亀更新ですがこれからもご愛読くだされば幸いです。
とある真夜中。忍たま達も小三郎も眠る。
しんべえ「もう食べられない…むにゃむにゃ…。」
きり丸「小銭〜。アヒャヒャ…むにゃ…。」
乱太郎「父ちゃん母ちゃん…見ててくれらん…むにゃ…。」
小三郎「母さん…用意多すぎ…むにゃむにゃ…。」
乱太郎達も一人部屋の小三郎も寝言を言う中、一人だけは魘されていた。喜三太と同室の金吾だった。
金吾「うぅぅ………ジメジメ………ヌルヌル………がは!はぁっはぁっ…。」
悪夢から目が覚めた。金吾は汗びっしょり。そして辺りを見回す。
金吾「うわぁ…。」
床に這うナメクジ。餌のキャベツは腐ってズルズル。湿気が酷くてカビだらけ。とても安眠出来ない。
金吾「はぁ。何とかしなきゃなぁ。かと言ってナメクジさんと喜三太を離れ離れにさせるわけにもなぁ…うっ。」
この惨状をどうにかしなければと考えていると寒さで冷えたのかはたまたストレスかお腹に痛みが走った。金吾は自室から出て厠に向かった。
小三郎「……ん、ん?」
一方で一人部屋の小三郎も目が覚めた。布団から出て窓を少し開ける。外はまだ暗く恐らくまだ2時くらい。再び布団に戻ろうとしたが僅かに尿意を感じた。
小三郎「厠行っとくかな?」
眠た眼を擦り灯りを持ち自室を出て厠に向かう。忍たま長屋の厠へは向かうと灯りが灯っていた。
小三郎(あれ?こんな夜更けに誰かいる?)
まぁいいやと思い灯りを置き用を足す。そして戻ろうとした時、個室の戸が開いた。
小三郎「あれ。金吾。」
金吾「あ、小三郎だったんだ。」
二人で忍たま長屋に戻る。
小三郎「お腹壊したの?」
金吾「いや。多分寝冷えかな?ちょっと悪い夢見ちゃって。」
ははっと苦笑いする金吾。しかし金吾は出来れば自室に戻りたくなかった。
金吾「ねぇ。しばらく小三郎と同室にしてもらえないかな?」
小三郎「へ?僕は構わないけど…なんで急に?」
金吾「実は…見てもらった方が早いかな?」
金吾に案内され小三郎は後に続き、そして部屋を覗き見た。
小三郎「うわっ………こりゃ酷いね?」
そこにはカビだらけの部屋、腐ったキャベツ、極め付けにナメクジ塗れになりながら熟睡している喜三太。
小三郎「だ、大丈夫なの!?喜三太!死んでない!?」
金吾「だ、大丈夫だよ。いつもの事…。」
金吾が苦笑いを浮かべるが明らかに不健康そうだ。
小三郎「こりゃ体調もお腹も悪くなるよ。わかったよ。とりあえずしばらく僕の部屋においで。」
金吾「ありがとうぉ。恩にきるよ。」
金吾を部屋に招き入れ、布団をもう一つ用意する。金吾は辺りを見回す。そこには自分達や他の忍たまの部屋にはない葛籠と桐の箪笥などが置かれており、心地よい香りが立ち込める清潔な部屋。
金吾「この葛籠と箪笥、もしかして自前?」
小三郎「そうだよ。僕の母さんがあれやこれやと用意しちゃって…さて、敷けたよ。」
布団を敷き終え、片方に小三郎が潜り込み、もう片方に金吾が入る。
金吾「はぁぁ〜。久しぶりに熟睡できる…。」
小三郎「そりゃよかっ「むにゃ…。」寝るの早!」
余程安眠出来なかったのか金吾は直ぐに眠ってしまった。クスッと笑い金吾に布団をかけ直してあげ自分も目を閉じ眠る。
そして朝日が昇る。小三郎はいつも通りの体内時計で6時半くらいに起きてグッと背伸び。そして横ではまだ金吾は寝ている。小三郎は起こさないように髪を解かし髷を作り装束に着替える。そして朝の鍛錬を始める。そして7時過ぎくらいに続々と他のは組の良い子も起き始めてきた。
