艦娘が伝説となった時代   作:Ti

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(この章を早く終えたい自分がどこかにいる)


南海の異変 -ブイン基地にて- 前編

 

 ブイン基地。ソロモン諸島北部に位置するブーゲンビル島南端部の町であり、日本軍が占領し、飛行場を建設した基地。。

 以後、陸海軍航空隊の重要拠点として機能し、南西海域航空部隊の最前線であった。

 周囲にはショートランド泊地。かのラバウル基地など、日本国軍の重要拠点が数多く点在しており、南西諸島海域における戦線を支えていた。

 

 周囲には、かの悪名高い「鉄底海峡」が存在し、すこし離れた場所には珊瑚海が広がる。

 

 戦後は、空港となったが最も聖地巡礼が難しい場所として有名である。

 反勢力派に占拠され、武装組織集団の管理下にある。

 

 艦娘史においては、ラバウル、ショートランドと並んで、とある海戦における最前線基地として機能し、大きな被害を被りながらも、勝利に貢献した場所である。

 深海棲艦との戦争が開戦してすぐに、一帯は主力敵艦隊により占拠され、特に飛行場として機能していた地域は『陸上型』と呼ばれる強力な力を誇る深海棲艦により、完全な支配下に置かれてあった。

 幾度に渡る奪還作戦により、敵飛行場及び艦隊を破壊し、この場所に新たに基地を設営。

 鎮守府と同様の扱いで提督が配属されて、その先に広がる的勢力に対抗する拠点として機能し始めた。

 

 そして、始まったのが「アイアンボトムサウンド」である。

 ラバウルに一航戦、ショートランドに二航戦、ブイン基地には五航戦が配属されて、本土との連携を計りながら、3度に渡り多大な勢力を誇る敵艦隊との戦闘が行われた。

 かつてないほどに熾烈を極めたことによって歴史に深く刻まれる決戦で、5割に及ぶ艦娘が犠牲に。海軍側にも1000に近い死者が出た。

 

 更には、当時の海軍の最高戦力「一航戦」の消息不明。「五航戦」の壊滅的被害。本土空襲による鎮守府の壊滅。

 遠く離れた海域にも拘わらず、本土決戦まで発展したこの決戦はまさしく、艦娘史における最悪の戦いであった。

 

 

 そして、終戦。

 周辺基地を含め、撤退が行われ、艦娘や従軍者全員が本土に帰還。少しの期間を挟んで部隊が派遣され、整備が行われる。

 

 以後、ブイン基地は「来るべき日に備えた拠点」として無人の基地となる。

 

 

 

 

 

 

 流れ着いた1人の青年と、1人の駆逐艦。長き眠りより目覚めた空母。

 彼女たちの邂逅が来るべき日への始まりであるかどうか、それを知る術はない。

 

 

 

 

       *

 

 

 

 電がこの場所に漂着して、2ヶ月が経った。

 南国のこの場所では、相変わらず気温が高い日々が続くし、時々やってくる嵐が尋常ではない被害をもたらす。

 鎮守府は岸壁の一部を利用して作られており、自然の要塞のようになっている。

 そのため、電たちの生活には支障はない。

 

 しかし、年月の流れとは不思議なものである。

 あれから海は穏やかになり、周辺の探索がさらに進んでいった。

 ブインにも人の生活の営みがあったはずなのだが、その全てが跡形なく消えかけていた。

 近くのショートランドにまで一度向かったのだが、そこには島民が生活しており、ブインとは違った様子が見られた。

 どうして、この場所だけがこのようになってしまったのか分からなかったが、生活に支障を来すことは一切なかったので深く考えることはなかった。

 

 翔鶴は、少しずつだが鮮明に昔のことを思い出していた。

 100年前、舞鶴にあった第四号鎮守府で艦隊の旗艦を務めていたこともあり、その経験、実力を惜しみなく発揮してくれた。

 戦力がままならないこの鎮守府で、強敵の多いこの海域で生き抜いていけるのは、彼女と言う強力な存在があるからとも言える。

 その戦う姿は凛々しいが、一切の情け容赦のない指揮で艦載機隊を操り、敵艦隊を焼き払う。その圧倒的な力に、建造されて新たに着任した駆逐艦の少女たちが恐怖を覚えるほどであった。

 しかし、彼女は決して敵に対する敬意を忘れない。同じ戦場に立つ者には、命のやり取りを全力で行った者として、その命を讃えるように敬意を払う。

 そんな彼女の姿に、電は憧れを抱いていた。

 

 

 

 

「……私たち、こんなところで何をしてるのかしら?」

 

「……もう100回は聞きました。ここで生まれた以上、ここでやるべきことがあると言うことです」

 

「はぁ……あんたは相変わらず固い事ばかり言うのねぇ~」

 

「何か問題でも?」

 

 浜辺で2人の少女が膝を抱えて座っていた。寄せては引いていく波と水平線まで広がる青。気持ちがいいくらい澄み渡った空にふわふわと浮かぶ白い雲は抱き締めたら気持ちよさそうだ。

