凶暴な肉食獣に追われ、個体数が激減した人類は、ヴィグリード平原と呼ばれる平原に集まり、肉食獣に対抗する術を生み出した。
これは、自然に抗う弱き人間の物語――
それは、こことは違う惑星で起きた話である。
1
季節は春、紫色の背丈の低い草が生い茂、空は雲一つ無い快晴だった。
そんな中、大量の翼竜が群れをなして飛んでいく。翼長20メートルはあり、胴体はその2倍はある。頭にはサイのような巨大な角、そして派手な真っ赤な鱗が恒星の光を受けて妖しく輝いていた。
そしてその群れを、上空の早期警戒管制機の半径10メートルはある巨大な対空索敵レーダーは見逃さない。
「グレースワッチより各迎撃隊、有角翼竜(ゆうかくよくりゅう)の群れだ。エリアA―418より南下中。速度マッハ0・4、高度400メートル」
【ネクロリーダーより各機、これより迎撃行動に移る。アルファ、ブラボーは高度600まで降下、チャーリー、デルタは1200メートルで待機しろ。第688戦術戦闘飛行隊、戦闘開始】
超上空、2万4000メートルで待機していた24機の灰色の戦闘機は、早期警戒管制機からの情報を受け6機ずつ4班に分かれて急降下する。
「了解(コピー)、OK、ネクロリーダー。目標、針路、高度変わらず。いや、群れの一部が上昇開始。気付いたようだ、第1群、高度400、第2群、高度450」
【ラジャー。ネクロリーダー、レーダーコンタクト。グレースワッチ、聞こえるか? これより交戦を開始する。長距離ミサイル、レディ!】
12機の戦闘機に搭載された多用途レーダーに翼竜の群れが映る。既に長距離対空ミサイルの射程なので、全機一斉発射する。長距離対空ミサイルは1機あたり6発搭載しているため、72発ものミサイルが翼竜目掛けて飛んでいく。
さらに、背丈が低い木々に隠れていた紫色の対空戦車や対空ミサイル搭載ジープが姿を現し、低空を飛ぶ第1群の翼竜の群れを捉え、対空ミサイルや対空機関砲を撃ちまくる。
あっという間に片は付いた。紫色の草原には、黒く焦げた翼竜の死体が無数に転がっている。すると、草むらの中から、紫色のネットを被った戦車や装甲車が姿を現し、歩兵達がその死体を戦車や装甲車に繋ぎ、引っ張っていく。
ここは陸地が紫色、海は青白いという特殊な惑星だった。
2
この惑星には、実に多様な生物が生息している。草食動物のほとんどは草木に隠れる為に紫色になり、その反対に肉食動物は派手な色になった。そんな中、人間というものが生まれた。雑食である彼らは、どっちつかずの色、というよりは血統で色が異なるという特異な生物であった。そして、武器を手放せば自然界では最も弱かった。
当然、人間は多くの肉食動物に追われるようになり、個体数は激減した。そこで、一か所に集まって種を保存しようと提案した部族が現れた。彼らは惑星を巡り、とある平原に集まるように忠告した。当然、殺される者や断られる者も出たが、大半の人間はその平原に集まった。そして彼らは知恵を集め、武器の開発や農業を開始した。
それから数百年。今や戦車や戦闘機、軍艦を有し、肉食動物に立ち向かっていた。
狩りを終えた戦闘機や戦車が草原へと帰ってくる。ヴィグリード平原、そう名付けられた平原には、今真っ黒なドームが建てられている。グラズヘイムドーム、それがそのドームの名だった。中にはこの惑星にいる全人類が、人種を問わずに居住している。
このヴィグリード平原の南には海が広がっており、軍港が作られ、数多の軍艦が停泊している。
「頼むよ、こっちの仕事を手伝ってくれ」
「冗談じゃない、野垂れ死ねと言ってるのか?」
「そういう意味じゃない」
「馬鹿言え。15個あった戦略偵察隊が今やたった2個しかないんだ。その戦略偵察をやれと言うんだろ? それに、俺は戦術偵察隊だぞ」
「いや、戦術偵察だ。北東の森への偵察、危険はないはずだ」
グラズヘイムドーム内、第467車両格納庫前にて2人の男が話し合っていた。片方は長い金髪で、耳が長い男、もう片方は黒く短い髪に、褐色の肌の男だった。
