デレマス×ACfaの短編
二宮飛鳥と一人の革命家の話
他にもクローバー繋がりでロイと智絵里とか、速水繋がりでメルツェルと奏さんとか、ロシア・星繋がりでハリとアーニャとか、ロック繋がりでローディー先生と李衣菜とか、ネタは割と思いつくんですけどね。
ボクは二宮飛鳥。何処にでも居るような、思春期の中学二年生だ。
特徴と言えば、自分なりにこだわりを持って生きている事かな。それを『痛いヤツ』『厨二病』だと言ってしまえばそれまでだけどさ。
学校が終わって一度家に帰った後、気分転換に街へ繰り出す。何か嫌な事があった訳ではないけれど、今は閉ざされた空間に居る気分じゃ無かった。
特に目的の無い一人旅。当てもなく、ただふらふらと、人混みの流れるままに。
そうして偶々辿り着いた公園のベンチに座り、何となしに口笛を吹く。数年前から練習するようになったけど、特技と呼べる程のものではない。
まぁ、例え口笛が上手くなったとしても、通り過ぎて行く人々には只の雑音でしかないのだろう。ボクには誰も見向きもしない。まるでボクだけがこの世界に取り残されたようだ。
寂しい?悲しい?......分からない。
そんな中、ボクの視界に一人の男が映った。ブロンドの髪の、スーツ姿の長身の男。彼もどこか、ボクと同じようにこの世界から浮いているように見えた。日本人ではないとかそういう話ではなく、もっと根本的な要因でだ。それがどうしようもなく僕の興味を惹いた。
しばらく彼を見ていると、流石にボクの視線に気づいたのか、こちらを向いた彼と目が合った。そしてボクが見続けているのを不思議に思ったのか、彼はボクの側まで近寄ってきた。
近くに来ると、中々の高身長だという事が分かる。180cmはあるだろう。何やら不機嫌そうな顔、そして達観したようなその目には“冷たさ”を感じた。
「此処へ惹かれて来たのかい?」
彼に感じた感覚を確かめる為、ボクは試しに問いかけてみた。只の大人ならば、何を言っているんだと呆れられる。だけど、彼ならばあるいはーーー。
「只の偶然では片付けられないか......ならば、そうなるのだろう」
「へぇ、驚いたよ。大人ってのは、みんな画一的に否定するものだと思っていたんだけどな......キミは違うようだ」
「本質を理解しようともせず、頑なに否定する。そういう輩が多いのは事実だな」
そう、これだ。ボクの求めていた、理解り合える相手。こうしてボクの問いかけにも答えてくれる。
「夕方の公園のベンチに一人黄昏て口笛か。随分とロマンチストだな」
「否定はしないよ。現実を忘れて感傷に浸りたい時もあるものさ」
「分からないでもないが、そんな暇があるなら勉強の一つでもするんだな」
「おやおや、手厳しいね」
彼との会話は苦にならない。むしろ、これ以上なく楽しい。これ程までに理解り合える人と出会ったのは初めての経験だ。
その後も暫く彼と他愛のない世間話をしていたが、この短いやり取りの間でボクは一つ理解した事があった。
「もしかして、キミも『痛いヤツ』だったりしないかい?」
彼の言い回しに、ボクと同じモノを感じた。類は友を呼ぶと言うけれど、正しくそうだ。共鳴する者は惹かれ合う運命にあるらしい。しかし彼はボクの問いに、少し眉間に皺を寄せて答える。
「貴様らと一緒にするな。『痛いヤツ』と一括りで纏められるのは気に入らん」
「そうかい?気分を害したのなら謝るよ」
「フン......貴様といい、神崎といい、厨二病というのはどいつもこいつも......ん?」
彼の身の回りにもボクのようなヤツが居るらしく、小声でぶつくさと呟く。だが、それは突如鳴り響いたアラームによって掻き消された。どうやら彼に着信があったようで、ビジネスバッグからスマートフォンを取り出した。
「私だ......あぁ、打ち合わせは問題ない。奴も無事届けた......分かった。ではな」
「仕事の電話かい?」
「まぁ、そのようなものだ。お前もさっさと家に帰るんだな」
辺りを見回せばいつの間にかすっかり暗くなっていて、公園の時計を見れば短針が6を指している。視線を彼に戻すと、彼は既に早足に去っていくところだった。随分とあっさりした別れだが、彼らしいとも思えた。
ボクもベンチから立ち上がり、帰路についた。その帰り道、またいつか彼に会える事を夜空の星に願いながら。
願望は夢と同じ。例えボクが心の中でどれだけの想いを込めて願おうと、現実にはならない。でも、ボクが誰かと出会ってこれほど嬉しかった事は無い。この出会いが一度きりなんて、悲しいじゃないか。
◇
