ほわぁぁぁ!! う、噂の出どころ的に、き、期待しても良いのだろうか……!
失礼、取り乱しました。お気に入りや感想ありがとうございます。では、本文どうぞ。
「ん……っ」
くぐもった声が洞窟内に響く。
気だるい感覚をその身に纏いながら、C.C.は目を開いた。
何度も味わったことのあるその倦怠感に、死んで生き返ったことを理解しながらゆっくりと身体を起こす。
さらり、とした感触が肌を撫で下ろす感覚に自分の身体を見れば、何も身に付けていない自分の裸身に彼のマントが掛けられているという状態だった。
自分をこういう風にしたであろう犯人は、探さずともすぐに見つかった。
少し離れたところ、此方に背を向けてルルーシュが立っていた。
「…………」
その姿を見つけた途端、肌を刺す洞窟内の空気の温度が上がったようにC.C.は感じた。
だというのに、まるで寒いと主張するかのように腰元までずり落ちたマントを慌てて口元近くまで隠すようにして手で押さえた。
何をやっているんだ、と自分自身の挙動不審さにC.C.は呆れてしまう。
「どうやら、大丈夫なようだな」
そんな様子を横目で窺っていたルルーシュが声をかけてくる。横顔を僅かにC.C.に向けただけで、変わらず背中を見せたままだ。
内心落ち着かないC.C.だったが、それをおくびも出さずにいつもの不敵な笑顔を浮かべる。
「平気だ、心配ないと言っておいただろう? 相変わらず変なトコロでお前は甘いな」
おかげで助かったがな、と少しばかり皮肉の混じったことを言うC.C.に、しかし、ルルーシュは何も言わずに黙っている。
「…どうした?」
「何がだ?」
「いや……」
何が、と問われれば言い淀んでしまうが、どことなくルルーシュの様子がおかしいようにC.C.は感じられた。
不機嫌、とまではいかないが、どことなく固い、……ぎこちない印象の空気を感じるのだ。
長く―と言っていいのか分からないが―ルルーシュと付き合ってきたC.C.にして珍しいと言わしめる反応だった。
感情に直結する事柄があった場合、往々にしてルルーシュはそれが言動に出やすい。
不機嫌なら不機嫌だと、不満や怒りも、それと分かりやすいアピールがなされる。
もちろん、嘘が得意な男であるから、取り繕う必要がある場合はそれを悟られないようにしているが、見えないところ、取り繕う必要のないところでその感情を発散している。
だから、こんなふうに内心に溜め込んで、消化不良気味に感情を持て余しているのは、非常に珍しい姿だと言えた。
(私が死んでいる間に何かあったか?)
そう思った自分の思考で、C.C.は、はたと思い出す。
洞窟。意識のない自分。――名前。
「……ルルーシュ」
「何だ?」
「その、変なことを聞くが、……意識を失っている間、私は何か言っていたか?」
「……………………いや」
「そうか……」
どうやら、今回は名前を呟かなかったらしい。
ほっとしたような、残念なような、……やはり、少し残念か、とC.C.は思った。
摩耗していない記憶の中において、C.C.の真名を言ってくれたのはルルーシュだけだ。そのルルーシュにしても、その名を呼んでくれたのは後にも先にも、この時だけ。
せめて、もう一度だけ。
もう一回だけ呼ばれてみたかったな、とC.C.は儚げな笑みを口元に浮かべながら思った。
「ところで、お前は大丈夫だったのか?」
胸を疼かせる思いを誤魔化すように、C.C.はルルーシュにそう問い掛ける。
見た感じは大丈夫そうに見えるが、先程からのルルーシュの様子もあるので少しばかり心配になる。
何しろ、今回は『前回』より切羽詰まった状況だった。
まさか、あそこまで徹底的に身体をボロボロにされるとは思っていなかったのだ。
状況が状況だっただけに、あそこから意識を失った自分を連れて無傷で逃げられたとは思えなかったので、C.C.は見えないところでルルーシュが怪我をして、やせ我慢しているのではと考えたのだ。
「無事だ。かすり傷くらいは負ったが、それだけだ」
「あの状況でか? よく無事だったな」
