瀟洒な召し使い   作:グランド・オブ・ミル

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原作前、無印編・13

 

 

 

 

 

私は今、惑星ジスへと向かう宇宙船に乗っている。いつものような丸型ではなく、フリーザの大型宇宙船を二回り程小さくしたような中型宇宙船だ。惑星ジスへは日数がかかる。人数も人数なので今回はこれで行くことになった。

 

「おい!咲夜!もっと料理追加だ!こんなんじゃ足りねぇぞ!!」

 

「はいはい、今行きますよ。」

 

宇宙船の中央辺りで仲間と宴会騒ぎをしているバーダックが私に叫ぶ。今回の惑星ジス侵略に抜擢されたサイヤ人はバーダックのチームだ。彼の他にもトーマ、パンプーキン、セリパなどアニメで見た彼らが勢揃いしている。

 

さて、ここで皆さんは疑問に思っているだろう。サイヤ人にやらせるはずの今回の任務になぜ私がついているのかと。それは………

 

「さくや!こっちにもさっさともってこい!」

 

バーダック達とは反対側で食べ物にがっつく子供、今年で四歳になるべジータぼっちゃまである。

 

「べジータ王子、食べ物は逃げませんからもう少しゆっくり召し上がって下さい。喉につまりますよ。」

 

「ふんっ!くだらんしんぱいはいらん!うっ…!!」

 

「ほら言わんこっちゃない。しっかりしてください。」

 

私はまだ小さいべジータを抱き上げ、顎を肩に乗せてポンポンと背中を叩く。父に似てなかなか生意気だが、まだまだ子供だ。

 

べジータ王が星へ帰り、メンバーの選別を行った際、真っ先にべジータが名乗りを上げたらしい。べジータは前述の通り四歳になったばかりで、まだ他星を攻めたことがなく、御付きのエリートサイヤ人としか戦ったことがないという。それでも戦闘力は5000を越えていたので流石王子と賞賛してしまった。

 

まあ、そういった理由もあり、初めてのおつかいならぬ初めての侵略ということでべジータ王子が直々に惑星ジスへ出向くことになった。しかし、いくら戦闘力が高いとはいえ、子供一人に今回の任務を任せるのは心配というフリーザの気遣いもあり、お世話役として私が、サポートとして私と仲が良いバーダック達がついて行くことになった。

 

私がいるのは明らかに過剰戦力だが、そこは仕方ない。現状フリーザ軍にわがままぼっちゃまのお世話役に適任の者が私しかいなかったのだ。ザーボンやドドリアはそういったことは苦手だし、ギニュー特戦隊など論外だ。そもそもみんな総じて家事が苦手である。

 

何気に私とべジータはこれが初対面だ。だから私はできるだけ媚びを売るように意識している。最初、べジータが私に敬語を使っていたので適当な理由をつけてやめてもらった。なんてったって相手はサイヤ人の王子だ。将来伝説の超サイヤ人に目覚め、フリーザをも超え、最終的に超サイヤ人4まで登り詰める男だ。できるだけ良い印象を抱かれたい。でないと私は殺されることはないだろうが、確実にサンドバッグにされるだろう。

 

そんな情けないことを思いながら私はべジータとバーダック達に食事を運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

べジータにとって咲夜は不可解な存在だった。

 

べジータとべジータ王はフリーザを良く思ってない。本来自分が座るべき宇宙の支配者のイスに圧倒的な実力で座るその存在は許せるものではなかった。他のサイヤ人は兵士として自分達に戦闘を提供してくれるフリーザに感謝するものまでいたが、この二人はフリーザに対して根っからの対抗心を持っていた。

 

しかし、べジータは父、べジータ王程浅はかではなかった。フリーザは自分が真っ向から歯向かっても敵う相手ではないことは重々承知していた。だからべジータは父のように対抗心を表に出したりせず、それを内面に押し殺して表面上は忠誠を誓っているように見せる。

 

そして、サイヤ人のエリート戦士と戦い、力を蓄えていく。今は無理でも自分はサイヤ人の王子で天才だ。こうやって鍛えていればいつかはフリーザに勝てるはずだ。

 

そんな時だった。今回の惑星ジス攻略の話をべジータ王が持ってきたのは。聞けばその星の平均戦闘力はかなり低い。はっきり言って肩慣らしにもならないだろう。しかし、今までは形式ばった試合ばかりで生死をかけた戦闘をしたこともないのも事実。デビュー戦にはちょうどいいと思ってべジータは今回の任務に立候補した。

 

その時自分の世話係として抜擢されたのが咲夜だった。父やエリートサイヤ人の咲夜を見る目は実に憎々しげであった。父もよく自分に言っていた。サイヤ人が滅ぼした下等民族であるはずなのに奴だけは殺せず、あまつさえ戦闘力もサイヤ人を超える無礼な奴だと。その話を聞いた時はべジータも咲夜は倒すべき敵の一人だと思った。

 

だが、彼女に会ってからその評価は一変した。不可解。その三文字しか思い浮かばなかった。

 

咲夜は出発の前日、わざわざ自分の部屋に挨拶に来た。他のサイヤ人もしない礼儀正しい行為だ。さらに、彼女は自分に対して「敬語は使わなくていい」と言った。ツフル人を滅ぼした憎むべきサイヤ人の自分に。何故かと問えば、

 

「私は王専用の召し使いマシンミュータントですから、他の民族の王族の方に対する礼儀はわきまえているつもりです。」

 

と答えた。咲夜はフリーザの専用召し使いという、見方によってはザーボンやドドリアよりも高い地位にいる。だから本来自分が下手にでなければいけない所を彼女は自ら下手にでた。それがべジータには分からなかった。

 

べジータにとって力とは振るうものであり、強い者は弱い者を従えるものだと認識している。なのに目の前の召し使いはそんなことはせず、強者でありながら平気で従えられ、自分は決して表には出ずにサポートに徹する。

 

サイヤ人の王子であるがゆえにべジータには咲夜の考えが分からなかった。彼は「長いものには巻かれろ」という言葉を知らない。自分自身が「長いもの」であることを信じて疑わないから。

 

「べジータ王子、お肉ばかりではなくて野菜も食べてくださいね。」

 

「けっ!よけいなおせわだ!」

 

咲夜に対して疑問を募らせながら、べジータはまだ小さく幼い口で咲夜の料理を食い漁った。

 

 

 

 


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