艦娘が伝説となった時代   作:Ti

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第五章「天叢雲剣」
おとぎばなし -PROLOGUE-


 

 

 どんなお伽噺が好きだろうか?

 私は小さい頃からいろんな本を読んできて、いろんな国のいろんな物語を祖母に読み聞かせてもらった。いかにも子どもが喜ぶような、ハッピーエンドな童話のようなものが多かったが、その中でも私はある一冊の本を読み耽っていたらしい。

 

 中学に進学した辺りの時に、私の勉強机の本棚に、教科書に挟まっているその本を見つけて、それを持って母に尋ねたのだ。まだ真新しい教科書たちの中にあって、その本はとてもボロボロだったから、異様に目立っていたのだ。

 

 母に聞いてみれば、私はその本をある時から馬鹿みたいに読み耽っていたのだと。

 いつ、どこに行くときも暇さえあれば読んでいたせいで、こんなにボロボロなのだと。

 開いてみれば、ところどころに涎の跡や、クレヨンのようなものを走らせた跡があった。

 

 その本の名前は「ユキのだいぼうけん」。

 1人の少女が、不思議な力を持った妖精の力を借りて、ちょっとおかしな世界を冒険していくと言う物語だ。

 とても幼稚な内容に聞こえるかもしれないが、善悪の分別もそこそこにできるようになり、道徳観や倫理観も定まってきた年頃に読み返してみれば、児童向けの本にしてはところどころに生々しいストーリーが挟まれていて、この歳になっても少し面白いと思える。

 

 母曰く、私はこの本で文字を覚えたんじゃないかと。

 ほとんどひらがなで、ところどころに簡単な漢字も出てくるが大きくふりがなが打ってあり、挿絵も結構あってちょっとレベルの高い児童書みたいなものだと思う。

 

 ユキは生まれた時から独りぼっちだった。

 ある小さな島で、多くの子どもたちと一緒に暮らしていたのだが、ある日ユキを残してみんないなくなってしまった。みんなを探すためにユキがウミガメに乗って島を出ると言うのが物語の始まりだ。

 

 妖精は、イジワル博士というこの世界で一番物知りだが、イジワルな博士との取引の中で現れる。

 ユキは妖精を捕まえるのを条件に、「どこでも歩ける魔法の靴」を貰う。

 妖精はユキに捕まる条件に、ユキの綺麗な黒髪の色を貰う。ユキの髪の色はほとんど真っ白になってしまった。

 最後には妖精と手を組んで、イジワル博士の下から逃げ出す。

 ユキは海の上を歩いて世界中の島を渡り歩く。

 

 炎が燃え盛る島。岩と砂しかない島。水が至る所から溢れ返っている島。

 虹がいつもかかっている島。一面が雪景色の島。ずっと雨の降っている島。

  そして、風がとても強い島で自分の家族だった少女たちと再会する。

 

 しかし、少女たちは語る。

 「いつの日か、みんなあの島から出て世界へと飛び出さないといけない」と。

 恐らくこの本のテーマのひとつなのだろう。

 卵の殻を割るときに一つの世界が死を迎える。そんな話を聞いたことがある。

 

 この話は少し悲しかった。

 これからずっと、同じ場所で、同じように暮らしていくことなんてできないと言うことを暗に教えてくれたからだ。それは死と言うものが存在する限り、当然のことに思えるのだが、子どもには簡単に理解できないだろう。

 ただ、いつまでも誰かに頼ってばかりでいちゃダメで、いつか自分の力で飛び出していかないといけないんだと。それを小さい頃から教わっていくことにも何か意味があるのかもしれない。

 

 ただ、ユキはそれを否定するのだ。

 この物語の中でユキは頑なに家族がバラバラになることを否定する。そして、家族と喧嘩してしまい、ユキはその島を飛び出した。

 次の日、大きな荒らしがやってきて、嵐の中に住む化物に、その島は沈められてしまう。

 本当にバラバラになってしまったユキはひどく後悔するが、新たな島で出会ったひとりぼっちの少年に「バラバラになるために分かれるんじゃない。新しく誰かと出会うために、扉を開いて外に出るんだ」と教わる。

 

 そしてユキはある無人島に少年と一緒に辿り着くと、妖精と一緒に多くのものを作っていった。

 世界中で見た様々なものをこの島に集めると、たくさんの人がこの島を訪れて、旅の途中で出会った友達たちも遊びに来てくれて、とても賑やかになった。

 この物語の最後には、島を沈める怪物の住む嵐が、その島を襲うのだが、妖精や少年といった新たな仲間と共に立ち向かい、無事に島を守ることに成功する。

 

 ユキは話の最後に、怪物に沈められた島に住んでいた人たちを星にして夜空に浮かべるように祈る。

 空には多くの星が煌めいて、ユキの島をいつも明るく照らしていると、この物語は終わるのだ。

 

 この本の中では、登場人物の名前はほとんどない。

 ちゃんとした名前を持つのは、主人公であるユキと、この妖精だけなのだ。

 

 この妖精、名前をイヴといった。

 

 

 

 あの日、再びこの名を聞いてから私はこの本について調べた。

 生憎、その本は私の生家に置いてきてしまったため手元になく、内容はほとんど頭の中に入っているのだが、ちゃんと確認できないのは辛い。

 何はともあれ、一応ネット上を探してみた結果、そこそこに有名な本だったのですぐに見つかった。

 

 なんと、初版は80年も昔だ。この本は戦後20年に書かれたものらしい。

 もっとも、ありきたりな話ばかり溢れていて、数百年も前から語り継がれている話が多く存在している中で、まだ80年しか生きていないこの話は、ずっと若い方なのかもしれないけど。

 

 ただ、私は気になった。

 この物語に登場するイヴという名の妖精が、私に艦娘の力を与えたあの妖精の名と同じだと言うことが。

 絶対に何か関係していると言う予感がして仕方がなかったのだ。

 

 何よりも、私はこの本がただのお伽噺のように思えない。

 こんなことはあなたたちにもないだろうか?ただの創作のように思える物語が、突然全て現実に会ったことのように思えることが。ちょうどそんな感じなのだ。勘違いだと良いと思っている。

 

 ただ、もしかしたら、ほんの少しだけ可能性を語るとするのならば。

 私の中で生まれたifが語るに足りるものなのならば。

 

 この物語は、いったい誰の生涯を描いたものなのだろうか?

 

 

 もうひとつ。

 私が艦娘に興味を持つようになったのは、この物語を知った後からのような気がするのだ。ユキの生涯と艦娘に多くの共通点が存在して、気付かないうちに導かれていたのかもしれない。

 もしかしたら私の思い違いなのかもしれないのだが。

 

 私の物語はいつから始まったのか。

 この物語はいったいいつ始まったのか。

 私が生まれる前から存在していたものなんじゃないのか?

 

 私の夢は、私の大切な人たちが笑ってくれる未来を作ること。

 艦娘がこの世界を守ったように、誰かの幸せを守れるような何かをすること。

 大切な人にいつの日か、この世界でよかった、って言ってもらいたい。

 

 だから、私は知ることにしたのだ。いや、知らなければならないと思った。

 

 かつてすべての艦娘を率いてこの世界を守った、《叢雲》という少女について。

 そして、私の祖先である《吹雪》について。

 

 

 

 奇しくも、私はこの戦いの中でそれを知ることになる。

 その為に多くを失い、多くの力を手に入れ、そして私は―――――

 

 最も大切な存在を失うことになる。

 

 

 




 恐らく、今までよりもずっと亀進行になると思います。
 それと少し短めに区切っていくかもしれないので、短く感じるかもしれません。
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