艦娘が伝説となった時代   作:Ti

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 かなり遅筆になってしまい申し訳ありません。
 やや中弛みしてしまっていつ感じになっていますが、頑張っていこうと思います。





空と海の境界で -舞鶴鎮守府にて-

 

 

 この国は随分と小さくなったと言う。この国に限ったことではないのだが、海面の上昇が200年ほど前から急激に進み、この時代になってもまだ続いている。

 深海棲艦と言う敵は、そのことで言うと非常に理の敵った存在であったのかもしれない。

 

 相対的に広くなった海。狭くなっていく陸地。

 どちらの覇権を握った者が、この世界の頂点に立つことができるのか。

 空を制する力さえ持つ海軍、その模倣の力を持つ深海棲艦は生命力と言う点で人間よりはるかに優れていた。

 人間は賢い。その分、脆い。

 

 人の形をして、それでいて頑丈な彼女たちを、深海棲艦同様に化物と呼ぶのは今の時代ではそうそういないだろう。

 その彼女たちが、この星の次なるで舞台ある海の覇権を握ったのだ。100年前に、人類の存亡を賭けた代理戦争に勝利し、彼女たちこそがこの時代を作り上げたのだ。

 

 だとしたら、この世界は人間の世界ではなく、もはや艦娘の世界に等しいのでは、と思うこともある。現に、この国は彼女たち無くしては在り得なかったのだから。

 

 艦娘の系譜。表八家、裏五家。

 

 衰退した国家を再興するために、戦後日本という国の再建に尽くした彼女たちの中で、この国を動かし得る権力と地位を手にし、そして後継を残すことができた一族たち。

 ある一族は軍事力を。ある一族は政治力を。ある一族は外交力を。ある一族は工業力を。

 ある一族は金融を牛耳て、ある一族は物流を牛耳た。

 常に表舞台に姿を晒し続けることで、人類の勝利の象徴としてありとあらゆる流れを集め、そして操っていった。

 ありとあらゆる組織の頂点、もしくは上層部に必ず存在し、全ての権力を自在に操ることでこの国を守り続けてきた者たち。

 『御雲(みくも)』『(かがみ)』『織鶴(おりづる)』『蜻蛉(あきつ)』『仲園(なかぞの)』『上雄(かみお)』『伊武野(いぶの)』、そして『長門(ながと)』。

 この者たちの一族を《表八家》と呼ぶ。

 この8つの一族無くして、この100年は存在しなかったのだ。

 

 そして、《表八家》の陰に常に存在し、決して表舞台には姿を現さず歴史の裏で暗躍した一族。

 いわゆる汚れ仕事や、諜報活動、工作活動といったものである。

 公にすれば非難を浴びるような仕事を、「姿無き者」として静かに悟られることなくこなしていく。

 表の一族が円滑に復興を進めていくことができたこと、無理かと思われた活動も行うことができたこと、口を煩くしていた障害である団体や国家が突然黙り込んだこと。

 ほとんどにこの者たちが関与しているといっても過言ではない。

 『天霧(そらきり)』『証篠(あかしの)』『峰城戸(みねきど)』『陽里(ひのさと)』、そして『鳳咲(ほうざき)』。

 どれもこれも血塗られた一族であり、闇の世界の一族であったらしい。らしいとは、何をしてきたのかその全てがはっきりとしていないからだ。

 彼らの一族が艦娘の後胤であることは知られていない。

 そもそも、彼らの事を《裏五家》など呼ぶのは《表八家》の人間か、それなりの権力を持つ者か、古くから名のある豪族くらいだ。

 

 とまぁ、こんなことになっているのだが、まだ歴史は100年足らずの若い一族の話だ。

 それでも激動の時代を治め、今日の平穏を導いた者たちであることは変わりないのだ。

 

 

 そのひとつ。鏡家に生まれ落ちた俺だが、残念ながら兄弟姉妹ともにおらず、面倒なことにありとあらゆる「名の持つ責任」を背負わされることになった。

 

 そのことを告げられたのは、15歳。中学を卒業し、その後の道を決めかねているときだった。

 自分は「艦娘」の子孫なんだと。

 別に驚きはしなかった。いや、鏡 継矢にとってはどうでもいい事だった。 

 親は厳しかった。しかし、何も教えなかった。自ら学ぶことを強いた。

 弓道の道は誰かに教わったものではなかった。

 勝手に学んだものだと言える。

 弓は両親の姿を見て一から学んだ。

 両親ともに寡黙であったが、この時は一層静まり返る。無駄というもの全てを削ぎ落したシンプルさを感じさせるものが美しいと思えた。

 巨漢で剛毅という言葉の似合う父からは想像できないほど繊細な矢を放つ。

 細身の母親からの細腕が放つとは思えないほど芯のある強い矢を放つ。

 

