絶対評価制!   作:珊瑚

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八章

 帰りは村上が幹部を全滅させていたので苦労なく帰還。

 夢深の奪還を無事果たし、私達は反対者の拠点にいた。校舎は閉まっているので窓からの侵入である。

 

「……で」

 

 時刻はもう夜も近づいてきたかというところ。

 そろそろ帰らないと華蓮が泣きそうなので、私は話を切り出す。

 

「夢深はなんで誘拐されたの?」

 

 何故かは分からないけど、首謀者は部長なのだ。『教育』のことに関連しているとしか思えない。話を聞くだけの理由がこちら側にはあるだろう。恩着せがましいが、助けたわけだし。

 ランプが二個になり、少し明るくなった室内。テーブル付近の席に座っている夢深は暗い表情のまま口を開いた。

 

「……話さないといけないですよね。分かりました。緊急事態ですし、私も彼女を止めないといけません。全て話します」

 

 全て、なんて言うからには長くなるのだろうか、やはり。

 帰ったらどうやって華蓮を宥めようか考えつつ、私は彼女が話すのを待った。

 

「皆さん、『優等生』の部長がどのように決まるかご存じですか?」

 

 彼女はぽつりと、そう語り始めた。

 部長の選出方法。部外者である私には想像もつかないことだ。

 私は黙る。のだが、他の反対者達もそれを知らないのか、誰一人として口を開かない。

 

「まさか、誰も知らないんじゃないでしょうね?」

 

 半眼を作った妹が尋ねると、彼らは気まずそうに頷く。

 

「なにその部活……おかしいと思わないの?」

 

 私も妹の意見には同意だった。けどそれは、傍から聞いているからかもしれない。

 顔も選出方法も不明な部長に従い、活動を行う……外側から聞けば不審極まりないが、内側に入っていればそれほど気にならないかもしれない。

 部長が顔を出さなくとも成立しているわけだし、そもそも活動は強要されていることではない。

 好きなときに集まりに顔を出し、好きな活動をすればいい。基本的に『優等生』は自由なスタンスであり、名ばかりの部員も多いのだ。

 部長なんて活動に関係ない。ならば気にしないのも道理と言えよう。

 改めて、広く浅い部活なのだと思い知らされる。

 

「それが決まりですから。しかしそれでも、現在まで大きな問題は起きてません。影から部長が指示し、副部長がそれを伝える。この二年間はそれで問題もなく、勿論これからもそうなる筈でした」

 

「でも『教育』の話が出てそうではなくなったと?」

 

 首肯。眼鏡の言葉に夢深が頷いて返す。

 私は隙を見て手を挙げた。

 

「――そもそも『教育』って誰が考えたの? 部長?」

 

「はい。彼女が考えました」

 

 やはりそうなのか。

 それで馬鹿な幹部が賛成して現在に至ると……。

 

「ですが、その話が出てきたのは私が原因でもあるんです」

 

 夢深の言葉に、室内の全員が不可解そうな顔をした。

 私と妹を含めて、反対者達が初めて聞く話らしい。

 

「それはまさか、この前のことが?」

 

「はい。私がいじめられていたことが原因です」

 

 いじめ。

 私はやはりかと思う反面、少し悲しくもなった。

 なんで彼女が『優等生』の人達にいじめられていたのか……その理由として考えれるのは、彼女の性格。

 無意味な戦いを避ける彼女はおそらく、何かされても文句言わず嬲られていたのだろう。

 そしておそらく……。

 

「もしかして夢深ってかなり強い? 評価が高かったり」

 

「無意味ですが、戦闘系で百は持ってます」

 

 私達は絶句した。

 戦闘で使える能力を百。能力の開放は毎回ランダムなので、戦闘以外の能力も百以上持っているだろう。合計して二百、三百……なんという才能の塊。

 それなら、いじめられる理由もなんとなく察しがつく。

 そんな強い人物を一歩的に叩けるなんて、人によっては楽しいことだろう。ましてや彼女はよく見れば可愛らしい見た目をしている。いじめたい人が出てきてもなにも不思議はない。

 

「……いじめられているのは皆さんが予想している通りだと思います。最初は私のおどおどした態度が原因で決闘を挑まれて……結果、抵抗しないからと目をつけられました」

 

 割と深刻なのに淡々と語るものだ。

 なるほどね。

 『教育』だと思われていたものは、実はいじめ。見張りまで用意して、体育館でこっそりと行っていたのは多分、評価を稼ぎたい人による制裁が怖いから。

 そんなところだろう。

 

