俺のヒーローアカデミア   作:ダーク・シリウス

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ビッグ3

翌日―――長期夏季休暇を終え始業式が始まる。

 

「やあ!みんな大好き小型はほ乳類の校長さ!」

 

相も変わらない姿と顔に傷跡、つぶらな瞳を晒す校長。

 

「最近は私自慢の毛質が低下しちゃってねケアにも一苦労なのさ。これは人間にも言えることさ。亜鉛・ビタミン群を多く摂れる食事バランスにしてはいるもののやはり一番重要なのは睡眠だね。生活習慣の乱れが最も家に悪いのさ。皆も毛並みに気を遣う際は睡眠を大事にするといいさ」

 

(ものすごくどうでもよくてありえないほど長え byでんき)

 

目の前に揺れる尾白の尾の毛並みに触れる上鳴に困り果てる尾白。

 

生活習慣(ライフスタイル)が乱れたのは皆もご存じの通り。この夏休みで起きた〝事件〟に起因しているのさ」

 

整列している教師陣の中にトゥルーフォームのオールマイトの関係する話を切り出された。

 

「柱の喪失の予感。あの事件の影響は予想をゆっくりとでありながらも現れ始めている。これからも社会には大きな困難が待ち受けているだろう」

 

「特にヒーロー科、諸君にとっては顕著に表れる」と現ヒーロー科生徒に向けられた。

 

「2・3年生の多くが取りくんでいる〝校外活動(ヒーローインターン)〟もこれまで以上に危機意識を持って考える必要がある」

 

聞き慣れない単語に一年ヒーロー科の間に疑問符が浮かぶ。校外活動(ヒーローインターン)?職場体験の発展形みたいなものか?などと声を殺してクラスメート同士疑問をぶつけあった。

 

「暗い話はどうしたって空気が重くなるね。大人達は今、その思う空気をどうにかしようと頑張っているんだ。君たちには是非ともその頑張りを受け継ぎ発展させられる人材となってほしい」

 

自分の眼前に立つ若き生徒達に明言を発する。

 

「経営科も普通科もサポート科もヒーロー科も皆、社会の後継者であることを忘れないでくれたまえ」

 

根津の発言から直ぐ生活指導猟犬ヒーロー『ハウンドドック』の注意事項の話だったが、口に拘束具をつけて吠えながら人語を発する内容が聞き取れず、ブラドキングが変わりに翻訳してくれた。

 

 

一年A組

 

「じゃあまァ・・・今日からまた通常通り授業を続けていく。かつてない程に色々あったがうまく切り換えて、学生の本分を全うするように。今日は座学のみだが、後期はより厳しい訓練になっていくからな」

 

全校集会が終わってすぐ教室に戻り壇上の前に立つ相澤の話をしている他所にヒソ・・・と蛙吹に話しかける芦戸

 

「話ないねぇ・・・」

 

当然、教師の話の最中に許可していない会話を許す筈もなく睨みをきかす相澤。

 

「何だ芦戸?」

 

静かな教師の威圧にゾワッとする芦戸。

 

「ヒッ!久々の感覚!」

 

挙手する蛙吹。

 

「ごめんなさい、いいかしら先生。さっき始業式でお話に出てた 〝ヒーローインターン〟ってどういうものか聞かせてもらえないかしら」

 

「そういや校長が何か言ってたな」

 

「俺も気になっていた」

 

「先輩方の多くが取り組んでらっしゃるとか・・・」

 

砂藤、常闇、八百万も同感と根津から聞いた聞いたことのない単語の内容の説明を求めた。相澤はやはり聞いてきたかと感じで口開く。

 

「それについては後日やるつもりだったが・・・そうだな 先に言っておく方が合理的か・・・平たく言うと 〝校外でのヒーロー活動〟、以前行ったプロヒーローの元での職場体験・・・その本格版だ」

 

「はあ~そんな制度あるのか・・・」

 

ポクポクポクポク・・・チーン!