 初めてその場に立った時は恐ろしいほど広く、同時に窮屈に感じた。

 

 あぁ、そうだ。

 彼女たちの姿を見て似たような感覚を得たのだ。

 潰れそうなその体に鋼鉄を纏う小さな身体が、とても大きな強い力を持った存在のように。

 

 その度に思うのだ。読み取れない、その姿からは少しも読み取れない。

 

 こんな幼い彼女たちがあの化物と戦えるのか?

 

    ―――――その身体は化物を葬り去った。

 

 艦娘の力でしか、その異形を葬り去れないのか?

 

    ―――――その前に「人を殺す」力は無力だった。

  

 

 『何者なのだ?』

 

 人間にしか見えないのだ。無力な少女たちにしか見えないのだ。

 

 化物に匹敵する力を持つ存在が艦娘なのだとするのならば、艦娘たちは化物なのか?

 

 敵がはっきりしている以上に、彼女たちがはっきりしていない。

 人にしか見えない彼女たちが人でないとするのならば、人だと思っていた自分たちさえも人であるかどうか曖昧になる。

 この身の丈に合わない些細な歪みが、小さな恐怖を生み出して蝕んでいるようだった。

 

 所詮は風説だ。人が作り出し、誇張した伝説に過ぎない。

 伝説と呼ばれたものは、蟻を殺して蛇を殺したと語っているものがほとんどだ。

 巨人を殺した、鬼を殺した、と言えば、その正体は人間だったのだろう。

 確かめる術がないことを良い事に良いように表して、さも物語的に語り継がれるような作為的衝撃を付加させている。

 

 艦娘だって、1世紀も昔の存在だ。

 多くの文献も、彼女たちが使ったとされる艤装も、多く残っているが、そんなものどうでもいい。

 誰かが作った「証明」なんて自分自身の中で肯定させる証明にはならない。

 

 深海棲艦には艦娘の攻撃しか通じない。

 どうせそれも誇張だろう。現代兵器を用いれば、人類なんか何十回も滅ぼせるほどの科学力があったのだ。

 殺しきれないなんてありえない。

 

 そもそも、深海棲艦なんていたのか?国家間の戦争を綺麗ごとで片付けようとしたが為に生み出された空想上の敵ではないのか?

 その日は証明の日となった。

 否定した。彼女たちは証明した。

 その存在こそが証明たり得るものだった。

 

 だからこそ、今日も苦悩する。

 

 

 いつも隣で笑っている彼女があまりにも無垢すぎるから、彼女たちに疑いを向けてしまう自分が醜く思えてしまって……。

 

 いつも凛々しく海上を舞う彼女の姿があまりにも勇壮であったから、自分があまりにも無力に思えてしまって……。

 

 結局はそう言うことなのだと思う。

 俺が普通の人間だったとしても、普通の家庭に生まれたとしても、別の艦娘の一族として生まれたとして、俺が別の国の艦娘の一族に生まれたとしても、俺は他人を妬み、憧れ、尊び、敬い、自分を嘲り、卑下し、否定する。

 

 俺が人間だから、人間と言うサイズにぴったりの心だけを持ち合わせて生まれる。

 まるっと収まってぴったり人間サイズ。

 それだけなのだ。

 どんな責任や血筋を背負おうが、俺は1人の人間に過ぎない。あぁ、平凡だ。

 

 こんな風にすべての悩みが時々馬鹿馬鹿しく思えてくるから、艦娘という存在は本当に不思議なのだ。だからこそ、俺は提督の道を進んでよかったのだと思う。

 

 きっといつか、彼女たちが俺に答えをくれるだろう。

 この場所も気付かないうちに、少しは居心地の良い場所になってきたのだ。

 

 

 

     *

 

 

 

