一章
他者を気にしながら生きていく。
それは昔、いや、数年前は笑われるような生き方だった。
臆病で、他人の気にしていないことに意識を向け、神経をすり減らす。
人にもよるが、無価値であると言われてもおかしくはない。それが生むメリットなど、表面上の平和くらいなのだから。
人間、裏でどう考えているか分からない。だから更に疑心暗鬼となり、他者を気にする生き方はどんどん悪化していく。
私もきっと、昔はそんな生き方をしていたのだろう。
記憶が曖昧で二年前のことすら覚えていないけど、なんとなく分かる。
私は他人を傷つけず、平和に過ごす方法を探していたのだ。
みんなが笑顔でいられる、馬鹿みたいに不自然な方法を。
けれど、私はもうそんなことを考えない。
どれだけ人に迷惑をかけ、評価を下げてもいい。
私は他人の評価を気にしない。それが人生を懸ける理由になり得ないと思うから。
『絶対評価制』。
私は世界の決まりなんかに従わない。どこまでも人間らしく、楽しく生きてやる。
○
赤、金、緑、青……目の前で動く、ゲームのカラーバリエーションみたいに彩色豊かなそれを、私は呆れながら眺めていた。
朝。登校の時刻である。
一般的な女子高生である私は校門をくぐり、校舎へ直通するコンクリート舗装の道を歩いている。右横には校庭が見え、朝練を終えて校舎へ帰っていく生徒が見えた。
校舎がセンスを疑うくらいカラフルなわけではない。あちこちで狂ったように花が咲いているわけでもない。
日常的な光景だ。とてもカラフルなものが見える場面ではなかった。
しかし、それらはある。
目を疑うほどカラフルで、鞄を背負い、頭や手足があり、私と同じように登校する――人間は。
彼らはまるでアニメの登場人物みたいに髪を奇抜な色にしており、それが当然だと、意識すらしていない様子で歩いている。
色だけではなく髪型まで千差万別。個性を強烈に主張しているそれらは視界に入るだけで気分が悪くなる。
異質な光景だ。
一ヶ月近くこの光景を見ているが、まったく慣れる気配がない。むしろ感じる不自然さが強まるばかりだ。
「はぁ……」
深く嘆息。
私の日常はこうして、知識や常識と正反対になった日本を見て憂欝になることから始まる。
そして――
「おはようございます。
――こうして声をかけられることもまた、日常だ。
敬語、そして不自然なくらい気持ちのいい笑顔。今日私の前に現れたのは一人の女子だ。
至って普通な顔立ち、スタイル。学校の制服を問題無く着こなし、髪色は薄いピンク。髪型が普通のセミロングで、髪色以外特徴のない、いわゆるモブ的な見た目の人だった。
彼女は鞘に納まった剣を両手で持ち、私を見ている。
昔なら即通報レベルの不審者だが今はいても何ら問題はない。
あくまで『世間的に』であって、私的には大問題なのだが。
……またいつもの展開になりそうだ。
「そうだけど、あんた誰?」
生意気な口調を意識。鞄を道の隅に置いておき、私は校庭へゆっくり歩き出す。
彼女は『解っている』私の動きを見て嬉しそうに笑みを深めた。
「
無論、告げられたのは知らない生徒の名前だ。
見た目からして二年、三年の生徒だろうか。年下のか弱い女子をいじめてなにが楽しいのやら。
そのまま私達は校庭の中心へ。迷惑がかからない位置に移動し、対峙する。
「さて……予想はつくけど、それが嫌だから一応聞く。私に何の用?」
「決闘です。私と戦って下さい」
やっぱり。
自由奔放な私の生き方。その代償が、一日三回の決闘だ。
どこぞのソーシャルゲームを彷彿とさせる規則が、私の生活には生じていた。
弱い私は評価を稼ぎたい方々に大人気で、毎日こうして標的にされている。効率的な方法なのだから責められはしないけど、私にはいい迷惑だ。
本日二度目の溜息。
今日の相手は剣を持っているからまだマシだろう。昨日は魔法ばっかりで一方的に負かされたし。
断りたがる自分に言い聞かせる。この決闘を断ってまた魔法三連続では死ねる。自分を生かすためにも、楽そうな相手とは戦うべきだろう。
「分かった。いいよ。戦おう」
私が頷くと、冬花は剣を抜いた。
刃を右手に。鞘を左手に構え、私を見据える。その表情はもう笑顔ではない。明確な敵意を露わにした、殺気を放つ顔だ。真剣そのものである。
負けたくない。その意志が伝わってくるようだった。
けれども、それは同じだ。私も負けたくない。勝ちたいわけでもないが、痛いのは勘弁だ。
早く終わらせる。そして、こんなふうに決闘を挑まれる雑魚の地位から逃れるのだ。
私は意気込み、構えをとった。両拳を軽く挙げ、胸の前へ。足を片方下げる。
「準備はいいですね。いきますよ」
どこへ。
そう小声でつっこむと同時に、冬花は駆け出した。平均的な体格からは想像できない速度で私へ迫る。
あっという間だ。50メートルはあった距離は一瞬に詰められ、飾り気のない素朴な剣が振られる。
