艦娘が伝説となった時代   作:Ti

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双璧

 

『――――――大佐っ、偵察機より映像届きました!艦隊数は二!』

 荒々しい声の響く艦内で一人静寂を保って机に肘をつく青年の下に、焦燥に駆られる通信が届いた。

 

『空母ヲ級一、空母ヌ級四、重巡リ級二、雷巡チ級二、駆逐イ級三っ!!』

 

「……報告通りか――――了解した。動けるイージス艦を出してくれ」

 小さく息を吐いて背伸びをする。机の上の別の通信端末を操作しながら、青年は指示を出す。

 

『イ、イージス艦ですか。あれは全く歯が立たなかったじゃないですか?』

 

「ミサイル防衛システムを使う。落とせなくても当たればなんとかなるはずだ。水上戦ならともかく、対空戦ならばイージス艦でも戦える。艦娘の手助けにはなるだろう」

 少しの間をおいて、電信員の声の落ち着いた声が返ってきた。

 

『今動けるのは……二隻のみです。急いで配備します。それと他には―――――』

 

「ああ……ああ、そうだ。そういうことで頼む――――――とうとう来たか」

 通信を切り、別の通信機に少女の声が飛び交った。

 

『――――ごっ主人さまー、敵艦載機見つけたよー』

 

『うわぁ、すごい数です……私たちだけで大丈夫でしょうか?』

 

『やるのです!電たちが頑張るのです!』

 

『あら、珍しいわね。電が意気込むなんて……その意気よ。それで?』

 やる気に満ち溢れた彼女たちの声を聴いて、青年は机の上に置いていた軍帽を深く被った。

 一度深呼吸をして、脳内に送る空気を新鮮なものに入れ替えていく。

 

「対空戦を展開する。漣、五月雨、イージス艦で敵艦載機を迎撃、本土への爆撃を阻止する」

 提督として、指揮官として、この少女たちを守りながら、この町を護らなければならない。

 だが、戦いに送り出す者として、その両肩は妙に重い。そろそろ慣れそうな自分が怖いが、いちいち臆している暇もない。

 両方守れるように戦術を練るのみ。人間として、今できるのはそのくらいだろう。

 まったく、こっちは前線で戦っているというのに、上は嫌な重圧を与えてくる。

 今はそんな愚痴を吐いている暇もない。

 

「電、叢雲、お前たちは敵艦隊を迎撃。無理をする必要はないが、空母に損害を与えれもらえると助かる」

 

『了解したわ。漣、五月雨、私の町を任せたわよ?』

 

『はいっ、お任せください!』

 

『ほいさっさー、よーし、やるよ~!』

 

『電、あまり無茶な行動はダメよ。私にしっかりついてきなさい』

 

『はい、なのです!』

 

 深く息を吸え。余計な心配や不安さえ胸の中で騒ぐ嫌な空気と一緒に吐き出せ。

 今は信じろ。

 伝説の名を引き継いだこの少女たちを。

 

「よしっ、では作戦開始だ……暁の水平線に勝利を刻んで来い!!」

 

 

 

 

     *

 

 

 

 

「―――少し、タイミングを見計らう。恐らく、ここにきている艦娘は二手に分かれるだろう」

 

「本土防空と、艦隊迎撃ですね?」

 カタパルトの足のかかり具合を確かめながら、私はそう答えた。

 

「ああ、その通りだ。君は後方の敵艦隊、空母ヲ級の横っ腹を突け。空母を叩くのが一番早い」

 

「前と同じですね。旗艦を叩けば、敵艦隊は司令塔を失い、帰っていく」

 

「駆逐艦にできることはその程度だが……今回は戦艦はいない。今回の空母程度の装甲も駆逐艦の主砲で十分に貫ける」

 

 今回の艤装は前回とは少し異なっていた。主砲ではなく高角砲。主砲より威力が少し落ちるが、連射性が少しだけ上がる。

 電探も少しグレードアップしているらしく、いつもより音の冴え渡りが違う。

 

「とにかく、君は駆逐艦の高速力を生かして敵艦隊に奇襲。魚雷で攪乱させ、その隙に砲撃で徐々に損害を与えればいい。奇襲を成功させるんだ。それだけで敵を混乱させることはできる。戦況は少しながら有利になる」

 

「分かりました。準備できています…」

 さあ、静かに燃えろ……私の中に眠る魂たちよ。

 今はまだ騒ぐな。戦場へ連れて行ってあげる。

 だから―――力を貸して。

 祈りを、願いを、力を―――爆発させろ。

 

「―――――駆逐艦《吹雪》、出撃します!!」

 

 答えは海にしかない。

 

 

 

 昼過ぎの海は少しだけ騒がしかった。風が強く波も高い。容赦なく打ち付ける潮風が冷たい。

 だが、空は打って変わって晴天。水平線まで雲一つないのが何とも季節外れだ。

 その水平線から黒い影が徐々に目に映り始める。空には黒い虫のようなものまでたくさんいる。

 昼間の戦闘だからやや前回とは違うし、敵にも見つかりやすい。

 

 ふと、視界の端に海上に立つ煙が見えた。恐らく「彼女たち」の戦闘が始まっている。少しだけ好都合だ。

 敵にどれほどの情報があるかは当然分からない。海軍にのみ艦娘が存在しているという情報までか、もしくは私の存在もばれているか。

 なんとなく後者な気がするが、私も海軍所属と思われているのが妥当だろう。だとすれば、前方の敵に私がいると考えるはず。

 