それから数日後の日曜日。ボクが電車に乗って向かったのは、県内有数のショッピングモール。此処にはボクのお気に入りの店が何店かあり、小遣いが貯まってはこうしてショッピングに出向いている。
一通りモール内を回ってみたが、今日は普段と比べてやけに人が多かった。最初は何故なのか分からなかったが、答えはすぐに見つける事が出来た。
モール内の彼方此方に貼られたポスター。それは今日行われる催し物の案内だった。どうやら有名人の出演するステージがあるらしい。混んでいるのはそれ目当ての客が原因という訳だ。
ボクはそれほど芸能界に興味は無いが、今日はまだ時間に余裕がある。見るのはタダでお金は取られないのだし、少しステージを覗いてみる事にしよう。ステージの開催の時間まで、何処から見るか考えつつステージの周辺を回る事にした。
とはいえ、出演者はテレビでも見かける有名人。モールの吹き抜けの広場に設置された、1階の特設ステージ周辺は既に埋まっており、ステージを見下ろす事の出来る2〜4階にも多くの人が集まっている。有名人にはこれだけの人々を動かす力があるって事だ。改めて考えてみれば凄い事だね。
しばらく人混みを眺めていると、ステージ裏の周辺に何やら見覚えのある人影を見つけた。目を凝らしてよく見てみれば、それは先日出会った“彼”だった。
星に願った願望があっさりと叶い、ここ数日の杞憂は何だったのかと思ったが、ここは素直にもう一度出会えた事を喜ぶ事にしよう。
何やら書類を持ってステージを見つめる彼。声を掛けづらい雰囲気ではあったが、ボクは意を決して声を掛けた。
「やぁ、また会ったね」
「......お前か」
ボクの声で振り向いた彼は、少し驚いたような顔をしていた。
「お前も見に来たのか?」
「今日はショッピングに来たんだけどね。偶々ステージがあるそうだし、少し寄ってみようかと......それで、キミは仕事かい?」
「見れば分かるだろう。書類を持ってステージ裏に立つ、スーツ姿の男。関係者以外に何がある」
“そんな事も分からないのか”と言いたげな顔をしながら、彼は書類の一点を指差した。その指先には『宮本フレデリカ』の文字が。
「私は彼女の付き添いだ」
宮本フレデリカ。346プロダクションの有名アイドルで、独特な発言が特徴のフランス人ハーフ。今日のステージの出演者の一人だ。
346プロダクションとは、老舗芸能事務所『美城』が数年前から設立したアイドル事務所。ボクでも名前や規模を知っているくらいの有名所だ。目の前の彼は、その346プロの関係者という訳か。どうやら凄い人物だったらしい。
「ステージを見ていくのか?」
「? 勿論そのつもりだけど......」
「そうか......少し待っていろ」
ボクがステージを見るのかどうかを何故か確認した後、少し考えた様子の彼はステージ裏の関係者達の所へ向かった。そして少し話をした後、ボクの所へ戻ってきた。
「着いて来い」
言われるがまま、先導する彼に着いて行ってボクが辿り着いたのは、既に満席になった観客席のその後ろ。テレビカメラの並ぶ報道陣のエリアの横だった。つまり、関係者席の類いだ。
「......大丈夫なのかい?ボクがこんな所に居て」
「話は通してある。それに、騒ぎ立てる訳でも無いのだから構わんだろう」
いきなり連れて来られて落ち着かないが、此処ならステージもよく見える。この場所はありがたく使わせてもらおう。
今日のステージの出演者は二人。先程出た宮本フレデリカ、そしてもう一人が美城に所属する女性タレント。彼女もまた独特のトークで観客を惹きつける人気女性タレントだ。確かにこの二人の掛け合いはボクでも見てみたいと思う。
しかし、この二人を呼ぶとなると、ギャラは高く付きそうだ。勿論その分集客は見込めるだろうし、それはこのステージに集まる人々が証明している。それだけ店側も必至という訳か。
その後はイベントが始まるまでの間、お互いに自己紹介をする事になり、彼の事を色々と知る事が出来た。
彼の名前はマクシミリアン・テルミドール。在日フランス人で、346プロの副部長をしているという。元々はモデル部署の所属で、アイドル部署を設立する際に推薦されて副部長になったとか。まだ30代前半にも関わらず、既に重要な役職を務めているエリートだ。
ついでに、公園で会った日の事について聞いてみた。
「あの日か?あの日は丁度、今日の仕事の打ち合わせがあってな。そのついでに、あの近辺に住むアイドルを送り届ける事になった。近くの駐車場に車を停めてから歩いて向かい、彼女の家の人と少し話をした後の帰り道にお前と会った。それだけだ」