右から左への横切り。シンプルな腹部を狙った攻撃だ。私はそれを小さく後ろに下がり、あえて紙一重でかわす。
『能力』の補正で叩き落とすこともできるけど、それよりも攻撃後の隙を突いた方が確実だ。握った拳を引きつつ、一歩踏み出す。
校庭の地面に足が擦れ、音と砂ぼこりを立てる。
剣は振りきられたまま。冬花の口は動いていない。攻撃の前兆は皆無だ。
隙があるのを確認し、私は拳を勢いよく突き出した。
補正を受けた拳は、さながら大砲のような威力を込めて放たれる。当たれば、怪物と化した人間でもダメージは通るだろう。
「あうっ!?」
固い何かを叩いたような、殴ったこちらが痛くなる強い衝撃が手に返ってくる。とても人間の腹を叩いたときの感触ではない。何かの能力だろうか。
違和感を覚える私だが、殴られた冬花は地面を転がっていく。ダメージはあるらしく、呻き声らしきものを上げて。
――終わりかな。
呼吸を整えながらその場で待機。
自慢ではないが、私のパンチはおそらく、熊を一撃で沈めるくらいの威力がある。もっとも、パンチする前に死ぬだろうけど。
まぁ、そんな威力のパンチがまともに当たったのだ。立てる筈がない。
と、思うのだけど。
「なるほど。格闘系統の能力ですか。魔法かと思ってましたが」
今日日、怪物になった人間へ、そんな常識が通用するわけはなく。
にっこりと笑っている冬花は、ダメージなどないように跳ね起きた。
腹パンされたにもかかわらず呼吸は少しも乱れていない。この生徒なら過酷ないじめにも耐えられるのではないか、なんて馬鹿げたことを思い浮かべてしまう。
やはり、先程抱いた違和感は気のせいじゃないみたい。
今までもそういう人はいたけど、多分彼女は防御関係の『能力』も持っている筈。
最初の疾走。剣術。持っている鞘。そして防御関係。
これから予想するに、冬花は多分戦闘に使える『能力』を四つ以上は持っている。
……なるほど、私を狙うわけだ。
能力の数から言って、彼女もまた雑魚の部類に入る人間だ。
強い人間ならば、数秒の内に予想できる能力数が二桁を超える。
それなりな強さの人間でも、こいつ主人公なんじゃないか、と思うくらいのレベルなのだから……冬花の弱さがよく分かると思う。
もっとも、こんなこと私が言えた身分ではないのだが。
「そんなことも知らないで戦いを挑んできたの? 情報収集は大切だって知らない?」
私は溜息を吐く。相手が先輩かもしれないのは重々承知だ。
自分でもむかつくと分かる。うん。
「うっさい! こっちだって必死なの! 早く評価を得て就職先を――って違う!」
なにやら一人漫才をはじめる冬花。簡単に私の台詞に反応してボロを出す。敬語はやっぱり演技だったみたいだ。
地団太を踏み、苛立ちを露わにする。私は更に彼女を挑発することにした。
「はは、じゃあ早くかかってきなよ。私くらい早く倒さないと、評価が下がっちゃうかもね」
「わわ分かってるわよ! むかつくやつね!」
本来ならば私は彼女に負ける実力。だが今回ばかりは相性がいい。
怒りで我を忘れて突っ込んでくる冬花を見据え、拳を振りかぶる。攻撃の速度は大体分かった。あとはタイミングを合わせてカウンターをぶちこめば、防御の能力があってもそれを貫いてダメージを与えられるだろう。勝利は目前だった。
「待ちなさい!」
しかし、あいつが現れた。
日本刀を手にした、いかにも美少女な女の子。私が苦手としているその子は、膝まではある長い藍色の髪を揺らし、私と冬花の間に入ってくる。
目にも見えない速度とはこのことだろう。彼女が私の前に止まるまで、私はぼんやりとした残像しか捉えることができなかった。速すぎる。
白く、綺麗な肌。理想を体現したかのような顔立ち。凹凸が見て分かる豊かなスタイル。完璧な容姿をした女の子は、してやったりと言わんばかりの得意げな顔で、私へバッと手を向けた。
「弱い者いじめは私が――許しませんよ!」
ああ……来ちゃった。面倒な子が。なんだその台詞の無駄なタメは。
彼女は私と同じ一年生で、クラスメイトの女の子。名前は
面倒になって彼女へ一度襲いかかったけど、一秒もしない内に返り討ちになった……と思う。戦いが始まったと思ったら気を失って、数時間後に目覚めるという有様だった。
何を見ていたのか、彼女は私が冬花をいじめているように見えたらしい。逆にいじめられてるようなものなんだけど、困ったものだ。
なにはともあれ、この状況はまずい。私を裁く大義名分を彼女に与えたら、どうなるか分かったものじゃない。というか分かりたくない。
なんとかして説明しなくては。
……よし。いいこと思いついた。
「弱い者いじめじゃないんだけど。ね、冬花? それに私より弱くないでしょ、冬花は」
「当然! ほらそこの長い髪! いじめるのは私よ! どきなさい!」
「はい? あなたがいじめてたんですか?」
よしきた!
