「どうしてアリサは、あいつが好きなんだろう」
「ちょっと良い?」
廊下を出てすぐに、有無を言わせない、力みがかった女性の声がクロキの耳に届く。
自分が何か恨みでもかったのだろうかと、恐る恐る振り返ってみると、
「今、時間ある?」
そばかすが特徴的の、ビッグテールをした女性がクロキを見つめていた。
いや、睨みつけていた。
サンダース大学付属高校は、良くも悪くもビッグとオープンさを売りにしたデカい学校である。
果たしてここで食っていけるのかと心配する新入生も居るが、いつの間にか、他人と交友関係を築けていることが多い。
趣味繋がりで仲良くなったり、知力と知力で争うライバルが誕生したり、体力勝負で「俺の方が強えよHAHAHA」「なんだいそのスローリーな動きは、すぐに追いついちまうぜ」などと競い合う奴も多い。
口数が少ない生徒も、この学園艦基準からすれば「クールな奴」と評価され、くっついてくる者もいたりする。
そんなフルオープンな場所だからこそ、廊下の片隅で異性と向き合っていようが、よくある
場面として片づけられるのだった。
「――クロキ君、あなたはタカシの友人よね?」
「えっ? そ、そうなる、のかな? どうなんだろう」
予想外の出来事が起きて、予想だにしない質問をされたせいで、回答が形にならない。
廊下の壁際で、女性にため息をつかれた。
「え? 毎日のように、休憩時間で遊びまくっているあなた達が? 昨日だって折り紙折ってた
じゃない」
何を言ってるんだこいつ、という目をされる。
「な、なんだよ、あんた。クラスメートでもないくせに、何でそんなこと知ってんだよ――
まさか、ストーカー?」
「違うわよッ! それくらい、盗聴していれば、」
間。
「あんた今なんつった?」
女性が、目を思い切り逸らして口笛を吹く。
どうも、顔に出るタイプらしい。
「……言い間違えよ」
「嘘つけ」
そんな言い間違い、映画でも聞いたことがない。とっさに口に出した時点で、盗聴とは身近なお付き合いをしているに違いない。
いきなりクロキ君呼ばわりされたのも、盗聴から得られた情報の一つか。
「で、なんなんだよあんた。盗聴なんて馬鹿げたことをして」
「……タカシのことを知りたかったのよ」
そういえば、話しかけられた理由はタカシ絡みだったような。
こいつ、タカシの知り合いか何かだろうか。
「タカシは私の幼馴染でね。まあ、その、好きなのよ、彼が」
あっさりと言った。
タカシと付き合って少し経つが、こんな女性の話はついぞ聞いたことがない。
「好き……ねえ。で、好き過ぎて盗聴していたと?」
「まあ、ね」
「……じゃあ」
あくまで表情を抑える。俳優を目指している身であるから、常に平常心を保つように
生きている。
――今は、その生き方も半分諦めているが。
「じゃあ、何で、俺なんかに話しかけたんだよ。盗聴さえしていれば、必要な情報なんて
得られるだろ」
「そうでもないわ」
女性は、悔しそうに顔を歪めた。
「盗聴なんて、電子的な聴き専よ。けして、自分の意志なんて通じない」
負けを認めるように、女性が両目をつぶる。
「長年盗聴なんてしていれば、それくらいは分かるわ」
感慨深そうに口にするが、正直何言ってるんだろうと思った。
「……だからこそ、あなたに聞きたいことがあるの」
「何を」
女性は、深く息を吸い込んだ。
「タカシって、好きな人がいるんでしょ」
ああ。
時折、ノロケ話を聞かされることがある。タカシが所属するアメフト部には可愛いマネージャーが居るらしく、いつか付き合いたいと宣言していた。
タカシもサンダースの人であるから、そのマネージャーには積極的にアタックを仕掛けていて、しかも感触も悪くはないという。
クロキも、祝うような妬むような感じで、「骨は拾ってやる」と言ってやった記憶があった。
「その子と、どこまで進んでいるのかとか、そういった話をさりげなく聞いて欲しいの。盗聴
じゃあ、待つことしか出来ないから」
「……あんまり、そういうことはなあ」
そこで、女性がまたしても悪そうに笑う。
「いいの? これまでの情報から、あなたの弱みは握っているのよ?」
マジかよ、と声が出た。
タカシとは為にならない話しかしていないつもりだが、感情が高ぶって大切なことを
ほざいたかもしれない。或いはブラフか。
「……まあ、バラしたりはしないけどね。フェアじゃないから」
「既にフェアじゃない」
女性が「うるさいわね」と鬱陶しそうに言う。
盗聴は得意でも、感情の隠し事は出来ないのだろう。この女性とは、顔を見て会話することに
する。
