艦娘が伝説となった時代   作:Ti

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喪失までのカウントダウン -EPILOGUE-

 気が付けば仰向けで倒れていて空を見上げていた。曇り空だった。

 耳元が五月蠅かった。ザーッとノイズが流れている。

 どれくらい気絶していただろう。浅い眠りの中で短い夢を見ていた気がする。

 

 ふらりと立ち上がってみれば、右脚が浸水を始めている。

 魚雷管に引っかかっていた魚雷がどこかにいってしまった。

 ダメになった主砲はどこかに飛んで行ってしまった。頭の電探も調子がおかしい。

 

 左脚の注水をしてバランスを保って辺りを見渡した。

 ほとんどダメになった状態で、何とか海に立っている。

 それ以外は人間とほとんど変わりがない姿で。

  

 自分だけが海の上に立っている。その他の姿は一つも見当たらない。

 目を凝らせば仲間の姿が見えた。沈んではいない。ただ、異様であった。

 

 皆が水の上に横たわって浮かんでいる。その身体に艤装と呼べるものはなかった。

 ただの少女たちが浮かんでいる。それは戦場の光景とはとても思えない。

 

「あぁ……あぁ……」

 酷く弱弱しい声が聞こえた。声の主は苦しんでいるのだと分かった。

 

「あああ、あああっ!あああああああッ!!あああああああッッッ!!!!」

 もはや言葉ではなかった。声の主は感情のままに叫び散らしている幼児のような人間だろうと推測した。

 今すぐ声の主を探して文句を言ってやりたいと思った。

 耳が痛かった。喉が痛かった。頭が痛くて、胸が痛くて。とても聞いていられるものじゃなかった。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁ……」

 声が細くなっていく。まるで終戦を告げるサイレンのようだ。

 鳴り終わった後も遠くに残った反響がしばらく耳に着く。

 彼女の声が細くなっていくにつれて、無気力感と絶望が押し寄せた。

 幾度となく繰り返してきた現実。それを覆すために潜り抜けてきた戦場。

 

 そして、手に入れた誰かを守ることが出来る力。

 すべてはこの絶望を二度と味合わぬためであった。

 全身の細胞が、魂の一片に至るまでが、その絶望を拒絶していた。

 

 時代が変われど、魂は同じ。そこに変わりはなかった。

 ブイン基地のあの寂れた工廠で目覚めた時から、眼前の仲間は全て守り通すと誓った。

 それはかつての仲間の面影を残す艦娘たちや人間たちに出会う度に一層に強くなっていった。

 

「……また、ですか」

 そして、雪風は独り。海の上に跪いた。

 そんな彼女を、異形の海龍に取り付けられた女神像が見下ろしていた。

 虚ろな目には、その女神像の腹部が開いて覗く、口のような空間の奥にある闇に似たものがあった。

 

 

 

 雪風は先代の時代に、五度に渡る鉄底海峡の戦いで、それに似たものを一度だけ見た覚えがある。

 海峡に先行していた艦隊は全滅した。理由は不明。突如消息を絶った。

 続く艦隊も半壊し、生還した艦娘の証言により雪風の艦隊が出撃した。

 その時は雪風の直感が働き、艦隊は全滅を免れた。しかし、半数の者が精神に異常を来した。

 

 帰還して調べてみれば『彼女たちはもう「艦娘」として役に立たない状態』だった。

 

 原因は不明。当時は、深海棲艦の生態を詳細にまで調べ検討する余地など無かった。

 

 最終的には精鋭空母機動部隊により、砲撃する前に徹底的に焼き尽くされて海に沈んだ。

 叩いてみれば呆気なかった。その砲撃の為だけに特化しており、防御の面も他の面も圧倒的に弱かった。

 艦娘に一矢報いる為だけに生まれたような存在。それが過去の雪風の記憶であった。

 

 否、あれは一矢報いるどころの兵器ではない。

 あの砲撃に実体はない。放たれたのは先程まで艦娘を苦しめていた精神波動を極限までに濃縮したもの。

 

 身に受ければ、艤装に宿る戦船の魂が身体より乖離する。

 そうなった状態の少女たちをもはや「艦娘」などとは呼べず、無理やり魂を引き剥がされた身体が

 無事で済むはずもなく、精神とも呼べる魂を失くした身体は内に存在する空虚さに苛まれ崩壊する。

 

 『生きとし生ける者を否定する一撃』、そう呼ぶに相応しい。

 

 

 時代を超えて、それは雪風に絶望を叩き付けた。

 そして、それはもう一度何者かに向かって照準を定めようとしている。

 虚ろな目のまま、雪風はその方角へと目を向けた。あちら側には何があっただろうか?

