私達は怖くて痛くて不安でたまらないんだぜ?掛ける第一声が『ええ!大変だ!』じゃあダメだろう」

 

「・・・・・」

 

―――もう大丈夫―――私が来た。

 

ピンチの時にいつでも駆けつけてくれるヒーローの決め台詞でもある掛け声。オールマイトが何時も相手を励まし安心させる温かい光を放っていた。

 

『ねぇ、兵藤君。日本中旅してたって事はやっぱり事件も解決してたりしてたよね?よくテレビや新聞で載ってたから凄いなーって感動したよ』

 

『俺はできる事をしているだけだ。周りができないんじゃあ誰がやるってことだし』

 

『じゃあ、困っている人も助けていたんだね』

 

『手の届く範囲だがな。それでも助けを求めている人を安心させている。オールマイトのように「もう大丈夫、私が来た」って感じにな』

 

一誠もそうだった。あのオールマイトの養子もきっと安心させる光を与えていたに違いない。―――なのに自分はなにやってんだと己を叱咤する。緑谷は意識を変え、改めて対応した。全ては輝かしき夢の為にだ。

 

「大っ丈夫!」

 

自分なりに安心させる笑顔を浮かべ、声を掛けた。

 

「ひっ、うわあああん!あっちでえ!おじいちゃんがっ、ひっ」

 

「大丈夫さ!必ず助けるよ!」

 

戻ったHUCの対応と演技力に驚きながらもやるべき事を全力で臨もうとする。

 

「僕はこの子を救護所まで運ぶから皆先行ってて!」

 

「おおう!」

 

「頑張っぞ!」

 

ようやく緑谷達もらしくなってきたところで・・・・・。ヒーロー公安委員の目良が次のステップに移行始めた。

 

「さーて・・・当然のことながら・・・・一筋縄じゃあ済まないからねー」

 

パソコンに向かって促す。

 

「そろそろ動いていいよ・・・兵藤君(・・・)

 

 

『―――?』

 

試験に臨む全員が悪寒を覚えた。どこもかしこも要救助者の対応に専念していた筈であったが、背筋が凍るような悪寒を覚えた瞬間。一瞬だけ動きを止めた。しかし、プロヒーロー達は単なる違和感程度しか感じてなかった。何で全員が同時に動きを止めたのかと。その理由は直ぐに理解した。都市部ゾーンに爆発が発生。何事かと注目の視線を向ける一同の目の前に空から突如現れた。

 

『GYEAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッ!!!!!』

 

全長三メートルの異形型の(ヴィラン)が傷病者の対応にあたっているヒーロー達の前に悪意と殺意を撒き散らす。

 

「んな―――!?」

 

雄英一同は愕然とした。何故、このタイミングで(ヴィラン)として現れたのか疑問が尽きない。しかし―――。

 

(ヴィラン)による大規模破壊(テロ)が発生中!』

 

という言葉が頭に過った緑谷は張り叫んだ。

 

「演習の想定内容(シナリオ)かっ!でも、なんで試験に受ける側の君がこんなことを、兵藤君っ!」

 

緑谷の前に立ちふさがる逆関節の二本脚に三つの頭、太陽の反射で時折紫色の発光現象を起こす黒い鱗に覆われた身体の持ち主の(ヴィラン)=一誠に問いを投げたら返ってきた言葉は。

 

『仮想(ヴィラン)にピッタリだからやってくれって委員会の人に頼まれた』

 

「えっ!?うわっ!」

 

返答の言葉と共に殴り掛られたので間一髪避けて後退する緑谷。

 

『取り敢えず事情を話すのは全部終わってからだ。俺は仕事の手伝いをしているに過ぎないからな』

 

「じゃあ、君は仮免の試験を放棄しちゃうって言うの!?」

 

『お前には関係ない。だから次見掛けたら手加減はするが、全身打撲は覚悟しろよ?』

 

明後日の方へ跳躍して移動する仮想(ヴィラン)の一誠。一度だけ見逃された緑谷は半ば唖然としてしまうも、腕の中にいる救助者の重みを意識して止めてしまった足を動かす。

 

(ヴィラン)が姿を現し追撃を開始!現場のヒーロー候補生は筆頭格の(ヴィラン)2人を制圧しつつ救助を続行してください』

 

「プロでも高難度の案件。仮免でここまで・・・・・あいつ(兵藤)、公安委員会に頼まれやがったか」

 

30分前―――。

 

