瀟洒な召し使い   作:グランド・オブ・ミル

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原作前、無印編・14

 

 

 

 

 

 

 

3日程宇宙船に揺られ、咲夜達は無事に惑星ジスへと到着した。途中バーダックとべジータの戦闘訓練で宇宙船が壊れかけ、咲夜とセリパがこっぴどく叱るというハプニングもあったがまあいいだろう。

 

咲夜達を乗せた宇宙船はゆっくりと着陸する。流石はフリーザのものと同型の宇宙船だけあって丸型宇宙船のように乱暴に着陸したりはしない。

 

「ここが惑星ジスか…。なるほど、確かに良好な星だな。」

 

「あぁ、欠点をあげるとすりゃあでかすぎることぐらいか。」

 

宇宙船から一足先に出たバーダックとトーマが惑星ジスを品定めする。多くの星を侵略してきた二人から見ても惑星ジスは良い星のようだ。

 

「ではもう一度確認します。今私達がいるのはこの星のちょうど真ん中、べジータ王子と私は銀河防衛隊の本拠地のある北半球を、バーダック達は南半球を担当してください。」

 

「あぁ、分かってるよ。この星には月がないから大猿にはなれないね。侵略完了までに3日はかかっちまうか。」

 

「あまり時間がかかるようでしたら私も手伝いますので、いつも通り気楽にやってください。」

 

「よし!何かあったらスカウターで連絡だな!行くぞお前ら!!」

 

拳と拳を突き合わせ、気合いを入れたバーダックの掛け声で、バーダックチームの5人はその場から飛び去っていった。

 

「さくや!おれたちもいくぞ!ぐずぐずするな!」

 

「はい。行きましょうか。」

 

べジータに急かされ、まもなく咲夜達も出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

惑星ジスはとても大きな星で、なおかつ自称フリーザ軍よりも強力な正義の軍隊銀河防衛隊の本拠地があることから人口がとても多く、文化もそれなりに発達している。文化が発達しているということは食文化も発展していうということだ。特に惑星ジスには異星から移民してきた民族も多いので、様々な星の食文化が取り入れられている。

 

何が言いたいかと言えば、べジータがその食文化に興味を持ち、破壊行為をする前に腹ごしらえしていた。大漁に買い占めた食べ物を咲夜に持たせ、商店街のような通りのベンチに腰掛けて貪るように食べるべジータと隣に座る咲夜は、はたから見れば大食いでグルメな観光客にしか見えない。

 

「はぁ…、宇宙船の食料をあれだけ食べてまだ食べるんですか。」

 

「がつがつ!ごくっ…!くえるときにくえるだけくってたたかう!それがさいやじんだ!」

 

「はいはい…。」

 

巨大なトカゲの丸焼きを食べ終わったべジータの自信満々の言葉に咲夜は適当に相槌を打ち、今度は黄色い焼きそばのような食べ物をべジータへ手渡す。

 

吸い込むように食べ始めたべジータを尻目に、咲夜は惑星ジスの住民を観察する。サイヤ人や地球人と大差ない人間型の宇宙人もいれば、犬や猫が人へ進化したような宇宙人、さらには虫が二本足で歩いているような宇宙人もいて、誰もが種族の違いなど気にしないように生活している。ゴキブリ型の宇宙人に人間の女の子が抱きつく光景を見て咲夜はゾクッと寒気を感じた。

 

種族など関係なく生きる理想郷がそこには広がっていた。しかし、咲夜はその理想郷をこれから破壊しなくてはならない。

 

それについて罪悪感がないわけではない。だが、この星を滅ぼすことで恩恵を得る星はかなりある。銀河防衛隊のせいでスムーズに仕事ができずに足踏みをしているのはフリーザ軍だけではないのだ。何より、咲夜自身が生きるためにはやるしかない。

 

本当は咲夜もできることなら殺生はしたくないが、そうも言ってられないのも現実。理想だけでは生きていけないのだ。

 

「せんとうりょく219…314…412…ふんっ!くずが!」

 

不意に咲夜は横からべジータの不機嫌そうな呟きを聞き取った。見ればべジータがスカウターで街の見回りをしている銀河防衛隊隊員の戦闘力を計測し、その結果に苛立っている。

 

べジータが苛立つのも無理はない。そもそもすぐ近くに敵対勢力の咲夜達がいるのに気づかないのも問題だ。戦闘力だけでなく、危機察知能力も低いらしい。

 

まあ、銀河防衛隊がそうなのも仕方ないのかもしれない。かの徳川家康が言ったように、人は人数が集まるとその「数」に甘えてしまい、個々の戦力、戦術が疎かになってしまう。人数がやたらと多い銀河防衛隊にありがちな罠だ。数は確かに強力な武器だが、そういった可能性も孕んでいる諸刃の剣なのだ。

 

「べジータ王子、あまりスカウターの数値を信用しないで下さい。その数値はただの目安でしかありません。」

 

