艦娘が伝説となった時代   作:Ti

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後日譚です。短いです


翔跡を征く者 - EPILOGUE -

 人の目が捉えることができる色というのは幅があるのです。

 赤から紫。よく虹色で表現されるあの七色が人の目が捉えることができる色なのです。

 特に、人の目は太陽の光の下で進化を続けてきた生物なので、緑色をよく捉える様にできているというのも、光の波長から考えられたりしています。

 

 ですが、それは全ての人がそうとは限らないのです。

 そもそも、色というものは光と反射と吸収、透過の度合。ものに当たった光がものにどれだけ吸収され、どれだけ反射され、どれだけ透過されるか。色相、濃さ、透明感、そういうものなのであって、それはその全ての色を明確に把握できる人たちによって考え出された色に過ぎないのです。

 そういう目を持つことができない、不幸にも、そのように生まれてきてしまった人たちがいる。

 そういう体質を色盲や色弱と呼んだりします。

 ですが、勘違いなさらないで欲しいのですが、白黒に見えたりするわけじゃないのです。特定の色が区別しづらかったり、別の色に見えてしまったりする。こういう人たちの世界にはまだ色が残っているのです。それでも、生活に苦労することはあると思いますが。

 

 隊長さんの目は、その色さえも完全に失われていました。あるのは濃さによる識別能力くらいなのです。

 色盲の方でも見える人が多いはずの青や緑などの色も全く区別ができなくなっていました。

 

 一度、身の回りのことが落ち着いて、隊長さんの生まれた国について話を聞くことができたのです。

 隊長さんは幼い頃から、汚染された土壌や風雨に晒され続けていたみたいなのです。

 普通なら、目に化学物質が入れば、視力の低下。失明などを引き起こします。

 ですが、神様の悪戯でしょうか?

 隊長さんは、色だけを奪われてしまったそうなのです。

 

 

 正直、電たちにはどうしようもないのです。

 電もそう言うことがあると知っているだけで、治療法などは知りませんし、どういう化学物質がどのように作用してこうなったのか皆目見当もつかないのです。

 

 それはあまりにも酷すぎるのです。

 隊長さんの夢は永久に叶うことがありません。

 ただ、少し白い空と黒い空を区別することしかできず、ただのモノクロの世界の中で生きていくしかないのです。鮮やかさも輝きも何もない。色彩を失った世界なんて電には想像ができなかったのです。

 

 しかし、その話を聞いた翔鶴さんがある話をしてくれました。

 それは艦娘史に名を残すとある戦艦の話でした。

 彼女は艦娘として珍しく、建造されたその瞬間から、盲目だったそうです。前世の記憶を強く引き継ぎたせいだと翔鶴さんは言っていましたが、そんなことあるんでしょうか?電には予想できないのです。

 ですが、その名前は艦娘史に幾度となく現れては、仲間たちの前に立ちその勇壮たる背中に艦娘たちを率いる姿は、全ての艦娘たちの憧れであったと言われていますし、一般の方々にもかなりのファンがいたと言われています。現在でも根強い人気が残っている方です。

 彼女の目は見えていた、とのことです。

 艦娘の中には、妖精の謎技術を上手く利用して、装備の強化、改修を行う特殊な方がおられたそうなのです。その方は、装備の回収だけではなく、艦娘の新たな艤装の開発、大戦中期に現れた《試製型》と呼ばれる多くの装備の開発に携わっていたそうなのです。

 そんな彼女がその戦艦娘の為にオーダーメイドで開発したものが、《義眼》。

 終戦まで、彼女の活躍を支え続けてきた開発費は戦艦一隻建造するほどかかった常識外れの一級品だったそうなのです。

 

 それが人間にでも応用できる技術がこの一〇〇年で生まれているのならば。

 妖精も艦娘もまだ存在しているこの時代ならば。

 まだ、その天才の意志を受け継ぐ者がこの時代にいるのならば。

 

 

 

 まだ、希望は残っている。

 

 

 

    *

 

 

 

 夢が永久に叶わない。

 私は少しだけ安心しました。これは二人には絶対に話せません。

 あの方は夢を叶えれば行き場も、生きる意味も見失っていたでしょう。

 ですが、夢が叶わない。それでも夢を追い続けようとするその意志は、あの方に生きる意味を、気力を与え続けてくれる。

 

 あの方は、まだ生きることができます。人間として、その生を全うすることができます。

 