やはり、彼との出会いは運命的のように感じる。幾つもの偶然が重なって起こった奇跡......うん、悪くない。
そうこうしている内に、遂にステージが始まった。開始から二人のトークは最高調、周りをどんどん二人のペースに引き込んでいく。会場のボルテージも徐々に上がってきた。
ボクも彼女達の掛け合いを楽しんでいると、彼が突然ボクに語りかけてきた。
「お前は、今の世界に満足しているか?」
その声は、今までにないくらいに真剣な声だった。それだけ真面目な質問という事か。
......満足、か。どうだろうね。ボクとしてはそれなりに楽しんで生きているつもりだけど、満たされていると言えば嘘になるのかな。
まぁ、キミはボクがそう答える事を分かって聞いているんだろうけどね。彼がイタズラに無意味な質問を投げかけるような人間じゃないのは分かる。だからきっと、彼にはボクが満足していないように見えるんだろう。
「お前の話を聞かせて欲しい。私ならば、力になれるかもしれない」
どうして彼がこんな事をボクに言うのか分からないが......しかし一旦冷静になって考えてみれば、よく分かる事だった。
彼の話を色々と聞かせてくれたのも、関係者席に入れて貰えたのも、彼がボクに問いかけてきたのも。彼がボクをアイドルとしてスカウトしたいから、というのは何となく察せられた。
会って間もない彼を信用出来るのか?ボクが彼に話をして何になる?ボクの中で、疑問は尽きない。
「普通は赤の他人に身の上話なんてしないんだけどね......」
でも、彼ならボクを理解ってくれる。ボクの知らない世界を見せてくれる。
「......キミには聞いて欲しい、かな」
そう信じて、ボクは彼に話し始めた。一人の少女の話を。
「ボクがこうして『痛いヤツ』になったのは、やっぱり特別な人間でありたかったからだろうね。ボクの家庭は至って普通だ。サラリーマンの父に専業主婦の母。一般的な生活基準は満たしているし、兄弟姉妹は居ないが友人はそれなりに居た。ただ、あまりにも普通過ぎた。このまま高校へ行って、大学へ行って、就職して、結婚なんかもしたりして、子供が産まれて......あぁ、実に理想的な人生だよ。今のご時世、普通に生きられる事がどれだけ幸せな事かは分かってるさ。だけど、それじゃあ駄目なんだ。
ボクは何億分の一のちっぽけな存在だ。ボクと同じような人間は、世界を探せば一杯居るんだろう。同じ顔の人間は3人居るとも言うしね。でも、それでも自分は特別でありたいと思うんだ。他とは違う、二宮飛鳥という唯一無二の存在だと。
そう思って、ありきたりな人生から反抗しようと決めたんだ。とはいえボクには、ボクだけの物語やら世界やらを創り上げるだけの力なんて無い。だから、こうしてささやかな抵抗で取り繕っているだけで精一杯な『痛いヤツ』になった......それが今のボクだよ」
話し終えたボクは一息つく。そして、話を聞き終えた彼は、こう纏めた。
「承認欲求、アイデンティティの確立。思春期特有の悩みだな」
「......まぁ、そうなるね」
彼に語ったボクの想い、それをこうも簡単に纏められてしまうとは。大人からしてみれば、ボクの悩みなんか『思春期』の一言で済んでしまう問題なのだろう。悲しいが、認めざるを得ない事実だ。
しかし、やはりと言うべきか、その結論で終わらせないのが目の前の彼だった。
「だが、世界に抵抗・反抗か......面白い。気に入ったよ、貴様は」
彼が目を開いたその瞬間、彼の纏う雰囲気が一瞬にして変わった。彼から放たれる存在感、正にカリスマと形容すべきオーラ。先程までの冷たい雰囲気とは打って変わり、その目には強い意志を、“熱”を感じた。最初の彼が冷たく美しい月ならば、今の彼は熱く輝く太陽だ。
まるで最初の彼とは正反対、別人だ。もしかすると、これが彼の素なのだろうか。彼の変化に驚くボクを尻目に、彼は話し始めた。
「この世界は案外つまらないものだ。一人一人が自由に過ごせているように見えるが、それは全て幻想に過ぎん。マスコミに踊らされているのが良い例だな。この世の誰もが、名も顔も知らぬ誰かの思惑通りに生かされている......まるで
......なるほど、喜劇か。言い得て妙だね。誰もが笑顔になるような世界、それは誰かにそうなるように作られた、見せかけの世界だという事だ。
「満足していないのなら、満足する世界に変えてしまえばいい。革命を起こすんだ。お前が、自らの力でな」
「......革命?」
革命。“回転する”を意味するラテン語を語源とし、その意味の通り、世界をひっくり返すように短期間に大きな変化をもたらす事。
それを、このボクが?
