「あーあーあー、えーっとみなさん聞こえますか?どうやら、大丈夫みたいですね。よかった」
白い軍服の青年はマイクチェックを済ませると、もう一度咳ばらいをして、目つきをキリッと整えた。
「えーっと、お疲れのところ申し訳ありません。少し私に時間を頂けると幸いです。勿論、強制ではありませんので、聞き流していただいても構いません。お疲れの方もいるでしょうし」
そうとは言ったが、青年に皆が注目していた。それに、そういう言動は逆に人の耳を傾けさせる。
それを狙ったのだとしたら、面白い話だが。
ある程度、ざわつきが消えてから、深く頭を下げて青年は口を開いた。
「では……こんにちは。私は海軍特殊災害対策部横須賀支部の
一気に大衆がざわついた。
「……あっ、ラクちゃんのお兄さんだ」
私もその人を知っていた。というより、この町では知らない人は少ないと思う。
と言っても、私が直接会ったことは……一度くらいだと思う。見覚えのあるその顔はラクちゃんのお兄さんだ。
海軍士官学校を首席で卒業した秀才。人柄もよく、町では結構有名な人だった。
「この場で海軍を代表して、被害を水面下で止めることができなかったことをお詫びさせていただきます。大変申し訳ありませんでした」
帽子を脱ぎ、もう一度深く頭を下げた。
そして、顔を上げると帽子を被り直し、手を腰の後ろで組んだ。
「さて、私がこの場に来た理由は、先日の事件について、その詳細を皆さんに公開するためです。みなさんは被害に遭われた立場。知る権利はあって当然だと私は考えます。故に、今後のみなさんの生活のために包み隠さずすべてお話しします」
あぁ、なるほど。こういう形で発表するのか。
妖精との話の中にあったことだ。海軍は今回の一件を何らかの形で公表することになると。
恐らく、深海棲艦の存在もすべて公表する。
『そうなると、ある可能性が持ち上がるのだが…』と、それは妖精もまだ確証がなかったらしく、適当にはぐらかしていた。
「まず、みなさんの町を襲ったのは、『深海棲艦』。ご存知の通り、一〇〇年前に我々人類を滅亡の危機にまで追い詰めた伝説の脅威です」
「深海棲艦だと……!?」
「そんな、とっくに絶滅したはずじゃ……」
「100年前の大戦で深海棲艦すべてを倒し、我々は勝利しました。そのことはよくご存じかと思われます。何故、彼らが今になって復活してしまったのか、その理由は今のところ分かっておりません。しかし、兆候こそ現れていたため、やや迅速な対応をとることができました」
やや迅速な反応か。
兆候が現れていたのなら、避難勧告でも出せばよかったものを、そうできない理由でもあったのか。
だが、被害者が一人も出なかったという点では確かに海軍の対応はよかったのだろう。町はこんな風になってしまったが。
海軍としては、深海棲艦の復活など認めたくはないだろう。
100年前に全滅させたはずの脅威だ。その功績で一時は軍を捨てたこの国に未だに海軍が健在なのだ。
私たちは間違ってました、深海棲艦は実は生き残ってました、ごめんなさい、で済む話ではない。
今からどうせ話すのだろうが、深海棲艦には人間様の兵器は通じないのだ。
艦娘を全て解体していることしか知らされていない国民は大混乱するだろう。まあ、技術はこっそり残っていたので私が艦娘になれたのだが。
「100年経った今でも、深海棲艦については不明な点があります…と、あまり長い話をしていても疲れるでしょうから、早速、今後の我々の方針について説明させていただきます」
そう言って、話を一度切ると、ラクちゃんのお兄さんはやや早口で話を進めていった。
曰く、深海棲艦には現代の兵器をもってしてもそれほどのダメージを与えることができない。情報こそありますが、我々は立ち向かう術を持ってない。