ばれないように小さくガッツポーズを作る私の前、笑顔で威圧感を放つ優姫が、後ろにいる冬花へゆっくり振り向く。
ぎぎぎと機械のように。やたら怖い動作である。
「ひっ!? そ、そうよ! 文句ある!?」
思わず悲鳴を上げ、涙目になりながらも強がる冬花。いじめているのかと問われ、否定をしないところに彼女の健気なプライドを感じる。
しかしプライドは得てして邪魔ものになるものだ。人間をどこまでも不器用に、無愛想にしてくれる。
たとえ危機が迫っていると分かっていても、曲げられないのだ。
完全に他人事となった光景を眺め、私は合掌。鞄を取り校舎へ向かう。
「風剣! 神伐殺!」
「きゃあああっ!?」
後ろで爆音と悲鳴が聞こえてきたけど、大丈夫。優姫ちゃんは加減ができる人だから。……多分。
○
教室に入る。
不良の如く手にした鞄を肩に担ぐようにして歩く私へ、声をかけるクラスメイトはいない。
視線くらいは向けてくるものの、絡まれたら嫌だとでも思っているだろう。すぐ逸らしてしまう。
そんな分かり易く邪魔者扱いされている私が教室に入っても、教室の様子は変化しない。
みんな敬語で会話し、笑顔を浮かべて誰かと話している。
私以外の全員が笑顔のクラス。少し不気味だけど、うちのクラスは髪色が比較的地味だから助かる。これでカラーバリエーション豊かならば、私の精神が学園生活を拒絶していたところだろう。
「よっこいしょ」
おじさん臭い掛け声をもらしつつ、自分の席に着席。
私の席は窓際の最前列にある。はじめは目立つようで嫌だったけど、今はそうでもない。逆にこの席で助かったと思うくらいだ。
なにせ、黒板以外に何も目に入らないからね。
ここから見える光景は、数少ないかつての常識が存在する場所だ。
物騒な武器がなく、空を飛んだり炎を出したりする人間はいない。ただ緑色をした板があるだけだ。
若干寂しいけども、精神的疲労を蓄積されるよりはまともだろう。
「はぁ……癒やされる」
「楼ちゃん。おっはよう」
緑一色だった癒やしの空間に、白が入ってきた。
遠慮もなくフラッと現れたそれは、私へ笑いかける。
私よりはるかに小さな身長。短い真っ白な髪。顔にはいつも眩しい笑顔が浮かんでいる、可愛らしい少女だ。
不自然な笑顔が溢れる中、自然な笑みを作れている数少ない人物である。
名前は
「おはよう。今日も無駄に元気だね」
私も彼女のことはそれほど嫌いではない。
しかし朝のテンションで付き合うべき人間じゃないことをよく分かっていた。
だから追い返そうと冷たい台詞を口にする。
「おーうっ! あたしは無駄に元気だよ! 必要ない時も騒ぐよ!」
しかし効果はないみたいだった。両手を挙げてあはははと何故かテンションを高めて笑う。
うるさい。朝の彼女を表現するには、その一言で十分だ。
「皮肉なんだけどね……。で、何の用? 用がないならさっさと自分の席にお帰り」
「ひどい言い草だなぁ。そんなんだから友達いないんだぜ?」
うっさいわい。
私が突き出した拳を軽々と避け、紀理はニヒルに笑みを浮かべてみせる。
「楼に声をかけたのは、今日のことを相談しようと思って」
「今日のこと?」
言われて、思い返してみる。今日は何かあっただろうか。
……ふむ。分からん。
首を傾げる私。紀理は呆れた様子で肩を竦めた。
「ほら、あれだよ。ペアで戦うとかなんとか。今日の評価制の授業から始まるでしょ?」
「あ……あれね」
ようやく思い当たる記憶を引き出す。
評価制。現在国語や数学よりもメインとなっている授業である。
その目的は力や技術を制御し戦う術、生きる術を身につけようとすること。
基本的に個人の希望と能力により、やることを選択する自由な科目なのだが、特に何も希望がない生徒は戦闘をすることになっている。
『世界』が能力の使用を自由化し、武器の所持が認められた現在。
世の中は昔よりも物騒になった。故に戦闘はできて損なことではない。それに扱い方を知らない力ほど危険なものはないだろう。
だから授業で取り扱うのもそれなりーに納得できるのだが、実際に生徒同士が戦うのはどうなのかな。扱い方を知らない力が、全力で生徒にぶつかったら、死亡事故くらいは起きそうなものだが。
と、当初私は不安になっていたのだが、なんでも危険が迫ったら、教員が能力の無効果スイッチを押してくれるらしい。
言うなれば、教習所の教習車みたいなものだ。
そのブレーキのお陰で、大きな怪我人はこれまで出ていないらしいし、安全性も高いのだろう。
「忘れてたなんて……それじゃ、あたしなんていなくても、もうペアは見つかってるのかな? ん?」