「――ところで」
「なに」
そういえば、最初に聞くべきことを聞いていなかった。盗聴という単語に気を取られ過ぎた。
「君、名前は」
「ああ」と、女性が頭をごしごし掻き、
「私はアリサ。よろしくね」
アリサが手を差し出す。
クロキは思わず手を握り返し、勢いで協力関係となってしまった。共犯者とは絶対に言わない。
―――
サンダース大学付属高校は良くも悪くもビッグであり、トイレはもちろん、食堂だってデカい。全校生徒を埋められるのがウリらしいが、その全校生徒からは「意味ないけど凄いよね」と
もっぱらの評判だ。
明るく生きることがモットーのこの学園艦では、出される学食もすこぶるパワフルだ。大量の
フライドポテトにカロリー満載の牛肉、のどを潤すジュースにデザートのアイスと、ひとたび
食えば「和食が恋しいなあ」と浸れるおまけつき。
罪を犯さず、前向きに生きていれば何でも楽しいと皆が思っているから、異性同士で向き合って座っていても、イヤミなんか言われたりはしない。
「で、」
昼飯の時間になったので、クロキとアリサは食堂でメシを注文した。ついでに「何で盗聴なんか出来るんだよ」と聞けば、「戦車道を学んだ流れで」と返答された。
まあ、そこまでは良い。
問題は、「お!? 彼氏でも出来たのッ!? その人がタカシ!?」と、物珍しそうに近寄ってきたケイと、ショートヘアの女性が、アリサにへばりついて離れないという点に尽きる。
「そうじゃないですから、ただの知り合いですから。あっちいっててください」
「そんなツレないこと言わない言わない」
ケイは、この学園艦でも相当な有名人だ。サンダース戦車隊隊長を務めているのは知っているし、男にも女にもよくモテる。たぶん、この学園艦でケイのことを嫌っている人間など
いないだろう。
ショートヘアの女性は、戦車道関連の番組でちらりと見たことがある。名前は確かナオミ、狙撃が得意と聞く。
――とまあ、そんな有名人二人、女の子一人と相席になっているものだから、クロキは
気まずそうに黙っていた。
「どうも、初めまして。三年のナオミ、戦車道履修者だ」
「は、初めまして。自分はクロキ、二年です――ナオミ先輩のことは知っています。戦車道で活躍していて、百発百中だとか」
「そんなことはないさ」
とは言うものの、少し嬉しそうに口元を曲げる。なるほど、ナオミの人気はここから
きているのか。
「私は三年のケイ、同じく戦車道履修者よ。よろしくね!」
「ケイ先輩のことも知っていますよ。というか、この学園艦で知らない人はいないんじゃないんでしょうか」
ケイが、「え、マジ?」と驚くように笑う。人気者だが、飾ったつもりはないのだろう。
だから、沢山の人を惹き寄せるに違いない。
「で、で、君とアリサってどういう関係なの?」
「ですから、知り合いですって」
「知り合いねえ」
ナオミが、ずずっとジュースを飲む。
「クロキ、隊長の好奇心はハンパ無いわ。ここで誤魔化しても、次に会った時にまた同じことを
聞く。――諦めましょう」
「そうか……」
落胆するようにうつむく。ケイが「?」と首をかしげる。
「まあ、この人はタカシの友人なんですよ。で、タカシには恋敵がいるものですから、それに
関した情報を、ですね」
ケイが「へえー」と明るく返事し、
「アリサはまだアタックしてないんだ?」
アリサが、「ぐうッ!」と声を出す。
「タカシ君の名前を何度も口にするくせに。本当に好きなのか? それでいいのか?」
アリサが、気まずそうにクロキの目を見る。こっちに逃げるなと、表情で訴える。
「恋敵の情報を手にしたとしても、タカシ君とお前の仲は進展しないんだぞ」
「狙撃しないでよ……」
畜生畜生とぶーたれながら、アリサは牛肉を頬張る。正論とは言い訳が利かないから、聞きたくもないのだ。
「しかもクロキ君まで巻き込んで、友達を探るなんてしたくもないでしょ」
「まあ、そうですけどね……まあ、俺個人も気になってはいるので」
鼻息をつく。
「俺はタカシから恋の進展を聞き、それをアリサへ報告するだけです。タカシの妨害なんかは
決してしません。後は、アリサ次第ってことで」
うまく言えたと思う。普段からセリフを噛まずに言えるよう意識しているつもりだが、今回は
よく口が回った。
しかも、有名人の前で。
「なるほど――素晴らしいフェア精神の持ち主だわッ!」
ケイが、携帯をさっと取り出す。
「フレンドになりましょうッ!」
「はやい」
勢いに飲まれるまま、ケイとアドレスをぽちぽち交換しつつ、
「ん? そういえば君は――」
