絶対評価制!   作:珊瑚

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六章

 三年前。全てが混沌と化し、世界が大きな混乱に包まれた時代。

 彼女は両親に言われ、家から出ることを禁じられていた。

 外の世界がどの程度危険なのか分からない。しかしそれは正しい判断だと、幼いながら彼女は思った。

 世界は明らかに自分の知らない姿へと変貌を遂げていた。

 窓から見える外の景色は昼なのに薄暗く、人がいないように静か。

 大きな住宅街だった面影は感じられない。あちこちの住宅は瓦礫と姿を変えており、家のある自分はまだ恵まれている環境にいるのだと思った。

 だから、退屈でも寂しくても彼女は一人で文句も言わずに家で大人しくしていた。

 住宅を壊すほどの何かがこの世界には現れたのだ。そう思うと、外に出る気は沸かなかった。

 

『戦う意味ができた』

 

 ある日、母と帰宅した父親は食糧を手に、そんなことを嬉しそうに言った。

 戦う意味。果たしてそれは何なのだろうか。父親は何と戦っているのだろうか。

 分からないことは多かったが、彼女は単純に二人が嬉しそうにしていることを喜んだ。

 混沌が訪れて一ヶ月。彼らの表情は暗いことが多く、今日のように笑顔を浮かべることは珍しかった。

 だから彼女は心から「おめでとう」と言い、彼らに負けないくらい明るく笑った。

 

 翌日。彼女は初めて外に出た。

 最低限の荷物をまとめ、住み慣れた自宅を出ていく。やることを見つけた両親は、仲間が集う本拠地へ移動するらしかった。滞在する期間は不明で、安全も確保されていることから小さな彼女も連れて行くことになったようだ。

 久しぶりに出た外は、やはり自分の知る世界とは違った。

 空気が冷たく、異様な臭いがし、ピリピリと本能に危険を告げる何かがあちこちから感じられる。

 両親がいなければきっと、まともに外を歩けていないだろうと思うくらいだった。

 移動の間、両親は度々彼女の目を塞いだ。そのわけは分からないものの、護られていると彼女は思った。時々遅れて肌色と赤色が見えたような気もしたが――彼女は気にしなかった。

 気にしてはならない気がしたのだ。

 

 しばらく歩くと『ワープホール』と呼ばれるものに乗り、彼女は目的地に到着した。

 そこは老若男女様々な人がおり、活気がある場所だった。街とは違い危険を感じず、変な臭いがしたりもしない。白い壁の体育館のような広い空間が広がっていた。

 彼女は驚いた。見知らぬ場所へワープする得体の知れないものに。そして、この場所に。

 街があんな状態になっているにも関わらず人々は明るく、希望に満ちている。両親が明るくなったのもここの人のおかげなのだと思った。

 

『ここが私達の新しい家だよ。名前は――』

 

 父親の言葉に彼女は笑った。

 ここなら、退屈も寂しい思いもせずに済む。素直にそう思えた。

 

『――組織だ』

 

 これから起こることも知らずに。

 

 

 

 ○

 

 

 

 放課後。

 昼休みに届いたメールの通り、私は妹の教室へと向かった。

 依然として制服は数カ所破けており、血の跡もある。

 当然生徒達の視線を少し感じるも、凝視されている様子はない。

 また楼か、みたいな台詞が聞こえてくるようだった。私がぼろぼろで歩いていても、然程心配されないだろう。紀理とか先生は全然気にもしなかったし。

 自嘲しつつ、妹の教室を覗く。今日はぴったりホームルームが終わる時間に来れたようで、教室から出ようとしていた隣の担任教師にぶつかりそうになる。

 私はむすっとした表情で頭を下げ、再度教室の中を見た。

 

「姉さん」

 

「なあぁ!?」

 

 後ろから声がかかり、飛び跳ねる。振り向いてみるとそこには妹が。鞄を片手にニコニコと楽しそうに笑っている。

 

「お、驚いた……やめてよ、びっくりするから」

 

「いいじゃない。ちょっとしたお茶目よ」

 

 ウインクする妹。反省する気はないらしい。

 呆れる私に背を向け、彼女は歩き出した。方向はもう一つの教室――村上のクラスだ。

 

「姉さんが話をしなさい。私よりはそっちの方が確かな筈よ」

 

「ん、分かってるよ。村上の目的は私だしね」

 

