瀟洒な召し使い   作:グランド・オブ・ミル

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Z・ナメック星編・5

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ああ……あ……」

 

「こ、これは……」

 

 はるか上空で地球全土を見守る神の神殿。今ここは未だかつてない脅威に見舞われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の発端は約1か月前、宇宙から戦闘民族サイヤ人であり、悟空の兄を名乗る男が地球に襲来した。その男、ラディッツは悟空とピッコロが手を組むことで何とか撃退したが、それから1年後にはラディッツより遥かに強いサイヤ人が二人、地球を攻めに来るのだという。その侵略に対抗すべく、地球ではあらゆる場所で力ある戦士が己を鍛えていた。ラディッツ戦で死んでしまった悟空は銀河を管理する神という界王様に修業をつけてもらうべくあの世で奮闘し、ピッコロは悟空の息子、孫悟飯に驚異的な潜在能力を見出し彼と共に修業を始めた。

 

 そしてクリリン、天津飯、ヤムチャ、餃子、ヤジロベーの5人は神の神殿で修業を始めた。現在地球上で最も過酷な修行を積むことができる場所だ。空気が薄いこの場所で神やその付き人のミスターポポに鍛えられることで無駄のない動きとより高いレベルの気の扱いをマスターすることができる。

 そうして来たるサイヤ人に備えて厳しい毎日を送って1か月が経った今日、事件が起こった。

 

「おい、あれは何だ?」

 

 初めにそれに気づいたのはクリリンだった。彼の指差す先にはカメハウス程の大きさの厚みのある円盤が神殿よりさらに上空に浮いていた。その円盤は下部から何本もの足を出すとゆっくりこちらに向かっている。

 

「な……なんと! あれは……まさか………!!」

 

 戦士たちはその物体を不思議に思いこそしたが恐れてはいなかった。だが、威厳をかなぐり捨てて神殿からバタバタと飛び出してきた地球の神の顔を見てそれが間違いだったことを知る。

 

「おい……もしかしてあれは……」

 

「サイヤ人の宇宙船か!!」

 

 サイヤ人の襲来は1年後のはずだが、その情報も死に際のラディッツからもたらされたもの。時期の大幅なズレや不意打ちがあってもおかしくない。そう判断した戦士達は着陸する前に倒そうと宇宙船に攻撃した。かめはめ波、どどん波、気功砲、操気弾と各々の自慢の技で宇宙船を狙う。

 

パチンッ

 

 だがその瞬間、辺りに指を鳴らした乾いた音が響いた。すると宇宙船がその場からパッと消え、戦士達の技は上空へ消えていく。

 

「なっ!? 消えた!!」

 

「いったいどこへ……!!」

 

「ここですよ。」

 

 クリリン達は消えた宇宙船を探そうと辺りの空を見渡した。だが割とすぐ近く、クリリン達の目の前から聞きなれない声が聞こえ、ぎょっとしてそちらを向いた。そこにはメイド服を着た銀髪の少女が立っており、一体どうやったのか宇宙船もいつの間にか着陸を完了していた。

 

「う、ああ……あ……」

 

「こ、これは……」

 

 そうして場面は冒頭へ戻る。戦士達は目の前の少女__咲夜から感じる途方もない力に動けずにいた。それもそのはずで、今のクリリン達と咲夜とでは戦闘力の数値がかけ離れている。1年間ここで修行を積んだ後ならともかく、今のクリリン達の戦闘力は数値にして三桁、気を解放して極限まで高めてもやっと四桁に届くというレベル。それに対し咲夜の戦闘力は3万、それにクリリン達は知らないが不死身の力で気円斬などの格上殺しの技も通用しないという理不尽さ。今この場にいる戦力全員で束になってかかっても倒せない、そんな存在が咲夜なのだ。ここで修業して、相手の気を感じることができるようになった戦士達はその現実とプレッシャーに雁字搦めにされて動けない。

 

「はあ、せっかく地球の皆様に警戒心を与えないように着陸地点をこの神殿に指定しましたのに、いきなり酷いことするじゃありませんか。」

 

 咲夜のその言葉に驚いたのは地球の神だ。彼女の言っていることが本当なら、彼女はこの神殿が地上に住む者達に知られておらず、かつ重要な場所だということを知っていることになる。この少女は宇宙人だというのにあまりにも地球のことを知りすぎている。

 

「こほん、ではまず自己紹介から。お初にお目にかかります、私はフリーザ軍所属、フリーザ様専属召し使いの十六夜咲夜と申します。」

 

 以後お見知りおきを、と、咲夜はこの緊迫した状況の中完璧な礼を地球の神相手にした。その場違いな行動にハッと正気に戻ったクリリンが疑問を口にする。

 

「フ、フリーザ軍……?」

 

「はい、宇宙の帝王フリーザ様が率いる、宇宙最強にして最大の組織です。サイヤ人が所属している軍であり、私は彼らの上司と言えば分かりやすいでしょうか?」

 

「「「っ!?」」」

 

 咲夜の言葉にこの場の全員が衝撃を受けた。何せ彼らからしてみればついこの間地球に来たラディッツで宇宙の広さを知り、奴よりもさらに実力が上だという二人のサイヤ人に備えて鍛えていたところなのだ。その二人も見ぬ内からさらに上の存在に出てこられては困惑するに決まっている。

 

 そしてそれは地球にとってかなり絶望的な状況にあることを意味していた。ラディッツが言うには奴が着けていたスカウターという装備に通信機能が備わっている。もし、宇宙の地上屋だというサイヤ人達の所属する組織が通信機能でドラゴンボールのことを知り、本格的に地球侵略を目論んでいるとしたら、正直詰みだ。ラディッツクラスの敵が何千、何万と地球に押し寄せる。考えただけで寒気がする。