ナオミが、じろじろとクロキの顔を見つめてくる。ストレートではない色気を覚え、クロキの
口元が力む。
「ああ、思い出した。確か、サンダースの文化祭で演劇をしていた」
「え、マジ?」
ケイが顔を輝かせる。ナオミに見られていた事実に、クロキの中から恥ずかしさが沸いて出る。
「素晴らしい演技だった。台詞をすらすらと言い、表情もうまく操っていて……才能が
あると思う、詳しくはないけどね」
「あ、ありがとうございます。俺、俳優を目指していて」
「へえ!」
ケイが、高らかに関心を抱く。このように決して感情を隠そうとしないから、皆が皆、ケイを
慕い、付き合いたいと願っているのだろう。
「いいねー、俳優かぁ。やった、将来のスターと話が出来るなんて」
「そんな、そうと決まったわけじゃないですから」
アリサが、「ま、がんばりなさい」と他人事のようにジュースを飲む。
クロキが、アリサめがけ呆れたように目を細め、
「――ああ、そうだ。一つ聞きたいんだが」
「なに」
「お前、タカシと幼馴染って言ってたよな? なのに、タカシと会話も出来ないのか?」
瞬間、ケイとナオミが「何!?」と言うたげにアリサを直視した。ストローを口に含んだまま、アリサが磔になる。
「あ、あんた、タカシと幼馴染だったの?」
どうも、アリサはタカシタカシと言うばかりで、詳しいことは何も話してはいなかったらしい。
クールであるはずのナオミもやっぱり女の子で、全てを吐くまではここからは出さんとばかりにアリサを凝視している。
「幼馴染……まあ、そう、です、はい」
「なんで話してくれなかったの!」
「いう必要、あります?」
ケイとナオミが、「ある」と断言した。
そういうものなのだろうか、そういうものなのだろう。
「で……幼馴染のタカシ君と会話が出来てない? なぜ? 馴染んでいるから幼馴染なんでしょ?」
ケイが、幼馴染の定義について悩み始める。正直なところ、自分も疑問が尽きない。
「そ、それは……その……」
アリサの頬が赤くなる。行き場のない感情を抑えるように、ジュースをちょろちょろと飲む。
「あいつ、子供の頃は情けなくて、逆に私が引っ張ってったはずなのに……高校生になると、
スポーツをやり始めて、たくましくなって、」
ふむふむそれで。クロキとケイとナオミの思考は一致している。
「か、かっこよくなって……その、話しかけられなくなっちゃって。一目惚れみたいに、
なっちゃって」
遂に、アリサの顔が真っ赤になる。
ジュースは既にカラになっているが、未だにストローを口にしたままだ。
あ、やばい、こいつ凄い乙女だ。
――ケイを見る。
「か、かわいい……」
見惚れるような表情で、アリサを眺めている。
ナオミを見る。
「女として、羨ましい……」
武士のように両目をつぶり、悔しそうにうつむいていた。
「……アリサさんよ」
「何」
「お前、可愛いんだから、アタックしてみれば?」
アリサの目と口が四角になる、顔が血のように真っ赤になる。
「ば、バカ言うんじゃないわよ! 私なんて、あの子に比べたら……!」
「そうかあ? 絶対に、アリサしかない魅力ってあると思うんだけど」
大声を出しても出されても、ここでは日常茶飯事とばかりに流してくれるのが、サンダースの
良いところだと思う。
「クロキ君の言う通りよ。アリサ、あなたは可能性を信じなさすぎ」
「そう思う」
ケイとナオミが、うむ、と頷く。
「といってもぉ、いきなりアタックなんてぇ」
また弱気になる。恐らくアリサは、自分のことを可愛いだなんて思った事が無いのかも
しれない。
クロキからすれば、アリサだって十分に容姿端麗だ。だが、アリサにとっての自信とは諜報活動であり、自分の姿などは二の次と考えているに違いない。
「まずはそこからね……といっても、練習ってのもどうやって、」
ケイと目が合った。
クロキは、「ああうまかった」とそれらしく発音し、トレーを持って立ち上がろうとし、
「クロキ君」
腕をがっしり掴まれた。ケイの瞳は太陽のように輝いていて、クロキは無念そうに目を閉じる。夜を迎えた。
「アリサの練習相手になってッ! お願い! この通り!」
―――
サンダース大学付属高校の校舎裏といえば、全校生徒黙認の「ヒミツの場所」であり、人待ち、秘密特訓、告白など、悪いことさえしていなければ生徒は黙って見逃してくれることが多い。
こんな場所が何故成立しているのかというと、サンダースにはどこもかしこも人がいるからだ。
ここまでビッグになれたのも、その校風に魅力を感じた人間が後を絶たず、毎年毎年入学希望者が殺到しているからだ。