曰く、奴らは『浸蝕域』と呼ばれる原因不明の黒い海より発生し、基本的には深海に潜んでいるが、水上で艦隊を組み行動すると。
曰く、原因は100年前から言われているが、最後の人類間の大戦によって散ったありとあらゆる国家の海兵たちの怨念や無念といった負の感情だということ。
曰く、付喪神というものがあり、大戦中に亡くなった方々の強すぎる想いが、海底に沈んだ軍艦と結びつき、鉄の体を持つ存在を生み出したと。
そして、先の戦で考えられた深海棲艦の発生の原因である、同時にこうとも言われたと。
「負の感情に対を成す、正の感情を有する存在もあるのでは、と。その結果生まれたものが――――――彼女たちです」
地下施設での妖精との会話が脳裏を過る。
『可能性って?』
『まあ、君には遠からず訪れることかもしれない。海軍側もすでに作り出しているかもしれないということだ』
『え?もしかしてそれって…?』
「……みんな、こっちにきなさい」
お兄さんの声に従い、三人の少女が朝礼代の前に並んだ。
「ふぅ、やっとですかご主人様。待ちくたびれましたよ~」
欠伸をするような素振を見せるピンク色の髪の子。
「恥ずかしいところ見せないようにしっかりしなきゃ……あっ、わぁぁぁ!」
意気込んだはいいが、何もないところで躓いた青い髪の子。
「はわわ!五月雨ちゃん、危なかったのです……」
その子を転ぶ寸前で止めた茶髪の子。
突然の幼い少女たちの出現に大衆は当然ざわめき始めた。
私の心もそうだ。どちらかと言えば驚きと言うよりも、そこに存在していたことに対する感動。
このとき、彼女たちが何者か、すでに気が付いていた。
「――――あの子たちが…」
そう、かつて私が憧れ続けた、蒼き海を取り戻した女神たち。その姿格好は一切の資料が残っておらず、彼女たちの手記や記録から、どんな姿だったのか夢を馳せる日の報いがようやく訪れたような気がした。
立ってる。動いてる。生きてる。
私の目の前で、在りし日の伝説が生きている。
鼓動が早まる。体が今にも飛び出して彼女たちの下に駆けつけてしまいそうだ。
『あぁ、君の予想通りだろう。彼女たちは存在している』
妖精の声が脳裏で再生されていく。
「かつての大戦で人類を護った存在、海の女神、それが彼女たち『艦娘』です」
それが不思議と、お兄さんの声と、
『君と同じ存在…艦娘はね』
艦娘という共通点で重なった。
「―――綾波型駆逐艦《漣》です。えーっと……ヨロシクオネガイシマス」
「―――白露型駆逐艦《五月雨》っていいます!よろしくお願いします!」
「―――暁型駆逐艦《電》です。どうか、よろしくお願いいたします……」
各々がその名を名乗り、体躯に見合わぬ見事な敬礼を見せる。
だが、周囲の大人たちはその敬礼なんかよりも、その容姿の方が気になるらしく、いつまでもざわめいていた。
「ほ、本当にその子たちが艦娘なのか……?」
「うちの一番下の子とそれほど変わらないように見えるぞ……?」
まあ、当然の反応だろう。実際、私も驚いているのだ。
駆逐艦娘が幼い容姿になるのは私も知っていた。だが、幼いの基準がいまいちパッとしないので、どのくらいかと思っていたら小学生くらいの子まで出てきた。
「ご安心ください。正真正銘の艦娘です。今は安全のために艤装を外していますが……先日の襲撃の際にも早速活躍してもらいました。陸上の被害が今のラインまで留まったのは彼女たちの働きあってです」
昨日からいたのか。
私はずっと沖合にいたから分からなかった。思えば、イ級が上陸していた。他にも上陸していたはずだ。
それを撃退するのは恐らく人間じゃ無理だ。ちゃんと考えてみれば分かることだった。
妖精はそういうところから予想を立てていたのだろうか?
