瀟洒な召し使い   作:グランド・オブ・ミル

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原作前、無印編・20

 

 

 

 

 

 

 

 

咲夜は地球へ旅立つ悟空を見送った後、フリーザの宇宙船が惑星ベジータの大気圏内に入ったのを確認して、フリーザの宇宙船に乗り込んだ。咲夜は不死身の肉体を持つが、フリーザのように宇宙空間で生きられるわけではないのだ。

 

惑星ベジータでフリーザの宇宙船を待つ間、咲夜はバーダックとの最後の会話も済ませた。バーダックは咲夜の口調がいつもと違っていることに気づき、さらにカナッサ星人の不意打ちで未来が見える能力を得たことで咲夜に不信感を抱いたが、咲夜が一貫して「何でもありません」と言うことでバーダックは釈然としないが惑星ミートへと飛び去っていった。

 

「フリーザ様、勝手な行動をとったこと、申し訳ありませんでした。」

 

「構いませんよ。惑星ベジータはあなたの元故郷ですからね。破壊する前に部下に故郷の空気を吸わせておくのは私の義務です。」

 

宇宙船のフリーザの部屋で頭を下げて謝る咲夜をフリーザは笑って許す。

フリーザに許しを得た咲夜はすぐに仕事モードへ切り換え、時を止めて一瞬でワインを持ってくるとキュポンとコルクを開けてグラスへ注ぎ、フリーザへ手渡す。そのワインをフリーザは微笑みながら受け取った。一年間フリーザの召し使いとして仕えた咲夜はフリーザがワインを欲しがるタイミングを熟知していた。

 

「フリーザ様、ドドリア、ただいま惑星ミートより帰還致しました。」

 

ウィーンと部屋の自動ドアが開き、ドドリアが入ってきた。ドドリアは左手を胸の心臓の辺りに当て、軽く頭を下げてフリーザに敬意を表す。

 

「惑星ミートにてバーダックチームのサイヤ人を皆殺しにして参りました。」

 

ドドリアはフリーザに報告しながらニヤリと笑う。しかし、そんな彼に横槍を入れる人物がいた。

 

「ドドリア様、今回ばかりはミスを犯しましたね。」

 

「何?俺は確かに……!」

 

「では、こちらのモニターをご覧下さい。」

 

咲夜だった。咲夜はドドリアにそう指摘すると右手の掌を上に向け、上品にモニターを指す。そのモニターには宇宙空間を飛行する一台の丸型宇宙船が映されていた。それを見てドドリアはハッとする。その丸型宇宙船はバーダックの物だった。惑星ミートで仕留めたと思っていたが、バーダックはかろうじて生きていたのだ。

自分のミスに気づいたドドリアは恐る恐るフリーザの顔色を確認する。フリーザは窓の外をじっと眺めていて、ドドリアの位置からでは表情を読み取れない。

 

「す、すみませんフリーザ様!!すぐ片付けて参ります!!」

 

「結構ですよ、ドドリアさん。」

 

焦ったドドリアは慌ててバーダックの始末に向かおうとするが、それをフリーザが制止した。

 

「どうやらこのサイヤ人は惑星ベジータに向かっているようですからね。」

 

「フフフ、どの道同じ運命ということですか。」

 

ザーボンの言葉にフリーザは恐ろしい笑みを浮かべるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーダックが惑星ベジータに帰還した後、すぐに惑星ベジータを破壊する予定だ。具体的には軍で新開発した質量爆弾を実験も兼ねて使うつもりである。さすがに星をまるまる一つ破壊できるとは思えないが、少なくとも半分は消し飛ぶと見積もっている。

 

ドドリアが惑星ミートでセリパ達を殺したことを聞いた時、私は特に動揺しなかった。前々からこの日のことは覚悟していたし、彼女達との最後の会話も済ませた。悔いはもうない。

 

私はフリーザ様から飲み終わったグラスを受け取り、台車に乗せた。そして厨房に片付けようとしたその時、部下の一人が慌てた様子でフリーザ様の部屋に駆け込んできた。

 

「一人のサイヤ人がこの船に奇襲を仕掛けています!!」

 

「何?咲夜さん!」

 

「はっ。」

 

フリーザ様に指示され、私は近くのパネルをカタカタと叩き、フリーザ様の望む映像をモニターに表示する。

 

そこには何百人といるフリーザ軍の兵士相手にたった一人で立ち向かうバーダックの姿が映っていた。バーダックは近づく兵士を殴ったり蹴ったりして弾き飛ばし、遠くの敵はエネルギー波で消し飛ばしながら真っ直ぐにこの宇宙船を目指していた。

 

「ただいま兵士達が全力で対処していますが、見ての通り甚大な被害を受けておりまして……!!」

 

「ザーボンさん……上部ハッチを開けなさい。」

 

部下は早口に現状を報告するが、フリーザ様は報告に全く耳を貸さずザーボンに上部ハッチを開けるように指示する。

 

「え?しかし、まだ部下達が……」

 

「……………」

 

「りょ、了解しました!」

 

ザーボンはまだ外には大勢の部下がいることを進言するが、フリーザ様は無言で圧力をかけた。ザーボンはフリーザ様が本気であることを感じ取り、駆け足で上部ハッチを開けにいった。私は時を止めてフリーザ様がいつも使っているマシンを用意してフリーザ様の後ろに置く。フリーザ様はそのマシンに乗って上部ハッチへと向かう。私はそれについて行った。