 

約五秒間の間に頭の中で整理したが、職場体験の本格版だと言うならば―――と立ち上がる麗日。

 

「体育祭の頑張りは何だったんですか!?」

 

「確かに・・・!インターンがあるなら体育祭でスカウトを頂かなくとも道が拓けるか」

 

飯田の脳裏に浮かぶその時の相澤の言葉を鮮明に思い出す。

 

〝年に1回・・・計3回だけのチャンス、ヒーロー志すなら絶対外せないイベントだ〟

 

「まー落ちつけよ、麗らかじゃねえぞ」

 

「しかしぃ!」

 

砂藤が諭す。でも納得できないと相澤に説明を求める視線をぶつけるお茶子。

 

校外活動(ヒーローインターン)は体育祭で得たスカウトをコネクションとして使うんだ。これは授業の一環ではなく、生徒の任意で行う活動だ むしろ体育祭で指名を頂けなかった者は活動自体難しいんだよ。元々は各事務所が募集する形だったが、雄英生徒引き入れの為にイザコザが多発し、このような形になったそうだ。わかったら座れ」

 

頭を下げる麗日。

 

「早とちりしてすみませんでした・・・」

 

分かったなら良しと相澤は全員に向けて言う。

 

「仮免を取得したことで、より本格的・長期的に活動へ加担できる。ただ1年生での仮免取得はあまり例がないこと、ヴィランの活性化も相まって お前らの参加は慎重に考えてるのが現状だ。まァ体験談なども含め、後日ちゃんとした説明と今後の方針を話す。こっちも都合があるんでな。じゃ・・・待たせて悪かった、マイク」

 

入ってくるマイクは何時も以上ハイ・テンションだった。

 

「一限は・・・英語だー!!すなわち俺の時間!!久々登場、俺の壇場 待ったかブラザーズ!!今日は詰めていくぜー!!アガってけー!!イエアア!!」

 

『はーい』

 

対して生徒一同はノーマルな返事だった。

 

 

そしてあっという間に夜―――。

 

男湯の浴場の中、隣で背中や頭を洗う切島と鉄哲の話し合い。

 

「B組もインターンの話、聞いたか?」

 

「おうよ。だけど、スカウトされてない生徒が体験できるかはかなり難しいってブラド先生に言われたぜ」

 

「んじゃあ、俺が体験できたらよ・・・紹介、してやろうか?」

 

「切島、お前ぇってやつは・・・・・っ!(泣き)」

 

男の熱い友情が更に深まり芽生えた他所にこっちでは。桜の木の部屋でティータイム中の一誠とお茶子達花の五人衆。

 

「本格版なら、普段ヒーローがしている事を実際に体験するんだろうなやっぱり」

 

「きっとそうかもしれませんわ。一誠さんはどこの事務所で体験したいですか?」

 

「ま、校長先生が言ってた通り。インターン活動を今も体験しているヒーロー科の先輩方に頼む方が一番近道かもな」

 

「ヒーロー科の上級生・・・」

 

「どんな人達なのでしょうね」

 

未だ出会ったことのない雄英ヒーロー科の上級生。どんな〝個性〟持ちなのかも興味がある。

 

「その三人の中で竜になれる〝個性〟の人がいたらいいなー」

 

「いたらどうする?」

 

「蹂躙する」

 

「女の人でも?」

 

「蹂躙する」

 

ドラゴンとして負けられないと好戦的な笑みを浮かべる。気持ちは分からなくないが、手加減しようねと思わずにはいられなかった。

 

「それにしても一誠君の部屋は凄いねー。桜の木を部屋にしちゃうなんて」

 

「因みに風呂はこの下、木の中の空間だ」

 

「何でそんなところに・・・・」

 

と思うが風呂場を設けれる場所はこの場に無いことに察した耳朗の目の前で光の花びらが散り、一瞬だけ目を奪われた。

 

「ねぇ、一誠さんみたいな部屋、私の部屋でもできる?」

 

「できるぞ?部屋の拡張や高級ホテル並みの施設、遊泳する魚を観覧できる部屋まで」

 

「それは凄いですわ。もう少しだけ部屋の広さが欲しかったところでした。お願いできます?」

 

「どんだけ部屋に私物を持ちこんだんだこのお嬢様?」

 

後日、一部の生徒の部屋の異常性を気付いた生徒達が原因たる一誠に追求、自分達も!と求められて部屋の大改造をすることになってしまったのは余談である。

 

「・・・・・」

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

話をしていると不意に会話は途切れ一時の沈黙が生じる。誰が会話を切りだすか、どんな話題の話を持ち出すかは自分次第と相手次第。

 