スタッフに案内される場所の部屋には目良が眠たげな目で一誠に挨拶を交わした。二人だけの話し合い―――ではなく、出で立ちがシャチっぽい者も同席していた。

 

「えーと、俺に何か用で?」

 

「えー、率直に言うと二次試験に参加せず僕達の仕事の手伝いをしてほしい」

 

「仕事?何故に俺?」と当然の疑問を浮かべる受験生に目良はコクリと眠たそうに頷く。

 

「まぁ、ぶっちゃけ最初は君に声を掛けるつもりは無かったんだけどね。あんなに滅茶苦茶にフィールドを壊す前に壊されちゃったし、何より君、体育祭で(ヴィラン)っぽい見た目の〝個性〟を発動してたよね異形型の」

 

「それ思い出したから声を掛けたんだ」と語る公安委員会に見た目で仕事を手伝ってほしいって何とも言えない気分になる一誠は指摘する。

 

「仮に手伝ったとしても、俺は次の試験を受けれずそのまま不合格になるんじゃ」

 

「うん、これは僕の独断で正式な依頼でもない。ましてやまだ仮免を取得していない生徒に頼んじゃいけないけど、今回の試験は例年の試験とちょっとだけ趣旨が違うんだ」

 

「?」

 

「オールマイトの養子として引き取られた理由はー正直今でも半信半疑。異世界から来た人間であるからなんて最初は誰も信じられない。まぁ、あの隕石の一件で認めずにはいられなくなったわけだけど」

 

シャチっぽい人もそうなのかと視界に入る沈黙を貫く者は、一誠とシャチっぽい目で見つめ続けている視線と合う。

 

「オールマイトの本当の正体。あの姿を見て僕達は彼の体力の限界が近付いていると悟らずを得なかった。君も養子になった時から気付いていたかもしれないけど、僕達に衝撃を与えたあの姿は悟らせた。存在だけで抑制させていた(ヴィラン)はいずれ活発的になり大規模な事件も引き起こすだろうってね」

 

「だから、量より質のある未来のヒーローを選別する必要があるってことか?」

 

「うん、そういうこと」

 

よく自分の話の意図を読み取った、と心中感心する目良。一次でフィールドを破壊した一誠はある意味、質のある未来のヒーロー達を選別する言動をしていた。そこを目良は目を付けて、(ヴィラン)っぽい〝個性〟もあることも思い出し話を持ちかけたことを気付かない一誠に乞うた。

 

「さっきも言ったけどこれは正式な依頼じゃないから断わっても構わない。君も受験者の一人だからね。クラスメートと合格したい気持ちを蔑にしちゃ駄目だし。仮に引き受けてくれるなら君も合格できる条件付きで手伝ってほしい」

 

「条件付きか・・・・・」

 

腕を組んで少し悩む一誠は一分もしない内に首肯する。

 

「了解、仕事を手伝うよ」

 

「ごめんね。それじゃ手伝ってもらう内容を説明するよ。君はこのギャングオルカというプロヒーローと―――」

 

 

 

『出でよ、我が魔獣達よ!』

 

一番身私が良い場所から地面を黒く塗り潰すそれは全て一誠の影。その広大な影から続々と異形の人型の魔獣達が姿を現したその数は約30。

 

『ヒーローを邪魔してやれ』

 

創造主の真意に従い、雄叫びを上げながらフィールドを駆ける。その様子は誰もが見ていたので戦闘態勢の構えを取った。一誠はその場からどこかへと跳躍していなくなる。

 

『GYEAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッ!!!!!』

 

三つの口から解き放たれる豪咆を聞き受験者達は駆けつけ、今まさに要救助者「HUC」を襲わんとしていた仮想(ヴィラン)に対処を始めた。

 

『ッ!?』

 

ギンッ!とプレッシャーが籠った睨みをされて身体が委縮する。生物的本能が、こいつに関わってはいけないという危険信号とその鐘が発しているからだ。己の邪魔をするヒーローに振り返り3メートルの図体で近づく。

 

『そこを退いてもらおうか』

 

巨大の手で救助者を優しく労わる気遣いしながら捕まえて盾にする仮想(ヴィラン)

 

「こんなこともするのかよ試験は!?」

 

「くそっ!救助者を盾にされちゃあ・・・!」

 

「俺、この状況に適した〝個性〟持ちを探しに行く!」

 

狡猾な手段で受験者達を翻弄する仮想(ヴィラン)。人質にされた民間人を救出するのもヒーローの務めだ。一誠は悪事に関してはプロヒーロー並みに熟知している故にヒーロー達にとって嫌な行動をして採点をさせる事に決めていた。