「恐らくみなさん、艦娘を見るのは初めてでしょう。信じられないのも無理はありません。かくいう私もそうでした。みなさんの心境はきっと『こんな子どもたちが戦えるのか?』でしょう。しかし、彼女たちは見かけによらない力を秘めている」
「本当かよ……」
「少女の姿をしているとは聞いていたが、実際に見るとな……」
少女と言うより、もはや幼女だ。
「もし、理解に苦しむというのならば、理解していただく必要はありません。近いうちに結果で示すことになります。彼女たちがあなたたちを護れるだけの力があることをきっと理解していただける日が……その日はきっと近くまで迫っている」
お兄さんは徐々に言葉に込める力を強めていった。
「もはや迷っている暇はありません。今一度、この時代に艦娘の艦隊を結成し、みなさんをお守りします。私からのお願いは、私たち海軍を、艦娘を信じてほしい。それだけで―――」
「―――――――おい、ちょっと待て」
大衆の中から一人の男性が立ち上がり、朝礼台の前まで歩み出た。
目を凝らしてみれば、見覚えのある。後姿だ。いや、見覚えがあるどころじゃない。
今朝、見送った背中じゃないか?あれは…
「お、お父さん……っ!?」
どうやら、私の父はラクちゃんのお兄さんに物申したいらしい。
いや、私の父のことだ。何が言いたいのかは分かる。私がこれまで鵜呑みにしてきたことだろう。
艦娘という存在に対して、彼女たちは伝説として見られているにも拘わらず、その素性があまりにも謎すぎる。
だが、今日こうやって彼女たちは再び国民の前に姿を現した。
人がどんな姿を思い描いていたのは見当がつかないが、確かに衝撃的ではあっただろう。なにか言わずにはいられない。
「私は納得いかない。力のある男たちが戦うならまだしも、その子たちは何だ。うちの子よりも小さいじゃないか?そんな小娘を戦場に送るだと?馬鹿馬鹿しい。黙ってみているという方が無理だ。みんなもそう思わないのか!?」
娘である私の口から言わせてもらえば、父はいい人だ。
前も言ったが、言いたいことははっきりと言う。ややきつい口調になってしまうことが多いため、周囲は父を厳格な人だと誤認するが優しい人だ。
そして、父はなによりも親であろうとする。そして、父であろうとする。
それこそが父を父たらしめるものなのだろうが、その域が時々超える。
「そもそも、その子たちの親はどうした?親が居てその子たちを戦場に送り出すことを認めたのか?それとも孤児か?親のいない子たちなら兵器同然に扱っても大丈夫だというのか?確かに私たちは無力だ。深海棲艦に立ち向かうことはできない。だが、私も親だ。小さな子どもたちを危険に晒すのを黙って見過ごすわけにはいかない。なあ、
父がそのように言うと、お兄さん―――月影さんはまるで今まで無理やり誠実そうに整えてたかのように、表情を崩してフッと笑った。
そして、懐かしむように父を見ると、子どものようなあどけなさを見せた表情をしていた。
「――――お久し振りですね、竜さん。相変わらず子煩悩なようで……昔は無茶をしてはあなたによく叱られたものだ。娘さんはお元気ですか?
