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「フリーザ様、紅茶です。」
「どうも。」
私がいれた紅茶をフリーザは満足そうに飲む。先輩マシンミュータントにスパルタで教えてもらった従者としての家事能力は充分に発揮されているらしい。
時間とは早いもので、私がフリーザの専用召し使いとなってからもう一週間がたった。ドライヤ星での任務は内心ドキドキしていた。フリーザが何か引っかかるような、思わせ振りな言い方をしていたので、急いでドライヤ星について調べて正解だった。ツフル王もあんな感じで時々私達を試すようなことをしていたので、なんとなく察することができた。
ツフル王にこき使われた経験が役に立った。やはり人生とは経験である。私、人じゃないけど。
「これは……咲夜さん。茶葉変えましたか?」
「はい。惑星フーリに生育しているアムサという茶葉です。」
「ほう、香りのいい紅茶ですね。」
「ありがとうございます。」
フリーザ専用召し使いの仕事は基本的にフリーザのサポートをするだけだ。軍のトップであるフリーザの書類仕事を片付けたり、こうやってフリーザに紅茶やワインを振る舞ったり。そんなことを朝早くから夜遅くまでやる。
ちなみに私は惑星べジータの、あの地下室で寝泊まりしている。フリーザが最高の部屋を提供してくれると言っていたのだが、私はそれを丁重にお断りした。
いくら実力を買われたとはいえ、新入りの私がそこまで上級の扱いを受けるのは居心地が悪かったし、ろくな思い出がないとはいえ、あの地下室には数ヶ月もお世話になったのだ。愛着だって湧いてくる。
それに惑星べジータは、私の今世での故郷は後にフリーザによって消されてしまうのだ。今のうちに故郷の空気を噛み締めておいたほうがいいだろう。
ドライヤ王を消し去った『マスタースパーク』。あれは昔ノリで開発した技だ。戦闘マシンミュータントらしく、私には体内のエネルギーを凝縮して体外へ放つことで攻撃する、これぞドラゴンボールという機能が備わっていたので、「できるかなぁ」なんて軽い気持ちでやってみたらまさかの大成功。先輩マシンミュータントにくしゃくしゃと頭を撫でられた。
あの先輩には本当にお世話になったなぁ。もしドラゴンボールを使って願いを叶える機会があったらぜひとも甦らせてあげたいが、多分無理だろう。原作でもセルゲーム後にセルに殺された人々を生き返らせてくれという願いで16号は復活しなかった。きっと人が造ったロボットは対象外なのだろう。神様のくせに差別すんなよ。
ちなみのちなみに私の体内のエネルギーと言ったが、少し語弊がある。私は宇宙に満ちる「宇宙エーテル」という粒子をエネルギーにして動いているので、厳密に言えば私のエネルギーとして吸収された宇宙エーテルの力だ。宇宙エーテルが何なのかは難しすぎて理解できなかった。不思議パワーとでも捉えていれば大丈夫だろう。
「フリーザ様!ご報告します!」
「どうぞ。」
フリーザの部屋の扉が開き、フリーザ軍一般兵が入ってくる。一般兵はフリーザの前まで来ると敬礼をして話し始める。
「たった今、ギニュー特戦隊が惑星ションの征服を終え、帰還しました。」
「そうですか、分かりました。すぐここへ来るよう伝えなさい。」
「はっ!」
一般兵は礼をしてフリーザの部屋を後にした。
「フリーザ様、ギニュー特戦隊とは?」
原作知識で知ってはいるが、会うのは初めてなので一応聞いておく。
「咲夜さんは会ったことがありませんでしたね。フリーザ軍の超エリート部隊ですよ。少しクセがありますが……。」
フリーザが苦笑しながら私の質問に答えてくれる。表情から察するに彼らの相手をするのは苦手なようだ。
ギニュー特戦隊かぁ。個人的に私は彼らのあのテンションは好きだ。数ある敵キャラの中で彼ら程憎めない敵キャラはいなかった。戦隊ものに憧れる子供のようで、微笑ましいとまではいかないが、和むものはある。
早く彼らに会いたい。まぁ、唯一心配なのは私の「時間を操る程度の能力」はグルドのお株を完全に奪ってしまっていることか。