 

「船……」

 そうだ。あちら側にはかなり距離が離れているが、呉鎮守府の提督が乗る護衛艦がいるはずだ。

 なるほど。邪魔な艦娘たちを片付けて、次は人間まで殺そうと言うのか。

 仲間ではなく、人間まで失えばどうなる?

 

 一度とたりもそんなことは考えなかったが、仲間は戦うために生み出された消耗品のような存在だったかもしれない。

 しかし、人間は自分たちが守るために存在する。人間を守ることが艦娘の存在意義だ。

 

「…………もうやめてください」

 あれやこれやと考える前に心の内側が言葉になって露見した。

 揺らいで、揺らいで、揺らいだ先で、己の存在意義を守るためだけに、その他の全てを切り捨てていた。

 

「もう何も、奪わないで下さい!!」

 それは自らの意志でこの地に立っていたはずの者の言葉ではなかった。

 勝者でもなければ、敗者の言葉でもない。ありとあらゆる前提を無視した言葉であった。

 

 しかし、それは言葉が通じぬ相手であったからこそ伝えられなかった本心でもあった。

 言葉が通じる敵であったのならば、もっと早くに伝えられたはずの意思だった。そして幾度となく抱いては大義の為に幾度となく切り捨ててきた願いでもあった。

 

 

 敵艦からの返事は実に単調なものであった。背に備えた黒い破片をいくつも宙へと飛ばした。

 高く、高く、高く飛ばして、それは非常に狭い範囲に集中して降り注ぐように放たれた。

 

 そのまま動かなければ、その範囲に居る生命は如何なるものであろうと死に至ると言うのは自明であった。

 しかし、雪風は動かなかった。動けなかった訳じゃない。足を止めることがこのような結果に繋がることを分かっていなかった訳でもない。諦めた訳でもなければ、死を受け入れた訳でもなかった。

 

 ただ、理由を見失っていた。戦う意義を。故に生き延びようとする意義が見えなくなっていた。

 意義を見出せないからこその選択的不動。不必要なものを排除する合理性のみに思考を委ねた結果に生み出された「『結果的』死の選択」であった。

 

 

『立ちなさい!雪風さん!!』

 無線に突然響いた凛々しい女性の声の直後に、宙に拡散した多数の火の粉が黒の破片のほとんどを撃ち落とした。

 火に包まれた空を見上げた雪風の眼前で、今度は海龍の如き異形の身体が大きく歪んだ。

 その衝撃は海を伝播して、ちいさな雪風の身体を大きく震わせる。

 

『立って、生きると言う選択を、自らの意志で選びなさい!それが生きる者が為すべきことです!!』

 この声を知っていた。

 どこで聞いたのかすぐに思い出せないほど、深く、遠く、懐かしい声だった。

 しかし、それほどに強く深く根付いた縁を感じた。勇ましく強い声に不思議と涙が零れ始めた。

 

『あなたにもう戦うことは強制しません。それでも、生き続けることを選び続けなさい。この言葉はかつてのあなたがくれた言葉だったはずです』

 古い記憶が蘇る。その言葉は戦場で死ぬことばかりを考えていた新人に向けていた言葉だった。

 かつてない強敵を前にして、自分が死ぬことしか考えられなくなったら、その時は戦いを放り出してでも生きる道を見出してほしいと願った言葉だった。生きて帰りさえすれば、何とかなるかもしれない可能性が残っているのだから。

 軍人として馬鹿々々しいと何度も笑われ、余所の提督からは臆病者と罵られ、幸運艦ではなく逃げ足が速いだけなどと揶揄された時期もあったが、それでも雪風は諦めずに訴え続けた。

 

 やがて、彼女の率いる駆逐隊が脅威の生還率を叩き出すようになってから、雪風は『幸運の女神』と呼ばれるようになったが、そうではないことを理解していたのは一部の艦娘と提督だけであった。

 

 雪風は直感的に知っていたのだ。

 いつだって幸運の女神が微笑むのは、生き続けることを選んだ者たちだけだと。

 

 

 超々遠距離からの怒涛の砲撃は、神懸った命中率で海龍の如き敵艦の船体を抉り取って行った。

 それも普通の艦艇であれば、命中すれば必死の一撃。後方から感じる砲撃の圧も、命中した敵艦から感じる威力の圧も、何もかもが規格外であった。

 