 一時だが仲間になるなんて言えば、営業マンの村上は歓喜しそうだ。

 そのまま『優等生』に加入、なんてことになりそうで怖いけども、リスクを恐れていてはなにも進まない。それになんだかんだ言っても、村上は分かってくれると思うのだ。私の脳内妄想だけども。

 

「本当に分かってるんだか……」

 

 小さく呆れた調子で言う妹。表情は見えないが、彼女は肩を竦めてみせる。

 

「分かってるって。任せてよ、私が仲間に入り込んでみせるから」

 

「私達の目的じゃなくて、村上の目的よ」

 

「村上の? 私を『優等生』に入れること? あ、賛成者を止めることか」

 

「これは分かってないわね」

 

 妹がなにを言いたいのか分からなくなってきた。どうやら私の考えは間違えているみたいだけど、どういうことだろうか。

 まさか村上はおそろしい目的を他に持っているとか……。

 賛成者と反対者の争い。そして相手は部長。そこから予想できるのは――

 

「ま、まさか村上は『優等生』を乗っ取ろうと!?」

 

「バカ」

 

 ええ、バカですとも!

 

「その話はもういいわ。とにかく、姉さんにかかってるんだから頑張りなさい」

 

 私にも聞こえそうな音量で嘆息する妹。

 きっと、人に頑張れなんて言う顔をしていない筈だ。

 

「分かったよ。頑張るから、サポートお願いね」

 

 いちいち指摘していても仕方ないだろう。私は頷いて、脳内で台本を作成しておく。

 『教育』のことを知ってしまったし、放っておくわけにもいかない。私達も仲間にしてくれ……と言うのはどうだろうか。妹がいるのは説明できないが、偶然聞いたとか言っておけばいいだろう。

 よし。これであとは即興だ。私の巧みな話術を発揮させるときがきたようだ。ふふふ。

 ……ものすごく不安しかないけど、大丈夫だと思っておこう。緊張は会話の妨げになりかねない。

 村上への質問以前に『教育』について知っていた、とか色々理論の穴はあるのだが、開き直りの心境で、私は隣の教室のドアの前へ。

 幸い、まだホームルームが終わっていないようで、席に座る生徒達が見えた。

 やはり皆真面目に担任らしき男性の話を聞いており、微動だにしない光景はジオラマを思わせる。気味が悪いというか、なんというか。

 村上も彼らの中に混じって話を聞いていた。姿勢がよく、いつもの笑顔ではないキリッとした顔は、大変癪だがかっこいい。

 いつもああで、あの性格じゃなかったら――ん?

 

「気づいたみたいね」

 

 隣にいる妹の声に頷く。

 担任に目を向けていた彼は、私達に気づいたようで視線をこちらに向け、ごきげんようと言うお嬢様のように手をひらひらと振った。そして担任に注意されてしょんぼりしていた。

 

「あれが幹部? すごく馬鹿っぽいんだけど」

 

 全面的に同意である。

 やがてホームルームは終了し、村上がこちらへやって来た。

 勿論、きちんとその前に取り巻きの女の子に挨拶をしてからだ。今日は妹もいるからか、取り巻きのダメージは少なそうだった。

 

「こんばんは。何か御用ですか?」

 

「うん、ちょっと話が。今日も時間いいかな」

 

「勿論です。さぁ、行きましょう」

 

「馬鹿ね。あいたっ」

 

 笑顔で何も考えずに即答する村上に、妹が思ったことをそのまま口にした。そんな彼女の頭へチョップを叩き込む。

 

「これから話をするのに不利になるようなことは言わないで」

 

「はいはい。分かってるわよ」

 

 本当に分かってるんだか。私は嘆息。

 村上は馬鹿などと言うだけでは怒ったりしないだろう。けど、悪口は控えるべきだ。妹が暴言を口にしないよう目を光らせておかないと。

 心に決め、歩き出した村上の後ろへ続く。

 今日も昨日と同じ会議室に向かっているようで、彼は近くの階段を上がっていく。

 

「そういえば、『優等生』の集まりはないの? 昨日も今日も話をすることになっちゃうけど」

 

 私はふと気になり、彼の背中へ問いかける。

 村上は肩越しにこちらへ顔を向け、爽やかな笑顔を浮かべた。

 

「ありますね。けどサボることになります」

 

