モブだった俺がちょっくら革命起こす話   作:橘 翔

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男二人旅(大嘘)

キリトとアリスが塔から落ちた。かなりの耐久力を持つ白亜の壁も、2人の武装完全支配術が生み出したパワーに耐えきれなかったのだ。結果、壁が割れて2人は青い空に吸い込まれていった。

 

「そんな……なんで……」

 

ユージオが呆然としている。当然だ。想い人と親友を失ったのだから。

かくいう俺もかなり動揺している。

それほどまでにキリトの存在は大きかったのだと初めて気付かされた。

 

不意にユージオがこちらを向く。その瞳には未だ意志が煌めいていた。

 

「あの2人がそんな簡単に死ぬ訳が無いよ。きっと、また戻ってくる。だから、僕達はそれまでに」

「この先を目指す、だろ?」

 

なんだ、まだやれるじゃないか。

改めてユージオを見直す。少しキリトに似ているのかもしれない。

 

そうして、2人で上層へと足を踏み出した。

 

――◇◆◇――

 

ユージオにとってキリトとはどんな存在なのだろうか?

 

「えぇと……そうだな……」

 

……どうやら声に出ていたらしい。

 

「一言で言えば、英雄、かな?」

「英雄……」

 

その響きには複雑な感情が入り混じっていて、思わずユージオを見る。半歩前を歩く戦友は、決して顔を見せてはくれなかった。

 

「僕はルーリッドの村で木こりをしていたんだ」

 

そこから語られるのはユージオの人生。

 

木こりとして最高司祭が作った超硬度の木を切り倒そうとしていた。

そんな中出会ったのがベクタの迷い子のキリト。

何から何まで規格外なあの少年は、ゴブリンの集団を退け、その木を青薔薇の剣で切り倒した。

 

ん?ゴブリンの集団?

 

「ま、待ってくれ!ゴブリンの集団と戦ったのか!?」

「うん、まぁ正確にはキリトが全部やっつけたんだけどね」

「…………」

 

まさか俺以外にもゴブリンと遭遇しているとは……これは本格的にヤバイ状況なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

それなのに最高戦力の整合騎士を倒してる俺たち(白目)

 

 

 

 

 

 

いや、意識を切り替えよう。どのみちこのままじゃ負ける。たぶん。きっと。

 

……ちょっと不安になってきたよ……

 

「そんなキリトが僕をアリスのもとまで導いてくれた。あの斧を振り続ける毎日から。だから、キリトは僕の英雄さ」

 

ユージオ……

 

「だからって1人じゃ何も出来ない、なんて話にならないからね。笑われないように頑張るよ」

「おいおい、自分の評価低いな……君は強い。剣でも、精神でも」

「ほんと?だといいな」

 

こいつはキリトを隣に見ながら歩いてきた。だから自分を低く見る癖がついてるな。俺からしたら十分立派な剣士だ。

 

「自信を持て、ユージオ。君はもっともっと強くなる」

 

そっとつぶやいたがユージオには届かなかった。

 

――◇◆◇――

 

また大きな扉に辿り着く。今までのパターンだと

 

「ここに整合騎士がいるはずだ」

 

ユージオも頷く。

 

「恐らく、ここで最高戦力を投入してくるはずだ。油断するなよ?」

「そっちこそ」

 

ゆっくりと扉を開くと

 

白い煙が漂ってきた。

 

すわ敵襲か!?と思いきや、ただの湯気だった。

 

 

 

 

 

てか温泉だった。

 

 

 

 

 

「(ええええええええ!?!?)」

 

いや、まじで。知識でしか知らないものの、まんま温泉だ。むしろ銭湯かもしれない。

大量の湯がプールほどもあろう湯槽になみなみと張られている。どれほどの水が使われているのだろうか。

 

「リオン!あそこ!」

 

あまりの衝撃に立ち竦む俺をユージオが引っ張る。ユージオが示す先には大きな影が見えた。

 

「おぉう、少し待ってくれねえか?王都に帰ってきたばっかりで体が凝っていけねぇ」

 

デカイ!?