「ん、話しておくか」

 

意味深に切り出す一誠が口を開く。何を聞かされるのだろうかと耳を傾けていた時に語られる衝撃的な告白。

 

「俺は百から告白された」

 

「「「「っ!」」」」

 

「・・・・・」

 

「そして、受け入れた。百の心意気を組んだ上でな」

 

何時の間に―――否、あの時、八百万が話しかけてそれから二人ともいなくなった時に告白をされたのだろう。八百万を除くお茶子達は目を丸くしお驚きの色を隠せなかった。

 

「八百万さん・・・したんだ告白」

 

「ええ、自分の気持ちに嘘はつけませんわ。正直こそがヒーローに繋がります」

 

「え、そう言う精神で告白を・・・・・?」

 

それが八百万百という少女。公私混合でも間違いを囚われず物事を運ぶ決意を胸に秘めて誓ったのだがそれだけではなかった。

 

 

『いいのか?こんな俺でさ。元の世界に戻ればお前は一番じゃなくなるぞ』

 

『例え違う世界に戻られても、私はあの時から秘めていた想いを自分の気持にも偽りたくありません。私は一誠さんの事が心から好きなのです』

 

『(あの時から・・・・・?)』

 

『一誠さん。多くの女性を囲っていても私はその女性達の中でのトップも掴み取ってみせますわ』

 

『・・・・・くっ、はははっ。トップか?それは何とも無理難題な目標を・・・・・』

 

『無理難題でもやってみないとわかりませんわよ』

 

『ふふふっ、そうか・・・ああ、思いもしないだろうな。ライバル視されるなんてな・・・』

 

『・・・?』

 

『いや、こっちの話だ・・・・・百、俺でよければその告白。こんな俺でもいいなら喜んで受け入れる』

 

『一誠さん・・・・・嬉しいですわ』

 

『・・・俺もだ。ぶっちゃけ否定されてもおかしくない秘密を抱えて込んでいるんだからよ』

 

『否定なんてできませんわ・・・何度も私を救って・・・今の私がいるのはあなたのお陰なのですから。貴方は私のたった一人の・・・・・ヒーローです』

 

 

「まぁ、口で精神論を語っても中身はこんな甘い感じでした」

 

「い、一誠さんっ!」

 

告白のシーンを立体映像の魔方陣で投影し、その時の映像を「うわー」「甘い、甘いよ八百万さん」等と顔を赤くし、興味深々で見るお茶子達。そしてその映像を見せられる本人は堪ったものではなく赤面で叫んだ。

 

「そう言う事で、お茶子達の気持ちも今ここで聞かせてもらいたい」

 

「「えっ!?」」

 

「「・・・・・」」

 

いまここで告白大会をしろと!?羞恥で顔を真っ赤に絶句するお茶子と耳朗、覚悟を決めた顔の一佳と茨の反応がハッキリと違った。

 

「もうやることはやってしばらくは忙しくないこの瞬間しかない。それに今日までの時間で自分と気持ちを向き合い答えを出した筈だ」

 

できていないとは言わせない、と左目に力強い眼差しを向ける一誠に有無も言えないお茶子達は口を真一文字に閉ざす。自分の気持ちの整理・・・・・できていないと言えば嘘になる。でも、実際に口にするのがどれだけ恥ずかしい事か理解してほしいとは思わなくない。

 

「・・・・・それとも二人きりの方が言いやすいか?」

 

「「うっ、それは・・・・・」」

 

「「私はそっちの方がいいです」」

 

口ごもる二人にハッキリと申す二人の意見すら分かれ、八百万にも意見を求めると自分なりのタイミングが必要だとのことでお茶子と耳朗は次回、一佳と茨が一誠に告白することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・一緒に寝る為にまた戻って来たのか?」

 

「はい・・・・・」

 

寝間着姿の八百万と今晩ともに夜を過ごすことになった。八百万に伸ばす手は華奢な手に添えられベッドの中へ。桜の天蓋を見つめることもなく少女は上半身を起こして本に何かを書いている一誠に目を向けている。熱く、潤った目で特別な関係を結んだ相手と夜を過ごすのは初めてではないが、関係が変わると気持ちも変わるものだ。髪を下ろし、ロングストレートの髪の八百万と一誠は間を空けて寝転がっていたが、その隙間は寂しさを覚え・・・。