その分だけ、人は増加する。人目がつきやすくなる。
サンダースで一人になりたかったら、鍵を閉めて自分の部屋で籠城するか、校舎裏で考え事を
するか――その二択に絞られるほど、今日もサンダースは賑やかで、平和だった。
「……本当にやるんですかぁ?」
「やるの。タカシ君への想いは、そこまでのものだったの?」
そんなことはないと、アリサが首を横に振るう。
クロキはといえば、午後の休憩時間でタカシとアームレスリングをし、惨敗したせいで腕が痛い。
「できる練習はしておいた方が良いでしょ、ぶっつけ本番なんてベリーハードよベリーハード。
あなただって、最初はあたふたと通信してたじゃない」
「そ、そうですケド……やりますやります、やれば良いんでしょうっ」
どうせ放課後なのだ。やることをやらなければ、ケイはここから出してはくれないだろう。
観念したように、クロキもため息をつく。
「じゃあ、やるか」
「グッド。まずは、タカシと久々に話すところから、アクションッ!」
ケイがシャーペンを二刀流に持ち、それを叩いて軽やかな音を鳴らす。
ナオミは、生きて帰ってこいとばかりに親指を立てる。
「あ……たかしだ。ひさしぶり、ありさだよ、げんきー?」
「ん? ああ、アリサはじゃないか! 元気? 生きてた? いやあ久しぶり、いつ以来だっけ?」
「かれこれちゅーさんくらいかなー。ごめんね、いろいろいそがしくって」
「そっか、そんなに。いやあ、こうして会えて俺は嬉しいよ」
「うん、わたしも。あ、きょうはさいかいきねんってことでいっしょになんかたべにいかない?」
「いいねーッ、行こう食おう」
瞬間、シャーペンの打音が空気を割る。
「カット」
ケイにしては珍しい無表情のまま、淡々とした足取りでアリサへ接近する。
「アリサ」
「はい」
ケイが、校舎めがけ親指で指す。
「反省会ね」
「えー、だってー」
アリサも自覚しているのだろう。特に驚きもせず、むしろかったるそうにケイを横目で
眺めている。
「タカシじゃないのに、本当の感情なんか出せませんって」
「ばかっ、それでも役者なのッ!?」
アリサが、「通信手ですって」と突っ込む。
ナオミもアリサに対して冷徹な表情を露わにしていて、正直空気が悪い。
――だから、
「アリサ」
「何、」
「俺は、俳優を目指してる」
アリサが表情を止め、ケイの批評が停止し、ナオミの目つきが沈黙する。
「俺はまだまだ未熟だけれど、この人を演じてくれというオファーが来たら、俺はその人になる。
その為の努力はしてきたつもりだ」
アリサから決して目を離さない。
「俺は、タカシとは少し長い付き合いをしてる。だから、的外れな演技はしない。――信じて、俺の演技に付き添ってくれないか?」
言えた。
言いたいことを、言えた。
俳優として、そして自分の伝えたい事を口に出来た。
――アリサはといえば、驚いたような、巨大なものを見たような、そんな風にして表情が
固まっている。
「……クロキ君」
「何?」
アリサが小さく頭をさげる。
「ごめんっ。クロキ君が真剣に演じてくれているのに、私ったらバカなことをして」
心の底から後悔するように、アリサの表情から光が消える。
「もしよかったら、その、また演じてもらえないかな? あの、凄く、上手かった」
けれど、アリサはクロキの目をじっと見つめる。怖がるように震えながらも。
「あなたのこと、信じる」
――心臓の音が聞こえてくる。耳鳴りめいた静寂さが訪れる。
「……あ、ああ、喜んで。――演技を褒めてくれて、とても嬉しいよ。またやろう」
――アリサが、子供のように笑った。
ケイが、笑顔満面になる。
「オッケッ! じゃ、もう一度ッ! アクションッ!」
カンッ。
「あ……タカシ、タカシ、だよね? やっほ、元気してた?」
今度は、恥ずかしさがセットになった挨拶が聞こえてきた。
結構演技派だなと、心の中で感心しつつ、
「その声、お前かーッ。生きてたのか、アリサ」
「ったりまえでしょ、こう見えてしぶといの。あんたなんて、昔は泣きべそばっかかいてた
くせに、こんなゴリラみたいになっちゃって」
ひひひと笑う。ばつが悪そうに、「タカシ」は舌打ちする。
「てめっ、昔のことなんてどうでもいいだろ」
「はあー? ちょっとガタイが良くなったからって、過去は消えないものなの。むしろ強く
なったんだから、弱かった頃だって可愛がれるでしょ」
「ああ、もういい。わったわった」
うんざりするように、「タカシ」が手を挙げた。
「ごめんごめん。――ね、せっかく再会したんだし、一緒に何か食べに行かない?