「――――両舷第三戦速」

 速度を上げたのはある予感がした瞬間。

 やや出遅れたのを悔やみながらも私は速度を上げた。

 

「気付かれた……電探にかかったのかな?」

 急速に接近してきた黒い影。両腕に黒い装甲と砲塔に魚雷管。

 白い牙の生え揃った口から黒い砲塔が覗いている。

 極めて人型に近い。背中から伸びる黒いチューブが両腕の艤装に接続している。青い目には狂気が深く刻み込まれていた。

 正面から向かってきてるのはリ級か……簡単に仕留められる相手じゃないけど。

 

「お願い、当たってください―――――ッ!」

 あくまで牽制するための砲撃。反航戦のこの状態。

 上手くやり過ごして一気に敵の本陣に突っ込む。

 鈍く響く鉄の音。

 リ級の装甲をかすめる。少し損傷を与えたが、すぐに反撃を受ける。

 叫び声を上げながらその感情を高めたリ級の砲撃が私が通った後の海を割っていく。

 

「……あなたに構ってる暇はないの」

 鉄が突き刺さるような音がして、リ級の足元から何かが吹き飛んだ。

 恐らく、機関部に命中した。船速が落ちていき、それだけを確認してただまっすぐ進んだ。

 

 敵艦隊が本格的に目視で見える距離までやってきた。

 手前にヌ級が三隻とその奥にヲ級。

 こちらに振り向く前に魚雷を隊列に撃ちこむ。この距離なら十分だ。

 

「魚雷発射用意っ!!」

 

 ふと、大きな帽子のような艤装を頭に乗せた深海棲艦が私を見た。

 白い髪、白い肌。青い目。とてもきれいな顔をしている。

 まるで深海の水のような冷たさ。そんな色を感じさせるヲ級の目が私を捉えていた。

 

 突然、目の前に壁が現れたような錯覚を見た。魚雷を着水させる水面から目線を上げて空を見る。

 真黒な壁のように感じたが、実際それは壁に見えるほどの数ではなかった。

 大量の黒い機体。青い空を汚す鳥でも虫でもない鈍い光を放つ飛行体。

 その緑色の複眼のような目と一瞬だけ目が合った。途端に、飛行体の高度ががくんと下がり、急降下する。

 

「わっ――――あっ」

 一瞬で私の視界は爆撃の水柱に包み込まれていった。

 

 

 

     *

 

 

 

 

「――――なのですっ!」

 変な掛け声と共に私の背中を守る子がイ級に砲撃する。

 

「ガァァアッ!!」

 見事に命中し、イ級は変な悲鳴を上げながら爆発する。

 そんな光景を横目で流し見しながら艤装を操作し、魚雷管を水面に近づける。

 

「邪魔よ!!」

 空を飛ぶ虫は一匹もいない。

 撃ち落とされる心配のない水中を駆けていく槍はまっすぐにクラゲのような深海棲艦の船底に突き刺さる。

 

「――――ッ!!」

 ヌ級は悲鳴を上げる間もなく爆発して海上に黒い煙が立ち上る。

 艦載機の破片、ヌ級やイ級の残骸がその辺りを漂い、なんとグロテスクな光景だろうか。

 地獄絵図とはこのことだろうか?全く戦場はあまり好きにはなれないが、私の中に宿る魂はこの身体を突き動かす。

 難儀なものだ。艦娘とやらも。

 

「ふぅ、なのです!」

 

「息をついてる暇はないわよ。ようやくヌ級一隻落としたんだから。ほら、次が来たわよ」

 ようやく青さを取り戻したと思った空を再び虫の群れどもがのこのこを汚していく。

 緑色の複眼をにらみつけて標準を合わせると、主砲が火を噴いて空を薙ぐ。

 

「はわわわっ!」

 電も随分と動きがよくなった。まだ動きにぎこちなさが残るし、愛らしい声を上げて慌てるのもいつまで経っても直りそうにない。

 対空戦を続けながら、私の目は愛情で重油を漏らしながら息を繰り返す生き物を捉えた。

 

 全く目障りだ。

 

「電、右のイ級。大破状態でも残しておくと面倒になるわ。トドメを刺しておいて」

 

「はいなのですっ!」

 一通り撃つと、電は取舵を取って回頭する。目に勇ましさを持つようになった。背中を預けられるほど逞しく。

 虫の息となったイ級にトドメを刺すために、電は魚雷管をイ級に向ける。

 

「……ガ」

 イ級は大量の体液を口から吐きだしながらも拉げた砲塔を電に向ける。

 こんなに姿になってでも戦おうとするのか。一体、その怨念とやらは何なのか?