「革命だなんて、デモでも起こすのかい?」
「革命はあくまでイメージの話だ......お前は、アイドルをやってみる気はないか?」
ここで彼は、ようやくアイドルの話を持ち出してきた。
「ステージに上がればアイドルは自由の身だ。縛る物は何も無く、邪魔をする者も居ない。くだらない世界など忘れて、やりたいようにパフォーマンス出来る」
ステージの二人のトークが終わる。女性タレントがステージから降り、ステージには彼女ーーー宮本フレデリカが残る。
「......そろそろライブだ。よく見ておくといい」
そして、彼女のミニライブが始まった。
曲のイントロが流れ始める。ステージはライブ用の照明に照らされ、ただ一人、彼女を照らし出す。
曲に合わせて彼女が踊り始め、歌を歌う。特設会場の機材は、決して音質が良いとは言えない。だが、そんなものは関係無い。彼女の持つ雰囲気が、歌が、ダンスが。会場全体を自然と彼女の色に染め上げて、一体感を生んでいく。
会場の何処を見ても、誰もが彼女だけを見ている。今この瞬間、世界の中心は彼女だ。それに対して嫉妬だとか、そんな邪な感情は何も無かった。
歌もダンスも、プロの歌手やダンサーと比べてしまえば大した事はない。でも、それでもボクは彼女のステージを見て、心の底から楽しいと感じていた。無意識にリズムに合わせて体を揺らしていた程に。
......これが、トップアイドル。
曲が終わり、会場が大歓声に包まれる。その後もボクは未知の光景に圧倒されたまま、暫く放心状態だった。
「どうだ、彼女のステージは」
ボクが落ち着いたのを見計らって、彼はボクに声を掛けた。
「この空間が、全て彼女の世界に染まっていたよ」
「そうだ。只のちっぽけな存在だった筈の少女が、会場に居る観客の視線をその一身に集め、世界で唯一無二の存在になるんだ。会場という限定された世界ではあるが、世界に上書きし、塗り替える行為は正しく革命だ。
......見てみたくはないか?お前の色に染め上げたその世界を。示したくはないか?お前の存在を」
ボクだけの世界、唯一無二の存在。それはまさに、ボクが一番欲しているモノだ。ものの数分前には全く興味が無かったのに、もうボクはアイドルという存在に惹かれてしまっていた。
「ボクに出来るのかな......アイドルを」
「出来るさ。お前にその意志があればな」
彼の力強い瞳がボクを見つめる。彼の言葉がボクの心にスッと入っていく。
「お前の望む非日常への扉はすぐそこだ。扉の鍵は私が開ける。だが、その先はお前次第だ」
......まったく、ズルい人だ。そんな言葉を掛けられて、ボクが黙って居られる筈がないじゃないか。
「ボクが新しい世界へ行けると言うのなら......飛び込んでみようじゃないか。その扉の先へ」
もしかしたら、彼の“熱”に浮かされているのかもしれない。彼の掌の上で踊らされているのかもしれない。
でも、ボクは立ってみたい。あの輝くステージへ!