「それが『教育』と……なんの関係が?」

 

 小動物の声。

 確かにそれが今回の騒動と関係しているとは思えない。彼女がいじめられているからなんだという――

 

「私がいじめられているから、彼女はその人達を対象に含めて行おうとしているんです」

 

 ――あ、そういうことか。

 となれば副部長と部長は知り合い、それも親しいことになる。

 それは同時に……。

 

「つまりいじめられている夢深を助けようと、問題児を裁こうと?」

 

 私が確認に、夢深が頷く。

 なるほど。それは良く分かった。

 

「誘拐の理由は?」

 

 分からないのは誘拐だ。

 通信機で話してたみたいだけど、話すなら彼女を呼べばいい話だろうに。

 

「多分、私に会うのすら怖いんだと思います。彼女はいじめられてましたから」

 

「なるほどね……。部長とは何を話してたの?」

 

 通りで躊躇がないわけだ。

 自分がそんな過去を持っていて、友達もいじめられている。そこで、自分の持っている大きな力を振るおうというわけだ。

 あっちもそれなりな理由を持っているらしい。彼女についてる仲間はどうなのか知らないけど。

 

「誘拐されてから、あの部屋で私は仲間にこないかと誘われました」

 

「けど断ったんた。だよね?」

 

「はい。更生と言いながら、その行為は私達のされてきたことと大差ありません。そんなことは意味がないと言いました」

 

 ふむ、納得。

 粗方の理由は分かった。

 部長のやり方はやはり駄目だ。いじめられているからといって、それをやり返していいことにはならない。

こんな誰のためにもならないことは止めなければならないだろう。

 皆が揃って難しい顔をする中、私は一人頷く。

 絶対評価制、組織、あらゆる環境と関係なしに、『教育』は私自身が許すことができない。

 

「あの。私も皆さんの仲間に入れてください」

 

 静かに、しかし今回は堂々と手を挙げ、夢深は言った。

 室内がざわつく。これまで中立の立場にいた者、それも部長の友達である彼女が反対者の仲間になる。

 それがどんな意味を示すのか。

 皆を代表し、私の隣に立っていた村上が彼女へ尋ねる。

 

「いいんですか? 部長を裏切ることになりますよ?」

 

「はい。あの子を止めるなくてはいけませんし、なによりこうなったのは私の責任です。居場所は分かりますし、強行策も明日止められるでしょう」

 

 ただし条件があります、と彼女は村上から視線を逸らし答えた。

 彼女が向く先にいるのは私。

 ……なんだろう。シリアスな空気の中、私は何故だか物凄く嫌な予感がした。

 

「楼さん。私と戦ってください」

 

 あー、そういうパターン?

 私は創作物を見ている気分で、予想できない展開に肩を竦めた。

 脳裏に浮かぶのは優姫にぶちのめされた瞬間の映像。

 私に化け物と戦うほどの技量はない。

 死なないといいなぁ、私。

 

 

 

 ○

 

 

 

 誰もいない無人の校庭。

 つい先ほどまで部活が行われていたそこで、私と夢深の戦いが始まろうとしていた。

 部活用なのだろう。ランプよりはるかに眩しい照明が校庭を隅々まで照らしており、その端にあるベンチには十人は座れるスペースがあった。

 今日はよく戦っている気がする。

 どうしてこうなったかを考え――自業自得だと結論。ギャラリーへ視線を移しつつ自嘲する。

 青いベンチには反対者の皆さま方が座っている。どこからか持ってきたポップコーンやジュースを手に、完全な観戦を決め込んでいた。

 この一戦に反対者、『優等生』、そして問題児の命運がかかっているというのに、サポートのサの字もない。暢気なものだ。

 

「条件は君が負けたら反対者の仲間になる。これでいいよね?」

 

 負けられない。

 私は気合いを入れ、前に立つ夢深へと尋ねた。

 

「それでいいです。いつはじめてもいいですよ」

 

 夢深も一見すると、観戦しているが如く暢気な様子だ。

 私をじっと見てはいるものの、棒立ちでなんだか頼りない。

 しかし私を超越した能力を持っているのだ。ああ見えてかなり強い筈。

 拳を強く握り締め、私は勢いよく駆け出した。

 

 

 

 ○

 

 

 