 

「一誠さん、何を書いているんですか?」

 

一誠が何を書いているのか気になり話しかけると。

 

「ああ、日記だ」

 

「・・・・・日記?」

 

どうして日記など、と思うが一誠は小さく笑いながら書く手を止めない。

 

「人は自分や他者にとって後世まで残しておきたいことがある。それは怒気哀楽にまつわる出来事や衝撃の出来事など様々な体験や経験、全てだ。この世界の偉人だって名や功績が現在でも記録に残されているように俺も記録したいんだ。始めて異世界という別の世界に来て、その世界は一体どんな世界なのかできるだけわかる範囲で書き留めておく」

 

「・・・・・」

 

それはもしかしてこの世界に来てから一誠はずっと日記に書き続けているのでは?自分がこの世界に存在していた証を記録する為に。

 

「私達の事も書いてありますの?」

 

「当然だ」

 

変なこと書かれていないだろうか。書かれてなければいいのだが・・・・・と、不意にある疑問が浮かんだ。まさか、と思いつつ確かめるべく質問した。

 

「私が一誠さんに告白したことも、書かれていますの?」

 

「・・・・・」

 

カリカリカリ・・・・・と書く音だけ返しては彼女の質問に対して沈黙する。それは是也と肯定しているようなものであり、今まさに動かしている筆は、告白の詳細を記している可能性が、大いにあった。

 

「一誠さんっ」

 

記憶的な想いでならそれなりに歳を取り、生まれた子供から「どうして結婚したの?」と聞かれた際、ちょっと照れくさくも懐かしみながら語るぐらいならともかく。ありのままを日記に書かれてしまうのは凄く恥ずかしい。かなり恥ずかしい。八百万は一誠に飛びかかった。

 

「それを貸してくださいっ。一部のページだけ燃やしますわっ!」

 

「だが断るっ」

 

記録したい思い出を彼女の手によって抹消されかねないと反抗する。必死に日記帳に手を伸ばす手は、嘲笑うかのように届く事は叶わない。

 

「変な事だけは書いてないからいいだろ」

 

「良くありませんっ。きっと自分でも気づけない恥ずかしい事を書かれているんでしょう」

 

「恥ずかしいと言うか、可愛い?」

 

「―――っ」

 

顔を真っ赤にして更に躍起になった。だが、あまりに激しくベッドの上で動くものだから皺くちゃな上掛け布団に足を取られ「きゃっ!」と短い悲鳴を上げながらベッドから落ちそうになった。が、素早く華奢な身体に腕を回す一誠が落下を防ぎ己の胸に抱き寄せた。必然的に二人の距離は限りなく縮まり、お互いの吐息が伝わるほど顔も迫った。いきなり目の視界いっぱい一誠の顔が映り込んで思わず心臓の鼓動が一際跳ね上がった。否、吐息だけじゃなく互いの心臓の音も聞こえるぐらい密着している。

 

「落ち着いたか?」

 

自分を収める胸、抱える腕から安心させる温もりが伝わる。お風呂に入ったせいか、甘くて心地の良い香りがする。これすらさっきまで昂っていた精神は落ち着いてしまう。視界に映る少年の目も反らせないでいる。オッドアイの双眸の左眼は力強い光を孕んでおり、温かな眼差しを向けてくる。逆に濡羽色の右目の瞳はドラゴンを召喚する者とは思えない程、どこまでも深く暗い闇、深淵で引きずり込まれそうになる一種の魅了があった。

 

「・・・・・っ」

 

声が出ない。もうこの目と身体に伝わる安心する気持ちいい温もりは八百万少女という心を浸透させ奪っている。自分を見つめる意志が強く慈愛が孕んだ目は心から好きなのだ。だから、もう日記を奪う考えは止めた。今はこの愛しい者と触れ合いたい。

 

「もういいのか?」

 

「・・・・・諦めたつもりじゃないですわ」

 

「そっか」

 

日記を落とし、八百万の腰や髪に触れ更に抱き寄せた。艶のある濡羽色の髪を撫でられる心地よさも覚え、一誠の首に腕を回す。

 

「・・・・・大好きですわ」

 

「知ってる、俺もだ」

 