 

 そこまで想像して顔を緑色から真っ青に変えた神を見て咲夜がフフッと笑う。

 

「そう怯えなくてもいいですよ。私の目的は侵略ではありません。それはこちらに向かっているサイヤ人達に任せれば十分ですからね。」

 

「………では聞かせてくれぬか、お前の目的は何だ?」

 

「簡単なことです。先日こちらにラディッツというサイヤ人がお邪魔しましたでしょう。彼は私の生徒であり、息子のような戦士。彼を弔うために伺いました。彼の遺体を渡していただけませんか。」

 

「……残念ながらそれはできない。奴の身体は地球の神である私が責任を持って焼却した。」

 

 神の返答に咲夜は、まあそうだろうな、と肩をすくめた。結果的にラディッツが地球でやったことと言えば農家のおっさん一人を殺した程度だが、地球からすれば立派な侵略者だ。人の目に触れぬよう入念に処分してしまうのが妥当だろう。

 

「そうですか、ではせめてラディッツの装備品一式を渡していただけないでしょうか。我が軍が戦闘用に開発した戦闘服はこの星の技術では処分できていないはずです。」

 

「………」

 

 神の返答はない。別にあの装備を手放すことを惜しんでいるわけではない。むしろあれを渡すだけでこの少女が去ってくれるのなら願ってもないことだ。

 だが、あの装備はブルマという女科学者が研究のためにスカウターと共に持ち帰ってしまってここにはない。そのことを伝えてもいいのだが、そうすると目の前の少女はブルマの下へ向かうだろう。地球の神として地上の者を危険にさらすわけにはいかない。

 

「…あれを渡すのは吝かではない。だがあれは今地上にあってここにはないのだ。ここにいる者に取りに行かせる。それまで待ってはくれぬか。」

 

「大方予想はつきます。スカウターの音声データに科学者らしき女性の声がありましたからね。おそらくラディッツの装備品は彼女の下にあるのでしょう。私も職務の合間に来ているので時間がありません。案内してください。」

 

「………」

 

「……だんまりですか。となれば多少無理やりですが、ここでラディッツの無念を晴らすとしますか。あなたの自慢の戦士達が一人二人と殺されれば喋る気になるでしょう。」

 

「「「っ!!」」」

 

 咲夜は両手をダランと下げてそこから少し広げ、左足を前に出した。彼女の敬愛するフリーザと同じ構えだ。すると彼女を中心に突風が吹き荒れ、ピンク色の気の炎が燃え上がる。彼女が立つ神の神殿にもクモの巣状にヒビが入り、木も何本か倒れる。

 その濃密な気の圧力にクリリン達は息を呑んだ。無理だ、勝てるわけがない。太陽拳による目くらまし、餃子の超能力、命を懸けた気功砲、様々な策は浮かんだがどれも成功する気がしない。こんな時に頼りになる悟空も今はあの世で修業中だ。

 

 万事休すか、そう思った時だった。

 

「魔貫光殺砲っ!!」

 

「「「!!」」」

 

「へっ! ざまぁみやがれ。」

 

「ピッコロ!!」

 

 突如飛来した螺旋状の極細の光線が後ろから咲夜の眉間を貫いた。その後ろではいつからそこにいたのかピッコロが得意気に笑っている。いくら強いとはいえ、咲夜の表面的な防御力自体はそこまで高くない。格上殺しの技として有名な魔貫光殺砲はいとも簡単に咲夜の頭に風穴を開けた。

 ともあれ、ピッコロが咲夜を打ち倒してくれたことでクリリン達の表情も晴れる。

 

「…行儀の悪い方がいますね。」

 

「なっ…!!?」

 

 だが、咲夜の傷が瞬時にふさがったことですぐに凍り付く。咲夜は青い瞳でギロリとピッコロを睨むと右の手の平を彼に向けた。

 

ズオッ!!

 

 そして魔貫光殺砲とは対照的な太い、衝撃波状の気功波を放った。その威力にクリリン達は思わず顔を庇った。次に目を開けるとそこには無残に抉り壊された神殿があるだけで、ピッコロの姿はなかった。

 

「ピッコロ…!!」

 

「まさかやられたのかっ!?」

 

「いや、この私がまだ生きている。どうやら何とか生き延びたようだ。」

 

 その光景に天津飯やヤムチャがピッコロの死を心配するが、ピッコロと命が繋がっている神が生きていることからその心配はいらなかった。原作知識からピッコロと神とドラゴンボールの関係を知っていた咲夜が気功波の威力を抑えたこととピッコロが咄嗟に受け身を取ったことでピッコロは消滅を免れた。

 

「さて、スカウターの情報から察するにあの者が現時点でこの星最強の戦士なのでしょう?」

 

「………」

 

「どう頑張っても私には勝てないと思いますが?」

 

「…………」

 

「それとも、もう少し私の力をお見せしましょうか?」

 

「………………分かった。お前の言う通りにしよう。だが約束してほしい、地球の者達に一切危害を加えないと。」

 

「ええ、もちろん。」

 

 この場は結局神が折れることとなり、クリリンがブルマの下へ咲夜を案内することになった。二人が神殿から飛び立って残された天津飯達は咲夜のプレッシャーから解放されてその場に膝をつく。

 

「くっ…! フリーザ軍か……!!」

 

 そして地球の脅威はサイヤ人だけに終わらないと確信した彼らはより一層厳しい修業に打ち込み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 言うまでもありませんが、もしフリーザが地球の情報収集を咲夜以外に命じていたら地球は完全に詰んでいました。咲夜さんのフリーザ軍での日々の働きがこの時点での地球を救ったと言えるでしょう。さすがメイド長!

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