「先生と組もうかな」
「あほー! あたしがいるっつってんだろー」
噴火するようにして、再び両手を突き上げて今度は怒りを露わにする。
紀理が嫌だからボケたのいうのに、分からないのかな、この子。
あまり強い人と行動して、評価を頂いたら困るのだ。私は一段階ずつ強くなって、ちょうどいい点数を見極めたいというのに。
「人を阿呆扱いする人とは組みません。ほら帰って」
「うう、後悔するぜ? あたしと組まないと輝かしい紀理ちゃんルートは開通しな」
と、紀理が言う途中で予鈴が鳴り響く。時間ぴったりに入室する中年の教員は、紀理を視線で促した。
「ちいっ。運が良かったな、だが休み時間がある限り、第二第三の私が現れるだろう……」
はよ帰れ。
大袈裟な台詞と、自前の効果音で去っていく紀理のけつを押し、私は溜息を吐く。
やっぱり朝は馬鹿の相手をするべきではない。精神力がごっそり持ってかれた。友達いないとか言われたし。
「では、ホームルームをはじめる」
教員が来ると異様なくらい静かになる教室。
男性教員の声を聞きながら、私は物思いにふける。
昔、『混沌』と呼ばれる時代があった。
三年前のことだ。
突如として現れた強大な能力に人々は大きな混乱を起こし、各国から大勢の犠牲者が出た。
それは平和な日本も同じこと。善人から犯罪者まで分け隔てなく与えられた能力は遠慮なく振るわれ、世界のあらゆる制度は崩壊当然となった。
その際に結成されたのが『
各国の優秀な人間が集結し、世界に平穏をもたらそうとした正義の組織である。
『世界』はその卓越した技術により、能力の制御法を半年で発見。一度全世界の能力を封じた。
そして混沌は半年という奇跡的に短い期間で治まったのだ。
それから半年後――混沌がはじまってから一年後のこと。
『世界』が新たな制度を施行した。それこそが――
『絶対評価制』。
評価を絶対とし、他者からの評価によって対象の能力を開放、封印していく制度である。
これによって、混沌前の秩序を取り戻していた世界は激変する。
能力が、評価が人生を左右し、人々は評価を得ようと積極的に外面を気にするようになった。
そうしてできあがったのが現在の世界。
退屈など存在しない、非日常的な日常だ。
『世界』が決めた制度は、この二年間で全ての国に定着した。
人間は全知全能に近づき、地球上で負けを知らない最強の生物になったのだ。
それは痛感しているのだが、私はどうにも嬉しくない。
「やくそく……」
私の知識、常識は時間が解決してくれる問題だと言う。
しかし一方で、ぼんやりとした記憶が語るのだ。それは大きな間違いなのだ――と。
○
そんなこんなで結局ペアを組もうと思う人間は見つからず、私は孤立していた。
校庭。今朝私が戦い、冬花という人物の血と肉が刻まれた場所(比喩)には大勢の生徒が集結している。
数にして約30人。ちょうどクラス一つ分くらいの人数である。
評価制の授業は二つのクラスが一緒になって行われるのだが、今回は体育館組と校庭組に分かれるため人数は少なめだ。
見慣れない顔もいる中。私は適当な場所に立ち、どうしようか考えていた。
無論、議題はペアのことである。
絶対評価制が施行された今、ペアにあぶれたなんて言ったら評価はガタ落ちだ。
私の開放されている唯一の能力『格闘』も封印されてしまうかもしれない。さらなる雑魚として君臨するのは火を見るより明らか……。
そうならないためにも、それなりーなレベルのペアを探すべきだ。
しかし不運なことに私は、評価制の授業をうっかり忘れてしまった。
行うべき準備を行わず、今ペアにあぶれている人間なんて問題児くらいしかいない。
そんな中で評価が必要以上に上がらず、かといって下がらない人物を探さねばならないのが難点である。
『……』
そう。
間違っても、こちらの様子を窺ってくる問題児とペアを組むようなことは避けねばならないのだ。
先程から私を見ている問題児は二人。
一人は分かると思うが、紀理である。私の何がいいのか、朝からずっとペアを組んでいないのだろう。困った私が最後には声をかけてくると思っているらしく、彼女は常に視界の中にいる。そして私をちらちら見てくる。
ずっと断ってるんだから、他の人を探せばいいのに。メンタルが強い奴である。
まぁ、嬉しいは嬉しい。私のような生意気な女を気にかけてくれるのだから。しかし私の目標のため、彼女と組むわけにはいかない。
よって、彼女のことは無視。気の毒だが、彼女は人気者。組んでくれる人なんて山ほどいるだろう。
問題はもう一人の方だ。
私を狙っているらしき二人の片方、それが……優姫だ。
