瀟洒な召し使い   作:グランド・オブ・ミル

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コメントでちょくちょく見かける「破壊神は出ないんですか?」、「ビルスはまだ?」といった質問についてですが、タグにもあるようにこの作品の物語はGT路線をベースに進行します。具体的には、無印編→Z編→GT編という昔ながらのストーリーを歩み、近年出てきた「破壊神」や「全王様」、「12個の宇宙」といった設定は採用していません。

 現時点では、皆様の要望が多ければZ編から分岐する形で超編を書いていきたいと思っています。


Z・ナメック星編・6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神殿から飛び立ったクリリンと咲夜は西の都を目指して飛んでいた。ラディッツの戦闘服はブルマが彼女の実家に持って帰ってしまったからだ。なんでも、あの戦闘服を分析すればあれと同レベルの防御力の道着を作れるかもしれないとのことだ。

 

 それで西の都のブルマの家を目指して飛んでいるわけだが、速度はそれ程速くない。せいぜい鳥より少し速い程度だ。ピッコロならいざ知らず、まだまだ修業不足のクリリンの舞空術ではこれが目一杯だった。

 だが、今よりももっと速く飛べるはずの咲夜は何も言わずにクリリンに合わせている。職務の合間に来ているから急いでいると言っていたのに。クリリンはそこが疑問だった。

 

「……あの、クリリンさん。」

 

「っ!! な、何だよ?」

 

 そんな時、急に咲夜がクリリンに話しかけた。クリリンはいきなり何だ、とか、何で俺の名前を知ってるんだ、とか色んな疑問が生まれたが、何とか反応した。

 

「カカロット……悟空は元気に育ちましたか?」

 

「へ? あ、あぁ元気だよ。今は死んじまってるけど。」

 

「強く、なりました?」

 

「……あぁ強いよ、あいつは。ちょっと前までは一緒に修業してたのに、今や世界を救った英雄さ。」

 

「…そう。」

 

 何やら嬉しそうに微笑んだ咲夜を見てクリリンは首を傾げた。

 

 実を言うと咲夜が急いでいるといったのは嘘である。職務の合間に来て急いでいることは間違いないが、地球と惑星フリーザは片道1か月かかる道のり。今更1時間や2時間待ち時間が発生したところで変わらない。

 では何故こうしてクリリンと飛んでいるかというと単純に見て回りたかったからだ。バーダックが己の意思を託した息子が育ち、旅した地球を。悟空の一番の友であるクリリンと一緒に。神の神殿の下部から伸びる如意棒、カリン塔、西の都と、悟空がそこで誰と出会い、どんな体験をしたのかを想像しただけで咲夜の顔が自然と緩む。その様はまるで息子の成長を喜ぶ母親のようだ。

 

 

 

 

 

「うえぇぇんっ! 風船が~!」

 

 西の都に入り、ブルマの家、カプセルコーポレーションの目の前に降り立った時だった。クリリンは大通りで小さな女の子が泣いているのを見かけた。彼女の前には木の少し高い位置の枝に引っ掛かった熊の風船がある。

 

「はい、どうぞ。」

 

「わぁ! ありがとうお姉ちゃん!」

 

「え!? あ、あれ!?」

 

 助けてあげたいが今は咲夜を案内している途中だ。どうしようかと振り返るともうそこに咲夜はいなかった。もう一度女の子の方を見るともう咲夜が風船を取ってあげており、クリリンは混乱した。

 

「…………」

 

 去っていく女の子に小さく手を振る咲夜を見てクリリンは考える。もしかして咲夜は、軍の職務を全うしているだけで自分達が考えているほど悪い奴ではないのではないか。もちろん、サイヤ人達の上司と言うからには命令があれば平気で人を殺したり、星を壊したりするだろう。だがこの咲夜という少女はこの前来たラディッツとは決定的に何か違っていた。ラディッツは徹底的に地球人を見下し、星の原住民以上の認識は持っていなかったが、咲夜はちゃんと人を人として認識している。そればかりか、誰かを助けるという優しさも見せている。そもそも戦死したラディッツのためにわざわざ地球に来たというのが悪人にしては人間味が溢れている。

 

 悪人であって、悪人じゃない。そんな矛盾した何とも言えない印象を咲夜から受けた。

 

「? クリリンさん、どうかなさいましたか。」

 

「あ、あぁいや! 何でもない!」

 

