瀟洒な召し使い   作:グランド・オブ・ミル

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原作前、無印編・15

 

 

 

 

 

「ちっ!邪魔だ!どけっ!!」

 

ドカッ!

 

「がふっ……!」

 

「ぐあっ!」

 

男は咲夜に刺さった緑の刀を引き抜くために咲夜の体を蹴り飛ばした。ちょうど蹴り飛ばした方向にいたべジータは巻き込まれ、咲夜とともに壁に叩きつけられる。

 

「どけっ!きさま!なにをしやがった!」

 

べジータは咲夜を突き飛ばして起き上がると男に叫ぶ。男は何か妙なことをしたのだろう。でなければ自分より戦闘力が高い咲夜があんな簡単にやられるわけがない。

 

「くくくっ!これぞ我が銀河防衛隊の秘宝、宝剣"デッド・ブラッド"だ!この剣から発せられる気はあらゆる物質を腐敗させ!いとも簡単にどんな物も叩き斬ることができるのだ!」

 

「なにっ!?」

 

額に冷や汗をかくべジータがその剣、宝剣"デッド・ブラッド"を見れば確かに真っ黒な、見ているだけで吐き気がする気を纏っている。

 

「それだけではないぞ!!この剣から発する気はわずかな空気の流れまで感知し、相手の動きを読む!!いくら貴様らが強くても!動きを読んでしまえばどうということはない!!死ねぇぇ!!!」

 

「くそっ!!」

 

襲いかかってくる男の剣をべジータは必死に防御するが、剣に触れるたびにダメージを受けるのは自分であり、なおかつ動きまで読まれてはさすがのべジータも防戦一方になってしまう。

 

「ちっ!くらえ!!」

 

これでは埒が明かないと判断したべジータは一旦間合いを取り、エネルギー波を撃つ。しかし……

 

「はあ!!」

 

ガキンッ!!

 

「なっ!なにっ!?」

 

それすらも男は剣ではじいてしまった。本来べジータより戦闘力が低いはずの男がこんな芸当ができるのは、べジータは知る由もないがこれも剣の効果であった。

 

宝剣"デッド・ブラッド"が使用者に与える力は腐敗属性と予測能力だけではない。暗黒の気は使用者本人の肉体にも作用し、戦闘力を倍以上へと跳ね上げる。つまり、意図的に火事場の馬鹿力を出すという暴挙に出るのだ。こんな無茶をすれば後々後遺症として残るのは確実だが、そのおかげで戦闘力が1000程度の名もない男はべジータと対等に戦うことができている。

 

「ぐはっ!!」

 

やがて腐敗によるダメージが限界に達したべジータは再び吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

 

「終わりだ……。正義の名のもとに死ぬがいいっ!!」

 

男はヒタヒタとべジータに歩み寄り、やがて顔を狂気に染めてべジータへと斬りかかる。両手が腐りかけ、もはや防御もできないべジータは思わず目をつむる。

 

(ここでおわりか……。ちっ!なさけねぇしにかただ!)

 

べジータは自分の不甲斐さに悪態をつき、死を待った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、いつまで待ってもその時が訪れない。不思議に思って目を開けてみると……

 

「な……なんだとっ……!!」

 

「…それ以上王子に近づかないでいただきたい。」

 

咲夜が男の剣を右の人差し指と親指でつまんで止めていた。その行為に男は驚愕の表情を浮かべている。やがて男は咲夜から間合いを取るように後ろへ飛ぶ。

 

「バカな…!!貴様は俺に心臓を貫かれ死んだはずだ!!」

 

「そうですか……」

 

宝剣"デッド・ブラッド"の反動もあり、冷や汗をダラダラと滝のように流す男に対して咲夜はメイド服の破れた部分を開いて見せる。胸を開いたことで下着が見え、官能的だがこの場にそれを気にする者はいなかった。

 

「私は貫かれた記憶はありませんけどね。」

 

無傷の胸を見せ、小首を傾げ、ニヤリと笑ってみせる咲夜に男は確かな恐怖を感じた。

 

「うわあぁぁぁぁぁ!!!」

 

その恐怖を誤魔化すように男は大声をあげながら咲夜へと斬りかかる。それに対して、咲夜は右足を少し下げ、左手を右腰の辺りに引いて構えを取った。そして男の剣が自分に届くのに合わせてその左腕を軽く振り、こう呟いた。

 

「全反撃(フルカウンター)」

 