 重々しい鉄の扉を開くと、油と鉄の匂いと咽かえるような空気が溢れ出してくる。

 ただ、ここの入り口は便宜上大きく作られているため、頭を打つことがなくて助かる。

 工廠を通り抜けると、いろんな艦娘たちを見かけた。

 髪をおさげに結っている少女が建造中のドックを監視していたり、青髪の少女が江戸っ子口調で上手く行かない開発に嘆いていたり。この鎮守府も随分と人数が増えた。計画通りに事が進めば、すぐに今の数の倍にはなってもっと賑やかになる。

 

 彼女たちの邪魔をしないように静かに通り抜けていき、奥にある扉から外に出て少し海岸沿いを歩いていく。倉庫の裏に回るとそこには少し広い空間が設けられてある。

 今日はそこに巨大な鉄の塊と大量の人間がいた。

 

 制服は海軍のものではない。陸軍のものでもない。 

 

「お待たせした。申し訳ない……」

 

「いえ、執務ご苦労様です。鏡海軍大佐殿。今、責任者の方を呼んで参ります」

 俺を待っていたらしい青年に軽く挨拶をすると、彼はきびきびと駆け足で機体の方へと向かい、俺が来たことを上官に知らせに行ったようだ。

 その背中を見ている私の目に映る、背中に大きくプリントされた大鷲のエンブレム。

 

 航空防衛軍。

 空の人間たちが海の人間の敷地に何用かと言えば、これが結構重要な任務なのだ。この鎮守府の責任者である俺が赴かなければならないほどに。

 この鎮守府の運用は彼らなくして今はまだ成り立たないだろう。 

 

 

 艦娘の希少性と、未だ資源の調達の見どころが定まっていないこと、以前は行っていた遠征のルートが固定化されていないことなどから、各鎮守府への資源の配給は大本営によって行われていた。

 そのため、資源の管理は非常に厳密に行われ、何度も監査が行われる。

 こちらにそれが着いた瞬間から。故に、物資の輸送は一定の権力を持つ第3勢力によって行われることになっている。

 そして、舞鶴と言う場所。本州からして横須賀の裏側にあるようなこの場所には航空機での輸送が行われていた。

 

「では、予定通り物資を下ろして倉庫まで運搬、確認作業を行ってください。くれぐれも慎重に」

 舞鶴鎮守府の一角にあるヘリポートに巨大な金属の塊が降り立った。

 外装には大鷲の翼を掲げた紋章。すぐに後方のハッチが開き大勢の人間が降りてきた。

 その人間たちを透き通る声で指揮する女性が1人。と言っても、その中で女性なのは彼女だけであって、異様に目立っていた。

 ドタバタという慌ただしさはなく、テキパキとした無駄のない動きで作業を始めた。

 その作業の邪魔にならないように近付いていき、彼女に声をかける。

 

「なんだ、お前が来ていたのか……?」

 前述した通り、資源の管理が厳正に行われなければならないために、俺のような者も受取の場に赴く。

 振り返った彼女はキリッとした凛々しい表情を解き、柔らかな笑みを浮かべる。

 

「えぇ、私が来てはいけませんか?」

 そう彼女は答える。一切の悪意を感じさせない笑みを浮かべている辺りに悪意を感じる。

 こうして見れば、ただの美人だ。端正な顔立ちに長く艶のある黒髪。やや深い緑の色に見えるのは彼女の中に流れる血のせいだろう。

 傷ひとつない白い肌。やや人より白すぎるせいか、彼女の端麗さも相まって儚ささえ抱かせる。

 

「来ると知っていたならもっと違う形で出迎えていた」

 

「それがいいんです。継矢さんの不意を突くのが。それに任務の1つ。出迎え方に違いなんてありもしないでしょう」

 やっぱりただの嫌がらせだ。その後に少し正論を交えて反論できないように締めくくる。

 だからこの人は苦手なのだと顔に出さないようにしていたのだが、

 

「あら?私の事お嫌いになりましたか?」

 女の観察力というものも侮れない。

 乙女ばかりが務める職場に勤めていながらそのことを忘れていたのは、彼女たちが純真無垢な少女たちでありすぎたため私の警戒心が緩み切っていたせいかもしれない。

 そう考えると、彼女の来訪は一度俺の気を引き締める良いものになっただろう。

 

 日本航空防衛軍所属、織鶴 瑞乃(おりづる みずの) 1等空尉。

 海を司る『鏡家』に対し、空を司る『織鶴家』 。両家は親戚の関係に当たる。

 2つの艦娘の子孫の一族が、お互いの血族を守るために交わり、再び別れたためにこのような形となったのだ。

 その長男と長女。立場は似たようなものであり、幼い頃から分かり合うものがあった。

 自衛隊の名残から女子にも軍属を認めていた現代の軍で彼女こそが『織鶴』の名を背負う者であったからだ。

 