 

「ちくしょう、あっちこっちで(ヴィラン)が暴れているなんて!」

 

「ハードル高ぇっ!」

 

「早く負傷者を救護所へ!」

 

瓦礫の山々の隣を素通りし、至るところから感じる戦場と化している雰囲気に受験者達は焦燥を傷病者の怪我に触れない程度の速度でたまに聞こえる獣の様な咆哮に驚きながら走る。

 

「もう少しで着く―――っ!」

 

今も尚、助け出されている傷病者が集められてる専用の場所へ赴く彼等の前にも、上から仮想(ヴィラン)が現れた。片方の手には人質の要救助者が捕まったままだ。

 

(ヴィラン)っ!?」

 

「人質を捕らえているぞ!解放しよう!」

 

三人の受験者が飛びかかり、仮想(ヴィラン)と交戦を始めるその間、急いで救護所へ連れて行く受験者の背後から爆発が発生した。充満する土煙の中からユラリと蠢く影の正体は・・・・・三頭龍であった為に受験者は味方があっさりやられたことに危機感を覚えた。―――直ぐ目の前には救護所が見えているからだ。

 

「そこにいる傷病者を避難させろ!(ヴィラン)が来るぞー!」

 

容赦もなく襲撃を試みる仮想(ヴィラン)に、手当や収容していた受験者達の耳にその叫びが届き、その目は仮想(ヴィラン)の姿を捉えた。

 

『―――龍化』

 

更なる危険を増長させる。その身を巨大化させ、全ての者達に恐怖と絶望を与える象徴に変貌する仮想(ヴィラン)は咆哮をあげた。―――時間だと意図を込めてだ。それを知る者は救護所と少し離れた壁が爆発してから現れた。2人目の仮想(ヴィラン)として登場―――。

 

「いい塩梅だ兵藤一誠」

 

『そりゃどうも』

 

「「「んなっ、ギャングオルカーッ!?」」」

 

黒ずくめの集団を引き連れて龍化した一誠の隣に立つ。

 

「さあ、俺達と対的してどう動く!?ヒーロー!」

 

ギャングオルカが腕を掲げた仕草に呼応し、多くの仮想(ヴィラン)達が救護所へ強襲し始めた。人質を手中にしている仮想(ヴィラン)からどう救うのか・・・判断力と即断力が試される。先行する仮想(ヴィラン)達に対処しようと果敢に動く受験者。

 

「皆を避難させろ!奥へ!(ヴィラン)からできるだけ距離をおけ!」

 

地面に手を触れた瞬間、地面が揺れ、小規模の地割れが生じて仮想(ヴィラン)が足止めを食らってしまったが、一拍遅れて一瞬で受験者に近づいたギャングオルカの頭から―――。

 

「温い」

 

キンと甲高い音が放たれると受験者は動かなくなってしまった。その様子を見ていた一誠は興味本位で『何をした?』訊ねた。

 

「俺の〝個性〟は『シャチ』。海中に泳ぐシャチの能力を陸上でもできる。今したのは超音波だ」

 

『ほほう・・・シャチか』

 

視線を上空へ向ける一誠の瞳が妖しく輝く。すると晴天だった空が雲行きを悪くし、試験会場の頭上だけが黒雲となり・・・・・ぽつぽつと滴が空から降ってきた途端、雨が降り出した。全身を濡らす雨の滴を降らす雨雲を見上げ、意図的に起こした自然現象に驚愕する。

 

「これは・・・・・」

 

『天候を操り雨を降らした。シャチは乾燥に弱いからな』

 

水に弱い機器には当たらないようフィールド限定にして降らしている為、採点は続行できる。

 

「天候を操るか・・・それは異世界の力か?」

 

『ああ、そうだと言いたいが』

 

来てるぞ、と伝えられた横から氷結が決壊したダムの水のように押し寄せて直撃する直前に超音波で防ぐ。

ギャングオルカのように一誠も振り続ける雨が不自然に空中に留め、迫って来た受験者=緑谷を見据え、宙に留まる雨を水鉄砲のごとく放って押し返した。

 

『ギャングオルカの為に降らしたと思うなよ。この雨は俺の攻撃にも防御にも使役する為にも降らしたんだ』

 

雨が集束して溜まり、数多の水の塊が一誠達の周囲を囲む。そうしたのは、仮想(ヴィラン)を囲む受験生達が集結していたからだ。

 

「予想以上に集まったな」

 

『この人質を救出しようと躍起になっているからだろう』

 