「あぁ、お前に似て無鉄砲な子だが、お前と違って真っすぐで優しい子に育った。それと、まだ説教食らいたいか?俺の質問に答えろ。話を捻じ曲げるな」
「あなたには勝てそうにありませんね……いいでしょう、説明します」
諦めたように笑うと、帽子のつばを少し下げて、再びそこに海軍の軍人としての顔を整えると、その口を開いた。
「彼女たち、艦娘たちは100年前と同じように、海軍の持つ『建造システム』で肉体から艦娘になるように作り出された存在です。つまり、親などいません」
ざわめきではなく、静寂。意味を理解してか、意味が理解できないでか、誰もが言葉を失った。
父でさえ、しばらく押し黙って複雑な表情をしていた。
だが、すぐに表情に怒りを露わにして、父の優しい顔は激しく歪む。
「……なんだそのシステムは……人道はどこにいった?倫理はどこに行った?お前は士官学校で道徳を忘れろと教わったのか!?兵器になるように生み出したということだろう?お前たちは生きた兵器を作り出したのだろう!?命を何だと思っている!?」
「失礼ですが、私は彼女たちを兵器とは思っていません。一人の人間として扱っています。それと……存じていなかったかもしれませんが、艦娘はかつて大戦中に沈んだ戦船の魂を持つ存在です」
お兄さんは父の声を遮るように大きな声でそう言い放つ。
「簡単には死にませんし、自ら戦う意思を持っています。当然、私は彼女たちを指揮する立場として彼女たちを誰一人として沈めるつもりはございません」
ふぅ…と息を吐いて、一度呼吸と選ぶべき言葉を整える。
「……確かに、艦娘は人間に兵器の力を持たせたようなものです。そうなるように生み出した。それは人としてどうなのか。私も悩みました。でも、竜さん。艦娘を建造するには欠かせないものがあります。それが何かご存知ですか?」
「……なんだそれは?」
「それは……『故郷を守りたい』『大切な者たちを護りたい』というかつての英霊たちの強い想いです。彼女たちはそれをその体に背負っている」
ふと、身体の奥底で何かが疼いた。
英霊たちの強い想い。その身を背負うのが艦娘。だとしたら、突然騒ぎ始めた動悸のようなこの高鳴りは、私の身体のうちに眠るそれが共鳴でもしたのだろうか?
「姿こそ、少女です。ですが、その体は多くの英霊たちが紡ぎ出した強さを、その心は多くの英霊たちの鋼の堅さを持ちます。英霊たちの祈りが、願いが、この国を護れと紡ぎ出した存在を否定してやってくれないでほしい。彼女たちを信じてほしい」
これでは、いけませんか、と父に尋ねた。
一気に捲し立てたお兄さんの威圧に父はやや押されているらしかった。お兄さんは本気で父を説得しようとしている。いいや、この町を始めとして平和に淘汰された世界を本気で説得するつもりなのだろう。
だが、艦娘というものは不確定すぎる。
英霊たちの想いだの祈りだの願いだの、そんな言葉言われたところで、多くの人はその英霊が散った戦争を実際に知るはずがない。
言葉がどれだけ力を持とうが、言葉は存在以上にはならない。実際に目の当たりにしなければ、彼らの思いの強さなんかほとんど伝わらない。
何より、先の人類の大戦は、艦娘と深海棲艦の大戦によって、塗り潰されてしまっている。
歴史上の小さな出来事でしかないくらいに時間が経ってしまった。その時間の経過が考えや意識さえ変化させた。
結果として、目の前にあるのは「艦娘」と呼ばれる幼い少女たち、それだけになってしまうのだ。
それは私だから分かる。私は艦娘だけを愛していた。艦娘の事だけを見ていた。
艦娘になって分かったのだ。私と言う名を支え続けた英霊たちの、この身を焼き焦がすほどに熱い想いが。
身体を突き動かす強い想いが。何に変えても護り抜こうと考えてしまうその祈りが。
だが、それは常人には理解できない。到底世迷言だと馬鹿にされる。たとえ艦娘が伝説となって語り継がれる時代であっても。
