艦娘が伝説となった時代   作:Ti

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歓迎

 私は眠る。

 その時まで。

 

 その時と言うのがいつなのか私は知らない。誰も知らない。きっとその時を生み出すその人も知らないだろう。彼の者は何も知らずにこの地を訪れるだろう。私はその者たちの手により目覚める。私がここに眠っていることを知る者はあの人と、あの人の意志を継ぎ希望を守り続ける者たちだけだ。

 

 私は眠る。それが約束だから。ただの約束。

 それがこの時代における私の存在意義であり、私に課せられた役割。ただ待ち続けることだけ、私から迎えに行くことは決してできない。

 

 私の目覚めとはこの世界の均衡を崩すのだ。ある者が交わした世界との約束に反するのだ。覆してしまえば人類も世界も終焉を迎えるから私はただ沈黙する。存在さえも消して静寂を守る。

 

 あぁ、退屈だ。いったいどれほどの時間が外の世界では流れたのだろう。

 鋼鉄の躯体の中に辿る私の魂は意識と言うものを漠然としか持たない。それは意識と言うよりかは認識であり、私と言う存在を私だけが認識しているだけなのだ。今の私がどんな姿なのかも私には知る術はない。

 

 今日も剣を胸に抱いて眠る。あの人の名を持つ剣を。

 

 聞こえているだろうか、私はまだちゃんと約束を守っている。

 だからあなたも約束を守ってくれているだろうか。私は永遠に目覚めることがない世界にすると言う願いを聞き届けてくれたのだろうか。

 

 あぁ、それはとても難しいだろう。いくらあなたでも1000年先を見通すことはできないだろう。その時は私が約束を果たせばいい。この約束は相互の遵守を目的としている訳じゃないから安心して欲しい。

 

 私は眠る。目覚めを得た時にこの世界を守るために。

 今は壊さないようにそっと世界を抱き締めよう。見守ろう。耳を傾けよう。

 

 無しかない気がするこの世界もきっと何かに満ち溢れているはずなのだ。眠りが続く間にそれが何かを知ることができればいいのだが、まあ難しいだろう。

 

 瞼の裏であの日の炎が揺れている。

 あなたの瞳の奥に隠れた激しい感情の炎が。私にまで燃え移ってしまった激情が。

 

 

 

 

     *

 

 

 

 

『天の剣』という名前は予想以上にその地が冠する名として相応しいと思えた。ずっと霧がかかっていた心の奥で浮かんでは消えるその影の正体を目の当たりにして、思いの外すんなりと受け入れられるのだ。

 

 あぁ、これは剣なのかと。ただ、剣と言われなければ剣とは思えないほどに歪だ。何よりそれは剣と形容されるだけであって剣そのものではない。だからこそそれを『天の剣』と言う名にどうにかして落とし込もうと頭が勝手に働いているのかもしれない。

 

 随分と夜空を蓋う雲が低く見えた。きっとあれは雲じゃないのだろう。

 それでもその雲を柄の方で貫いている鋼鉄の剣は、天まで伸びているように思えるのだ。

 

 私は2つの印象を抱いていた。これはどちらなのだろうか?

 

 神がこの地に振り下ろした剣なのか。

 それとも、仇なす人類が天に向かって掲げている剣なのか。

 

「――――行くわよ。周囲の警戒を怠らないで」

 彼女がたったその一言を絞り出すまでに随分と長い時間が経っていた。こんな絶海で人類の技術でも作り出せるかどうか分からない建築物(?)を目の当たりにしたのだから仕方ない。誰だって一瞬我を忘れてその存在感に自分自身の存在すら淘汰されるだろう。

 

 叢雲ちゃんの一言で原速ほどの速度で航行を再開する。

 

「・・・・・・おっ、吾輩の偵察機じゃ!!こ奴め、霧を抜けておったか!!」

 道中の海で水上に浮かんでいた零式水偵を発見した。見つけられたのは奇跡に近いだろう。

 こんな闇夜の中で―――あの霧を抜けてここに辿り着けたことすら奇跡に近いのに―――広がる海の大きさに比べてあまりにも小さすぎる水偵が利根さんの下に帰ることができたのはまさしく奇跡なのだ。