「――それで、どうする?」

 そんな砲撃の重奏の中を掻い潜って、雪風の前に一人の少女が姿を現した。 

 

「大和さんはああ言ってるけど、雪風ちゃんはどうする?」

 セーラー服姿の少女は跪いた雪風にさっと手を差し出した。まるで答えは聞いていないかのようだ。

 この手を取って立ち上がれ、と言っているようなものじゃないかと、雪風は呆れて笑ってしまった。

 

「ハハッ、でも今回ばかりはもうダメかもしれませんよ?」

 差し出された手を取る前に、雪風は問いかけてみた。この少女は相変わらず、強い光を宿している。

 その光はこれほど絶望的な状況でも未だ尚も健在なのだろうかと確かめたかった。

 

「大丈夫。状況はそんなに悪くない。雪風ちゃんが思っているような最悪の事態は起きてないから」

 少女は自身に満ちた表情でそう答えた。それを見て、雪風の手は真っすぐに彼女の手を握った。

 力強く引き上げられる。ボロボロの身体は真正面の少女と見比べると随分とみすぼらしい。

 

「動けるなら島に戻って。あなたの手伝いが必要になるかもしれない」

 少女は人工島を指差しながら雪風に指示を出した。

 

「手伝い、ですか?」

 自分に何の手伝いができるのだろう。立ち上がれと言われたが、自分はもう兵装すら失った身だ。

 しかし、少女は一度頷くと嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「そろそろ、時間だと思うんだ。確信はないけど。でも、多分来るよ。そんな気がするから」

 期待と希望。そんな感情に満ちた笑み。一体、何が来ると言うのだろうか。

 

「まだ不慣れで手間取ってるかもしれないから、出来るだけ早く連れてきて。あの子がきっとこの戦場を勝利に導くカギを握っている。分からないなら、行けば分かるよ。希望はまだ潰えてないって」

 

 訊き返そうとしたがそれ以上は敵が待ってくれなかった。

 周囲に大量の水柱が立ち、少女が雪風を守るように射線上に立ち塞がった。

 

「早く!行って!!」

 少女は背中越しに雪風を急かす。少女も駆逐艦だ。人ひとり満足に庇えるような装甲はしていない。

 

「……吹雪さん、気を付けて!!健闘を!!」

 雪風は敵に背を向けて海上を駆けて行った。機関は満足に動かない。それでも、可能な限り速く海を駆けた。

 まだ混乱していた。そのために、吹雪の言う希望が何かをすぐに思いつくことが出来なかった。

 

 そして、もう一つ。遥か彼方に望む巨大な影。それは、間違いなく艦娘だ。

 記憶が喜んでいるのだ。彼女に再会できたことを。彼女ともう一度同じ戦場に立てたことを。

 

 色んな感情がぐちゃぐちゃになっている。

 

 

「あとでゆっくりと語り合いましょう、雪風さん」

 友の安全は確保した。心の方もきっと大丈夫だろう。

 であれば、当方の為すべきことはただ一つ――目の前の敵を撃滅するのみ。

 

「戦艦大和、推して参るッ!!」

 すらりと伸びるスタイルのいい長身の女性。その身体に見合わぬ巨大な艤装は、さながら洋上に出現した要塞のようであった。潮風に長く伸びた髪が靡く。誰か見ても端正だと分かる美貌に、百戦錬磨の漢にも引けを取らない気迫が滲み出している。艤装を見てもその重厚で流麗な装甲は、有象無象の放つ砲撃ではビクともしないことを見るだけで悟らせる。

 45口径の主砲が啼けば、それは海の雄叫びのように轟き、海面を震わせる。

 日本海軍が有する最強最大の超弩級戦艦、大和型一番艦《大和》が再びこの海に降り立つ。

 

 かつては国の威信を守るため。銃後の民を守るため。

 かつては深海より来たりし異形の敵より世界を守るため。

 今はただ、友を守るために。

 

 超大口径の主砲が一斉に吼えた。海が震え、空間が崩れそうな轟音が響く。

 異形の海龍の身体を寸分違わず捉えた徹甲弾は、重厚な漆黒の装甲を食い破り、船体の一部分を吹き飛ばした。

 

 

 

     *

 

 

 薄暗い部屋。配線のように部屋中を走る青い光だけがこの部屋の明かりだ。

 その数え切れないほど張り巡らされたその光の線を束ね、全てがひとつの装置へとつながっている。この部屋にある全てをそこに腰を掛ける少女へと移すための装置。

 