熱い吐息を零す唇が開き、距離縮まる顔は目を瞑った時は静かに・・・そして深く重なる口付と共に止まった。それから程なくして二人は顔を離す。初めて口付を交わした八百万は自分の唇を触れて、今も尚も微かに残る熱を浸り実感する。これが恋人同士が行う愛の誓い・・・・・。

 

「百」

 

「あっ・・・」

 

もう一度、と今度は一誠からキスされても無抵抗に受け入れた。しかも最初にした触れる程度の優しいキスではなく八百万が体験したことのない深いキスをされた。知識として知っていたが実際にするのとは大きく違いがあった。しかし・・・・・。

 

(・・・・・頭が蕩け、身体の奥底から熱くなって・・・・・さっきの口付とは段違いですわっ)

 

いきなり入れるんでは無く、優しく怖がらせず徐々に口内へ侵入する舌に絡められる舌から未経験の甘美な快感が全身を襲う。口の端に唾液が零れ落ち、目が蕩けた頃は荒い呼吸をするほど二人の口を繋げる銀糸が繋がっていた。

 

「い、一誠、さん・・・・・」

 

「百・・・・・」

 

静かに跪き、ゆっくりと二人は横に倒れ布団の中に潜り込んでも再び卑猥な水音が聞こえるのであった。

 

 

―――仮免取得から三日経過。

 

「んじゃ、昨日教えたインターンを本格指摘に教えようか。心して聞くように」

 

『はい!』

 

「それじゃ、入っておいで」

 

相澤が扉に向かって言うと開きだす扉から入ってくるのは男子二人に女子一人。

 

「職場体験とどういう違いがあるのか直に経験している人間から話してもらう。多忙な中、都合を合わせてくれたんだ。現・雄英生の中でもトップに君臨する3年生3名・・・通称、ビッグ3の皆さんがな」

 

雄英生のビッグ3・・・!と教室の中はザワつく。

 

「あの人達が・・・・・的な人がいるとは聞いてたけど・・・!」

 

「めっちゃ綺麗な人もいる・・・・・そんな風には見えね・・・・・な?」

 

「昔の古いゲームキャラに出てきそうな顔だ」

 

どんなヒーローなのか謎と興味が湧くA組の心情を他所に相澤は進行する。

 

「じゃ手短に自己紹介よろしいか?まずは天喰から」

 

呼ばれた男子生徒は―――ギンと目力が強い一瞥をする。それだけでA組は迫力を感じ威圧感も伝わった。

 

―――が、天喰からすれば皆の頭部がジャガイモの様に見ていた。

 

「駄目だミリオ、波動さん・・・・・」

 

急に暗い面持ちとなり何かに怯え震え出す。

 

「ジャガイモだと思って臨んでも頭部以外は人間のままで以前人間にしか見えない。どうしたらいい、言葉が・・・・・出てこない」

 

「・・・え?」

 

「頭が真っ白だ・・・・・辛いっ」

 

くるっと踵返して、皆からの視線を逃れたいと黒板に向かって「帰りたい・・・っ!」と言いだす始末。ビッグ3の一人とは思えない・・・・・極度の人見知りに皆、唖然とする。

 

「雄英・・・・・ヒーロー科・・・・・トップの方ですよね?」

 

「あ、聞いて天喰君!そういうのノミの心臓って言うんだって!ね!人間なのにね!不思議!」

 

上鳴が述べた綺麗な女子生徒が言いだした。

 

「彼は『天喰環』。それで私は『波動ねじれ』。今日は〝校外活動(インターン)〟について皆さんに教えてほしいと頼まれて来ました」

 

そういうことだったのかと納得した矢先に彼女は。

 

「けどしかし、ねえねえところで君は何でマスクを?風邪?オシャレ?」

 

「これは昔に・・・・・」

 

「あら、あとあなた轟君だよね!?ね!?何でそんなところを火傷したの!?」

 

「・・・・・!?それは―――――・・・・・」

 

「芦戸さんはその角折れちゃったら生えてくる?動くの!?ね?峰田君のボールみたいなのは髪の毛?散髪はどうやるの!?蛙吹さんはアマガエル?ヒキガエルじゃないよね?どの子も皆気になるところばかり!不思議」

 

矢継ぎ早の質問をし始めたのだった。相手の答えを言わせる暇もなく自分が気になっている事を知りたがっているまるで子供のように。

 