 

「無事に辿り着いていたようだな。安心した、偵察機が帰還できただけ幸運に近い」

 日向さんもそう言って微かに頬を緩ませているような気がした。

 肝心の水偵は乗っていた妖精が身を乗り出して安心したのか涙を浮かべて頻りに手を振って喜んでいた。

 

 緊張を常に張り続けていた艦隊内部に僅かながら和やかな空気が流れる一時が生まれた。 

 

 そんな傍ら私の心は誰かに後ろから肩を引かれているようなどうしようもない不安に囚われたままだった。

 

 ―――ここは本当に私たちが辿り着くべき場所だったのだろうか。

 もしかしたら私たちは、人類の希望が隠された地ではなく、魔境に迷い込んでしまったのではないだろうか。

 一度足を踏み入れれば2度とは生きて出ることのできない迷宮のような魔境へと。そんな気がしてどうしても緊張を解すことができなかった。

 

 思えばずっとだ。ずっと私は何かを予期していた。私の意識とは全く異なるところで私は何か「良くないこと」が起こるのではないかと言う杞憂とも思える直感を振り切れずにいた。

 そのまま、辿り着いてしまった『天の剣』。世界から弾かれた存在しない異境。

 

「―――吹雪」

 名を呼ばれて意識を思考を巡らせていた層から現実の方へと移した。叢雲ちゃんが私を真っすぐに見ていた。暗闇の中ではっきりとは分からないがとても真面目な顔をしていた。

 

「何?」

 

「・・・・・・、何じゃないわ。ぼーっとしてないで周囲を見張なさい」

 何か言いたげな間を残したまま、小さく開いた口を一度閉じていた。そして平凡な忠告。

 

「ごめん」

 彼女が何も言わないのなら私からは何も言えなかった。ただ自らの落ち度を認めて謝り行動に移すだけ。

 再び艦隊が動き始めた。複縦陣。縦二列の陣形だ。

 徐々に、剣の下に広がる怪しげな島へと近づいていく。

 

 

 近付いていくにつれて塔の大きさは実感となってより明らかになっていく。しばらく足を進めれば雲に埋めていたその先端はすぐに見えなくなり、見上げた先には空は映らず塔の歪な壁面だけが見えていた。決して無機質とは言えない。あの塔には生を感じていた。

 

「これは・・・・・・いったい何なんだ?」

 日向さんが思わず言葉を漏らしていた。

 

「今一度偵察機を飛ばしてぐるりと回らせてみるのはどうじゃ?敵地やも知れぬのだろう?」

 目の上に手を翳して眺めていた利根さんがその巨大さに感嘆するかのように口をぽかんと開けながら、そう提案した。

 

「実際に乗り込んだ方が多分早いわよ。偵察機がまた無事に戻ってくる保証もないわ」

 

「うむ、それもそうじゃな・・・・・・」

 

 恐らく、『天の剣』から5㎞ほど離れた位置だった。

 叢雲ちゃんの隣、前方で周囲を見渡していた雪風ちゃんが反応した。

 

「・・・・・・叢雲さん、船、いえ、ボートのようなものがこちらに向かってきます!」

 そう言ったのは双眼鏡を覗き込んでいた雪風ちゃんが声を挙げた。

 今回の作戦で雪風ちゃんは探照灯の他に「熟練見張員」を装備していた。夜間行動を要されたときに対応するためだ。それぞれの艦娘に役割が与えられており、雪風ちゃんは主に戦闘を支援する装備を集中して積み込んでいる状態で魚雷などは下ろしてしまっていた。

 私と叢雲ちゃんは対空。夕張さんは対潜。利根さんが主に索敵、日向さんは索敵に加えて万が一の時の火力要員だった。

 

 雪風ちゃんの報告を受け、私たちは一気に身構えた。たかがボート相手でも未踏の地ならぬ海。そんな気持ちが皆にもあったのだろう。だが、

 

「恐らく武装はしてません。ただの手漕ぎボートに見えます」

 

「手漕ぎボート?」

 続けて入った雪風ちゃんの報告に全員が肩に入った力を抜いた。手漕ぎボート程度に艦娘は傷付けられない。例えライフルやショットガンを隠し持っていても、艤装を装備した状態の艦娘にはよくて掠り傷程度だ。 