 どうしたものか。

 先程は勢いでああ言ったものの、夢深はとてつもない罪悪感を覚えていた。

 嘘をつくのはいつぶりだろう。

 考えてみても、『混沌』以前だろうという不確かな答えしか出てこない。

 人を騙す。その感覚は彼女の性格上、やはり気分がいいものではなかった。

 けど、そうしなければ全力の彼女と戦うことはできないだろう。

 夢深は自身の正面に立つ彼女――楼を見る。

 何故自分が、とでも思っているのか、彼女はうっすらと笑みを浮かべており、小さく溜息のように息を吐いた。

 確か彼女は戦いの際に、格闘しか使っていなかった。ピンチに陥った際もそうだったし、おそらくそれしか使えないのだろう。

 とても今回の騒動に出てこれるような実力ではない。

 しかし、と思う。

 しかし楼がもし、本当に『彼女』が言うような人物ならば……その片鱗くらいは窺える筈だ。

 きっとこれもまた、意味のない戦いなのだろう。

 夢深は拾っておいた石を握り、視線を上に向けた。

 自分は自分の事情で、彼女と戦っている。

 武蔵 楼。

 『混沌』に包まれた半年間の中で、一度だけ聞いた名前。

 彼女が本当に世界の命運を握る人間なら、問いたいことがある。

 

「さて」

 

 前にいた楼が走り出す。

 屋外だからだろう。以前見たよりもその速度は速く、加速もスピーディーだ。

 それを見て夢深は、暢気な調子で声を出す。戦闘開始だ。

 握っていた石を振り上げ、『魔弾』の能力を使用。そして走ってくる楼へ向けて投げた。

 『魔弾』。投げた物に対象を追尾する機能を付与する、簡単な魔法だ。永遠に追いかけるほどの力はないが、この距離、そして彼女の能力ならば回避は不可能な筈。命中、よくて防御。いずれにせよ、夢深の作戦を邪魔する要素はない。

 楼目掛けて飛来する小石。すると何故だろう。楼の速度がぐっと落ちた。そのまま攻撃を警戒しているのか、小石が到着する随分前から防御の姿勢をとる。

 思惑通り、楼は飛来したそれを手をクロスさせて受け止めた。

 小石が彼女の腕に当たり、跳ね、地面に落下する。楼の速度が上昇するのを感じるのとともに、夢深は能力の発動を試みた。

 『位置交換』。自分と、あるものの位置を交換できる能力である。

 一見便利に思えるが条件がいくつかあり、対象を敵と認識していないことが第一の条件。

 自身の体重より十キロ上回らないことが二つ目の条件。

 そして目にはっきりと見えていることが最後の条件。

 はっきり――つまり今回の小石くらいの大きさは最低でも必要だ。

 夢深は空中に跳ねた小石を見る。しっかり目視し、能力を発動。

 次の瞬間、夢深は楼の隣に移動した。

 

「えっ!?」

 

 前にいた夢深が消えた。突然のことに反応ができるわけもなく、楼は驚きの声とともに足を止める。そして周囲を確認しようと顔を動かす。

 その前に夢深は彼女の背後に回り込み、彼女の背中を力いっぱい蹴りつけた。

 「あぅ゛!?」などと間抜けな声を上げ、子供が転ぶように手を挙げた体勢で楼が顔から地面に突っ込む。

 授業以外では他人を傷つけたことはなかったが、自分の手で誰かが傷つくというのは心が痛い。夢深は顔を歪め、追撃を加えようと片足を上げる。

 が、右足を振り上げ、地面に付くのが左足一本となったところで綺麗に払われた。

 うつ伏せに倒れていたと思っていた楼が、地面に手を付いて身体を押し、足から身体ごとスライディングするように足払いを仕掛けたのだ。

 身体が宙に浮き、すぐ目の前に楼の顔が見えた。いつの間に身体の上下を入れ替えたというのか、既に仰向けになっている。

 格闘系統の能力ならば接近戦は分が悪い。

 ましてや絞め技でもかけられたら、『位置交換』でも逃げられなくなる。

 彼女の上に落ちるのは危険だと察知し、夢深はベンチに座る少女を見た。

 名前は扇。少し生意気で我儘なところがあるが、根は優しい人物である。彼女ならば敵と認識していないし、はっきり見える。体重も問題ないだろう。

 能力の発動を念じる。

 一瞬の目眩を感じ、次の瞬間夢見はベンチに横になりながら着地。

 扇は楼の腹部に少し上から落下し、座った。楼が踏まれた蛙のようなうめき声を上げる。流石に女子の体重といえど、高さがつくと重たいらしい。

 