その人質の周囲に結界を張って真ん中の頭部に乗せる他、雨をまた集め、攻撃用に集束した水の塊は形を変えて蛇のように胴体が長い竜となった。その数は7。準備は万全と気配を醸し出し―――ヒーロー達に攻撃を始めた。

 

「吹き飛べぇえええええええええええっ!」

 

突風が水竜を吹き飛ばす。しかし、振り続ける雨で直ぐに何事もなかったように再生を果たす。仕返しとばかり水の塊を放たれて、士傑のイナサは風力で相殺する。

 

「中々熱い展開になって俺は凄く滾るッス!勝負ッス、兵藤一誠!」

 

「待てイナサ!」

 

上空から戦いつつ人質を救おうと考えるイナサの意図を知らず止める毛むくじゃらの士傑の声は雨で届かず、先行すると水竜がそうはさせないと大口を開いて飛んでくる。一人と一匹は躊躇なく引き寄せられるように直撃したが、風を纏うイナサが水の中を進み、突破をして見せた。そのまま周囲の受験生と戦っていた一誠に近づく前に雨雲から稲光が。

 

「ぐあっ!?」

 

雷は空飛ぶ少年に直撃。さらに振るう丸太よりも大きく太い尾に叩きつけられた先には轟がいて、二人ともぶつかってしまう。

 

「っ、おい、邪魔だ」

 

「っ!」

 

退いてくれと言おうと口開こうとした轟の上に乗っかるイナサの目が見開いた。

 

「・・・・あんた、あん時より雰囲気は変わったみたいッスけど、やっぱり俺はあんたらが嫌いだ」

 

「!?」

 

試験中に何を言っているんだと起き上がり、上から見下ろすその目は自分を睨むイナサを見返す。

 

「他が変わろうとその目だけは変わらない」

 

「は?何が言いたい」

 

「あんたの目はエンデヴァーと同じッス」

 

 

 

 

一頭の口から風圧の弾が放たれ受験者達に凄まじい衝撃を与えながら吹き飛ばす。水竜も操り仮想(ヴィラン)に近づけさせないと水の弾を放ち水の体で攻撃を防ぐ。

 

「ガードが硬ぇ上に攻撃が絶えずしてくる中でどうやって救助しろってんだよ!?」

 

「巨大仮想(ヴィラン)の腹の下から変なの撃ってくる(ヴィラン)達も厄介だ!」

 

「ギャングオルカもすげー強ぇっ!」

 

悪戦苦闘という言葉がしっくりくる。おまけに―――。

 

『GYEAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!!!』

 

「「「ぐうぅっ!?」」」

 

至近距離で聞かされる咆哮が鼓膜にダメージを与えられて、両耳を塞ぎその場で硬直したり咆哮と共に生じる衝撃波に吹き飛ばされるので成す術がない。その瞬間を狙うのがギャングオルカの事務所に勤めるサイドキック達。

 

「今だ固めたれっ!」

 

腕に装着したセメントガンで硬直する彼等彼女等に撃って動きを最終的に固める。完全に攻めあぐねている受験生達は悔しげな表情を浮かべていたが、巨大仮想(ヴィラン)の三つの頭が凍りつく光景を目の当たりにした。

 

『冷たっ!?』

 

背中から突如感じる冷たさに驚き、尻目でぐるりと後方へ視線を送るとそこに、背中に轟が立って背中から凍らせていた。

 

「これで動けないだろう」

 

背中の上で駆け出し、人質を救おうと真ん中の首に駆け上がり、ついに目と鼻の先の人質を視界に入れた轟が手を伸ばした同時に風が前髪を揺らした。

 

「人質救出!」

 

ほぼ同時にイナサも轟と鉢合わせした形で手を伸ばした。互いの顔が視界に入り、ムッと顔を顰めた。真正面から嫌いだと言われた上に嫌悪している父親の事も言われ、言い感情を抱かなかった轟に轟親子に何らかの因縁があるイナサは気に食わないも指摘した。

 

「俺が救助するからあんたは氷でもっとこいつを動けなくしろッス!」

 

「俺が救助する。後から来たお前に指図されたくない」

 

「いーや俺が先だね!」

 

「こいつの首を凍らせた俺の方が早かった。お前が俺に合わせてきたんじゃねえのか?」

 

「違う!俺の方が水の化け物を蹴散らしてきながら来たんだ!あんた、そう言って実は手柄欲しさで適当な事言ってんだ!」

 

「は?誰がそんな事言うかよ」

 