 

立ち上がった影は2メル近くありそうだ。どうやら脱衣場に向かっているらしい。

あまりに隙だらけで逆になにも出来ない……それはユージオも同じようで、静かに相手の様子を伺っている。

 

「待たせたな」

 

現れたのは壮年の偉丈夫だった。歴戦の猛者を思わせる古傷を数多刻んだ肉体を、東の地域で使われているゆったりとした……なんだっけ……そうだ浴衣!っぽいもので包んでいる。野太い笑みに気圧されそうになりつつもなんとか立ち止まる。

 

「あー、なんだ、その、聞いときたいんだけどよ」

「なんですか?」

 

思わず敬語になってしまう。

 

「ファナティオは……無事か?」

 

まさかの部下の心配だった。不器用な優しさに思わず肩の力が抜ける。

 

「無事ですよ。流石に拘束しましたけど」

「そうか……なら、オレも命までは取らないでおこう」

「余裕ですね」

 

少し怒気を孕んだユージオの言葉に眉一つ動かさずニヤリと笑った。

 

あの、ユージオさん?物凄い形相してどうされたんですか?

 

「僕がやらなくちゃいけないんだ!」

「あ、おい!?ばか!!」

 

危惧した通り、ユージオが馬鹿正直に1人で突っ込んでいった。

 

「ベルクーリ・シンセシス・ワン、参る!!」

 

ベルクーリは剣を振りかぶると、

 

――ブンッ

 

完成された、としか表現しようがない一撃を放った。が、

 

「(なんだ?遠距離攻撃……か?)」

 

未だにユージオとの距離は五メル近くあるのだ。なにも変わったように見えない。ユージオはそれを挑発と受け取ったのかソニック・リープを発動させ一気に肉薄す

 

何かにユージオがぶつかり、ボロ雑巾のように吹き飛ばされた。

 

は?

 

「ユージオ!!大丈夫か!?」

 

よく見ると先ほどのベルクーリの斬撃をなぞるようにナニカが存在している。

 

「斬撃が……残ったのか!?」

「おうよ。この時穿剣はちょいと先の未来を斬るのさ」

 

それは恐ろしい性能だ。斬撃に囲まれたらお終いか!?

 

「相変わらず無茶苦茶な性能だな」

「さて、お前さんはどうする?」

 

どうするもなにも……

 

「やるしかないだろ?逃がしてくれそうにないし」

 

獰猛な笑みだけが帰ってくる。

 

治療を終えたユージオがフラフラしながらも隣に立った。

 

「ユージオくん。言いたいことは山ほどあるけど」

「う……ご、ごめん」

「俺らがアイツに勝ってるところは?」

「……あ」

 

1人じゃないこと。

 

「そんじゃ、やりますかね」

「うん……今度こそ攻撃開始だ」

「相談は終わったのか?」

 

おうおう、待っててくれるとか泣けるね。

 

「その余裕、すぐにぶっ潰す」

「やってみろ、若造」

 

俺とユージオは、この高い壁を越える!!

 

――◇◆◇――

 

2人同時に走り出す。ベルクーリは少し意外そうな顔をした。

 

「あの技を見たヤツは皆遠距離攻撃を仕掛けてくるんだがな」

 

剣を構えただけで威圧感が増す。数多の修羅場をくぐり抜けてきた自負、と言えばいいのだろうか?何にも屈しない意思を感じる。

 

だが、勝たなければならない。

 

「ディスチャージ!!」

 

先ほど生成しておいた熱素を放つ。1つの大きな火球なので斬られてもそのままベルクーリに当たるはずだ。

 

「ふんっ!!」

 

やはり、見惚れるような斬撃を繰り出す。残った斬撃に火球が当たると弾けた、がベルクーリには届かない。どんな方法使ったんですかねぇ……

 

「これだから面倒なんだよぉ!!」

 

若干ヤケになりながら残った斬撃に打ち込む。幸い、少しの抵抗の後通り抜けた。斬撃も霧散したようだ。

 

「ふっ!」

 

ベルクーリと切り結ぶ。なんというか、正直だ。フェイント、連続技、一切無し。だが、その一振りに凄まじい意思を感じる。気を抜くと吹き飛ばされそうだ。

 

ユージオはどこいったんだ?

 

「こっちだ!!」

 

襲ってきたのは幾本もの氷の槍。ユージオは浴槽で武装完全支配術を発動させたのだ。ベルクーリはニヤリと笑っただけだった。

 

――ズッ……

 

な……んだこれ。空気が、重い。ベルクーリの目が鋭くなる。ありえないプレッシャーだ。

 

そしてベルクーリは、背後から襲ってきた槍を、何もせず(・ ・ ・ ・)に壊した。

 

そう表現するしかない。振り向きもしなかった。剣は俺のと鍔迫り合いしていた。それなのに、氷の槍が砕け散った。

 

「(どうなってんだよクソ!!)」

 

訳わかんねぇよコンチクショー!!一体幾つ隠し玉があるのさ!!