「サボ……いいの?」

 

「はい。恐らく行っても今後の活動計画を話し合うくらいでしょう」

 

 対立を知らぬ部員達の話し合い。そんなものに参加している場合ではない……そういう意味だろうか。

 いや、そもそも『優等生』がそれを望んでいないのかもしれない。

 なんであれ組織内で争っているのは醜く見えるものだ。もし争いが部全体に広がり、校内にそのことが知れ渡れば、イメージダウンから逃れられなくなる。

 それを避けるために部員には普段通りの集まりを続けさせる……有り得なくはない。

 

「それよりも楼さんです。なにやら今日は調査とも違うみたいですし」

 

 階段を上がるとやはり昨日の会議室に入り、私達は席に座る。

 私の隣に妹が増えただけで、特に新鮮味はない。むしろ一日も経過していないのではないかと思えてしまうほど、私の視界に映るものは変化がなかった。

 

「……うん。実は今日は頼みごとがあるんだ」

 

 私は努めて真面目な顔をすると静かに言った。

 村上が微笑む。

 

「なんですか? お付き合いなら喜んでお受けしましょう」

 

「ふざけんじゃないわたぁ!?」

 

 真顔で暴言を吐いた妹にチョップをかます。

 妹が涙目になりながら睨んでくるが――知らんぷりだ。

 冗談だろうに、なんでこう過剰反応するんだか。

 

「私が村上に妹同伴で告白するわけないでしょ。仲間に入れてほしいの」

 

「仲間、ですか?」

 

 少ししょんぼりした様子で村上が首を捻る。

 

「うん。『教育』は決して許してはいけないことだと思うの。だから私と妹はそれを止めるために戦いたい」

 

「有り難く思い゛っ!?」

 

 三度目の体罰を打ちこみつつ、お願いする。

 頭を下げながら人の頭を叩くという、よく分からない姿を晒してしまったが、果たして彼はどんな返事をするのだろうか。

 

「いいですよ」

 

 即答だった。

 あまりの即決ぶりに妹ではないが、私も思わず馬鹿かと言いたくなった。

 

「はい? い、いいの? だってほら、私達賛成側のスパイかもしれないよ?」

 

「スパイなんですか?」

 

「いや、違うけども」

 

 ならいいじゃないですか、と村上は笑う。

 ええと……私間違ってないよね? 即決するような話じゃないよね?

 『面接で世間話しかしなかった』と語る友人が微妙な表情をしていた理由が、今なら分かる気がする。なんだこの複雑な気持ちは。色々脳内で準備してきたのに、そんな簡単なことで終わりかい。

 

「妹……ごめん。この人には暴言言っても仕方ないかもしれない」

 

「分かってくれればいいのよ、姉さん」

 

 首を傾げる村上の前で、私達は頷き合った。

 村上は少しくらい馬鹿や暢気などと言われた方がいいかもしれない。彼の将来のためにも。

 

「……じゃあ早速行きます?」

 

 私達の台詞の意味を理解していないようで、彼は笑顔のまま立ち上がると何気なく言う。

 二次会行きます? みたいなノリだが、どこに行こうと言うのか。急に立った彼を見上げると、村上はこう続けた。

 

「反対者の集会です」

 

 この人は本当に状況を理解しているのだろうか。

 危機感を抱いていない彼の様子に、私は少なからず不安を覚えた。

 

 

 

 ○

 

 

 

 村上が向かったのは校舎の一階にある一室。

 プレートがかけられていない部屋のドアを開き、村上は躊躇うことなくその中へ入っていった。

 彼の後ろを歩き、私と妹も入室する。

 暗い部屋だった。カーテンを閉め切り、照明の類いは一切点けていない。唯一点いているのが……何故だろう、キャンプで使うようなランプだった。

 部屋のドアを閉め、私は部屋にいる人物を眺める。

 男二人と女性二人。ランプが置かれた大きな丸テーブルの周囲に座っており、どれも真面目そうな顔をしている。村上のようなふざけた雰囲気は感じない。

 それはいいのだが……私は思わず帰りたくなる。

 部屋にいる女性二人の内一人が、あいつなのだ。

 

「ろ、楼さん!?」

 