 

 ボートは先端にランプのようなものをぶら下げていた。その後ろにぼんやりと恐らく2人分の人影が見えた。

 私たちは完全に警戒状態を解いてそのボートへと迫っていった。

 距離にしておおよそ1㎞くらいにまで接近した。

 ボートの方から光が飛ぶ。光っては途切れて一定のリズムで言葉を話すかのように光がこちらに飛んできた。

 

「モールス信号・・・・・・」

 主に電信で用いられる符号化された文字コード、モールス符号。これをライト(回光通信機)で用いたものがモールス信号と呼ばれ、船舶間の通信機を用いない交信でよく用いられている。

 

「『カンゲイスル カンムスのカタガタ』・・・・・・どうやら此方がここに着いたことを何かしらの手段で察知して準備していたみたいですね。この際私たち艦娘という存在が知れ渡っていることは前提として、ここに来ることすら以前から予期していたようにも思えますね」

 読み上げた夕張さんが呆気取られたような笑みを浮かべながら言った。

 

「どちらにせよ着いていかざるを得ないでしょ。ここまで来たんだから」

 

「虎穴に入らざれば虎子を得ず、か。既に虎穴に足を踏み入れているようなものだが」

 

「下手すれば虎の尾を踏んでいるわ」

 叢雲ちゃんの返答に日向さんは苦笑しながら肩を窄めた。

 

「感謝する、と返しておきます!」

 雪風ちゃんが回光通信機を用いてボートの方に信号を送る。

 すぐにボートは回頭して来た道をゆっくりと戻っていった。

 

「・・・・・・ところで叢雲ちゃん」

 

「何?」

 

「私たちの目的って『天の剣』を探すことだったよね。乗り込んでも大丈夫なの?」

 

「・・・・・・本部と通信が取れない以上、海域で孤立するよりは近隣の島にでも停泊した方が安全だわ。燃料の消耗もそろそろ無視できないくらいになってきた。それにあれが艦娘に関係する島ならば、私たちが使える何かがあってもいいでしょう。補給できるかもしれない。そっちの可能性に賭けるわ」

 

「要はそれしか選択肢がないってことだね」

 

「言ってしまえばそんなところね。欲を言えば通信機でもあればいいのだけれど」

 

 私たちはボートのランプを追うようにしてゆっくりと前進し続けた。ほとんど付けた勢いの惰性で進めるような速度だったが徐々に近付いていくとその島の湾岸部の形もはっきりとしてきた。そしていよいよ「剣」は剣とも思えないほど巨大なものになってしまった。

 

 

 

 

「・・・・・・派手な歓迎ね」

 

「うわぁ・・・・・・」

 思わず声をあげてしまった。湾岸の形に沿ってずらりと並ぶ蒼い光。近付くと漁火のようにも思えるそれは全て人間がランプを手にして並んでいるものだった。

 全員が外套のフードを深く被って沈黙したまま立っている。無言の威圧感に息を飲んだ。

 

 ボートに乗っている人間が手招きをした。ボートは再びゆっくりと動き始めて湾岸部に沿って移動する。

 その後を追う間、ずっと私の目は沈黙を保ったまま灯台となっている人間たちを見た。大人もいれば、子どももいる。ざっと見ただけでも優に200人は居る。これだけの人間が私たちが来るのをずっとここで待っていたのか。それともいつもこんなことをしているのか。

 その光景は、少しだけ宗教じみていて何かの儀式の様だった。私たちは捧げられる供物でなければいいのだが。

 

 しばらくすると切り立った岩壁の下の方に洞窟がぽかりと口を開いていた。

 正確には穴と言うよりは、広い岩壁の下の方に大きな空間が開いており、その先には暗闇が広がっていた。

 

「あそこに入れと言っているようだ。大人しく着いていくか?」

 

「その他無いじゃろう。吾輩たちを案内したことには意味があるのだろうからな」

 

「・・・・・・これタダの岩かと思ったらちょっと違いますね。金属が含まれてるみたいです」

 夕張さんは入り口付近の岩に触れてそう言った。

 