「……それで、仕事の話をしよう。事前に受けていたものでは各資源1万ほどと」

 とりあえず、彼女の質問をはぐらかして本題に入る。やや不満そうな顔をしていた。

 

「いけずですね……まぁ、私は今日限り輸送部隊の責任者ですので。親のコネは使いようですね」

 

「はぁ……じゃあ、早急に仕事をしろ。資源の確認を早く終わって倉庫に納めて再度確認して終わりなのだろう?」

 

 と言った感じに、この女といると完全にペースを持って行かれる。

 時々、自分を見失いかけることもしばしばあるので苦手なのだが、体裁上彼女とは付き合わなければならないのだ。

 

 しかし、久し振りに会ったが変わっていないと少しだけ頬が緩んだ気がした。

 俺の前ではこんな振る舞いをするのに、伝わってくる話では『鬼』などと呼ばれているのが不思議で堪らないのだが、少なくとも彼女は昔からそうだった。

 実直で、清廉で、厳格で、多くの期待を背負い、血を背負い……。

 自由そうに見えてかなり縛られている。それは傍から見れば俺と同じような者だろう。

 御雲も、証篠も同じだ。血に縛られている。

 特にそのことを幼い頃から理解していた俺には、少なくとも彼女たちより、自分の血について早く理解していた俺には、なぜか彼らを同情してしまう。我ながら、おごがましいことだ。

 ただ、彼女はそんなことを気にしないように生きている。そんな感じもするのだから不思議で堪らないのだ。

 

「―――それで、どうですか?艦娘とかいう子たちとの生活は?」

 ひと通り指示を終えて暇になったのか、私の下へと寄ってきてそう尋ねた。

 

「何とも言えないな。不思議で堪らない、彼女たちという存在は。何度も驚かされた」

 軍帽を脱いで、ふうとひと息吐いた。不思議と肩に入っていた力がストンと落ちた。

 

「そうですか……継矢さんのことですから、幼い子どもたちを威圧してしまって、てっきり怖がられてしまっているんじゃないかと」

 

「それも間違いではないが。はじめの頃は大変だった。駆逐艦はみんな逃げてしまってな……だが、今は信頼関係を上手く築けていっているはずだ。分からないことも多いが」

 

「いつか、継矢さんの大切なものになればいいですね」

 

「既に大切な部下であり、仲間だよ。彼女たち無くしてこの時代は成し得なかった。ただ、それでも……」

 言葉が詰まる。瑞乃には嘘偽りなく話そうと頭が働いているようだ。

 どうせ、嘘を吐いたところですぐにばれると理解しきっているのだ。だからこそ、余計な見栄など張る必要もなく、ふっと肺の中の悪い空気を吐き出すかのように言葉を口から出した。

 

「やはり、彼女たちは人間ではないのだと、1日のうちに何度も思い知らされて、その度に俺と言う存在が揺らぐ」

 不安、だろうか。

 艦娘という存在に触れる度に、それが未知だと思い知らされて、不安な気持ちになる。

 怖いのだろう。過去の功績を、勝利を、栄光を認められ、神格化さえされつつある彼女たちを信頼しきっている世界。それに違和感を抱く自分ひとり。

 もし、艦娘が俺たちの想像しているような、英雄などと言われるような存在ではなく、全ての歴史が良いように書き換えられていたものだとしたら、この世界そのものが傀儡となってしまう。

 そう言った杞憂に対する不安。

 

「継矢さんはいつも深く考え込む癖がありますね。図体は大きいのに、見かけに依らず心がとても繊細です」

 瑞乃はちょっと可笑しそうに笑いながら言った。

 

「突き詰めたくなってしまう。俺に関係のないことでもないから」

 

「難しいことばかり、毎日考えているのですか?疲れ果ててしまいますよ?」

 

「そんなに深く彼女たちを追究する必要なんてないと思います。継矢さんにとっての、艦娘というものは継矢さんの目に映る彼女たちの姿で間違いないのです。ただ、素直に、彼女たちと触れ合い、感じたものから少しずつ彼女たちについての認識を組み上げていけばいいんです。得体の知れぬ者、確かにそうでしょう。だったら、継矢さんなりの定義を決めてしまえばいいのですよ。それが継矢さんにとっての彼女たちです」