父を説得するには至らなかった。
「……過去の英霊なぞ知るか。私は今の話を――――――――――――――」
だが、艦娘を理解する人物がいた。彼女たちの根幹にあるものを理解する者がいた。
その人が、その見た目に見合わぬ鋭い声で父の言葉を遮ったのだ。
「もうお止めなさい、竜。みっともない姿をさらすんじゃない」
「……母さん」
父と私が目を向けた先にいるのは、車椅子の上に座っていた一人の老婆…私の祖母だった。
その眼はいつものような穏やかさはなく、これから子を叱るかのような力強くどこか怖さを感じる目つきをしていた。
「お前はどこを見ている?あの子たちを見てごらん。確かに姿こそ幼い。だけどね、 まっすぐと芯が通っている。逞しいじゃないか。一端の男よりずっと逞しい。強いよあの子たちは、大人の心配なんかいらない」
大衆の中を進みながら、そう語る祖母の姿を誰もが目で追っていた。
「お前は子どもを心配しすぎだ。普段はほっぽりだして海に出るくせに、ふとした時は嫁にやる気もないと言わんばかりに過保護すぎる」
父の隣まで行くと、その背中を杖で思いっきり叩いた。
「いつか子は巣立っていくんだよ。私たちの知らないところで、私たちが知っている姿よりずっと逞しくなって」
「……」
「お婆ちゃん……」
祖母は項垂れた父にふんっと言ってやると、満足したかのように優しい目つきに戻って車椅子を進めていった。
「どれ、お嬢さんたち。私に顔を見せてもらえるかい?」
三人の艦娘の真正面まで行き、優しい声でそう尋ねた。
事態の進展に着いていけてなさそうだった三人はお互いに目を見合わせていたが、なるようになれと言わんばかりに気を付けをした。
「はいっ!」
「ほいさっさー」
「はわわ……」
その姿を見て祖母は表情を解いた。にこりと笑って、ふふふと声を出した。
「変わらないねぇ。強さの他に、目にはちゃんと優しさがある。いい子たちだ。お嬢さんたち。私の祖母は艦娘だったんだよ」
「そ、そうだったんですか?」
青い髪の子が驚きの声を上げた。その後、しまったと言うかのように口に手を当てていた。
「いいんだよ、別にそう気を張らなくても……そう。それも、あなたたちと同じ駆逐艦。戦い抜いて、艦娘をやめて、祖父と出会い、母が生まれた。そして母が私を生んだ」
「ほえー、感慨深いものがありますねー」
祖母の言葉に完全にフリーダムになった子が一人。
ピンクの髪の子だが、もはや二人と並ばずに祖母の周りをぐるぐる回って、いろんな角度からまじまじと見ていた。
「ふふっ、面白い子たちだ。だから、あなたたちには忘れて欲しくないことがある。あなたたちはもう船ではない、艦娘。人間と同じように二本の足で立っている。そして、あなたたちには人間と同じように未来がある。誰かと家庭を持つかもしれない未来が」
「か、家族ですか…?」
「そう、家族。戦船だけの存在から解放される日が必ずやってくる。戦いもいつか終わり、必ず本当に護りたいものができるはずだ。だからこそ、絶対に沈んじゃいけない。絶対に諦めちゃいけない」
祖母の言葉が強く響く。
項垂れていた父も顔を上げ、ただ祖母の言葉に耳を傾けていた。
「戦い続けるあまり、大事なことを忘れちゃいけないよ。あなたたちは生きているのだから……」
しばらく、三人は圧倒されたかのように呆然と立ち尽くしていた。
やれやれと言った表情で、お兄さんは溜息を吐くと、
「……返事」
「「「はい!」」」
そう言って、三人は我を取り戻し、元気のいい声で返事をするのだった。
そんな様子を見て、祖母はにんまりと笑うと、一転して刃物のような目つきでお兄さんを睨みつけた。
「……それと、長男坊。しっかりと守りなさい。一人でも沈めるんじゃないよ?私は化けてでもでるからねえ!?」
ここから見ていても感じる。
怖い。