試験中にケンカする二人に思わずこの場にいる全員が動きを止めた。ギャングオルカも頭上の上でケンカされている一誠も含めて全員だ。降る雨の最中でイナサは言いきった。

 

「言うね!だってあんたはあの―――エンデヴァーの息子だ!」

 

また嫌悪している者の事を言われ、苛立ちを覚える轟はイナサを睨みつける。

 

「さっき・・・から・・・何なんだよお前。親父は関係ねえっ」

 

「関係あるんだなこれが!」

 

どちらも否定する。

 

「ヒーローってのは俺にとって熱さだ!熱い心が人に希望とか感情を与える!伝える!だからエンデヴァーに否定された時はショックだった!そして入試の時、あんたを見てあんたが誰か直ぐに分かった。なにせ―――あんたは全く同じ目をしてたんだからな」

 

「・・・同じだと・・・ふざけんなよ。俺はあいつじゃねえ」

 

何時しか、雨は降らなくなった。雨雲だけはゴロゴロと雷雲に変わっていたが二人は言い合いに熱が入っているようで気付かずにいた。

 

「俺はあんたら親子のヒーローだけはどーにも認められないんスよォー!以上!」

 

『―――なら、再開しても構わないな』

 

「「っ!?」」

 

ゾッ!と二人に襲う殺気と悪寒。怒気が籠ったどこまでも冷たい声音が下から聞こえた。二人揃って下へ視線の送れば、怒りが籠った左目が上に視線を向けて睨んでいる様に見えていた。

 

『黙っていれば試験中に人の頭の上でケンカとは』

 

左右のドラゴンの目が二人を射抜くように視線を向け、巨大で鋭利な爪先が「?」と不思議そうに一誠を見上げるギャングオルカの肩に触れ―――。

 

『―――どっちもちいせぇ事でケンカするんじゃねぇよっ!』

 

キンキンキンと三つの額からギャングオルカの〝個性〟の能力の一つ「超音波」が放たれた。

 

「ガァッ!」

 

「っ・・・」

 

両者、モロに食らって頭から落ちる最中。巨大な手がそれぞれ二人を掴んだ。地面に触れている前足ではなく、肩から生えたもう二本のドラゴンの手で捕まえられた。

 

『馬鹿かお前ら・・・人質の救出を争うヒーローがどこにいる。逆にお前ら馬鹿ヒーローが新たな人質になって他の連中に迷惑をさせた。この責任をどう取るつもりだ?』

 

氷が蒸発し、凍った体は完全に復活を果たした一誠は頭を周囲に突き出して超音波を放った。大勢の受験生達はそれで行動不能に陥る。

 

『お前らの自業自得だ』

 

不意に「一誠さん!」と己を呼ぶ声に三つの首が前に振り返った。今の声は、と思いながら五つの目は一人の少女に捉えた次の瞬間。小さい筒型の何かが目の前で―――光が弾ける。

 

『ぐっ!?』

 

後にスタングレネード、閃光弾と気付いた時は視界を奪われた後だった。目を奪われ、周りが何も見えなくなった一誠にまたしても身体を凍てつかせる感覚を己の全ての首まで覚えた後。今が好機だと押し寄せる受験者達。

 

「―――人質を解放したぞー!」

 

受験者の一人が頭部から人質を救出。轟とイナサも急いで解放されれば、要救助者を抱え危険区域から遠ざかる動き出す。追撃する仮想(ヴィラン)達を迎撃する受験者の奮戦も空しく―――。

 

しばらく経った時。

 

フィールド中にけたたましく鳴り響く音が聞こえる。

 

『配置された全てのHUCが危険区域より救助されました。まことに勝手ではございますがこれにて仮免試験全行程―――終了となります!』

 

以下の報告を受けた全受験者達から緊張が解け、安堵の息を漏れた。

 

『集計の後。この場で合意の発表を行います。怪我された方は医務室へ・・・他の方々は着替えてしばし待機でお願いします』

 

促された一同は様々な気持ちを抱いてフィールドから一時去ろうとする。だが、一部の受験者こと八百万達だけは首だけとなった一誠の傍から離れようとはしなかった。

 

「・・・・・これ、死んでんじゃねーよな?」

 

うんともすんとも言わないクラスメートに気に掛け、心配して戻れずにいるのであった。皆、眼帯を付けた首だけのドラゴンの顔に恐る恐る近づき確かめる。

 

「お、おい兵藤。起きてっか?」

 