 扇だ。

 彼女は突然村上と入って来た私を見て驚き、なにやら複雑な表情をしている。

 一応私の無事を喜んでくれているのだろうか。それとも、憧れの村上と私がまた一緒にいるのが気にくわないのか。その心情は表情から読み取れない。

 実力はそれほどではない筈なのだが、こいつも『優等生』の幹部だったのか。知らなかった。

 そういえば村上は昨日、扇を見た後、誰だとは問わず、私に知り合いなのかと尋ねてきた。あの時は気づかなかったが、村上と彼女は知り合いだったらしい。

 

「こんばんは」

 

「姉さん、知り合い?」

 

 ひとまず挨拶を返すと、妹が横から顔を出してくる。その顔は何故か不機嫌そうだ。

 

「うん、知り合いだけど……なんで怒ってるの?」

 

「嫉妬」

 

 意味分からん。

 ムスッとした顔で一言だけ返してくる妹をスルーし、私は村上へ視線を向ける。

 なんだか室内の空気が重く、話していた雰囲気もないのでやり辛いことこの上ない。この中で妹と漫才ができる筈がないのだ。

 

「遅れてすみません。今日は新しい仲間が入ってくれるようです」

 

 村上が頷き、室内の幹部らへ説明をする。

 全員がそちらを見て、続けて私と妹へ顔を向けた。

 当然のことだけど、そのどれもが不審なものを見る目をしている。

 まぁ、内密となっている組織の問題に、部外者が協力するなんて言えば、不審がられるよね。

 

「彼女達は?」

 

 自己紹介するべきか否か。私が迷っていると、四人の一人が手を挙げた。

 眼鏡をかけた頭が良さそうな男である。幹部なのだから評価はそれなりなのだろうが、容姿はそれほどよくない。一見すると平凡な男子学生だ。

 他に眼鏡をかけている人物もいないので、彼を眼鏡と心の中で呼ぶことに決める。

 

「一年のむ、武蔵 楼です」

 

「その妹よ」

 

 若干どもる私と、簡潔な名称を口にする妹。

 きっと彼は名前を聞いてはいない。そうは分かっているのだが、名前を言うくらいしか選択肢はなかった。

 村上は馬鹿だから通過できた。でも、彼らはそう簡単にいかないだろう。

 ああもう、なんで考えておかなかったんだろう。移動の間とか時間はあったのに。

 早く何か理由を用意しないと。

 

「実は僕が彼女達にお願いしたんです。協力してほしい、と」

 

 村上は何をとち狂ったのか私達に助け舟を出した。

 手を軽く挙げ、笑顔でさらっと嘘を言ってみせる。

 こいつは何を言っているんだ。私達を助けて得があるのだろうか。

 疑問しか沸かないけど、ここは乗るしかない。私が考えた理由よりもはるかに筋が通ってそうだ。

 

「皆さん、戦力がほしいところですよね? それも『優等生』に属していない、少数派の仲間を」

 

 村上が言葉を続ける。

 『優等生』は現在、秘密裏に内部での争いをしている。それを『優等生』の構成員に知られず、尚且つ外部に漏らさぬよう協力者を得るには、私達のような『優等生』に係わっていない問題児に声をかけるのがベストだろう。

 勿論、『優等生』の構成員に協力を仰ぐのも、場合によってはいいだろう。

 しかし、こちらに部長はいない、というのが厄介だ。

 組織において一番上に立つ者の力は絶対と言ってもいい。そうしなければ組織は崩壊するし、そもそも組織の必要性がなくなる。

 事情を話し協力を求めたが、その人物が賛成者側に回る。

 そういったことが起こる可能性は高いと考えられる。

 

「だが何故、優姫や紀理などの実力者を呼ばなかった?」

 

 眼鏡ではない、もう一人の男子学生が尋ねる。

 小太りの男性だ。真面目になんで幹部やっているのかと思ってしまうくらい、外見はよくない。しかし不思議な覇気のようなものを感じる。

 流石は幹部、といったところか。個性が強い。

 

「あの二人は二人で可愛いが、彼女らは可愛いだけでなく強い。相当な戦力になってくれそうだが。会話したいとかそんなじゃないぞ」

 

 ……流石、個性が強い。

 

「確かに優姫さんは強いです。正義感も強いから、積極的に協力してくれるでしょう。けれど、彼女では駄目です」

 