「くっ……」

 

 まさかギャラリーを利用するとは思っていなかったのだろう。驚く反対者達の視線を感じつつ、夢深は立ち上がると再度『位置交換』を念じる。

 この能力は発動した際の体勢そのままで、取り替える対象の位置までテレポートする。つまり一時離脱し体勢を整えれば、相手が攻撃できないほどの素早い攻撃が可能になるのだ。

 能力が発動し、扇と夢深の位置が入れ換わる。

 夢見は楼の腹に立ち、扇はベンチに戻った。

 両足で思い切り踏みつける。そのための隙を作り出そうと、夢深は足を踏み込んで跳躍。

 楼が呻く。しかしその表情に今は驚きが少しもない。

 彼女は表情をキッと引き締めると、痛みに怯むことなく身体を横へと転がす。

 紙一重のところで夢深の攻撃は命中することなく、地面へ突き刺さった。その隙を、素早く立ち上がった楼が狙う。

 夢深の側面をとった楼。彼女は拳を大きく振りかぶった。まるで命中することを確信したかのような大振りの攻撃だ。

 しかしそれは恐らく能力の補整を受けている。大振りにしては素早く、無駄がない。

 確実に回避するべく、夢深はまたギャラリーの方を見るのだが……気づいた。

 ベンチに座るギャラリーが見えない。

 ――いや、正確には全体が見えない。

 大きく振りかぶったように見えた楼。彼女は拳を上げたわけではなく、道を塞ぐように手を大きく広げていた。そう。ちょうど、ギャラリーと夢深の間に立って。

 ――まさか『位置交換』の条件を!?

 そういえば、と夢深は思い返す。

 三度目の発動をし、彼女の上に乗った際。楼は全く驚いていなかった。その時にはもうからくりを理解していたのかもしれない。

 戦慄を覚える夢深。それから、楼がそのまま近づいてくることを遅れて認識する。

 視界内には楼しか見えない。そして彼女は敵。

 細かな石と砂はあるが、能力に使えそうな物はない。

 最初に持っていた小石も校庭以外の場所から持ち込んだものだ。それも今ははっきり見えない位置にいる。

 夢深は覚悟を決め――笑みを浮かべる。

 まだ、終わっていない。

 楼が目を見開く。

 夢深の行動に。その視線の先に。

 夢深はそれを空中に投げ、上を見上げた。

 ぼんやりとした視界には眼鏡が舞っている。少しはっきりとは言えないものの、能力を使用するには十分だろう。

 能力を発動。彼女は呆然とする楼の頭上に現れ――その頭を踏みつけた。

 

 

 

 ○

 

 

 

 いや、参った。

 テレポートの条件が対象を視界に映すことだと分かったまではいい。

 それから視界を塞ぎながら近づく。これも許そう。

 しかしそれで勝ちを確信してしまっては駄目だろう。

 眼鏡を投げてから蹴られるまで僅か数秒。されど数秒なのだ。その間ずっとぼんやりしてやられてたら、これから先が不安すぎる。

 

「……姉さん。負けてどうするのよ?」

 

 夢深に見事敗北した私は、ベンチの上で正座をさせられていた。

 私の前には仁王立ちの妹と、苦笑を浮かべる反対者の面々。そして夢深。

 脳内で反省会をしていたのだが、現実も反省会……というよりも、謝罪会見の方が正しいかもしれない。

 夢深奪還時の失態に加え、さらにこの始末。私自身、土下座も辞さない申し訳ない気持ちで一杯である。

 

「夢深は戦闘能力百なんて嘘で、本当はもっと弱いって言ってるのに」

 

 妹が情けないと言わんばかりに続けて私を責め立てる。

 そう。何のいじめだか分からないけど、夢深は能力を全然持っていない、私達サイドの人間だったらしい。なんでも全力の私と戦いたいから、嘘をついてしまったのだとか。

 普通なら私が勝っている展開である。それも結構余裕に。

 それで負けてしまうのだから、私の雑魚っぷりがよく分かるだろう。

 でも夢深の発想もすごい。まさかあそこで眼鏡の存在を思い出し、落ち着いて逃げることを考えずに頭上へと投げて攻撃。敵ながらあっぱれといったところだ。

 戦いってなにが起こるか分からないね!