乱太郎「おはよう。小三郎。」
きり丸「あいからわず早いなぁ!」
しんべえ「むにゃむにゃ…あっ。おはよう。小三郎。」
小三郎「おはよう。乱太郎。きり丸。しんべえ…よだれついてるよ?」
小三郎は懐からちり紙を取り出ししんべえの口元を拭う。その時。喜三太がこちらに寄って来た。
喜三太「おはよう。乱太郎、きり丸、しんべえに小三郎。」
らんきりしん&小三郎「おはよう。喜三太。」
喜三太「ねぇ。金吾見なかった?」
喜三太の問いに小三郎は自分の部屋を指差す。
小三郎「僕の部屋で寝てるよ?」
喜三太「えぇ〜!なんで小三郎の部屋に?」
不満気に眉を歪める喜三太。そしてその声が聞こえたのか金吾が出て来た。
金吾「ごめんね。喜三太。でももう限界だったんだよ…。」
近づいてくる金吾。心なしか昨夜のちょっぴりげっそりした感じはなくなっていた。
喜三太「限界って、僕との同室が不満なの!?」
怒り出す喜三太に小三郎が割って入った。
小三郎「喜三太あのねぇ!あんな部屋じゃ誰だって限界を迎えるよ!分かってる?」
喜三太「へ、へ?な、なんで小三郎が怒るの?」
どうやら何にも理解していないのか喜三太は首を傾げた。ついでに乱太郎達も首を傾げた。
らんきりしん「どういう事?」
小三郎「見た方が早いね?」
乱太郎達も連れて小三郎は喜三太と金吾の部屋へ行きそして戸を開けた。
らんきりしん「ギヤアァァァァァァァァア!!!」
あまりの惨状に絶叫。そして放心。
小三郎「ほらね!湿気でカビだらけ!餌のキャベツは腐ってズルズル。ナメクジさんは放し飼い!少しは隣で寝る金吾の身になりなよ!ずっと君の事を考えて我慢してたんだよ!」
喜三太「だ、だって……。うっ。ひっく…。」
叱られ涙ぐむ喜三太に小三郎は優しく抱き寄せる。
小三郎「…ごめんね。ナメクジさん大好きなんだよね?それは分かるよ。でも喜三太、君は金吾もナメクジさん同様に大事なはずだよ?」
背中をさすり怒った非を詫び、喜三太を離し金吾の方へ向ける。
喜三太「ひっく…ごめんね…金吾ぉ…そんなに我慢してたなんて…。」
金吾「分かってくれればいいよ!」
金吾は笑顔で喜三太を抱きしめた。それを小三郎は笑顔で見た後に乱太郎達を見て力強く手を叩きあわせた。
パチン!
らんきりしん「はっ!」
小三郎「いつまで放心してるの!」
乱太郎達を正気に戻し三人は顔を洗いに行った。小三郎は喜三太を見る。
小三郎「さて。掃除しますかね?」
喜三太「小三郎も手伝ってくれるの?」
小三郎「乗りかかった船さ。見放さないよ。金吾も手伝ってくれる?」
金吾「もちろん!」
喜三太と金吾が装束に着替える間に水桶と雑巾とたわし、大きめの乾拭き用の布を用意しておく。
喜三太&金吾「お待たせ。」
小三郎「じゃあ始めようか?」
喜三太はナメクジさんを壺に戻し、腐ったキャベツを片付ける。金吾は部屋から机などを持ち運ぶ。小三郎は部屋から布団を引っ張り出して竿にかけて干す。そして三人で部屋をタワシで擦り、雑巾をかけて、その後で乾拭きで仕上げる。部屋は見違えるほど綺麗になった。
小三郎「ここで…。」
小三郎が懐に手を入れる。
金吾「お!久々に小三郎の不思議な懐!」
喜三太「何が出てくるのかな?」
二人が見ていると小三郎は茶色い液体が入った竹筒と刷毛が出てきた。
小三郎「これを床に塗るよ?」
喜三太「何それ?」
小三郎「柿渋。」
金吾「柿渋?」
ここでミニコーナー!