「ねえねえ尾白君は尻尾で体を支えられる?ねえねえ答えて気になるの。あと異世界から来たっていう兵藤君!異世界はどんな世界なの?気になるの教えて?」

 

自己紹介をしてくれればそれだけでいいのに時間が無駄に進んでいくので。

 

「合理性に欠くね?」

 

絶望した感じでミリオという男子生徒に話しかけた相澤に、若干焦りながら言う。

 

「イレイザーヘッド!安心して下さい!大トリは俺なんだよね!」

 

と言うことで大トリの出番。

 

「前途―――!?」

 

突如、訳も分からず前途と聞かれても答え辛く場は静まり返る中。ポツリと波動に迫られながら言い返した。

 

「多難か・・・・・?」

 

「一人だけ正解ー!でもよォしツカミは大失敗だ!」

 

どこかオールマイトのように高笑うミリオの声は教室中に響く。

 

「・・・・・三人とも変だよな。ビッグ3という割には・・・・・なんかさ・・・・・」

 

「風格が感じられん」

 

困惑する後輩等の顔の表情を見て笑いを止めるミリオ。

 

「まァ何が何やらって顔してるよね。必修てわけでもない、校外活動(インターン)の説明に突如現れた三年生だ。そりゃわけもないよね。でも、一年から仮免取得・・・だよねフム。今年の一年生ってすごく・・・元気があるよね」

 

それは相澤の方針と一誠のスパルタの賜だとミリオは知りもしない。

 

「そうだねェ・・・何やらスベリ倒してしまったようだし・・・」

 

何やら思惑を醸し出す発言から直ぐ、元気良く提案した。

 

「君たちまとめて俺と戦ってみようよ!」

 

いきなりの提案に驚愕する。何を考えてそんなこと言い出すのだろうかと疑問を浮かべる一同は。

 

「俺達の〝経験〟をその身で経験した方が合理的でしょう!?どうでしょうねイレイザーヘッド!」

 

「・・・・・」

 

ミリオが提案するA組VSミリオの勝負を相澤は思惑はともかく、何か考えがあってのことだと思い。

 

「好きにしな」

 

許可してミリオと戦うことになった。―――場所を変えて勝負する場は体育館γ。全員体操着に着替えてもまだ当惑から抜け切れていない。

 

「あの・・・・・マジすか」

 

「マジだよね!」

 

瀬呂の問いにやる気満々で準備運動するミリオは離れた壁に頭をくっつけ、皆から背を向ける天喰からも言われる。

 

「ミリオ・・・止めた方がいい。形式的に〝こういう具合でとても有意義です〟と語るだけで十分だ。皆が皆、上昇志向に満ち満ちているわけじゃない。立ち直れなくなる子が出てはいけない」

 

意味ありげなその言葉は過去にそういう者が雄英にいたような感じを思わせる。

 

「あ、聞いて知ってる。昔挫折しちゃってヒーロー諦めちゃって問題起こしちゃった子がいたんだよ知ってた!?大変だよね遠形、ちゃんと考えないと辛いよこれは辛いよ~」

 

芦戸の角を弄って動くことが分かって疑問を解消した波動も天喰と似た事を言う。相澤が無言になっているのももしかすると・・・・・。

 

「ビッグ3の二人がそこまで言うほどの事か。んじゃ、油断せず勝負を臨むか」

 

「兵藤・・・・・?」

 

「倒し甲斐がありそうだ」

 

バキバキと指の関節や首の関節を鳴らし、不敵に言う一誠と同じ気持ちでいる爆豪も戦意に満ちた目でミリオを睥睨する。

 

「轟ー。お前も強制参加だかんな?爆豪()る気みたいだからボイコットは無しだぞ」

 

「・・・・・分かった」

 

全員参加という形で改めてミリオと対峙する。

 

「うん、元気ある一年生でいいよね!じゃあ、一番手は誰だ!?」

 

「俺からだ先輩よォ!」

 

開始宣言も行わないまま戦闘は爆豪が飛びかかったことで始まりを告げた。

 

「近接隊は一斉に囲んだろうぜ!よっしゃ先輩、そいじゃあご指導ぉーよろしくおねがいしまーっす!」

 

〝個性〟を発動して近距離、遠距離型と分かれて勝負を臨むクラスメートに一誠は静観する姿勢に入った。

 

