「ん…。ん〜〜!!はぁっ!」
布団から起き上がりグッと伸び、布団を押入れにしまい、顔でも洗おうと井戸に向かった。しかし他のは組はまだ夢心地らしく、小三郎は忍び足をして通り過ぎた。
井戸で顔を洗い、歯を磨き、部屋に帰ってからツバキ油に浸した柘植の櫛で髪を解かし、装束に着替えて髷を結い頭巾を被る。そして再度部屋から出て忍たま長屋の庭に下りる。スゥッと深呼吸をした後に、パンチやキックを繰り出し何時実家でやっていた兄から教わっていた体術の基礎形を行う。
「はっ!やぁっ!タァッ!」
「ん?」
7時少し前、金吾が目を覚ました。そとから小三郎の声が聞こえる。
「タァッ!てやぁっ!」
「小三郎?何やっているんだろう?」
金吾は眠い目を擦りながら起き上がり戸を開ける。
「でやぁぁぁぁぁ!おわわわ!いてっ!」
小三郎が回し蹴りを繰り出そうとしたが体制を崩し尻餅をついた。
「小三郎!」
「いてて…あっ金吾!おはよう。」
「おはよう。何やってたの?」
「いやぁ、実家では六時半に起きてたから目が覚めちゃって。兄者に教えられた体術の鍛錬をしてたんだ。」
「随分早く起きたんだね?って言うか鍛錬なら付き合ってよ!僕も剣術の鍛錬してるんだ!」
金吾の言葉に小三郎はうなづき、じゃあ時間が空いた時に。っと約束を交わした。それから金吾は厠に向かった。それから間も無く、みんなが起きてきた。
「おはよう!」
「おはよう小三郎!」
「早いね!もう起きてたの?」
「六時半には起きてるよ?」
「「「早ッ!」」」
一通りみんなと挨拶を交わしたが、三人足りなかった。乱太郎ときり丸としんべえが部屋から出て来ないのだ。寝てるのかな?っと思い起こしてあげようっと部屋に近づく。
「んぎぎぎぎ!」
「んぎぃぃ〜〜!」
部屋の戸の前まで来ると何やら踏ん張る声が聞こえた。小三郎はノックをしてから戸を開けた。
「乱太郎、きり丸、しんべえ。おは……ってしんべえ!どうしたの、その頭!」
小三郎の目に頭の毛が剣山のようになったしんべえが映った。よく見ると忍び熊手をクシがわりに乱太郎ときり丸が髪の毛を解いている。
「あぁっ!小三郎!大変なんだよ〜。昨日しんべえがリンスを切らしていて…。」
「ど、どう言うこと?」
「実は、かくかくしかじか……。」
きり丸曰く、しんべえの寝癖はとてつもなく剛毛になり、いつもはお風呂でリンスと呼ばれる南蛮渡来の整髪料をつけているのだが、それを切らしたらしく、こんな頭になったらしい。強度はもはや鋼鉄並み。濡らしてもダメらしい。
「でもそれじゃあ頭巾がかぶれないじゃない?」
「そうなんだよ!」
「どうしよう!」
「あ〜ん。助けて小三郎〜。」
しんべえの助けを求める声に、世話焼きな小三郎は考える。
「濡らしてもダメ…ん〜……あっ…あれだ!しんべえおいで!」
何かを閃いたらしく、しんべえとついでに乱太郎、きり丸を引き連れ井戸に向かう。
井戸で小三郎はしんべえの髪に水をかける。
「あ〜ん!冷たいよぉ〜。」
「我慢してしんべえ!」
「小三郎!濡らしても乾いたら同じだよ?」
「俺たちも最初は試したんだけど…。」
「だから、これを使うんだよ!」
何かの液体が入った竹筒を二人に見せる。
「「ナニコレ?」」
「椿油。」
「椿油⁉︎」
「明かりに使う?」
「そう!」
しんべえの頭を乾いた布で粗方拭いた後に椿油をほんの数滴垂らし揉む。
「んっ…あっ…なんだかいい気持ち〜…。」
しんべえの顔が綻ぶ。さして柘植の櫛で髪を解かす。しばらくすると乾いてきた。
「あぁっ!しんべえの髪が!」
「剣山にならない!それどころか風になびいてる!」
ピィカ〜ン!しんべえの髪はしっとりツルツルピカピカになり、朝風になびいた。
「うわーい。髪がツルツル〜♫」
「これでよし!」
「なになに⁉︎」
「どう言うこと⁉︎」