いつも私を目の敵にしてくる彼女は何故だか今日は絡んでこず、遠目に私を見ている。
何故だろう。物凄く期待した顔で私を見ているのだ。何も言わずに。
怖い。
何か怒っているわけではないのだが、人間が無言で一点を見つめる姿は言い様のない威圧感がある。それが自分に向いているなら尚のこと。
触らぬ神に祟りなし。何か言って切られるのも嫌なので、紀理と同じく無視を決め込む。
さて。他に誰か組んでなさそうな人はいないかな――っと。
「あっ」
二人に気をとられている間に時間が経過していたのか、予鈴が鳴り響いた。
信じられない私の耳へ入る、無慈悲な通告。
授業まであと数分しか残されていない。その事実を痛いほど思い知らされる。
このままではペアにあぶれた可哀想な子だと、評判が下がることになってしまう。
焦る私。するとそこへ近づく人物が一人。
「楼。どうしたのですか、そんなに慌てて」
優姫である。彼女は顔を赤くし、棒読みの台詞で声をかけてくる。何故かとても恥ずかしそうだ。
いつも凛とした彼女のそんな様子を見ていると、少し可愛いと思ってしまう自分がいる。と同時に、何か企んでいるのではと疑ってしまう自分も否定できない。
彼女は宿敵。一方的に彼女が私を目の敵にしているのだが、その事実はこの一ヶ月で私の常識と化している。
そのせいで、彼女のしおらしい態度にも何かしらの黒さを感じてしまうのだった。
「なんでもないよ。気にしないで」
「そうですか? やたら不審でしたけど」
ファイティングポーズをとる私へ、再び棒読みな台詞を投げかける優姫。
落ち着きなく視線をあちこちに泳がせる彼女の方が間違いなく不審なのだが、そこは指摘しないでおこう。下手なこと言って怒られるのは勘弁だ。
「そ、そういえば、楼。あなたペアはいるのですか?」
——やはり私と組もうとしているのか。
不自然な流れで話題を切り出す優姫。多分、真面目な彼女のことだ。不真面目な私と組んで、監視してしまおうとかそんな感じのことを考えているに違いない。
ここは彼女のプライドを刺激して、回避することにしよう。
「なに? 私と組みたいのかな?」
強気に出て、にやけながら口にする。
その刹那、優姫の刀が私のすぐ前を通った。
それを『格闘』の補正で判断し、身動き一つとらずに見送る。傷つける気がない脅しだろう。当たらないと分かっているのだから、焦る必要もない。
「怒った?」
「う、うう、うるさいです! 馬鹿にして! 誰があなたと組みたいなんて!」
刀を払うように振り、優姫は叫ぶ。思惑は成功したらしく、プライドが高い優姫は見事に怒ってくれた。
これでペアを組みましょうなんて言うことはないはずだ。
馬鹿にするように笑いながら、内心ホッとする私。嫌われただろうけど、優姫が諦めてくれるなら安いものだ。あとは優姫が去ってから、すぐペアを見つければ万事解決!
……などと私は暢気に考えていたんだけど、いつまで経っても優姫は私の前から動かない。
抜いた刀を持って私を睨んでいたが、何故かまたしおらしい態度へと戻っていた。
どうしたというのだろうか。今日の彼女は様子がおかしい。さっきだって、いつもなら刀を思い切り当てにくるのに。峰打ちで。
まったく意味が分からない宿敵の行動に、私はすっかり参ってしまった。
「わ、私はただ、風紀を守るものとして、クラスメイトが孤立していないか気にしているだけです」
今度は少しまともなトーンで優姫が言った。
意外だった。単純にクラスメイトとして心配している。彼女はそう言ったのだ。
「はい? 何言ってんの?」
あまりにも有り得ない言葉だったので、私は耳を疑った。
彼女が私をクラスメイトとして認識しているなんて、初めて知ったのだ。こうした反応も自然だと思う。
訊き返す私へ、優姫は赤い顔を向けて言う。
「だから、心配しているんです。悪いですか?」
どうにも調子が狂う。さっさとどこかに行ってくれるといいのに。
私はどう言うべきか考え、頭の後ろを掻く。
少しくらい厳しめでも大丈夫かな。よし、そうしよう。
「いや。でもあんたのこと苦手だし、できれば来ないでほしいな」
私の知る彼女なら、こう言えば怒って帰っていく。冷たい気もするけど、私に突っかかってきたのは優姫だ。これくらい言っても不自然ではない。
「そう……ですか。すみません」
予想に反し、怒ったりはしなかった。
今にも泣き出しそうな顔をして優姫は俯き、とぼとぼと元の位置に戻っていく。見るからに落ち込んでいる彼女だが、私の台詞を聞いて驚くような様子は見せなかった。