おごるからさ」
「ほんとか? やったー、許す」
そう、「タカシ」とはこんな奴なのだ。
だから、アリサも能天気に笑っていられるのだ。
「カットッ!」
再び、シャーペンとシャーペンがぶつかりあう音がよく響いた。
クロキとアリサがケイを注目する、ケイは腕を振りかぶり、
「グッドッ!」
ケイ監督が、親指を立てる。ナオミが小さく拍手する。
クロキとアリサが、魂の抜けたような顔で見つめ合い、次第に、達成感だとか再現性だとかで
ぷっと笑ってしまって、クロキとアリサはハイタッチした。
――
「アクションッ!」
カンッ。
「お前、戦車道やってるんだって? すげーよな、俺は機械とかさっぱりだわ」
「慣れよ慣れ、あんただって自分の体を武器にしてるでしょ、それこそムリムリ」
「そういうもんすかね」
「そういうものよ」
「……で、お前はなんでそれを始めたの。俺は、なんか体を鍛えたくなったからだけど」
「あー、そうねえ。私、こう見えて聴覚が良いのよ。陰口なんて聞こえ放題でね、我慢のきかない子だった私は毎回口喧嘩、連戦連勝。あんただって私に言い負かされては泣いてたじゃない」
「いやーいい思い出ですわ」
「ったく。で、次第に負けず嫌いになってさ、これからどう生きていこうかなあと思った矢先に
戦車道、しかも通信手というめぐり合わせ」
「へー」
「ま、色々あって叱られたりもしたけどね。アリサちゃんだって成長できる生き物なのよ」
「カットッ!」
「アクションッ!」
カンッ。
「部活、最近どう?」
「つらいよーやめたいよー」
「じゃあやめればいいじゃない」
「やめられないんだよなぁ」
「そうなの?」
「そーなの。そりゃあ良いことも嫌なこともあるけどさ、やっぱりアメフトって超楽しいよ。
本気でプロ目指してるし」
「はー、すごいね。アリサちゃんはこの通りヘロヘロよ。戦車道って何であんなに難しいんだろうね、勝利だけを目指したら脱線するし」
「そりゃあ、スポーツみたいなものだからだろ? 戦闘じゃないんだからしゃあないって」
「まーねー、そうなんだけどねー」
「ま、バテそうになったら休めばいいじゃない。俺はそうしてるよ」
「休む、か。まあ、私もそうしてるつもりだけどね……」
「……あ、そうだ。じゃあ、今度一緒にどこか出かけね?」
「――は、はあ!? あんたちょっと何言ってんの!?」
「いいじゃないの幼馴染なんだし。友人と遊びに行く感覚だって」
「カットッ!」
「アクションッ!」
「あ、ねえねえ、私の両親離婚したって話した?」
「え、ええ……何それ、それを俺に話す?」
「タカシだから話すのよ。――まあ、数年前から口喧嘩が激しくなってね。で、高校に入る前に
離婚しちゃった」
「そう、なのか」
「そうそう。あーあ、人生って色々あるわよね」
「そう、だなあ」
「けど、私は今も幸せよ。友達もいるし、戦車道だって楽しい。で……あんたと、こうしてまた
話が出来ているし」
「俺はなんもしてないよ」
「いてくれるだけでいいの。幼馴染って、そういうものでしょ?」
「そうかなあ?」
「ええ」
「カットッ!」
タカシとババ抜きをして負けて、放課後になれば「タカシ」とのコミュニケーション訓練が
始まる。
最初はテレや口ごもりが目立ったが、最近はアリサも演技が上手くなった。このまま俳優を
目指せば良いんじゃないかと思うが、アリサはあくまで恋する乙女だ。
恋とは、将来とか夢を二の次に出来るパワーがある。
だからアリサも特訓を続けられるのだろうし、クロキも好きにアリサと付き合える。アリサは
顔に出やすいタイプだが、だからこそ表情に嘘がない。
時に「なにそれ!」と笑い、
時に「頑張り過ぎ」と真剣になって、
時に「ばかー!」と怒り、
時に「ごめん、言い過ぎた」と切なそうな顔をする。
それを間近で何度も見て、クロキは「やっぱり、乙女だ」と感想を抱いた。
そして、アリサがいつもいつも特訓に励むのは、タカシのことが本気で好きだからだろう。気軽なやりとりを実現させる為に、離婚したとか報告出来るような関係になる為に、いつか恋人になる為に――だから、アリサはいつも「放課後、いい?」と声をかけてくるのだ。
人一倍恋に真剣で、人一倍恋におびえるアリサは、間違いなく女の子だった。
――俳優は演技に飲まれてはいけないが、所詮はクロキも高校生だった。
次第に、アリサは自分のことなど見ていない、と意識するようになった。
つまり、自分は、
「さ、今日も訓練いこうか」
アリサが、どんとこいとクロキに微笑む。
ケイが、待ってましたとばかりに笑顔になる。一度も不参加になったことがないあたり、ケイは本気でアリサのことを応援しているのだろう。
「分かりました。あーあ、タカシと『再会』出来るようになるのはいつの日か」
「それを現実にする為に、クロキ君とトークの練習をするんでしょう?」
「ま、そうですけどね」
ふう、とアリサが鼻息をつく。
「はやくなさいよ。恋は待ってはくれないのだから」
「はい、分かっています」
ちらりと、クロキの目を見つめ、微笑する。
しかし、本当はクロキのことなど瞳に映ってはいない。
けれど、だけれど、だからこそ、恋に一生懸命なアリサのことを、