 

「ごめんなさい……なのです」

 電が謝罪の言葉を紡ぐ。そう言って、魚雷を撃とうとした。

 

 

 

 

 

 

『――――――――――――――――ですか?』

 

「……えっ?」

 

『戦争に―――――――けど――――――すか?』

 

『生ま――ったら、平和な―――――と―――――いな――――』

 

 

 

 

「―――――――あれ?あっ……あれ?」

 突然電の顔が青ざめて、魚雷管が力なくガシャンとぶら下がる。

 全身が震え始め、海が波打っていた。焦点がぶれ、その手は頭を抱えて、その頭を何か振り払うように大きく横に振っていた。

 完全に無防備を晒して様子が急変した電を見て、私は対空砲火の砲音に消されないように大声で呼びかけた。

 

「どうしたの電!?早くやりなさい!ここに長居はできないわよっ!」

 

「あ……い、電は――――は、はっ……あ……」

 呼吸が大きく乱れて、肩が激しく上下していた。

 額から頬を伝って大量の汗が溢れだして海に落ちていく。

 

「電はっ……電はぁっ!!―――――――――っ」

 訳も分からないことを叫び散らした電のスイッチが落ちたかのように、項垂れる。

「……」

 

 無言のまま、海の上に立ち尽くす。格好の的だが、虫の息のイ級は唸るような声を上げるだけでまともに砲撃もできない。命の焔が燃え尽きようとしている光景を見た電は、光のない眼差しをその生物に向けた。

 

「敵だから……戦争だから、戦わなきゃいけないのは分かってます。でも……」

 一体何を口走っているのか。

 焦る私の耳が、電探が突然左舷から接近する敵影を感知する。

 

「あんた何を―――――――ッッ!!電っ!左舷雷跡!!」

 迫りくる爆撃機をひとまず墜とし、私も転身して電の下に向かおうとしたが、私の目に映る幾本もの白い影。咄嗟に叫んだが、距離が離れすぎていた。手は届かないし、声が届くのにも時間がかかった。

 

「……えっ?」

 ようやく、我を取り戻した電が顔を上げる。自分に何が起きていたのか。状況をうまく飲む込めずに辺りをきょろきょろと見渡して、雷跡を見つけた。

 

「何ですかっ、この数ッ―――――避けきれな」

 無慈悲にもその声は、耳を劈くような爆発音に遮られてを巨大な水柱の中に小さな体も飲み込まれていった。

 近付こうとしたが、敵戦闘機の機銃が私の行き先を阻む。振り返り、主砲に火を吹かせ、三機中一機を撃ち落とし、すぐに電の姿を探した。

 水煙が辺りに立ち込めて視界がかなり悪い。かなりの数の魚雷が爆発したはずだ。

 

「―――ちっ、何をやってるのあの子はっ!?」

 電探が敵艦を探知、その方角に目を向けると、仮面のようなものを被った青い目の深海棲艦がこちらを見ていた。

 明らかに数のおかしい魚雷発射管を携え、激情を剥き出しにして叫び声をあげる。

 

「ォォォォォォォォォォォォオオ!!」

 

「雷巡……こんな時に面倒な。電ッッ!無事なら返事なさい!!」

 チ級が急激に速度を上げて接近してくる。これ以上距離を詰められれば、こちらからも魚雷の有効な距離になるが、向こうの方が数が多い。

 まだ、敵制空圏下。圧倒的不利の状況で、仲間が一人、消息不明。

 

「本当に何してるのよ……ッ!」

 最大戦速で水煙を抜けて、チ級から距離を取ろうと舵を取る。砲撃で牽制しながら、一方で電の姿を探していた。

 

「ォォォォォォォォ!!」

 怒号を上げて魚雷を装填。こちらにその弾頭を向ける。

 

「ったく、あんたの相手をしている暇は――――」

 だったら、迎え撃つまでだ。こちらも魚雷で迎え撃つ。ちまちまと砲撃で相手している暇はないのだ。

 どれだけ多くの魚雷が飛んでこようが、全部撃ち落として避けるまで。私からすれば造作もない。

 魚雷管を構えた時にふと、私とは別の方向からチ級に向かって雷跡が伸びた。

 

 酸素魚雷。普通は目に映らないが、私の目にはその雷跡が見えていた。

 チ級は全く気付くことなく、その餌食となり下から突き上げられるように体が吹き飛んだ。さらに魚雷に誘爆し、戦艦の砲撃でも受けたかのような水柱と黒煙が海上に立ち上がった。

 

「……は?」

 雷跡が伸びた方向に目を向ける。

 水煙の中に膝を突いた状態で魚雷管を構える人影が一つ。

 

「……」

 感情のすべてを捨て去ったかのようなその暗い瞳は、ゆっくりと振り返ると、大破状態のイ級に砲塔を向けて一発撃った。動けないイ級に避けることもできずに、格好の的でしかないイ級は爆破炎上し、そのまま沈んでいった。

 

「……」

 全てを終え、立ち尽くすボロボロの電の下に駆けつけて、私は対空砲撃を続けた。

 

「……ふぅ、無事だったのね。被害状況を報告しなさい」

 

「魚雷管が今のでダメになっちゃったのです……主砲はまだ打てます。左舷浸水、注水復元を始めるのです」

 ぐちゃぐちゃになった魚雷管をパージし、主砲の動きを確かめながら、電は冷静に注水を始めて傾いた身体を水平に戻し始める。

 よく見れば、盾のように付いていた装甲がなくなっていた。

 咄嗟にあれを盾代わりにして使ったのだろうか?

