瀟洒な召し使い   作:グランド・オブ・ミル

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原作前、無印編・11

 

 

 

 

 

 

 

 

サイヤ人には階級が存在する。

 

まずは王族。これは現王のべジータ王と王子べジータの二人だけだ。サイヤ人の頂点に君臨する存在で、代々サイヤ人を治めてきた。下級戦士のように星に送り込まれたりせず、そのへんの星を勝手気ままに攻めて戦闘力を高めていく。

 

次にエリート戦士。サイヤ人は生まれるとすぐ戦士の素質を検査される。その検査の結果が良かった者がエリートだ。彼らは下級戦士のように星に派遣されるが、比較的レベルの高い星へと送り込まれる。

 

最後に下級戦士だ。王族、エリート以外は全員下級戦士となる。彼らは検査での結果が悪い、いわゆる「クズ」であり、レベルの低い星へ赤ん坊の頃に派遣される。そしてその星の生物を全滅させ、惑星べジータへと帰還。その後、自主的にトレーニングをし、厳しい試験に合格するとやっと戦士として働けるようになる。

 

一応戦闘力が上がれば昇格も可能であるが、下級戦士の戦闘力は2000を越えていればいいほうで、エリート戦士にはほとんど敵わない。さらに下級戦士となった者は親からも見放されることが多いため、生き物が育つ上で必要な「愛」をあまり受けずに育ってしまい、成長の伸びが悪いことも災いしている。

 

星の征服を終えた子供が帰って来ても、以前なら誰も出迎えることはなかった。

 

しかし、今は違う。今はちゃんと一仕事終えた彼らを出迎えてくれる人がいる。

 

「みんな、お帰り。」

 

惑星ビュートの征服を終え、惑星べジータに帰還したラディッツはボロボロの身体を動かし、その人物、咲夜へと飛び付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が「お帰り」と声をかけると任務を終えたサイヤ人の子供達が一斉に私に駆け寄ってくる。こうしてみるとそのほとんどが男の子であり、女の子は一人、二人しか見られない。私に一番に飛び付いてきたサイヤ人は長髪だが、この子はラディッツだ。女の子じゃない。

 

サイヤ人が少数民族であるのは、戦闘で早死にすること以外に女性が極端に少ないこともあげられる。資料によればサイヤ人の男女比は4:1であるらしい。

 

それはそれとして、私はサイヤ人の子供達が任務から帰ってくると、時間があるときはこうやってお出迎えをしている。これは結構大事なことで、頑張った後に「お帰り」と言ってくれる人がいるだけで大違いだ。それにこの子達はまだ子供だ。誰かから情を受けることが必要なのだ。

 

サイヤ人は私達ツフル人の敵だ。ツフル星を滅ぼし、それを我が物とした憎き相手だ。もちろん私も彼らを恨んでいる。早くフリーザが惑星べジータを消さないかなと毎晩寝る前に願う程だ。

 

でもツフル人を滅ぼしたのはべジータ王の世代であって、目の前で、無邪気かどうかはともかく笑うこの子達じゃない。

 

それを判断するくらいの冷静さはまだ残っている。そのおかげで私は何とか彼らの頭を優しく撫でることくらいはできる。

 

そうして20分くらい彼らを愛でて、彼らが立ち去った後、誰かが私に話しかけてきた。

 

「いつもご苦労なことだね。ありがとうよ。」

 

その人物は、髪は黒髪のショートカットであり、戦闘ジャケットの下にレオタード型のアンダースーツを着た女サイヤ人、セリパだった。戦闘終わりだからか、彼女の戦闘ジャケットは少し傷がついていて、アンダースーツにも破れが見られる。

 

セリパはドラゴンボールファンなら誰もが知っているだろうバーダックの仲間であり、原作には登場しないが作中で唯一名前が分かっている女性のサイヤ人だ。

 

私がこうやって子供達のお出迎えをしている時に偶然出くわしたのがきっかけで少し仲良くしてもらっている。

 

一応彼女も私達ツフル人を侵略したべジータ王の世代なのだが、彼女は丁度その時チームの主戦力であるバーダックとトーマが負傷中だったため、戦いに参加していなかった。

 

もっとも、もしあの時彼女が戦闘に参加していたら今のような関係は築けていないだろう。べジータ王同様、憎悪の的にしていたはずだ。

 

きっとここで銀河防衛隊の連中なら「憎しみは何も産まない」なんていうヘドが出る綺麗事を言うだろう。そんなことが言えるのは戦闘を知らない温室育ちのおぼっちゃまだけだ。世の中そんなに甘くない。

 

本当に憎しみが何も産まなければ戦争なんて起きやしない。

 

「それはそうとあんた、相変わらずだね。そのヒラヒラしたスカートだっけ?まだ着てんだ。私らみたいな戦闘ジャケットを着たらどうだい。」

 

セリパが私の服を指さしたので自分の服装を見てみる。原作の咲夜が着ているようなフリルがふんだんに使われたメイド服を着ていて、頭にはカチューシャ、腰には背中に大きなリボンがくるエプロンをしている。

 

「私は不死身ですから。そのようなジャケットで防御力を得る必要はありません。」

 

「そりゃそうだろうけどさ、動きにくくないのかい?」

 

「えぇ、むしろ無駄な締め付けがない分、こちらのほうが動きやすいかと。」

 

「ふ~ん、まあ、人の趣味にあまりとやかく言わないけどさ。」

 

セリパは頭をかきながらそう言った。さすがは戦闘民族サイヤ人。オシャレといった概念はあまりないらしい。

 

「あ、そうそうセリパ。近々フリーザ様が銀河防衛隊を消そうと計画しています。いつでも出撃できるよう準備しろとべジータ王に伝えて下さい。」

 

「おっ!そうかい!あの連中は昔からうるさかったからね。そりゃいい!分かった!伝えておくよ!」

 

「お願いします。」

 

セリパは私からの伝言に快く頷いてくれた。戦闘終わりだというのに拳を握りしめ、今からでも戦えそうだ。

 

「咲夜。」

 

と思ったら急に神妙な顔つきになった。そしてセリパは私に一歩近づいて真剣な顔で囁く。

 

「あんた、まだ王城の地下で寝てるのかい?」

 

「はい。」

 

「気をつけなよ。べジータ王はあんたを良く思ってない。どんなことをされるか……。」

 

「ご安心ください。どんなことをされても私は死にませんし、良く思ってないのは私も同じですから。」

 

セリパは私を心配してくれたらしい。そのことに少し嬉しくなって笑いながら安心を促すとセリパはフッと笑って私から離れた。

 

「ふふっ、それを聞いて安心したよ。じゃあな!」

 

そう言ってセリパは走り去った。私は彼女に手を振りながら考える。

 

いつになるか分からないがフリーザは原作通りなら惑星べジータとともにサイヤ人を滅ぼすだろう。サイヤ人が滅ぶのは大いに結構だが、その時にはセリパも殺されてしまう。それは嫌だ。だが、セリパは女性だ。純血なサイヤ人を滅ぼすためには確実に消さなければならない。

 

私がサイヤ人に抱く思いは複雑である。

 

 

 

 

 

 


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