上鳴が閉じた左目に顔を近づけた瞬間。氷漬けの首から蒸気が発し、見る見る内に溶けて生気と強い意志が宿る垂直のスリット状の瞳が開きだしたことで左側にいたクラスメートは驚愕。

 

『死んでないから安心しろ』

 

口開く。死んでいない事実が分かりホッと安堵で胸を撫で下ろす。

 

「ビックリさせんな!」

 

「そうだぜ!お前、本当に何なんだよ!?不死身か!」

 

『不死身になれる程度だ』

 

「「なれるのかよ!?」」

 

首に突っ込みする切島と瀬呂から意識を反らす一誠は八百万に話しかけた。

 

『してやられた。まさか閃光手榴弾を投げてくるとはな』

 

「一誠さん相手に小細工は通用しないと思っていたのですが」

 

『まぁ、手加減していたからだがな』

 

本気の俺はこんな無様にはならないと付け加え、不敵な物言いにニヤリと凶悪な生え揃った牙を覗かせ、峰田をビビらせた。

 

『さて、結果はどうなってるんだろうなー』

 

それから着替え終えた受験者の皆は、合格した仮免取得者が提示された巨大な画面を見て名前が無い不合格者は落胆、合格者ははしゃぎ喜ぶと反応が分かれた。しかし、目良は不合格者にチャンスを与えた。より質の高いヒーローを育て輩出する為に

 

「『三か月の特別講習を受講』の後、個別でテストで結果を出せば仮免許を発行する」

 

と不合格者に告げたのであった。

 

「あーあ、お前らの場合は戦闘力じゃなくてコミュニケーションの修行をすれば良かったようだな。合格できる実力者なのになんでつまらねぇーことで不合格になってんだか」

 

主に―――プライドの塊で(ヴィラン)級の口の悪い直ぐにキレる爆豪とイナサと試験中喧嘩した轟に親指さす。

 

「やっぱり爆豪さんは人助け向いてないようね。未来のヒーローとしてどうかしら?避難誘導や救助時だけボイコットしそうなボンバーマンの保護者さん?」

 

「「面目ねぇ、(ヴィラン)退治には嬉々としてやるのに救助になるともう口が悪くて減点されっぱなしで・・・・・」」

 

「うるせぇ黙れゴラぶっ殺すぞゴラ!?」

 

二次試験でも爆豪を放っておけずの切島と上鳴が申し訳なさそうに悪ふざけする一誠と一緒にふざける。

因みに50点をラインにしてそれ以下になってしまったら不合格。(爆豪は39点だった)。

 

―――その後。

 

試験会場を後にし、すっかり朱色に染まった空に夕日が顔を出していた頃には合格者に仮免許のカードが発行された。それを以って夢の第一歩前進した者達は様々な思いを胸に秘めて明日を迎える。

 

「・・・兵藤」

 

相澤が深刻な顔をして一誠に近寄り耳元へ顔を寄せた。

 

「あの(ヴィラン)が脱走した」

 

「え、マジ?」

 

「ああ、今からでも見つけられるか?」

 

捕まえた筈の(ヴィラン)連合の一人が密かに逃げていた事実を知らされた。ので、周囲の人間の気を探知して目標を探すが一誠の首は横に振った。

 

「流石に広いとこで探すのは時間掛る。もうこの辺りにはいないし」

 

「そうか。折角尻尾を掴めたと思ったが・・・・・」

 

「どうやって逃げたのかは知らないけど、別人に完璧に変装する〝個性〟だってことぐらい分かった程度か。ヤバいね、俺達の誰かに変装でもされたら見分けはつかないぞ先生」

 

「そうだな。そこんとこも校長達と話し合う必要がある」

 

尚更、緑谷達に気の探知を習得せねばなるまいと考える一誠は緑谷達とバス停に赴く最中、携帯にメールが届いた。確認すると・・・・・一佳と茨が仮免許所カードを手にした姿の写真が送られて来ていた。B組も試験が終わったようできっと全員合格できたのだろう。とそう思いながら今日の夕飯は豪華な料理を作るか、小さく笑いながら考えた。

 

 

・・・・・その日の夜。

 

 

一年のヒーロー科の寮のリビングキッチン―――。

 

「切島VS鉄哲の超激辛カレー大食い競争ー!開始!」

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!(ガツガツガツ!!!)」」

 

色鮮やかな飾りと豪勢な料理で満たされている中でワイワイと賑やかさを醸し出して盛り上がっていた。三人以外試験を合格したとB組の試験の結果も明らかになったので(一誠主催により)祝杯を挙げることにしたのであった。

 

