6月某日 いつもより少しだけ軽い身体を起こした五十鈴がふと呟く「あぁそうか…今日は休暇か。」
佐伯湾所属○○艦隊。この艦隊において旗艦を任されくる日もくる日も演習、出撃と奔走した彼女は先日、晴れてレベル99となりいつぶりかも分からぬ休暇を言い渡されたのだった。
「これでしばらくはゆっくり出来るかしら…」そう呟く声には少しだけ寂しさも含んでいた。
ある時は空母またある時は戦艦を指揮下に戦うことは彼女にとって誇りでもあった。
そんなことをぼんやりと思っているとドンドンとドアを叩く音が室内に響く。もう聞き慣れたノックのリズム…あぁ寝起きだというのにやつが来たのか。そう司令官である。
五十鈴は気怠げに「今起きたところだから身支度をしてこちらから司令室に行くわ」と答える。男は『分かった』とだけ言うと去っていった。
司令官ではあるが冴えない男、多聞や五十六といった名将を見てきた五十鈴にとって彼への印象はそんなものだった。
「休暇だって言うのに何か用があるのかしら?」不満げに呟きながら布団をたたみトレードマークの髪を結う。簡単な身支度を済ませ司令室へと向かう。
コンコンと司令室のドアを叩くと即座に『五十鈴か?入ってくれ』と声がした。
「せっかくの休暇だっていうのに何か用なの?」少しだけ声を荒げながら五十鈴が部屋へと入る。
『いや少し話があるだけだ…。』そう男は伏し目がちに答えた。その姿を見て五十鈴は驚いた、いつもとは違い整った髪に純白でシワのないの制服。
「これからどこかに出かけるの?珍しく小奇麗じゃない」と五十鈴は含み笑いをしながら茶化す。
いつもなら笑いながらやめろなどと言う男が今日は五十鈴を真っすぐに見つめながら『渡したいものがあるんだ』と答えた。
その手にはキレイで小さな箱…五十鈴はハッとした。『これを五十鈴に受け取って欲しいんだ。』そう言いながら男は箱を開けた。指輪だ…キラキラと輝く小さな宝石に五十鈴は目を点にした。
そんな五十鈴をよそに男は続ける『五十鈴に結婚してほしい。ずっと隣に居てくれ。』五十鈴の脳裏に様々な思いが駆け巡る…。
いくらみっともないからと言ってもクシャクシャの制服を着て…何度臭いが嫌いだからと言ってもタバコを咥えて…。
でもいつもいつも優しく笑いかけてくれた…何があっても信じてくれた…。こんな旧式の私を旗艦にしてくれた…。
五十鈴は疑問だったのだ。なぜ私が旗艦なのか…と。そう思っていると頬に涙がつたう。「なによ…なんで泣いてるのよ…」五十鈴は今気付いたのだ。司令官は五十鈴を愛していたこと、そして五十鈴はそんな司令官に好意を抱いていたことを。
『泣いてるのか…?大丈夫か…?』こんな時にまでそんなしょうもない心配をしてくる男に五十鈴は呆れたように笑う。
そうだ。私は待っていたんだこの言葉を誰かに伝えてもらうその時を………。そして指輪を受け取りながら満面の笑顔で伝える。
「バカね。あなたは私がいなきゃダメなんだから!一緒にいてあげるわ!」