「おれにさしずするな!いくぞ!」

 

べジータは咲夜の注意を気にもとめず、食べ終わった料理のパックをその場にポイ捨てして飛び去る。

 

「まったくもう…。」

 

咲夜はそのパックを拾い、べジータを追うように飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく来てくれましたね。歓迎しますよ。」

 

咲夜達が銀河防衛隊の本拠地に着くと、何故か手厚い歓迎を受けていた。恐らく幹部であろう俗にいうイケメンの男が咲夜達へ無防備に近づき、咲夜の手をとって握手をする。ここでも銀河防衛隊の慢心が表れている。敵を歓迎するバカがどこにいるというのか。その態度にべジータはもはや不機嫌を隠そうとせず、咲夜も表面上は営業スマイルを浮かべているが内心では呆れ返っていた。フリーザが相手にしたくなかった理由がよく分かる。

 

余裕そうに基地を紹介する男に殴りかかろうとするべジータを咲夜は制止し、このまま奥まで連れていってもらおうと提案する。どんな組織も指示を出す中心がやられてしまえば統率がとれなくなり、たちまち崩壊する。銀河防衛隊の相手をするのが面倒くさくなった咲夜はそれを狙って手っ取り早く終わらせようと言うのだ。そんな咲夜の気持ちが分かったのか、べジータも素直に了承する。

 

こうして咲夜とべジータは男に色々と基地を紹介された。面倒を省くために付き合うつもりだった二人だが、銀河防衛隊の施設や技術自体には目を見張るものがあった。特に食堂の施設は咲夜も思わず賞賛していまい、帰還したら早速フリーザにねだってみるつもりでいた。

 

「さて、ところで今回はどういった御用件でしょうか?」

 

一通り基地を紹介させた所で男が咲夜達に問いかけた。もう頃合いかと判断した二人は戦闘態勢に入る。

 

「毎年あなた方からはこのような素敵なお手紙をいただいておりますので今回は……」

 

咲夜は懐から銀河防衛隊からの文句がつらつらと書かれた書類を取りだしヒラヒラと振る。そしてそれを気で燃やし、消し炭にし、凍てつくような笑みでこう言った。

 

「そのお礼をと思いまして。」

 

それを聞いた男がフッと笑い、パチンッと指を鳴らすと大勢の武器を構えた兵士が現れ、咲夜とべジータを囲む。

 

「愚かな…。たった二人だけで我々と戦うおつもりで?」

 

「ふたりじゃねぇ!おれひとりでじゅうぶんだ!」

 

そう言ってべジータは目の前の兵士に蹴りかかる。相手は子供と油断していた兵士だが、べジータのほうが戦闘力は上。あっさりと蹴り飛ばされ、壁に激突してグチャッと潰れ、息絶えてしまった。

 

「………え?」

 

「流石は王子。見事な蹴りでしたよ。」

 

「ふっ、とうぜんだ。」

 

男は呆けたような顔になり、咲夜はべジータを誉めてべジータは得意そうな顔をする。ようやく二人の実力に気づき、全力で襲ってくる銀河防衛隊の面々だがすべては遅すぎた。べジータ一人で淡々と片付けてしまう。男が仲間を呼んだのか大勢の兵士が部屋に押し掛け、基地中の兵士VSべジータという戦いになったが、それでもべジータの優位は変わらなかった。途中男も参戦していたが結果は同じ。兵士達はべジータに殴られ、蹴られ、エネルギー波で消し炭にされていた。

 

べジータには敵わないと判断した何人かの兵士が咲夜にも襲いかかってきたがそれは愚策である。咲夜のほうがべジータより戦闘力が高いため、当然ながら返り討ちにあっていた。

 

「おっ…おのれっ……!!」

 

べジータにやられ、イケメンな顔がボコボコの血まみれになった男は緑色のやけに長い日本刀のような武器を取り出した。みるからに禍々しい、ドス黒い気を放っている。それを見て咲夜は警戒を強める。

 

「ふはははっ!!これで貴様らは終わりだ!!」

 

「けっ!なんのつもりかしらんがぶっころしてやる!」

 

男が刀を構えてもべジータは臆することなく突っ込んでいく。咲夜はそれを見て嫌な予感を感じた。戦闘力はべジータのほうが上であり、間違いなくべジータが勝てるのだが、何となく妙な感覚がしたのだ。

 

「死ねぇぇぇぇぇ!!!」

 

「!!王子!!」

 

男が刀をべジータに降り下ろした瞬間、咲夜はその場から飛び出し、べジータを突き飛ばした。

 

「がっ!」

 

突き飛ばされたべジータは床に強く叩きつけられるが、何とか着地する。

 

「さくや!きさまなにを……なにっ!?」

 

起き上がって咲夜へ怒鳴るべジータだが、目に飛び込んできた光景に驚愕の声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…がはっ…………」

 

咲夜が緑の刀で胸を貫かれていた。

 

 

 

 


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