 その過程で、少女の様相は大きく変わっていった。

 髪も背も伸び、顔つきも幼さが薄れ凛々しさが一層に際立っている。少女の延長線上にしかいなかった少女が、戦乙女へと生まれ変わったかのように。彼女の身体を作るFGフレームが強制的に書き換えられたせいで彼女の身体にも影響が出ていたのだ。その適応の為に時間が必要だった。

 例え、外で友たちが戦っていようとも、彼女はここを動くことができなかったのだ。

 

 

 しかし、その時間もようやく終わりを告げた。

 

 

『――――改造終了。貴方の中にあるものを一部書き換えさせてもらったわ。そうしなければ、この身体は容易く扱えないから』

 対岸に映るかつての英雄の亡霊は、生まれ変わった少女を見ながらそう言った。

 その姿は《改造》を終えた少女に酷似しており、懐かしむような目で少女を見ていた。

 

「随分と気味の悪いことをしてくれたじゃない……、見たくもない記憶まで見せられて」

 一方で、少女の方と言えば気分が悪そうに頭に手を当てながら小さく横に振る。亡霊を睨みながら装置から腰を上げると、うんと背伸びをした後に顔にかかる伸びた髪を煩わしそうに払った。

 

『全ては必要なことよ。貴女が、貴方の護りたいものを守るために、ね……。使い方は頭の中に入っているはずよ。惜しみなく、存分に振るいなさい。それはこの世界で貴女だけに許された特権なのだから』

 

「ええ、使わせてもらうわ。存分にね……下らない記憶を頭にねじこまれた私はそのくらいの権利はあるでしょうから」

 語り掛けるように話したところで、返事が戻ってくるわけでもないだろう。

 所詮は遺された記憶だ。彼女がそこにいる訳ではない、亡霊に過ぎないのだ。

 

 何故ならば、彼女は―――その名を持つ者は自分自身で、この身の内に居るのだから。

 

『まあ、好きにすると良いわ。どうせ貴女はこの道を征くことしかできない。だから、好き放題に、好きにすると良いわ。話は終わり、最後に―――』 

 それなのに、彼女はこちらの意図を理解しているかのように言葉を紡いでいく。

 亡霊が微笑む。何を笑っているのだと苛立ちを募らせながら、見ていれば楽しそうにこちらを見て

 

『私の事が嫌いかしら?』

 

「ええ!大っ嫌いよ!!!」

 15年弱、募りに募らせてきた鬱憤が爆発したようだった。生まれてきた時から定められた運命。それい付随した容赦のない理不尽の連続。進みたくもない道を歩かされて、未来には在り来たりな選択肢すら存在しなかった。

 「好き」だという感情を抱くことが決してあり得なかった。この命が尽きる時に「まあ、悪くはなかった」と思えることはあるとしても、好意的な感情を抱くことは性別が変わろうとあり得ない。

 

 しばらく、じっと睨みつけていた。だが、それも馬鹿に思えてきて無駄なことに時間を費やす自分に呆れて溜息が出た。

 

「アンタは大っ嫌い……でも、私は私が好きでなくちゃいけないのよ。それを望む子がいるから」

 

 返事はなかった。顔を上げてみればそこに亡霊は既にいなかった。

 役目を終えた装置も沈黙している。代わりに赤い誘導灯が彼女の進むべき道を示していた。従って進んで行けば

やがて巨大なリフトへと辿り着いた。微かに潮の香りがする。

 

 つまりはそう言う事か―――納得した瞬間にリフトが下降を開始。

 いくつものアームが伸びてきて、彼女の姿を完成させていく。

 

 そして、足下に海水が張り始めた時、「改二」の力を手にした《叢雲》が再び海に立つ。

 出撃レーン。彼女の為だけに用意されたはずのその場所に、一つの小さな影があった

 

「あら、雪風。随分とボロボロじゃない」

 

「叢雲……さん?」

 十数時間前と変わり果ててしまった戦友の姿に驚きながらも、その姿が在りし日の記憶の中にある「彼女」の姿を重なりしばらくの間、雪風は硬直してしまった。

 

「アンタらしくないわね。私の事はいいから休んでいなさい」

 

「あっ、いや、あの……叢雲、さん? 私は……」

 呆然としている雪風は何かを伝えたいらしかったが、予想外の衝撃が彼女の思考を乱している。かつての憧れを重ねたのか、背を追おうとしかねない重傷の少女の下まで歩いて行き、その肩に手を置いた。

 