 波打ち際でどこからか流れてきたのか流木が波に当てられてコロコロと転がっていた。

 海の水は澄み渡るほど綺麗で、水着にでも着替えて泳ぎたい気持ちになる。そんな楽な気にもなれば少しは今の状況も楽になるのかもしれない。

 

 髪を二つに分けて束ねた黄色いリボンが特徴の少女、駆逐艦娘《陽炎》は不満そうな表情で、白い手袋をした右手の指先で砂浜に絵を描いていた。

 その横に座る表情の硬い少し眼つきの鋭い少女、駆逐艦娘《不知火》は、ぼんやりと水平線の方を眺めながら、陽炎の愚痴に耳を傾けていた。

 

「そもそも、おかしいでしょ……いや、人の身体になって生まれ変わるってのもおかしいけど」

 

「不知火は気に入ってますよ。まさかこんな形で再び戦場に戻れるとは思っていませんでしたが」

 

「あんたは単純でいいわねぇ……で、不知火。私たちが今やってることなんだっけ?」

 

「食糧調達です。陽炎の働きで、今日の夕飯がどうなるかが決まります」

 

「どうして、私だけなのよっ!あんたも働きなさい……はぁ、こんなんじゃ陽炎型のネームシップの名が泣くわぁ……」

 

 陽炎たちが着任したのは、2週間ほど前のことだ。

 既に着任していた駆逐艦娘から「艦娘」というものについて簡単な説明を受け、再び戦いの場に赴くために生まれ返った自らの運命に、なるほど、やってやろうじゃないかと息巻いていた。

 それで、ここはどこなのか?

 帝国海軍の集大成とも呼べる艦隊決戦特化型の駆逐艦。最新鋭の陽炎型が配属された場所なのだから、本土の主要拠点、横須賀、呉、舞鶴、佐世保、のどこかか。

 工廠を出てまず目に映ったのは、溢れんばかりの緑。

 

 おっと、現代の鎮守府というものはこんなにも緑豊かなのか、などと考えていたが、その駆逐艦娘の口から放たれたのは、南海の孤島だ。

 島流しにでもあったのかと勘違いした。

 

 それなのに、主力のはずの正規空母はいるわ、奇跡の駆逐艦と言われた妹はいるわ、で着任したその日は他の事は頭に入らないほどに混乱していた。

 

 艤装と呼ばれる装備の調整。簡単な艦隊運動などを繰り返しながら、ようやく任務が与えられたと思ったら「食糧調達」だ。

 もはや、自分が船だったことすら忘れそうになる。

 

 そんな日々が続いていた。勿論、訓練もやるのだがその指導が駆逐艦がやると言うのも少し解せなかった。

 まあ、生意気な考えをできたのも僅かな間だった。どこかの軽巡洋艦の姿を彷彿とさせるような訓練内容と厳しさに、その日の昼食を吐いたのはいい思い出だ。

 

 少しずつ仲間たちも増えてきたが、当番制で食糧調達に充てられる日は未だに慣れない。

 

 

「ねえ、私たち二水戦だったのよね?」

 

「時代が違いますし、戦う相手も違います。それにまだそのようなまとまりが形成されているほど、艦娘が揃ってはいません」

 

「あんたは自分の記憶とか誇りとか、そう言うのはない訳?」

 

「割り切るべきことは割り切っているだけです」

 そっけない反応をする妹にももう慣れたものだ。こんな妹でも可愛く思えるから不思議だ。

 

「おまたせおまたせ~!大量やで~!!」

 ジャングルの方から快活な少女の声が聞こえる。

 短い黒髪の少女が腕に籠を抱えて走ってきた。弾けるような笑顔が本当に眩しい。

 関西弁のせいか無駄に明るい性格に見えるし、制服や頬に泥が跳ねているのに気にするそぶりも見せない辺り、少しばかり自分の姉妹艦なのか疑うまである。 

 

「あれ?どうしたん陽炎、辛気臭い顔して?」

 

「別にぃ……」

 

「黒潮、それは……食べられるのですか?」

 不知火に尋ねられた少女、駆逐艦娘《黒潮》は籠一杯に入った果物やキノコと思わしきものに目を向けて、

 

「あぁ、これ?大丈夫なんとちゃう?」

 やや毒々しい色をしている気もするが、黒潮は能天気な表情で言い切った。

 

「適当ですね…雪風にでも訊きましょう。あの子はこういうのにはなぜか詳しいですから」

 

「そうね。さっ、一旦これを置きに帰りましょ。雪風たちのも合わせれば十分な量でしょ?」

 陽炎たちの近くには、木を編んで組まれた籠の中に入ったそこそこの量の魚たちがあった。

 桟橋の近くにある仕掛けにかかっていた分と、銛やら釣り竿やらを駆使して捕まえたものだ。

 

 

「………」

 

「どうしたの?不知火?」

 籠を担ぎながら、棒立ちしたまま水平線を眺めている不知火に陽炎は呼びかける。

 正直、無表情なことが多いため、何を考えているかが分からない。

 