 俺の顔を覗き込むように移動する。ふと目を向けると目が合った。

 それを待ち望んでいたかのようににっこりと瑞乃は笑う。

 

「実は既に出来上がっているんじゃないんですか?信頼関係は生まれているのでしょう。それを疑ってしまえばずっと苦しみ続けるだけですよ?」

 

「あぁ、いや、だが……ううん、確かに」

 少し混乱してしまい、何を言うべきか迷う内に変な言葉を並べていた。

 顔を逸らして、頭をゆっくりと冷やしてから自分の頭の中を整理した。

 

「まだ時間が要るのかもしれない。俺が思っていた以上に」

 

「もう……これ以上まだ考えるんですか?そこまで思う艦娘に、私も会ってみたいですね。今からはダメですか?」

 

「彼女たちも仕事がある。俺にもお前にも任務がある。それが優先だ……戦友となる存在だ。万が一の時は背を預けられるほどに。だからこそ、もっと知る必要がある」

 

「……まだ、答えが見つかるのはまだ先の様ですね」

 

「答え……あぁ、あれか。お前の口から出るとは珍しい」

 

 少し話が変わるが、同期であった俺と御雲と証篠にはひとつの共通した目標があった。

 艦娘たちを率いる者として、自分達に課した使命と言うか、そんなに堅苦しいものでもないのだが。

 

 俺たちは艦娘の子孫だ。血を受け継いでいる者であり、その為に艦娘を率いることを課せられている。だからこそ知っておくべきことがあるのだ。艦娘より生まれ、艦娘を生み出し、艦娘を率いるという特殊な存在である限り、俺たちはきっといつか向き合わなければならないというのが共通認識だった。

 それが、答えだ。明確な形のない問いに対する答えと言う陳腐な約束なのだ。

 強いて言うならば問いとは「存在理由」に尽きるのだが、ただ単純にそれだけではないのだ。

 

 どんな残酷な現実があろうとも、どんな悲惨な真実があろうとも、俺たちは彼女たちを、艦娘を、そして自分自身を、それを生み出した祖先を、信じ抜くことができるのか。

 俺の口から言葉にすればこんなことなのだが、御雲や証篠の口からは別の言葉になるだろう。

 

 すなわち、俺としてのこの問いに対する答えに不可欠なのは「確固たる絆」なのだろう。

 言葉にしてみれば簡単だが、皆目見当もつかなくて困り果てている。

 

 瑞乃は空の人間だった。そのせいか俺たちのこの話には興味が無いように思えた。実際、彼女は艦娘を率いることなどないのだから関係ないのだ、

 でも、彼女の口からその言葉が出たのがなぜか俺は嬉しかった。

 

「あぁ、まだまだ、ずっとずっと、先の事になる。もしかしたら、死ぬ時かもな……」

 

「是非とも私にも継矢さんの答えを教えてくださいね?継矢さんが死ぬ時は私も着いていって聞き出しますので」

 

「ははっ、簡単には死ねないな」

 

「えぇ、簡単に死んでもらっては困ります」

 

「……大丈夫、置いては逝かない。置いては逝けない」

 そんな保証もないのに、軽々と浮いた言葉が出てしまうのは本当に嫌いだ。

 でも、本音なのだから仕方がないとこの時だけは自分を必死でも誤魔化していた。

 

 少し焦っていた俺とは裏腹に彼女は心の底から安心したというような笑みを俺に向けて、突然何もかもが馬鹿らしく思えてきて、柄でもなく声を上げて笑った。

 注目を集めてしまったことに気付き、すぐに口を閉ざしたが、その様子をおかしそうに笑っていた瑞乃を見て口の軽いこの女にどうやって、この恥を言い触らさないようにするかを考えていた。

 

 それから、1時間ほどで作業は終わり、確認も終了し、双方の合意で輸送任務は終了となった。

 やはり彼女に仕事をさせると早い。着いてきているのも日頃から彼女の下で働いている者たちなのだろうか。

 連携が非常によく取れており、大量の物資をあっという間に倉庫に詰め込んでしまった。

 

「では、確かにサインは受け取りました」

 俺のサインがかかれた書類を受け取って、瑞乃はさっと敬礼をする。

 返礼すると、敬礼を解いて近くの部下にその後の簡単な指示をしていた。

 それが終わるとこっちを見てにこりと笑う。背筋に寒気を感じた。

 