「「ぐおおおおおおおおおおおおおおお!かれぁ~ッ!?」」

 

「唐辛子50本分の辛さのエキスを入れましたからな~」

 

口から火を噴く幻覚を見せつける二人が食べるカレーを作った本人が他人事のようにぶっちゃける。「なんてシャレにならんもんを作ったん一誠君!?」と突っ込むお茶子の隣にいた緑谷の目には黙々と美味しそうにカレーを食べる一誠の姿に冷や汗を流す。

 

「こっちはこっちで安全な料理があるからいいじゃん」

 

隔離地域とばかり別の料理を食べている生徒は殆どだった。ホールケーキを始め様々なデザート、肉料理、魚料理、野菜料理と色んな地方や外国の料理まで選り取り見取りのレストラン並みに作られた料理は好評価である。

 

「良く短時間で色んな物を作れたね」

 

「トレーニングルーム」

 

「ああ、そう・・・」

 

もはやそれだけで全て納得せざるを得なかった緑谷も玉子とじのカツ丼を食べていた。

 

「そう言えば一誠、そっちもやっぱり全員合格したの?」

 

とデザート片手に聞いてきた一佳からの問いにA組は妙な緊迫の雰囲気を醸し出した。盛り上がっていた筈の空気は違和感を一佳達に伝えた。

 

「いや、全員じゃないぞ。轟、爆豪が落ちた」

 

「えっ!?」

 

A組の主力が失格したと言う衝撃は少なくともB組全員に与えた。そしてそれを聞いて黙っていられないB組の男子、物間がニヤリといやらしい笑みを浮かべた。

 

「あれあれ~?僕達よりも優秀なA組が二人も~?えええ~何かと注目を集めているA組が二人も落ちただなんておっかしいなぁー、ねぇ、おっかしくない~?」

 

スッと・・・そんな挑発的に嘲笑する物間を二人分の影が覆う。

 

「物間」

 

「うん?」

 

 

少々お待ち下さい・・・・・・。

 

 

「申し訳ございませんでした皆さま」

 

「ゴメンなー」

 

茨のツルで縛られ叩かれた後、巨大な拳にも殴られ沈黙した物間を壁の隅に置いてあるゴミ箱へ捨てた、未来のヒーローの所業とは思えない二人にA組もB組も関係なくドン引きさせた。もはや完全に盛り上がっていた雰囲気は決定的に消失した。

 

「お、おい・・・鉄哲」

 

「言うな。今俺も驚かされたんだ」

 

B組でもあんな狂暴なのかと言いたげな切島の言葉の意図を気付かずもクラスメートの暴行に驚く鉄哲。だが、某吸血鬼が暴走した末路を遠い目で思いだす一誠は懐かしさを感じてしまった。しかし、直ぐに盛り上がらない場をどうしようかと周囲を見渡し・・・・・緑谷にロックオン。

 

「緑谷、何か一発モノマネしてくれね?」

 

「いきなり何を言うんだい兵藤君!?」

 

「この場にいる全員の内の五人を笑わせたら・・・俺からオールマイトに頼んで緑谷の望むことを叶えさせてやろう!」

 

ギョッと目を丸くして驚くも条件付きで望みを叶える甘い誘惑にオールマイトの後継者であろうと望みは無いと言えば嘘になる。この瞬間、ちょっとだけ欲に負けた未来のヒーローは忙しなく顔を洗うように手を動かした。

 

「―――私がきた」

 

そばかすやワカメヘアーを除けば、顔だけは完璧にオールマイトだった。それが緑谷出谷の渾身の一発モノマネ。だが、彼は忘れている。五人を笑わせろと言った事を。周りの反応を窺えば・・・・・。

 

『・・・・・』

 

場は更に静まり返り・・・・・閑古鳥が鳴いたような静寂が訪れた。―――笑えない、笑えなさすぎると言わんばかりオールマイト顔の緑谷の周りは重い雰囲気が漂う。

 

「失格」

 

もはや堪えられんと緑谷は足元がポッカリと開いた穴に落とされてしまった。一誠の言葉通り失格だと失格の烙印を押した本人は皆を一瞥する。

 

「次、誰がやる?」

 

『やらなきゃ駄目なのか!?』

 

ここから先は別の意味で盛り上がり修羅場と化した。結局最後は一誠が五人を吹かして祝杯は何とか色々と傷を抱えてしまった者達を作りながら無事に幕を下ろした。祝杯兼夕食の後片付けを終えたら各自のプライベート時間。

 

「ねぇねぇA組の皆ー」

 