「ボクをアイドルにしてほしい」
ボクは彼に手を差し出す。それに対して、彼はボクの手を握り返して満足気に頷いた。
「君の
◇
あれから数ヶ月後。今日は346プロのみで行われるドームライブの当日。そして、ボクのデビューの日だ。
テルミドールさんのお陰で、ボクのデビューライブはドームライブで行う事になった。あの日みた特設ステージとは訳が違う、巨大なドームのステージ。ボクは数万人の前で歌う事になる。新人のお披露目としては大きすぎるステージだ。
デビュー曲の仕上がりについては問題ない。デビュー曲は即ちそのアイドルのイメージ曲だけれど、中々にボクらしい曲に仕上がっていると思う。
『共鳴世界の
“レゾン・デトール”
テルミドールさんの母国語、フランス語で“存在理由”という意味だ。彼が歌詞に入れてはどうかと提案してくれた。ボクと彼の間に確かな繋がりがあるようで嬉しい。それがデビュー曲となれば尚更だ。
メイクは既に終わった。衣装も万全。でも、問題はボクの精神面。そろそろボクの出番が回ってくる、だから早く舞台袖に行かなくてはならないのに、緊張で体が思うように動かない。脚が震えている。
やっとの思いで舞台袖に辿り着くと、そこには壁に寄り掛かっているテルミドールさんが居た。こんな時でも、彼はいつもの不機嫌顔だ。
「......フン、随分と緊張した様子だな。ステージで無様な格好は見せるなよ」
「まるで他人事のように......まぁいいか。どうだい?キミから見て、ボクの格好は」
「まぁ、アリじゃないか?」
相変わらずのキツいお言葉だけど、いつもと全く変わらない調子の彼を見ていて、少し落ち着いてきたような気がする。
「そう思うかい?ボクも、デビューに相応しい格好だと思ってるよ」
「浮れるのもいいが、アイドル気取りも今日までだ。お前は今から、本物のアイドルになる」
「......そうか。ここまで来たんだね」
ボクの目の前には、テレビの向こう側だった、あの輝くステージがある。これからボクは、自分の出来る限りのパフォーマンスを観客達に見せる。そして目の前のステージを、ボクだけの世界に
現在、ステージではまだ他のアイドルが出ている。この次が終われば遂にボクの出番が回ってくる訳だが、それまで少しだけ時間がある。今のうちに、前から聞きたかった事を聞いてみる事にしよう。彼はこんな雰囲気でもないと答えてくれなさそうだからね。
「テルミドールさん。ボクをスカウトした理由、教えてくれるかい?」
ボクは元から見てくれには多少の自信はあったから、スカウトされる事にそれ程疑問は覚えなかった。でも、彼が安直な理由でスカウトするとは思えないんだ。何か理由がある筈だ。
彼は少し考え込んだ後、こう答えた。
「事務所に居ないタイプのアイドルが欲しくてな。それでスカウトしようとした」
「......随分とシンプルな理由だね」
もっと具体的な理由があるとか、もしくは素が出てきて語り始めるとか、そういうのを期待していたんだけどね......ちょっと残念かな。
「まぁ待て、私の話は終わっていない。それでだな、お前と話しているうちに思ったんだ......昔の私に似ている、と」
「昔のキミがボクに?やっぱりキミも昔は『痛いヤツ』だったんだね」
「............」
「無言で睨まないでくれるかい?」
やっぱり今でも『痛いヤツ』扱いは駄目らしい。それにしても、昔の彼か......一体どんな少年だったんだろうか、どうやって今の彼になったんだろうか。気になるところだ。
そんな事を考えていると、彼が小声でポツリと呟くのが聞こえた。
「......お前は道を間違えるなよ」
「道?何の話だい?」
「いや......なんでもない」
どうやら聞かれたくない独り言だったようだ。果たしてそれがどういう意味を持っているのかはボクには分からないが、彼はこれ以上答えてくれそうにない。まぁ、いずれその言葉の真意を理解する日が来るだろう。
「二宮飛鳥さん!次お願いします!」
丁度そこに、ボクの名前を呼ぶスタッフの声が。そろそろ出番みたいだ。
「準備出来ているな、二宮」
「あぁ。そのつもりだよ」
ボクは至って普通の返しをした筈なのに、彼にしては珍しく目を丸くして驚いていた。だが、暫くすればいつもの不機嫌顔に戻っていた。
「フン、それは良かった」
これは、世界へのささやかな抵抗の始まり。偶像世界に革命を起こす、その第一歩だ。
観客達の目に、会場に、世界に。二宮飛鳥という存在を刻み付けようじゃないか。
「ーーさぁ、往こうか」「ーーじゃ、行こうか」