 気が付くと咲夜の顔が目の前にあり、クリリンは驚いて気を取り直した。一瞬気を許しかけたが、どの道咲夜は地球の敵なのだ。緊張感は最後まで持たなくてはならない。クリリンはパンパンッと自分の頬を叩いてインターホンを押した。

 

「何? クリリン? どうしたの? 神様んとこで修業してたんじゃなかった?」

 

 そしてしばらくするとブルマが出てきた。地球が誇る天才科学者は今日も今日とて元気がいい。

 

「? ちょっと、誰よ後ろの娘。まさか彼女?」

 

「十六夜咲夜と申します。どうぞお見知りおきを。」

 

「あらまぁ、私ブルマ。よろしくね。」

 

「ブ、ブルマさん! これから説明しますから!」

 

 何やら面倒くさい勘違いをされそうになり、慌てて咲夜の素性を説明する。咲夜がサイヤ人達のさらに上の存在だと知るとブルマは飛び上がって驚いた。

 

「大丈夫ですよブルマさん。用が済んだら早々に立ち去りますので。」

 

「そういうわけなんでブルマさん。あのサイヤ人の服とか鎧とか全部持ってきてもらえませんか?」

 

「服ね!? 鎧ね!? 分かったわ! すぐ持ってくるっ!!」

 

 そう言うとブルマはピュンッと脱兎のごとく奥へ引っ込んでいく。そして1分もかからない内にボロボロの戦闘服と戦闘用ジャケット、そしてラディッツが左腕と左足に着けていた赤いリングを持って戻ってきた。しかしその中にスカウターは含まれていない。どうやらちゃっかりそれだけもらう腹積もりのようだ。それくらいなら気にする程でもないので、突然押し掛けた迷惑料として置いて行くことにした。

 

「…………」

 

 咲夜はブルマからそれら一式を受け取る。研究のために一度洗浄したのか、所々破けていたりするものの、血や泥などの汚れは一切ついていなかった。魔貫光殺砲で空いた戦闘用ジャケットの腹部の穴が、咲夜にラディッツの死に様を連想させる。そしてこの赤いリング。確かこれはレナと出会ったあの惑星を侵略した時に……

 

「! お前……」

 

 そこまで考えて咲夜はブルマとクリリンから怪訝な目で見られていることに気が付いた。彼らの視線を追って自分の頬に触れてみると、右目から一筋の涙がこぼれていた。その事実にまず目を見開いた。そして自分の目から排出された一滴の涙を指で拭い、それを見るとフッと笑った。目を閉じて、ラディッツの服をギュッと抱きしめると小さく呟いた。

 

 __ああ、そうだったんだ。

 

「え?」

 

 それが聞こえたのは近くにいたクリリンだけだった。

 

「ありがとうございます。では、私はこれにて失礼いたします。」

 

「え、ええ。」

 

 咲夜はブルマに綺麗に礼をすると、宣言通りにその場から飛び立った。恐らく神殿へ戻り、同じように神達にも礼をして自分の星へ去っていくのだろう。

 

「……ねぇクリリン、あの子本当にサイヤ人の仲間なの?」

 

「…俺も同じことを考えていたんです。あいつ、そんなに悪い奴には到底思えなくて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブルマさん達と別れた私は宇宙船に乗り、地球を発った。宇宙船の中でラディッツの赤いリングを自分の足に装着した。ラディッツ用のサイズだったそれは私の足にはいささか大きく、位置的にスカートの中に入る程太ももまで上げてようやくフィットした。それはまるで原作の咲夜さんがスカートの下にナイフを忍ばせているようだ。

 

 このリングは、私の意思表明の表れだ。ブルマさんからラディッツの装備を受け取って、彼の死を直に感じてようやく気付いた。私は今のこの立場、フリーザ軍の一員”十六夜咲夜”としての生活を気にいっていたんだ。

 

 私は先入観で、今は敵でもいずれ悟空サイドに立てるんだと勝手に思い込んでいた。前世でいくつか目にした二次創作作品の中の、私と似たような境遇の主人公が大概そういった経路をたどることが多かったから。だからこそ私はそれを理由に、今まで自分が犯してきた悪事に言い訳してきた。人を殺す度に、フリーザ様には逆らえないからと、星を壊す度に、今だけは仕方ないからと、日本人としてのちっぽけな正義感を守るために、己が作りだした惨状に背を向けてきた。ナメック星でフリーザ様を悟空が倒すまで、そうするのが正解だと信じていた。