 ふと、いつの日か気になっていたことを思い出しました。

 あの方はこの空の色を知った後はどうするつもりなのか。

 今こそ、激しく燃えている彼の命だが、夢を掴めば燃え尽きてしまうのではないか。

 生きる意味を、人としての価値を、ひたすらに追い求める。だが、その答えを掴んだ後に道が続いていなければ、その先にあるのは崖なのだ。

 彼にはその道も、その崖から飛び立つための翼もない。

 

 だから、私たちが彼の翼になることにしました。

 ただ、ここで何もせずに待っているだけでは、あの方とて退屈でしょう。

 このことをお二人に話した時、電さんは「良いと思うのです!」と、あの方は小さく首を縦に振りました。そして「ヨロシク」と。

 

 まずは言葉を教えることから始まりました。

 日本語をせっかく知っておられたので、その正しい発音と文法。私と電さんの交代で少しずつ教えていきましたが、一週間ほどで日常会話を行える程度にまで上達しました。とても呑み込みが早いのです。これには私たちも驚き、少しだけ会話が増えて人数こそ少ないですが賑わうようになりました。

 次に文字の書き方、ペンの使い方、箸の使い方、匙の使い方、ナイフとフォークの使い方、食事の仕方、挨拶の仕方、時間という概念、時計というもの、方角というもの、天気や気温、湿度、ありとあらゆるものを教えていき、一か月ほどたった頃には既に艦娘という存在についてその原理や概念などについても理解するようになっていました。

 

 まともな人間というのは語弊のように思われますが、少なくとも彼が自分を人間として思っていなかったあの時代に比べて、彼はまともに人間らしくなっていきました。

 

 入浴や着替え、そう言ったものも学んでいき、乱雑に伸びた髪を電さんと二人で整えていた時には、少し悩みながら、笑いながら、遊びながら、最終的には短めに、さっぱりとした好青年という仕上がりになりました。

 

 そして、一か月半。

 この泊地に残されていた一着の白い制服。第二種軍装。誰かが置き忘れたものであるはずではないので、殉職した誰かのものか。

 穴や解れを繕い、丈を合わせて、彼に与えました。

 

「じゃあ、これからもよろしく頼みます」

 執務室の椅子に腰を下ろし、彼は私たちに微笑みながらそう語り掛けます。

「はい!よろしくおねがいしますなのです!司令官さん!」

「これからもよろしくお願いしますね、提督」

 

 新たな提督が生まれました。形だけ。

 というのも、少しの遊び心のようなものでした。私にとっての提督は一〇〇年前のあの方であることに変わりはありません。

 ですが、今私がここで何をやるべきか。いつか国に帰るために何をすべきか。

 そして、この方々のためにいったい何ができるのか。

 考えた結果の事でした。我ながら少しばかり愚かなことをしたかもしれませんが後悔はありません。

 

 生まれや身分などに捉われていれば、海より生まれた私たちは何か、という問題になります。ただの兵器か。心を持ちながら動くただの機械か。使い捨ての道具か。

 

 はっきりと、否、と答えてくれた方もいます。

 私も今は否定することができます。伝統を重んじることばかりが先に進む手段じゃありません。

 人の身体を手に入れた私たちの存在意義は、過去に縛られない、そのことにあるのではないでしょうか?その前に進み続ける歩みこそが、私たち人間の「可能性」というものなのだと。

 

 

 また、今日も私は弓を引きます。

 空に向かってあの子たちを放ち、この空を守ります。

 いつか、還る日まで。いつか、彼にこの空の色をお見せすることが叶う日まで。

 

 私は彼の美しき銀翼で在り続けましょう。

 

 

 

   *

 

 

 

 黒い海を見たのはあの日が最後だった。

 俺の目が色を捉えることができないと知ったあの日だったが、あの日の海の色は黒くはなかった。白く澄み渡っていたように思えた。

 いったい、どういうことなのか島の周辺に魚なども現れるようになった。

 あの黒い海は『浸蝕域』と呼ばれ、『深海棲艦』というあの黒い異形が原因で発生する現象らしいが、それがどのように生態系に影響しているのか。そもそも、魚一匹存在しなかった海に突然魚が戻ってくるだろうか?

