瀟洒な召し使い   作:グランド・オブ・ミル

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Z・ナメック星編・4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? 地球の偵察ですか?」

 

 フリーザ様の招集の翌日、私は惑星フリーザの軍基地内部の諜報班プラットフォームにいた。昨日の指示通り、地球を偵察する手配をするためだ。フリーザ軍でも特に優秀な諜報チームを率いるレナが私の要求に首を傾げる。

 

「ええ、子細は今話した通りです。どんな願いも叶えるというドラゴンボールなるものが、フリーザ様の求めるものかどうか、それを見極めるためにスカウターの音声以外の情報が必要になります。」

 

「それは分かりました。ですが、この星とその地球という星とでは距離が随分と離れています。いつもの偵察のように、現地に諜報員を派遣するわけにはいかないでしょう。」

 

 レナが言うことは尤もだ。距離が遠ければ遠い程諜報にとっては不都合となる。フリーザ軍の諜報は、目的の星の原住民に警戒心を抱かせない見た目の諜報員が何人かチームになり、その星の生活に溶け込みながら情報を集める。その時の通信は目立たないようにスカウターではなく、私が着けているようなイヤリング型の通信機を使用する。

 その間、軍の支援は当然あるわけで、場合によっては現地での戦闘も起こり得る。その時距離が離れていれば支援が遅れるし、最悪孤立無援になる可能性もある。そんな理由もあって今回地球に人員は送れない。

 

「ええ、それは分かっています。ですがレナ、確かあなた技術班から偵察用超小型ロボの試作機のモニターを頼まれていたでしょ。」

 

「へ? ああ、これですか。いや~すっかり忘れてましたよ。」

 

 照れくさそうに頭の小さな羽根をパタパタさせながらレナが懐から指輪ケースのような小さな箱を取り出した。その箱がゆっくり自動で開くと中に虫のようなフォルムのロボットが入っていた。形状は原作でドクターゲロが悟空達を偵察するのに使っていたスパイロボに酷似しているが、目の前のそれはさらに小さい。原作のスパイロボは情報収集以外に悟空達の細胞を採取する目的があったが、この偵察ロボはその必要がない。完全に情報収集に特化させることができるためにこのサイズを実現したのだろう。ブルマやドクターゲロといった地球の一部の天才達が異次元すぎるだけで、全宇宙から精鋭を集めたフリーザ軍の科学力も相当高いレベルなのだ。

 

「ですがこれを使うんですか? 確かにこれなら現地に離すだけで支援は一切必要ありませんが、試作機なので宇宙空間を移動する機能がありませんから誰かが現地に直接行く必要がありますよ。」

 

「その辺は問題ありません。私が行ってきますから。」

 

「へ? でもここより比較的近い位置にいたベジータさん達でも1年程かかる距離ですよ? 咲夜さんがそんなに長い時間フリーザ様の下を離れるわけには…」

 

「大丈夫です。1年くらい前に私専用の中型宇宙船を買いましたから。あの船なら片道1か月くらいで済みます。それくらいの期間なら”サイバイ執事”達に任せられます。」

 

 サイバイ執事とは、私が不在の時にフリーザ様の身の回りのことを任せられるように、私が特別に訓練したサイバイマン達だ。東方の世界で本来咲夜が働いている紅魔館ではその辺の妖精をかっぱらってきて家事の仕方を訓練し、”妖精メイド”として雇っていた。それにあやかって私も育ててみたのだ。私がフリーザ軍で働き始めた頃から育てている古参のサイバイマン達数匹を司令塔に、たくさんのサイバイ執事達が私の抜ける穴を埋める。さすがに戦闘力までは補えないが、その代わり彼らは知能がとても発達するように育ち、複雑な命令も理解できる。最初はそんなでもなかったのだが、代を重ね、何十年も育てている内にそのように変化した。

 サイバイマンは本来使い捨ての兵士として使われるので大抵が産まれたその日の内に命を終える。そのため何十年も訓練を積むとこんなにも進化することは想定外だったようで、この結果を報告した時、フリーザ様が予想外の結果に大笑いしていたことを思い出す。

 

「サイバイ執事…あの働き者達ですか。確かにそれなら安心ですが……何故咲夜さんが? 他の者に任せられない理由でもあるんですか?」

 

 レナの質問に私は少し顔を伏せながら答える。

 

「ラディッツが……あの子が地球で戦死したらしいのです……。」

 

 私の暗い声にレナも少し表情を曇らせる。

 

「そうなんですね…。じゃあ咲夜さんは…」

 