 

 だけど違った。私はそんなことを望んでいなかった。サイバイ執事達を訓練して、休日はザーボンやドドリアと一緒に出掛けて、フリーザ様とワインを楽しみながらフリーザ軍勢力下の星域の地図を見てニヤニヤして、たまに誰かと星を攻めて、ギニュー特戦隊の皆と新しいポーズを考えて…

 

 私、”十六夜咲夜”の居場所は主人公組(あっち)じゃない、悪役(ここ)だったんだ。

 

 モヤモヤした気持ちの正体はこれだったんだ。何故今まで気づけなかったのだろう。今まで色んな人に失礼な態度をとっていたと思う。バーダック達を見殺しにした時はひたすら自分が生きるためだと言い訳していたと思う。これでは散っていったバーダック達も浮かばれないだろう。それに、ラディッツ。彼もバーダックの息子だというのに、心のどこかで物語序盤で退場するキャラだと思い、もしかしたら投げやりな態度をとっていたかもしれない。

 

 だけどそれも今日でおしまいだ。私は自分の居場所をしっかりと認識した。十六夜咲夜はフリーザ軍の優秀な兵士で、フリーザ様専属の瀟洒な召し使いだ。いつの日か悟空と敵対して、殺し合いをするかもしれない。それでもいい。私はフリーザ軍に忠誠を誓い、フリーザ様と共にこの宇宙に帝国を築く。

 

 さて、軍に戻ったら何をしようか。確かナメック星のポルンガは願いを3つ叶えられたはずだ。もしナメック星に行くことになったらフリーザ様の不老不死の願いを叶えた後に、ラディッツを生き返らせることを頼んでみよう。そしてラディッツに一言でいいから謝りたい。彼はバーダックに似て鈍感だから、きっと首を傾げるだろうけど、一から関係をやり直して、悟空に負けないくらいラディッツを強くしてやりたい。

 

 軍のためにできることだってまだまだたくさんある。私の現世は結構漫画好きで、ドラゴンボール以外の漫画の知識もあるし、ツフル製マシンミュータントとして教え込まれた知識もたくさんある。私の身も、心も、すべてをフリーザ様のために、私の居場所のために捧げていこう。犯す悪事もしっかり認識して、幾多の死体や瓦礫の上に立ち、それでも笑って楽しく生きていこう。

 

 銀河を統べる界王達に恐れられ、宇宙の頂点に立つ界王神にも存在を知られる宇宙の帝王フリーザ。私はその隣に立つ十六夜咲夜なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから1か月後、私は惑星フリーザに帰還した。フリーザ様に帰還報告をするため王城のフリーザ様の自室の扉をノックする。

 

「どうぞ。」

 

「失礼します。」

 

 中に入るとフリーザ様はワイングラスを片手に窓から星を眺めていた。その隣ではサイバイ執事達がカチャカチャとワインとお茶菓子のセットを片付けている。この様子だと、しっかり私の代わりを務めてくれていたようだ。

 

「十六夜咲夜、ただいま地球より帰還いたしました。偵察の準備も完了です。」

 

「そうですか、ご苦労様です……おや」

 

「? いかがなされました?」

 

「何やらスッキリした顔をしていますね。地球で何かあったんですか?」

 

 どうやら我が主にはすべてお見通しのようだ。その事に私はとても嬉しくなる。

 

「はい、自分を見直す機会がありまして…」

 

「そうですか、いつにも増していい顔をしていますよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「さて、咲夜さんが戻ってきたことですし、ハーゲル星域の経営についての書類を片付けてしまいましょうか。」

 

「はい。」

 

 私はすぐさま時を止めて仕事用の環境を整える。ハーゲル星域の経営状況に関する資料に羽ペン、フリーザ様の印鑑、そしてハーゲル星域の情報をダウンロードとした情報端末だ。いつもの定位置に付き、敬愛するフリーザ様の隣で宇宙支配を進める。仕事をしながら改めてこう思った。

 

 __ああ、やっぱりこの方の隣が私の居場所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 というわけで、ラディッツの死をきっかけに咲夜さんのフリーザ様への忠誠心が振り切れるお話でした。
 出来上がってみると最終回みたいになっちゃいましたけど、まだもうちょっとだけ続きますよ。

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