 

「なに爽やかな笑顔浮かべてるのよ?」

 

「す、すみません……」

 

 ちょっとぐらいお茶目してもいいじゃない。

 かつてのリーダーさんみたいに縮こまりつつ、頭を軽く下げる。

 今回も悪いのは私だ。負けたのだから。

 

「えっと……その」

 

 さぁ、いよいよ土下座だ。

 そう思ったタイミングで、おずおずと夢深が手を挙げる。妹の怒気に怯えているようで、いつの間にか私の知るおどおどした彼女に戻っていた。

 ちなみに彼女の眼鏡は思い切り土埃が付着しており、汚かった。

 

「なに? 今姉さんを一人にしてストリップさせようとしてたんだけど?」

 

「土下座じゃないの!?」

 

 土下座よりもすごいんじゃないかな、それ。

 大声でツッコミする私を、冗談よと軽く流し、妹は夢深へ発言を促す。

 

「戦いたかっただけですので、仲間になれと言われれば仲間になりますよ」

 

「なって! なってください!」

 

 苦笑を浮かべながら言う夢深へ、私は即座に返答した。夜の校庭で一人ストリップは勘弁である。マニアックすぎる。

 

「はい。短い間ですが、よろしくお願いします」

 

 良かった。

 頭を深々と下げる夢深に安心する。これで妙な罰ゲームは逃れられる筈だ。

 私は正座したまま蹲ろうとして、地面に頭から落下した。 

 

 

 

 ○

 

 

 

 作戦は明日メールで通達。

 とりあえず今日は家の人も心配するだろうし、解散。

 という、いかにも真面目な高校生らしい理由で、私達は今日の活動を終えた。

 

「昨日と密度が違い過ぎる……」

 

 拠点から荷物を回収し、校門を出て小さく呟く。

 誘拐された生徒を救い、それから戦闘。今日は肉体的なだけでなく、精神的にも限界を越えた気がする。

 鞄を手に、私は街を目指して歩き始める。

 妹は解散と同時にどこかへ行ってしまった。

 一人で歩くのはやはり心細い。

 物騒になった今日この頃。返り討ちにされる可能性も高いので不審者は少なくなったものの、寂しさだけはどうにもならない。

 早く帰って、華蓮のご飯を食べるとしよう。

 私は考えて、歩くペースを上げようとする。その瞬間、肩を軽く叩かれた。

 

「楼さん」

 

 なにかと思って振り向いてみれば……夢深である。

 地味な彼女が暗い中、私の間近に迫っているのをいきなり視界に入れるのは、なんだかホラーじみていた。思わず悲鳴を上げそうになってしまった。

 

「なんだ、夢深か。一緒に帰る?」

 

「はい。えと、あと、少しお時間もらってもいいですか? お話したいことが」

 

「話?」

 

 はて、なんだろうか。戦闘のことに関してかな。それとも明日のこと?

 なんにせよ断る理由はないだろう。華蓮の泣く時間が伸びるだろうけど、偶には少しくらい帰宅が遅れてもいいはずだ。むしろ仲間といたとか言えば、泣いて喜ぶかも……だめだ。どちらにせよ彼女が泣くビジョンしか見えない。

 まぁ、どうせ今帰っても結果は同じ。夢深の話を聞いてもいい筈だ。

 

「いいけど、何を話すの?」

 

「少し、昔のお話です」

 

 夢深はそう言って、表情を暗くさせた。

 昔。それが何年前のことなのか分からない。けれど、それを私が聞いて何になるのだろうか。彼女とは数日前に会ったばかりだし、とても力になれるとは思えないんだけど。

 疑問を感じるも、言わないでおく。

 単に話を聞いてほしいだけかもしれないし、気の弱い彼女のことだ。追求すれば『まさか話するのが嫌なんですか?』とかなる可能性が高い。

 それから私達は世間話をしながら、駅前の公園まで歩いていった。

 この前と違って公園は暗く、ライトに照らされたベンチくらいしか見えない。

 なんだかロマンチックにも見えるそこへ私達は座る。木製のベンチは堅くてお尻が痛むが、それでも立っているよりははるかに楽である。

 

「さて。何から話しましょうか」

 

 夢深は暗い表情のまま、典型的な語り始めの台詞を口にする。

 昔話。果たしてそれに、私はどれくらい係わっているのだろうか。

 私は夜空を見上げ、息を吐く。

 都会の空は暗闇のように真っ暗だ。それでも、綺麗だと思えた。

 

 

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