「すぐ近くで銃を乱射している奴がいる中で、呑気に山狩りの真似など出来てたまるか」
それを聞いて成る程、とC.C.も思った。
確かにあんな人間台風が近くにいたら、いつ撃たれるか分かったものではないな、と。
(しかし…)
はっきり言って今回はかなり危ないところだった。
油断と言っていいか分からないが、『前回』を知っているためか、想定外の事態が起こった時の判断に遅れが出てしまうのだ。
今回は、ランスロットさえ凌げばそれで終わりとC.C.は思っていたので、敵の増援が来たと聞いたときは内心冷や汗をかいていたし、ルルーシュが撃たれそうになったときなど、本当に頭が真っ白になって何も考えられなくなった。
そんな状態でも、何とかルルーシュを守ることが出来たんだから、自分も随分板についてきたなと思い、C.C.は苦笑した。
「お前がやろうとしていることに口出しするつもりはないが、毎回これではとてもじゃないがやっていけんぞ」
挑発するような物言いを装って、苦言を呈する。
C.C.に向けるルルーシュの視線が鋭さを増したが、C.C.は構わずに続ける。分かっているんだろう、と。
「予測をいくら積み上げても予測にしかならない。想定外のことが起きたとき、それをリカバーできる要因が必要だ」
ナナリーという存在を除けば、ルルーシュの最大の弱点は人材だ。
利用できる駒は多くても信を置き、本当の意味で志を共にして戦う存在がいないのだ。
自身と相手の間に線を引き、それ以上踏み込ませない相手ばかり。故に懐に潜り込まれると、途端に脆くなる。
それをルルーシュはギアスを上手く使うことで補っているのだが、やはり限界がある。それにギアスの乱用はあらゆる意味で反動が大きい。
それは、ルルーシュも重々承知なのだろう。痛いところを突かれてか、表情が苦々しいものになっている。
「ふん、随分と肩入れするようなことを言うんだな。死ななければ、他はどうでもいいと思っていたんだが?」
「お前が危なっかしすぎるからだ」
鼻を鳴らし、適当に切り上げようとするルルーシュの発言にC.C.はピシャリと言い切る。
簡単に人を信用しないルルーシュが相手だから、以前のように基本興味がないというスタイルを貫いているため、あまりルルーシュの行動を諫めたり、心配したりすると逆にルルーシュに警戒されてしまう。
少し踏み込み過ぎたか? とC.C.は思ったが仕方ないと諦める。『前回』と同じになるとは限らない以上、ある程度釘を刺しておかないと、自分の身も持たない。
この身を盾にすることに躊躇いはないが、さりとて簡単に死んでもいいとは、今はもうC.C.は思っていないからだ。
「お節介ついでに、もう一つ助言してやろう」
丁度良いから、勢いに任せてもう少し踏み込んでみるかとC.C.は考えた。
いらんお世話と言わんばかりにルルーシュは顔を背けたが、ギアスについてだと言うと身体ごとC.C.の方へ向き直った。
「何か違和感を感じたりしていないか? 左眼が痛んだりとか」
「どういうことだ?」
「言葉通りだ。お前とて、何の副作用もなしに使える安易なものだとは考えていまい?」
ルルーシュは答えない。その沈黙を肯定と取ったC.C.は先を続けた。
「ギアスは使えば使うほど力を増していき、やがて、持ち主を蝕み始める」
「……具体的にはどうなる?」
「ギアスが暴走して制御できなくなったり、精神を侵されおかしくなって、場合によっては発狂する」
ルルーシュが息を呑む音が僅かに聞こえた。
「…ギアスを持つ者は、必ずそうなると? 俺もいつか狂ってしまうのか?」
「必ず、というわけではない。強大になるギアスに呑まれることがなければ、お前はお前のままでいられるだろう。だが……」
そこで失速し消えるC.C.の言葉。尻すぼみに消えていった彼女の発言からルルーシュは、それがどれだけ奇跡的なことかを理解した。
俯きルルーシュを見ないC.C.。ルルーシュもまた何も言わず彼女に背を向けた。
「…………責めるか? 私を」
言葉じりが、微かに震えた。
聞くつもりはなかった。相手が誰であれ、ギアスを与えるということはC.C.の罪だ。