「いえ、まだ少し将来の事になると思うのですが……」

 

「?」

 

「このまま、人数が増えていったとき、食糧難に陥るのではと……」

 

「あー……」

 現在、ブイン基地には9隻の駆逐艦と1隻の重巡、1隻の戦艦、1杯の空母がいる。提督も合わせれば12人。

 多種多彩な艦種が揃っており、今のところ、苦しい感じはなく、備蓄まで行えるほどではあるが。

 

「どうして、ここって孤立しとるんやろかぁ?誰か司令はん聞いたことあるん?」

 

「思えば、訊いたことないですね。では、帰ったら訊くことにしましょう」

 

「……意外と私たちってマズい状況下に置かれてるんじゃない?」

 

「あり得るわー。そもそも、司令はん日本人とちゃうからなー」

 

「本土からの食糧の供給などない時点で疑うべきでした」

 

「……なんだか、面倒なことになってきた気がするわ」

 溜息を吐いた陽炎を先頭にして、周囲を警戒しながら砂浜を進んでいく。

 

 この後の訓練の事を考えると、あまり軽い足取りではなかったが……。

 

 

       

     *

 

 

 

 食堂に着くと、先に帰ってきていた陽炎型8番艦《雪風》がいた。

 白いワンピースに頭部に22号水上電探。首からは駆逐艦に支給される双眼鏡をぶら下げており、愛くるしい小動物のような様相である。

 こんな子が日本海軍屈指の武勲艦なのだから、艦娘というのはつくづく不思議なものだ。 

 

 奥の方からひょっこりと疲れた表情の少女も現れた。

 タオルで汗だか海水だかとにかく頭からぐっしょりと濡れていたので拭っていた。

 

「あら、陽炎たちじゃない。任務は終わったの?」

 光の反射でやや青みがかっているようにも見える銀灰色の髪。「霞色」という言葉を使えば、まさしく彼女の名の通り。サイドテールでその髪をまとめているが今は解いていた。

 少し、目つきがきついが意外と面倒見がいいのは皆が知っている。

 

「霞……アンタどうしたの?ずぶ濡れじゃない」

 陽炎はその少女、朝潮型10番艦《霞》に問いかけると、霞は疲れたというような表情で溜息を吐いて

 

「雪風を手伝ってたのよ。哨戒任務中に偶然鉢合わせたものだから」

 

「はい!大物です!」

 そう言って、雪風が奥の方から引っ張ってきたものを見て、思わず陽炎は後ずさった。

 

「……何、このバカでかい魚」

 

「分かりません!でも、きっとおいしいと思います!」

 詳しくは分からないが、2mはありそうな巨大な魚がそこにはいた。スズキやマグロのような気もするが、少し違うような気がする。とにかく、見たことはないが、戦艦の装甲を思わせるほどの分厚い身体をしている。

 

「……食べられるんでしょうか?」

 あの不知火でさえ、怪訝な表情で頬に汗を伝わせている。

 

「ところで、雪風はんはどこでこの魚捕まえたん?」

 

「ボートで釣りに出たら沖の方まで流されたので仕方なくそこで釣りをしてたら引っかかりました!」

 

「「「…………」」」

 

「ホント、びっくりしたわ。変な船がいると思ったら、馬鹿でかい魚と格闘してる雪風が乗ってたんだもの。暴れるもんだからびしょ濡れ。とんだ惨事だったわ」

 

「いや、雪風…アンタよく沖まで流されて無事だったわね……」

 沖の方まで出れば、そこは深海棲艦が出現するかもしれない危険海域である。そのために、哨戒を行っているのであって、雪風も『運が悪ければ』、邂逅して最悪撃沈されていたかもしれない。

 だが、この少女に運に関して心配はないだろう。

 

「流石は幸運艦と言ったところでしょうか。恐ろしさすら感じます」

 

「雪風はんの運は馬鹿にできへんなぁ…まあ、もうけもんやったっちゅう訳や。当分食糧には困りそうにあらへんなぁ」

 黒潮はその謎の魚の前でしゃがみ込むと、まじまじとその姿を見ていた。

 

「アンタの妹なんだから、ちゃんと面倒見ておいて。じゃあ、私はもう戻るから」

 霞は髪を束ねながら、陽炎に悪態を吐く。そのまま、食堂を後にしようとしたとき、彼女の足は突然止まった。

 

 

 

 窓ガラスが震えるほどの音が響く。耳から入った音が脳の中で響くような嫌な音。

 

 島のそこら中に敷設されたスピーカーからけたたましいサイレンが鳴り響いた。

 やや気が抜けていた調子の陽炎たちの中のスイッチも一瞬で切り替わる。

 

「雪風、それ冷凍室に仕舞ってきなさい。捌くのはまだ後になりそうよ」

 冷静な声で妹にそう支持をして、続く放送に耳を傾ける。

 背後でどたどたと雪風が急いで、大魚を引っ張っていく音が聞こえる、その傍らで少女の声がスピーカーから流れてきた。

 