分かっていたのだ。自分が嫌われるようなことをしたと。
その一瞬で物凄い罪悪感がわいてきた。これまで散々迷惑をかけられたにもかかわらず、だ。
謝ろう。そう思った時、私の横から小さな笑い声が聞こえた。
「あーあ。思い切り振っちゃったわね」
聞いたことがない声だった。
私は無意識にそちらへ顔を向ける。
見知らぬ少女がそこに立っていた。
つり目がちで勝気そうな印象の少女だ。私と同程度の身長で、身体のラインはモデルのようにスレンダー。金髪ツインテールと黒い二ーソックスが特徴的で、所謂ツンデレキャラっぽい容姿をしている。優姫ほどではないが、綺麗な子だ。
彼女は楽しそうに私へ笑みを向けている。
その表情には親しい友人をからかうような、近い距離間が感じられた。
「悲しんでるわよ? 彼女。面と向かって苦手なんて、中々言われることじゃないし」
「え……っと。君誰?」
この場にいるし、一年生なのは分かる。しかし彼女にかわかわれる覚えはなかった。
尋ねると、彼女はまたクスリと笑う。そして一言、
「妹」
さらりと告げた。
驚愕の真実。私の妹は同じ学校にいたのだ。
「――はあぁ!?」
一瞬の間を空け、意味を理解すると同時に叫ぶ。
有り得ない。記憶を失った私だけども、家族のことはよく分かっている。
私の身内は残らず死亡しているのだ。国が調査した結果だから間違いない。
そもそも私には妹という存在すらいなかった筈。一人娘だし。
つまりは――
「嘘じゃないわよ、姉さん」
思考を呼んでいるかのようなタイミングで少女は言う。
うろたえる私の反応を見て、少女が笑みを深めた。
からかっている。それは理解できた。けれども不思議なのは嘘を言っている気配がないことだ。彼女はそれが何年も前からの常識みたいな調子で、私の妹を名乗っている。
彼女の揺るぎない瞳で見つめられ、私は焦りの他にふと何かを感じた。
なんだろう。何かが間違っているような。
ほんの些細な引っ掛かり。忘却に消えた微かな記憶が、私の思考を遮る。
「君は」
「はーい。それじゃあ授業始めるぞー」
私はずっこけた。
前を見てみれば、いつの間にか女性の教師が校庭へ来ている。予鈴から数分後。時刻はちょうど授業開始くらいだろうか。
知らぬうちにタイムオーバーである。少女のせいで時間を気にすらしなかった。
「ね。姉さん一人?」
「一人だけど……なに?」
質問を返す私に、妹と名乗る人物はウインク。そしてこう提案してきた。
「私と一緒に組みましょ。大丈夫、私はほどほどな実力だから」
もし本当ならば願ってもみない申し出。だが――何故それを知っている?
私が尋ねるよりも早く、教師が号令を出し、整列することに。
「話は後で聞かせてもらうからね」
怒られぬよう私がこっそり言うと、彼女は笑顔のまま頷いた。
そうして、わけの分からないままに評価制の授業がはじまる。
約二名の鋭い視線を感じた気もするけど……勘違いだと思っておこう。
○
名前を呼ばれ、私は妹(仮)と校庭の中心へ向かった。
さながら軍隊のように立っている生徒の列から出て、教師からほどほどに離れた位置で制止する。
いよいよ順番が回ってきた。
私は嘆息。それから視線を上げ、対戦相手を見ておく。
校庭の真ん中に立つ教師、その向こうに一組のペアが立っている。斧を背負ったサイドテールの女の子と、ネコミミを生やした奇怪な少女だ。容姿的にそれほど強そうではない。
この世界の強者は得てして王道。一概には言えないけれども、あんな普通の見た目をした彼女らが強い筈はないのだ。
うん。対戦相手に不満はない。問題は……妹だ。
彼女は私の言う王道にあてはまる人物である。容姿だけでもファンは多そうだ。
とてもほどほどな実力には見えないんだけど、まぁなるようになるか。
評価が上がれば、また下げるのみ。時間を消費するけど、それで済むなら安いものだ。
私が暢気な思考に落ち着くと、戦いの準備が整ったことを確認した教師が手を挙げる。
「はいはい、じゃあとりあえず挨拶しようか」
軽い口調である。
学校指定のジャージを着用している彼女は、確か
体育を教えていた教師だが、絶対評価制が施行されてからは評価制の授業も兼任している校内『最強』の一角だ。
気さくで親しみやすい性格、卓越した身体能力、大人の魅力あふるる容姿……その全てが高評価を獲得しており、彼女の能力の数は計り知れない。
『素』で高評価を得ている珍しい人間だ。
彼女は適当に後ろで縛った長い黒髪を揺らし、右、左と向かい合ったペアの方を向いて挨拶を促す。
『よろしくお願いします』
二つのペアは大体同じタイミングで頭を下げた。