小三郎『柿渋とは、まだ青いうちに収穫した渋柿の未熟果を搾汁し発酵熟成させたもで、日本では古くから、この柿渋を塗料や染料、あるいは万能民間薬として、多岐に渡り活用されて来ました。家屋や生活道具、衣料品の耐久性を高め、防水・防虫・防腐・消臭効果を与えるなど、その効能は驚くほど多彩。天然素材だから人体にも環境にも優しい天然のワックスなのです。さらに柿タンニンには、毛細血管の老化を防いで高血圧を予防したり、胃の粘膜を収れん保護したり、二日酔いや口臭を防止する効果もあるとされています。』
金吾「へぇ!凄いものなんだ!」
喜三太「これならナメクジさんにも影響ないね!」
小三郎「じゃあ。塗ろうか?」
三人は刷毛を手に取り柿渋に浸し床を塗る。そして塗り終えたら一旦乾かす。そしてまた塗る。これを3、4回繰り返した。部屋の床は綺麗な飴色になり艶が出てカビ臭さもなくなった。
喜三太「すご〜い!こんな綺麗になるんだ!」
金吾「やっぱり小三郎はなんでも知ってるんだね!」
小三郎「ありがとう。さて次はナメクジさんの壺の置き場を作らないとね?」
小三郎は再び懐に手を入れ、今度は長めの薄い銅板を取り出した。
喜三太「何それ?銅板?」
小三郎「そう。ただの銅板。」
金吾「それをどうするの?」
金吾の言葉に小三郎はふふんと得意げに笑い部屋の隅、いつもナメクジさんの壺を餌入れが置いてある場所を囲むように銅板を貼り付ける。
小三郎「喜三太。そこに壺を置いてナメクジさん達を出して?」
喜三太「へ?う、うん。分かった。」
金吾「銅板だけじゃナメクジさんは超えちゃうよ?」
金吾の言葉に小三郎は「まぁ見てて?」と言う。壺を置き喜三太が合図を送ると、壺からナメクジさん達が這い出してきた。そして、床を這い銅板に差し掛かった時だった。
喜三太「あ、あれ?」
金吾「ナメクジさんが銅板を超えてこない?」
見るとナメクジさん達はまるで銅板を嫌がるような仕草をしている。喜三太は何か感づいたように飛んだ。
喜三太「そうか!ナメクジさん達は銅板が嫌いだった!」
金吾「そうなの!?」
再びミニコーナー!
小三郎『ナメクジやカタツムリが移動する際に出すネバネバは銅と反応し電気ショックの様な不快な電磁波を発します。ちなみに現代では主に園芸、庭園の鉢植えに使われています。』
つまりこれで金吾の所まではナメクジさんは来ない。安眠は保障された。その後小三郎は喜三太と金吾に何度もお礼を言われた。
金吾「ありがとう!小三郎!」
喜三太「ありがとねぇ〜小三郎!」
小三郎「今度からはちゃんと掃除してね。じゃあ。」
しかしその夜。
小三郎「ねぇ?」
金吾「ん?」
喜三太「なぁに?小三郎。」
自室で小三郎は何故か喜三太と金吾に挟まれ寝ていた。
小三郎「何で部屋綺麗にしたのにこっちに来るのさ!」
金吾「だって…。」
喜三太「小三郎いい匂いするし…安心できるから?」
どうやら金吾は初めて寝た小三郎の部屋の味をしめてしまい、喜三太はそれを聞きつけやって来た。
小三郎「動けないんだけど!これじゃあ寝られない!」
小三郎の声が虚しく忍術学園に響いた。