 

もうこれユージオに任せようかな。

 

「ユージオ後は頼んだ!!」

「え!?」

「なに!?」

 

体術スキル【衝破】

 

片手ではありえない威力の掌底がベルクーリに突き刺さる。まだ、足りない。

 

体術スキル【飛撃】

 

上半身はスキル使用後のため硬直していたが、まだ下半身は動く。スキルでブーストされた飛び膝蹴りが更にベルクーリを吹き飛ばす。

 

吹っ飛ばした先は、ユージオの目の前の浴槽だ。ユージオも瞬時にやりたいことを理解してくれたのか、浴槽に剣を突き立てた。

 

「こ……おれぇ!!」

 

少しずつ凍っているものの間に合わない……か!?

 

気休めに凍素を放つが、ベルクーリに破壊される。いや、だからそれ強すぎるよね。

 

「ユージオ!!」

 

ユージオは絶望したような顔を向けてきた。確かに、この作戦は1度きりだ。でも、やれるさ。

 

「俺はお前を信じてる!!!」

「ッ!!!」

 

そう、俺は信じてる。お前なら、やれる。自分を信じろ!

 

「うぉぉおおお!!!」

 

ベルクーリがもうすぐ起き上がる。

 

記憶解放(リリース・リコレクション)!!!!」

 

瞬間、凄まじいまでの冷気が吹き渡り。

 

浴槽全てが凍った。

 

 

 

 

 

……わぁーい。規格外だー。

 

 

 

 

 

見渡す限りの氷、氷、氷。このエセ銭湯全体がスケートリンクみたいになってしまった。

 

「(つ、つぇええええ!!!)」

 

正直、足止め程度に考えていた俺を叱らねばなるまい。これはもう最強の必殺技だ。現にベルクーリも氷の中に閉じ込められて……

 

「ぬぅぅぅぅん!!!」

 

――ベキベキ!!

 

……鳴っちゃいけない音が聞こえるんですけど!?あの状態から抜け出せるのか!?だがユージオも黙ってはいない。

 

「咲け、青薔薇!!」

 

しゃらん、と美しい音が響く。即席のスケートリンク上に氷の薔薇が咲き乱れる。この光景は、美しくも、残酷だ。

 

「な……に……!?」

 

ベルクーリから力が抜けていく。この薔薇は氷に捕まった者の天命を吸い上げて咲いている。根こそぎ気力も奪われたのだろう。ベルクーリはかなり青い顔をしていた。それはユージオも同様なのだが。

 

「せい!!」

 

とりあえず、ユージオを救出する。氷を四角く切り取って熱素で溶かす。

 

「あ、ありがとう」

「よく頑張ったな」

「……こりゃ1本取られたな」

 

……なんと言えばいいのか分からんが。

 

「ユージオ、青薔薇を解除してくれ」

「?分かった」

「なんのつもりだ若造」

 

この人は悪い人じゃない。もしかしたら、

 

「この世界について教えてください、ベルクーリさん」

「……」

「単刀直入に聞きます。今の戦力で闇の軍勢と戦えますか?」

「……わからん」

「良い意味じゃなさそうですね……」

「情けないことにな。整合騎士も人間だ。数の力には勝てん」

 

やはり、ベルクーリも同じ危惧を抱いていたようだ。

 

「改善するために最高司祭を倒す、と言ったら?」

「……俺らは、命令には逆らえん」

「右眼の封印……」

「ほぅ、坊主も知ってたのか」

「解除されましたけどね」

「なん……だと……」

 

ベルクーリの体から力が抜けた。

 

「お前さん達なら、もしかしたら……」

「僕達には指揮官がいません。もし、革命をおこせたら、その時はあなたに……」

「……」

 

それきり、ベルクーリは沈黙した。




どうも、橘です。

ユージオの記憶解放術強すぎ笑
原作と同じ倒し方になったのは申し訳ないです、はい。

ユージオはキリトに様々な気持ちを抱いていると思っています。それが良い感情であれ悪い感情であれ、それを表してみたいです。

それではこの辺で!

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