 

「ごめんなさい、なのです……中破みたいです」

 作業の終わった電は私に背を向けて、対空砲火を撒き散らし始める。

 やや覇気も勢いもリズムもない砲撃だった。相当堪えているのだろう。

 

「そう、戦えるならまだいいわ。言い訳は後で聞いてあげるわ」

 

「……叢雲ちゃん」

 冷たい声で私の名前を呼んだ。

 

「何よ。今は余計な話をしている暇はないわよ」

 

「電たちは艦娘です。深海棲艦と戦うことが使命です。だから、敵と向かい合ったら戦わなきゃいけないのは分かっているのです」

 

「何を当たり前のことを言ってるの?」

 

「電は沈みたくはないのです。この戦争には勝ちたいです」

 砲撃音に掻き消されそうな小さな声で、淡々と言葉を紡いでいく電の声が徐々に力強くなっていく。

 

「それでも――――――それでも、命は助けたいと思うのは……おかしいですか?」

 

 艦の記憶。

 

 電と初めて会った時、私は「この娘は使えない」と思った。

 優しすぎる。戦う技術も力も覚悟もあっても、彼女には敵の命を奪うことに躊躇いを覚えている。

 戦わずに分かり合えるのならば、それは良い事だ。だが、私たちが向かうのは言葉も通じない一方的な殺戮が行われる戦場だ。

 余計な感情は、ただの障害になる。

 

 一体、電の記憶が彼女と言う人格にどう影響しているのかは分からない。

 ただ、戦闘に支障を来すのならば、邪魔者でしかないし、悪く言えば足手まといでしかない。

 

 私が彼女を戦場に連れてきたのは、訓練に向き合う想いが誰よりも強かったからだ。真面目に、真剣に、必死に、もがき苦しみ、どんなにきつい訓練にも一切音を上げなかった。

 根性だけは一人前。兵士としては他は全部半人前だ。

 

「……知らないわよ。そんなこと。ただ、自分の身を守るのに一番早い手段は敵の息の根を止めること」

 

 一度は立ち止まった電がどうしてチ級に雷撃を撃ち、イ級にトドメを刺すことができたのか。それは私にはわからない。

 本来、艦娘に宿る戦う意志がダメージを受けたことで喚起されたのかもしれない。

 

「戦争に勝つというのは、何かの犠牲の上に立つということなの。闘争や革命とは違う」

 

 戦うことができるのならば、それでいい。私たちは戦うことで存在意義を示す。

 

「戦争からは何も生まれないわ。ただ、失っていくだけ。それだけよ」

 

 鉄の塊だったころから変わらない私たちのレゾンデートル。

 守るために命を奪うことを躊躇うな。戦場は命を駆け引きを行う場所なのだ。

 

 そう言う覚悟のない者は、邪魔だ。

 私の理想のために必要のない者は邪魔だ。私の背後は任せられない。少し期待していたのだが、彼女はまだ足枷に囚われている。

 もしかしたら……その枷を解き放てるだけの時間を、彼女はまだ過ごせていないだけなのかもしれない。

 人としての形を得てから、まだ時間が経っていない。

 何かの出会いが彼女を変えることができるのならば、それはいい。

 

 いずれにせよ、ここで失うには惜しい。もう少しだけ可能性を信じてみよう。

 

「……あなたは戻りなさい。この先その損傷では厳しいわ。今はちょうど敵が引いてる、時間は稼げるはずよ」

 

「はい……なのです」

 自分は使い物にならない(その)ことを自分で理解していたのか、異を唱えることはしなかった。。

 

「対潜警戒だけは怠らないように。今までソナーにかかってなかっただけで潜んでいる可能性もあるわ。気をつけなさい」

 目に映る一番近い艦載機を撃ち落とし、電が退く隙を作る。

 できる限りの船速を出しながら、電は振り返ることなく戻っていった。

 

「……兄さん、聞こえる?」

 

『あぁ、どうかしたのか?あと、司令官と呼べ』

 

「電が中破したわ。そっちに戻した」

 

『……はぁ? じゃあ、お前ひとりなのか?』

 

「だから、二人ともこっちに寄越しなさい。どうせ本土の方には爆撃機が向かってないんでしょう?」

 

『まあ、確かにそうだが。もう一つの艦隊はどうなっているんだ?』

 

「なぜか奥の方から動いてないのよ。だから、全戦力で叩くわ。私ひとりでもいいけど、念のために2人を向かわせなさい」

 

『分かった。五月雨と漣をそちらに送る…健闘を祈る』

 

「さて、私も私で面倒なことになったわね……1人でヲ級を相手にするとは思ってもいなかったわ」

 

 そもそも、駆逐艦2隻で空母機動部隊を相手にするのに無理があるのよ……相変わらず、賭けのような戦いしかできないのね。

 ろくに哨戒もできないからこんなところまで攻め込まれるし、いつも後手に回されるわね。私たちは。

 そんなことを考えながら、最大戦速で一気に敵本体へと向かっていく。

 

「ァァァァァァァァァァァァ!!!」

 その途中でリ級が私の目の前に立ちはだかった。

 

「……ちっ、次から次へと。あら?」

 

「アァァァァァァ」

 すでに中破状態に近い。機関部がろくに動いてない。振り切ろうと思えば振り切れる程度の速度しか出せていない。

 

「……邪魔よ」

 砲撃を2発、魚雷を3本放ち、リ級を撃沈する。

 先を急ぎながら、私の頭の中に疑問が浮かび上がる。

 中破したリ級。それと明らかに少ないこっち方面に飛んできた艦載機の数。

 イ級2隻、ヌ級1隻、チ級1隻、リ級1隻、こっちで片付けたのはこれだけ。ヌ級が3隻、ヲ級が一隻残っている。でも、今こっち側には数機しか飛んでこない。本土に爆撃が行ったのも最初の第一波のみ。

