こっちの筆が進む進む……
「へ?」
「はぁ……」
今目の前にいるゆるふわ系ポンコツ少女は、これから俺がお世話する先輩らしい。
どうしてこうなった……
――◇◆◇――
入隊してから半年後、衛兵隊長から推薦状を貰いアルガディアを去った。その時には安息日にお別れ会なんてものを開いてくれるぐらい皆と仲良くなれた。まさかメルトさんに泣かれるとは思っていなかったけど……
皆と別れを告げて(特にメルトさんあたりはすごくお世話になったなぁ。半年間だが、みっちり仕込まれたのも、メルトさんのおかげだ)2日後、
帝立修剣学院の入試を受けた。型が知らないものだったので少し焦ったが、なんとか見様見真似でやりきった。
その後、試験官との立ち会いは連撃を封印しつつ武器破壊して完封した。え、いや、弱かったんだもん……
結果は10位。型をサボったのは流石にバレたらしい。
そして、ここから初耳だったのだが、試験の上位12名は上級修剣士の傍付きとなってお世話をするらしい。稽古に付き合ったり、掃除したりなど中々大変そうだし、あちら側から指名されるので怖いものだ。
せめてまともな人がいいな、なんて思っていたのが間違いだったのか?俺を指名したのは12位のソフィア・ランゼルス先輩だったのだ。
――◇◆◇――
「失礼します……」
名前と女だってことしかわからないけど……どんな人だろうか?そんな、期待とも不安ともつかぬ気持ちを抱いて入室した俺を迎えたのは、
「え!?きゃああああ!?避けてぇぇ!」
すっ転んだ先輩が飛ばした(投げた?)分厚い教科書だった。
――◇◆◇――
なんかこの時点で察していたが、この先輩ドジっ子か!?とりあえず教科書をキャッチしてついでに起こしてやる。
「先輩の傍付きに任命されました、リオン初等連士です」
「そ、そそ、ソフィア・ランゼルスです!」
それとなく先生から聞いていたけど……実際見ると苦笑いしか出ない……
「あ、え、えっと」
「落ち着いてください……」
この人教えるとか出来るの?
結構深刻な不安を感じる初邂逅すぎる……
――◇◆◇――
それから半年。
わかったことは、どうやらソフィア先輩は極度のあがり症なようだ。
実際、型の演武などは鳥肌がたつ程素晴らしいし、状況判断力がずば抜けている。
ただ、緊張してしまう。
例えば、観客がわんさかいると本来の5割。それが大事な試合だと3割ほどしか力が出せないのだ。年に4回行われる検定試合がもっとも顕著なものだろう。恐らく、素材はピカイチ。しかし、それを生かしきれていない。
それを、引き出す手助けをするのが傍付きの役目なのかもしれないな。
――◇◆◇――
「先輩……」
先ほどもいったが、ソフィア先輩はあがり症だ。なら、気ごころ知れた仲の人に対しては?その答えは……
「下着ぐらい自分でまとめてください!これでも異性なんですよ!?」
「えぇ〜いいじゃーん。りっくんのけちー!」
ずぼら&天然の最凶コンボだ。
三等爵家のランゼルス家の主人は過保護なことで有名だ。そのせいで箱入り娘状態で修剣学院に放り込まれたらしい。そりゃ人に慣れてないわな……
だが、馴れた人に対してはまるで猫だ。甘える。それはもう、やばい。何がって理性的に。整合騎士も真っ青な攻めっぷりだ。
現に俺も、りっくんなんてあだ名で呼ばれながら身体をもたれかからせてくる先輩に手を焼いている。あなたは二重人格ですか……?
「だからくっつかないでください!」
「えぇーいいじゃーん!」
「だめですっ!」
「なら……」
先輩の目がすっと細くなる。不覚にも、悪寒が走る。プレッシャーが変わったな……
「立ち会いして、勝ったら30分ぎゅーね」
「わ、わかりました」
こうなるともう止められない。そして大概、負ける。
どうしてこうなった……
空を仰ぎつつ、思わず1ヶ月前を振り返った。
――◇◆◇――
その日は、修練場で稽古をしていた。普通に型の練習なのだが、
「えっと、あの」
「大丈夫です。落ち着いてください」
やはりまだまともに会話出来ない。さすがにへこむ。これでも優しくしてるつもりなんだけど……
と、そこで
「やれやれ!見てられないなぁ!」
「ほんとになぁ!」
先輩がビクッと肩を震わせる。また始まったよ……
どうやら先輩が3爵家跡取りなのに嫉妬して、同じ貴族が様々な嫌がらせをしてくるようなのだ。今回も同じ場所で稽古していた上級修剣士の人だ。まだなにやらグチグチ言っている。
さすがに先輩に帰ろうと提案しようとしたが、ちょうどそこで俺に声がかかる。
「傍付きの君!どうだね?我々と稽古しては」
「いえ、僕は」
「なぁに!遠慮することはない。君も苦労しているだろうからねぇ」
「…………」
そして耳元に寄せて小声で
「君が望むなら他の上級修剣士の傍付きになるように教官に申請してあげよう」
その瞬間、ついに
キレた。それはもう大人気なく。しかも俺が。
凄まじい速度で下段から振り上げられた木剣が、その貴族の横顔を掠めて振り抜かれた。
「なっ、なっ……」
口をぱくぱくさせている彼に会釈する。
「すいません、手が滑りました」
白々しいにもほどがある謝罪だが、睨みつけて黙らせる。こいつにもいい加減分からせてやる。
「僕はソフィア先輩がいいんです。他の人に、なんてふざけないでくださいね?」
そう、いくら気まずくても、ソフィア先輩はいい人だ。少なくとも、目の前のやつよりは。その思いを込めつつ口元だけ笑ってあげると、
「ひぃっ!」
あ、逃げた。
大したことないな、と拍子抜けしていると
「リオンくん……ありがとう……」
何故か申し訳なさそうに先輩から感謝された。慌ててフォローする。
「先輩は悪くないです!そんな、こっちこそ面倒なことにしちゃって……」
「ううん、それより、ほんとに変わってもらった方がいいなら」「先輩」
それだけは違う。
「僕は先輩、が、いいんです。先輩がいい人なのはわかるし、意外と楽しいですよ。傍付きしてると」
「リオンくん……ありがとう!」
今度は満面の笑みだ。思わずこっちまで笑顔になる。
「そうそう、笑ってください。そっちの方が可愛いです」
「かわいっ!?もう!りっくんったら!」
「?りっくん?」
「そ!リオンくんだからりっくん!」
「は、はぁ……?」
どうやら壁は取り除けたかな?