『椿油にはオレイン酸を大量に有しており、さらに殺菌作用のあるサポニンも含まれており、美容にとても効果を発揮します。遡ること平安時代から王侯貴族、庶民まで幅広く愛用されておりました。中でもオレイン酸は人の肌と同じ成分で保湿効果もあり、髪を柔らかくしたり、肌の角質をとりツルツルスベスベになるのです。」
不思議がる乱太郎ときり丸に小三郎が説明する。
「「「へー!」」」
「ちなみに僕も髪と肌に使っているからモチモチのスベスベ!」
小三郎が頭巾を取ると、そこには美しい黒髪が存在し、しんべえが頬に触れるとぷるんっともち肌だった。これは食満留三郎にはないもの。
「モチモチ〜、美味しそう〜♫」
「だ、だからって食べないでよ?」
「小三郎って物知りだね?」
「椿油なんて明かりにしか使わないからな〜。」
みんなで朝食を食べ、八時半に半鐘がなり授業が始まった。
「起立、礼。」
「「「「おはようございます!」」」」
「おはようみんな!」
学級委員、庄左ヱ門の号令と共にみんなが元気よく土井先生に挨拶を述べ、先生も挨拶を返す。
「では今日も忍具について勉強だ。忍たまの友の忍具のページを開け。」
「あぁっ!しまった!」
「どうした乱太郎!」
乱太郎の声に全員が注目する。小三郎も覗く。
「間違えて忍具のじゃなくて、寝具のカタログ持って来ちゃいました!」
「「だぁぁぁ!」」(ドテ〜ン!)
「ちょっ…いくら何でもそれ間違えるか?」
小三郎は金吾の肩を借りて起き上がりながら苦笑い。
なんやかんやで勉強は出来た。流石のは組も「苦無」は覚えていたらしく土井先生を涙させた。忍び熊手、まきびし、忍者刀、手裏剣、しころ。たくさん覚えることがあり大変だが小三郎は遅れを取らないように黒板に書かれた事は全て写した。両隣の金吾と喜三太はその真面目っぷりに驚いていた。しんべえは途中から寝てしまい土井先生に何度も叩き起こされた。
授業が終わり次は実技のため、みんな校庭に集まった。
「よし全員集まったな!今日は手裏剣の練習を行う!的をよく見てる落ち着いて投げるような!」
「「「は〜〜い!」」」
みんなが元気よく挨拶をしたのち、全員が一斉に的に投げた。小三郎は流石に一遍に投げてはと思い投げなかった。全員が投げた手裏剣は的に当たらず、山田先生に飛んでいった。しかし山田先生は分かっていたらしく手裏剣収容箱の板で受け止めた。
「まったく〜。お前達!お約束もいい加減にしろ!」
「だって〜。」
「これは〜。」
「一年は組の〜。」
「「「「お約束ですから〜♫」」」」
全員が嬉しそうに声を揃える。山田先生は呆れ顔でうなだれてしまった。
「あ、あの〜…出遅れたんですけど〜。」
「ん?あぁ!小三郎!いいぞ、投げなさい。的をよく見て、集中するんだ。」
山田先生は淡い希望を小三郎に抱いていた。
(頼む、この子だけでもまともであってくれ…!」
一方で小三郎は他のみんなが壊滅的に悪いと見て、「自分だけでもしっかりしなくちゃ!」と思っていた。
「えいっ!」
スパン!
小三郎の投げた手裏剣は的の真ん中…とは行かなかったがギリ的に命中した。その途端に山田先生を始め、一同が声を揃えた。
「うおぉぉぉ!!」
「「「オォォ!!!」」」
「まっ、まぐれだよ。」
「「「小三郎!」」」
途端にみんなに囲まれた。
「すごいよ!まぐれでも!」
「初めては組のお約束を断ち切った!」
「本当に初めて?天才だ!」
「コツがあったら教えて!」
みんなが褒めた得る中、山田先生が飛んで来て、小三郎を抱きしめた。
「うわ!山田先生⁉︎」
「私の…私の願いは天に届いたぁぁぁ!小三郎!ありがとう!!!うおぉぉぉ!」
山田先生、男泣き。小三郎は戸惑ったが、みんなに胴上げされたり褒めまくられはにかむ様に笑った。
「い、今まで山田先生はどんな目にあって来たんだろう?」