 

『――――哨戒中の翔鶴偵察機部隊より入電。沖合にて空母機動部隊を発見。敵機30、発艦確認』

 

『これより、防空戦闘配備発令。哨戒中の朝潮、大潮、霰、霞は、旗艦を《翔鶴》として、これに《比叡》を加えた艦隊にて、敵艦隊を迎撃』

 

『陽炎、不知火、黒潮、雪風は重巡《利根》を旗艦として、近海において防空配備。基地を爆撃せんとする敵機より、基地を防衛せよ』

 

 5分後に出撃ドックに集合せよ、それを最後に放送は終わった。

 あの声は恐らく電のものだろう。随分と勇ましい声で話すようになったものだ。

 

 

 

「ったく、タイミングが悪いわね……っ!!」

 霞は放送を聞き終えると、食堂を飛び出していった。

 

「機動部隊かぁ……私たちが配属されてからは初めてね」

 

「昔からこの辺りは、敵空母が頻繁に出現していた海域のようです」

 

「雪風はーん!急ぎー、待っとるで~」

 

「はい!お待たせしました!行きましょう!」

 

 4人揃ってから、彼女たちは食堂を飛び出していった。

 食堂から工廠の奥にある出撃ドックまではさほど遠くはない。

 それが幸いしてか、陽炎たちは1番乗りだった。正確には既に霞が出撃しているのだろうが。

 

「あっ」

 ふと、陽炎が声を上げて不知火が反応した。何かを思い出した、と言うような様子だった。

 

「どうしたのですか?何か忘れものでも」

 

「いや……結局、訊く機会逃しちゃったなぁーって」

 

「……あぁ、あの話ですね。帰ってきて戦果を報告した後でもいいでしょう。司令に会える機会はいつでもあります」

 

「それと、午後の訓練これで無くならないかなぁ」

 

「……陽炎」

 不知火は心底呆れたような表情をしていた。

 

 冗談よ、冗談。と陽炎は言っていたが、実のところは初めての空母との戦闘。とは言っても、戦闘は間接的ではあるが、重要な任務だ。

 翔鶴が幸いにもこの鎮守府にはいたため、防空演習は行うことができた。

 

 だが、やはりこの身体を縛る緊張は並ではなかった。

 

 そんな鎖を外すかのように、陽炎は自分の両頬を叩いた。パシンといい音が響く。

 隣に立っている不知火が、「とうとう頭が狂ったか?」とでも言いたさそうな顔をしているが、

 

「よしっ、行くわよ!」

 いつものように元気のいい声で、妹たちを率いて出撃レーンへと足を進めていった。

 

 

 

     *

 

 

 

 やや不穏な風が流れる。今日は晴れているが波が高い。

 心なしか気温も下がっているように感じる。いつも戦場に立つとこの感覚に陥る。

 

 

 きっとこれは戦場に溢れる殺気のせいなのだろう、と自分の中で答えを出していた。

 人が、生物が放つ一片の感情がここまで、環境に変化を及ぼしているように錯覚させるとは、それを感じ取ってしまう人体と言うのも不思議なものだ。

 

 

 ちらりと後方に続く仲間たちを見た。みな駆逐艦で、隣にいるのはまだ着任して間もないが、強力な力を誇る戦艦だ。

 

「そろそろ、敵艦隊の索敵範囲に入ります。第1次攻撃隊発艦後、陣形を輪形陣に変更します」

 矢筒から取り出した矢を弓に番え、空へと放つ。続けてもう1射。

 雷撃機隊と直掩機である艦戦隊。光に包まれて、空に翼を広げる航空機へと姿を変えていく。

 

 それを合図に、前方左右に駆逐艦が展開し、後方に戦艦を置いて翔鶴が中心になるような陣形に変化する。

 

 航空戦はその戦況に大きく影響を及ぼす。故にそれを司る空母の護衛は最重要であり、空母が崩れた瞬間、それは空を奪われることに等しい。一気に艦隊は航空火力に焼き払われることになり、戦艦の装甲でさえ無意味になる。

 それを避けるための陣形であり、対空・対潜に特化しているため護衛を行う際に用いられる陣形でもある。

 艦娘となって身体が小さくなったため、それに合わせて各艦の間隔も狭まっており、広くても100mほどの距離を置いて陣形を形成している。

 

「……制空優勢状態ですね」

 航空機の戦闘が始まった。敵の艦載機と翔鶴が発艦した艦載機の戦闘の状況により、どちらがより空の支配を握っているかが決まるのだ。

 制空権を握れば、その後の戦況は大きくこちらに傾き、航空機による攻撃は滞りなく進む。戦艦や重巡による弾着観測射撃なども行えるようになり、一気に敵艦隊を叩き潰すことができる。

 

 偵察によれば、ヲ級eliteが1、ヌ級が2、翔鶴たちが今戦闘を行っている艦隊はこれだけの航空戦力が揃っている。

 更にその後方にヲ級flagshipが1、ヌ級eliteが2を基幹とする艦隊が控えている。

 