「北東の森、フニット山のふもとか。あそこは確か、作戦制限区域だろ?」
「それはつい昨日解除された。ここに戦略地下資源があるのが、無人偵察機によって確認されている」
「石油か。それは戦略偵察隊か、統合戦略軍団の仕事だろ」
褐色の男は肩をすくめながら歩き出す。金髪の男が肩を掴む。
「そう言うな。あの辺にいる先住民とのコミュニケーションをとってもらいたいんだよ」
「あのなぁ、言葉が通じるかは分からないんだぞ? それに、あの辺りには戦車や装甲車で行くには地盤が弱過ぎるし、ヘリコプターで行くには森が茂り過ぎな所に?」
「近くまでは車両で、そして徒歩で森の中へ進み、ヘリコプターで帰ってくる。それならいいだろ?」
褐色の男はため息をついた。
3
「ということで、我々第28戦術偵察隊は、フニット山ふもとの森への戦術偵察を行う。異論は無いか?」
第467車両庫にて、昨日の褐色の男が言う。しかし、昨日とは違って、紫色のボディアーマーにグラズヘイム陸軍制式自動小銃・AR―4Aを首から下げ、右太もものハンドガンホルスターには制式自動拳銃・AP―12を収めていた。
「異議なーし」
「仰せのままに」
「隊長についていきますよ」
20人の隊員達が口ぐちに言う。褐色の男――モリカワ=フヒト中尉――が礼を言う。
「すまない」
「謝るなんて、いつも隊長らしくない。もっとしゃきっとしてくださいよ」
対肉食獣用4連装ロケットランチャー・TRG―2を持った筋肉マッチョな男―ノルビ=ヴィッレ先任軍曹――が言う。それには、皆が笑った。
第28戦術偵察隊、出発。先頭を軽戦車LBV―3 ヒュドラが、その後ろを装甲戦闘車AFV―2 スキュラと軽装甲車IMV―1 ベロナが続く。
「のどかですね」
「ああ。雲はあるがいい天気だ」
「翼竜襲ってきたら、ひとたまりもありませんね」
「馬鹿! 本当に来たらどうすんだ! この隊の対空兵装はスキュラの35ミリ機関砲とMG―8重機関銃だけなんだからな!」
紫色の草原を、紫色の戦闘車両3台が走る。その上、黄緑色の空をグラズヘイム空軍主力戦闘機・JF―13A グリフォンの8機編隊が飛んでいく。甲高いジェットエンジン音が響く。
やがて、第28戦術偵察隊は目的地の近くに着いた。フニット山ふもとの森である。ここから、うっそうと茂った密林である。そのため車両は入れないため、徒歩での移動となる。
「今回はあくまで先住民とのコンタクトだ。気を付けろよ」
『ラジャー!』
21人の兵士が森へと入っていく。
偵察隊が森に入る。モリカワ隊長はAR―4Aを構えながら前進する。このAR―4Aは、5・45×45ミリ高速弾を30発装填するブルバップ型自動小銃だ。弾丸発射機構がグリップの後ろにあるため、見かけの割に銃身は長く、また伏射時の安定性を高める為に折り畳み式のニ脚(バイポッド)、さらに命中精度向上のためにスコープが取り付けられている。この第28戦術偵察隊はAR―4Aがメインだが、内2丁はバイポッドの代わりに40ミリグレネードランチャーを取りつけたAR―4G、さらに5丁は空挺部隊や戦車やヘリコプター、戦闘機の護衛用として使用されるAR―4Cというコンパクトモデルである。AR―4Cはバイポッドやスコープを取り外し、徹底的に軽量化と携帯性を高めた小銃である。
「隊長、トラップです」
先頭を進んでいたアプソロン=カミル1等兵が、木と木の間にブービートラップを見つけて立ち止まる。モリカワ中尉が見ると、地面から3センチの所にピアノ線みたいに細いロープが張ってある。
「これが何処につながってるか分からんと、解除のしようが無い。迂回するぞ」
モリカワ中尉の指示に従い、左へと曲がる。何もない森の中、人工衛星からもたらされる戦闘位置情報を頼りに進む。
その時だった――
「ぐあああ!」
先頭を歩いていたアプソロン1等兵が悲鳴を上げて倒れる。見れば、彼の左太ももに矢が刺さっていた。