いつか破滅すると分かりながら、自らの願望のためにその道に誘う、醜悪な魔女としての罪。
恨まれて、責められて、許されないことをしている。
だから、そうなることを恐れてはいけない。――恐れることは許されない。
なのに――――
沈黙が洞窟内に広がる。
ルルーシュは何も言わない。それとも、それが答えなのか。
洞窟内の冷えた空気とは、違った冷たさがC.C.を凍えさせた。
寒いな、とC.C.が諦めを孕んだ笑みを浮かべてそう思った時だった。
「――さっきは助かった」
不器用な感謝が。
「ギアスのことも、だ」
優しさが。
「だから、一度だけだ。……一度しか言わないぞ」
温かさが。
「――――――ありがとう」
C.C.に触れた。
正直色々と不安はあった。
自分がしていること。自分が置かれている状況。――ルルーシュのことも。
悩んで、迷って、怖くなって、自分の弱い心はすぐに逃げ出そうして、それを堪えて。
先の見えない暗闇のなか、一人怯えている子供のようだった。
――けれど。
ああ、とC.C.は思った。
ルルーシュだけだ、と。
これほど端的に、的確に。
自分の心を拾い上げてくれる存在を他に知らない――――……
「ははっ」
洞窟内に笑い声が木霊する。
色々な不安があっさりとどこかへ行ってしまって、C.C.は自らの単純さに笑ってしまった。
「何がおかしい……っ」
顔を上げれば、面白くなさそうに顔をしかめるルルーシュがいた。自分の発言を笑われたと思われたのか、僅かに怒りも滲んでいる。
「いや……」
眦に浮かんだ涙を指で払い、C.C.は笑みを浮かべた。…もっとも、素直な、とは言い難い笑みだが。
「なら、これは貸しだ」
「貸し、だと?」
ルルーシュの眉が寄る。
「そうだ。いつか盛大に取り立ててやるから、楽しみにしていろ」
「……呆れた女だ」
はあ、と溜め息をつきながら言うルルーシュ。それに心底楽しそうな笑みを浮かべてC.C.は返した。
「そうとも。私はC.C.だからな」
血に塗れ、ボロボロになった拘束服を着込む。
新しい拘束服が必要だな、と言えば、何故拘束服なんだという呆れた声が返ってきた。
やがて、入口の方が騒がしくなり、聞き慣れた声が聞こえてきた。カレンだ。
相変わらず騒がしいな、とそう思いながらルルーシュとカレンのやり取りを聞いていると、ふとこの時の事を思い出した。
あの時は、確かルルーシュはC.C.に「雪が何故白いのか?」というC.C.の問い掛けに、ルルーシュなりの返答をしてきたのだ。
だが、今回はそれがない。寄り道をしたために、C.C.がルルーシュのいた場所に着いた時には、もうルルーシュはそこにいなかったからだ。
もっとも、もし間に合っていたとしても、あの時と同じことをC.C.は言わなかっただろう。
なぜなら、C.C.はもう色を忘れた魔女ではないから。
かつての色を思い出すことは出来なくても。
染まりたい色が、ずっと目の前にいるのだから…………。
「ルル……っ、助けて……ぇ」
掠れ震える声が縋りつく少女の口から漏れる。
雨の中、悲痛な泣き声を上げる少女とは裏腹に辺りには荘厳な音楽が響いていた。
その報せを聞いたのは、シャーリーが恋する男の子とのデートの約束を無理矢理取り付けた後だった。
父が黒の騎士団の戦いに巻き込まれた。
そう聞いて、母と二人、父の元へ急いで駆けつけた。
迎えてくれた父は、とても無惨な姿だった。
全身を余すことなく包帯に巻かれていた。肌が僅かにでも見えるのは酸素挿入の為の管を入れる口元のみ。
集中治療室の分厚いガラスの向こう、大きな呼吸音が聞こえるそこが、まるで現実の中に置かれた夢のようにシャーリーには遠く感じられた。
無事だった人に話を聞いてみると、父ジョセフは戦いが始まってすぐに逃げるように言ってきたらしい。
普段であれば、まだ避難するような段階ではなかったがジョセフがあまりに必死に訴えるものだから、皆も避難することに決めたらしい。
しかし、本来ならまだ逃げるような段階ではなかったため避難は遅々として進まない。
それが増したのは、山が崩れてからだった。