戦いといえど学校の授業。やはりそこにはスポーツマンシップじみた精神が存在するのだ。
丁寧に礼をする三人、生意気な新入社員のように、おねがいしゃーすと頭を下げる私を見て佐藤教諭は満足そうに頷いた。
「よーし、それじゃあ殺す覚悟で頑張って」
スポーツマンシップは礼からたった数秒で消し飛んだ。
向かい側にいる生徒が斧、短剣を取り出し、殺意を露わにする。
始まった。私は身構えると、隣の妹はどうしているのか確認してみた。
敵が物騒なものを持っているにも係わらず、彼女は悠然としていた。武器の類いは持っていない。前髪を手でかきあげ、ツインテールを揺らし、とても余裕な態度だ。
「始まったよ?」
堪らず声をかけると、彼女は頷いた。
「ええ、知ってるわ。姉さん前に出てくれる? 私前衛は苦手なのよね」
「別にいいけど……戦ってよね?」
「当然。姉さんを負けさせるわけにはいかないし」
渋々前に出る私。
格闘しか戦う手段がないし、前に出るのは当たり前なんだけど……なんか不安だ。妹が余裕だから余計に。
「さて……」
軽くその場でステップ。
前を見れば、対戦相手のペアは二人揃ってこちらへ突っ込んできていた。
魔法の類いは使わないらしい。有り難いことだ。
前衛の私がするべきことは二人を妹へ近寄らせないこと。ここは私も突っ込んでおくことにしよう。思考し、私は走り出す。ほどなくして、斧が届く範囲に入った。
サイドテールの女の子が巨大な斧を振りかぶる。柄を抱えるように持ち、刃を内側に向けて左へ。
左から右への斬撃。素早い動きだが、容易に予想できた。
身を低くし、サイドテールの前へ大きく一歩進む。
私の頭上を斧が通過し、鈍重な風を切る音を響かせる。あと一歩進めば拳が届く距離。斧は振り切られ、次の攻撃がやってくる気配はない。
隙だらけだ。続いて一歩踏み出すと、私は体勢を低くしたまま足払いを仕掛けた。
『格闘』能力の補正がかかり、つたない蹴りは鋭く、目に見えないほどの速度となる。くらえば、防御系の能力を持っていたとしても、転倒は免れまい。
蹴りが命中する。思惑通り転倒した彼女は斧を落とし、派手に尻餅をつく。そこを突こうとして――私は横へ飛んだ。
「なっ!?」
驚いたらしいネコミミの声が聞こえる。
相手は気づいていないようだが、攻撃しようと踏み切ると派手に砂利を擦る音がするのだ。あとはタイミングを合わせて回避行動を起こせばいい。
私が彼女の攻撃を見もせずにかわせたのは必然と言えるだろう。
間抜けな顔をしたネコミミへ、私は素早く体勢を直し、拳を突き出した。
避けられる道理はない。肩に当たり、ネコミミは猫らしい鳴き声を上げて転がっていった。
うまくいっている。意気揚々と私は、近くのサイドテールへとどめを刺そうと振り向く。しかしそこに彼女はいなかった。
――背後。
濃密な殺気を感じ、私は振り向こうとする。だがそれよりも早く、耳を塞ぎたくなるような大きい音がさく裂した。
「うっわ!?」
爆弾のような衝撃。何の用意もできていない私は、後ろを向きかけたまま爆風に吹っ飛ばされる。
が、痛くはない。地面を転がって、僅かな擦り傷ができるくらいだ。
私が対象ではないのか、はたまたそういった効果なのか。どちらにせよ理解不能だった。何故有利な状況で私を逃がすようなことをしたのか。
数メートル進み、転がる勢いが減衰する。文句を言いながら立ち上がると、先程背を向けていた場所には小さいクレーターのようなものができていた。
その中心には、斧を傍らに倒れるサイドテール。何をされたのやら、制服に焦げ跡をつけ、目を回していた。
どうやら攻撃をしたのは私の仲間らしい。
「姉さん大丈夫?」
抗議の視線を送ると、実行犯らしい妹は胸を張りつつ悪びれなく尋ねてきた。
髪をかきあげ、どうだと言わんばかりに得意げな顔をしている。
なるほど。前衛が苦手だと言っていたのはこのせいか。
妹はおそらく魔法を中心に使うタイプなのだろう。詠唱を要し、隙が大きな魔法は、敵と向かい合って使うこに適さない。威力の高さはあるものの、かなりリスキーだ。
それならば後衛をすること、サイドテールがいいタイミングでやられたことも納得できる。
正直言うと、制服が汚れてしまうから私を巻き込むのは止めてほしかったけど……怪我を負ってしまうのはもっと嫌なので黙っておく。
「おおう。これは圧勝だね」
二人とも戦闘不能となり、サイドテールとネコミミの具合を見た佐藤教諭が暢気な声を出した。彼女らに大した怪我はないようで、先生はとてものんびりしている。
流石は化け物。魔法による爆発をくらっても、熊を殺すような拳を受けても無事だとは。