 

 考えられるのは、温存か、別の誰かと交戦中か。

 

「居ると言うの? 私たちの他にも艦娘が……この先に」

 

 

 

     *

 

 

 

「うわあああああああああああああああああああ!!!」

 叫び声を上げながら、無理やり主機を動かして両舷一杯で逃げていた。

 

「ブゥゥゥゥゥゥゥン」

 虫のような音を立てながら迫る敵機の数は全く減る様子がない。機銃が海を打ち、爆撃機が次々と爆弾を落としていく。

 少しでも立ち止まれば、一瞬で蜂の巣になるか、身体に爆弾が当たってしまえば、胴と脚がさよならだ。

 だが、逃げ続けるのもあまりいい気分じゃない。

 後方から迫る艦載機から一気に距離を取り、振り返る。

 

「―――ッ、えいっ!」

 狙いを付けて高角砲が火を吹いた。濃い弾幕が展開され、空を飛ぶ虫のような敵機を薙ぎ払っていく。

 1機、2機、3機と落とし、向きを変えて戦闘機を撃墜していく。

 残った爆撃機も帰っていき、随分と離れた場所にいる空母の下へと着艦していく。

 

「はぁ…はぁ…流石に多すぎだよぉ」

 汗を拭って、上がった息を少しずつ整えていく。

 弾薬はまだ結構残っているが、燃料の方が心配だ。かなり機関を無理して動かし、速度を上げていった。普通じゃありえない行動をしてしまったので、かなり消費してしまい残量が心配だ。

 遠くに見えるのは3杯の軽空母ヌ級。海に浮かぶ巨大なクラゲのようなその姿に巨大な目と口が開き、その下に頭と明らかにバランスがおかしい身体が付いていた。

 

「……ヌッ」

 

「……ヌッ」

 

「……ヌッ」

 妙な掛け声で大きく口が開くと大量の黒い物体が飛び出してきた。

 

「「「ブゥゥゥゥゥゥゥン」」」

 

「「「ブゥゥゥゥゥゥゥン」」」

 羽音のような音を立てながら、敵機が一気に空に展開し私に迫ってくる。

 

「遠いなぁ……それにろくに近づけさせてももらえない」

 一度大きく回り込む?でも、私の速力で逃げ切れる自信はない。

 こう迷ってる間にも敵は少しずつ前に進んでいる。私の燃料も弾薬も無限にあるわけじゃない。

 退けば守るべきものを見捨てることになる。それは絶対にできない。

 近付いてきた敵機を撃ち落とし、他の艦載機も牽制しながら、魚雷管を海面に向けて腰を低く落とす。

 一気に接近して魚雷をばらまいた。

 

「魚雷発射!お願い!」

 ヌ級に向かって真っすぐに進んでいく四本の魚雷。どれか一本が三杯のうちのどれかに当たればいい。

 しかし、その進路上空を敵艦戦が飛来し、海中に機銃を向けた。

 

「「「ブゥゥゥゥゥゥゥン」」」

 機銃音が轟き、海中で低い爆発音が四回響いた。どうやら全て落とされてしまったようだ。

 

「ダメだ……やっぱりここからじゃ魚雷も通らない」

 ジグザグの航跡を描きながら、ヌ級となるだけ等距離を保ちながら最大戦速で海上を駆けていく。

 

 落ち着いて状況を整理しよう……私は今敵艦隊と全体的に見て同航戦の状態。横から奇襲したつもりが足止めされて一緒の方向に進んでいる。

 私の予定だと正面から海軍所属の艦娘が来て、挟み撃ちにすることになっていた。

 奇襲による攪乱、挟撃、この二つで敵にある程度の損害を与え、撃退する。

 そのために必要なのは、旗艦のヲ級に損害を与えること。ずっと見ていたけど、ヌ級の奥にいるヲ級は一機も艦載機を出してない。

 温存しているんだろう、本土爆撃のために。それでも、こっちが押され気味なのは確かなことだ。

 結果として、水上艦はほとんどあっちに向かった。私が相手するのは空母だけという有利な状況ではあるけど。

 1人でこの数を相手にするのは流石に無理がある。

 

 ふと、ヲ級がある方向を向いた。

 私から見て左舷の方に水柱が立った。水煙が立ち込めて様子がよく分からないが、激しい砲撃戦が繰り広げられているらしい。

 攻撃機が放った魚雷を迎え撃ちながら、放った魚雷を次発装填する。

 

「……ヌッ」

 

「「「「ブゥゥゥゥゥゥゥン」」」」

 ヌ級と艦載機の大半が向きを変えた。左舷の方向、海軍の艦娘が戦闘している方向に航空戦力を向かわせたのだろう。

 僅かではあったがあっちに意識が向いた――――今だ。

 

「両舷一杯!魚雷管発射用意!」

 弧を描くようにヌ級の後方に回りながら、さらに距離を詰めて一気に魚雷をばらまく……1発でもいい。当たれば十分に屠れる。

 軽空母程度の装甲なら魚雷一発で十分に行動不能にできるはずだ。

 正規空母でも当たれば十分に損害を与えられる。動きを止めたところで、飛行甲板を破壊して戦力を削ぐしかない。

 駆逐艦にできるのはそのくらいだ。

 