「着いてくるなら、せめて応急修理くらい済ませてからにしなさい。雪風、まずは生きることを考えるのよ。私たちは沈んではいけない。守る者が後ろにいるからよ。いいわね?」

 

「―――はいっ! えっと、ご武運を!」

 ボロボロのまま敬礼を送る彼女を見て、思わず叢雲は微笑みを浮かべた。それも一瞬の事で水平線を睨むとやや前傾姿勢になり海面を蹴った。

 

「駆逐艦《叢雲》、出るわ」

 一斉に艤装が駆動を開始する。近未来的フォルムをした艤装に光が灯り始め、充分に温まった機関が唸り、叢雲の身体は凄まじい勢いで細い水路を駆けた。

 

 

「志童、聞こえるかしら?」

 

『叢雲さん、お待ちしておりました』

 無線が《天の剣》の代表に通じる。その声色からしてそろそろだと待ち構えていたのだろう。

 

「アマノハバキリ、使えるようにしておきなさい。いきなりぶっ放つわよ」

 

『既に申請を通しています。もうしばらくすれば、使用許可が下りるかと』

 

「随分と準備が良いじゃない。悪くないわ……っと、見えてきたわね」

 一分と経たずに叢雲は海上に浮かぶ巨大な影を捕捉する。その船体を削りながら、反撃で飛来する百を超える弾幕を掻い潜る超弩級戦艦の姿。

 

「魚雷発射用意。一番から六番、全部よ……、当たるわよ。撃つのは私なんだから」

 驚くほど身に馴染む艤装。実際は駆逐艦の船体に余る重武装をしているのだが、不思議と海の上に立てば気分が高揚してくる。海との結びつきの強さが段違いに変わったのだ。

 今は海上で交わされる会話の声すら聞き取れる。電探を使わずとも敵の位置がはっきりと分かる。

 

 これが先代の《叢雲》が感じてきた景色なのだろう。

 

「魚雷発射」

 試製六連装酸素魚雷―――次々と放たれた魚雷は静かに真っすぐと海龍《アダム》へと伸びていった。

 しばらくしてから、海龍の意識の外から命中した魚雷は大きく船体を抉り傾斜させた。

 

「まずは挨拶よ。竜骨圧し折られて、私の前に跪きなさい」

 

 自覚はなかった。

 しかし、その時炸裂した魚雷と傾斜する海龍の船体。驚きからこちらを振り返る大和や吹雪。それら全てを肌で、目で、耳で感じ取っていた彼女の表情には、無邪気にも思える笑みが浮かんでいた。

 

 

 

     *

 

 

 

 カウントダウンが始まる。

 全てが終わるその時までを、一つ、一つ、刻んでいく。

 

 異変はまず北の果てで起こる。

 幌筵泊地、単湾冠泊地、壊滅。

 一般兵の9割を損失。艦娘を含め、残存した艦隊は大湊まで退却。

 轟沈こそなかったものの、投入された5割の艦娘が大破判定を受け、長期入渠に。

 

 そして、南海。

 護衛艦「ちょうかい」、ロスト。忽然と《天の剣》近海から姿を消した。

 海龍《アダム》と戦闘を行う艦娘7隻のうち、2隻をロスト。

 残された5隻は佐世保に辿り着くも、被害大のため長期入渠。

 

 

 艦娘史に刻み込まれた怨嗟の鎖が静かに、音を立てて彼女たちの栄光に削るように締め上げていく。

 在りし日の伝説と謳われた日々の全てが否定されていく。

 

 そして、この時代も終わりを告げる。

 





お久しぶりです。
もうどんな話書いてたか忘れかけてます、作者です。

やりたいことは全て自宅にあるのに、自宅にいると妙な強迫観念で気分が悪くなると言った絶妙な精神状態をぷかぷかとしている程度の忙しさのため、好きな音楽をガンガンかけて、とりあえずキリがいいのかどうか分かりませんが、話を進めさせていただきます。



さて、長かった本章ですが(主に私の遅筆&多忙のせいで)終わりましたぁ……。
そして何かが始まりましたぁ……いやぁぁあ

たらたらしている間に改二実装されまくりですよ。陽炎型とか。
(個人的に、長門改二と赤城改二が熱いです)


次章はですね、まあ何というか最終章なんですかね? メインの話自体は最終章のつもりですね。終わるのかなぁ……?

最終章終わったら、最終章その2と言いますか、ずっと書きたかったこの物語の終わりをちょこっとだけ書いてこの物語全ての終わりとしたいなぁ(願望)


頑張ります。

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