「人工的なものですね、これ・・・・・・」

 

「この島全てがか?」

 

「その可能性もあり得ます。そもそも存在しない島ですから」

 

 洞窟の中は誘導灯のように壁に先程の蒼いランプのようなものが取り付けられて薄暗かった。足下の水面がはっきりと見えるくらいに。結構な広さ。私たち6人が横に広がってもぶつからずに進めるほどの幅に、3mと50㎝はありそうな高い天井。

 ボートが消える。いや洞窟を抜けてその先の明るさに飲み込まれて見失う。

 後を追った私たちはすぐに明るい空間に出た。

 

 一気に天井が広くなった。照明がある訳ではなかった。そこは壁も天井も全てが光り輝いていた。その光で空間全てが照らし出されている。

 

「あっ・・・・・・ブイン基地の出撃ドックに似てます」

 雪風ちゃんがそう言った。ブイン基地には行ったことがないのだが、ブインもこんな風なのだろう。

 

 

「――――お待ちしておりました」

 ふと男の人の声が聞こえた。私たちは見上げた目線を前方に向けた。

 ボートが泊まっている。外套を着た2人組がボートから下りて、そこに立っていた男性の側に立った。

 

「あなたは誰・・・・・・?」

 叢雲ちゃんが問いかける。やや敵意が籠っていた。

 

 神官のような衣服を着た男。随分と若い。年齢は司令官と同じくらいだろうか。髪は短く切り揃えてあり、白い肌にやや下がった眉とどこか安心感を与えられる。目鼻立ちがはっきりしていたため一瞬、異国の人かと思ったが東洋系の面影を感じた。

 

「この島の民の代表です。名は志童 金安(しどう かねやす)と申します」

 男は落ち着きのある声で一礼しながらそう名乗った。

 

「志童・・・・・・あなた、もしかして」

 叢雲ちゃんは何か心当たりがあるらしかった。私含め他の者は少しも心当たりはなかったが。

 

「えぇ、あなた方と同じ。艦娘を祖先に持つ者です」

 ピクリと肩が跳ねた。

 あなた方。複数形だ。この人は叢雲ちゃんだけじゃない。私もその1人だと言うことを知っている。

 柔らかく浮かべている笑みが急に信じられなくなった。私たちが来ることも予期し、私の生まれさえも知っている。この男は、志童という男は、何者なのだろう。艦娘の子孫と言えど、まだ信用できない。

 

「そう身構えられなくても大丈夫ですよ。それよりも長旅でお疲れでしょう?」

 半身になって袖に半分隠れた手が奥の方を指示していた。

 

「食事等の準備は整えておりましたのでご安心下さい。艤装の補給の方も承りましょう。本日はお休みになられて後日全てをお話ししましょう。どうぞ、お上がりください」 

 足下が急に浮かぶような感覚を得た。安定しない水面のような感覚ではなく、はっきりとした地面の存在。

 金属板の板が海水の中から浮上してきた。それが私たちの足場となり、志童という男が立っている陸地と同じ高さにまでなる。やや強引ではあるが、迎え入れられてしまったようだ。

 

「ようこそお越し下さいました、『天の剣』へ」

 志童はそう言って小さく頭を下げる。その表情に変わらぬ笑みを浮かべながら。

 

 

 

     *

 

 

 

「―――証篠大佐ッ、反応ロストしました!!」

 床も壁も天井も、深青色のぼんやりとした光を放っており、十数名の人間とおびただしい数のモニター。宙に浮かぶ巨大な立体映像(ホログラム)のディスプレイ。その全てに具に目を走らせながら、いつもの笑みを忘れた女性が1人、椅子に深々と腰を下ろしていた。

 呉鎮守府の指令室で証篠明は部下たちの報告を受けて小さく息を吐いた。

 

「想定の範囲内だね・・・・・・さて、そろそろ私たちも動こうか?」

 そう言って立ち上がる。ぐっと背伸びをして、肘掛に置いていた軍帽を被った。

 

「余り動いてもらわない方が助かるのだが・・・・・・?」

 動き出そうとした証篠の前に黒い袖が遮った。低い男の声。証篠は傍らに目を向けるとフードの隙間から赤毛を覗かせる少年が明らかにサイズを間違えたのであろうぶかぶかの服を纏って立っていた。

