<ルディ・ラウンド> シャドウの二刀流フェンサー
敬称の消えた呼び方が定着してどれくらいたっただろう。鈍い鈍いと言われているが、流石に気付く。彼女の視線と彼女の想い。そして釣られるように、気づかされた、自分の中に沈んでいた物。けれど。
「…言えるかよ」
いつか必ず、俺は彼女を置いて行く。その未来が、言葉にする事を拒んでいた。
『愛しているも役不足』気付いた話
ぐぅ、と腹の音が鳴る。太陽は真上よりも少し傾いた頃。
昼飯は食べたが、育ち盛りの15歳にはあまり関係の無いことだった。鍛錬の手を休め、周囲を見れば、太陽に光る水色の髪を見つけた。
「アリエス!」
思わず駆け寄り、声をかける。彼は知っていた。彼女の料理が一等美味しいと言うことを。
『空腹に効くクスリってありますか』ご飯を強請る話
近くで祭りがあるのだろう、ごった返す人混みの中。後ろを見れば、細い彼女が流されかけていた。思わずその手を摑んで引き寄せる。
「……」
けれど気の利いた言葉など出ない。後ろの焦った気配を感じつつ、無言で歩き出す。
手だけはしっかりと握ったままで。どうか仲間に会わない様にと、祈りながら。
『手だけつないで』複雑な話
合わさる剣戟から、一気に跳ね飛ばされて地面に転がる。一瞬の暗転と、青い空を見上げる羽目になるのは何度目だろう。何が駄目だったか、回る頭で考えるが答えは無い。
「もう終いにするか?」
遠慮がちな声に、跳ね起きる。
「…もう一度お願いします!スパーダさん!」
悩むより動け。多くでも盗むために
『こりないやつ』手合わせの話
痛みを感じるより先に姿を探した。そして捉えた姿に安堵する。
幼い頃の言葉など、覚えていないだろうが。あの言葉を違えて生きるつもりなど無く。けれど、それ以上になる覚悟も無く。告げたい言葉を胸に仕舞って。
「嗚呼、良かった」
お前が無事ならそれでいい。ただそれだけを口にして、視界を閉じた。
『最期の言葉』もしもの話
そう、全ては偶然だった。この辺境の街を訪れた事も。金の工面が必要になり、冒険者となるべく冒険者の宿の戸を叩いた事も。マスターの紹介で合わせた顔に、懐かしい色を見たことも。
「……」
なんと声をかけたらいいか分からずに黙り込む少年と、同じように畏れと遠慮から黙り込んだ少女の、再会の話。
『重なった偶然』出会いの話
「…いい匂いですね。どこの香水なんですか?」
酒場で席が隣になった女の髪へ、鼻先を僅かに寄せる。ギルドの仕事とはいえ、なかなか辛い。それでも大事な情報源。引きつる口元を、甘い言葉で隠す。
「貴女によく似合ってる。…誰かの贈り物ですか?妬けますね」
早く帰りたい。心の底から思った。
『サービストーク』ギルド仕事の話
寝転がり、空にかざした手は、あの時より随分と筋張り大きくなっていた。
色んな物を奪い、得てきた手。遠くで名を呼ぶ声が聞こえる。
「今行く!」
駆け出す足取りは軽い。漸く、《ルディ》が許された。生きていいのだと。そんな気がした。
『生存確認』借金返済記念の話
お前が死んだらあの子はどうするんだ。
道化の男に問われて言葉が詰まった。彼女は強いから一人でも大丈夫と思う。けれど。燻るように残る言葉。ふと、自分の隣に立つ彼女に視線を落とせば、返る笑顔に呼吸が止まった。
「…、」
口にしたくなった言葉を飲み込む。口にするのは、もっと強くなった時に。
『キミ専用口説き文句』16歳にはまだ早かった話
人気の無い裏路地を照らす月は細く、影ばかりの中、シャドウの青年が立っていた。両手の剣は赤く染まり、その鋒の向こうには、倒れ伏す男。
「まったく、頭目も人使いが荒い」
裏切り者の末路くらい、知っているだろうにと。転がる男に、蘇芳の瞳が微かに憐れみを浮かべて消えた。
『裏切り、ごめん』ギルドの裏仕事の話
最初に父が消えた。次に母が。主が。祖父が。手を伸ばす度に消える。青の髪の幼馴染にも手を伸ばす。振り返った彼女の泣きそうな顔が、指が触れる前に消えた。
ーー全部お前の所為だ。
響く、己の声。その通りだと、届かぬ手が顔を覆う。押し殺した幼い声は、誰にも届く事は無く。そんな、彼の酷い悪夢。
『どこにもいかないで』時折見る悪夢の話
世界が瘴気に覆われた。地は割れ、幾つかの国が滅び、種が絶えた。今在る国も人も蛮族も、瘴気の渦へと消える、終焉へと進みだした世界。
「こんなとこまで付いてくるとは思わなかった」
隣の幼馴染のエルフに笑う。当然という顔の彼女に肩を竦めた。
「なら、最期まで付いて来いよ」
この世界の終りまで。
『道連れ最果て』世界を救う壮大なCP開始する話
倒れた仲間の前に身を躍らせる。切りつけた剣先は躱されるが、後の盾には十分だろう。向けられた銃口の数に冷や汗が背を伝うが、振り払う様に白銀を振るう。
何時もの背中を、今度は俺が。
「見捨てるなんて、選択肢は無いんでな」
誰にも聞こえぬ様に、其の言葉を吐息で殺し、逃げぬ様にと地面を蹴った。
『嘘でも言えない』初回で生死判定する直前の話
<モルビド・オロロージオ> タビットの魔術師
春の風に乗るように、気紛れに訪れては消える背の高い人。柔い声で紡ぐ魔法は、迚も綺麗で。まるであの人の様だった。
あの時感じた物は、憧れだけでは無かったのを今も覚えている。
追い付きたかった背中は、今は何処に有るのだろう。並び立てる程に成れただろうか。背伸びをせずとも、立てるだろうか。
『初恋の人でした。』過去の話