 久々のやや規模の大きい戦闘となり、翔鶴は艦載機を艦戦部隊に主を置いた部隊編成を整えてきた。

 零式艦上戦闘機52型、乗り込む妖精たちは彼女を支えてきた零戦21型の熟練部隊をそのまま引き継いでいる歴戦の猛者たちだ。 

 

 

 遠く離れた空に火が灯った。

 

「――――敵機っ、来ます!比叡さん!」

 黒い点が空に広がっている。エンジン音が徐々に耳で聞き取れるようになり、その形も見えるようになってきた。

 

「はい!まっかせてー!」

 勇ましい女性の声が翔鶴の後方から艦隊の隅々まで響いて皆を鼓舞する。

 白を基調とした巫女服と碧い袴は、神道の教えのある日本において、その強大な戦艦の力を象徴する「神の依代」を思わせる。

 精悍さを感じさせる短く整えた髪に、髪飾りのような電探が取り付けてある。

 それが「金剛型戦艦」の共通する特徴であり、彼女はその2番艦として名を授けられている。

 

 金剛型戦艦2番艦《比叡》。強く握った拳をゆっくりと掲げていくと4基の35.6㎝連装砲が動き始めて、仰角が大きくなっていく。

 

「三式弾装填っ、さぁて!気合いっ、入れてっ、行きますっ!!」

 そして、握り締めた拳を強く前に突き出すと同時に、巨大な砲門が一斉に火を噴いた。

 

 それは微細な風の音、波の音、エンジンの音、それらすべてを無音に感じさせるくらい、いや、それ以前に存在していた音全てが存在ごと掻き消されるほどの―――轟音。

 衝撃波が大きく比叡の足元を凹ませて海を抉る。びりびりと空気が震えて、離れていても肌にその振動を感じた。

 

 1撃目。青空を這う虫のような敵機の群れを抉り、薙ぎ払う戦艦の怒涛の砲撃。

 一気に空が火で包まれる。対空用特殊砲弾「三式焼霰弾」、通称「三式弾」である。

 

 時限信管で砲弾を炸裂、内蔵されている焼夷弾子を周囲に散開させ、広範囲を焼き払う砲弾である。その炸裂する様相はさながら花火のようであり、装甲を貫通するには些か威力が足りないが、対空戦闘、地上基地及び艤装の破壊に効果的と言われる。

 だが、実際に効果を出すのは非常に難しい。大戦期にもそれは問題視された結果、艦娘となった彼女たちが用いるものはやや改良が加えてある。

 

「よっし!」

 小さくガッツポーズをすると、すぐに次弾装填の作業に取り掛かっていく。まだ敵機は残っている。全てを撃ち落とすことは不可能でも、1機でも多く落とすことが被害を抑えることに繋がる。

 

「対空戦闘用意っ!主砲、構え!!」

 無線に勇ましい少女の声が飛び込んでくる。翔鶴はちらりと右方を見る。声の主は波風に長い黒髪を靡かせている。

 

「―――対空射撃開始っ!!この海域から叩き出せ!!」

 彼女の声を合図に四方に散らばる駆逐艦娘たちの対空射撃が始まる。一気に弾幕が空に展開されていき、敵艦載機の侵攻を阻んでいく。

 駆逐艦娘たちを指揮する彼女、朝潮型のネームシップ《朝潮》は幼い容姿とは相反した凛々しい表情で空に主砲を掲げていた。

 

「1匹も逃がすな!朝潮型駆逐艦の力っ、見せてあげなさい!!」

 真面目な性格も相まってか、戦闘に関してもかなり真剣で口調もやや強くなる。だが、優れたリーダーシップでいつも彼女の妹たちを率いているため、一糸乱れぬ戦闘を展開している。

 

「よーしっ、いっきますよー!!てーっ!!」

 

「……撃ちます」

 前方と後方で小口径の主砲が火を噴き始めた。 

 2人とも煙突のような帽子をかぶっているが、性格や表情は真逆のようだった。

 白い歯を見せて笑っている2つ結いの少女が朝潮型2番艦《大潮》、とても明るい性格で、それが戦闘にもよく表れている。なんというか常にテンションが高い。

 もう片方のショートヘアの少女が朝潮型9番艦《霰》、とても寡黙であり、あまり表情も変えないが、そのせいか機械のような精密な砲撃を得意としている。

 

「ったく、つまらないのよ!!とっとと墜ちなさい!!」

 翔鶴の左方で砲撃を行っているのが、《霞》であった。自他ともに対してかなり厳しく、それは敵に対しても向いているらしい。その艦歴からか激戦を潜り抜けてきた武勲艦の1隻であり、大戦末期まで戦い続けてきたせいか、性格がまるで教官のように厳しくなったみたいだ。

 

「撃ちます…当たってっ!!」

 比叡の第1、第2砲塔が再び砲撃した。海が震え、空を火が駆ける。

 大半を撃墜したものの、僅かながら残った爆撃機が近くの艦娘に対して爆撃を開始する。

 