「当たって……くださいっ!!」

 4本。更にもう片方の魚雷発射管も向けて4本。合計8本の魚雷が扇状に広がり、静かに海中を飛んでいく。

 狙うはヌ級の奥にいるヲ級。指揮は間違いなくヲ級が採っている。

 

「……ッ!!」

 ヲ級も恐らく向こうから来た艦娘に意識を囚われていた。そのためにこちらの魚雷に気付くのに時間がかかった。

 

「よしっ!」

 

「……ッ!」

 その時、突然私の視界にヌ級が飛び込んできた。それは魚雷の進路上。

 まさに壁になるように、盾になるように。

 

「え?」

 ヌ級のいた場所で魚雷が炸裂する。ヲ級に当たりそうだった魚雷が阻まれ、ヲ級は壁になったヌ級の背後で落ち着きをもって逃げていった。

 

「ヲ級を庇った……そんな……くっ!!」

 

「…ッ…ッ」

 混乱したのは私の方だった。ヲ級に向かって砲撃を放ったが、炎上しながらもヌ級は盾として、すべての砲撃を受けきった。

 1発が装甲を貫き、ヌ級は一気に膨れ上がって大爆発した。

 

「……ヲッ」

 

「「ヌッ…ヌッ…」」

 ヲ級は杖を私に向けた。残ったヌ級が私の方を向いて大きく口を開いた。

 残った敵機が一気に私の方へと迫り、大量の爆弾が海を割っていく。耳に爆音が響き、頭が痛い。

 

「あー、もうっ!」

 急降下して向かってきた爆撃機を迎え撃ち、私の目は鋭くヲ級を捉える。

 息が上がる。全身に徐々に疲労が溜まってきたのか、高角砲も重く感じ始めた。

 

「次発……装填っ!!」

 多分私は長期戦に向いていないのかもしれない。机には何時間も座っていられるが、何時間も走れと言われると多分無理だ。

 

 両脚の魚雷管に魚雷を装填してヲ級に迫っていく。

 ここで終わらせる。爆撃で立つ水柱の間を縫うように進んでいき、視界が晴れたところでヲ級をもう一度見据えた。

 

「……ヲッ」

 その時、ヲ級が艦載機を発艦した。

 

「―――――ッ!!そんなっ、ヲ級が」

 数が違う。艦戦隊、爆撃隊、雷撃隊、ヌ級と数も…恐らく質も違う。

 まさかと思ったが、このヲ級は――――

 

 私を見る目が明らかに変わった。ここで叩き潰しておくべき危険として認めたのか、明らかにこの肌を突き刺す威圧が変わった。

 同時に全身から悪意の塊のような黒い正気が広がり、心なしか黄色く光っているように輝き始める。

 顔を上げたヲ級の蒼かった目は……危険を表すかのように黄色い炎を纏わせて薄暗い闇に光り輝いていた。

 

 予想だにしていなかった最悪の事態―――ヲ級flagshipとの邂逅。

 

 ヲ級なんかとは比べ物にならない。

 火力、装甲、艦載数、全てにおいて空母の中でも最強の部類に当たる強敵。

 駆逐艦1隻でとても太刀打ちできるような敵じゃなかった。そのことにここまで来て気付くことができなかった。

 

「―――――くっ」

 対空砲火を散らしながら、避けていくが爆撃と雷撃が逃げ場を徐々に追い詰めていく。水しぶきが幾度もこの身体に吹きかかり、服も艤装も徐々にずぶぬれになっていく。何よりもさっき機関を蒸かしすぎたせいで速度が……

 

「ダメだ、避けきれない……ッ!!」

 水柱の陰から艦爆隊がこちらへと迫っていた。咄嗟に高角砲を向けたが、当たった時には既に爆弾を投下していた。

 息を呑んだ。

 徐々に迫ってくる黒い塊が私の目の前に吸い込まれるように落ちてきて―――――

 目を閉じて腕で顔を守った。

 衝撃が全身を叩きつけ、身体が抗いようのない力で後ろに吹っ飛ばされていく。

 

「きゃああああああああああああ!!」

 1回、2回、3回、海面に叩きつけられ、顔から思いっきり海水の中に突っ込んだ。

 

「うっ……ううぅ……」

 服が焼け焦げたにおいが鼻をかすめる……痛い。

 足もヒリヒリするし、肩に鈍い痛みを感じる。

 耳鳴りが止まない。視界もグラグラとしており、波に身を揺られているのも相まって、とても気持ち悪かった。

 ――――魚雷管が片方飛ばされた……でも、主砲はまだ使える、運よく浸水もない。

 

「まだ……戦える」

 足をうまく折り曲げて立ち上がり、顔に付いた海水を拭った。ふら付きながらもまっ すぐに立ち上がり、身体の中に籠った空気を一度大きく吐き出した。

 

「ヲッ、ヲッヲッ!」

 黄色い炎を目に灯しながら、杖で残ったヌ級たちに指示を出し、発艦を促す。

 恐らく、ヌ級にはあまり艦載機は残っていない。しかし、ヲ級flagshipの艦載機が航空戦力をかなり底上げしている。

 

「ヌッ……」

 