そんな風に安堵していた時期もありました。
――◇◆◇――
冷や汗が頬を伝う。今目の前にいるのは、先輩の姿をした別人だ。
なによりも効率のいい攻撃、防御を瞬時に判断し繰り出してくるその手腕は俺を追い詰める。
「くっ……」
ソードスキルを……と構えようとした時には剣を弾かれる。ってか、やばっ!対応早すぎか!
スルッと滑らかに、つまり無駄のない軌道で首筋に剣が当てられる。
「はい、私の勝ちね」
「ッ!!」
耳元で囁かれた声は、いつもの先輩と比べたらあまりにも艶っぽくて、背筋がゾクゾクするような感覚に襲われる。まるでそれは狩る側に狙われたような、舌なめずりされているような感覚。
「やったぁ!また私の勝ち〜!」
「あはは……強すぎですよ」
元の先輩に戻ってほっとする。剣を持った時の先輩は洒落にならないぐらい強い。独自で編み出した攻防自在の戦法の対処法をまだ俺は見つけれていない。
「はいはーい!部屋戻るよ!」
「わかったから落ち着いてください……」
これから始まるのは……
ただひたすら恥ずかしい時間だ。
――◇◆◇――
「んふふ〜♪」
「御機嫌ですね……」
ん?今の状況か?
先輩のベットの上で先輩を抱きしめている。
まってくれ違うんだ。そんないかがわしいものではないんだ。
正確には俺があぐらをかいてそこに先輩が座りこんでいる。そして先輩を後ろから抱きしめている。
立ち会いに負けるといつもこの罰ゲームだ。いや、あんま罰ゲームになってないけど。
それに……
「あー!りっくんまた敬語使ったー!」
「あ!ごめんごめん、ソフィア」
「ふふ〜ん♪」
何故か敬語を禁止され名前を呼び捨てしなければならない。なぜだ……
「あったかいね……」
「ああ……」
上目遣いで見上げてくるソフィア。ドキッとしながら見つめ返すと、そのまま押し倒される。ん?押し倒される?
「ちょ!?おま、なにやってんの!?」
「暴れないで!いい匂い……」
「まてまてまて、汗かいてるから!な!?」
やばい。そろそろ理性がもたない。
「おい、やめろって。もうそろそろ我慢出来ないぞ?」
「りっくんなら……いいよ?」
「ッッ!?」
あれだ、後ろに雷落ちてるオノマトペが表示されそうなレベルの衝撃。理性が剥がれ落ちていく。
「ソフィ……ア……」
「りっくん……」
2人の距離が近づいて……いやまてだめだめだめ……
「だめだ!ったく、誘惑しないでくれるか!?」
「ええええ!?りっくんのけち!ヘタレ!」
「ヘタレは違うだろ!……違うよね?え?え?」
それで怒られるとかちょっと理不尽じゃないかな?
「はぁ……何回目なの……?もぅ……」
「え、なんかごめん……」
ヘタレでしょうか?いいえ、誰でも。……だと信じたい。
まぁ、こんなんが先輩との日常で、
とても楽しんでる。
ソフィア先輩と会えてよかった。
これって次回何かあるフラグ……!?
どうも橘です。
アリシゼーション編のSSってあんま見たことないのは気のせいでしょうか?
意外と難しい訳でもなく楽しく執筆しています。評価はわかりませんが……
この作品では容姿については主に言及しません。して欲しい場合は感想やメッセージなどで言ってくれれば追加します。(要するに面倒なだけ←)
戦闘描写がないっ!
平和だ……平和すぎるよ……アンダーワールド……
整合騎士が出てきたらようやくユニークスキルの御開帳です!僕も楽しみ……((っ•ω•⊂))ウズウズ
皆さんもお楽しみ頂けたら幸いです。
評価、感想など気が向いたらください。橘のやる気が上がります。
それではこの辺で!