「各員、回避行動を行ってください!」

 だが、密度のない爆撃を躱すことなど容易であった。

 何もいない場所に爆弾は投下されて、水柱が立つ。敵機を追って戻ってきた艦戦隊によって、残っていた敵機は撃墜されていった。

 

「第3、第4砲塔っ、通常弾装填っ!斉射、始め!!!」

 隙を見て、残しておいた砲門を開き敵艦隊への砲撃を開始する。放たれた4発の砲弾が、水上に立つ影の周囲を抉っていった。

 

「……狭叉っ、次は行けます!当たってっ!!」

 続けて、砲撃が行われる。1発がヌ級に命中し、炸裂。黒煙が上がっているのを確認した。もう1発がヲ級の至近弾となり損傷を与える。比叡は大きくガッツポーズをすると、それを見届けて翔鶴が口を開いた。

 翔鶴の攻撃隊をの戦果を含めて、轟沈ヌ級1、ハ級1、中破リ級1、ト級1、小破ヌ級1、損傷軽微ヲ級1。

 やや攻めあぐねている感じはあるものの、上々であろう。

 

「このまま反航戦で、敵艦隊を叩きたいと思います。砲戦終了後はそのまま進行して、先にいる本隊を叩きます」

 帰還した雷撃隊、艦戦隊の一部の着艦作業を進めながら、艦隊に指示を出していく。

 

「空母が残ってしまった場合はどうしますか?」

 後方の比叡がそう尋ねる。確かに、空母を生かしたまま残せば、問題が多く残る。

 

「空母は私が責任をもって叩きます。皆さんは中破した随伴艦を狙ってください」

 強い自信を持って、そう言うと翔鶴は2本の矢を手にしてそっと弓に番えた。 

 

「第2次攻撃隊、発艦っ!!」

 矢が空を切り、姿を変えていく。航空魚雷を携えた雷撃隊である。直掩の艦戦隊も発艦し、被害を受けた敵艦隊へと迫っていった。

 

 封を切ったかのように左舷で砲戦が展開される。すれ違うような状況である反航戦で行われる砲戦で命中させるのは難しいが、生半可な訓練を積んできた訳ではない。、それに今は翔鶴と言う大きな存在が、海上から、そして空から艦隊の柱として存在していた。

 

 いくつもの爆音が響き渡り、海面は何度も割れ、幾本もの水柱が立つ。

 敵艦隊が炎に包まれていく。その行く末を最期まで見ることなく、彼女たちの航跡は先へと続いていった。

 

 

 

 

     *

 

 

 

「よしっ、吾輩たちはこの周辺で待機じゃ」

 

「えっ、こんなところで、ですか?」

 陽炎は周囲を見渡して顔をしかめた。

 ブイン基地が水平線に隠れるくらいの場所。周囲には孤島が見えたり、見えなかったり。

 特に何もない場所で待機しろと言われたのだ。

 

「吾輩らの任務は、迎撃に向かった者たちが討ち損じた航空機や、深海棲艦のトドメを刺すことじゃ。迂闊に動き回るより、待ち構えておいた方がやりやすい」

 したり顔で仁王立ちする姿に、有無言わせない姿勢を感じさせる。

 重巡洋艦娘、利根型1番艦《利根》。陽炎からすれば、豪胆無比と言えばいいのか、自分を信じて疑わない人だという印象だった。

 深緑色を基調としたショートルックのワンピース。後部甲板を模したニーソックス。髪はツインテールで主砲とカタパルトが左右非対称という変わった艤装をしている。

 なんといっても特徴はその口調だ。自分を「吾輩」と呼び、やや古風な話し方をする。

 重巡と言えば、駆逐艦に比べればまた別世界の存在だ。艦娘になってもそれは変わらないし、やや向こうが大人びていると言うのも圧倒される理由になる。

 

 

「あ、あの……いいんですか?もう少し散開して索敵を徹底したほうが」

 

「もう吾輩が索敵機を四方に放っておる。まったく、お主ら駆逐艦は血気盛んな者たちばかりで困ったものじゃ。軽巡が1人でもおればよいのじゃが……」

 そう。ブイン基地には駆逐艦の直轄の上司に当たるはずの軽巡が着任していなかった。

 訓練については、電がいるために問題はなかったが、立場というものは意外と重要なもので、重巡が駆逐艦をまとめ上げるというのはあまりしっくり来ないものらしい。

 

「流石に海に出ておいて何もしないというのは……」

 

「真面目じゃのう。よしっ、対潜警戒を頼もう。念の為じゃ。あまり動き回るなよ?無闇に探し回った方が索敵に穴を作る。『艦隊の眼』は吾輩に任せよ」

 零式水上偵察機。フロートの付いた水上機の一種だ。

 恐らく出発の前に既に放っていたのだろう。上空からの偵察は非常に広範囲を見渡すことができ、電探よりも場合によっては効率がいい。

 特に利根の偵察能力は優れていた。彼女曰く『艦隊の眼』、今はその名に背中を預けておくことにしようと思い、陽炎は自分たちの仕事へと移った。

 