と呼び声を掛ける芦戸を筆頭に女子がA組男子に接触を計った。

 

「んぁ、なんだ芦戸?」

 

「あのね!今話しててね!提案なんだけど!折角兵藤も戻ってA組全員揃った事だし」

 

「お部屋披露大会しませんか!?」と芦戸が提案する言葉にソファで寛いでいた緑谷と常闇、峰田が顔に影を落とし無表情でゆっくりと振り向いた。

 

「俺は断わる。眠いからな」

 

当の本人の一誠がいの一番に賛成も参加もせず、するなら勝手にやってろと言わんばかりに一階フロアを後にしようとした。

 

「・・・一誠さん」

 

「?」

 

「お話しがございます。少々いいでしょうか」

 

八百万がその足を止め用件を言うと短く頷いて、背中でついて来いと伝える一誠は先に歩き出す。二人が赴くA組のフロアはB組の生徒の自室があるフロアと真逆の位置にありそれぞれ別々の場所にある。一階フロアは主に供用のリビングキッチンにトレーニングルーム・トイレ・洗濯・風呂があるように、二組の生徒の自室はトレーニングルームを中心に背中合わせしながら△の形を作り、別の方角に向いている二つのUの建物の中だ。右がA組、左がB組である。また、部屋は二階からなので上の階に上がる階段で自分の部屋に向うも、両組の部屋に繋がる円を描く一本道が設けられている。それによりどこから見てもUとAが重なってるように見える。

 

「最近になってようやく一誠さんも入居しましたがどうです?」

 

「うん?作った本人からすれば良い出来栄えじゃないか?」

 

さらっと自分が建築したと爆弾発言を零され、目を大きく見開く八百万の心情を見透かしてるのか口角を釣り上げる一誠。

 

「あのトレーニングルームがこの寮にもあった時点で気付かなかったか?」

 

「い、何時の間に・・・・・?」

 

「校長先生に頼まれてね。ヒーロー科限定でトレーニングルームがある寮を雄英の敷地内に増築する話を持ちかけられた時があった。でも、あそこまで大規模なトレーニングルームを作る側は大変だから三つだけにしてもらった。ま、そのおかげで同じヒーロー科のクラスも一緒に励み、切磋琢磨できる環境が出来上がって校長先生は満足していたよ」

 

話している内に一誠の部屋に辿り着く。立ち入り禁止のテープと札を取り払って、我が物顔で解錠したドアを開け中に入る部屋の住民の後に続く八百万は目を疑った。

 

―――部屋の中に花を咲かせている巨大な桜の木があった。

 

もはや、この部屋は部屋とは呼べない。自分はどこか別の場所に、世界に来てしまったのかと疑ってしまった。その反応すら待っていたかのように笑みを絶やさない一誠は先に桜の木に続く階段を上がっていく。

 

「い、一誠さんっ。ここが貴方の部屋なのですか!?」

 

「おう、ただの部屋じゃ面白味ないからな。魔法的なリフォームをしてみた」

 

相澤が見れば、他の奴らと同じ部屋のレベルにしろと呆れ果てるだろう。それ程までに一誠の部屋は他の部屋と逸脱しすぎているのだ。放心する八百万も先に行き遠ざかる一誠の背を慌ててついて行き、天蓋付きのベッドもとい桜花の天蓋部屋に足を踏み入れた。花を咲かせる野太く数多の枝に囲まれながらもフローリングの様な木肌の床、電気製品と家具、別途の木製の風呂など生活する為の全てが揃っている。

 

「・・・・・」

 

言葉も出ないと桜散る空間の真ん中に立つ一誠は顔を上げた。散る桜の花は最後まで落ちる事も無く文字通り桜色の光となって儚く散る。幻想的でどこか寂しいこの部屋はどんな思いで作られたのか、作ったのか一誠は・・・と瞳をジッと向ける八百万は声を掛けられる。

 

「入らないのか?」

 

ずっと階段に繋がる場所に佇んでいる少女はようやく桜散る空間に足を踏み入れた。そうだ、自分はあの話をする為に・・・目的を再認識し八百万は一誠の傍に近づく。

 

「さて、話ってなんだ?」

 

小さな円卓を挟む椅子に腰を共に下ろし用件を聞き出す一誠は、押し黙る少女を催促もせずジッと視線を送り続け待った。そうしてしばらく続いた状態はようやく八百万の口開いたことで終わる。言いたかった事を口にしようと八百万の気持ちが言葉として伝える。

 

「一誠さん。好きです私と付き合って下さい」

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