「死ねぇっ!」

 

爆破攻撃を放つ爆豪。コスチューム無しでも実力は申し分ないほど強くなっている。爆発する炎を繰り出して躊躇なく攻撃した直前。ミリオの体操着が〝個性〟故にかハラリと落ちた。衣服全てだ。皆の前で全裸になってしまい女性陣は悲鳴を上げ、脱げた本人は急いでズボンを穿き直そうとする。

 

「今服が落ちたぞ!」

 

「ああ失礼。調整が難しくてね!」

 

だからといって爆豪は待つ律儀な男でもない。爆炎をモロに浴びて―――すり抜けたその後続く遠距離型の〝個性〟の攻撃。攻撃が止んだ後、そこにいる筈のミリオがいなくなっている事に飯田は叫ぶ。

 

「いないぞ!」

 

どこに行った!と周囲を見渡すも姿も影も無く。

 

「まずは遠距離持ちだよね!」

 

イヤホンジャックを伸ばしていた耳朗の真後ろの地面から飛び出してきた。―――全裸で!

 

「ワープした!すり抜けるだけじゃねえのか!?どんな強個性だよ!」

 

愕然とする切島の気持ちを天喰は否定する。

 

(ミリオの個性は決して羨まれるものじゃない。違う・・・ひがむべきはその技術だよ一年坊)

 

ほぼ一瞬で耳朗を始め数人がやられ。

 

(スカウトを経てあるヒーローの下でインターンに励みミリオは培った・・・!!)

 

「お前らいい機会だ。しっかりもんでもらえ。その人・・・遠形ミリオは俺の知る限り、兵藤を除けば最もNo.1に近い男だぞ。プロも含めてな」

 

半裸で一瞬で半数を瞬殺したミリオの〝個性〟と実力に緑谷達は驚愕した。

 

「一瞬で半数以上が・・・・・No.1に最も近い男・・・・・」

 

「上等だァ!テメーを倒せばその座は俺がもらえる話だろう!」

 

「あとは近接主体ばかりだよね」

 

圧倒的!ミリオに戦慄する緑谷達。

 

「何したのかさっぱりわかんねえ!すり抜けるだけでも強ェのに・・・ワープとか・・・!それってもう・・・・・無敵じゃないすか!」

 

「よせやい!」

 

切島の気持ちは分からなくない。

 

(無敵か・・・・・)

 

しかし、単純な思考で言った切島の言葉もまた否定する天喰。

 

(その一言で君等のレベルは推し量れる。例えば―――素人がプロの技術を見ても何が凄いのかすらわからぬように・・・ミリオがしてきた努力を感じ取れないのなら一矢報いることさえ―――)

 

「あだっ!?」

 

「え、氷?」

 

飛んできた方へ振り向けば、一誠が立っていた。何やら不機嫌そうな面持で溜息を吐いている。

 

「・・・・・〝個性〟は多種多彩で千差万別。強弱の〝個性〟があろうと無敵なんて絶対に存在しない。ワープとすり抜ける概念を無敵に変えるな。どっちも攻撃を避けるが前提の〝個性〟でしかない。直接攻撃しているんだ。避けている間、攻撃をする機会を狙っているだろうからカウンター狙いで挑め。緑谷、お前もそう感じてたはずだ違ったか?」

 

「ひょ、兵藤君・・・・・」

 

「オ、オオ・・・サンキュー兵藤」

 

ミリオの〝個性〟の対処方法を看破した一誠にミリオと天喰は共通の感想を抱いた。

 

「やってみなよ!」

 

緑谷達に走りだす姿勢のまま彼は目の前で地面に沈んだ。

 

「沈んだ!!」

 

次に地面から出てきた場所は、一誠の真後ろだった。が、奇襲攻撃は失敗に終わった。後ろに振り返ることも無い一誠の体がすり抜けたからだ。

 

「っ!?」

 

この瞬間、ミリオは一誠から直ぐに遠ざかって緑谷達へ奇襲を掛けた。

 

(今の感覚は・・・・・)

 

(今のは・・・・・)

 

ミリオと天喰は戦う相手が一瞬で一人になった一誠に対して・・・・・察した。

 

(((ミリオ)と同じ個性を持っているな))

 