「ヌッ……」

 残ったすべての艦載機が飛び出してきた。ヲ級の周りを飛んでいた艦戦隊が私をけん制しながら、艦攻隊が魚雷を投下していく。

 残りの燃料全てを絞り出してでも走り出せ、身体はそう告げた。

 走れ。息の根が止まるまで走り続けろ、と。

 

「私は負けない……護らなきゃ、いけないものがあるからっ!!」

 最悪の事態であろうが何だろうが、たとえ敵が私ひとりじゃ太刀打ちできないものであろうが、ここで誰かがやらなきゃいけない。

 もう少し耐えれば海軍所属の艦娘たちがこっちまで来るはずだ。彼女たちの力を借りれば、きっと…きっと…

 

 まだ、私は戦える―――――

 

 

 

     *

 

 

 

「……」

 大量の魚雷が私に向かってくる。その1つ1つを撃ち落としながら、お返しと言わんばかりに魚雷を撃ち返す。

 

「ったく――――」

 器用に躱しながら、もう片方の魚雷管から魚雷を放つ。

 両舷合わせて40門。こんなバカげた軍艦を大昔に作らなければ私たちが苦労することもなかっただろうに。

 

「雷撃が本当に面倒ね……数が多すぎるわ」

 砲撃で魚雷管を狙い、何とか誘爆を狙おうとするが、盾のような装甲で弾かれてしまう。

 その向こうで赤く光る眼、チ級eliteか……面倒だ。まさか中位個体が攻めてきているとは報告になかったし、気付かなかった。

 戦闘状態に入るまで、別の言葉で言えば、興奮状態に移行するまで目の色が変わらないのが難点だ。

 敵の構造もよくできているなどと感心しながら、冷静に大量の魚雷を回避していく。

 

「ガァァァァァ!!」

 

「―――――邪魔なのよッ!!いいからさっさと……沈めっ!!」

 直撃コースの魚雷をすべて撃ち落とし、

 

「――――――ッ!」

 お返しにこちらの魚雷をぶつけてやる。

 

「ガァァァァァァァァァァ!!!」

 だが、生憎私の魚雷は旧式。十分に戦えるから別にいいのだが、雷跡がはっきりと見えるため、全て撃ち落とされるか避けられるか。

 そんなのは分かっている。だったら。どちらかに避けるしかないように撃てばいい。

 

「もらったわッッ!!」

 逃げた先に砲撃を集中させる。

 1発、2発、3発。チ級がやや押されて後方に押し込まれたが、盾の装甲が分厚すぎる。

 

「―――――ッ!!」

 シュゥゥゥと煙が立ち、私の砲弾は一発も装甲を抜けずに弾き返された。

 

「ちっ……」

 こいつの相手をしているのは面倒だ……とっとと空母を全部沈めてしまった方が早い。

 でも、背後に重雷装の敵、周囲には敵艦載機の群れ。下手すれば痛手を負う。

 いっそ、距離を詰めて格闘に持ち込んでダメージ与えた方が早いかもしれない。艦娘の状態と艦娘の力なら、鍛えれば深海棲艦の装甲を撃ち抜けるくらいの拳なら放てるだろう。実際、過去の戦いにおいて駆逐艦を殴り飛ばして沈めた戦艦もいると言うし。

 

 などという、雑な思考が邪魔をする。

 

 誰かこの先にいるなら合流した方が……でも、やっぱりこいつは始末した方がいい。

 面倒引き連れて合流なんてすれば、私の面子に関わる。

 

「ァァァァァァァァァァ!!!」

 

「さぁ…とっとと決着をつけましょう……」

 主砲を構え、チ級eliteと向き合った時、ふと背後で水柱が立つ。対空電探が反応し、上空の敵機を捉えた。振り返った瞬間には爆撃が一帯を覆っていく。近くに味方がいるにも拘わらず。

 それにしても、この絨毯爆撃は普通のヲ級じゃできない火力だ。

 報告と違う。ただのヲ級じゃない。

 爆撃を掻い潜りながら、上空に対空砲撃を放つ。そして、眼にした艦爆の種類がヲ級のものではないことに気付く。

 

 flagshipか……また面倒な相手だ。

 これは私一人で向かうより、後方からこちらに向かっている五月雨と漣を待った方がいいかもしれない。

 一瞬で海水が巻き上げられ、辺りに水煙が立ち込める。視界が悪くなり、チ級eliteの姿を見失った。

 この状況は避けたかった。チ級とヲ級に挟撃されるこの状況はあまりにも分が悪すぎる。

 

「――――そこね!!」

 

「ガァァァァァァ!!」

 水柱の立った方角に主砲を向ける。

 海面に伸びる水の壁を突き破り、こちらに砲塔を向けた赤い眼。

 距離を詰めて接近戦に持ち込んできた。口を馬鹿みたいに開き、甲高い奇声を上げながら左腕の艤装を伸ばしてくる。

 咄嗟に砲撃したが、右半身の盾のような艤装の右半分を抉り飛ばしただけ。

 仮面から覗く赤い眼が私の目を強く睨みつける。怨念とやらが渦巻く赤い炎。その奥に広がる黒い闇。

 それがどうした?私を恐怖させることが目的か?