「ははは、敵わないや……勿論、そのつもりです。そんなことをしてしまった時には、腹を切って死にましょう」
祖母はその言葉に首を横に振った。
「それと、あなた自身もだ。あまり早く死ぬんじゃないよ?婆は若いのが成長していくのが楽しみなんだ」
「勿論、この子たちを護る使命があります。簡単には死ねません」
「よろしい。みんなも納得したでしょう?信じてやりなさい、この若者とこの子たちを」
祖母はゆっくりと振り返ると、広場にいた人たちにそう呼びかけた。
しばらく語り合う声が聞こえていたが、少しすると、
「……婆さんが言うならな」
「ああ、信じよう」
「うん、とても頼もしく思えてきた」
「少し、心残りだが、悩んでいて解決するわけでもないしな」
「てか婆さん、艦娘の孫だったんだな。俺初耳だぞ」
そんな声で溢れ返り、この場にいる町の人たちがお兄さんたちを信じようと団結することになった。
「お婆ちゃん……なんかかっこいい」
「…………」
父は座ることもせずにしばらく立ち尽くしていた。不意に後ろから肩を叩かれて振り返ると、そこには漁師仲間の玄さんがいた。
「竜さん、賭けてみようじゃねえか」
「玄さん、でも俺は」
「とりあえず、信じてみろってんだ。船乗りが船を信じねえでどうする?おっと……形こそ子どもだが」
形こそ子ども。父が頷けずにいるのは恐らくそのせいだ。
あんな姿の艦娘がとても化物を圧倒する力を持っているとは俄かには信じがたい。
「まだ納得はできません。少し時間をもらいたい」
「じゃあ、いつも通り仕事でもするか。ほら、船でも見に行こう。昨日のでやられてねえか心配でな」
「……そうですね。行きましょう」
そう言って、父たちは港の方へと脚を進めていった。一度止まって、三人を一度だけ父は見た。
その眼にはまだ疑いの色が残っていたが、父は何も言わずにその場を去っていった。
「では、これくらいにして私たちは戻らせてもらいます。多くの仕事がありますので。失礼します」
大きくお辞儀をすると、お兄さんは朝礼台から降りて三人の艦娘の前に歩み出た。
「五月雨。お婆さんの車椅子を押してあげなさい。この場を収めていただいたお礼です」
「はい!お任せください!さあ、お婆ちゃん、どこにでも連れて行ってあげますよ?」
「ふふふっ、優しいねぇ~。じゃあ、公民館まで送ってくれるかい?」
「公民館ですね!分かりました!」
祖母を送っていく艦娘を見て、茶髪の子が笑った。
「……五月雨ちゃんはお婆ちゃんっ娘がとても絵になるのです」
「そうだね~。で、ご主人様、漣たちはどうするの?今べた褒めされたから、ちょっとやる気湧いてきたよー、ktkr!」
「司令官さん、電もなのです!今ならどんな敵とも戦えそうなのです!」
一悶着あったが、お兄さんはこの町の人たちの信頼を得ることができたみたいだ。
まだ、お兄さんに会うのは早すぎるだろう。
あの子たちにも……まだ会うのは早いだろう。憧れであって、今すぐサインをもらいたいくらいだが、今は事情が事情だ。
何はともあれ、彼女たちは艦娘だ。頼りになることは自分自身が証明している。
彼女たちに任せても大丈夫だ。私も、彼女たちを信じることにしたい。
同じ艦娘なんだから、きっと大丈夫だ。今はまだ一緒に戦えなくてもいつかは手を取り合って前に進めるはずだ。
「ははは、じゃあ、本部に戻ったら早速哨戒をしてもらおう。その前に叢雲の奴を探さないといけないんだが」
「そう言えば、ずっといなかったね~、うっくぅ…探すこっちの身にもなってよぉ~……」
「すぐに探して哨戒に行くのです!やるのです!」
「お、おい!ちょっといきなりどこかに行くな!」
……多分大丈夫だろう。
・ネーミングセンスが欲しい
・漣の口調が難しい
・サブタイトルが思いつかない
提督になりそうなこの青年の名前は
相変わらず適当です。叢雲の親族っぽくした結果です。
そしたら、厨二っぽくなったけど、提督だしいいや。