どうしてアリサは、あいつのことが好きなんだろう。
―――
食堂で、アリサとばったり目が合った。アリサが手を振り、クロキを誘う。
特に断る理由も無いし、アリサとは人間関係が出来上がっている。だから、遠慮なく向かい
合わせで席に座る。
「最近、どうだい?」
「そうねー、もうそろそろ再会してみようかな、とは思うんだけれど。どうしてもおっかなくて」
そこまでかと、クロキは呆れるように目をすぼめる。
「幼馴染なんだし、別に良いじゃないか。仲が悪いってワケじゃないんだろ?」
「まーねー、そうなんだけどねー……」
アリサがつまらなさそうに、フライドポテトをぽりぽりと食う。
「あーあ、盗聴してまで情報収集しているのに、なんでこう動けないのかなー。ビビリね
私ったら」
「――思うんだけどさ」
何。クロキを見もしないで、アリサが応える。
「それが良くないんじゃないの?」
「え、なんで」
「情報を収集しすぎてて、強張ってるんじゃないかってこと」
何言ってるんだこいつはと、素っ頓狂な顔をされた。
「そりゃあね、情報は大事だよ? 俳優になるのにしたって、リサーチは重要だ」
ふう、とため息をつく。
「けどな? 恋に関しては、例外だと俺は思うんだ」
「なんで」
「知り過ぎて、ああならなきゃ、こうならなきゃって思ってない?」
アリサの反論が無い。
「俺は、いくつか恋愛映画を見てきたけどね、結局は出たとこ勝負で決まってるよ? 綿密な計画なんてない、むしろ立てようがない。だって恋だもの」
アリサが無表情のままで、沈黙したままで、話を耳にしたままで、クロキを見つめている。
「いいんじゃないかな、もう無鉄砲に全てを告白しても。幼馴染なんだから、前から好きだったって言ってもおかしいことじゃない」
サンダース大学付属高校は、良くも悪くもオープンで、平気な顔をしてカップル連れが廊下を
歩いていることも多い。
教師も「おっ、結婚式には呼べよ?」とからかうし、友人からはふざけ半分で罵倒されたりも
する。そんな空気だからこそ、思い切って告白したり、勢いで結ばれることも多い、
――だから、アリサがタカシと結ばれたところで、それはサンダースの日常茶飯事でしかない。少しの衝撃はあるだろうが、すぐに受け入れられる。
自分以外は。
「そっか」
納得したように、どこか安堵したように、アリサが静かに笑う。
「分かった。私、タカシと出会ってくる。盗聴もやめる」
クロキは、良かったねと頷く。
俳優を目指していなければ、不愉快そうに顔を歪ませていただろう。
「まあ、告白は流石に、ね? そこまで度胸があるわけでもないし」
俳優なんか目指していなければ、アリサに本音をぶちまけられていただろう。
「ありがとう、クロキ君。あなたには、いつも助けられっぱなしだね」
にこりと、心からの笑顔を向けられる。
――心臓が締め付けられる。どうして、こんな顔が出来るんだろう。どうしてタカシは、こんな顔が出来る子に愛されているのだろう。
「何か、お礼がしたいな」
「――そうか、そうだなあ……」
牛肉を食べ終え、両手をテーブルの上に置く。
「一つ、話を聞いてもらってもいいかな?」
けれど、
俳優になることを願っていようが、アリサの幸せを心から祈っていようが、タカシとは友人関係を築いていようが、クロキはどうしようもなく高校二年生だった。
「あのさ。もし、アリサのことが好きな奴がいたら、どうする?」
「――え」
間。
「ああ、ごめん、ごめんな。バカなことを聞いた。じゃあ、今日も放課後に、」
逃げる為に立ち上がり、逃れる為にトレーを手に取り、逃がさない為に腕を掴まれる。
「待って」
「離してくれ」
「嫌」
「なんでもないから」
「駄目」
サンダースは活発で、積極的で、感情的で、誰も彼もが目先の世界を追い続けている。
だから、クロキとアリサなど他人事だった。クロキもアリサも、目先の道しか見ていなかった。
「一つ、聞かせて欲しいの」
「……何」
「あなたの、好みの女性って?」
アリサらしい言い回しだと思う。
クロキは、そんなアリサを見て、安心するように息を吐いた。
「……ビッグテールの髪型をしていて、恋に一生懸命で、大事なことだけは隠そうともしない人」
アリサの目が揺れている。たぶん、自分ときたらポーカーフェイスを貫けているに違いない。
言葉は感情丸出しのくせに、肝心のツラは俳優のモノだ。どうも才能はあるらしい。
「そんな人と出会えたら、そんな人に好かれたら、俺はどうしようもなく幸せだって思う」
アリサが泣きそうになる。
やっぱり、この人はすぐに感情が表に出るタイプだ。
――アリサは、自分のことなど可愛くないと思っている。「あの子」と比べたら、ぜんぜん
可愛くないと考えている。
けれど、クロキからすれば、「あの子」よりも魅力的だ。こんなにも顔をころころと
変えて、自分の為に大事なことを聞いてくれる。
「どうして」
消えてしまいそうな声。
「どうして、私を応援してくれるの? あなたは、だって、」
「それはな、」
笑えたと思う。
「アリサに、幸せになって欲しいからだよ」
噛まずに言えたと思う。
涙なんて流さなかったと思う。
「タカシは俺の友達だ。だから、そいつも幸せになって欲しいと思ってる」