 小太りの言葉にツッコミ一つ入れず、真面目に返答する村上。

 何故、と。四人の中で最後に口を開いたのは、目が隠れてしまいそうなほど前髪が長い女子学生。小さく消えそうなボリュームで疑問を投げかけると、首を傾げる。背が小さく、縮こまっている姿はなんだか小動物的な雰囲気を漂わせていた。ちょっと可愛い。

 私も彼女の問いに関しては気になった。

 私達よりも優姫の方が役立ちそうなのに、なんで村上は即答したんだろう? それを説明できる言い訳はあるんだろうか。

 小動物の問いを受け、村上は頷く。

 疑問が沸く。

 それが当然だと言わんばかりに、余裕のある対応だ。

 我々はなにか見落としているのだろうか。この場にいた者は全員考えたことだろう。

 そう。村上を除いては。

 不可解な理論、そして村上の態度に場の空気が微かに緊迫する。

 まるで探偵が犯人のトリックを説明する場面みたいだ。私は緊張から唾を呑みこむ。

 彼は笑顔を顔から消し、目を鋭くさせると、こう答えた。

 

「優姫さんは『優等生』そのものを壊滅させかねないですから」

 

『あー……』

 

 物凄く納得だ。

 悪即斬な彼女が悪いことを企んだ部長――『優等生』そのものを許すのは考えられない。話を聞いたらすぐにでも暴走しそうだ。

 みんなの認識も大体そんなものなのだろう。室内の人間が全員で頷き合う。

 

「というわけで、彼女は最終手段です。紀理さんは話自体に乗ってくれそうもないので、見送りました」

 

「なるほどな……それで、確実そうに反対してくれそうな人物を選んだわけだ」

 

 眼鏡が真面目な顔で言う。

 

「はい。それに今は強行策の噂こそ出ていますが、僕らのスタンスはあくまでも平和的解決を目指すことです。あちらに優姫さんを仲間に入れたと知られれば警戒されるでしょうし、あまりいい作戦とも言えません」

 

 ふむふむ。私達を仲間にしたことが、それほど悪くない作戦に聞こえてきたぞ。

 問題は大した戦力にもならないことだけど。

 

「よし、分かった。彼女達の助太刀を認めよう。これからよろしく」

 

「よろしく――」

 

「よろしくお願いします。で。はいっ、ちょっと質問!」

 

 小太りが言うや否や、妹が私の台詞を遮って手を挙げる。

 私含め驚く人物はいたものの、それを制止する声は上がらない。それをイェスに受け取った妹は一歩前に出た。

 

「平和的な解決って言ってたけど、これから何をするつもりなのかしら?」

 

 私はハッとする。つい聞き逃していた。

 組織としては、戦いで決めることが最善だと結論を出していた。それが最も分かり易いから……という理由だが、私自身この作戦は無理があるのではと思っている。

 だって、『優等生』の部長とその賛成者と戦うなんて……あれ?

 何かおかしい。私はなにか勘違いしているのではないのだろうか。

 急にそんな疑問が頭を襲う。気のせい――なのかな。そもそもの認識が間違っているような。

 

「話し合いです。正直、私達の戦力は大きいとは言えませんし」

 

 村上が苦笑を浮かべる。

 彼自身はかなり強いのだが、強者が一人いても、向こうにそれが大勢いれば勝ち目がない。

 きっと扇レベルが多いのだろう。私相手に遊ぶことはできても瞬殺はできない、くらいの実力だ。

 

「参考までに聞くけど、大まかに持ってる能力言ってくれる?」

 

 仲間に入ったから遠慮する必要はない、とか思ったのだろう。妹が腕を組みながら偉そうに尋ねる。

 

「我は勉強、その他ボランティア系の能力だ」

 

「私は通信、パソコン、漫画や魔法を少々」

 

 眼鏡、小太りが答える。見た目通りな能力だった。

 

「読書と小説、それと映画評論」

 

「私は魔法とピアノを少々」

 

 続いて、小動物と扇。

 ――なるほど。『優等生』において強さ以外の点も大きく判断に考慮されるらしい。幹部といっても強いというわけでもないようだ。四人の答えだけ聞くと趣味の発表みたいなことになっている。

 これなら、戦いという手段をとらないのも納得である。

 

「なるほどね……よく分かったわ」

 

 元々『戦う』選択肢を渋っていた妹は、それで簡単に引き下がった。

 賛成者の戦力を当てにしていたところもあるし、戦うのは無理だと悟ったのだろう。

 私も話し合いに文句はない。けど、問題なのは。

 