「ええ、せめて私があの子を弔ってあげねばなりません。あの子は下級戦士だけどバーダックの息子で、あの子が子供の頃から成長を見てきた戦士ですから。」

 

 そう、ラディッツもまた、サイバイ執事達と同じように私が育ててきた。惑星ベジータが存在している時から面倒を見てきたサイヤ人の子供、その生き残りがラディッツなのだ。彼が年齢を重ねるにつれてやんちゃ坊主から立派な戦士の顔に変わっていく過程も見てきたし、圧倒的な強さだった父バーダックの息子でありながらそれに遠く及ばない自分の戦闘力に悩んでいたことも知ってる。名も知らない兵士が死んだのではない。ラディッツの死は私にとって息子の死と言っても過言ではない。

 

 本当はこの死もなんとか回避させてやりたかった。だがラディッツがいつどのタイミングで地球に行くのか分からず、フリーザ様の側近という立場上中々自由に行動するわけにはいかず、それは叶わなかった。

 だからこそ、せめてラディッツは私の手で弔ってやりたい。

 

「…分かりました。そういうことならこのロボ、存分にお使いください。ちょっと待ってくださいね。」

 

 レナは偵察ロボを箱ごと私に手渡すと机の引き出しからタブレットを取り出した。そして目にも止まらぬタイピングで偵察ロボの起動プログラムを作動させると、偵察ロボは一瞬緑色のランプが点いたかと思ったら、ブ~ンと私の周りを飛んで服の襟に止まった。この形状といい、サイズといい、フォルムといい、完全に蚊にしか見えない。素晴らしい溶け込み様だ。

 

「はい、準備完了です。後は咲夜さんが地球に降り立つだけで勝手にそのロボが偵察を開始しますよ。電池も太陽光式なので補給も必要ありません。」

 

「ありがとうございますレナ。では、行ってきます。」

 

「はい、気を付けて行ってきてください。」

 

 私は笑顔で送り出してくれるレナを背に、諜報班プラットフォームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わってここは軍基地内部の宇宙船飛行場。ここでは私の宇宙船の出発準備を整えていた。燃料の補給やメンテナンスを終えた青いカエル型の宇宙人技師が私に話しかける。

 

「咲夜様、出発準備が完了しましたよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 私が技師に礼を言うと同時に宇宙船からぶかぶかの執事服を着たサイバイマンが二匹出てくる。私が育てたサイバイ執事達だ。

 

「あら、食料・衣類を積んでくれたんですか?」

 

「ギィ~!」

 

「ギギィ~♪」

 

「ありがとう。あなた達も下がっていいですよ。」

 

「「ギギィ~♪」」

 

 彼らは上機嫌に笑いながらハイタッチして宇宙船から降りる。ぶかぶかの執事服も相まってその様は完全に異星人の子供といった感じだ。私はそんな彼らとすれ違って宇宙船に乗り込む。

 

「では行ってきます。あなた達、フリーザ様をよろしくお願いしますね。」

 

「「ギッ!!」」

 

「どうぞお気を付けて。」

 

 私は技師とサイバイ執事達に挨拶をして扉を閉めた。操縦席に座り、地球の座標を入力すれば宇宙船は瞬く間に飛び上がり、地球を目指して高速巡行を開始する。後はもう自動運転だ。1か月後には世界は違えどもう一つの故郷地球に到着し、「地球は青かった」という名言を言える。到着までやることがないため一息つこうとシャワー室へ向かい、服を脱いで蛇口をひねった。冷水のシャワーが私の白い肌を滴り落ちる。

 

「地球……か。」

 

 ドラゴンボールの物語において様々な戦いの舞台となった地球。その星にラディッツが降り立ち、ベジータ達が向かっているということは本格的に原作に私達フリーザ軍が介入していくことになる。このまま原作通りに物語が進めばフリーザ様はナメック星で悟空に倒され、当時それしか選択肢がなく成り行きで入隊したフリーザ軍から解放されることを意味する。数十年という歳月の末についにここまできた。だというのに__

 

「…………。」

 

 私が思っていたよりも、いい気持ちはしなかった。それどころか、ザワザワモヤモヤと不安と焦りに似た嫌な気持ちが胸に広がっていく。この気持ちは、まだツフル人が存命していた頃、原作知識からいつサイヤ人が攻め込んでくるのか気が気じゃなかった時のものに似ている。ラディッツの死に、自分の想像以上にショックを受けているのだろうか。

 

 せっかくドラゴンボール世界の地球に行けるというのに、私は終始暗い気持ちのままだった。

 


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