「みんなー、対潜哨戒するわよー。潜望鏡を見つけたら、すぐに報せなさーい」

 陽炎は後方に続いていた妹たちにそう指示をする。

 4人とも別の方角に散らばっていき、目視での対潜哨戒を試みた。

 

 今日は波がやや高い。波に揉まれていれば潜望鏡も見つけにくくなる。注意して揺れる海面に目を凝らした。

 

「あまり遠くまで行かないで。あぁ…水中聴音機(パッシブソナー)でもあれば楽なんだけど」

 

「ここ最近、近海で潜水艦の報告は上がっていません。余程の事がない限り、そのような貴重な装備は配備されないでしょう」

 やや漏れてしまった不満をすかさず不知火が拾って言い返してきた。

 離れた場所にいる彼女に、何よ、とでも言わんばかりの視線を送るが、素知らぬ顔で哨戒を続けていた。

 

「黒潮ー、雪風ー、そっちは大丈夫ー?」

 

「敵さんの影ひとつあらへん……大丈夫やでー!」

 

「はいっ、こちらも大丈夫です!」

 

「利根さーん、今のところ問題ありませーん!」

 

「そうか、引き続き……むむっ」

 その瞬間、利根の表情に真剣さそのものがくっきりと浮き上がった。目が鋭く左30度の方角を睨む。

 目を閉じる。彼女の意識は零式水偵と繋がり、映像がくっきりと伝わってくる。

 

「ややっ、少々マズい事態になったのう……陽炎、集合じゃ!敵が来るぞ!」

 その声、その表情、彼女から放たれた威圧が一瞬で戦場を組み上げていく。

 陽炎や不知火たちにもそれは伝わっていった。自然と顎を引いて、唾を飲み、気が引き締められていく。

 

「陽炎型集合!」

 陽炎の喉奥から鋭い声が無線機のマイクに放たれる。

 身体に張り巡らされた感覚が明らかに変わってくる。指先まで目があるかのように鋭敏になるのだ。

 

「戦線をやや前にずらすぞ!単縦で吾輩の後に続け!」

 利根の声はいつもに増して勇ましく響いた。いつもの自信に満ちた表情とは一変、彼女の表情には本気の二文字が現れている。

 

「近辺に湧き出て合流したか……数が増えておるなぁ。じゃが、そちらは他愛なし。翔鶴は何をやっておる……」

 

「な、なにがあったんですか?」

 

「少々待て……いや、陽炎。基地に連絡して電を呼べ。現状の戦力で足りるかも分からぬ……」

 その指示の直後、モースル信号が利根の無線機に響く。偵察機からのより詳細な情報が送られてきたのだ。

 

「正規空母が1、駆逐級が2、戦艦級が1、戦艦は中破状態、か……」

 空母に戦艦、そのフレーズが陽炎の背筋を駆け抜けて恐怖を呼び起こす。

 どんな存在か知っているからこそ、その強大さを知っている。駆逐艦が相手をするには強大過ぎる敵であることも。

 

 静かだった海が急にざわめき始めた気がした。

 

 

 

     *

 

 

 

 爆炎が後方で広がった。海面が大きく沈み込み、背を打つ衝撃波が聴覚を狂わせて眩暈に似た症状を引き起こす。

 それを防ぐために、朝潮は耳を塞いでいた。それは咄嗟の行動だった。

 

「―――――っ!」

 耳を閉じてた手を解き、急いで海上に座り込んでいた身体を起こした。

 ズキリと右足が痛む。赤く血が滲み出ている。

 

 目の前で、バシャン、っと大きな何かが崩れ落ちる音がした。

 巫女服姿の女性が片膝を突いて崩れ落ちている。十字に交差して頭部を守っていた腕が、力なく垂れ下がった。

 

「―――比叡さん!!」

 彼女の背越しにこちらを静かに見つめる冷たい瞳。

 白い肌、長髪の女性、両手に砲門が並んだ盾のようなものを携えてこちらを見て笑っている。全身から燃え上がる炎のような黄色い光を放っている。

 戦艦ル級flagshipは項垂れる比叡にもう一度砲門を向けた。その背後に隠れている朝潮に気付いているのか、彼女を見て嘲笑ったかのような気がした。

 

 朝潮は手を伸ばした。比叡の背中を支えて逃げなければ。 

 

 

 航空機の雷撃を受けた。一瞬意識が取んで目まぐるしく回る世界の中で砕け散る自分の魚雷管を見た。空と海面が入れ替わっていき、頬に冷たさを感じた。

 絨毯爆撃とさえ思えるほどの圧倒的な火力で、大潮が中破した。霰も至近弾を受け機関の調子がおかしくなっていた。感情を乱しすぎた。前に出すぎた。

 

 そして、あの白い顔にに浮かぶ深淵を感じさせる目に見つめられて足が止まった。回避することさえ忘れて、まともに魚雷を受けてしまった。

 