 

 

 

 

 

フリーザ様と私がちょうど到着したタイミングで上部ハッチはウィーンと開いた。フリーザ様と私はゆっくりと上昇し、惑星ベジータの大気圏内へ出る。

 

「フ、フリーザ様……!!」

 

「フリーザ様が……!!」

 

フリーザ様と私が外へ出るとバーダックを止めようとしていた兵士が全員静止してこちらを見た。フリーザ様の存在感はそれほどでかい。

 

一方兵士達が皆フリーザ様の登場に固まる最中、バーダックはお望みの人物の登場に不敵な笑みを浮かべた。バーダックはフリーザ様の隣の私をチラッとだけ見ると、フッと笑った。私との最後の会話の際感じた不信感がたった今腑に落ちたらしい。

 

「ヘヘッ、これですべてが変わる……この惑星ベジータの運命……この…俺の運命……カカロットの運命……」

 

バーダックは右手をパッと開き、気を集中し始めた。右目でバーダックの戦闘力を計測してみると、今までにない程の高まりを見せている。

 

「そして……貴様の運命もッ!!!」

 

ピカッ!と、バーダックの右手が光った。次の瞬間バーダックの右手には、後に悟空の得意技となるかめはめ波を彷彿とさせる青白いエネルギー弾が現れた。そして高まりに高まったバーダックの最終的な戦闘力は………

 

「……34000…!」

 

「ほぅ…………」

 

バーダックは最期の最期で私をも越える戦闘力を手に入れた。原作でのバーダックの最終的な戦闘力は10000程度だったはずだが、もしかしたら原作でもこれ程の戦闘力だったのかもしれない。正直自分の30000という高い戦闘力に自信を持っていた私はかなり驚いた。さすが戦闘民族サイヤ人。倒すべき敵を前にするとこうも戦闘力が跳ね上がるのか。

 

しかし、フリーザ様はバーダックのあり得ない戦闘力の上昇に対して驚くこともなく、スッと右手の人差し指を立てた。

 

「これで最後だぁぁーーーー!!!!」

 

バーダックはフリーザ様に向けて自身の全力のエネルギー弾を放った。強力なエネルギー弾はものすごいスピードでこちらへ向かってくる。

 

「ふふふ……あーっはっはっはっは!!!」

 

フリーザ様は突然大声で高笑いをした。それと同時にフリーザ様の指先からまるで太陽のような凄まじく、そして巨大なエネルギー弾が一瞬にして構成された。バーダックの渾身のエネルギー弾はフリーザ様の造り出した太陽にいとも簡単に飲み込まれる。

 

「なっ!?何っ!!?」

 

「さぁ……!美しい花火が上がりますよ!!」

 

フリーザ様はピッと右手の人差し指を曲げた。すると太陽はゆっくりと惑星ベジータの向かって落ちていく。

 

「フ、フリーザ様ぁーーー!!!」

 

太陽は途中、たくさんの兵士達を飲み込み、消し炭へと変えていった。太陽は巨大なため、バーダックのものと比べてゆっくりと落ちているので、バーダックは避けようと思えば避けられるはずだが、余程渾身の一撃が通用しなかったことがショックだったのか、単純に体力が残ってないのか、バーダックは避ける気配がない。

 

「カカロットよぉーーー!!!!!」

 

やがて、母なる星のためにたった一人で巨大な敵に立ち向かった戦士は惑星ベジータと共に宇宙のチリと消えた。

 

「あーっはっはっはっは!!素晴らしい!!ほら!見てごらんなさい!ザーボンさん!ドドリアさん!咲夜さん!こんなにも美しい花火ですよ!!」

 

フリーザ様は惑星ベジータの大爆発を見てご満悦に高笑いする。私はそんなフリーザ様の後ろで今世での故郷の最期をしっかりと目に焼きつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!……これは……」

 

惑星ベジータの爆発が収まるとフリーザ様は足早に宇宙船の中へと戻っていった。私も戻ろうとした時、私の足下に赤い長目のリストバンドが落ちていることに気がついた。私はそれを拾い、バーダックが付けていたものだと分かった。爆風でうまいこと飛んできたのだろうか。ピンポイントで?私の足下に?そんな偶然があるのだろうか。

 

「バーダック……あなたは………」

 

もしかして、このリストバンドはフリーザ様にエネルギー弾を放つ時、バーダックが一緒に投げたんじゃないだろうか。だとしたら、もしそうだとしたら、バーダックは私がセリパ達を見殺しにしたことに苦しんでいることに気づいてたのかもしれない。あの時私を見て笑ったのは、不信感に納得したからじゃない、私の気持ちが分かったからだったんだ。こんな…裏切り者の私を、バーダックは分かってくれたんだ。

 

やめてよ……やっと踏ん切りがついたのに……最後の最後で…こんなことして……

 

私はバーダックのリストバンドを短目に切り、両腕にしていたレースの付いた白いリストバンドを外してバーダックのものを両腕に付けた。ついさっきまでバーダックが付けていたそのリストバンドは血で少し湿っていて、そしてとても温かかった。

 

「うぅ……うぅ……」

 

その温もりを感じてついに私は我慢の限界が来てその場に泣き崩れた。静寂な宇宙に私のぐずもった泣き声だけが木霊した。

 

 

 

 




原作前・無印編はこれで終了です。長い間ありがとうございました。

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