余計な感情など、口にしなかったと思う。
「おれのすきなひとたちが、しあわせになるのなら、おれはそれでいいとおもってる」
――言葉に出来なかったと思う。
「……ねえ、なんで、」
アリサの目に、クロキの顔が映っている。
ひどい顔だった。まったくもって、感情がない。
「どうして、私を一番だって思ってくれるの? なんにもしてないよ? 盗聴するような
女だよ?」
「――俺はね、俳優を目指そうと、努力しているつもりなんだ」
アリサがまたたく。頷かない。
「けどね、俺なんかよりも努力している人がいたんだ。世にも恐ろしい恋を成功させる為に、盗聴までして情報取集したり、タカシに近づく為に演技に挑戦して、出来る限りの結果を
残そうと頑張って演じてみせて。それらすべてが、俺からすれば輝いているようにしか
見えなかった」
アリサの手は、クロキの腕を掴んだままだ。
振り払おうとしない限り、けして離れない。
「それにね」
腕を掴むアリサの手を、そっと握り返す。
「アリサは、自分のことを、『あの子と比べたら』なんて言うけどね、そんなことはないから」
その手を、するりとほどいていく。
「俺の演技を信じてくれるような、優しい人じゃないか。君は」
アリサに背を向け、
「頑張って、アリサ。応援してる」
トレーを返却棚へ返しに行く。
もう、自分の役目は終わりました。アリサは、これからは自分の力で恋を成すでしょう――
後に、そんなメールをケイとナオミに送信した。
終わった。
でも、けれども、これだけは言える。
アリサは、俺の初恋の人だ。
―――
アリサと顔を合わせなくなって、数日が経過した。
これも失恋とでもいうのだろうか。最初は授業の半分も聞かない日々が続いたが、何だかんだ
いってタカシとは遊んだし、次第に「がんばれ」と済ますようになった。
だからクロキは、タカシと休憩時間中にトレーティングカードゲームで遊んでいる。良い感じに拮抗状態に陥って、気づけば互いのHPは1。あと一発貰えば終わるし、あと一撃食らわせれば
勝てる。
デッキからカードを引き、心の中で「しめた!」と叫ぶ。勿論顔には出さない。
「で、どうなの? マネージャーとの関係は。はい死ね」
「ああ、それ聞いちゃう? それ聞いちゃうの? カウンターで無効、お前が死ね」
ちきしょうと毒づくが、今となってはドローカードが全てだ。決定打を先に引いたものが、この勝負に勝つ。
「聞くよ、はやく言えよ、はやく引けよバカ」
「まあ待て――あ、これか。いや待てよ」
にやりと、タカシが笑う。露骨に顔に出すタイプだが、困ったことに、ブラフという手段も
知っている。
勝負事に関しては、積極的に賢くなろうとする男だった。
「うーん。なるほどなあ、よしよし」
「はやくしろよ、はやく言えよ」
「はいはい。手札からコイツで攻撃だ、死ね」
「いいや生きる。これで無効化な」
「ちぇー。で、マネージャーとはな、これが思いのほかうまく進展してな」
タカシの手札から、二枚目の攻撃が飛んでくる。同じく、クロキは手札からカードを一枚引っこ抜き、タカシの攻撃を水の泡にする。
「ほー、やるじゃん。なに、デートでもするの?」
「ああ」
デート。しかし、サンダースでは特に珍しくも、
「マネージャーとさ、付き合うことになったんだ」
タカシの手札から、三枚目の攻撃が発射される。クロキのHPがゼロになる。
「よし死んだ――あ、そういえばさ、久々に幼馴染と会ったんだ。アリサって言うんだけどさ」
―――
この数日間、アリサは沢山のことを学んだ。
恋に悩んでも、いつかは答えを見い出せる現実を。恋なんて、案外勢いで何とかなるという
理屈を。自分なんてと腐っていても、こんな自分を愛してくれる人がいるという事実を。
放課後になって、曇り空から小さな雨が降る。傘をさす生徒もいれば、天気を恨めしそうに嘆く奴もいた。
自分は、前者だ。天気の情報はかかさず収集しているから、このテの失敗を犯したことはない。傘を持っていない生徒を見ては、少し優越感に浸る。
さて、帰るか。
笑いもせずに傘を差せば、タカシがアリサの横に立っていた。
声を出せないまま、アリサはタカシの横顔を覗う。傘を持っていないのか、学校の出入り口で
立ち往生しているらしい。
――今こそ、練習の成果を見せる時だ。
アリサが、少し演出っぽく傘をタカシへ差し出し、
「あ、タカシ! 何してるのさ、傘持ってないの?」
手が、止まった。
タカシのそばに「あの子」が駆け寄り、迷彩柄の傘をあっさりと開く。
タカシは「あの子」の傘に、照れながら入っていった。アリサのことなど目にもしないで。
――あとは、お礼とばかりに、タカシが「あの子」へキスをした。「あの子」も、キスのお礼にキスをした。
「……そっか」
帰路についていくカップルの後ろ姿を見届け、アリサは、納得した。
自分は、あまりにも恋を恐れすぎた。好きな人のことを知り過ぎて、どうしようと言い訳する日が長すぎた。
恋敵と進展している事を知っていたくせに、自分は何もしなかった。情報は、活かさなければ何の役にも立たない――今、知った。
タカシは、恋心が抑えきれなくなって、「あの子」にアタックし続けた。