 まるで、不思議な空間に閉じ込められてしまっていたかのような。時間が止まっていたかのような、不思議な体験だった。

 

 あの日から、多くのことを学んだ。

 電も翔鶴も、俺に外の世界の多くのことを教えてくれた。

 それと妖精とか言うあの小さな者たちは、俺のことが気に入っているのかよく俺の周りに集まってくる。

 言葉による意思の疎通はできないのだが、不思議と何を言っているか分かるのだ。そして、彼らが集まってくるときにはいつも俺は工廠へと向かう。

 少しずつ理解できていったこの理論だが、最終的には彼女たちの誕生に大きく影響する不思議なものだった。それがこうやって形式化されているのだから先人たちは凄まじい頭脳を持っていたのだろう。

 人だけでなく、この地球で生まれた生物の多くは、潮の満ち引きに大きく影響を受けるという経験則から発展した理論。与えられた波動関数の解を求めていき、最後にパラメータ表と照らし合わせていった結果得られるのは、四種類の数字と、時間的周期なのだ。

 

 かつて、艦娘の建造というものは儀式的なものだったらしい。降霊術という似たようなものがあるが、それと根本的に、いや科学的に違うものがある。

 

 何はともあれ、建造ドックを動かしたのだ。得られた結果をもとに。

 妖精たちが俺を呼びに来たということは、結果が出たということなのだろう。 

 

 

「あっ、司令官さん」

「提督、お待ちしておりました」

 建造ドックの前では二人の仲間が俺を待っていてくれた。

 新たな道を俺に示してくれた二人だ。今ではこの寂れた場所で共に生活する家族のような存在だろうか?

 

「どんな感じですか?」

「建造が終了したみたいなのです。新しいお仲間が着任したのです!!」

「えぇ、成功ですよ……しかし、自分で建造を行ってしまうのですね……」

「まあ、得られた結果ですし、自分で試してみたくはなりますよ……さぁ、迎えに行きましょう」

 

 

 神というものはきっと存在するのだろう。

 神は俺たちの生きる道を全て用意している。この世界が上手く回る様に。

 それは、命がいつ死に、いつ生まれるのか。明確に決まっている。

 だからこそ、この世界に存在するすべての死に理不尽さなど存在しない。死ぬべくして死ぬのだと、生きるべくして生きるのだと。

 唯一、俺たちに与えられたものは考える頭と、夢を抱く心、そしてその夢の為に生きようとする意志。

 その意志がその命に価値を与え、人間を人間たらしめる魂を輝かせる。

 

 いつ死ぬか。どうやって死ぬか。そんなものどうだっていい。関係ない。

 

 死ぬまでに何をし、何ができ、何を遺すのか。

 人生とはそれに尽きる。生きた価値とはそれに尽きる。

 

 だからこそ、俺は必ずこの目にその色を焼き付けて見せる。

 それこそがあの大空を翔ける夢という俺の人生に価値を与えた、ただ一つの翔跡(みち)なのだから。

 

「新造艦が完成しました」

 

 俺には、その道を翔けていく二枚の翼があるのだから――――――

 

 

 

 

 

 

 

 




毎度恒例反省会。
反省:短くするとか言ってたのに長くなった。
   電が暴走している。
  
翔鶴について書いてると、提督や瑞鶴がいないといまいち難しいということが分かりました。不思議ですね。でも、どういうキャラなのかと考えるにあたって、一度彼女について考えるいい機会になったと思います。

「いや、待て。どうしてそうなった?」と思われる方。これが私クオリティです。

さて、ズルズルと書き連ねていきましたが、なんとなく全体の流れというものの構想が出来上がって来ました。つまり、終わりが見えてきたということですね。まだ、全然終わりませんけど。

と思って、構想案見てみたら、最終章まであと四章近くあるんだなこれが。
どんだけ書くつもりだよ…

次章は二話から三話程度で、各鎮守府の様子を送っていきたいと思います。結構艦娘増える予定なので、まぁご期待ください。
私に書けるのでしたら、ほのぼのになります。
私にほのぼのを翔ける技術があるのならば。 

あっ、嘘です。若干シリアス入れます。

はい、以上です。
目を通していただき、ありがとうございます。
またぼちぼち投稿していくのでよろしくお願いしますm(_ _)m





以下雑談です
「なぜか続きをどうするか考えてたら、全く別の作品が出来上がった」
「んで、その作品を考えてたら、なんかやけにグロテスクになった」
「ブラックだなって我ながら思いながら、すごく筆が進むので困る」
「とりあえず、簡単な流れが出来上がった」

「あれ?これ艦これでやる必要あったかな?」←今ここ
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