 途切れそうな意識の中で、大きな黒い穴がこちらを見つめていた。あぁ、あれは戦艦の砲口だ。

 最後に白い影が飛び込んできた。盾になるかのように立ち塞がった。咄嗟に両腕を十字にして砲撃を受け止めた。

 

 爆発はしなかった。右腕に綺麗に当たり、やや弾道が逸れて後方で爆発したが、鈍い音が響き渡った。

 

 

 比叡に駆け寄ろうとしたとき、項垂れていた顔が起きた。

 

 ちらりと振り返った比叡は笑っていた。恐怖に怯え、焦りに囚われた朝潮を諭すような笑みを浮かべて。

 

「耳、塞いでて」

 唇がそう動いた。身体は反射的に彼女の意を汲み取って再び両耳を塞ぎ、蹲った。

 

「させるかぁぁぁあ!!!」

 少女の怒声が響く。戦艦に肉薄する駆逐艦娘が1人。主砲を放ちながら気を引こうと必死に海を駆けている。

 ル級は不意にそちらに意識を向けた。主砲をカンカンと叩く小さな砲弾が耳障りだった。

 

 目が合った。霞は笑った。

 

「馬鹿ね、沈みなさい!!」

 

 4基の主砲が動いた。比叡の左手がまっすぐにル級を捉えていた。

 

「主砲っ、斉射っ、始め!!!」

 黒煙が広がって、轟音が響く。空気が振動し、広がった火から戦場の空気を裂くようにして、4発の徹甲弾がル級flagshipの装甲にぶち当たる。

 

 金属音。直後に爆音。鉄片が宙を舞い、火の粉が海上に落ちて消えていく。

 ル級の左腕ごと片方の砲門を吹き飛ばした。仕留め損なった。比叡は悔しさから歯を食いしばるが、すぐに朝潮を引き連れてその場から動き始めた。

 

 再び陣形を形成する。戦場の中央で矢を放ち続ける翔鶴の下へと集まって、護りを固めていく。

 残った敵艦の相手をしている暇はなく、一旦この戦場から離脱することがこの艦隊にとって最善の手だった。

 

 

 制空権を奪われたのだ。翔鶴は額から伝う汗を拭う暇もなく、焦りが徐々に彼女の中で広がり始めた。

 唇を噛んだ。今の状況ではこの戦いには勝てないことを悟ったのだ。

 

「――――全部隊、帰還してください。攻撃隊を先に着艦させます」

 艦載機たちにそう伝える。被害も大きかった。これ以上、攻め続けて被害を出すことは避けるべきだ。

 朝潮型駆逐艦は残った兵装で対空砲火を休むことなく続けていた。その隙に翔鶴の着艦作業が進んでいくが、彼女の眼にはこの戦場の奥に佇むひとつの黒い影をずっと睨みつけていた。

 

「……どうして、どうして、『青眼』がこんなところに……っ!」

 

 『青眼』―――正規空母ヲ級改を彼女たちはそう呼んでいた。

 姫級に匹敵する圧倒的な火力と装甲。正規空母の艦娘1人ではとても太刀打ちできるような相手ではなかった。

 そんな強敵がこの海域に出現していた。

 

 油断はなかった。慢心などなかった。

 それでも、理不尽なまでに勝てない敵が存在していることはずっと前から知っていた。

 

「一度戦線を離れます。朝潮さんと大潮さんを中央に。複縦陣を形成してください。霞さんは霰さんのサポートをお願いします」

 策が必要だった。策さえあれば対抗できるだけの練度が自分にあるはずだ。

 だが、困惑と焦燥が思考を乱す。それ以上に、自分が受け持った艦隊が圧倒的な力を前に崩れ落ちていく様が、嫌な記憶を呼び起こす。

 

「艦戦隊っ、追撃してくる爆撃機の迎撃を」

 上空を旋回して待機していた艦戦部隊に指示を出す。補給を満足に行える状況でもない。厳しい戦いだが、彼らは再び翼を敵と向けてくれた。

 

 

 

 

 そんな彼女たちを見下ろすかのように、遥か上空を駆け抜ける航空機が1機あった。

 

「……なにあれ?」

 コックピットに座る彼女はそう呟くと、F-35A-Jは大きく旋回し、海上を進む彼女たちの頭上を再び駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「なあ、作者さん。今回はどこの話だっけ?」
「あぁ、ブイン基地だね」
「それで、このブイン基地には誰がいたんだっけ?」
「あぁ、流れ着いて提督になっちゃった青年だね」

「なあ、作者さん。 提 督 を ど こ に や っ た ?」


「君のような勘の良いガキは嫌いだよ」



 まさかの提督不在回。まさかの前編後編。計画を守る気のない作者ですみません。


 時代を考えて若干オリジナル成分入ってるところもありますが、ちょっとした考え方の問題なので、あまり深くは考えないでください。お願いします。

 では、まだまだ続きますがこれからもよろしくお願いします。



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