「話し合いできるの? 部長の顔とか名前すら分からないでしょ」

 

 私が問うと、妹以外の全員が小さく唸った。どうやら話し合いの明確な計画はないらしい。

 入室した際の重苦しい空気はこれが原因か……。もっとオブラートに包んで尋ねれば良かった。

 

「そうですね。反対者の方に話をしているんですけど、部長はまったく話しに出てこなくて」

 

 村上は苦笑を浮かべたまま申し訳なさそうに話す。

 なんでも、何度か話しを聞いてはくれるのだが、部長自身が話し合いに出てくることがなく、肝心な話は全然できていないらしい。

 村上の説明に妹が舌打ちする。物凄く態度が悪い。

 

「それで引き下がるから駄目なのよ。副部長はどうなの?」

 

「副部長は……実はどちらにもついていなんです」

 

 意外、とも言えないか。

 少し驚いたけど、そんな人がいてもおかしくはない。仲間内での争いなんて面倒だし。

 

「どっちにもついてない? 放置ってこと?」

 

「そうですね」

 

「賛成者ほどじゃないけど、馬鹿な人もいたものね。その人の名前は?」

 

 さっぱりした性格の彼女は、どっちつかずが嫌いなのだろう。見るからに機嫌を悪くし、村上へ訊く。

 副部長の名前か。それは気になる。もしかしたら仲間になってくれるかもしれないし、聞いておいて損はないだろう。

 村上は少々迷った様子を見せるが、やがて口を開いた。

 

「松原 夢深です」

 

 夢深。聞いたことがある名前だ。

 確か眼鏡をかけた地味な女の子――

 

『えええぇぇ!?』

 

 私と妹は絶叫した。

 まさかここで彼女の名前が出てくるなんて夢にも思ってなかった。

 いや、というかいじめみたいなことをされている人が副部長なんて思いもしないだろう。

 

「な、なんでそんな……ええっ!? 嘘でしょ!?」

 

「お、落ち着こう、妹。予想外なことが起きるのは流れ的に当然のことで、決して予想外でない筈。うん」

 

「いや意味分かんないわ」

 

 そこで冷静に返してくるか。

 私も混乱で反射的におかしなことを言っちゃったんだけど、少しくらい乗ってくれても。

 私達は二人揃って深呼吸。静かに大きく呼吸し、気分を落ち着かせようとする。

 ……うん。ちょっとは落ち着いたかな。

 

「夢深だね。分かった。もう驚かないよ」

 

「そうね。私達もう高校生だもの」

 

 今度はやたら爽やかな感じで頷き合う私達。

 賛成者の皆様方が暖かい目をしているのがとても気になりました。

 それにしても夢深が副部長ね……『びっくりした!』以外なんとも言えない。

 なんでそんな重要な位置にいる人があんなことをされていたのだろう。

 落ち着いてくると混乱と入れ替わりに、様々な疑問が浮上してきた。

 

「……ん?」

 

 不意に聞こえたドアがノックされる音に、私は後ろを振り向く。

 来訪者だろうか。もしかしたら、ついに部長が話し合いをする気になったのかも。そんな期待を抱き、私は賛成者のみんなの方を向く。

 開けてくれ、と全員が目配せしてくる。

 そういえば私はもう仲間なのだ。となればここはマイホームだと言っても過言ではない。

 確認する必要もなかった。

 苦笑し、私はドアを開いた。

 ドアの前にいたのは坊主頭の男性。彼は息を切らせ、なにやら必至な顔をしている。

 

「あなたは? すみません、失礼します!」

 

 一瞬見覚えのない顔がいたからか目を見張るも、彼はすぐ中へと入っていく。

 村上達が何も言わないところを見ると、彼もまた仲間のようだ。

 緊急の用事みたいなので、それを見送り、ドアを一応閉めておく。

 

「何があったんですか?」

 

 坊主頭の緊迫した雰囲気は誰が見ても分かる。

 村上は表情を引き締め、簡潔に尋ねる。坊主頭は今にも倒れそうなほど苦しそうにしながら、絞り出すように言った。

 

「夢深さんが……攫われました」

 

 まさか驚かないと誓ってから一分もしないうちに驚かされるなんて、思ってもみなかった。

 

 

 

 

 

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