「私はできれば継矢さんのところに残りたいのですが」

 

「ダメだ、帰れ」

 

「ですよね……今度は継矢さんが横田にいらしてください」

 

「機会があればな。ところで、瑞羽は元気か?」

 瑞乃には2つ歳の違う妹がいた。あっちもあっちで性格に難あり。

 軍に属するような質ではないのだが、姉の背を追って今は戦闘機に乗っているとか。

 

「私の事より、瑞羽のことですか……」

 露骨に不満そうな顔をする。すぐさま訂正するように手を振った。

 

「お前ほどの女なら大丈夫だろう。そう思っての事だ。あいつの方が気がかりだ。俺にとっても妹のようなものだしな。まだ不名誉除隊はされてないのか?」

 

「幾らなんでもバカにし過ぎですよ。瑞羽も真面目にやっています。才能を見込まれてやや特殊な部隊に所属することになりましたし」

 冷や汗浮かべながら苦笑い。少し冗談のつもりだったが通じなかったようだ。

 しかし、意外な才能だ。パイロットとしての素質があったのか。

 

「それはまた……お前とは違った才能だな。2人でいいバランスが取れている」

 

「えぇ、そうですね……空の方は私たちにお任せください。全力で継矢さんの栄光をお守りします」

 

「他のところも頼むよ……じゃあ、そろそろ時間だろう?」

 

「はい。あっ、それと今度瑞羽に会う機会があったら、あの子を射場に立たせてください」

 

「それはまたどうして?」

 

「最近あの子サボりがちなので」

 真面目にやってないじゃないか。昔から苦手意識はあったみたいだが、やはり瑞羽らしく自由にやっているようだ。

 

「分かった。では」

 弓を教えてやった者として、今度会ったらこってり扱いてやることにしよう。

 

「今度はお待ちしていますよ、継矢さん。それと今度艦娘にも会わせてくださいね」

 

「あぁ、きっとな」

 

「できることならば、継矢さんに答えをくれる少女たちで、約束ですよ!!」

 そう言って、一方的に約束を押し付けて輸送機に乗り込んでいった。

 別れともなれば少し寂しくも感じる。何せ、知り合いのいない場所に突然送り込まれてそれから見た目は年端もゆかない少女たちと暮らしている訳だ。

 私とて、心細く感じる。寂しさだって覚える。

 そう思うと、瑞乃が来てくれたことは少しだけ私にとっては救いだったのかもしれない。

 許嫁となるほどの仲であれば、その想いも一段と強いものだ。来る時代に阻まれた仲ではあったが。

 離れた場所から、輸送機が飛び立っていくのを見ていた。

 近くの飛行場から護衛の戦闘機が飛び、彼女たちの護衛を行う予定になっている。その姿が見えなくなるのを確認してから、俺の足は執務室へと赴いた。

 

 一体どれだけの約束をしてきたのだろう。もう数え切れないほどあるのだろう。

 瑞乃との間でだけでも、4つも約束をしてしまって。

 

 あぁ、この約束だけは必ず守ろう。

 この命に代えてでも守りたいと思った初めての人との約束なのだから。

 

 

 

 

 

 




 今回もありがとうございます。

 少しだけ短めにしてみました。色々と反省しまして。

 今回は艦娘は登場せずに、家柄の事や提督たちとの間に結ばれた約束の話などを書いてみました。


 そして、新しく登場したのが、織鶴 瑞乃 1等空尉です。
 もうなんとなく見当はついている方も多いと思いますが、カラーリングを瑞鶴に寄せた翔鶴っぽい綺麗な容姿をした女性です。やや翔鶴よりは悪戯心があるといったくらいで、真面目で、誠実で、一途な女性指揮官です。
 
 少しだけ解説させていただきますと、鏡 継矢の鏡家と織鶴家は親戚です。
 彼らの3代上で2つの一族が1つになり、その後再び2つに分かれて今に至ります。
 
 あっ、あと瑞乃は鏡 継矢の婚約者です。もし深海棲艦の襲撃が無かったら、近日中に式を挙げる予定でしたが叶わぬ夢となってしまいました。
 


 さて、簡単な次回予告ですが次は呉鎮守府の証篠 明 提督のお話となります。ややシリアスになる予定ですが、そんなにくらい雰囲気にするつもりはありません。

 では、できる限り早く筆を進めていきたいと思いますのでよろしくお願いします。


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