 もう一度砲撃を撃ちこむ、盾が完全に吹き飛ぶが、怯むことなくその牙を私に向ける。

 

「―――このっ!!」

 右手のマストに力を込めた。一応、刺さりはするだろうが、まあなるようになればいい。

 

――――――ヒュンッ、ガンッ

 

 私の顔の真横を熱が掠める。耳に響く砲撃音。肉を撃ち抜く鉄の咆哮。

 

「ガッ――――」

 チ級の腹部に巨大な穴が開いていた。色の悪い液体が溢れだし、海面に広がっていく。

 

「……沈みなさい」

 ほとんど零距離。外れるはずもなく当たれば必殺。

 顔に照準を合わせた主砲が火を吹いた。

 チ級の顔が吹き飛び沈黙する。加えて魚雷を2本放って後方に下がる。

 チ級の身体が爆発に飲み込まれ、黒煙に包まれて海底に沈んでいく。

 

 そのまま転身して、一気に飛び出すとすぐそこにヌ級が迫っていった。

 誰かの方を向いている、完全に隙だらけだ。

 残った2本の魚雷を放ち、ヌ級へと雷跡が伸びていく。

 

「―――ッッ!!」

 両方が命中し、ヌ級の下半身が吹き飛んだ。そのまま、飛行甲板が吹き飛び、誘爆。

 一気に爆炎を上げて沈んでいった。

 

 静寂が訪れたかと思えば、恐らくヲ級の艦載機だろう。

 休む暇もなく、こちらに戦わせるつもりか。爆撃機が3機急降下してくる。主砲を迎え撃つように向けたが、3機とも爆弾を落とす前に撃墜される。

 

 

 ―――――誰だ?

 

 足を止めた私の背後にふと気配を感じたが、振り返る寸前に私の目の前から敵艦戦が機銃を放つ。意識を向ける暇もなく、対空砲火を広げていく。電探が後方からの敵機接近を知らせていたが、どういう訳か全て撃ち落とされていく。

 いや、すぐ側で砲撃音がしている。真後ろに…誰かがいる。

 

 

 

 

「――――ねえ、あなたは海軍の艦娘?」

 

「そういうあなたは誰?」

 

 

 

 

 

 この子が……ル級を仕留めた艦娘なの……?顔を見る余裕がないわね。

 振り返ろうとしても、敵機の数が多い。後ろにいる何者かと私を包囲するように大量の敵機が円を描いて上空を飛び交っている。

 

「あんたは艦娘でいいのよね……?」

 

 

 

 

 とても凛々しい力強い声。一歩も引く気のない覚悟と力を背中越しに感じる。

 どの子だろう?顔見たいけど、振り返る余裕がない。

 

「うん……多分、それで合ってる。きっとこの場にいる目的も同じのはず」

 私は恐らく艦娘で合っている。この人たちにとったら艦娘ではないのかもしれないが、私は艦娘だ。

 

「だったら、それでいいわ。誰だろうとどうでもいい。力を貸しなさい」

 だが、信じてもいいだろうか?私は海軍からみたらアンノウンだ。

 要注意人物、いや要注意艦娘のような扱いをされているのではないだろうか?

 

「……私はあなたを信じてもいいの?」

いや、あなたは私を信じても大丈夫なの?

 

 

 

 

 

 信じてもいいか。

 確かにこの子の素性は全く分からないし、私たちが表に出たのも昨日だ初めてだ。

 この子自身、自分が何者か分かっていない可能性がある。艦の記憶とやらに導かれてただ戦っていただけかもしれない。

 海軍が健在だということを知らないのか、それとも海軍を信じられないのか。

 今はどちらでもいい。戦える力が、生き残れる力があるのならば――――――

 

「信じなさい。私もアンタを信じてあげるから」

 背中を預ける、いや背中を守ることで信頼を得ることはできるだろうか?

 

 

 

 

 明確な根拠はない。

 ただ、背中越しに感じる自信に満ち溢れた存在感。凛々しい声から伝わる気迫。

 この人は強い。この人は頼れる。味方にいてくれて心強い。曖昧だけどそう思った。

 これが本物の艦娘なのだろうか?実際の艦娘とここまで近づいたのは初めてだ。少し昂揚しているのも嘘ではない。

 

 疑う?信じられない?彼女は誰だ?

 私が憧れた艦娘そのものなのだろう?だったら、元から私がやるべきことは決まってたんじゃないか?

 

「分かった、信じる。ううん……信じさせて欲しい」

 

「……悪くないわ。じゃあ―――――あんたの名前は知らないけど」

 

 

 

 

 そう名前は知らない。

 だが、共に海の上で戦う者として。艦娘という戦船の魂を背負った者として。

 

「―――――背中預けたわよ。私についてらっしゃい!」

 

 

 

 

 名前も顔も知らない。

 だが、私の憧れとして。同じ人類を護る英霊の魂を継ぐ者として。

 

「―――――うん、預かった……!あなたの背中は私が守る」

 

 

 

 

 共に戦おう。護るべき者を護るために。

 

 

 




えっ?普通顔くらい見えるだろうって?
ご都合主義です(にっこり)


ところで第二章完結してませんが、第三章の構成が大体できました。
第三章はなんと、主人公が不在です(盛大なネタバレ)。
第一、第二章と違って短編になります。
と、いうか一章と二章が予想より長くなりすぎただけですが…あっ、嫌な気がする。

では、第二章を頑張って仕上げていこうと思います。
恐らく、残り2~3話。来週までには完結する予定ですのでよろしくお願いします。
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