絶対評価制、能力が出て、普段の基本的なステータスも格段に上がったというけど、こうして頑丈さを見せつけられると痛感する。きっと私が斧で背後から切られても、重症くらいで済むのだろう。
全然被害が軽くなった気はしないけど、即死レベルになるよりはマシだと思う。
「意外だよ。楼は能力一つなのによくやるね」
「あはは……運がいいんですよ、多分」
苦笑して返答。
私は教師に問題児――否、変わり者として認識されており、それなりに有名だ。
まぁ、生意気な態度で、能力が『格闘』一つだったら嫌でも記憶に残る。
「おや、珍しく謙虚だね。いつもなら当たり前だ、くらい言うのに」
佐藤教諭が目を丸くさせる。常識的な返事に驚いたのだろう。
あ、まずい。忘れてた。低評価の為にも生意気キャラは維持しておきたいのに。
私は慌てて話を逸らそうとする。
「次の対戦にいかなくていいんですか?」
「おお、そうだね。時間も押してるしさっさとやろうか。ご苦労様、四人とも」
思い出したように手を叩く佐藤教諭。
それに従って、よろよろと立ちあがったネコミミとサイドテールが元いた列まで帰っていく。横に並んで歩き、互いを励まし合っているようだ。
私達を恨んでいる様子はなく、ただ負けたことを悔しがっている。中々できないことである。結構いい人なのかもしれない。
彼女らの後ろを歩きつつ私は思った。
「姉さん強いのね。能力は一つだって聞いてたのに、楽々二人を相手にして」
列に戻ると、妹が感心した口ぶりで言った。
能力一つで複数人を相手にする。その異常性は私もよく分かっている。だが、今回は本当に運が良かっただけなのだ。
魔法を使う敵が出てきたら、私の負けは確定する。
じゃんけんみたいなものだ。今回はたまたまこちらの握りこぶしにチョキが出てきてくれただけ。
「当然。私は能力が少なくてもやっていける」
と思うのだが、キャラを持続させるためにも大きく出ておく。
妹はふーんと興味なさげにつれないリアクションを返す。自分から言っといてなんだ、その態度は。
私は嘆息をもらし、前へ視線を向けた。
ちょうど次の戦いが始まる頃だった。一組は特徴のないモブの方々。
それに対する相手は――紀理、優姫の最強なんじゃないかと思えるペアだった。
余りものには福がある、なんてレベルじゃない。理不尽だ。勝負にもならないだろう。
すっかり怯えて青くなるモブさん達の近くで、リモコン型をした無効化のスイッチに指をかけている、真顔の佐藤教諭が印象的だった。
最早処刑である。一度優姫に叩きのめされた私としては、痛いほど同情できた。
「あれはどうなるかしら。姉さんみたいに差を覆せるなら面白いんだけど」
完全に他人事な立場にいる妹は、にやけながら呟く。
私も他人事ならば存分に楽しめただろう。校内屈指の強者が組み、弱小ペアを捻り潰すのだ。しばらく話題に困ることはない。
しかし私は今回、他人ではなかった。
これから起こるであろう惨状に、五割くらいの原因を背負っているのではないだろうか。
二人はとても不機嫌なのである。見て分かるくらいに。
多分、私が二人の誘いを断って他クラスの女生徒と仲良くしていたからだろう。
まぁ優姫は誘うようなことを言ってなかったし、妹とはそれほど仲良くないのだけど……怒るのも自然なことだと思う。
頬に汗を流す私。そうこうしている間に四人は礼をし、戦いが始まろうとしていた。
「できるだけ即死はやめようね。先生もタイミングを見失うことはあるから」
さっきと言っていることが露骨に変化している佐藤教諭であった。
「大丈夫ですよ、先生」
刀を鞘から抜くと、小さく、だがよく通る声で優姫が言う。
俯いていて顔は見えない。けれどもその姿は見る者を圧倒させる迫力があった。
「――うん、そうだね」
同意する声が彼女の横から上がる。
紀理である。二丁の銃を構えた彼女は、いつものように笑顔を浮かべている。ただ、今彼女の表情に浮かぶ笑みはとても不自然で歪だった。
二人ともラスボスだとか、数百人殺していると言われても納得できるほどの風格だ。
彼女らは揃って敵であるモブの二人へ武器を向け、ニコリと笑う。
「殺しはしません」
「殺さないから」
嗚呼、これはまずい。
直観的に私が思った瞬間、凄まじい音とともに怒りを込めた絶叫が聞こえてきた。
「なんで私の心遣いが無下にされて、見知らぬ人が優遇されるんですかああぁっ!」
「親友なのに楼のバカヤロー!」
……直接私に攻撃がこなくてよかった。
まさに一瞬と呼ぶべき短時間で地面に倒れたモブ達を見て、私は関係者として思うのだった。