 

 軍服ではない。その衣服は陸も海も空も、どの機関にも所属していない。

 しかし、それは彼らの正装であった。彼自身は明らかにサイズを間違えているのだが。顔の下半分が襟の中に埋まっている。袖に関しては10㎝ほどだらしなく垂れ下がっている。

 これでもこの男が成人しているのだから不思議なものだ。

 

 陽里 兆(ひのさと きざし)。艦娘の血を受け継ぎながらもその名を表の世界に晒すことなく、裏の世界に身を投じて国家の復興に自らの手を汚すことで貢献した者たち、『裏五家』の一族。

 兆はその長子であり、未だに裏の世界で暗躍し続けている雇われ戦闘員。早い話が傭兵である。

 暗殺から護衛、時には戦場に狩り出て敵を屠る。そんな彼が日本陸海空軍に突如襲い掛かった謎の魔手の火の粉を払うために、中東の戦場から緊急で呼び戻された。ちょうど一戦終わって契約を満了したところであったため彼にとっても都合が良かった。

 

「護衛についてくれるのもありがたいんだけど、こっちも任務なんだよね?」

 見知った顔ではない。名こそ聞いていたが初対面である。

 だが、証篠はどこかいけ好かないこの少年にも見える男に軽い苛立ちを覚えていた。

 理由は顔を合わせるなり、「艦娘を兵器だ、道具だ」と口にしたのが主なものであるが、それ以外にもいつも気が付かないところから見張っている。はっきり言って気味が悪かった。

 

「迂闊に動かれてはこちらの任務にも支障が出る。俺たちの世界で契約は遵守される。信用にかかわるからだ。俺の顔に泥を塗るような真似は避けていただきたい」

 

「正直さ、私より背丈が低い男に守ってもらおうと思うほど私はヤワじゃないんだよね。そもそも、よりによってどうして君なのさ?」

 

「俺が一番強いからだ。それほどにお前の負っている任務の重要性が大きく、それ以上に俺の任務の重大さも大きいものになる。もう少し思慮のある行動をしていただきたい。死にたくはないんだろう?」

 

 明の父、証篠晃は立場上このような裏の世界の者たちと接触することがある。裏五家に『証篠』の一族も含まれているのだが、『天霧』や『陽里』のような戦闘一族ではない。国益のためにその身を陰に溶かし足跡すら残らない亡霊となること。それが証篠の生業だと聞いた。自分もこんな道に進まなければ、その道を歩んでいたのかもしれない。

 そんな父親から珍しく連絡があった。兆が派遣されると知ったのはその時だった。

「陽里はクセが強くて扱いにくい。だが、腕は他の一族よりも正確で確かだ」と語っていた。実際に会ってみてはっきりと父の言いたいことが分かった。 

 

「はぁ・・・・・・じゃあ、どうするの?私も出動しないといけないんだけど?到底あの子たちだけじゃ訳の分からない話だろうから」

 

「代わりの者を出せ。自分の立場を考えろ。命を狙われているんだぞ」

 

「代わりの者で済むならそれこそ艦娘の子たちでいいでしょ。そうはいかないから私も行く必要があるの。君も着いてくるしかないでしょ」

 

「無理だ。船で行くならば同行できない。よって俺の任務も果たされない。却下だ」

 

「どうして?君が私の側にいてくれて守ってくれれば任務はお互いに果たせるでしょ?」

 

「俺は船に弱い。すぐに酔う。空路か陸路ならば問題ない」

 

「・・・・・・」

 じっと背中に生暖かい目を向けてやったらそれに気づいたらしく殺気籠った目で振り返ってきた。

 

「なんだその眼は?」

 

「はぁ・・・・・・酔い止めあげるから」

 海を愛していない者は海に嫌われるのだと。同じ艦娘の子孫でありながらここまで考えの異なる兆とやはり分かり合えないと思いながらも、ここまで考えが異なる理由を脳の片隅で模索していた。

 

 5時間後、護衛艦を1隻動かして、証篠は呉を発った。護衛として兆に半ば無理矢理酔い止めを飲ませて。

 

 

 

 

 

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