貴方に好きと言いたくて【完結】   作:puc119

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プロローグ

 

 

「あー……疲れたな」

 

 目の前には、もう動くことのない雌火竜が一頭。

 特に危なげなく討伐することもでき、とりあえず一息。大剣を背中へ背負い直し、首を回すとポキポキなんて音がした。どうやら、自分で思っている以上に疲れは溜まっていたらしい。

 

 とは言え、相手は上位の飛竜種なんだ。それも仕方の無いことだろう。

 パーティーならもう少し楽になるだろうが、俺はソロ。クエストの報酬が全て自分の物となることは美味しいが、それ以上に危険が伴う。

 パーティーなら例え、危ない状況になったとして立て直すことができる。しかし、ソロじゃそんな隙など相手が許さない。なんてったってやっているのは命のやり取りなんだから。

 

 殺すか。殺されるか。

 

 俺と相手の間にあるのはそれだけだ。

 

 さて、そんじゃギルドから迎えが来る前にさっさと剥ぎ取るとしようか。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 一流のハンターになれば女の子からモテるらしい。

 

 それが何時のことで、誰から言われたことなのかも忘れてしまった。

 しかし、その言葉だけは今でもはっきりと覚えている。そして、俺がハンターとなったのは、その言葉を信じたからだ。

 

 俺がハンターとなる前、まだ若かった俺はそんな言葉を聞き、直ぐにハンターを目指した。

 理由はただひとつ。女の子にモテたかったから。それだけ。

 

 それからはどんなに辛くとも、どんなに大変でも一流のハンターとなるため努力を続けてきた。女の子からモテる未来を夢見て。

 そしてそれは結果論でしかないが、どうやらハンターっていう職業は俺に合っていたらしい。そうでもなきゃ、俺なぞとっくの昔に死んでいただろう。

 

 ハンターになる人間は決して多くない。

 そして、ハンターとなる理由は人それぞれだ。単純にお金が欲しい者。モンスターに対して何かしらの想いを抱える者。モンスターを狩ることに楽しみを見つけた者。モンスターを倒すことで得られる名声を求める者などなど。

 しかし、ハンターという職業はそんなに楽なものじゃない。ギルドも頑張ってくれているが、元気よくクエストへ向かった奴が動かぬ身体となって帰ってくることもよくある。それに……その身体すら帰って来ない奴だって何人も見てきた。

 本当に簡単なことでハンターはその命を落とす。ちょっとした失敗でハンターは死ぬ。

 どんなに優秀なハンターだろうと、常に死と隣り合わせ。

 むしろ、優秀なハンターほど早く逝ってしまうようにも思えてしまう。

 

 そんな職業だからハンターの数はやはり多くない。

 そりゃあそうだろう。誰だって死にたくはないのだから。

 

 それでも……いや、そうだからこそ、ハンターはこの世界で人々から尊敬され、称えられる。人間には少々生き難いこの世界で、モンスターの蔓延るこの世界で人間がどうにか生きているのも、多くのハンターが頑張ってきた結果なんだ。

 それは、多くのハンターの死の上でこの世界は回っていると言っても良いくらいだろう。

 

 そんな危険な職業を俺は続けている。ただただ女の子からモテるために。

 そりゃあ、俺だってこんな危ない職業さっさと辞めて、のんびり養蜂や農業をするのんびりとした生活を送りたい。

 しかし、だ。そんな生活を送るとしても、其処に素敵な嫁さんがいなければ意味がない。何が楽しくてひとりで農業などせにゃならんのだ。そんな生活ちっとも面白くない。

 だから、俺はハンターを続けている。例えそれを不純な動機だと指差されようが、このままじゃ死んでも死に切れん。

 

 

「お疲れ様でした。此方が報酬金と報酬素材となります」

 

 遺跡平原からバルバレの集会所へ帰り、クエストカウンターで報酬をいただく。

 

「ああ、ありがとう」

 

 優しい笑顔を浮かべながら報酬を渡してくれる受付嬢に、俺からも優しい笑顔を浮かべてソレに応える。ただ残念なのが、俺の身につけている防具がラギア装備なため、その笑顔を見せることができないこと。

 きっとこの笑顔を見せることができれば、受付嬢だって俺に惚れてしまうこと間違いない。

 じゃあ、頭防具取れよって話だが、アレだ。今はそういう気分じゃないんだ。

 

「先日、美味しいポポノタンを出す店を見つけたのだが、どうだい? これから一緒に」

 

 そして、さりげなく……極々自然な流れで食事のお誘い。

 できる男はこういうところが違うのだ。

 

「……ちっ」

 

 舌打ちされた。

 さらに、酷く冷たい視線まで向けられる始末。

 

「はい、次の方どうぞー」

 

 ……いや、まぁ、アレだ。一見すると、俺が受付嬢から嫌われているように感じるかもしれんが、そうではないのだ。

 この受付嬢は俺に惚れているのだが、恥ずかしいためソレを表に出すことができない。俗に言うツンデレとかいうやつだろう。最近、流行ってるらしいし。

 

 そう思うことで俺の心へのダメージは幾分か軽減される。

 心のケアは大切だ。心の傷は回復薬じゃ治らないのだから。

 

 まぁ、寝れば治るところなどは身体の傷と同じだが。

 

 

 一流のハンターになれば女の子からモテる。

 そう俺は聞いた。けれども、いつまで経っても俺の嫁さんは見つからないし、それどころか、受付嬢にすら嫌われている。

 俺が一流のハンターだとは思わないが、それなりの実力だってあるはず。そうだというのに、なかなかどうして上手くいかないものだ。

 何が人生でモテ期は3回訪れる、だ。一度もこねーわ。緊急でも乱入でも何でも良いから、はよ訪れてくれ。

 

 たまに勘違いしそうになるが、一流のハンターになるのは手段だ。

 女の子にモテるという目的のための。

 

 別に、女の子にモテるには、必ずしも一流のハンターにならなければいけないってわけじゃない。そんなことくらい分かっているが、他に良い方法など浮かばない。

 ホント、難しい人生だよ。

 普通に生きて、普通に恋愛して、普通に結婚して、普通の生活を送る。それが普通。けれども、そんな普通のことが何よりも難しい。古龍討伐クエストなんかより、よっぽど難易度が高い。誰か攻略法でも教えてくれないだろうか。

 

「へい、アイルー。タンジアビールを頼む」

「かしこまりましたニャ」

 

 クエストが終わった後は、キンキンに冷えたエールを流し込むに限る。

 酒は良いものだ。色々なことを忘れさせてくれるから。

 

 失敗だらけのこの人生。酔っている間だけはそのことを忘れさせてくれる。

 

 

 さて、随分と前置きが長くなってしまったが、そろそろ語り始めるとしようか。

 

 それはバカなひとりの男のバカ話。酒の肴になるかすら分かりゃしない。それでも、それは俺だけが語ることのできる物語なはず。

 それならば、俺が語るべきなんだろう。

 

 期待はするな。笑い飛ばしてもらって良い。それで俺は救われる。

 どうせただの失敗談だ。鼻で笑ってやってくれ。それくらいが合っている。

 

 それじゃ、そんな物語をゆっくりと始めさせてもらおう。

 

 


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