だから、「あの子」はタカシの想いに応えた。
それで恋は成立する、それだけで愛は成り立つ。勢いで案外何とかなってしまう世界なのに、
自分は、情報の海に勝手に溺れ、沈んだ。
――タカシの恋を応援しているつもりなのか、アリサの心に呼応でもしたのか、雨が大きく降り注ぐ。ノイズのような音がする。
自分に、一番お似合いの音だ。
傘を閉じる、こんなものは何の意味もない。
きっと、自分はひどい顔になっているだろう。サンダースに悲しみだとか、そんなものは
似合わない。だから、雨に浸って心を洗い流そう。
こんな日に限って最悪の天候とは、世界はなんて優しい。
アリサが前へ進もうとした時、手を掴まれた。
「……離して」
「嫌だ」
「……独りにさせて」
「駄目だ」
振り向けない。私こそ、彼の顔を見る資格などない。
「アリサ」
けれど、彼は、自分の肩に手を乗せてくれるのだ。
「おつかれさま」
たぶん、もうすぐで泣くと思う。
自分がこうだったからこうなったと、理屈詰めで結果に納得しようとしたが、もうだめだった。
なんで、こんな自分に、傍にいてくれる人がいるんだろう。
「……アリサ」
「何」
「数日後でも、数年後でもいい。君の気持ちが整ったら、告白してもいいかな?」
「一生かもしれないよ?」
「それでもいい。俺には、アリサしかいない」
「……演技の練習かな?」
「素だよ」
「……そ」
叫びはしなかった。
真っ白い空に向かって、見上げる。震える声を出しながら、涙が止まらない。
―――
「ほら、それ食って元気出して」
「うん」
アリサがジャンクフード店でハンバーガーを注文し、それにかぶりつく。
先ほどまでの顔はとうに消え失せ、実に美味そうに眉を緩ませていた。
「……さっきは、ありがとね」
「気にしないで。俺は、したいことをしたかっただけだから」
クロキもハンバーガーに噛みつき、「うまいなこれ」と感想を漏らす。
「……あんたさあ」
「え、何」
「よく、そんなことをすらすら言えるわよね」
ごくりとハンバーガーを飲み込み、
「俳優目指してるしな」
「へー、じゃあ嘘も混ざってる?」
にやりと、アリサが皮肉っぽく笑う。
安心したように、クロキも口元を曲げる。
「お前に、嘘をつく度胸はないよ」
「そうなの? なんで」
「愛してるから」
かーっと、アリサの顔が赤くなる。
「この……『好き』なら友達の意味合いもあるけど、『愛してる』は逃げ場がないでしょー?」
「そだね」
勝ち誇ったようにウインクしつつ、シェイクを吸い込んでいく。
「ま、いいけどね。――うん、あなたの気持ちはとても嬉しい。けど、その、あなたの気持ちを今、受け止めるのは、自分が許せないというか」
「分かる。だから、しばらくした後で言うべきことを言う」
「……ごめんね」
首を、小さく左右に振るう。
「アリサの幸せは俺の幸せだから、気にしないで」
「はー、くさいくさい」
やだやだと、手のひらで煽られる。クロキは、そんなアリサを愛おしく眺めている。
「あ」
「うん?」
「口にケチャップついてる」
え、本当かよおい。
よりにもよって、顔面に関する間抜けをしでかしたとは。まだまだだなあと思い、
クロキの唇が、アリサの唇によって、あっさりと盗まれていた。
――止まる。
「……ごめんね!」
ああ、やっぱり、やっぱり、
アリサは、俺のメインヒロインだ。
―――
『この映画の脚本をやらせていただくことになりました、アリサです。
この道に入ってたった数年ですが、皆さんに共感してもらえるよう、精一杯努力したつもりです。
私はアクション、ホラー、コメディと、なんでも好きなつもりなのですが、その中でも『恋愛』が一番好きです。
色々な恋愛の形がありますが、最後に救われるからこそ恋愛、ではないでしょうか。だからこそ、失恋は最も苦手なジャンルだったり(笑)
で、主演俳優にクロキさんがいますけど、ニュースで報じられちゃいましたよね。『売れっ子脚本家と、今話題の俳優が交際!』 みたいな。
クロキさんはともかく、私って売れてるのかなあ?(苦笑) まあいいや。
とりあえず、脚本家が私で、主演俳優がクロキさんと、運命みたいなキャスティングですけれど、監督の弱みなんか握っていませんからね!
――長くなりましたが、どうか映画をお楽しみいただければ幸いです。あなたの心に、何かが届きますように』
ケイがパンフレットを閉じ、ナオミがポップコーンを食う。プロリーグ選手になってクソ忙しい日々が続くが、上映終了まで間に合って良かった。
映画がまもなく上映される。
さあ、後輩の姿を見届けてやろう。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
たぶん、書く上で一番難しい話だったと思います。
アリサにはタカシという想い人がいて、主人公(あなた)とどう結ばれるか。
個人的には「完結」させたかったので、このような流れになりました。
どんな反応が来るのか、正直予想がつきません。
ですが、書き終えて本当に良かったと思います。
ご指摘、ご感想、いつでもお待ちしています。
それでは、最後に、
ガルパンはいいぞ、
アリサは乙女だぞ。