慌てて全員が避難を急ぎ出す。遅々としてでも避難を始めていたため、多くの者が逃げ出すことに成功した。
ジョセフも早々に逃げ出していれば、こうはならなかっただろう。
しかし、現場でそれなりの地位にいたジョセフは最後まで避難誘導を行い、そして、巻き込まれた。
逃げる寸前だったので、完全に巻き込まれはしなかったが、それでも津波のように押し寄せる土石流に車ごと流されてしまった。
ジョセフの容態は、意識不明。
そして、脊椎損傷による左半身不随だった。
雨の中、シャーリーはルルーシュに語った。
怖い、と。
黒の騎士団の、―いや、エリア11で起こっている争い事は、シャーリー達一般人には遠い出来事だったのだ。
例え、すぐ近くのシンジュクゲットーで虐殺が起こってもシャーリー達の日常は変わらない。
普通に友達とお喋りしながら、部活に励み、後でその事を知り、現実味のない感想を抱くだけだった。
しかし、今回その日常が侵食された。
すると、途端に怖くなった。
これから先も、またこんなことがあるんじゃないかと。
今度は、自分や友達を、――目の前の男の子を巻き込むんじゃないと思うと気が狂いそうだった。
怖くて、怖くて、だから、縋ってしまった。
浅ましい女、と自分を嘲笑う自分がいる。
父が死にそうになっているのに、その悲しみを利用して気を惹こうとするなんて、と。
でも、止まれない。
自分の中の弱い部分が、温もりが、目の前の男の子が欲しいとねだっている。
雨に濡れて冷えた身体が寄り添われる。
僅かに残る熱を共有しようとお互いの口唇が触れようとして、――――――肩を押し返す優しい感覚に遮られた。
「シャーリー……」
自分の名を呼ぶその声に、シャーリーの中の熱が急速に冷えていく。まるで、夢見心地から覚めたように雨の降り注ぐ音が耳を叩いた。
「え、……あ、ご、ごめんね! わ、私ってば何やってるんだろっ、ルルには何も関係ないのに、私――」
「シャーリー」
しどろもどろになって動揺するシャーリーの名を、ルルーシュはもう一度呼んだ。
その、いつもとは違う、低い、しかし、人を惹き付ける声音にシャーリーも言葉を止めてルルーシュを見た。
「俺はずっと死んでいた」
「え――?」
「多くのことに苛立ち、どうにかしたいと思っているくせに、何も出来ず、唯々自分が生きていると嘘をついて誤魔化していた」
「何を、言っているの?」
突然、訳のわからないことを言い出したルルーシュにシャーリーは戸惑いの声を上げる。しかし、ルルーシュは構わずに続ける。
「君の想いも、会長やリヴァルやニーナといる時間もとても温かく気持ちよくて、嬉しかった。だが――」
同時に苦しくもあった。
その言葉にシャーリーは目を見開いた。
「そのままでいいんだと、このままでいいじゃないかと、全てを忘れて目の前の幸せに浸り続けることの何が悪いと、そんな風に思ってしまう自分がいて、それが、そう思ってしまう自分が、堪らなく嫌いだった」
「ル、ル?」
「俺は君が思っているような人間じゃない」
一切の甘さを捨てた冷たい声が、シャーリーの胸に突き刺さった。
「これ以上踏み込むな」
そっ、と冷たい手がシャーリーの手に触れた。
「君が傷つくだけだ」
その手に傘を握らされる、――同時にシャーリーが彼に渡したチケットも。
思わず声をかけようとして、ルルーシュの顔を、その瞳を見て何も言えなくなった。
「さようなら、――シャーリー」
静かに別れが告げられる。
全身を雨に濡らして告げるその中で、その瞳だけは、しかし。
とても乾いていた。
ルルーシュがC.C.を慰める時の台詞って良いですよね。
マオの時の「契約だ」は本当におおっ、と思いました。
慰めも哀れみもノーサンキューなC.C.の心に寄り添ってストンと入り込むような台詞が言えるルルーシュ。
そんな格好いいルルーシュが少しでも書けたらと思います。
しかし、ルルC小説と豪語しながら、雪白発言といい本名イベといい、なぜルルCイベントをことごとく潰しているのだろうか……。いや、でも、ちょっとはルルCしたよね? ね?
お次はマオ偏。C.C.の闘いになります。