敢えて一誠を残した理由は、厄介だからだ。同じ〝個性〟の能力を持っているなら対処方法も熟知している筈。そんな相手を真っ先に倒そうとすれば他の者達が攻撃仕掛けてくるに違いないからだ。よって集中的に戦えるよう緑谷達を腹パンして倒した。

 

「兵藤君。君も俺と同じ〝個性〟を持っているんだね?」

 

「『透過』だろう?」

 

隠すほどでもないとミリオの〝個性〟を指摘した。

 

「でも、俺の『透過』はそっちの『透過』とは異なっているようだな」

 

「へぇ、じゃあ異世界の『透過』を見せてもらえるかな?」

 

「驚かせてやるよ先輩」

 

その場で高く跳躍し、そのまま頭から地面に―――沈んだ光景を目の当たりにしたミリオ。自分とは違い全裸にならず服を着たまま沈んだ一誠は、彼の真後ろに現れた瞬間に鳩尾を狙った攻撃を食らった。

 

「当たんないな」

 

不敵な物言いを残して葉隠のように姿を消した。これも『透過』の能力の一つだと言わんばかりにまた姿を晒す。

 

「不思議だね。『透過』は透けるんじゃなかったっけ?」

 

「人体を『透過』する先輩の〝個性〟とは違って、こっちは『透過』の可能性を幅広く見出したのさ。例えば、目に『透過』の力を込めれば相手の隠し持っている物とか下着も見えることもできるぞ」

 

「したら犯罪だよ兵藤君」

 

「はは、そうだな。でもだ」

 

闇のオーラが一誠を覆いだす。何かする気だと警戒するミリオ。

 

「カウンター狙いで攻めろとは言ったが、カウンターしても拳以外の人体が瞬間的に『透過』されちゃ当たる筈もない。なら、玉砕覚悟で攻撃を食らう他ないかもしれないな」

 

肌と言う肌に黒い紋様の様な入れ墨が浮かび、両腕は黒く鋭い爪を生やす異形のそれと化して背中から紋様状の三対六枚の翼が生え、臀部辺りから竜の様な尾も生える。金色の目も黒く染まる。様変わりした後輩を目視しするミリオに一瞬で近づき、大振りで殴り掛かるが〝個性〟を発動している為に攻撃は当たらない。逆に腹部に打撃を与える魂胆のミリオの拳は容易く手応えのある感覚を覚えた。

 

「っ!」

 

だが、その感覚は腹部では無く異形の掌に防がれ捕まった感覚であった。自分はまんまと攻撃を誘い込まれたのだと知った時は、全身の力が急に入らなくなって―――地面に倒れた後だった。

 

「ご指導ありがとうございました」

 

『―――っ』

 

今、兵藤は何をした?一人除いて最もNo.1に近い男があっさり破れた様子を目の当たりにされ、天喰と波動は愕然と目を丸くする。

 

「兵藤、その姿は何の力を秘めている」

 

「うん、単純な話。奪う力だ」

 

「奪う?」

 

「相手の力を奪う。まぁ、この世界じゃあ相手の体力を奪うことしかできないけど、それだけでも十分脅威だろう?」

 

ミリオから体力を奪ったから倒れたという言外され。そういうことかと納得する相澤。

 

「俺に捕まるか、俺を触れた瞬間に体力は奪われる。だからこの先輩が攻撃を受けることで体力を奪えたわけ」

 

「そんな力があるにも拘らず。何で今まで使わなかった?」

 

「使うまでも無い以外なにもないさ」

 

元の姿に戻り、今度は天使化して淡い光を纏う全ての翼を今も倒れている敗者を包み込んだ。何をしているのか傍観するしかない一同の前で翼を解放し、自らの足で立つミリオに話しかける。

 

「体力を回復させてやった。動けるだろ?」

 

「ああ、すっかり元気になったよ。君はすごいなー。波動が何時も気になって君の話ばかりするだけ強い!完敗だ!」

 

「あ、ほら」と下半身が翼で隠れている全裸のミリオは、近づいて来ては翼を触り出す波動に指摘する。

 

「ねえねえ!異世界の力と私達の〝個性〟と何が違ってどう違うの?ねえねえ教えて気になるの。不思議」

 

「お、おお?」

 

近い、顔が近いと思うほど目を輝かせて顔を寄せてくる波動に質問攻めを受ける。


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