すると咲夜へ向かうはずだった暗黒の気はすべて男の元へと跳ね返った。しかもその気は男を全身をみるみる腐敗させていき、明らかに威力は上がっている。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

男は吹き飛ばされ、剣を手放した状態で床に這いつくばる。剣を手放したことで強化状態が解け、その反動で体中に激痛が走り、腐敗も相まって動くことができない。

 

しかし、目の前の敵は容赦しない。咲夜は気品を感じさせる歩みで男へゆっくり歩み寄り、やがて右手に気を溜め始めた。

 

「まっ…まてっ!!私を殺せばこの宇宙に正義はなくなってしまうぞ!!いいのか!?それでも!?」

 

「構いませんよ。少なくとも私の道にあなた方の正義は必要ありませんから。では、ごきげんよう。」

 

ズボッ!!

 

男の命乞いを気にもとめず、咲夜は冷酷にエネルギー波を放ち、男をこの世から消滅させた。咲夜には剣で貫かれた時のメイド服の破れ以外目立った傷が見当たらない。まさに強者の出で立ちだった。

 

それを見てべジータは歯軋りする。

 

何だこれは?

 

強者は自分ではないのか?

 

咲夜こそ真の強者ではないのか?

 

それに比べ自分はどうだ?

 

なんと情けない!

 

格下のツフル人に命を助けられ、あまつさえ自分の獲物もツフル人に取られ、自分はそれを指をくわえて見ているだと!?

 

ふざけるな!

 

こんなものではない!自分はべジータだ!サイヤ人の王子だ!まだまだ強くなれる!いつかあいつを超えてやる!!

 

「大丈夫ですか?王子。」

 

「よけいなまねするな!さっさとこのほしをせいふくするぞ!」

 

べジータは差し出された咲夜の手を払いのけ、自分を奮い立たせた。自分が最強になってやると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"時間"とはすなわち"流れ"である。例えるなら川の水が上流から下流へ流れるように、時間も過去から未来へと流れている。

 

「時間を操る程度の能力」はその時間の流れを操る力だ。ある時はダムのように時間をせき止め、ある時は流れを逆流させ、ある時は流れを速くする。

 

この理論でいけば、まあ無理矢理だが私の能力は「流れを操る程度の能力」と解釈することができる。無理矢理解釈した分エネルギーの消耗は激しいが、できることの幅は広がる。

 

例えば私がさっき男に対してやった某騎士団の某団長の技「全反撃(フルカウンター)」。あれはサイヤ人に攻め込まれた時、ツフル王を大猿サイヤ人の気功波から守る際に偶然生まれた技だ。放出された"気"の流れを操り、逆流させ、さらに流れを速くすることで完成する技である。

 

一見強力なこの技だが、実は私はあまりこの技を多用したくない。ていうか使いたくない。

 

なぜかというとこの技、タイミングが恐ろしい程シビアなのだ。少しでもタイミングを誤れば無防備のまま私の身体は気功波に包まれることになる。なおかつ、前述の通り無理矢理能力を解釈した分、エネルギーの消耗が激しいのだ。

 

フリーザ軍でサイバイマン達に手伝ってもらって何とか成功確率を6割程度まであげることはできたが、それでも恐いものは恐い。不死身の私は死ぬことはないが痛みはちゃんと感じるのであまり無茶はしたくない。

 

某団長さんはこんな技をポンポン使っていたのだから脱帽である。私、帽子かぶってないけど。頭のフリルがついたカチューシャでもとろうか。

 

「大丈夫ですか?王子。」

 

「よけいなまねするな!さっさとこのほしをせいふくするぞ!」

 

私がべジータに手を差しのべると、べジータはその手を払いのけてさっさと基地から飛び去ってしまった。あの顔を見る限り、かなり不機嫌になっている。

 

あれ?私怒らせるようなことしたかな?

 

私が疑問に思っていると右耳のイヤリング型通信機に通信が入った。

 

「はい。こちら咲夜。」

 

『咲夜!調子はどうだ?』

 

バーダックだった。聞けば彼らは担当の南半球の3分の1は侵略し終わったらしい。憎たらしいことにその自慢をしてきたのだ。

 

私のせいじゃない。仕事が遅れてるのはべジータのせいだ。やつが途中で買い食いなんてするからだ。

 

私はそう自分に言い聞かせ、自分を正当化し、バーダックからの通信を切ってべジータを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2日後、惑星ジスは完全にフリーザ軍の手に落ち、惑星フリーザNo.59と改名された。

 

 

 

 

 

 

 


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