「敵襲!」
モリカワ中尉が叫び、全員が周囲を警戒する。AR―4を構え、スコープを覗く。このスコープは赤外線探知式索敵装置を内蔵しており、森の中でも敵の体温をグラフィック化する事で見つけ出せる。
「いた!」
女性のラパラ=ヴィオレット伍長が敵を見つけ、射撃する。森の木々で連続した銃声が反芻し、紫色の葉や赤色の枝が散る。
「やったか?」
「駄目、当たりません! 動きが速過ぎる!」
ラパラ伍長は銃の弾倉を交換し、次の30発を準備する。そして、彼らは見た。紫色の森の中を自由自在に飛び回る「女性達」を。
「紫……?」
ノルビ先任軍曹が呟く。その「女性達」は、肌が紫色だったのだ。
その間にも、仲間が1人殺される。ナイフを顔へとダーツのように投げつけられたのだ。
その光景を目の当たりにし、ノルビ先任軍曹はハッとする。そして背負っていた4連装ロケットランチャーを構える。
「後方の安全良し!」
発射した時に出る後方噴射炎のため、後ろの安全を確認し、発射した。
が、肝心のロケット弾は後ろへと飛び、大木を折る。
「……やっちゃった」
ノルビ先任軍曹は4連装ロケットランチャーを構え直し、今度こそ正しい方向へと発射する。しかも3発一斉に。
木々が吹き飛び、辺り一面焦げ臭くなる。
「これで生きていたらバケ――」
ノルビ先任軍曹の言葉が途中で止まる。見ると、ノルビ先任軍曹の後頭部に矢が刺さり、その先端が鼻から出る。
「う、うわぁぁぁ!」
ヴェルナー=ニクラス新兵がパニック状態になって乱射する。その弾は木の幹で跳ね返り、偵察隊を襲う。
「馬鹿! 撃つな!」
次の瞬間、ヴェルナー新兵は額を射抜かれる。
「あそこだ!」
古参のクロポトフ=ニコライ曹長が敵を見つけ、手にしたMG―7軽機関銃を撃つ。AR―4と同じ5・45×45ミリ高速弾がばらまかれ、森林が破壊される。
が、クロポトフ曹長の胸に矢が刺さる。クロポトフ曹長は血を吐き、木の幹にもたれかかる。
「曹長!」
衛生兵でもあるラパラ伍長が駆け寄る。が、クロポトフ曹長は止める。
「駄目だ、来るな……」
「でも早く手当てしないと!」
「これは多分毒矢だ……俺はいいから逃げろ……」
しかし、ラパラ伍長も背中を射抜かれた。
それから4分、モリカワ中尉以外の隊員は全員死んだ。モリカワ中尉自身も、右足を射られた。
地面を赤くしながら、モリカワ中尉は這って移動する。毒が回ってきたのか、それとも出血による血圧低下なのか、意識が朦朧とする。木に寄りかかり、右太もものホルスターから、陸軍制式拳銃AP―12を取り出す。肉食獣の鱗を叩き割るため、威力に特化した10・5×20ミリ弾を16発装填し、素早く撃て、かつ安全性を重視した安全装置の無いダブルアクション式の反動利用型自動拳銃だ。
親指で撃鉄を起こし、引き金に親指を掛け、銃口を自分の口に突っ込む。よく自分のこめかみに銃口をあてて死ぬという話があるが、人間の自己防衛本能が働いて銃口がそれ、結果として死にきれない。銃口がそれにくく、脳幹を確実に撃ち抜く「銃口を口に突っ込む」方法が確実に死ねるのだ。
モリカワ中尉は、親指に力を込めようとするが、力が入らない。毒がかなり回ってきたのだろう。
「このまま、俺は――」
すると、誰かが木の上から飛び降りてきた。音を立てずに着地、振り返ってモリカワ中尉を見る。
美人だが、モリカワ中尉は恐れおののいた。何しろ肌が紫色なのだ。つい先程部下を全員殺した先住民族に違いなかった。
その人物は、後ろ腰の鞘からナイフを取り出す。衣装は、胸と股をギリギリ隠せる程の紫色の布切れだけだった。
モリカワ中尉は、最後に歌を聴いた。歌詞は全く分からない。自分達の言語ではなさそうだ。しかし、彼はそれが鎮魂の歌であると理解していた――
第28戦術偵察隊、帰還せず。グラズヘイム統合戦略司令部は、フニット山ふもとの森へ大規模部隊を投入。森を焼け野原にした後、石油採掘プラントとフニット戦線基地をそこに建設した。